もう10月なんですね…。
あっという間に…。
早いものですね。
それでは、本編どうぞ。
五十鈴と響が、食堂で何やら話し込んでいた。
「零君が元帥の息子だって、改めて実感したわ…。」
テーブルに頬杖をしながら、五十鈴は皿の唐揚げを箸で取る。
「私も驚いたさ。指揮まで出来るとは、実にハラショーだった。」
響はもう食べ終えたのか、お茶を飲んでいる。
「…まさか、提督まで庇って怪我を負うなんてね。」
「他人が傷付くのは見たくないのに、自分は良いって考えだったりね。」
響の言葉に、五十鈴は目を丸くする。
「なに?あんた、零君の考えまでわかるの?」
「それこそ、まさか。本人のみぞ知るところじゃないかい?」
響が真顔で言えば、五十鈴は溜息を一つ吐く。
「そうよねぇ。ともあれ、提督も零君も無事…では無くても、生きてるんだから良かったと言えば、良かったわ。」
五十鈴の言葉に肯定するように、響は頷く。
「本当だね。それよりも、瑞鳳が心配だ。」
「私がどうかしたんですか?」
その声に、二人は勢いよく声の主を見る。
「ず、瑞鳳!大丈夫なの?!」
五十鈴が素っ頓狂な声を出すと、瑞鳳は恥ずかしそうに頬を掻く。
「あ、あの…その、ご心配とご迷惑をお掛けしました…。」
目を反らしながら、バツの悪そうな顔をする瑞鳳に。
「いや、いいさ。零君も司令官も無事だったからね。」
響が気にしないかのように、笑顔を見せる。
「ご一緒しても…?」
「いいわよ。」
瑞鳳の手にある、定食が乗った盆を見た五十鈴は、二つ返事で了承する。
「身体に不調は?」
「今のところ無いです。後で、明石さんに診てもらうけど…何も無いといいなぁ。」
「人が撃たれて暴走なんて、艦娘で初めて聞いたわよ。」
「それだけ零君への思いが強いんだろうさ。そうだろう?瑞鳳。」
響と五十鈴の気遣いに、瑞鳳は目線を落とす。
「あ、あー、落ち込まないで?ね?責めるつもりはないから。」
五十鈴が慌てて慰めるが。
「私、あの時、何も見えなくなって。撃たれた零君のことで頭がいっぱいになって…。気付いたら、零君の意識が戻ってて安心して…。」
瑞鳳の説明に、二人は納得の色を示す。
「そっか、あんたが戻ってきただけ、充分よ。」
五十鈴が困ったような笑顔を、瑞鳳に向ける。
「ハラショー。その通りだね。」
響も後から続けば、瑞鳳は嬉しさからなのか、気恥ずかしさからなのか。
頬を赤らめ、二人に聞こえぬように。
「ありがと…♪」
そう呟いた。
そこに、足音が三人の耳に入る。
「瑞鳳、無事で良かった。提督の様子はどうだ?」
長門である。
瑞鳳の席に歩み寄り、雪の様子を尋ねる。
「えっと、目は覚めてますよ?ただ、その、私と一悶着あったから…。」
「なに?瑞鳳が提督とケンカか?まぁいい、提督が目覚めたのなら、私もお見舞いでもして来ようではないか。」
長門はそのまま踵を返し、食堂を出た。
「さて、私達もさっさと食べてしまいましょ?」
「そうですね。」
五十鈴に同調し、瑞鳳が箸を持ったと同時。
「私はもう食べ終わってるよ。」
「ちょ?!響?!いつの間にか食べ終わってたの!?」
響の余裕振る一言で、五十鈴は驚愕のあまりに。
目線をテーブルと響に、往復させた。
そんな二人のやり取りに苦笑いを浮かべながら、瑞鳳は食事に手をつけ始めた。
「提督、長門だ。入ってもよろしいか?」
医務室の外で、ノックと共に響く声。
「ん?あぁ、長門かい?いいよ、隣で零君が寝てるんだ、静かに頼むよ。」
「失礼する。」
長門が入れば左足を吊られ、ベッドで横たわる雪が目に映る。
「まさか、乱射で左腿とはな。」
「あぁ、私も驚いてるよ。」
雪は呆れるように、額に手を当てる。
「瑞鳳が一悶着あったと言っていたが…。」
