秋を通り越して、冬の寒さですね…。
体調だけは気を付けたいところです。
UAが2300を記録していました。
皆様、ありがとうございます。
それでは、本編どうぞ。
「俺は、大本営で艦娘達…ここに居る、明石と榛名も含めて、一緒に勉強したり、遊んでもらったり、色々…して貰ってたんだ。」
零は椅子に座り、一つずつ整理しながら話していく。
「天津風になんて毎日のように悪戯してたし、遊んでも貰ってた。それで龍田に怒られるのなんて、ほとんど日常だったなぁ。榛名と龍田に敬語を教えてもらってたし、明石には装備のことを教わってた。熊野は、遊んでもくれたけど、出撃の後なのに一緒に寝てくれたりしてたんだ。鈴谷なんて、俺と遊ぶか寝るかだったけど、出撃前には必ず"行ってきます”って言ってくれてた…。」
呼吸を一つ整え、零は笑顔を取り繕う。
そこに思い出すのは。
記憶を剥がされる直前までの、手術台にも似た板の冷たさ。
金具で縛られ、押さえ付けられ身動きの取れなかった恐怖。
頭への強烈な痛みから、絶叫を絶え間なく続ける自身の声。
絶叫のあまり、負担をかけ続けた喉の焼けるような痛み。
そこに鬼気迫る勢いで工廠に乱入した、艦娘達の紫雲に対する縋る姿と怒声。
そして、それらを黙らせてまで強行突破する紫雲の背中。
『提督…!他に方法が無いか、鈴谷も手伝うから…!もっと考えようよ…!私…零君の苦しむ姿なんて…見たくないよ…!お願い、止めて…!』
『鈴谷!どうして来たんだ!お前達には、出撃命令を出していたはずだ!』
『天龍から話を聞いたから…!それなのに、こんな絶叫聞いちゃったら…居ても立っても居られないっしょ!?』
『鈴谷…命令だ、出撃しろ…!』
『そいつぁ無理な話だな、提督。」
『天龍!お前まで…!理由も事情も話しただろう…!あの時、わかったと…!』
『どんなやり方かまでは聞いてなかった!見にくりゃ、随分と実力行使じゃねぇか!それは聞いちゃいねぇ!』
『あなた…自分の子供に…なんてことをするのよ…!』
『天津風…!っ…!お前達全員、即刻ここから出ていけ…!さもなくば、元帥命令で…っ…解体処分に……!』
艦娘達から詰め寄られ、紫雲は出したくないであろう言葉を出してまで。
『『苦しむくらいならやめなよ!!』』
全員からそう言われるも、三人を無理矢理に追い出し。
『『待っ…!!』』
工廠のドアを勢いよく閉め、尚もドアを蹴破らんばかりの三人が入って来ないよう抑え込み。
『明石…!続けろ…!今…!海軍に零を、奪われるわけには…いかないんだッ!!』
『提督…っ!零君…ごめんね…痛いだろうけど、我慢して…!すぐ終わらせるから…!」
その時の明石の顔もまた、悲痛を浮かべていたのを零も見ていた。
紫雲が発する、痛烈なまでの叫びも聞いていた。
自身の記憶がそこで途切れたのも、思い出していた。
「最後の最後に俺を庇おうとして、必死に父さんを止めてくれてたのは…鈴谷と天龍と天津風だった…。」
零が何処か遠くを見ながら、思い出した光景で涙を流す。
それを聞いて、同じく涙を流したのは他でもない。
明石と榛名である。
「ごめんなさい、零君…。榛名は…。」
「私が開発したばかりに…ごめんなさい…。」
二人が嗚咽混じりに謝るが、その言葉は零にとっては逆効果だった。
「呉の皆を恨みもしないけど、許すこともない。」
零は涙の跡をそのままに、無表情で。
「あのまま忘れてたら、舞鶴の艦娘だって救えなかったはずだから。」
そう続けたが、その言葉にも感情は乗っていない。
それを聞いた瞬間、雪が口を開く。
「零君。
零を真っ直ぐに見つめ、問いかける。
「海野提督が危機だったし、あの場で動ける人間なんて居なかった…!」
納得のいかない零は、幼ながらに声を荒げる。
そのまま椅子が倒れんばかりに腕の痛みも忘れ、零が勢いよく立ち上がれば。
瞬時に明石と榛名が、零を倒れないように支える。
「俺は全部忘れてたのに…!そのせいで、母さんも…!」
「「零君…。」」
零は二人を片手で振りほどき、歩を進めて雪に詰め寄る。
しかし堂々たる振る舞いで、雪は正面に立った零の左手を引く。
勢いに負け零が膝を床に付けると、真顔の雪が顔を近づける。
「考えてもみてくれ。君の記憶が無理矢理に剥がされたのは、思う所しか無いはずだ。しかし、君が居たからこそ、皆が無事に帰って来られたことも事実だろう?
