この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
冬です、寒くなりますね…。
夏よ、早く来い…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-16

――カツーンカツーン。

 

 

 

「看守か?!何の用事だ!?」

 

足音に気付くなり。

牢に捕らわれている巨漢の男、指宿は怒鳴る。

その腕には手錠が嵌められているというのに、威勢を見せる。

否、虚勢とも言えよう。

 

 

 

――カツーン。

 

 

 

()()()()()()()()、指宿。」

 

「あ、あなたは…!」

 

指宿の前に現れた、この男こそ。

 

「し、式条前元帥…!」

 

式条袴である。

 

「ふっ。何をそんなに驚く事がある?」

 

驚愕のあまり後退る指宿を見て、式条は嘲笑する。

 

「お、驚くなという方が…仮と言えども、橘花元帥が後任の今に…あなたが現れたともなれば…。」

 

指宿が萎縮しながら、式条に苦言をこぼす。

尚もその顔に笑みを浮かべ、式条は片眉を上げながら指宿に問う。

 

「一つ提案をな。お前が捕縛されたとの情報を聞いて、来てやったまでだ。どうだ、聞く気はあるか?」

 

その問いに、指宿は。

 

「私に提案…ですか?」

 

額に脂汗を流しながら、訊き返す。

 

「私が訊いているんだが…()()()()()()()()()()()()()()、来い。」

 

式条は指宿を嗜め、呆れたような溜息を吐いた後。

通路の奥を見ながら、声を掛ける。

 

 

 

――ひたん、ぴたん。

 

 

 

「な…なっ…!」

 

一風変わった足音の後、現れる白い肌をした女の姿をした何か。

ソレを目にした指宿は戦慄すら覚え、脂汗を更に流す。

軍服は文字通りに、絞れるほどにびっしょりだった。

 

「深海棲艦…!何故、ここに…!?」

 

「シィー…。アラアラ、怖カッタカシラ?デモ、静カニシナイト…艦娘ニ聞コエチャウワヨ?」

 

指宿のただならぬ様子に。

唇に人差し指を当て、片目を瞑りながら首を傾げる深海棲艦は更に。

 

「ワタシ達ノ仲間ニナラナイ?…ッテ話ナノヨ。」

 

その青い目を猟奇的に光らせながら、深海棲艦は続けた。

話を聞いている間も、指宿は身体の震えが止まらない。

 

「お、俺が深海側に…?」

 

震える身体と唇を抑えながら、やっとのことで言葉にする。

式条は、三日月のように口角を上げ。

 

「そういうことだ。海軍を捨て、海を支配する側にならないか?私が面倒を見てやろう、お前の後悔を払拭するためにな。」

 

未だ眼前で、小刻みに震える指宿を見ながら言った。

 

「わ、私を手元に置いても…。」

 

指宿は余程自信が無いのか、申し訳無さそうに俯く。

埒が明かないと踏むなり、式条は条件を出すことにした。

 

「手短に済ませたいのだが…そんなに気にするのなら良いだろう、今からお前にも私にとっても、理に適う条件を出そう。」

 

「じょ、条件ですか?」

 

訊かれた式条は、首を縦に振る。

 

「そうだ。お前の体型…入軍してきた時より、だらしないな?」

 

「う、ぐぅ…。」

 

式条の何とも的の射た言葉に、文字通りにぐうの音を出す指宿。

そこに、嘲笑を混じえて。

 

「指宿、お前のその身体を鍛え直す…いや、肉体改造の域まで持っていこうじゃないか。」

 

そう告げれば、指宿の目が途端に輝く。

 

「ほ、本当ですか…?!」

 

「本当だ。お前を大将の座に据え置き、私の側近として深海棲艦の指揮を取れ。」

 

乗り気になったと見た式条は、続けざまに命令まで下す。

 

「私の条件とは…?今のところ、私の優遇でしか…。」

 

恐る恐る尋ねる指宿に、式条は。

 

「私の為になるのだ、それこそがな。()()()()()()、裏切りなどという考えなど出来もしない。」

 

そう答えるその顔には、悪魔でも貼り付けたような笑みがあった。

震えが止まっていることに気付いた指宿は、生唾を飲み込み。

 

「深海の提督に…俺が…。」

 

そう呟くと、式条が頷く。

 

「今まで散々、艦娘達に虐げられたんだろう?その復讐をするのもまた、一興じゃないのか?」

 

