前回がノリにノっていた分、今回がどうなるか…。
思いつきって大事ですね。
それでは、本編どうぞ。
船内に設けられた椅子に座り、船に揺られながら。
「瑞鳳、俺はやるよ。」
零は一人、着ている軍服を整えながら、覚悟を決めていた。
「ほぉ!貴殿は良い顔をするなぁ!」
扉が開かれたと同時に、現れた幸造の声を聞き。
零は、反射的に立ち上がる。
そして姿勢を正し、勢いよく振り返ったかと思えば。
「す、すみません!」
頭を下げ、何故か謝った。
「ぶふぅっ!!」
それが余程に面白かったのか、吹き出すなり幸造は腹を抱えて笑う。
落ち着きを取り戻し、幸造は零の正面で椅子に座り。
「何も謝ることはしてないだろう?私が貴殿の教官となる島永幸造だ、よろしく頼む。」
そのまま自己紹介をすれば、零も気を取り直し。
正面で座る幸造の圧を感じながらも、負けじと。
「橘花零です!よろしくお願いします!」
大声で敬礼を返す。
その姿を目にした幸造は、
ゆっくりと立ち上がり、零の横へと歩み寄り。
"何かしてしまったのか"と、振り向いた零の肩を掴む
幸造は唇を震わせ、感動したとばかりに。
「貴殿の敬礼…一体、
「え、えと…。」
幸造が前のめり気味に顔を近づければ、零は後ろに仰け反る。
戸惑いながらも落ち着くよう、手でジェスチャーを交えるが。
幸造には届かないと諦め、肩を掴まれたまま姿勢を戻し。
「舞鶴の艦娘、暁に教わりました。」
零のその説明に、幸造は瞬きを繰り返す。
「貴殿の父では無く、海野少将のとこの暁に?」
呆然としながら確認すれば、零は何度も頷く。
力なく幸造は零の肩から手を離し、再び椅子に座り直す。
一体全体何だったのかわからず、零は立ち尽くす他無い。
思考を手放し、未だ混乱したままの零に。
「すまなかった、まぁ座ってくれ。」
幸造は煙草に火を付け、零にも座るよう促す。
大人しく従い、零は幸造を訝しげに見る。
「いやはや、貴殿の父に教わっておったのかと思えば…舞鶴の暁とはなぁ。海軍の中でも、あそこの暁は特段に敬礼が綺麗だと聞いてはおったが。」
そんな視線を気にもせず、幸造は感傷に浸るように穏やかな目で。
この呟きとも、聞かせているとも取れる言葉に。
零は黙って耳を傾ける他なかった。
神妙な顔をしている零とは反対に、幸造は笑顔を向ける。
「立派な
そう言われてしまっては、零としても返す言葉が見当たらず。
神妙だった顔は、幸造と同じく晴れやかに。
「はい、間違いなく暁は
事実だけを端的に返した。
このやり取りが、幸造の考えを固める。
眼前の、年端も行かぬ十二歳という少年。
軍人を相手にしても、緊張はすれど。
選びながらも言葉を返す、若すぎるまでの男児。
その零の佇まいに、感心を通り越し。
(貴殿には…
胸中で呟きながら、零を眺めていた。
物思いに耽る幸造を見ていると、零は。
「あ、あの…。」
心配になり、いつの間にか声を掛けていた。
そこで幸造は我に返り、煙草を口にする。
煙を吐いて、一呼吸置き。
「おぉ、そうだ。甲板に出て、海でも眺めて来るといい。
幸造が答えを待つ間もなく。
「良いんですか?!海は俺も好きです!」
満面の笑みで零に返され、呆気に取られるのも一瞬。
「そうか!近くなったら声を掛けよう、煙草で煙たいのも申し訳ないからな。」
「ありがとうございます!」
幸造が苦笑交じりに自嘲するも、零は気にせずとばかりに甲板へと向かった。
短くなった煙草を灰皿に押し付け、更に一本取り出し。
口にあてがい、幸造は一人。
「引退はまだまだ先か…いや、終えたくとも終えられぬな。貴殿の行く末を見てみたい、そう私は思ってしまった。元帥の息子というのを抜きにして、な。」
