大変、長らくお待たせしました。
それでは、本編どうぞ。
零が居なくなった舞鶴では、変わらずに任務が立て込んでいた。
それは雪だけではなく、艦娘達もだった。
「零君も居なくなって、すっかり鎮守府も静かになったわね。あの子はそろそろ到着した頃かしら?」
哨戒任務に出ている五十鈴の率いる艦隊は、大海原を駆けていた。
旗艦である五十鈴が、すぐ後ろに付いている曙に振り向きながら尋ねる。
「忙しいのには変わりないわね…。横須賀なら、船で六時間くらいだと思うけど?」
曙が顎に手を当て、空を見るように言っていた時。
おびただしい電探の反応に、曙は冷や汗をかく。
「電探に反応あり!何よこれ…!多数の深海棲艦よ!」
即座に考えるのをやめ、全艦に伝える。
それを受け、この場の艦娘達は臨戦態勢に入り、そのまま体感で数キロ走った先だった。
「敵艦隊見ゆ!!」
五十鈴が声を上げる。
深海棲艦が群れを成しているのが、全員に見えた。
砲撃の轟音まで聞こえ、暁は不審に思った。
(なんで
そのまま艦娘元来の視力を頼りに、目を凝らして見れば。
「見て!艦娘が一隻で応戦してるわ!」
艦娘がたった一隻で応戦しているとわかるなり、暁は声を上げる。
「一隻?!」
雷までもがそれに驚き、自身の目でも確かめる。
「本当だわ。戦艦…?あれは…山城さん!!ボロボロじゃない!急いで援護しなきゃ!」
その応戦していた艦娘、戦艦山城は誰の目から見ても、満身創痍だった。
雷は艦隊を置いて行くかのように、最大戦速で向かう。
「雷!あんただけで何をする気よ!」
五十鈴が追うように駆け出す。
「旗艦が突っ走ってどうするの!?」
堪らず暁が、五十鈴に怒声を浴びせる。
そんな中でも、翔鶴と瑞鳳の二隻は落ち着いていた。
「瑞鳳さん、爆撃機は出せますか?」
翔鶴が弓を構えながら後ろを振り返り、瑞鳳に目線をも向けながら訊けば、その瑞鳳は既に矢を番えていた。
「はい、もちろん♪」
その上機嫌な言葉とは裏腹に、目は真剣である。
翔鶴はそれを確認すると、自身も矢を番える。
「「攻撃隊!!発艦!!」」
二人の声が重なり放たれた矢は、爆撃機"零式艦戦六二型"へと変わる。
プロペラ機特有の飛行音を鳴らしながら、放たれた艦載機は敵艦隊に向かって、一直線に編隊を成しながら飛ぶ。
プロペラ音が聞こえるなり、雷を追いかけていた足を止め、五十鈴は旗艦として各自に指示を出す。
「翔鶴さんと、瑞鳳が発艦したわ!夾叉に注意して散開よ!」
「「了解!」」
単艦で突貫しようとしていた雷も、五十鈴の指示により隊列へと合流を始める。
「駆逐艦は、私が合図したら魚雷発射!それまでは、
「「了解!」」
雷が合流したのを確認し、五十鈴は敵艦隊へと向き直る。
「五十鈴さんは?」
曙がふと、五十鈴を見やる。
五十鈴は既に、敵艦隊へと歩を進めていた。
その問いに振り向きざまに。
「私は…
短くそう答えたかと思えば、五十鈴は敵艦隊へと、魚雷を構えながら向かった。
その速度は、
「バカね、この五十鈴から逃げられるわけ無いじゃない。」
魚雷ではなく、主砲を構え。
「こっちよ、おバカさん達…!」
敵艦隊を翻弄するべく、正面にまで迫った駆逐イ級を砲撃する。
「グオオォォ!!」
被弾した一隻のイ級の雄叫びを皮切りに、一斉に山城から標的を五十鈴へと移す。
「さぁ、かかってらっしゃい!」
砲撃を繰り返しながら、敵艦隊の注意を惹き付けるなり。
「今よ!!全艦!一斉魚雷発射!!」
