この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
秋ですね、うん、秋だ。
花粉が元気になる頃です。

それでは、本編どうぞ。


Episode-14

「入渠も終わったし、飯でも食うかぁ。」

 

天龍が入渠を終え、そんなことを口に出しながら、執務室の前を通る。

すると。

 

「不甲斐ないが…。」

 

「提督…それでも…。」

 

紫雲と明石の声が聞こえ、天龍はドアの前で立ち止まる。

 

「あん?提督と明石?何を騒いでやがんだ?」

 

気になった天龍は、ドアに耳を当て会話を盗み聞きを始める。

 

「俺は零を逃がす為なら、手段を選ばないぞ!明石、泣いてる暇など、俺達には無い!」

 

「どんな後遺症が残るかわからないんですよ?!」

 

明石が、デスクに勢い良く身を乗り出す。

 

「あの島…安全地帯へ、零と一緒に柊を避難させる。」

 

「な、なんですって…?」

 

明石が目を泳がせる。

眼圧をそのままに、紫雲が続ける。

 

「明石、いいか?式条羽織が実権を握ろうとしている今、俺の身は危うい。式条が裏切ったが故にだ…。俺がもっとあの人を、警戒するべきだったんだ…。」

 

「提督の危険はわかります。なぜ、それが零君にまで?」

 

「俺の身が危ういと言ったが、もしも()()()()()()()()()()()()()()()、アイツを誰が守ってやれるんだ?」

 

「それは、私達艦娘と海軍将校達全員で…。」

 

明石は言いかけたところで、はっと気付く。

 

「…明石、お前も気付いている通り、海軍の腐敗は既に始まっているんだ。」

 

紫雲も察したのか、明石の肩にそっと手を置く。

 

「かの作戦以来、俺の味方と言えるのは数えられる程度だ、敵となりうる将校の方が多い。お前達でも限界があるだろう?だから、アイツを逃がすんだ。この海軍という場所からな。」

 

「では…指揮を叩き込む理由は…?」

 

よくぞ聞いたとばかりに、紫雲は口角を上げる。

 

「零に全てを託す。仮に俺に何かあっても、海軍で潰されないようにな。まだまだガキだが、お前達と過ごすことで艦娘とは?海軍とは?戦争とは?それを全てお前達と共に学ばせてるのは、そういう理由だ。アイツは将来、海軍に居なければならない人間だ。俺の息子だからなんて、親バカな理由ではない。」

 

明石は尚更訳が分からず、怪訝な顔を向ける。

 

「記憶が消えてしまえば…全て無意味になりますよ…?」

 

「思い出すさ、()()()。お前達艦娘が大好きなアイツなら間違いなく、()()()()()()()()()()()()。」

 

紫雲が言葉を切ったと同時に、ドアが開け放たれる。

 

「オイ、提督。今の話はどういうこった?」

 

「天龍…聞いていたのか?」

 

訊かれた天龍は、紫雲の目前まで歩を進め。

 

「オレが聞いてんだ!全部説明しやがれ!零をどうするってんだ?!あぁ?!」

 

紫雲の胸倉を掴み、怒鳴りつける。

 

「アイツを逃がす、ただそれだけだ。」

 

天龍の怒気混じる視線を一身に受けるも、紫雲は目線を反らさず淡々と続ける。

 

「いいか?お前達が俺を恨むのは当然であり、それに対して何とも思わん。だが、零を守れる者は誰も居ないだろう?お前達だけでは限界がある。海軍で俺の味方も少ない今、何も為す術も無い。それならば、アイツの記憶を消して、海軍とは無縁の人間に仕立てあげれば追われることも無いだろう…というのが、俺の目論見だ。」

 

紫雲が説明するも、天龍は納得がいかない。

胸倉を掴む手に、力が自ずと籠る。

 

鎮守府(ここ)に匿うなりなんなり、方法があんだろ?!」

 

「そんなものがあればな…。なぁ、天龍。」

 

「なんだよ?」

 

紫雲は表情を曇らせながら、天龍を見る。

 

「俺に味方が少ないのは何故だ?ここまで苦しまなければならないのは、何故だ?俺はただ元帥を取り戻すべく、あの南方海域に攻め込んだだけなんだぞ?祥鳳を失い、今度は奴の息子によって、俺の立場が危ういどころか、命まで狙われている状況だ。アイツを追い込まずとも、助ける方法は無かったのか…?」

