「さぁて、やってやるかぁ!」
俺は鋏を構え直し、バサルモスを見据えた。
ちょうど試してみたかったところなんだよねぇ。せっかく戦い方を編み出したんだ。実戦でどれくらい通用するのか、確かめてみたいじゃないか。
「さぁ、サンドバッグになりやがれ!」
そんな物騒なことを考えながら、俺はバサルモスの動きを注視する。
……と、そこで気づいた。
バサルモスが、何やら妙な動きを見せている。
「……ん? ちょっと待て、あのモーションは……!」
バサルモスが頭を持ち上げ、こちらへ向き直る。その口元に熱が集まっていくのを見た瞬間、俺は慌てて横へ跳んだ。
次の瞬間、灼熱の熱線ブレスが放たれた。
「どわぁぁぁぁっ!?」
熱線は俺たちのすぐ横をかすめ、背後の岩肌を焼きながら通り過ぎていった。あと少し避けるのが遅れていたら、直撃していたかもしれない。
「危なっ! 今の、狙いがよかったら当たってたって!」
思わず文句を言いながら、俺は焼けた地面から距離を取った。直撃こそ免れたものの、熱線が通り過ぎた場所には凄まじい熱気が残っている。近くにいただけなのに、甲殻越しでも熱が伝わってくるほどだ。
「てか、アッツ! 伊達に熱線ブレスって名前じゃないな、これ……!」
ゲームで何度も見てきた攻撃とはいえ、実際に目の前で放たれると迫力が違う。あんなものをまともに食らったら、洒落にならんぞ。
……ん?
ふと、俺はバサルモスの背中へ目を向けた。
「なんか、あいつの身体……赤熱してね?」
なにやら赤くなっているとは思っていたが、今の熱線ブレスを見て確信した。やつの背中、外殻がじわじわと赤く染まっている。まるで岩の内部に熱がこもり、表面にまで滲み出しているようだった。
「……あんなんだっけ、バサルって?」
少なくとも、俺の知っているバサルモスにこんな挙動はなかったはずだ。そもそも、こんなふうに身体が赤熱している姿なんて、ゲームでは見た覚えがない。
「知らんモーションだなぁ……。やっぱりゲームとリアルじゃ違うのかね?」
まあ、ゲームでは再現されていない生態や仕組みがあっても不思議じゃない。現に、こいつは生き物として目の前にいるわけだしな。
だが、そこで俺の頭にひとつの考えが浮かんだ。
「……でもよ。確か、赤熱してるモンスターって大概、肉質が軟化してなかったっけ?」
マム・タロトやヴォルガノスがそうだったはずだ。熱を帯びることで、普段は硬い部位が攻撃しやすくなる。もちろん、目の前のバサルモスにも同じことが起こるとは限らない。
……けど、試してみる価値はある。
「もし、この推測が正しければ……!」
そう考えたときには、もう身体が動いていた。
俺は地面を蹴り、バサルモスの背中へ向かって突貫する。
「おらぁ! くらえ! 最近編み出した、加速ハサミアタック!」
爆発のタイミングに合わせて鋏を振るい、その勢いを乗せて突き刺す。最近ようやく使いこなせるようになってきた、俺なりの新技だ。
……いや、技名ダッサ!
自分で叫んでおいてなんだが、もうちょっとこう、格好いい名前はなかったのか。いや、今はそんなことを気にしている場合じゃない!
俺は勢いを殺さぬまま、赤熱した背中へ飛び乗った。
そして――。
ザシュッ!
「おおっ!」
さっきまでなら、硬い外殻に弾かれて終わっていたはずだ。だが、今度は違う。鋏の先端が外殻に食い込み、しっかりと傷を刻んでいた。
「思ったとおりだ! こいつ、やっぱり赤熱中は軟化するんだな!」
俺はそのまま鋏を引き抜き、再び突き刺す。今度も弾かれることなく、刃先が外殻へと食い込んだ。
「よっしゃあ! なら余裕じゃねぇか!」
思わず笑みがこぼれる。
何しろ、俺は『モンスターハンター2G』の頃のこいつを知っている身としてはあの頃のバサルモスといえば、硬い外殻に攻撃を弾かれ、まともにダメージを与えられずに苦労させられた相手である。
それがどうだ。赤熱したところを狙えば、こうも簡単に攻撃が通るじゃないか。
「いやぁ、俺の知ってるバサルより弱いなぁ!やはりリアルは違うのぉ!」
もちろん、熱線をまともに食らえば危険だし、油断は禁物だ。だが、弱点がわかった以上、戦い方はいくらでもある。
なら、やることはひとつ。
「熱線や熱ガスを使わせて、赤熱させればいいわけだな! おらおらおらぁ!」
俺はバサルモスの背中にしがみつきながら、鋏を何度も突き刺していく。硬い外殻に阻まれず、攻撃が通る感触が実に気持ちいい。
「ついでに、毒も食らえや!」
毒をまとわせた鋏を、傷口へと深く突き込む。
そういえば、ゲームでもこいつは毒殺していたよなぁ。懐かしいねぇ。昔の経験が、まさかこんなところで役に立つとはね!
……まあ、当のバサルモスからすれば、たまったものではないだろうが。
当然、バサルモスもされるがままではなかった。
「グオオオオオッ!」
痛みに吠えたかと思うと、全身を大きく震わせ始めた。背中に張り付いている俺を振り落とそうとしているのだろう。巨体が左右に揺れ、硬い外殻が激しくぶつかり合う。
だが、俺は鋏を背中に突き立て、脚でしっかりと身体を固定した。
「ハッハー! 俺は蟹だぜぇ!?」
忘れてもらっちゃ困る。ショウグンギザミは天井に張り付けるほどの走破力を持つモンスターだ。今の俺はまだガミザミだが、その性質はすでに備わっている。
こんな程度で振り落とされるものか!
「どんだけ暴れようが無駄だ! がっちり張り付いて、刺しまくってやるぜぇ!」
俺はさらに鋏を振るい、傷口を増やしていく。
バサルモスはますます激しく身体を揺さぶった。今度は背中を地面や岩にこすりつけるようにして、俺を引き剥がそうとしてくる。
「おっと、そう来たか!」
さすがにこれはまずい。背中と岩の間に挟まれたら、いくら俺でも無事では済まない。
俺は鋏を引き抜き、身体を低くして振り落とされないように耐えた。
そのときだった。
ドゴォンッ!
バサルモスの横っ腹に、何かが勢いよく叩きつけられた。
「グオッ!?」
巨体がぐらりと傾く。
視線を向けると、そこには拳を振り抜いたベイビーの姿があった。どうやら、俺が背中で攻撃している隙に、横から殴りつけてくれたらしい。
「ナイスだベイビー! わかってるじゃねぇか!」
そうだ、それでいい
俺が背中に張り付いて攻撃を続けているせいで、バサルモスは俺を振り落とすことに意識を割いている。そこへ横から攻撃を叩き込めば、当然そちらにも注意を向けざるを得ない。
しかも、狙ったのは腹に近い横っ腹だ。硬い背中よりも、ずっと攻撃を通しやすい部位である。
「いいぞ、ベイビー! そのまま攻めろぉ!」
俺は鋏を構え直し、再び背中へと突き立てた。
背中からは俺が、横からはベイビーが攻め立てる。バサルモスにとっては、まさに挟み撃ちの形だ。
さあ、どうする?
このまま俺たちの攻撃に耐えられるかな、岩竜さんよぉ!