この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

16 / 30
いつも読んで頂き、ありがとうございます。
秋を通り越して、冬の寒さですね…。
体調だけは気を付けたいところです。

UAが2300を記録していました。
皆様、ありがとうございます。

それでは、本編どうぞ。


Episode-15

「俺は、大本営で艦娘達…ここに居る、明石と榛名も含めて、一緒に勉強したり、遊んでもらったり、色々…して貰ってたんだ。」

 

零は椅子に座り、一つずつ整理しながら話していく。

 

「天津風になんて毎日のように悪戯してたし、遊んでも貰ってた。それで龍田に怒られるのなんて、ほとんど日常だったなぁ。榛名と龍田に敬語を教えてもらってたし、明石には装備のことを教わってた。熊野は、遊んでもくれたけど、出撃の後なのに一緒に寝てくれたりしてたんだ。鈴谷なんて、俺と遊ぶか寝るかだったけど、出撃前には必ず"行ってきます”って言ってくれてた…。」

 

呼吸を一つ整え、零は笑顔を取り繕う。

そこに思い出すのは。

 

 

記憶を剥がされる直前までの、手術台にも似た板の冷たさ。

金具で縛られ、押さえ付けられ身動きの取れなかった恐怖。

頭への強烈な痛みから、絶叫を絶え間なく続ける自身の声。

絶叫のあまり、負担をかけ続けた喉の焼けるような痛み。

 

そこに鬼気迫る勢いで工廠に乱入した、艦娘達の紫雲に対する縋る姿と怒声。

そして、それらを黙らせてまで強行突破する紫雲の背中。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『提督…!他に方法が無いか、鈴谷も手伝うから…!もっと考えようよ…!私…零君の苦しむ姿なんて…見たくないよ…!お願い、止めて…!』

 

『鈴谷!どうして来たんだ!お前達には、出撃命令を出していたはずだ!』

 

『天龍から話を聞いたから…!それなのに、こんな絶叫聞いちゃったら…居ても立っても居られないっしょ!?』

 

『鈴谷…命令だ、出撃しろ…!』

 

『そいつぁ無理な話だな、提督。」

 

『天龍!お前まで…!理由も事情も話しただろう…!あの時、わかったと…!』

 

『どんなやり方かまでは聞いてなかった!見にくりゃ、随分と実力行使じゃねぇか!それは聞いちゃいねぇ!』

 

『あなた…自分の子供に…なんてことをするのよ…!』

 

『天津風…!っ…!お前達全員、即刻ここから出ていけ…!さもなくば、元帥命令で…っ…解体処分に……!』

 

艦娘達から詰め寄られ、紫雲は出したくないであろう言葉を出してまで。

 

『『苦しむくらいならやめなよ!!』』

 

全員からそう言われるも、三人を無理矢理に追い出し。

 

『『待っ…!!』』

 

工廠のドアを勢いよく閉め、尚もドアを蹴破らんばかりの三人が入って来ないよう抑え込み。

 

『明石…!続けろ…!今…!海軍に零を、奪われるわけには…いかないんだッ!!』

 

『提督…っ!零君…ごめんね…痛いだろうけど、我慢して…!すぐ終わらせるから…!」

 

 

その時の明石の顔もまた、悲痛を浮かべていたのを零も見ていた。

紫雲が発する、痛烈なまでの叫びも聞いていた。

自身の記憶がそこで途切れたのも、思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の最後に俺を庇おうとして、必死に父さんを止めてくれてたのは…鈴谷と天龍と天津風だった…。」

 

零が何処か遠くを見ながら、思い出した光景で涙を流す。

それを聞いて、同じく涙を流したのは他でもない。

明石と榛名である。

 

「ごめんなさい、零君…。榛名は…。」

 

「私が開発したばかりに…ごめんなさい…。」

 

二人が嗚咽混じりに謝るが、その言葉は零にとっては逆効果だった。

 

「呉の皆を恨みもしないけど、許すこともない。」

 

零は涙の跡をそのままに、無表情で。

 

「あのまま忘れてたら、舞鶴の艦娘だって救えなかったはずだから。」

 