零はその言葉を聞いて、ようやく落ち着く。
「海野提督…。だとしても、母さんを救えなかったことは本当のことです…。」
零は悔いるように、拳を握り唇を噛み締める。
そんな零に、雪は笑顔を見せ。
「ありがとう、零君。あの場に君が居なければ、艦隊は大損害を与えられていたかもしれない。」
「え?」
そう感謝をすると、零は唖然として言葉を失う。
更に言葉を続けようとする雪の目から、涙が落ちる。
「すまない…本当にすまない。
その言葉に続き。
──どうか、
雪から、涙混じりの謝罪を受け。
「俺…自分のことだけで…精一杯だったんです…。」
零が雪に頭を下げる。
「海野提督が言っていることを、わかってはいるつもりです。でも、父さんのやり方に納得がいかないんです。どうして、母さんと俺を置いて居なくなったのか…それだけがわからないんです。」
"理由が知りたい"とばかりの言葉に、瑞鳳は悩んだ。
零に話すべきか、今はその時では無いのか。
悩んでいるのがそのまま、顔に出てしまい。
「瑞鳳さん。」
気付いた明石が瑞鳳に近寄り、声をかける。
「今は…
「え?」
明石の意図がわからず、瑞鳳は訊き返す。
「…
明石に耳打ちされ、瑞鳳は大人しく考えるのをやめた。
(そうよね…整理も出来ていない今、
瑞鳳もそう思ったからであった。
そんなやり取りの後ろで、雪が零を抱き寄せる。
「元帥を…私も含め、誰も止められなかったんだ。わかってはいたさ、あの人が自分の不始末を、自分で片付けるような人だってことくらい…。でも、予想の遥か上だった。単身で乗り込みに行くなんて、誰も思いもしなかった。私も父上も、同僚のミラも島永大将も、岬ノ宮中将も…。」
雪がそのまま、零に独白する。
「君には…おおよそ同じ年頃の子供たちが経験するはずの無い辛さを…申し訳ない…もう…しわけ…ない…!」
堰を切ったように零の肩に顔を埋め、雪は声を出さずに泣き出す。
零はどうしたらいいのかわからず、呆然としていたが。
「海野提督…。俺はまだ、出来ることなんてありません。でも、前にも言った通り提督になりたいんです。俺みたいな人達を少しでも減らしたい、悲劇を見せたくない。生きる理由が俺にも出来たし、父さんを探し出さなくちゃ話が始まりません…。海野提督が俺を受け入れてくれたこと、あの日に艦娘達が助けてくれたことを感謝します。」
零が抱きしめ返しながら雪に言ってみせると、雪は顔を上げ。
「本当に、君が十二歳というのが信じられなくなりそうだ。」
涙を軍服の袖で乱暴に拭い、零に笑顔を向けた。
一連の話を聞いていた艦娘達も、頬に涙を伝わせていた。
そんな折。
ー—ージリリリリ!
食堂に電話の音が鳴り響く。
気付いた大淀が、急いで受話器を取る。
「はい。舞鶴鎮守府、大淀です。」
[大淀か、呉の海野だ。海野少将は目覚めたか?]
声の主は龍玄だった。
大淀が雪に目配せすると、雪は頷く。
「はい、代わりますね。」
零から離れ、雪は榛名に肩を借りながら立ち上がり、松葉杖をついて歩く。
松葉杖をついているにも関わらず、その後ろ姿に零は憧れを抱いた。
(俺もあんな風になれたら…。)
胸中の通りなら、そう思うほど頼もしいモノだったのかもしれない。
それは、零のみが知る所である。
「お電話代わりました。」
[…具合はどうだ?]
雪が受話器に耳を当てれば、心配しているのがわかるほどの声色が届く。
「私は動けるまでに回復しました。ただ、一時的に預かっている零君は歩けるとは言っても、全治には時間が掛かるかと。」
電話越しの龍玄に心配無いとばかりに言うが、それを聞いていた艦娘がヒソヒソと語り合う。
「司令官だって、万全じゃあらへんよな?」
「ふふっ、その通りですね。」
「父親に心配かけたく無いんでしょ?」
龍驤、赤城、曙の声が雪に届くなり。
【静かにしてくれ。】
と、ジェスチャーで雪は艦娘を黙らせた。
尚も艦娘達は、暖かい視線を送り続けていたが。
[で、本題だ。]
龍玄が低い声で、雪を圧倒する。
何を言われるのかと、電話越しにも関わらず雪は身構える。
[その少年、間違いなく"橘花零"なんだな?]
「はい、橘花紫雲元帥の息子に違いありません。」
そう訊かれ、雪は生唾を呑みながら肯定する。
[そうか…。奴の息子で間違い無いならば、一つ提案があってだな。]
「な、なんでしょうか…?」
雪のたじろぐ姿に全員が、怪訝な視線を向ける。
その視線に気付き、なんでもないと手をヒラヒラして平然を装う。
[軍学校に入学させようと思うのだが…どうだ?]