「お子様言うなぁー!」
「不死鳥の名は伊達じゃない…!」
「これでも食らいなさい!」
五十鈴の合図を皮切りに、暁、雷、曙の三隻が発射する。
魚雷の影を確認した五十鈴は、
それとほぼ同時、一斉に放たれた魚雷が敵艦隊を襲う。
敵艦隊のイ級を始めとする駆逐艦が、魚雷の餌食となり。
次々と黒煙と断末魔を上げながら、轟沈する。
翔鶴と瑞鳳の放った艦載機も爆撃を繰り返せば、群れを成していた随伴艦の半数以上が、同じく海中へと沈んでゆく。
更には、五十鈴の放った魚雷。
それは旗艦であるル級を、時間差で大破に追い込んだ。
爆撃に気を取られ、自身に迫る魚雷に気付かなかったル級には、為す術が無かったのだ。
「グゥゥゥ!!」
流石の戦艦でも、堪えきれずに海面で膝をつく。
これこそ、五十鈴が高速航行しなかった狙いである。
「
自身の計算が功を奏するなり、五十鈴は不敵な笑みを浮かべながら、腰に手を当てて語りかけるように敵を愚弄する。
「さすが五十鈴さんね!レディだわ!」
「突っ切ったかと思えば、そんな作戦を…。」
「だって、舞鶴の軽巡筆頭だもん。ね!五十鈴さん!」
「そんなに褒められるようなことしてないわよ?」
駆逐艦達に褒められ得意気になっている五十鈴のもとへと。
辺りの深海棲艦の残骸を見回しながら、山城はおぼつかない足取りで歩を進める。
そして。
「あ…あなた達は何処の…?」
山城が限界であろう艤装を軋ませながら、五十鈴達を見る。
目の合った五十鈴は、片目を瞑りながら。
「私達の所属は舞鶴鎮守府よ、山城さん。」
満身創痍の山城を安心させるように、落ち着いた声色で説明する。
「翔鶴さん、山城さんを曳航出来るかしら?」
「えぇ、大丈夫ですよ。」
五十鈴が山城の自力航行は困難と判断し、馬力がありそうな翔鶴に声をかければ、翔鶴は二つ返事で了承した。
「話はまた後でね?私たちは、残りをさっさと退治してくるわ。」
そう言って、随伴艦を連れて息も絶え絶えなル級を見下ろす。
「さてと、落とし前つけるわよ。」
五十鈴はそのまま、砲口を向ける。
それを合図と受け取り、暁、雷、曙は深海棲艦の残党に同じく砲塔の照準を合わせる。
五十鈴は大きく息を吐き、気合いとばかりに声を張り上げる。
「全艦!!一斉射!!」
そのまま砲撃を喰らわす。
一斉射撃により、次々と砲弾の餌食になる深海棲艦。
反撃の余地も隙も、艦娘達は与えなかった。
これもまた、五十鈴の目論見であった。
「
五十鈴が砲撃しながら呟く。
体感にして数十分後。
全艦が一斉射撃を止め、煙幕が落ち着くのを待つ。
「どうかしら?」
雷が目を凝らす。
「「グオオオォォォォ…。」」
視界が良好になり見てみれば、深海棲艦の残党は断末魔を上げながら轟沈していた。
その中に、ル級の姿もある。
「まだよ、まだ気は抜けないわ。」
暁は警戒を怠らないでいた。
「瑞鳳、念の為に彩雲を飛ばして。」
暁の心配を払拭する為、五十鈴が瑞鳳に索敵の指示を出す。
「はい♪」
瑞鳳が爆撃機を戻し、彩雲を飛ばす。
海上を何周か回ったあと、彩雲が瑞鳳の甲板へと戻る。
「敵影、ありません♪私達の勝利です♪」
瑞鳳が声高らかに言えば。
「「勝ったぁー!!」」
全員が、ハイタッチを交わしていた。
その一部始終を見ていた山城は。
「すごい連携ね…。」
感嘆の声を漏らしていた。
山城の呟きに気付き、翔鶴が曳航の準備をしながら。