そう続けたが、その言葉にも感情は乗っていない。

それを聞いた瞬間、雪が口を開く。

 

「零君。()()()()()()()()()、自分を責めるのをやめないかい?」

 

零を真っ直ぐに見つめ、問いかける。

 

「海野提督が危機だったし、あの場で動ける人間なんて居なかった…!」

 

納得のいかない零は、幼ながらに声を荒げる。

そのまま椅子が倒れんばかりに腕の痛みも忘れ、零が勢いよく立ち上がれば。

瞬時に明石と榛名が、零を倒れないように支える。

 

 

「俺は全部忘れてたのに…!そのせいで、母さんも…!」

 

「「零君…。」」

 

零は二人を片手で振りほどき、歩を進めて雪に詰め寄る。

しかし堂々たる振る舞いで、雪は正面に立った零の左手を引く。

勢いに負け零が膝を床に付けると、真顔の雪が顔を近づける。

 

「考えてもみてくれ。君の記憶が無理矢理に剥がされたのは、思う所しか無いはずだ。しかし、君が居たからこそ、皆が無事に帰って来られたことも事実だろう?()()()()()()()()()()()、あの島に居るはずが無かったと考えれば、君の気にしている瑞鳳とも出会えていないどころか、出会ったとしても素通りだったとすら言える。違うかい?」

 

零はその言葉を聞いて、ようやく落ち着く。

 

「海野提督…。だとしても、母さんを救えなかったことは本当のことです…。」

 

零は悔いるように、拳を握り唇を噛み締める。

そんな零に、雪は笑顔を見せ。

 

「ありがとう、零君。あの場に君が居なければ、艦隊は大損害を与えられていたかもしれない。」

 

「え?」

 

そう感謝をすると、零は唖然として言葉を失う。

更に言葉を続けようとする雪の目から、涙が落ちる。

 

「すまない…本当にすまない。()()()、救難信号も切羽詰まってから私の鎮守府に届いたんだ…。君のお母さんと島民を救えなかったこと…私も悔いているよ…。もっと早くに駆けつけられていたら…そう思うことの方が多い…。私も…向かわせた長門が率いた艦隊も、全速力で、全力を持って対処した。それだけは、どうか知っていて欲しい。不甲斐なさと、申し訳なさばかりだよ…。」

 

その言葉に続き。

 

 

 

──どうか、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

雪から、涙混じりの謝罪を受け。

 

「俺…自分のことだけで…精一杯だったんです…。」

 

零が雪に頭を下げる。

 

「海野提督が言っていることを、わかってはいるつもりです。でも、父さんのやり方に納得がいかないんです。どうして、母さんと俺を置いて居なくなったのか…それだけがわからないんです。」

 

"理由が知りたい"とばかりの言葉に、瑞鳳は悩んだ。

零に話すべきか、今はその時では無いのか。

悩んでいるのがそのまま、顔に出てしまい。

 

「瑞鳳さん。」

 

気付いた明石が瑞鳳に近寄り、声をかける。

 

「今は…()()()()()()()()()()。」

 

「え?」

 

明石の意図がわからず、瑞鳳は訊き返す。

 

「…()()()()()、あの子を思うなら…ね?」

 

明石に耳打ちされ、瑞鳳は大人しく考えるのをやめた。

 

(そうよね…整理も出来ていない今、()()()()()()()()()()…。)

 

瑞鳳もそう思ったからであった。

そんなやり取りの後ろで、雪が零を抱き寄せる。

 

「元帥を…私も含め、誰も止められなかったんだ。わかってはいたさ、あの人が自分の不始末を、自分で片付けるような人だってことくらい…。でも、予想の遥か上だった。単身で乗り込みに行くなんて、誰も思いもしなかった。私も父上も、同僚のミラも島永大将も、岬ノ宮中将も…。」

 

雪がそのまま、零に独白する。

 

「君には…おおよそ同じ年頃の子供たちが経験するはずの無い辛さを…申し訳ない…もう…しわけ…ない…!」

 

堰を切ったように零の肩に顔を埋め、雪は声を出さずに泣き出す。

零はどうしたらいいのかわからず、呆然としていたが。

 