式条にそう言われ、指宿は少し考えた後。

 

「そうですな…。橘花の小僧と海野雪、俺を踏みにじった艦娘達…。仰るとおり、全員に復讐するのも…。」

 

と、下卑た笑みを浮かべながら指宿は大いに頷いた。

式条は、満足そうに鼻を鳴らすと。

 

「いいだろう、それならばここから出してやる。すぐに出発するぞ。」

 

そう言って、ポケットから鍵を取り出し牢を開ける。

 

「いいか、声を上げるなよ。」

 

中に入った式条は抜刀しながらそう言って、指宿に嵌められている手錠を軍刀で切断する。

 

「ひっ…!」

 

指宿は小さい悲鳴を上げるも、何とか堪えた。

 

「指宿、ここからは一蓮托生だ。存分に働いて貰う。」

 

「はっ。」

 

解放された指宿は、式条に激励され敬礼を返す。

その身体に、震えも汗ももう無かった。

 

「フフフ、頑張ッテネ?指宿大将。」

 

深海棲艦も指宿を受け入れ、笑顔で後をついて行った。

 

「ところで、看守はどうしたんですか?」

 

服を整えながら指宿は、ふと気になり式条に訊く。

 

「この深海棲艦がいるだろう?()()()()()()()()。だが、奴らには気付かれただろうな。」

 

「なるほど、そういうことですか。」

 

「さっさと出るぞ、奴らが来てしまう。」

 

式条のその答えに、指宿は考えるのをやめた。

そのまま三人はその場を後にし、船に向かう。

一連の動きに、艦娘が気付くのは少々遅かった。

 

「提督!大変なんてもンじゃねぇぞ!」

 

「ノックも無しにどう…っ!」

 

江風の怒声と共に、龍玄の居る執務室のドアが開け放たれる。

ドアの方を見やれば、無残な姿をした看守が江風と綾波に肩を借りながら現れた。

 

「なんだ…その姿は…!一体何があった?!答えろ、相垣(あいがき)!」

 

眼前の状況を呑み込めない龍玄は、怪我人が相手だと言うのに声を張り上げる。

相垣と呼ばれた男は、身体中から血を溢れ出しつつ。

 

「し…式条が…深海棲艦を連れて…そのまま…指宿を…。これが、()()()()()()()()()()()…。」

 

そう言った相垣の手前、龍玄は怒髪天を衝かれたように。

 

「襲撃か!?警報はどうした!」

 

鬼の形相で秘書艦をしている艦娘、衣笠を見やり怒鳴る。

 

「わ、わかんないよ!いくら衣笠さんだって!」

 

そう返したあとに衣笠は、龍玄を見ながら懸念を煽る。

 

「どうするの、提督!あの人が逃げたってことは、舞鶴に向かうかもよ?!」

 

それを聞くと、龍玄はデスクを叩きながら立ち上がる。

 

「そんなことはわかっている!娘を舐めるな!それよりも、相垣だ!至近弾か…?!」

 

龍玄が見たその姿とは。

まず目に入ったのは、破れ焦げた軍服。

順に見れば、吹き飛ばされた左腕。

左目からの出血と、左脇の抉られたような風穴。

砲撃を近距離で受けたのは、一目見て察せた。

 

「大きい音が聞こえたから見に行けば…綾波も驚きましたわ…。」

 

「この江風も近くを通ったら、既に綾波が居たンだ。だから、そのまま二人で運んで来てやったンだ。」

 

「面目もありません…海野大将…。正面で…砲撃され成す術もなく…。」

 

二人の説明の後、相垣が息も絶え絶えに不甲斐ないと頭を下げる。

深呼吸して落ち着きを取り戻した龍玄が、各自に指示を出す。

 

「わかった、今すぐ医務室に相垣を運べ!医者もすぐに手配しろ!!明石が居ないともなれば、事態は一刻を争う!急げ!」

 

「「はっ!」」」

 

指示を出された艦娘達はその場で敬礼し、すぐに行動を始めた。

 

「やってくれたな…。」

 

龍玄には心当たりがあった。

簡単に入れるほど、大本営は設備も監視も甘いわけではない。

 

「同じ息子でも…こんなに差があるとはな…。」

 

一人になった執務室で、拳を握りしめる。

 

「式条羽織…!」

 

その名を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

大本営での出来事は、舞鶴にもしばらくして通達が届いた。

 

