寒い寒い…。
今更に冬本番…。
そしてやっと20話…。
それでは、本編どうぞ。
「お前は破門でありんす。」
何十年は使い込まれているであろう、道場の畳の上で。
一人の糸目をした女が、相対している少女に言い放つ。
堂々と後悔も、憂いもなく。
それも、
少女との距離約、五メートル。
道場主である女は畳を軋ませ、艶やかな黒髪を靡かせながら、一足飛びで距離を詰め、刀の切っ先を少女の喉元に突きつける。
「は…?」
明確な殺意。
少女はソレを一身に、目で、耳で、本能で受けている。
自身に当てられた、冷えた感触からも伝わる。
困惑のあまり、自身が握っていた刀を床に落とす。
泳がしている視線は、焦点が定まらない。
「なんで…?センセーにウチ、何かした…?」
少女が必死に平然を装いながら、女に震える唇で問う。
「お前は何もしていないよ。ただ、わっちはお前に…この刀術を教えていたのを、
「な、なんでいきなり、そんなこと、何年も教えてくれてたのに…。」
その問いに女は答えるも、少女は疑問が尽きない。
心当たりを探るも、皆目見当など付かない。
視線を落とせば、未だ自身に向けられた切っ先が映る。
尚更に焦り、考え事などという悠長な事は出来ない。
「先程の太刀筋、
女はそう口にすると、刀の棟で少女の顎を上げ。
眼前で焦燥している少女をお構い無しに、糸目を開けて言葉を続ける。
「お前は何か、良からぬ方向に向かう…そう感じたでありんす。それもこの流派、"
女から言い放たれた言葉に、少女は息を呑む。
「そ、そんなわけ…。」
少女の言葉に耳を傾けることなく、女はソレを遮り。
「お前はいつか、わっちの敵となって現れる。
―――
聞かされた言葉に、少女は反抗をしてみせる。
自身の喉元に当てられた刀を、怒りのあまり両手で握った。
その手から鮮血が滴り落ち、畳を血で濡らす。
痛みなど恐れず、女に怒声を浴びせる。
「そんなこと言うなら!どーしてウチに刀を!センセーの刀術を!教えてたのよ!」
その目からは涙を落としながら。
しかし、女には何も響かない。
「言い方を変えましょう。お前は何かに迷っていた。でも、わっちには未だにソレが何かわからないでありんす。お前はその迷いを捨て…いや、振り切ったんでありんしょう?それも間違った方向に。わっちは再三言ったでありんす、"道場では兄を忘れろ"と。」
更に追い打ちをかける。
「そんなにお前の兄を慕うのなら、わっちの教えたことは無意味であり、続けたとしてもそこに大義は無い。破門です、出ていきなさい…"操り人形"。」
女のその言葉を皮切りに、少女は握っていた刀を振り払う。
そのまま駆け出したかと思えば、道場の上座に飾ってあった太刀を手に取り。
「ウチを捨てたこと一生悔やんでてね、センセー?…絶対、目に物見せてやる。」
少女は睨みを利かせながら、声を低く牽制した。
「その刀は持っていっても、お前には扱えな…。」
女の言葉に聞く耳を持たず。
未だ血の流れる手でその太刀を抱え、少女は道場を駆け足で出て行った。
しかし、女はそれを止めることもなく。
少女の足音が消えても、ただその場に立ち尽くし。
「お前に教えていた理由…。それは、お前には強さではなく、
女は藁を立てる。
そして。
「はぁっ!!」
刀で藁を真っ二つに斬った。
「目に物を見せる?笑わせる、"小娘風情"が。ようざんす、待っているでありんす。
そう言った女の目元は、腫れていた。
「…懐かし。センセー、元気かなぁ?