長門が壁に寄りかかりながら、雪に訊く。
「まぁね…彼のことでちょっと…いや、瑞鳳のことについてもかな。」
「む?そうか。」
雪の視線に合わせるように、長門もそちらを見る。
「…まだ目覚めないのか。」
「相当に疲れてるはずだからね。」
雪に視線を戻し、長門は確認するように尋ねる。
「提督、
「見たとも。反射神経に頼っただけの、力任せな動き。子供の身体には、些か無理を強いたはずだよ。」
雪はしっかりと見ていた。
自身を庇った時の、零の動き。
撃たれる寸前、上体を反らし致命傷を避けていたのを記憶していた。
「そうか…。」
長門は短く相槌を打った後、零を見る。
「この少年が将来は軍人になるのなら…我々、
「おや、長門が誇らしく感じることなのかい?」
雪が悪戯めいた笑顔で、長門を嗜める。
しかし、長門は至極真面目な顔をした。
「あぁ。食堂で、五十鈴達の会話が少しだけ耳に入ってな。」
「そ、それはどんな会話か聞いても?」
雪は先刻までの瑞鳳との会話を思い出し、全身が総毛立つ感覚に見舞われる。
「なんでも、この少年が指揮を執ったそうだ。」
長門が壁に寄りかかったまま、片目を瞑りながら言うと。
信じられんばかりに、雪は両目を見開く。
「指揮?!彼が指揮を執っただと?!こんな子供が?!」
「間違いなく、五十鈴はそう言っていた。」
長門の言葉を飲み込むのに、雪は時間を要した。
そのくらい、雪にとってはありえない話だったのだ。
「そ、そんな才能まで持ち合わせてたのか…。」
手に汗を握り、零の底の計り知れなさに畏怖する。
「話はそれだけだ。提督よ、こういう時くらいはゆっくり休んでくれ。」
「長門、ありがとう。」
長門が病室から出ると、雪は考え込む。
(元帥の息子が指揮…才能か?それとも、教わったのか…?)
雪の考えが然程、間違ってないのは後に判明する。
「君の可能性は…どこまであるんだろうな。」
零を見ながら、微笑んだ。
「これで、今居る艦娘は全員か?」
「「はっ!」」
雪の病室を後にして、長門は遠征組以外の艦娘を食堂に集めていた。
「まずは、提督が目覚めたぞ。」
「「おぉ!!」」
全員を見渡すように前に立ち、腕を組んだ長門が言う。
すると、その場の全員が歓喜した。
「この舞鶴が、襲撃にあった話は知ってるな?」
「まったく、ウチらが遠征で居ない間に来るなんて、酷いやっちゃな。」
龍驤が頬杖をつきながら、呆れたように言い放つ。
「んで?あの指宿中将が、司令官をドツキ回す理由なんて何処にあるんや?」
「何でも、提督に縁談を反故にされたみたいでな。」
長門が説明すれば、全員が呆れのあまり口をぽっかりと開ける。
当の本人は、真面目な顔でいる。
「それが事の発端なのは、間違いないわ。」
赤城が口を挟む。
「私と大淀さん、長門さんは、提督を人質に取られて動けなかったんです。」
そう拳を膝の上で握り話す赤城の顔は、悔しさを纏っていた。
「私達が後から来た時には、暁と雷と海野大将が既に到着してたし。」
五十鈴が、名指しした二人を見る。
当の二人は、顔を合わせて。
「今回は零君のおかげで、早く提督の異変に気付けたし。五十鈴さんの提案で小破艦の私達は呉で入渠させてもらった上に、海野大将を呼べたのよ!」
「そうよ!あの子は司令官も大淀さんも通信に出ないからって、追い込まれてた私達の為に指揮までしてくれたのよ!」
二人の説明に、食堂はざわめきに包まれる。
「はい、静かに。」
長門が場を落ち着かせる。
「それは、食事中の五十鈴達がしていた会話で知っているさ。彼が指揮までした挙句、提督を庇った。今は医務室で寝ている。しかし、それ以上の問題があるな。」
長門は腕を組んだまま、大きく一つ息を吐く。
