冬です、寒くなりますね…。
夏よ、早く来い…。
それでは、本編どうぞ。
――カツーンカツーン。
「看守か?!何の用事だ!?」
足音に気付くなり。
牢に捕らわれている巨漢の男、指宿は怒鳴る。
その腕には手錠が嵌められているというのに、威勢を見せる。
否、虚勢とも言えよう。
――カツーン。
「
「あ、あなたは…!」
指宿の前に現れた、この男こそ。
「し、式条前元帥…!」
式条袴である。
「ふっ。何をそんなに驚く事がある?」
驚愕のあまり後退る指宿を見て、式条は嘲笑する。
「お、驚くなという方が…仮と言えども、橘花元帥が後任の今に…あなたが現れたともなれば…。」
指宿が萎縮しながら、式条に苦言をこぼす。
尚もその顔に笑みを浮かべ、式条は片眉を上げながら指宿に問う。
「一つ提案をな。お前が捕縛されたとの情報を聞いて、来てやったまでだ。どうだ、聞く気はあるか?」
その問いに、指宿は。
「私に提案…ですか?」
額に脂汗を流しながら、訊き返す。
「私が訊いているんだが…
式条は指宿を嗜め、呆れたような溜息を吐いた後。
通路の奥を見ながら、声を掛ける。
――ひたん、ぴたん。
「な…なっ…!」
一風変わった足音の後、現れる白い肌をした女の姿をした何か。
ソレを目にした指宿は戦慄すら覚え、脂汗を更に流す。
軍服は文字通りに、絞れるほどにびっしょりだった。
「深海棲艦…!何故、ここに…!?」
「シィー…。アラアラ、怖カッタカシラ?デモ、静カニシナイト…艦娘ニ聞コエチャウワヨ?」
指宿のただならぬ様子に。
唇に人差し指を当て、片目を瞑りながら首を傾げる深海棲艦は更に。
「ワタシ達ノ仲間ニナラナイ?…ッテ話ナノヨ。」
その青い目を猟奇的に光らせながら、深海棲艦は続けた。
話を聞いている間も、指宿は身体の震えが止まらない。
「お、俺が深海側に…?」
震える身体と唇を抑えながら、やっとのことで言葉にする。
式条は、三日月のように口角を上げ。
「そういうことだ。海軍を捨て、海を支配する側にならないか?私が面倒を見てやろう、お前の後悔を払拭するためにな。」
未だ眼前で、小刻みに震える指宿を見ながら言った。
「わ、私を手元に置いても…。」
指宿は余程自信が無いのか、申し訳無さそうに俯く。
埒が明かないと踏むなり、式条は条件を出すことにした。
「手短に済ませたいのだが…そんなに気にするのなら良いだろう、今からお前にも私にとっても、理に適う条件を出そう。」
「じょ、条件ですか?」
訊かれた式条は、首を縦に振る。
「そうだ。お前の体型…入軍してきた時より、だらしないな?」
「う、ぐぅ…。」
式条の何とも的の射た言葉に、文字通りにぐうの音を出す指宿。
そこに、嘲笑を混じえて。
「指宿、お前のその身体を鍛え直す…いや、肉体改造の域まで持っていこうじゃないか。」
そう告げれば、指宿の目が途端に輝く。
「ほ、本当ですか…?!」
「本当だ。お前を大将の座に据え置き、私の側近として深海棲艦の指揮を取れ。」
乗り気になったと見た式条は、続けざまに命令まで下す。
「私の条件とは…?今のところ、私の優遇でしか…。」
恐る恐る尋ねる指宿に、式条は。
「私の為になるのだ、それこそがな。
そう答えるその顔には、悪魔でも貼り付けたような笑みがあった。
震えが止まっていることに気付いた指宿は、生唾を飲み込み。
「深海の提督に…俺が…。」
そう呟くと、式条が頷く。
「今まで散々、艦娘達に虐げられたんだろう?その復讐をするのもまた、一興じゃないのか?」
式条にそう言われ、指宿は少し考えた後。
「そうですな…。橘花の小僧と海野雪、俺を踏みにじった艦娘達…。仰るとおり、全員に復讐するのも…。」
と、下卑た笑みを浮かべながら指宿は大いに頷いた。
式条は、満足そうに鼻を鳴らすと。
「いいだろう、それならばここから出してやる。すぐに出発するぞ。」
そう言って、ポケットから鍵を取り出し牢を開ける。
「いいか、声を上げるなよ。」
中に入った式条は抜刀しながらそう言って、指宿に嵌められている手錠を軍刀で切断する。
「ひっ…!」
指宿は小さい悲鳴を上げるも、何とか堪えた。
「指宿、ここからは一蓮托生だ。存分に働いて貰う。」
「はっ。」
解放された指宿は、式条に激励され敬礼を返す。
その身体に、震えも汗ももう無かった。
「フフフ、頑張ッテネ?指宿大将。」
深海棲艦も指宿を受け入れ、笑顔で後をついて行った。
「ところで、看守はどうしたんですか?」
服を整えながら指宿は、ふと気になり式条に訊く。
「この深海棲艦がいるだろう?
