この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
今回は少し長いかもです…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-13

少年が無邪気に、鎮守府内を走り回っていた。

 

「天津風ー!こっちだよー!」

 

「零君!待ちなさいったら!私の吹流しなの!返しなさい!」

 

天津風が零を追いかけ回しながら、大声で呼びかける。

 

「やだよー!」

 

零は悪戯めいた笑顔で、天津風を煽り散らかす。

 

「ほんとにもう!無邪気すぎて、困ったものね!お父さんに言うわよ!」

 

対抗し、天津風が父をチラつかせれば。

 

「えぇー!意地悪ー!」

 

走りながら、零は文句を垂れる。

 

「どっちが意地悪よ!嫌だったら、すぐ返しなさい!」

 

「天津風のいけずー!」

 

天津風の反撃虚しく、零は尚も天津風を小馬鹿にする。

走りながら、天津風は閃く。

笑みを堪えきれず、口角を上げながら。

 

「いいわ!そっちがその気なら、龍田さんにでも…。」

 

「ごめんなさい!返すから、龍田だけは…!」

 

天津風が奥の手とばかりに、龍田の名を出せば。

全速力で天津風のもとに走り、零は頭を下げる。

 

「私が何かしらぁ?」

 

「げっ!龍田!」

 

「"げっ!"って何よぉ?失礼ねぇ?」

 

噂をすれば何とやら、龍田が角から現れる。

それに驚き、零は仰け反るように床に転んだ。

龍田は唇に人差し指を当て、首を傾げる仕草を見せる。

 

「また天津風さんに悪戯してたのぉ?勉強量(お仕置き)でも、増やそうかしらぁ?」

 

「そ、それだけは…ごめんなさいごめんなさい!!」

 

慌てる零を見て、満足したのか。

 

「冗談よぉ?でもぉ、悪ふざけは程々にねぇ?」

 

「う、うん、わかった…。」

 

龍田に釘を刺され、零は肩を落とす。

 

「反省したのなら、別にいいわよ。」

 

天津風もその様子から察し、目を瞑ることにした。

 

「零の声が聞こえた気がするんだが、この辺に居るのか?」

 

三人の耳に、太くも逞しい声が入ってくる。

 

「と、父さん!」

 

零が声の主を見る。

そこには、零の父である橘花紫雲が立っていた。

 

「丁度良いところに居たな、執務室まで一緒に来て欲しい。」

 

「え?」

 

「なに、天津風にイタズラした事を怒るわけではないぞ?」

 

「違うの?」

 

「あぁ。龍田と天津風(お前達)には悪いが、零を借りていくぞ。」

 

「えぇ、いいわよ。」

 

「わかったわぁ。」

 

紫雲の有無を言わさぬ物言いに、二人の艦娘は頷く。

零は父の見せる笑顔に疑問を持ったが、大人しく付いて行くことにした。

 

 

 

 

「お前に良いことを教えてやろう。」

 

「いいこと?」

 

執務室に入るなり、紫雲はデスクに座りながら笑顔を見せる。

その笑顔に零は不信感を抱くが、次の一言でそんなものは吹き飛んだ。

 

「零、幼いお前には早いかも知れんが、指揮を叩き込んでやる!元帥特権でな!ふはははっ!!」

 

「ほ、ほんとに?!」

 

零は嬉しさのあまり、拳を固く握る。

 

「あぁ。お前はまだ六歳と幼いが、龍田や榛名、他の艦娘達とも勉強してるだろ?」

 

「う、うん!陣形、装備、各艦種の性能…。」

 

勉強が嫌いなのか、零は顔を青くさせながら指を折って数える。

 

「そんなお前なら、将来提督になったとしても立派になるだろう。と、見込んだわけだ。」

 

紫雲は笑顔を見せながら。

 

(零、お前に託すぞ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。)

 

胸中は何処か寂しげであったが、零には知る由もない。

 

「今日から早速、叩き込むぞ!」

 

「わかった!!」

 

紫雲の激励に、気概を見せる零。

父と息子はお互いに、笑顔を向けていた。

そこに、大淀がノックも無しにドアを開ける。

 

「出撃中の艦隊より、無線です!」

 

大淀が紫雲に、鬼気迫るように言えば。

 

「緊急か?!ノックをせず入ったのは褒める!すぐ繋げ!」

 

「はっ!」

 

大淀が無線を渡せば、紫雲はすぐに笑顔を消す。

唾を飲み込み、零はその一部始終を脳に焼き付けるように集中する。

 

[提督!やべーよ、想像以上に敵が多い!撤退か夜戦に持ち込むか、指示を頼む!]