龍玄の一言に、雪は驚愕し。
「まだ子供ですよ?!十二歳で軍学校なんて聞いたことありません!!」
思わず、怒鳴りつけるように叫んだ。
自身が大声を上げていることに、気付くのが遅かった。
「え?軍学校?」
その言葉に、零が反応を示してしまった。
[ゆっくり考えてくれ、本人も交えてな。奴の息子だ、もしかしたらとんでもない偉業を成し遂げるやも知れんぞ?
龍玄の声を聞きながら、雪は零を見る。
「わかりました…。話をしてみます。」
[あぁ、頼んだぞ。それと、これは父としてだがな?]
「なんでしょうか?」
雪は訊きながら、小首を傾げる。
[しっかり食べて、しっかり寝るんだぞ?働き過ぎで倒れる、なんてことになるなよ?]
「父上、私はもう子供じゃありません。」
半ば呆れながら、額に手を当てて言い返す。
しかし、返って来たのは。
[何を言うか。軍人たる者、食と休息は必要不可欠だぞ。それに、お前は何歳になろうが俺の娘に変わりは無い。]
龍玄の子を思っただけの一言。
それは、今の心境の雪には刺さるモノだった。
「ち、父上…。」
雪は感動すら覚えていた。
「学校の件は零君の怪我が完治次第、ご連絡します。」
[いい報告を待っている。]
それだけ言って、龍玄が電話を切る。
受話器を未だ持ったまま、雪の手は震えていた。
「提督…?」
大淀が心配になり、声をかける。
だが、雪は大淀を見ずに零へと視線を向ける。
「零君、軍学校に行く気はあるかい?」
問われた零は、目を輝かせる。
「本当に…俺が行けるんですか?!」
歓喜するように、左拳を握りしめる零に。
「あぁ、父上からの打診だよ。行くにしても、その怪我が治り次第だけれどね。」
雪が腕を組み、片目を瞑りながら言えば。
「行きます、行きたいです!」
食いつきの良い零に、雪は呆れながらに。
「意気込む前に、リハビリを先に頑張りなさい。」
と、微笑んだ。
しかし、瑞鳳は面白くなかった。
(零君が私の傍を離れる…寂しいなぁ…。)
胸中では寂しさが渦巻くが。
瑞鳳自身、誇らしくもあった。
簡単なことで、意中の相手が年端もいかぬ少年なれど、快挙である。
その顔は、胸中とは裏腹に正しく笑顔である。
「瑞鳳!俺、頑張る!だから、リハビリ手伝って!」
そんな頼みを瑞鳳が、断れるわけもなく。
「え、えへへ、手伝うよ?もちろん♪」
そう返したのが運の尽き。
当日になって、泣きを見るのは。
「「どうせ、当日になったら泣く。」」
雪も含め、舞鶴の全員が予想していることでもあった。
呉の明石と榛名は、お互いに顔を見合わせ。
「いい人達に、恵まれたみたいですね。」
「えぇ、榛名もそう思います。…
そんな会話の後に、明石が付け足す。
「…大本営の頃が懐かしいですね。」
その寂しそうな声色と、表情に。
「本当ですね…。零君には…
榛名もまた、同じような表情で返した。
「では、各自解散だ。夜も遅い、明日の出撃と遠征、演習に支障をきたすことのないように。」
「「はっ!」」
雪が号令をかけると、艦娘達は自室へと戻って行った。
大勢の足音が過ぎ去れば。
食堂には、零と雪。
呉の榛名と明石。
そして、瑞鳳だけが残っていた。
「榛名は、私を連れて行ってくれると助かる。」
「はい、榛名は大丈夫です。」
そう言って、雪は榛名の肩を借りながら医務室へと戻って行く。
その歩みを止め。
「瑞鳳は、零君を部屋に連れていくのかい?」
「え、えぇーとぉ…。」
瑞鳳が悩んでいると。
「瑞鳳の部屋で寝てもいい?」
零が瑞鳳に進言した。
「彼もこう言っているんだ。一緒に居られる時間も限られているし、連れて行っても構わないよ。」
雪が後に続くように言えば、瑞鳳は顔を赤くさせながら。
「そうします…♪」
と、素直に喜び零を抱きかかえると。
「……♪」
何も言わずとも、その足取りは上機嫌そのものだった。
舞鶴は穏やかながらも。
「指宿、相当にやられたな。」
大本営の地下牢で、男が指宿に話しかける。
「あ、あなたは…!」
如何だったでしょうか?
いつも長らくお待たせしております。
頑張ってはいるんです、はい。
申し訳ないです…。
それでは、また次回に。