「なるほど、そういうことですか。」
「さっさと出るぞ、奴らが来てしまう。」
式条のその答えに、指宿は考えるのをやめた。
そのまま三人はその場を後にし、船に向かう。
一連の動きに、艦娘が気付くのは少々遅かった。
「提督!大変なんてもンじゃねぇぞ!」
「ノックも無しにどう…っ!」
江風の怒声と共に、龍玄の居る執務室のドアが開け放たれる。
ドアの方を見やれば、無残な姿をした看守が江風と綾波に肩を借りながら現れた。
「なんだ…その姿は…!一体何があった?!答えろ、
眼前の状況を呑み込めない龍玄は、怪我人が相手だと言うのに声を張り上げる。
相垣と呼ばれた男は、身体中から血を溢れ出しつつ。
「し…式条が…深海棲艦を連れて…そのまま…指宿を…。これが、
そう言った相垣の手前、龍玄は怒髪天を衝かれたように。
「襲撃か!?警報はどうした!」
鬼の形相で秘書艦をしている艦娘、衣笠を見やり怒鳴る。
「わ、わかんないよ!いくら衣笠さんだって!」
そう返したあとに衣笠は、龍玄を見ながら懸念を煽る。
「どうするの、提督!あの人が逃げたってことは、舞鶴に向かうかもよ?!」
それを聞くと、龍玄はデスクを叩きながら立ち上がる。
「そんなことはわかっている!娘を舐めるな!それよりも、相垣だ!至近弾か…?!」
龍玄が見たその姿とは。
まず目に入ったのは、破れ焦げた軍服。
順に見れば、吹き飛ばされた左腕。
左目からの出血と、左脇の抉られたような風穴。
砲撃を近距離で受けたのは、一目見て察せた。
「大きい音が聞こえたから見に行けば…綾波も驚きましたわ…。」
「この江風も近くを通ったら、既に綾波が居たンだ。だから、そのまま二人で運んで来てやったンだ。」
「面目もありません…海野大将…。正面で…砲撃され成す術もなく…。」
二人の説明の後、相垣が息も絶え絶えに不甲斐ないと頭を下げる。
深呼吸して落ち着きを取り戻した龍玄が、各自に指示を出す。
「わかった、今すぐ医務室に相垣を運べ!医者もすぐに手配しろ!!明石が居ないともなれば、事態は一刻を争う!急げ!」
「「はっ!」」」
指示を出された艦娘達はその場で敬礼し、すぐに行動を始めた。
「やってくれたな…。」
龍玄には心当たりがあった。
簡単に入れるほど、大本営は設備も監視も甘いわけではない。
「同じ息子でも…こんなに差があるとはな…。」
一人になった執務室で、拳を握りしめる。
「式条羽織…!」
その名を口にした。
大本営での出来事は、舞鶴にもしばらくして通達が届いた。
「指宿中将が逃げたか。」
文面を読んだ雪が、静かに言う。
「提督…。」
リハビリを手伝っていた長門が声をかける。
「零君の完治は、二ヶ月後だったね。」
通達を閉じて、雪が長門を見る。
「あぁ、明石はそう言っていたな。」
長門が答えると、雪は目を閉じ。
「そうか。」
そう言った後、目を開け。
「零君の完治後、すぐに軍学校に入学させる。今日にでも書類を送ろうじゃないか。」
長門は悟った。
否、長門にもわかるように雪が呟いたのだ。
「彼を逃がす為か?」
椅子に座りながら、長門は確認するように訊く。
「ご明察だよ。さすが、秘書艦筆頭だ。」
座った長門は、雪を凝視する。
「自分の身も危ういというのに…。」
目を反らし、額に手を当て呆れる。
そんな長門を差し置いて、雪は尚も続ける。
「彼には可能性がある。それを、ここで潰すわけにはいかない。私が発端だ、ならば責任くらい取らないとね。」
それを聞いた長門は、覚悟したかのように。
「提督、
「おや、畏まってどうしたんだい?」
軽口で返す雪に、長門が真剣な顔をして。
「最初から指宿中将を暴れさせるために、あんな
そう見解を述べれば、途端に雪から余裕が消える。
「…どうしてそう思ったんだい?」
そう問われ、長門は続ける。
「理由があまりにも浅すぎる。縁談を反故にされた程度で、あそこまでするとは思えないんだ。仮にも中将だ、疑われて当然だろう?