「指宿中将が艦娘が少ない時を狙ったのか、偶然そのタイミングだったのか…。」
「そんなの考えたって、仕方なくない?」
長門の言葉に、鈴谷が反応を示す。
「それでも、提督は無事だったし、元帥の息子だっけ?も、生きてるんでしょ?」
「誰かが情報を横流ししてるわけでも、あるまいしな。」
鈴谷が腕と脚を組み言い放てば、長門は頷きを返した。
「それこそ、出来る艦娘なんて居るわけないっぽい!」
夕立がテーブルに手をついて、抗議するように割って入る。
「我々艦娘は、提督あってこそだからな。」
長門は続ける。
「指宿中将は今回の一件で、大本営にて極刑は免れないだろう。」
「…一ついいかしら?」
長門が説明を終え、声がした方を見ると加賀だった。
何処か不審な様子に、長門は怪訝な顔で訊く。
「どうしたんだ加賀?」
「零君が内地に居るならいざ知らず、
「それは…何故だ…?」
長門は考え込む。
否、それは全員だった。
保護したのが、元帥の息子。
改めて考えれば、疑問になるのは必至だった。
「「何か理由があった…?」」
この場の全員が頭を捻るが、おおよその見当すら出てこない。
「飽くまでも、個人的見解ですが。」
大淀が前置きしてから、ずれた眼鏡を上げ、自身の見解を話し始める。
「元帥の失踪と、何らかの関係があるのかも知れませんね。」
大淀の頭脳を持ってして出した、その憶測。
「何故、大本営でも無く、他の鎮守府でも無く、あの島なのか。こうは考えられませんか?安全地帯の"安全証明"。元帥の息子と母を使って、国民に"証明”をして見せた。元帥のご家族となれば、その信用度は絶大なはず。」
しかし、これだけでは無かった。
「それと、もう一つ。」
大淀は額から、汗を流す。
「元帥の失踪前後で、彼の記憶を"消去"してまで、第三者にバレてはいけない、もしくは、"
憶測を並べながらも、自身でも信じられないことを言っていた。
その焦燥を掻き消すように、ドアが開け放たれる。
「皆さんが疑問に持つと思ったので、この青葉が独自に調べました。」
ドアの方を見れば、そこに立っていたのは青葉だった。
「「青葉!!」」
名を呼ばれるも、青葉は神妙な面持ちで。
「そこで、生き証人をお連れしました。今からお話することは、
青葉がそう言うと、全員が頷く。
合意を確認し、外から艦娘を招く。
「海軍元帥直属、今は呉鎮守府の工作艦、明石です。」
この場の全員が、敬礼をする。
というのも、艦娘同士の礼儀としてであるが。
「私と榛名さんは…いえ、呉で一時的に預かって貰ってるみんなですね。彼、橘花零君と一緒に過ごすことが多かったんです。元帥が失踪する前まで…。」
明石はそう言うと、近くにあった椅子に座る。
「私達は、零君が産まれた時から知っています。母親のことも、その最期も…。」
「ま、待って!さ、最期って何よ?!あの子の母親は、島で深海棲艦に襲われて…自分も深海棲艦に…!どういうこと?!それも知ってるってこと?!」
明石の話を遮って勢いよく立ち上がり、疑問をぶつける五十鈴。
「そうですよね、そうだった…。」
明石は大淀が用意した茶を一口啜り、一呼吸置いて再び口を開く。
「あの子の母親は、祥鳳型一番艦、祥鳳さんです。」
舞鶴の全員は、絶句せざるを得なかった。
「祥鳳さんは、零君が物心が付く前に敵の猛攻を受けて轟沈しました。その場に居た各鎮守府の艦娘、全員に為す術がありませんでした。私の泊地修理も、各鎮守府の入渠ドックも間に合いませんでしたから。全員が満身創痍だったと言って、過言ではありません。」
明石の儚げでありながら、憂いを帯びた言葉、表情。
その面持ちに、固唾を呑む事以外は誰も出来ない。
「この場に、瑞鳳さんと阿武隈さん、それから零君が居ないことが唯一の救いです。」