「海野提督…。俺はまだ、出来ることなんてありません。でも、前にも言った通り提督になりたいんです。俺みたいな人達を少しでも減らしたい、悲劇を見せたくない。生きる理由が俺にも出来たし、父さんを探し出さなくちゃ話が始まりません…。海野提督が俺を受け入れてくれたこと、あの日に艦娘達が助けてくれたことを感謝します。」

 

零が抱きしめ返しながら雪に言ってみせると、雪は顔を上げ。

 

「本当に、君が十二歳というのが信じられなくなりそうだ。」

 

涙を軍服の袖で乱暴に拭い、零に笑顔を向けた。

一連の話を聞いていた艦娘達も、頬に涙を伝わせていた。

 

そんな折。

 

 

ー—ージリリリリ!

 

 

食堂に電話の音が鳴り響く。

気付いた大淀が、急いで受話器を取る。

 

「はい。舞鶴鎮守府、大淀です。」

 

[大淀か、呉の海野だ。海野少将は目覚めたか?]

 

声の主は龍玄だった。

大淀が雪に目配せすると、雪は頷く。

 

「はい、代わりますね。」

 

零から離れ、雪は榛名に肩を借りながら立ち上がり、松葉杖をついて歩く。

松葉杖をついているにも関わらず、その後ろ姿に零は憧れを抱いた。

 

(俺もあんな風になれたら…。)

 

胸中の通りなら、そう思うほど頼もしいモノだったのかもしれない。

それは、零のみが知る所である。

 

「お電話代わりました。」

 

[…具合はどうだ?]

 

雪が受話器に耳を当てれば、心配しているのがわかるほどの声色が届く。

 

「私は動けるまでに回復しました。ただ、一時的に預かっている零君は歩けるとは言っても、全治には時間が掛かるかと。」

 

電話越しの龍玄に心配無いとばかりに言うが、それを聞いていた艦娘がヒソヒソと語り合う。

 

「司令官だって、万全じゃあらへんよな?」

 

「ふふっ、その通りですね。」

 

「父親に心配かけたく無いんでしょ?」

 

龍驤、赤城、曙の声が雪に届くなり。

 

【静かにしてくれ。】

 

と、ジェスチャーで雪は艦娘を黙らせた。

尚も艦娘達は、暖かい視線を送り続けていたが。

 

[で、本題だ。]

 

龍玄が低い声で、雪を圧倒する。

何を言われるのかと、電話越しにも関わらず雪は身構える。

 

[その少年、間違いなく"橘花零"なんだな?]

 

「はい、橘花紫雲元帥の息子に違いありません。」

 

そう訊かれ、雪は生唾を呑みながら肯定する。

 

[そうか…。奴の息子で間違い無いならば、一つ提案があってだな。]

 

「な、なんでしょうか…?」

 

雪のたじろぐ姿に全員が、怪訝な視線を向ける。

その視線に気付き、なんでもないと手をヒラヒラして平然を装う。

 

[軍学校に入学させようと思うのだが…どうだ?]

 

龍玄の一言に、雪は驚愕し。

 

「まだ子供ですよ?!十二歳で軍学校なんて聞いたことありません!!」

 

思わず、怒鳴りつけるように叫んだ。

自身が大声を上げていることに、気付くのが遅かった。

 

「え?軍学校?」

 

その言葉に、零が反応を示してしまった。

 

[ゆっくり考えてくれ、本人も交えてな。奴の息子だ、もしかしたらとんでもない偉業を成し遂げるやも知れんぞ?年齢などお構い無し(子供のくせ)にな。]

 

龍玄の声を聞きながら、雪は零を見る。

 

「わかりました…。話をしてみます。」

 

[あぁ、頼んだぞ。それと、これは父としてだがな?]

 

「なんでしょうか?」

 

雪は訊きながら、小首を傾げる。

 

[しっかり食べて、しっかり寝るんだぞ?働き過ぎで倒れる、なんてことになるなよ?]