「指宿中将が逃げたか。」

 

文面を読んだ雪が、静かに言う。

 

「提督…。」

 

リハビリを手伝っていた長門が声をかける。

 

「零君の完治は、二ヶ月後だったね。」

 

通達を閉じて、雪が長門を見る。

 

「あぁ、明石はそう言っていたな。」

 

長門が答えると、雪は目を閉じ。

 

「そうか。」

 

そう言った後、目を開け。

 

「零君の完治後、すぐに軍学校に入学させる。今日にでも書類を送ろうじゃないか。」

 

長門は悟った。

否、長門にもわかるように雪が呟いたのだ。

 

「彼を逃がす為か?」

 

椅子に座りながら、長門は確認するように訊く。

 

「ご明察だよ。さすが、秘書艦筆頭だ。」

 

座った長門は、雪を凝視する。

 

「自分の身も危ういというのに…。」

 

目を反らし、額に手を当て呆れる。

そんな長門を差し置いて、雪は尚も続ける。

 

「彼には可能性がある。それを、ここで潰すわけにはいかない。私が発端だ、ならば責任くらい取らないとね。」

 

それを聞いた長門は、覚悟したかのように。

 

「提督、()()()()()()()()()()。」

 

「おや、畏まってどうしたんだい?」

 

軽口で返す雪に、長門が真剣な顔をして。

 

「最初から指宿中将を暴れさせるために、あんな()()をしていたんじゃないのか?()()()()()()()()()()、芝居を打っていたとかな。」

 

そう見解を述べれば、途端に雪から余裕が消える。

 

「…どうしてそう思ったんだい?」

 

そう問われ、長門は続ける。

 

「理由があまりにも浅すぎる。縁談を反故にされた程度で、あそこまでするとは思えないんだ。仮にも中将だ、疑われて当然だろう?()()()()()()()()()、というようにも感じてしまってな。」

 

長門が核心をついたように問う。

雪は溜息を吐き、観念したように。

 

「いいかい、長門。そんなことをする理由も、メリットもない。考えてもみてくれ、建設的では無さすぎるだろう?勘繰り過ぎだよ、私はそこまで頭の悪いつもりは無いさ。仮にそうだったとして、そうしなければならない理由は、何処にあるんだい?」

 

雪の言い分には、長門も腑に落ちた。

 

「そうか、軽率な推理だったようだ。書類はこちらで準備しておく、提督はリハビリもそこそこに休んでいてくれ。」

 

そう言って、病室を後にした。

一人になった雪は腕を組み、悪戯めいたように微笑む。

 

「さすがは長門だよ。私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうさ、あれは芝居だよ。一部を除いてね。…私にも計画はあるんだ、上手く事が運んでくれればね。誰にも邪魔なんてさせない、これは海軍のためでも零君のためでもあるんだ。君を含める艦娘達と、元帥の味方である将校達…そして、零君が居ればこの先は心配無用さ。」

 

それは誰もが知らない、雪の別の戦いであり。

 

()()()()()、指宿中将。」

 

自身の手中で、何かの策を練っていた。

雪は後に、この作戦を成功させるも。

自身と指宿のみならず、周りを取り巻くことになるとは思っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと治ったぁ!」

 

激動から二ヶ月後、無事に零は完治した。

それまでの間、瑞鳳が付きっきりで零の面倒を見ていたのは言うまでもない。

 

「良かったね、零君!」

 

感激のあまり瑞鳳は、零の動く右腕を見て泣いていた。

 

「ははーん、なんや?面倒見ていた彼氏が、元気になって泣いとるんかいな?随分と見せつけてくれるやんけ。」

 

龍驤が瑞鳳の肩を肘でつつけば、途端に瑞鳳の顔が赤くなる。

 

「ま、元気になったのは良いことなんじゃない?でも、この先が瑞鳳にとっては一番の苦難よね。」

 

五十鈴が続いて揶揄(からか)うと、響が。

 

「ハラショー、軍学校に行くからね。会えない日が続くのは、瑞鳳に耐えられるかな?」

 

首を傾げながら訊けば、今度は悲壮の表情を浮かべ。

 

「うぅ…零君が…居なくなるなんて…私…私ぃ…!」

 

瑞鳳はそのまま、病室を飛び出した。

 

「あちゃー、イジりすぎたかな?」

 