 

明石も天龍も、その場で黙り込んでしまう。

 

「俺は何処で()()()()()()()()()…?」

 

「「提督…。」」

 

天龍は紫雲の胸倉を掴んでいた手を、ゆっくり離す。

床に座り込み、明石は涙を堪える。

 

「…零が記憶を思い出す。その保証は、絶対にあるんだろうな?」

 

天龍は真っ直ぐに、眼光鋭く紫雲を見つめる。

 

「あぁ、アイツはすぐ思い出すさ。何年かかるか、()()()()()()()()()()。だが、これだけ言っておく。」

 

そう言って目線を落とした、紫雲が放った一言。

 

 

 

 

 

 

──アイツを信じてやれ。

 

 

 

 

 

その言葉に、天龍は頷き。

 

「わかった。」

 

そう短く言って、そのまま執務室を出ようとすると。

 

「天龍、すまない…ッ!」

 

紫雲が顔を歪ませ、涙を流しながら言葉を出せば。

 

「辛気臭ぇ!!やめろよな!!」

 

そう言っている天龍も、顔を悲壮に歪ませていた。

 

「オレは飯食って寝るからな!!」

 

乱暴にドアを閉め、足音激しく天龍は執務室を後にした。

 

「というわけだ、明石。…お前には辛い思いをさせるが、頼んだぞ。」

 

「わかりました、提督が考えを曲げないなら仕方ありません。」

 

明石も立ち上がり。

 

「提督、自暴自棄にだけはならないで下さいね。」

 

「わかってる。」

 

その会話の後、明石も執務室を出た。

 

「明石、みんな…。済まないが、俺は自分で生やした雑草を刈り取ってくる。零と、海軍を…どうか頼んだぞ。」

 

その呟きを聞いた者も、次の日から紫雲の姿を見た者も居なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…何だ、さっきまでのは…走馬灯とやらか…?」

 

檻の中で目覚めた男が、重い瞼を必至に開ける。

白い軍服は幾度となく刀で斬り刻まれ、血が所々乾き、赤黒く染まっていた。

右目は潰され、その姿はまさに満身創痍。

更には鎖に繋がれ、壁で磔にまでされている。

 

 

 

 

――カツーンカツーン

 

 

 

 

 

――カツーンカツーン

 

 

 

 

そんな男の耳に、足音が聞こえる。

 

「また…来たのか…。」

 

 

 

――カツーン…カツン…。

 

 

 

 

幾数回、響かせたかと思えば、檻の前で音が止む。

 

「ほう?まだ生きているのか、橘花。」

 

檻の前から、軍刀を携えた人物が声を掛ける。

 

「式条…ッ!」

 

「どうだ?()()()()?」

 

海軍前元帥、式条袴は嘲笑を込めた笑みを見せ。

目前の男、橘花紫雲に問いかける。

 

「あぁ、()()()()()()()…うっ…はぁはぁ…。」

 

「おやおや、私の後釜である海軍元帥もここまで落ちぶれるとはな?」

 

「落ちぶれる?冗談じゃない、俺はまだ生きてるぞ…ゴフッ…。」

 

口から血を吐きながら、紫雲は軽口を叩く。

その姿が気に入らないのか、式条は眉間に皺を寄せる。

 

「そんな身体で、今の貴様に何が出来る?」

 

問われた紫雲は、口角を上げる。

 

「俺じゃない…俺の息子と、置いてきた艦娘達…そして、俺の部下達がお前に下剋上…いや、天誅を下しに来るだろうよ…ゲホッ…!」

 

そう言いながらも、激しくむせ込む。

出血も酷い為か、顔色も悪く意識も朦朧としている。

 

「貴様の艦娘達も、息子も、鳴波見柊も、全員を深海の奈落に送ってやろう。」

 

そんな紫雲を目前に、三日月を思わせる黒い笑みを浮かべ、牢の鍵を開ける。

 

「安心しろ、お前も同じように送ってやる。」

 

続けざまに、そう言い放った。

 

「いいや…俺はまだ諦めちゃいねぇぞ…はぁはぁ…。」

 

紫雲は負けまいと、息切れをしながら睨みつけるも。

 

「ふん。煩いだけの男だ…なッ!!!!」

 

「がはっ!!!!!」

 

