願いであり、思いであり、記憶であり、情勢そのものだ。
誰かを守りたいと願ったとき、
誰かを憤んでしまったとき、
世界を変えたいと強く願ったとき――
魔法は、そうした心の振れから生まれる。
世界がまだ、魔法という言葉すら知らなかった遥か昔。
その起源に立っていたのは、一人の少女だった。
その名は、リリス。
忘れ去られた“最初の魔法使い”。
時は流れ、その存在は歴史の底に埋もれていった。
けれど今、世界が再び大きく揺れようとしている。
一人の少年が、運命の戸を開くとき――
魔法の本当の意味と、愛の魔法が生まれた理由が、
再び語られようとしている。
「ハリー! さっさと起きなさい!」
金切り声が階段下の小さな部屋に響き渡った。
目を覚ましたハリー・ポッターは、うすぐらい天井を見上げてため息をつく。
今日が十一歳の誕生日だと、誰よりも先に気づいたのはハリー自身だった。
しかし、この家でそのことを祝ってくれる人間は一人もいない。
彼が暮らしているのは、バーノンとペチュニア、そしてその息子ダドリーの住む家だった。
ハリーにとって彼らは叔父と叔母であり、親代わりのはずだった。
「ほら、早くしなさいってば!」
階段上からもう一度声が飛ぶ。
ハリーはようやく起き上がると、埃っぽい天井を見上げながら伸びをした。
その姿はやせ細り、眼鏡はテープで補修されている。
額には、雷のような形の傷跡。
彼の寝床は階段下の物置部屋だった。
寝返りを打つことさえ難しいその空間で、ハリーは十一年間を過ごしてきた。
扉を開けると、そこには叔母のペチュニアが腕を組んで立っていた。
「庭の草むしり、それから洗濯物を干して、朝食も作って。いいわね?」
「……うん」
無気力な返事をすると、ペチュニアは鼻を鳴らして踵を返した。
朝食の準備にキッチンへ向かうと、すでに叔父のバーノンが新聞を読みながら座っていた。
ダドリーはというと、プレゼントの山を前にして不満げな顔をしている。
「ママ、プレゼントが去年より一つ少ない!」
「まあまあダドリー、あとで買い足してあげるわ」
バーノンは新聞をめくりながら、
「ハリー、卵は焦がすなよ。焦がしたら夕食抜きだぞ」と嫌味を飛ばしてきた。
ハリーは黙ってフライパンを取り出す。
今日、家族はダドリーの誕生日祝いでロンドン動物園に行くらしい。
「で、ハリーは置いていくのか?」
「ベビーシッターが見つからなかったのよ。仕方ないじゃない」
「ったく……おい、ハリー。妙なことはするなよ。わかってるだろうな」
バーノンは睨みつけるように言った。
「うん……」
ハリーには、自分に何か“変なこと”が起こることがあると知っていた。
でも、それをどう説明していいのかわからなかった。
○
ロンドン動物園の爬虫類館は蒸し暑く、空気がぬるかった。
ハリーは蛇の前で足を止める。
「ぜんぜん動かないじゃん!」
ダドリーがガラスを叩いて騒ぐが、蛇はピクリともしない。
友人と一緒に別の展示に行ってしまうと、ハリーは残された蛇と向き合った。
「……うるさかったね。ごめん」
ぽつりとつぶやいたとき、蛇が目を開いた。
頭をもたげて、ハリーをじっと見つめる。
「え、通じるの? 君、僕の言葉が……」
蛇がコクリと頷いたように見えた。
すると突然、ガラスが消えた。
「ぎゃあああああ!」
ダドリーが水槽に落ちて、館内は大騒ぎに。
蛇はハリーにまばたき一つ残して、ぬるりと逃げていった。
(やっぱり……僕は、何か普通じゃないんだ)
○
翌日から、妙な手紙が届きはじめた。
宛名は「階段下の物置部屋 ハリー・ポッター様」。
バーノンが封を切るより早く、破り捨ててしまう。
次の日も、その次の日も。
手紙はどこからでも入り込んできた。
煙突、窓、ドアの隙間。果てはオウムがくわえてきたことすらあった。
恐れをなしたバーノンは、家族を連れて海辺の小屋に逃げ出した。
その夜、雷鳴がとどろく中、扉が激しく叩かれた。
「おい、そこにいるのはハリー・ポッターか?」
扉をぶち破って現れたのは、巨大な男だった。
「やあ、ハリー。誕生日おめでとう」
ハリーは目を見開いた。
「だ、誰……?」
「俺ぁルビウス・ハグリッド。ホグワーツの森番をやっとる。お前さんを迎えに来たんじゃ」
「迎えに……?」
「そうだ、お前さんは魔法使いなんだぞ、ハリー」
その言葉が、ハリーの運命を大きく変えていくことになる――
始まります!