長門が核心をついたように問う。
雪は溜息を吐き、観念したように。
「いいかい、長門。そんなことをする理由も、メリットもない。考えてもみてくれ、建設的では無さすぎるだろう?勘繰り過ぎだよ、私はそこまで頭の悪いつもりは無いさ。仮にそうだったとして、そうしなければならない理由は、何処にあるんだい?」
雪の言い分には、長門も腑に落ちた。
「そうか、軽率な推理だったようだ。書類はこちらで準備しておく、提督はリハビリもそこそこに休んでいてくれ。」
そう言って、病室を後にした。
一人になった雪は腕を組み、悪戯めいたように微笑む。
「さすがは長門だよ。私は、
それは誰もが知らない、雪の別の戦いであり。
「
自身の手中で、何かの策を練っていた。
雪は後に、この作戦を成功させるも。
自身と指宿のみならず、周りを取り巻くことになるとは思っていなかった。
「やっと治ったぁ!」
激動から二ヶ月後、無事に零は完治した。
それまでの間、瑞鳳が付きっきりで零の面倒を見ていたのは言うまでもない。
「良かったね、零君!」
感激のあまり瑞鳳は、零の動く右腕を見て泣いていた。
「ははーん、なんや?面倒見ていた彼氏が、元気になって泣いとるんかいな?随分と見せつけてくれるやんけ。」
龍驤が瑞鳳の肩を肘でつつけば、途端に瑞鳳の顔が赤くなる。
「ま、元気になったのは良いことなんじゃない?でも、この先が瑞鳳にとっては一番の苦難よね。」
五十鈴が続いて
「ハラショー、軍学校に行くからね。会えない日が続くのは、瑞鳳に耐えられるかな?」
首を傾げながら訊けば、今度は悲壮の表情を浮かべ。
「うぅ…零君が…居なくなるなんて…私…私ぃ…!」
瑞鳳はそのまま、病室を飛び出した。
「あちゃー、イジりすぎたかな?」
五十鈴が苦笑しながら、頬を掻く。
「なぁに、ええ薬やろ?あんだけ浮かれてたら、いつか痛い目を見るのは瑞鳳やねん。」
嘲笑混じりに腕を組みながら、龍驤は正当だと言わんばかりに呆れていた。
「でも、いいの?瑞鳳と離れるんだよ?」
五十鈴が確認するかのように訊けば、零は真剣な表情で頷いた。
「うん、俺は艦娘にも死んじゃった島の人達にも、しっかり報いたい。俺が提督になって、
その決意を聞けば、誰も何も言えなくなった。
「それで早速、今日出発ってことかい?」
響が零に近寄る。
「私達だって驚いているんだ。その歳で軍学校なんて、早い気もする。それに、瑞鳳だけじゃないよ?私達だって寂しいんだ。君の影響は、舞鶴の全員が受けているんだよ。"頑張って"としか言えない寂しさを、君にはわかるかい?」
そのまま、零の額に自身の額を合わせる。
「ひ、響?」
眼前まで迫った響の顔に、少しばかり零は仰け反る。
「君にはもっと、ここに居て欲しかった。もっと一緒に、学んだり遊んだりしたかった。それこそ、大本営の艦娘達みたいにね。だから…いつでも顔を出してくれたら、歓迎するよ。」
言いたいことを言えたのか、響はそのまま零から離れる。
そのすぐ後、龍驤が頭を乱暴に掻く。
「あーあーあー、辛気臭いやっちゃな!ええか?元帥みたいに立派になるんやぞ?」
「ま、頑張りなさい。無理しない程度にね?」
「五十鈴さん、龍驤さん、響…。しっかり俺は頑張るよ。」
三人からの激励に、零はしっかり答えた。
そこに、ノックの音が部屋に響く。
「はい、どうぞ。」
零が返事をすると、現れたのは雪だった。
姿を見るなり、艦娘の三人は敬礼する。
「零君、具合は…万全そうだね。」
雪も完治していた。
