この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
UAがリメイクにして、1500を突破しました。
皆様、いつもありがとうございます。

作者は本日、また一つ歳を取りました…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-10

その日の夜、瑞鳳がベッドで先に目を覚ました。

 

「おはよう…零君…って、まだ寝てるよね。」

 

そう言いながら、隣で眠る零を見る。

瑞鳳のその目に映るのは、肩に包帯を痛々しく巻かれた少年。

 

「ほんとに、段々と怪我が増えてくね…。」

 

そこに割って入る声。

 

「少年だと言うのに、これでは歴戦の軍人だな。」

 

声の主は、隣のベッドにいる雪だった。

見れば、脚を吊られながら上体を起こしている。

 

「て、提督?!起きて大丈夫なの?!」

 

「大丈夫だから、落ち着いてくれ。彼が目を覚ましてしまうだろう?」

 

「あ、うん、そうね…。」

 

瑞鳳は雪に宥められ、俯く。

そんな瑞鳳に、雪は尋ねる。

 

「瑞鳳、少し聞きたいことがあるんだ。」

 

「え?」

 

キョトンとする瑞鳳を、雪が真剣な表情で見る。

 

「そんなに髪を白くするほどに、深海棲艦化するほどに、彼に執着する理由はなんだい?」

 

雪の問いに、瑞鳳は。

 

()()()()()()()()()。」

 

(やはり言ってることはそのままか。しかし、なんて目を…。)

 

雪が見た瑞鳳の目。

そこに、普段の琥珀はない。

黒く染め上げられた、瞳があった。

 

「生きる理由…か。」

 

「提督が教えてくれたんだよ?」

 

「私が?」

 

雪は瑞鳳の言葉に、訝しげな表情をする。

 

「提督が、"この海を駆けていたら、いずれわかるさ"って。」

 

瑞鳳が笑顔のようで、何処か異様な雰囲気を醸し出す。

その姿と、雰囲気に。

雪は知らぬ間に、呑まれていた。

 

()()()()()()()()…?」

 

雪が確認すれば、瑞鳳は笑顔のまま答える。

 

「勿論♪()()()()()()()()()()()()()()()()()()()♪」

 

瑞鳳から発せられた、その一言。

されど、一言。

雪の怒髪天を衝くのには、充分だった。

呑み込んでいた空気と雰囲気が、一気に消し飛ぶ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「え?」

 

瑞鳳の服を、掴み引き寄せ、雪は鬼の形相で睨む。

勢いそのままに、怒鳴り続ける。

我に返った瑞鳳は、力なく腕を下ろす。

 

「その言葉は…!何かに憂いて、先を見据えることの出来ていない君に!艦娘として生まれたことの後悔と!抱えているモノを!払拭して貰いたくて言ったんだ!()()()()()()()()()()()()()()()()()!!これでは、私に君を任せたロゼさんに…申し訳が立たないじゃないかッ!!」

 

怒鳴り声が響いた後、室内が静かになる。

言い切った後で、悲壮に歪む雪のその顔。

瑞鳳は、下ろしていた腕を伸ばし。

自身の服を千切れんばかりに掴んでいる、雪の腕に手を添えて。

 

「…提督。」

 

手を握り、ゆっくりと口を開く。

 

「わかってるよ、そんなことくらい。でもね、駆けても駆けても…見つからなかった。なんでかな…わからなかったし、見つからなかったの…。でも、あの島で疲れ切って寝ちゃったこの子を背負って…その時に、"見つけた"って、そう思ったの。"この子の為に生きてみるのも、良いかもね"って。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?だってこの子の…。」

 

一息で話す瑞鳳と、半ば固まるように聞いている雪。

瑞鳳の胸中は読み取れない。

しかし、次の一言で雪は驚愕する。

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

「な…?!」

 

雪の声を無視するように、瑞鳳は続ける。

 

「だから…私は零君の側で、零君の隣で、零君の為に生きるの。提督は…知らないよね?"南方海域奪還作戦"。式条(しきじょう)前元帥の奪還と、その為の航路を確保する為に、当時大将だった橘花紫雲(たちばなしうん)元帥と、中将だった提督のお父さんの海野龍玄(うみのりゅうげん)大将。それから、私の元提督、中佐だった沖崎(おきざき)・ロゼ・フリューゲル大将、同じく中佐だった、岬ノ宮恋(みさきのみやこい)中将、当時も今も、教官指導役の島永幸造(しまながこうぞう)大将。この五人が作戦を立てて、連合艦隊を結成。万全を期して、敵の南方中間補給地点まで向かったの。」

 

 

話を聞きながら、雪は掴んでいた瑞鳳の服から手を離す。

 

「まさか…君がその作戦に…居たのか?」

 

顔は青褪め、額に汗を浮かべながら訊く雪に。

 

居たわよ(もちろん)。」

 

肯定した瑞鳳は、唇を強く噛む。

そして、呼吸を整え。

 