式条の蹴りが、その顔面を強烈に襲う。

そして紫雲の髪を掴み引っ張り上げ、式条は自分の顔が見えるように突き合わせる。

 

「ぐうぅ…!」

 

「少しは大人しくしておけ。()()()()()()()()()()()?そんな身体では、海軍に戻っても指揮など出来まい。」

 

紫雲が痛みに悶えるのもお構い無しに、式条は目を細めながら淡々と言葉を続ける。

 

「今の貴様に、帰る場所など無い。いや、帰れるなんて思うなよ?貴様には、()()()()になって貰わねばならんからな。」

 

「交渉材料だと…?」

 

怪訝な顔で訊く紫雲に、式条は嘲笑する。

 

「あぁ。お前の息子、橘花零と海野龍玄の娘、海野雪…。この二人は後々、脅威と成りうる。その前に、始末…も考えたが、利用しようと考えたわけだ。」

 

「てめぇ…。自己都合で()()()巻き込むんじゃねぇぞ…ッ!!ゲホッ!!!!」

 

怒鳴りながら、紫雲は再び血を吐く。

その量は凄まじいと言えよう。

その血が式条の顔にかかり、不機嫌そうに紫雲の髪を掴みながら振り落とす。

 

「ガフッ!!」

 

「弱い犬ほどよく吠えるとは、まさにこの事か?貴様の勝手など知ったことか。()()()()()()()()()()。如何なる者であろうと、邪魔立ては許さん。」

 

「絶対に…てめぇだけは許さねぇ…ゴフッ…海の支配者にでもなったつもりか…?ふざけんな…簡単に騙されやがって…あんたに付いてきた…俺らを踏みにじりやがって…!!」

 

勝手に付いてきた(仲良くしていた)のは、お前達だろう?私は深海棲艦と共に、この世界を海から支配する。文字通りだ。いくら対抗手段である艦娘でも、延々と出てくる怨念の塊である深海棲艦に、太刀打ちなど出来なくなるだろう。」

 

紫雲の怒号も馬耳東風と言わんばかりに、顔にかかった血を拭ったあと、式条は腰の軍刀に手をかけ。

 

話をするのも飽きた(時間の無駄だ)。毎度毎度、下らん会話とはな。少しは大人しくならんのか。もう、あの頃のガキでは無いんだぞ、橘花紫雲。」

 

そのまま抜刀し、紫雲の肩に斬りつける。

 

「がぁぁぁぁあああ!!!!」

 

紫雲は幾度目かの激痛に、気を失う。

 

「ふっ、橘花紫雲。貴様は、所詮囚われの身だ。」

 

「アラアラ、マタヤッテルノ(日課ノ消化)…?」

 

軍刀を鞘に戻し、気を失った紫雲を見下ろす式条の耳に入る声。

そこに現れたのは、戦艦棲姫である。

 

「まぁな。」

 

「チョッカイモ程々ニシナイト、イツカ死ンジャウワヨ?」

 

「この程度で死ぬように育てた覚えはない。」

 

式条が真顔で言い放つ。

戦艦棲姫は首を傾げ、自己解釈したのか。

 

「アラ、ソウ?ジャア何モ言ワナイワ…ト、言ウヨリモ、()()()()()()()()。」

 

そう言って、その場を去った。

 

「今に見てろ、日本海軍。いや、世界か。」

 

そんなことを呟きながら、式条も牢部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「提督、どこ行っちまったんだよ…。」

 

呉の天龍もまた、否、全員が同じように昔を思い出していた。

 

「零を置いて、柊さんまで死んだってのに…!」

 

自室で拳を握り、机を力いっぱいに殴る。

 

「天龍ちゃん?そんなことしたってぇ、提督は戻ってこないわぁ。」

 

零のいた島が襲撃されたと知った天龍達は、憤りに満ち溢れていた。

 

「だけどよぉ、龍田!!」

 

龍田に宥められるも、天龍は尚も怒りが止まない。

しかし。

 

「天龍ちゃんの気持ちはわかるわよぉ?でも…一番辛いのは、誰かしらぁ?」

 

そう言われ、天龍は目を見開いたあと、視線を俯かせる。

 

「そういうことよぉ?だから、私達が出来るのは…。」

 

「零君が舞鶴で保護されたって!海野大将が言ってたの、鈴谷聞いちゃった!!」

 