大人というだけあって、雪のほうが回復は早かったが。
「はい、おかげさまで!」
雪に訊かれ、元気に零が返事する。
そのまま一つの封筒を、雪が零に手渡す。
「これは?」
「軍学校への入学書類だよ。それと君の保護者だけれど、瑞鳳にしたんだ。困ったことがあれば、いつでもあの子に連絡するといい。」
雪が片目を瞑りながら言えば、零は笑顔を見せ。
「お心遣い、感謝します!」
そう言った。
ソレを聞いた艦娘達は。
「「ほんとに榛名さんから敬語を教わったんだ。」」
と、納得した。
「じゃあ、俺はすぐに支度に入ります。」
そう言って、部屋を出ようとした時。
雪がスーツケースを、部屋の隅から持ってきた。
「あぁ、支度なら瑞鳳が既にしてくれているよ。このスーツケースがそうだ、君は着替えるだけだよ。瑞鳳に感謝するといい、君が寝ている間に少しずつ準備をしてくれていたんだ。明石が服も見繕ってくれているよ。」
スーツケースを置き、雪は零を抱きしめる。
「え?」
零は何度目かの抱擁に、呆気に取られる。
そんなことをお構い無しに、雪が口を開く。
「君は充分頑張っているんだ。それでも、これが夢であり君の目標だと言うのなら、私は応援するよ。存分に君の蓄えてきた知識と、その力量を発揮してくるといい。私は君の心配よりも、
零から離れ、雪は微笑んだ。
――大きくなったね。
そう付け足して。
「さ、船も直にくる。着替えて港に向かうんだよ。」
「ありがとうございます!」
零を部屋から送り出し、艦娘達と雪も後を追うかのように見えたが。
「提督、港はこっちでしょ?」
反対方向を行こうとする雪に、五十鈴が人差し指で示しながら訊く。
「あぁ、私は
「そうなの?早く終わらせて来て頂戴ね?」
「私もそう思っているよ。」
五十鈴の反応に軽く返しながら、雪は歩みを進めた。
「零君、ちょっといいかしら?」
「どうしたの?」
着替えようと、一人になった零に。
「行く前にレディとして、敬礼を教えてあげるわ。」
と、暁が声をかける。
「着替えたら、私のところに来て。」
そう言って、暁はその場を離れた。
「暁、ありがとう。」
零はすぐに着替え、暁のところに向かった。
「いい?指は揃えて肘には角度を付けて、こうよ!」
「おぉぉ!!」
暁が手本を見せれば、零は感嘆した。
「やってみなさい!」
数十分後、零は腕が筋肉痛になろうかというところで。
「いいわ、このレディである私が合格をあげる!」
「暁、ありがと!」
暁が胸を張りながら言えば、零は感謝した。
「それで、何処に行っても大丈夫…。」
俯き気味に言う暁を心配になり、零が覗き込む。
「暁…?」
「寂しいわけじゃ…無いのよ…!でも、でも…絶対、生き抜いて欲しいの…。当時、私に乗っていた人達だって最後まで胸を張っていたわ…。零君にも、辛いだろうけど…厳しい軍人の世界も、この戦時中の今も…諦めてほしくない…だから、だから…!いつでも、辛い時には帰って来てね…。」
暁は頬を涙で濡らしながら、零の服を掴みそう告げた。
「ありがとう、暁もそう言ってくれて。」
零は微笑んだ。
「他の皆も呼んでくるから、先に行っててくれるかしら。」
「わかった。」
その後、港へ一足先に着いていた零は、伸びをしていた。
「んー!潮風は気持ちいいな。見送りまで時間あるかな?」
そう言って、零は一人の女性を思い出していた。
「ヒメさん元気かな?急に居なくなって、びっくりしたけど。会えるなら、もう一回会いたいな。」
そんなことを呟いていれば。
――ブウォォオオオン!