「でもね…この子のお母さんを守れなかった…ううん、敵の砲撃が何発も、私に直撃したの。大破して鎮守府に撤退せざるを得なくなって、戦線離脱。他の皆も中破、大破してたからね…。高速修復材も底を尽きてて、長い入渠が終わった後、いざもう一度出撃しようとした私に…鎮守府へ戻ってきた艦隊の皆から聞かされたのは、作戦の失敗と、この子の母親であり、数ある鎮守府の中の一人と言えど、私の姉妹艦である…。」

 

 

 

 

 

 

 

――"祥鳳"の轟沈だったの。

 

 

 

 

 

 

 

「この子の名字を聞いた時、知らないフリをするのが精一杯だった…。元帥と、大本営に居た祥鳳との子供だったなんて、罪悪感で押し潰されそうだった…。それでも、生きる理由には間違いなかったの。"この子の為に、艦娘になった"。あの時に感じた予感は、紛れもなく本物よ。だから、提督から何を言われても、私はこの子の傍を離れるつもりなんてない。これが"贖罪"だなんて、()()()()()()()()()()()()()()()?こんなもので…済ませられるもんですか…。この子の母親二人を救えなかった、艦娘である私の…たった一つの生きる"理由"なんだから。」

 

雪が再び、口を開く。

 

「それなら、私の言葉と関係無いじゃないか…。」

 

そう言われた瑞鳳は。

雪を真っ直ぐに見つめ、頭を振る。

その目に、黒を更に濃く浮かばせながら。

 

「ううん、提督のおかげだよ。偶然にも、あの島に私の居る艦隊を向かわせてくれたから、零君に会えた…!提督の言っていた、"この海を駆けていれば、いずれわかるさ"。この言葉は!間違いなかった!巡り会えた!見つけられた!私の!私だけの生きる理由!やっと!私は見つけた!探し出せた!海を駆けて!尽くしてあげるの!この子に!エンガノ岬のようにはいかないように!私はこの子の為に沈まないの!今度こそ!ずっと!見守るの!」

 

狂気にも感じ取れる、瑞鳳の歓喜する姿。

雪は気づかぬ間に、自身のその身体を震わせていた。

 

「ず、瑞鳳…。」

 

(それは私の言葉ではない…。)

 

(君が持つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。)

 

胸中の率直な思いを、今この場で瑞鳳に聞かせられるのなら。

雪はどれほど、楽なのだろうか。

これは、雪のみが計れるところである。

 

「提督。」

 

「な、なんだい?」

 

瑞鳳に名を出され、雪は震える身体を必死に抑えつける。

 

「私と零君を引き離そうとなんて、絶対にしないでね?」

 

「あ、あぁ、一緒に居られるだけ、居たら良い。本人が受け入れられる範疇でね。」

 

軽口を必死で返すも。

 

「もし、引き離したりなんてしたら。」

 

 

 

 

 

 

――絶対に赦さないから。

 

 

 

 

 

 

 

(あぁ、瑞鳳。)

 

(明るくなった、というわけでもなく。)

 

(様子が変わった、というわけでもなく。)

 

(君のソレは。)

 

 

 

 

 

()()()()()…なんだな。」

 

「え?」

 

呟かれた雪の言葉を、聞き取れなかった瑞鳳が訊き返すも。

 

「いや、なんでもないさ。わかった、なるべく一緒に居るといい。でも、遠征や出撃は頼むよ?サボりは厳禁だからね。」

 

「勿論♪提督、ありがと♪」

 

困ったような笑顔を浮かべ、雪は瑞鳳に釘を刺す。

肝心な部分は上手く反らし、真相は瑞鳳の耳には届かなかった。

 

「さて、彼が起きてしまう前に食事でも済ませておいで?」

 

「いいの?」

 

「あぁ、彼と居たいんだろう?ならば、早めに済ませて早く戻って来ると良い。」

 

「わかりました♪」

 

先ほどまでの空気から一変、普段と変わらぬモノになった。

瑞鳳が去ったあと。

 

「これは…先が重たくなるな(思いやられるな)。しかし、瑞鳳は元気な方が良い。」

 

そう一人呟き、隣で未だ意識を戻さぬ零を見て。

 

「君が大きくなるわけだ。そうか、十年か。君と離れ、元帥と再会しても…()()()()()()()()()()()()()()()()()…。理由が、瑞鳳のおかげでわかったよ…。」

 

その呟きはまだ続き。

 

「深海棲艦を、殲滅せねばな。()()()()()…私もミラも、ロゼさんも私の父上も、岬ノ宮中将も守れなかった。母の仇と代わりを瑞鳳がするのなら、せめて私は"軍人として"、責務を果たそうではないか。」

 

雪は一人、零に聞こえるはずもない意気込みを披露した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瑞鳳さん、その後悔は私にもあります。」

 

医務室の外で、影に隠れ瑞鳳を見送る艦娘。

その艦娘もまた、復讐という概念に囚われている一人だった。




如何だったでしょうか?
リメイクで相当に変更点が増えております…。
御愛嬌ということで、多めに見てください…。

それでは、また次回に。
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