夢から醒め、目を開けた少女はベッドから起き上がる。
憂鬱でありながら、寂しさの感傷に浸っていれば。
「て、提督…し、失礼してもよろしいですか?」
ノックと共に、艦娘の声がドアの前で響く。
「何の用事?こっちは艦娘になんて構ってる暇は無いって、いっつも言ってるじゃん…。」
少女が文句を言いながら、着替えを済ませドアを開ける。
「て、提督のお兄様…式条少将より、"
挙動不審に話す艦娘、神通は提督である少女を見る。
少女の手が動いた瞬間。
「い、痛っ…。」
「兄さんが何?それであんたの顔を見て、不機嫌になったウチをどうしてくれるの?」
神通の髪を引き千切らんばかりに、文句を添えて掴みながら引っ張る。
「で?兄さんは?」
「っ…今、港に…っ!」
問われた神通は痛みに堪え、少女に進言する。
「あっそ、ご苦労さま。」
素っ気なく返したあと神通から手を離し、少女は部屋を出た。
港に向かう道中で、歩きながら夢の内容を振り返る。
「あの時のセンセー、泣いてなかったから…やっぱり所詮は夢かぁ。」
腰に下げている太刀を触りながら、残念そうに呟く。
頭を振り、忘れるべく頬を両手で叩き。
ドアを開け、港に出れば。
「やぁ、
「兄さん!!」
声を掛けてきた兄、式条羽織に結理と呼ばれた少女は抱きつく。
「おやおや、甘えるのも大概にしないと、艦娘に見つかってしまうよ?」
羽織は結理の頭を撫でる。
それが嬉しいのか、結理は笑顔を向ける。
そして、本題とばかりに。
「
「あぁ。手始めに、島永さんが目をかけてる柳を潰そう。」
兄の笑みに、結理は不思議に思った。
何故、本命を狙わないのか。
腑に落ちない結理は訊く。
「なんで大湊?横須賀とか、舞鶴なり呉なりを狙ったほうが早いじゃん。」
訊かれた羽織は、溜息を一つ吐く。
そして、抱きついている結理を引き剥がし。
「本命を叩くには、
そう言われ、結理は空を見つめ自身の見解を示す。
「わかんないけど、陽動とかそういう感じ?」
答えに満足したのか、羽織は頷くが。
何処か、腑に落ちないような表情を浮かべ。
「陽動か…
そう噛み砕いて説明すれば、結理も納得した。
「わかった!兄さんがそう言うなら、そういう事なんだね!」
黒さを含んだ笑顔を添えて。
結理の返事を耳に受け止め、羽織は軍帽を被り直し。
「さて、
そう言って、何処かの鍵を結理に手渡す。
結理は小首を傾げ、その鍵を眺める。
「何の鍵?」
眺めてもわからず、鍵を指で掴みながら訊く。
羽織は再び溜息を吐き、呆れたように説明する。
「それは、舞鶴を潰す時に必要になるのさ。海野雪、アイツだけは生かしてたらいけない…アイツに情報が既に出回ってる可能性すらあるんだ。その為の措置として、お父さんが交渉に出る予定なのさ。もし、そうなった時が幕開け、もしくは合図と言っても良いと思う。それは深海にある倉庫の鍵だよ?
そう言って、羽織は自身が乗って来た小型船に乗り込む。
「じゃ、また後でね。」
颯爽と船を出した兄を、結理は見送り。
「鍵ねぇ。深海は臭いんだよね…。」
そんな事を呟いた。
それと同時刻。
山城は、自身が見たもの、砂紋の言伝、全てを雪に曝け出していた。
「瑞鶴さんが何を見たのか、そこまで私も知りません。でも提督が瑞鶴さんの報告を受けて、私を単艦出撃で舞鶴に向かわせた…それに合わせて、提督は艦隊も出撃させていました。それと、提督より"大湊に艦隊を向かわせて欲しい"とも言伝を…。十中八九、見たものは敵艦隊だと思いますが…。」
デスクに再び座った雪は、顔色を変える。
それも、鬼気迫ったように。
その顔には、驚愕の色を浮かべている。
「出撃…
雪は自身が取り乱さないよう、落ち着きを持って問う。
山城は、額に汗を浮かべたまま。
「…一艦隊のみです。私が抜けている今、それも五隻です。」
聞き終えた雪は、即座に立ち上がり。
「前任の大将が抜けた話は、私も聞き及んでいるよ。それで、うちに居る曙は引き取った。勿論、他の艦娘もそれぞれ、別の鎮守府に散り散りさ。まさか、戦力増強最中の今を狙ってくるとは…。柳砂紋、私は知っているとも、後輩だからね。」
そう言いながら、雪は椅子に掛けてあった軍服を手に取る。
山城は慌てて、思わず声を掛ける。
「う、海野少将!?どちらへ?!」
「急用が出来たんだ、
山城の声に答えながら、雪は書類を準備し、放送をかける。
「五航戦空母、翔鶴。至急、執務室に来て欲しい。」
雪が放送をかければ、ものの数分で執務室にノックが響く。
「五航戦、翔鶴です。提督、お呼びですか?」
「翔鶴、よく来てくれたね。すぐに大湊へ向かうから、準備してほしい。船では遅いから、君が小型船を曳航してくれ。」
翔鶴にことは急を要すると、短く伝えれば。
「わかりました!五航戦翔鶴、出撃します!」
力強く翔鶴は敬礼を交え、二つ返事で了承した。
雪は頷きを返し、山城へと視線を戻す。
「というわけで、山城。案内は頼んだよ?」
「はっ!」
そして、執務室から三人が出ると執務室へと向かってくる影があった。
「て、提督?!どちらへ?!」
声を上げながら走ってくる艦娘は、大淀だった。
雪は大淀に笑顔を見せ。
「大淀か。しばらく、私は鎮守府を空けるよ。留守の間を頼んだよ?それと、私がいない間、哨戒任務を欠かさずにやって欲しい。」
「て、提督!そんな急に…。」
大淀が言いかけたところで、雪は真顔になる。
「
その言葉に、艦娘の三人は押し黙る。
「そうでしたね…。わかりました、お気をつけて。何かあれば、翔鶴さんに無線で報告します。」
「さ、行こうか。」
雪の一声で翔鶴と山城は港へと向かった。
大淀は敬礼し、その後姿の三人を見送った。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。