「ふふっ。言うなれば五十鈴さんは、舞鶴の切込隊長ですからね。戦場での指揮も、提督からの作戦指示だけでどうにかしてしまいます。…一度だけ、
翔鶴が笑顔を向け、山城にそんなことを口にしてみれば、山城は面食らったような顔をする。
「そう。舞鶴、海野少将の…。やはり驚きね…。」
山城は呟きながら、一人感嘆していた。
「舞鶴に通信するわよ。」
そう言って、曙が大淀へと通信する。
その間に、全員が帰投準備を始める。
「こちら曙よ。哨戒中に艦娘が一隻で応戦してるところを救助、敵は全滅。その艦娘を連れて、これより艦隊帰投に入るわ。」
[こちら大淀です。了解しました、提督にもお伝えしておきます。気をつけて帰ってきてください。]
曙は通信が終わり、息をつく。
五十鈴が通信の終了を確認し、帰投しながら山城に問いかける。
「山城さん、とりあえず話は後…と言いたいところだけど、なんで一隻なの?鎮守府所属でしょ?」
山城が鎮守府所属だと、断言出来た理由。
それは、五十鈴の眼前で翔鶴に曳航されている山城が、改装されているからであった。
その山城は、俯き気味に。
「提督から言われたのよ…。"何も聞かず、単艦での出撃をお願いしたい"。ってね…。」
そう悲壮とも言えるように吐けば、全員が呆気に取られる。
「はぁ?じゃあ、何?アンタのとこの提督がクソ提督ってことなの?そしたら、私達が乗り込んでやるわよ!」
曙が怒鳴れば、山城は限界であるはずの身体をもろともせずに。
「バカ言わないで頂戴!!提督はそんな酷い人じゃないわよ!!知ったようなことを言わないで!!」
曙を怒鳴りつける。
怒鳴られ、萎縮する曙は。
「わ、悪かったわね…。何か理由があったの?」
何とか言葉を続け、山城の顔を見る。
「理由は私にもわからない…。でも、
その寂しそうとも、悲壮とも言える顔に、曙は言葉を出せない。
殿を務め、山城の真後ろに居る瑞鳳が口を開く。
「うーん…。何かの作戦かなぁ?帰ったら提督に確認するのが、一番かもね?」
瑞鳳が言えば、他の全員も頷く。
「司令官ならきっと、
暁が神妙な顔つきで呟く。
「暁?どうしたの?」
様子が気になり、雷が声をかける。
「司令官の情報網が広いのは、みんな知ってるでしょ?だから司令官なら、
暁が見解を示す。
「確かに、私一人だけというか艦娘単艦なんて、そんな作戦…今まで提督はやらなかったわ。」
山城がその見解を肯定するかのように、考えを巡らせる。
「そういえば、山城さんはどこの鎮守府なの?」
雷が思い出したように、山城に訊く。
「私は、大湊警備府所属よ。」
「「え?!ここ
これには、全員が驚愕した。
「なんでわざわざ…。」
五十鈴が額に手を当て、考える。
「言ったでしょ?"単艦で出撃してほしい"って指示だったのよ。その向かって欲しいって言われた場所が、"
山城が腕を組みながら、面々を見る。
「「最初に言ってよ!!」」
全員がすかさずツッコミを入れる。
「そうね、肝心なところを忘れてたわ…。」
山城は反省の色を見せる。
「まぁ、無事で良かったわ。これは提督に会わせるしか無くなったわね。」
五十鈴は真剣な顔をする。
「良かったですね、山城さん。苦労が報われますよ?」
「えぇ、あなた達には感謝してるわ。」
翔鶴の言葉に、山城は素直に礼を述べた。
一行はそのまま鎮守府へと、帰路に着いた。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。