龍田の言葉を遮るように、鈴谷が勢い良く天龍達が居る部屋のドアを開け放つ。

 

「「嘘っ?!?!」」

 

天龍も龍田も、これには目を丸くした。

 

「マジだって!ガチもガチ!鈴谷、流石っしょ?」

 

そんな笑顔でドヤ顔を決める鈴谷に、天龍がため息を一つ吐き。

 

「鈴谷にしちゃあ、珍しく良い情報くれるじゃねぇか。」

 

呆れたように言うと、鈴谷は地団駄を踏み始める。

 

「鈴谷が折角教えてあげたっていうのに、そういうこと言っちゃう?!」

 

「まぁ、なんだ、悪かったな。」

 

「わかればいいよ、わかれば。」

 

天龍が後頭部を掻きながら謝れば、鈴谷は腕を組みながら胸を張る。

 

「待って?!舞鶴ですって?!雪ちゃんの鎮守府じゃない!?」

 

考え込んでいた龍田が我に返り、歓喜するように目を輝かせながら二人に言うと。

 

「「そうじゃん!!!!」」

 

二人揃って、驚愕した。

そんな最中に、ノックの音が部屋に響く。

 

「何よ、騒がしいわね?!もうフタフタマルマルよ?!」

 

「そうですわよ?鈴谷が部屋に居ないと思って、来てみればここに居たのね?」

 

「ンだよ、寝ようと思ってたのに。」

 

「何かのパーティですか?」

 

天津風、熊野、江風、綾波がそれぞれ声を出せば。

 

「「あの子が、舞鶴の雪ちゃんのとこに居る!!」」

 

訊かれた三人が同時に言えば。

 

 

「「良かったぁ…はぁぁあああ?!?!」」

 

安堵の後、絶叫が部屋に響く。

 

「舞鶴?!舞鶴に居るのね!?」

 

天津風は確認したあと、すぐに出撃準備を始める。

 

「ちょちょちょ、待って待って、天津風、落ち着こ!」

 

鈴谷がそれをすぐに止める。

 

「だって居るんでしょ?!」

 

「いま行ったところで、驚かせるだけですわよ?」

 

熊野も姉妹艦であってこそか、鈴谷と同じく制止する。

 

「そ、それもそうね…。」

 

落ち着きを取り戻した天津風は、肩を落とし寂しそうな顔をする。

 

「まっ、近々会えるっしょ?」

 

鈴谷があっけらかんと言えば。

 

「今回ばかりは、鈴谷の言う通りだな。」

 

天龍もそれに同調した。

 

「明石と榛名が、舞鶴に向かったってンのは知ってるが…。」

 

江風が付け足せば、全員が頷き。

 

「「羨ましい。」」

 

そう口を揃えた。

 

「時期を待ちましょう?」

 

「「それがいい。」」

 

綾波の一言に、全員が納得の色を示す。

 

「さ、今日は寝るわよ。」

 

天津風の声を皮切りに。

天龍と龍田以外が、部屋を後にした。

 

「良かったわねぇ、彼が生きてて。」

 

龍田が言うも、天龍は急に顔を歪める。

悲壮からなのか、怒りからなのか。

それはわからない。

 

「でもよぉ、柊さんは…。」

 

「天龍ちゃん。」

 

龍田の声に、天龍は顔を上げる。

 

「驚かないでって言うのは無理だろうからぁ、せめてちゃんと聞いてね?」

 

覚悟を問うかのような龍田の言い草に、天龍は顔を引き攣らせる。

 

「お、おう。」

 

「柊さん…聞いたところによると、()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

普段の語尾を伸ばすような言い方ではなく、龍田にあるのは覚悟そのものだった。

 

「なっ…じゃあ、零はどうするんだよ?!」

 

「しぃーっ!!いいから聞いて。きっと、あの子が知ったら…。」

 

「あぁ、情報は漏れないようにしなきゃなんねぇな。」

 

この時、天龍も龍田も零が既に邂逅してるとは、知る由もなかった。

 

「今度こそ、失わないようにするわよ?」

 

「あぁ、あの時のオレ達は何も出来なかったもんな。」

 

天龍も龍田も、後悔していた。

 

「「あの子に二度と、惨劇を見せない。」」

 

二人の声が重なり、拳を突き合わせ固く誓った。

零が記憶を取り戻しているとも知らずに。




如何だったでしょうか?

それでは、また次回に。
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