と、汽笛が聞こえ、近くまで船が来ていることに気付く。
「もうすぐ舞鶴とも、おさらばか。」
後ろを振り返り、鎮守府を見る。
「俺は、父さんを超える軍人になるんだ。」
拳を握り、零が真剣な表情を浮かべた時。
「「零くーん!!」」
鎮守府に居る艦娘達が声を上げながら、向かってくる。
「みんな!!」
零が喜び、手を振る。
艦娘達が走り抜けんばかりに、零の前に集まれば。
「「行ってらっしゃい!!」」
船が港に着港するのを見計らってなのか、声を揃えた。
「行ってきます!…最後に瑞鳳と海野提督の顔が見れないのは、寂しいな。」
零が俯き気味に微笑むと、大淀が口を開く。
「提督なら、"仕事を片付けたら行く"って言ってましたよ。」
「こんな時にまで仕事?マジで提督って真面目だねぇ。」
鈴谷が溜息混じりに言えば。
「瑞鳳は今頃、泣き腫らしているんじゃないか?」
と、長門が続けば。
「ちょっち長門!それはデリカシーなさすぎ!」
と、鈴谷がすかさずツッコミを入れた。
「零君…私、ごめんね、会えないよぅ…」
その頃、瑞鳳は自室で膝を抱えながら泣いていた。
「うぅ…私…私…。」
と、ドアがノックされる。
「今は…誰とも…。」
「瑞鳳、私だ。」
「提督?!」
声の主を確認するなり、急いでドアを開ける。
艦娘たるもの、提督という立場の人間には逆らえないのだ。
雪を招き入れ、二人は対面で座る。
「本当に会わなくていいのかい?」
雪が確認するも、自棄になっている瑞鳳は首を激しく左右に振る。
「会えるような…顔じゃありません…。」
事実、泣き腫らしたが故に目元は腫れていた。
雪は後頭部を掻きながら、溜息を吐く。
「瑞鳳、彼だって君に会いたいはずだ。それに、今生の別れというわけでもない。」
今度は瑞鳳の頭に手を置きながら、雪は続ける。
「それに、私だって寂しいさ。今まで一緒に居たんだ、当然だろう?それと、君を彼の保護者にしておいたよ。」
「え?」
呆気に取られる瑞鳳を他所に、雪は笑顔を見せる。
「
雪がそこまで言ったところで、瑞鳳は更に泣く。
「提督…私、ちゃんと見送ります…。」
そんな瑞鳳の頭を、雪は置いたままの手で撫でる。
「あぁ、会っておいで。ふふっ、私も行くから心配要らないよ。」
「提督…ありがと♪」
瑞鳳は機嫌を直し、零を見送る為に雪と共に部屋を出た。
「零君!!」
港に着くなり、全速力で駆け出す瑞鳳。
「あ、瑞鳳!来てくれたんだ!!」
零が喜んだと同時、瑞鳳が勢いそのまま零に抱きつく。
「零君…あのね、あのね…!」
瑞鳳が出てこない言葉を、必死に探していると。
「良かった、間に合ったようだね。」
後ろから雪も現れる。
「海野提督!」
雪も来てくれたことに、零は喜んだ。
「さぁ、瑞鳳。逃げずに、言いたいことを全部彼にぶつけるといい。彼ならしっかり、受け止めてくれるはずだよ。」
言いたい事が纏まらず、未だ目線を泳がせる瑞鳳に。
言葉で、雪が背中を押す。
瑞鳳が深呼吸してから、零を見つめると。
雪を含めるその場の全員が、固唾を呑んで二人を見守る。
「零君、私…本当なら軍学校なんて行かずに、私と舞鶴で一緒に居てほしいんだよ…?」
瑞鳳は目に涙を浮かべる。
それを零が気付かぬはずもなく。
(目も腫れて泣いてただろうに、また泣いてくれてる…。)
胸中で、そう呟くと。
「瑞鳳。」
今度は口を開き、瑞鳳の顔を見る。
「大丈夫。ちゃんと連絡するし、瑞鳳を差し置いて消えたりしないから。」
零がまっすぐに伝えれば、瑞鳳は乱暴に涙を拭い。
「ほんとに?嘘じゃない?」
眉をひそめ、再確認する。
無論、零の答えは決まっており。
「もちろ…。」
そう言いかけたところで、瑞鳳が自身の唇を零の唇に押し付ける。
「「「おぉぉぉー!!!!」」」
「ま、いいんじゃない?」
「き、キス…零君と瑞鳳さんが…。」
「ハラショー!!」
「レディね、瑞鳳さん!」
これには、見ていた全員が声を上げた。
「
「あ…え。」
零の思考は、完全に停止していた。
しかし。
「零君、行ってらっしゃい。絶対、連絡忘れないでね。」
瑞鳳の激励で我に返り。
「わかった。」
そう言って、接岸を終えた船に乗り込む。
デッキまで登り、船が動いたと同時。
「皆さん!ありがとうございました!」
零が暁に教わった通りに、敬礼を見せる。
「ふふっ、敬礼がしっかり出来ている。」
雪が感嘆の声を漏らせば、暁が褒めろと言わんばかりに。
「あの敬礼、レディである私が教えたのよ!」
と、自慢気に胸を張る。
「そうか、暁。ありがとう。」
そう言って、雪は零の乗った船を見守る。
「君の…門出か。」
そのまま、雪は軍帽を目深に被る。
「しれいか…。」
暁が声を出そうとして、途中でやめた。
(そうよね、司令官だって…。)
そのまま胸にしまい込み、その場をやり過ごす。
船が見えなくなった頃、全員は鎮守府に戻った。
いかがだったでしょうか?
10日間…大変お待たせしました。
それでは、また次回に。