さっぱりしたのか、ベイビーは満足そうに水辺から上がってきた。
身体についた水をぶるぶると振り払うと、そのままこちらへ戻ってくる。
「うーむ……」
「どうやって育てるか、だよなぁ……」
ブラキの子育てなんて、もちろん知らない。
粘菌の扱いだってしらないし。
「うーん……」
ベイビーを見る。
ベイビーも不思議そうに俺を見る。
「…………うーん」
やっぱり何も思いつかない。
そもそも俺自身、ブラキディオスじゃない。
ただの蟹だし……。
考えても答えは出てこない。
そんな中、ふと粘菌での今までのことを考える。
緑色の粘菌。
俺のハサミに残っているものも、今は緑色のままだ。
だが、あのときは――。
「腕を舐めてるだけじゃ、確か爆発しなかったよな?」
ゲームで見たブラキディオスの動きを思い返す。
舐める。
そして殴る。
その間に粘菌の色が変わっていく。
「……。」
もしかすると。
緑色はまだ眠っている状態なのかもしれない。
そこへ唾液が加わることで活性化して、衝撃を受ければ――。
「爆発する……のか?」
仮説。
ただの思いつきだ。
「まぁとりあえずこれ……試してみるか?」
俺は自分の身体を少し見下ろした。
昨日からベイビーに散々舐められたせいで、ヤドの内側にはブラキの唾液が染み込んでいる。
なら、それを使えば――。
「よし」
少しだけ覚悟を決める。
左のハサミをヤドの隙間へ突っ込んだ。
「うわ……」
なんとも言えない感触が伝わってくる。
「やっぱ自分からやると変な感じだな、これ」
それでも気にせず、少し動かす。
染み込んだ唾液を粘菌へ着けてみる。
「……これでいいのか?」
ハサミを引き抜いて、じっと眺める。
緑色。
「見た目は何も変わらんなぁ」
ハサミを振ってみたり、角度を変えてみたりする。
「うーん……」
やっぱりわからない。
「……まあ、試してみるしかないか」
俺は近くの岩壁へ向き直った。
もし本当に活性化しているなら、衝撃を与えれば何か起きるはずだ。
逆に何も起きなければ、また考え直せばいい。
「……よし」
ハサミを構える。
「おらっ!」
ガチンッ!
岩壁へ突き刺した。
「…………。」
何も起こらない。
「うーむ……?」
俺はハサミを見る。
緑色。
「やっぱ違うのか?」
少し肩を落とす。
ところが――。
「……ん?」
緑色だった粘菌が、ほんの少し色を変えている。
「お?」
じわじわと色が変わっていく。
緑から、オレンジへ。
「……お、おい」
さらに濃くなっていく。
そして――赤。
嫌な予感がした。
「これ……昨日見たやつ――」
ドゴォォォンッ!!
「だぁぁぁぁぁっ!!」
爆発。
身体ごと吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がる。
「いってぇぇぇぇ!!」
「爆破したぁぁぁ!!」
やっぱり痛い。
わかっていたつもりだったが、実際に自分の身体で食らうと洒落にならないなこれ。
「くっそぉ……!」
慌てて回復薬を取り出し、身体へかける。
しばらくして痛みが引いてくる。
「はぁ……はぁ……」
俺は左ハサミを眺めた。
緑からオレンジ、そして赤。
そして爆発。
「……ちゃんと使えるじゃねぇか」
思わず苦笑する。
痛い。
めちゃくちゃ痛い。
それでも、これが使えるなら戦い方は変わる。
「……練習するしかねぇな」
そう呟いて、立ち上がった。
その直後だった。
ドゴォォォンッ!!
「――!?」
今度は、さっきとは違う方向から爆発音が響いた。
「なんだ!?」
俺は慌てて振り返る。
そして――目を見開いた。
爆風に吹き飛ばされ、宙を舞う小さな青い身体。
「…………え?」
「お、おい……。」
その身体が地面へ落ちていく。
「ベイビィィーーッ!?」