五十鈴が苦笑しながら、頬を掻く。

 

「なぁに、ええ薬やろ?あんだけ浮かれてたら、いつか痛い目を見るのは瑞鳳やねん。」

 

嘲笑混じりに腕を組みながら、龍驤は正当だと言わんばかりに呆れていた。

 

「でも、いいの?瑞鳳と離れるんだよ?」

 

五十鈴が確認するかのように訊けば、零は真剣な表情で頷いた。

 

「うん、俺は艦娘にも死んじゃった島の人達にも、しっかり報いたい。俺が提督になって、現世(いま)を生きている人達を艦娘と一緒に守りたい。俺が今まで父さんに学んでいたとしても、小さい時の話だし。学び直して、しっかり軍人になるんだ。」

 

その決意を聞けば、誰も何も言えなくなった。

 

「それで早速、今日出発ってことかい?」

 

響が零に近寄る。

 

「私達だって驚いているんだ。その歳で軍学校なんて、早い気もする。それに、瑞鳳だけじゃないよ?私達だって寂しいんだ。君の影響は、舞鶴の全員が受けているんだよ。"頑張って"としか言えない寂しさを、君にはわかるかい?」

 

そのまま、零の額に自身の額を合わせる。

 

「ひ、響?」

 

眼前まで迫った響の顔に、少しばかり零は仰け反る。

 

「君にはもっと、ここに居て欲しかった。もっと一緒に、学んだり遊んだりしたかった。それこそ、大本営の艦娘達みたいにね。だから…いつでも顔を出してくれたら、歓迎するよ。」

 

言いたいことを言えたのか、響はそのまま零から離れる。

そのすぐ後、龍驤が頭を乱暴に掻く。

 

「あーあーあー、辛気臭いやっちゃな!ええか?元帥みたいに立派になるんやぞ?」

 

「ま、頑張りなさい。無理しない程度にね?」

 

「五十鈴さん、龍驤さん、響…。しっかり俺は頑張るよ。」

 

三人からの激励に、零はしっかり答えた。

そこに、ノックの音が部屋に響く。

 

「はい、どうぞ。」

 

零が返事をすると、現れたのは雪だった。

姿を見るなり、艦娘の三人は敬礼する。

 

「零君、具合は…万全そうだね。」

 

雪も完治していた。

大人というだけあって、雪のほうが回復は早かったが。

 

「はい、おかげさまで!」

 

雪に訊かれ、元気に零が返事する。

そのまま一つの封筒を、雪が零に手渡す。

 

「これは?」

 

「軍学校への入学書類だよ。それと君の保護者だけれど、瑞鳳にしたんだ。困ったことがあれば、いつでもあの子に連絡するといい。」

 

雪が片目を瞑りながら言えば、零は笑顔を見せ。

 

「お心遣い、感謝します!」

 

そう言った。

ソレを聞いた艦娘達は。

 

「「ほんとに榛名さんから敬語を教わったんだ。」」

 

と、納得した。

 

「じゃあ、俺はすぐに支度に入ります。」

 

そう言って、部屋を出ようとした時。

雪がスーツケースを、部屋の隅から持ってきた。

 

「あぁ、支度なら瑞鳳が既にしてくれているよ。このスーツケースがそうだ、君は着替えるだけだよ。瑞鳳に感謝するといい、君が寝ている間に少しずつ準備をしてくれていたんだ。明石が服も見繕ってくれているよ。」

 

スーツケースを置き、雪は零を抱きしめる。

 

「え?」

 

零は何度目かの抱擁に、呆気に取られる。

そんなことをお構い無しに、雪が口を開く。

 

「君は充分頑張っているんだ。それでも、これが夢であり君の目標だと言うのなら、私は応援するよ。存分に君の蓄えてきた知識と、その力量を発揮してくるといい。私は君の心配よりも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、そちらの方が心配だよ。」

 

零から離れ、雪は微笑んだ。

 

 

 

――大きくなったね。

 

 

 

そう付け足して。

 

「さ、船も直にくる。着替えて港に向かうんだよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

零を部屋から送り出し、艦娘達と雪も後を追うかのように見えたが。

 

「提督、港はこっちでしょ?」

 

反対方向を行こうとする雪に、五十鈴が人差し指で示しながら訊く。

 

「あぁ、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「そうなの?早く終わらせて来て頂戴ね?」

 

「私もそう思っているよ。」

 