 

無線の声は、天龍だった。

 

「制空権はどうだ?!」

 

[軽空母になった鈴谷と熊野が、頑張ってくれちゃいるが…厳しいな。]

 

天龍の醸し出す弱々しい雰囲気に、紫雲は即座に指示を出す。

 

「まずは、敵艦載機を撃ち落とすことに専念しろ!全艦、輪形陣を保つんだ!いいか?お前らは強い、自信を持て。元帥直下の大本営所属は伊達じゃない。天龍も、()()()()()()()()()。」

 

[お、おう!任せろ!なんたってオレは、世界水準を超えた軽巡だからな!全員、聞いたな!?輪形陣だ!]

 

[[はっ!]]

 

「夜戦になる前に決めろ。空母の居るその艦隊では、不利でしか無い。天龍、江風、綾波、榛名は魚雷で牽制しながら、砲撃を休めるな。弾薬も使い切って構わない。鈴谷と熊野は、制空権で押し込まれるなよ。」

 

落ち着かせるように、打って変わって紫雲は優しく諭すように声を掛ける。

 

[[はっ!!]]

 

全員が返事をしたあと、轟音と同時に通信が切られる。

紫雲はソワソワと、執務室の中を行ったり来たりしていた。

 

「て、提督…。」

 

「と、父さん…。」

 

「あ、あぁ。そうだな、俺の艦隊だ、あいつらを信じなくちゃな。」

 

大淀と零に怪訝な顔で見られた紫雲は、冷静さを取り戻す。

 

 

 

「まだ艦隊から通信が入らない…。」

 

紫雲は焦燥していた。

時計を見れば、夕刻を指していた。

 

「このまま行けば、夜戦は必至だ。」

 

紫雲は零に目を合わせる。

 

「いいか?夕暮れになれば、夜戦が近くなる。」

 

「う、うん。」

 

"これが戦場だ"と言わんばかりに、言葉を続ける。

 

「夜戦になれば、空母は一部を除いて不利になる。何故かわかるか?」

 

紫雲が零を真っ直ぐに見つめ、言葉を待っていれば。

 

「提督、零君にはまだ難しくありませんか…?」

 

「大淀、黙って聞いててくれ。」

 

「は、はっ。」

 

大淀が割って入るも、紫雲の真面目な顔にそれ以上何も言えなかった。

 

「んーと…。」

 

零は頭をフル回転させる。

 

「悩むことはないぞ?間違っていたからと言って、何があるわけでもない。()()()。」

 

そう言われ、零は直感で答える。

 

「鈴谷かなぁ?艦載機が発艦出来ないって。撃てても機銃が限界だって、言ってた気がする。」

 

()()()()()()()()()()()()、零。」

 

紫雲はデスク越しに零へと、目つき鋭く視線を送る。

 

(そっか、俺に聞いてるのか。)

 

零は、"答えじゃなかった"と悟り、再考を始める。

そして、出した答えが。

 

「…敵の的になる。格好の餌食でしかないから、()()しやすくなる。」

 

零の考えて出した答えに、紫雲は大きく頷く。

 

「そうだ、零。まさにその通りなんだ。」

 

答えを聞いた紫雲は、額に汗を浮かべる。

零がここまで答えられた理由は、龍田と榛名の教えの賜物と言える。

言葉の難しさも、およそ六歳の使う語彙ではない。

紫雲もわかっていた。

しかし、驚いたのはソレではなかった。

 

(轟沈…()()()()()()()()()()()()()()。ならば。)

 

紫雲はデスクから立ち上がり、零を見下ろす。

見下ろされた零は、その圧から一瞬たじろぐ。

 

「零、いいか?指揮を執る上で、絶対に忘れたらいけないことがある。」

 

「忘れたらいけないこと?」

 

「あぁ。」

 

零に訊かれ、紫雲は腕を組み口を開く。

 

「指揮とは。」

 

その口から発せられる、その先の言葉は。

 

「窮地に追い込まれた時こそ。」

 

将来、この少年の信条となる言葉である。

 

「死こそ最大の汚点だ、提督が諦めてはいけない。指し示し、本領を発揮させる。それが指揮だ。」

 

「死こそ最大の汚点…。指し示し、本領を発揮させる…。」

 

零は繰り返し、その言葉を己に刻んだ。

溜息を一つ吐き、紫雲は椅子に座る。

 

「これだけは、何があっても忘れるな。提督である我々が諦めれば、艦娘達は文字通り轟沈する。戦場に出ているのは、艦娘だけじゃない。こうして執務室から指示を出し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。戦場から背を向ければ、それは死だ。よく覚えておけ。」

 

「わかった!」

 

紫雲が真面目に言えば、零もまた真面目に元気よく返事をした。

 

「さすがは俺の息子だ!偉い!」

 

その返事に、笑顔で息子を褒める父親がいた。

 

[提督…!]