「ちょっと待って?瑞鳳と阿武隈?この鎮守府の?」
二人の名前に、鈴谷が訊き返す。
「はい、阿武隈さんは元大本営直属ですし。瑞鳳さんは、当時何処の鎮守府だったかわかりませんが…間違いなくこの鎮守府の…。」
「宿毛湾泊地です。」
そこまで言ったところで、開いていたドアから声が聞こえてくる。
「まだ、零君をひどい目に合わせる何かがあるんですか?それとも、元帥が居なくなったことで大本営で何か動きが起きるの?いずれにしても私は、零君の身に起こる災厄すべてを払い除けます。」
瑞鳳の決意とも言える覚悟に、明石は苛まれる。
「やはり、祥鳳さんの…。」
「祥鳳は関係ない!!私があの子に、最善を尽くしたいだけ!!」
明石の声を掻き消し、瑞鳳は叫ぶように怒鳴る。
「ず、瑞鳳、落ち着きなさいよ!」
「あ、その、ごめんなさい…。」
五十鈴が困ったような表情で近寄り、肩に手を置く。
落ち着きを取り戻し、我に返る瑞鳳に明石が教える。
「あの日は…誰も何も出来なかった。元帥直下で鍛えられた私達も、島永大将の艦隊も、誰も…。」
明石は悔しげに、拳を固く握る。
「そして、元帥が失踪した理由。それは元帥が、式条前元帥の人質にされてしまったのではないか。というのが、私達の予測です。」
「予測?」
長門が訊く。
「元帥は単身で乗り込みに行ったんです、私達に何も伝えずに。祥鳳さんが轟沈して
明石が目を伏せる。
「私達が元帥から目を離したばかりに…。」
自責の念に囚われる明石とは対照的に。
「その予測通りなら、元帥は生きているわ!だとしたら、まだ諦めるわけにはいかないでしょ!」
今まで黙っていた曙が声を荒げる。
「何よ!当事者でも無い艦娘達が、この場でタラレバを言っていればあの子の父親を救えるの?!そんなわけないでしょ?!だったら、クソ提督が起きたら作戦を練って貰って、
「私達は当事者だからこそ…。」
「私たち艦娘が当事者ですって?!父親も母親も目の前に居ないのは、零君じゃない!そんな子供を差し置いて、こんな所で話していたって無意味よ!」
曙は明石の言葉を遮ってまで、感情的に怒鳴る。
それに触発されたのは、瑞鳳だった。
「それなら、
「「は?」」
全員が呆気に取られる中、瑞鳳は淡々と笑顔を浮かべていた。
「当事者の気持ちを聞いてみましょう♪」
瑞鳳が椅子から立ち上がり、駆け出そうとした時だった。
「おや?こんな時間まで、作戦会議かい?」
「「提督!?」」
榛名に肩を借り、もう片方の腕で松葉杖をつきながら雪が顔を出す。
「いやいや、
「あ、あわわわ…!ち、違うのよ…!」
雪に聞かれていた、と知った曙は。
顔を赤くしたり、青くしたりしながら挙動不審になる。
「君達の言う通り、彼こそ重要人物に変わりはないと思う。何せ、瑞鳳の
雪が笑顔で瑞鳳を見ると。
「…あの子を連れてきます。」
そう言って、瑞鳳は食堂を足早に去った。
その横顔が真っ赤に染め上がっていたのを、見逃した者は居なかった。
「あんなに照れちゃって…。」
赤城は微笑んでいた。
「そう言えば。」
長門がふと、思い出したように言う。
「私が、大湊に居た頃だったか?元帥が偶然にも来てたな。」
「「え?」」
長門は顎に手を当て、思い出すように目を瞑り。
「横に立っていた艦娘、祥鳳と結婚したと言ってたな。」
「「え?」」
全員の疑問符を無視するように。
「そう言えば、その祥鳳に抱かれていた赤ん坊…。そうか、
長門が染み染みと言い終えた。
と、同時。
「「はぁぁぁ?!?!?!?!」」
この場に居ない、瑞鳳を除いて。
舞鶴の全員が、素っ頓狂な声を上げる。
無論、雪も例外ではなかった。
その声は、鎮守府中に響いていた。
いかがだったでしょうか?
それでは、また次回に。