五十鈴の反応に軽く返しながら、雪は歩みを進めた。

 

 

 

 

 

「零君、ちょっといいかしら?」

 

「どうしたの?」

 

着替えようと、一人になった零に。

 

「行く前にレディとして、敬礼を教えてあげるわ。」

 

と、暁が声をかける。

 

「着替えたら、私のところに来て。」

 

そう言って、暁はその場を離れた。

 

「暁、ありがとう。」

 

零はすぐに着替え、暁のところに向かった。

 

「いい?指は揃えて肘には角度を付けて、こうよ!」

 

「おぉぉ!!」

 

暁が手本を見せれば、零は感嘆した。

 

「やってみなさい!」

 

数十分後、零は腕が筋肉痛になろうかというところで。

 

「いいわ、このレディである私が合格をあげる!」

 

「暁、ありがと!」

 

暁が胸を張りながら言えば、零は感謝した。

 

「それで、何処に行っても大丈夫…。」

 

俯き気味に言う暁を心配になり、零が覗き込む。

 

「暁…?」

 

「寂しいわけじゃ…無いのよ…!でも、でも…絶対、生き抜いて欲しいの…。当時、私に乗っていた人達だって最後まで胸を張っていたわ…。零君にも、辛いだろうけど…厳しい軍人の世界も、この戦時中の今も…諦めてほしくない…だから、だから…!いつでも、辛い時には帰って来てね…。」

 

暁は頬を涙で濡らしながら、零の服を掴みそう告げた。

 

「ありがとう、暁もそう言ってくれて。」

 

零は微笑んだ。

 

「他の皆も呼んでくるから、先に行っててくれるかしら。」

 

「わかった。」

 

その後、港へ一足先に着いていた零は、伸びをしていた。

 

「んー!潮風は気持ちいいな。見送りまで時間あるかな?」

 

そう言って、零は一人の女性を思い出していた。

 

「ヒメさん元気かな?急に居なくなって、びっくりしたけど。会えるなら、もう一回会いたいな。」

 

そんなことを呟いていれば。

 

 

 

――ブウォォオオオン!

 

 

 

と、汽笛が聞こえ、近くまで船が来ていることに気付く。

 

「もうすぐ舞鶴とも、おさらばか。」

 

後ろを振り返り、鎮守府を見る。

 

「俺は、父さんを超える軍人になるんだ。」

 

拳を握り、零が真剣な表情を浮かべた時。

 

「「零くーん!!」」

 

鎮守府に居る艦娘達が声を上げながら、向かってくる。

 

「みんな!!」

 

零が喜び、手を振る。

艦娘達が走り抜けんばかりに、零の前に集まれば。

 

「「行ってらっしゃい!!」」

 

船が港に着港するのを見計らってなのか、声を揃えた。

 

「行ってきます!…最後に瑞鳳と海野提督の顔が見れないのは、寂しいな。」

 

零が俯き気味に微笑むと、大淀が口を開く。

 

「提督なら、"仕事を片付けたら行く"って言ってましたよ。」

 

「こんな時にまで仕事?マジで提督って真面目だねぇ。」

 

鈴谷が溜息混じりに言えば。

 

「瑞鳳は今頃、泣き腫らしているんじゃないか?」

 

と、長門が続けば。

 

「ちょっち長門!それはデリカシーなさすぎ!」

 

と、鈴谷がすかさずツッコミを入れた。

 

 

 

 

 

 

「零君…私、ごめんね、会えないよぅ…」

 

その頃、瑞鳳は自室で膝を抱えながら泣いていた。

 

「うぅ…私…私…。」

 

と、ドアがノックされる。

 

「今は…誰とも…。」

 

「瑞鳳、私だ。」

 

「提督?!」

 

声の主を確認するなり、急いでドアを開ける。

艦娘たるもの、提督という立場の人間には逆らえないのだ。

雪を招き入れ、二人は対面で座る。

 

「本当に会わなくていいのかい?」

 

雪が確認するも、自棄になっている瑞鳳は首を激しく左右に振る。

 

「会えるような…顔じゃありません…。」

 

事実、泣き腫らしたが故に目元は腫れていた。

雪は後頭部を掻きながら、溜息を吐く。

 

「瑞鳳、彼だって君に会いたいはずだ。それに、今生の別れというわけでもない。」

 

今度は瑞鳳の頭に手を置きながら、雪は続ける。

 