 

「父上、私はもう子供じゃありません。」

 

半ば呆れながら、額に手を当てて言い返す。

しかし、返って来たのは。

 

[何を言うか。軍人たる者、食と休息は必要不可欠だぞ。それに、お前は何歳になろうが俺の娘に変わりは無い。]

 

龍玄の子を思っただけの一言。

それは、今の心境の雪には刺さるモノだった。

 

「ち、父上…。」

 

雪は感動すら覚えていた。

 

「学校の件は零君の怪我が完治次第、ご連絡します。」

 

[いい報告を待っている。]

 

それだけ言って、龍玄が電話を切る。

受話器を未だ持ったまま、雪の手は震えていた。

 

「提督…?」

 

大淀が心配になり、声をかける。

だが、雪は大淀を見ずに零へと視線を向ける。

 

「零君、軍学校に行く気はあるかい?」

 

問われた零は、目を輝かせる。

 

「本当に…俺が行けるんですか?!」

 

歓喜するように、左拳を握りしめる零に。

 

「あぁ、父上からの打診だよ。行くにしても、その怪我が治り次第だけれどね。」

 

雪が腕を組み、片目を瞑りながら言えば。

 

「行きます、行きたいです!」

 

食いつきの良い零に、雪は呆れながらに。

 

「意気込む前に、リハビリを先に頑張りなさい。」

 

と、微笑んだ。

 

 

 

しかし、瑞鳳は面白くなかった。

 

(零君が私の傍を離れる…寂しいなぁ…。)

 

胸中では寂しさが渦巻くが。

瑞鳳自身、誇らしくもあった。

簡単なことで、意中の相手が年端もいかぬ少年なれど、快挙である。

その顔は、胸中とは裏腹に正しく笑顔である。

 

「瑞鳳!俺、頑張る!だから、リハビリ手伝って!」

 

そんな頼みを瑞鳳が、断れるわけもなく。

 

「え、えへへ、手伝うよ?もちろん♪」

 

そう返したのが運の尽き。

当日になって、泣きを見るのは。

 

「「どうせ、当日になったら泣く。」」

 

雪も含め、舞鶴の全員が予想していることでもあった。

 

呉の明石と榛名は、お互いに顔を見合わせ。

 

「いい人達に、恵まれたみたいですね。」

 

「えぇ、榛名もそう思います。…()()()()()()()()()()()()()()()()…。」

 

そんな会話の後に、明石が付け足す。

 

「…大本営の頃が懐かしいですね。」

 

その寂しそうな声色と、表情に。

 

「本当ですね…。零君には…()()()()()()()()()()()()()()。」

 

榛名もまた、同じような表情で返した。

 

「では、各自解散だ。夜も遅い、明日の出撃と遠征、演習に支障をきたすことのないように。」

 

「「はっ!」」

 

雪が号令をかけると、艦娘達は自室へと戻って行った。

大勢の足音が過ぎ去れば。

食堂には、零と雪。

呉の榛名と明石。

そして、瑞鳳だけが残っていた。

 

「榛名は、私を連れて行ってくれると助かる。」

 

「はい、榛名は大丈夫です。」

 

そう言って、雪は榛名の肩を借りながら医務室へと戻って行く。

その歩みを止め。

 

「瑞鳳は、零君を部屋に連れていくのかい?」

 

「え、えぇーとぉ…。」

 

瑞鳳が悩んでいると。

 

「瑞鳳の部屋で寝てもいい?」

 

零が瑞鳳に進言した。

 

「彼もこう言っているんだ。一緒に居られる時間も限られているし、連れて行っても構わないよ。」

 

雪が後に続くように言えば、瑞鳳は顔を赤くさせながら。

 

「そうします…♪」

 

と、素直に喜び零を抱きかかえると。

 

「……♪」

 

何も言わずとも、その足取りは上機嫌そのものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞鶴は穏やかながらも。

 

「指宿、相当にやられたな。」

 

大本営の地下牢で、男が指宿に話しかける。

 

「あ、あなたは…!」

 

()()()()()()()()()()()()()




如何だったでしょうか?

いつも長らくお待たせしております。
頑張ってはいるんです、はい。
申し訳ないです…。

それでは、また次回に。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。