 

そこに、大淀の通信機が反応を示す。

 

「どうした!?夜戦か?!すぐ増援を…。」

 

紫雲がそこまで言った所で、天龍が大声を出す。

 

[勝ったぞ!江風が中破したが、夜戦の前にケリをつけてやったぜ!!]

 

「よし!よくやった!さすが俺の艦隊だ!帰投したら、間宮アイスをご馳走してやる!」

 

[[やったー!!]]

 

「あ、帰投中も気をつけろ。殿は天龍がやってくれ。」

 

[あぁ!任せろ!]

 

「では、気を付けて帰ってこい。」

 

[[はっ!]]

 

返事を聞き終え、紫雲は通信機を置く。

 

「どうしたの?」

 

零が訊けば、ガッツポーズを決めた紫雲が。

 

「勝った!勝利だ!やったぞ!零!勝利したんだ!これで、海鮮が食えるぞぉ!海域に出る漁師さん達が動けるからな!」

 

()()()()()()()()()…今はいい。)

 

紫雲が胸中の何かを隠し笑顔を見せれば、零は顔を綻ばせる。

 

「父さん、お疲れ様!」

 

「あぁ!あいつらにも、帰ってきたら言ってやれ!」

 

「うん!!」

 

零が指揮を覚えるようになる、事の発端であった。

 

 

 

 

 

 

「「艦隊帰投しました!!」」

 

その日の夜、艦隊は帰投した。

 

「ご苦労だった!全員入渠が終わり次第、間宮アイスを…。」

 

執務室で、紫雲が労おうとした時。

 

「零くーん!鈴谷、ちょー頑張った!」

 

「うん!鈴谷、お疲れ様!」

 

鈴谷が零に抱きついていた。

 

「あー、鈴谷ずっと寂しがってたからな。」

 

天龍が呆れ混じりに言う。

 

「ずっと言ってたもンな?"帰ったら弾薬と燃料より先に、零君を補給するんだ!"ってな。」

 

「江風!ちょっち待って!ソレ以上は!」

 

江風に言われ、鈴谷は顔を赤く染め上げる。

 

「向かってる途中、ずっと恥ずかしい事を言っていたんですのよ…。」

 

「えぇ!榛名もバッチリ聞いてました!」

 

「っ~~~!!」

 

熊野と榛名にも言われ、鈴谷は声にならない悲鳴を上げた。

そして。

 

「みんなお終い!!ドックに行くよ!間宮アイスもあるし!?江風は中破だし?!」

 

鈴谷はズカズカと、執務室を後にした。

 

「「鈴谷が照れてる…。」」

 

紫雲を含め、全員が呆気に取られていた。

 

「んじゃ、オレ達も入渠に行くとしますか。」

 

「「うん。」」

 

「零君も入る?」

 

綾波が訊けば。

 

「いいの?」

 

「いいですわよ?」

 

零が確認すると、熊野も了承し。

 

「わかった!行く!」

 

六歳という幼さの特権である。

最早、職権乱用と言っても過言ではない。

そして執務室を全員が出れば、紫雲は一人になる。

 

「すまない、零を急ピッチで鍛え上げる。それで、勘弁してくれ。」

 

一人、そう呟いていると。

 

「提督、明石です。」

 

ノックと同時に、明石が顔を出す。

 

「…出来たか。」

 

「はい。本当に使うんですか?あんな代物…。」

 

「あぁ。掴んでしまった以上、あいつを危険に晒すわけにはいかない。」

 

紫雲が、神妙な顔で見れば。

頬に涙を伝わせる、明石の顔が目前にあった。

 

「本当に良いんですか?!アレを使えばこの先!あの子の記憶が戻る保証も、無いんですよ!?もっと、別な方法を…!」

 

「無い。無いんだ、明石。わかってくれ、お前達の為にもだ…。」

 

今度は、明石の肩を勢いよく掴む。

 

「て、ていと…。」

 

明石が言いかけるも、紫雲の顔を見た明石は黙ってしまう。

 

「俺が悩まなかったと思うか…ッ!?嫁だった祥鳳が轟沈し…あいつだけが、俺達が夫婦であった証拠なんだ…ッ!!生死が掛かってるなら…危険に晒すくらいなら…あの装置で恨まれる事になっても…!俺は構わないッ!!」

 

その心からの叫びを、明石はただ受け止める事しか出来なかった。

執務室では一人の父と、艦娘の啜り泣く声だけが響いていた。




如何だったでしょうか?
しばらく、このような展開が続きます…。
ご容赦ください…。

それでは、また次回に。
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