「それに、私だって寂しいさ。今まで一緒に居たんだ、当然だろう?それと、君を彼の保護者にしておいたよ。」

 

「え?」

 

呆気に取られる瑞鳳を他所に、雪は笑顔を見せる。

 

()()()()()()()()。そう言ってきたのは瑞鳳、君じゃないか。せめて、保護者としてなら居られるようにしようと思ってね。恋人というのは、彼にとっては早くても、君なら彼と居られるだけの器量があるんじゃないかと、そう私は思うよ。」

 

雪がそこまで言ったところで、瑞鳳は更に泣く。

 

「提督…私、ちゃんと見送ります…。」

 

そんな瑞鳳の頭を、雪は置いたままの手で撫でる。

 

「あぁ、会っておいで。ふふっ、私も行くから心配要らないよ。」

 

「提督…ありがと♪」

 

瑞鳳は機嫌を直し、零を見送る為に雪と共に部屋を出た。

 

「零君!!」

 

港に着くなり、全速力で駆け出す瑞鳳。

 

「あ、瑞鳳!来てくれたんだ!!」

 

零が喜んだと同時、瑞鳳が勢いそのまま零に抱きつく。

 

「零君…あのね、あのね…!」

 

瑞鳳が出てこない言葉を、必死に探していると。

 

「良かった、間に合ったようだね。」

 

後ろから雪も現れる。

 

「海野提督!」

 

雪も来てくれたことに、零は喜んだ。

 

「さぁ、瑞鳳。逃げずに、言いたいことを全部彼にぶつけるといい。彼ならしっかり、受け止めてくれるはずだよ。」

 

言いたい事が纏まらず、未だ目線を泳がせる瑞鳳に。

言葉で、雪が背中を押す。

瑞鳳が深呼吸してから、零を見つめると。

雪を含めるその場の全員が、固唾を呑んで二人を見守る。

 

「零君、私…本当なら軍学校なんて行かずに、私と舞鶴で一緒に居てほしいんだよ…?」

 

瑞鳳は目に涙を浮かべる。

それを零が気付かぬはずもなく。

 

(目も腫れて泣いてただろうに、また泣いてくれてる…。)

 

胸中で、そう呟くと。

 

「瑞鳳。」

 

今度は口を開き、瑞鳳の顔を見る。

 

「大丈夫。ちゃんと連絡するし、瑞鳳を差し置いて消えたりしないから。」

 

零がまっすぐに伝えれば、瑞鳳は乱暴に涙を拭い。

 

「ほんとに?嘘じゃない?」

 

眉をひそめ、再確認する。

無論、零の答えは決まっており。

 

「もちろ…。」

 

そう言いかけたところで、瑞鳳が自身の唇を零の唇に押し付ける。

 

「「「おぉぉぉー!!!!」」」

 

「ま、いいんじゃない?」

 

「き、キス…零君と瑞鳳さんが…。」

 

「ハラショー!!」

 

「レディね、瑞鳳さん!」

 

これには、見ていた全員が声を上げた。

 

接吻(おまじない)だよ…♪それと、逃がさないための…印♪」

 

「あ…え。」

 

零の思考は、完全に停止していた。

しかし。

 

「零君、行ってらっしゃい。絶対、連絡忘れないでね。」

 

瑞鳳の激励で我に返り。

 

「わかった。」

 

そう言って、接岸を終えた船に乗り込む。

デッキまで登り、船が動いたと同時。

 

「皆さん!ありがとうございました!」

 

零が暁に教わった通りに、敬礼を見せる。

 

「ふふっ、敬礼がしっかり出来ている。」

 

雪が感嘆の声を漏らせば、暁が褒めろと言わんばかりに。

 

「あの敬礼、レディである私が教えたのよ!」

 

と、自慢気に胸を張る。

 

「そうか、暁。ありがとう。」

 

そう言って、雪は零の乗った船を見守る。

 

「君の…門出か。」

 

そのまま、雪は軍帽を目深に被る。

 

「しれいか…。」

 

暁が声を出そうとして、途中でやめた。

 

(そうよね、司令官だって…。)

 

そのまま胸にしまい込み、その場をやり過ごす。

 

 

 

船が見えなくなった頃、全員は鎮守府に戻った。




いかがだったでしょうか?
10日間…大変お待たせしました。

それでは、また次回に。
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