溢れる笑みをそのままに、椅子を揺らしながら呟いた。
その顔は大将というには程遠く、一人の孫を見送る祖父のようにも近かった。
甲板へと上がり。
船上のデッキで、零は手すりに掴まりながら。
「うっはぁ!絶景じゃん!!見るとこ全部が海!!すげー!!」
身を乗り出さんばかりに、海上を見る。
見渡す限りの海に、零は興奮さえ覚えていた。
透き通るような海色に、その心を踊らせながら。
それと同時に、寂しさも過ぎる。
「
支給された軍帽を潮風で飛ばされないよう手で押さえ、零はスクリューから作られる波を見る。
「舞鶴の皆が居たから、俺は生きてるんだもんな…。母さん、見ててよ。俺は、これからも頑張るからさ。」
そう呟きを織り交ぜて。
―――カンカンカン。
しばらく眺めていると、デッキの階段から足音が響く。
音に気付き、零が振り向けば。
「橘花君、直に接岸だ。中に入って、荷物を下ろす準備をしてくれ。」
姿を現した横須賀鎮守府大将、島永幸造が手招きをしながら零に声をかける。
零は敬礼し。
「はっ!」
そう返し、船内へと戻る。
零が去っていく背中を見送り、幸造は目を細める。
「しかして面白い。貴殿の敬礼、教わったと言えど見事なまでに綺麗だ。…後ろ姿は元帥そっくりだな。」
それは、笑顔からなるものであり。
感嘆から出るものでもあった。
船も接岸を終え、港で零がスーツケースを置き。
「ふぅ…。」
一息入れたところで、幸造も階段を降りてくる。
「貴殿の部屋は、後で艦娘に案内させよう。先に、私の執務室へ来てくれ。」
「わかりました!」
そう言われ、零は荷物を持って幸造の後ろを追いかけた。
執務室に通され、零は緊張のあまり身体も顔も強張らせる。
「まぁまぁ、そう固くなるな。」
零の緊張を悟ってか、幸造は椅子に座りながら笑顔を向ける。
そして、煙草に火を付け。
「さて…貴殿の入学にあたって、これからテストを行う。」
本題とばかりに、デスクに頬杖を突きながら煙を吐く。
「まず、現日本海軍に大将は何人居ると思う?」
「え…。」
突拍子もない問題に、零は唖然として言葉に詰まる。
幸造はそれに堪え切れず、声に出して笑い飛ばす。
その声で驚く零に、幸造は手をヒラヒラさせ。
「すまない、あまりに貴殿の顔が面白くてな?ぷっくくく…。なにも難しく考えなくて良い、直感で構わんよ。」
幸造の試すような言葉に、零は思考を練り。
「十人くらいでしょうか…?」
と、恐る恐る尋ねる。
幸造はその答えに、煙を吐きながら。
「惜しいな、その半分しかおらんのだよ。海野龍玄、
そこまで聞いて、零は目を丸くする。
「ご、五人?!」
驚く零の声を耳に入れながら、幸造は長くなった灰を灰皿に落とし。
目を伏せながら、申し訳なさそうに続ける。
「貴殿も知っていよう。橘花元帥が行方不明になり、元帥の座が空いた。故に、その座に仮でもなれるのは大将だ。しかしながら、元帥の座に就かせてはならぬ人間が何人もおる。私を含め、この五人は元帥の帰りを待っているに過ぎない。代わりに、海野龍玄がその大概を担っておるのが現状だ…私は歳だし、沖崎も鳴波見もまだ若いしな。」
零は、幸造の言わんとすることがわからないでいた。
無言のまま、次の言葉を待つばかり。
幸造が煙草を口に含み。
「大将とは言っても、名ばかりなのだよ。出来ることならば、私は引退を考えておった。しかして、元帥より私は貴殿を託されておる…
煙を再び吐き出し、零を真っ直ぐに見つめる。
歴戦の軍人の圧をその身から漂わせ、覚悟を確かめるが如く。
殺気紛いの圧に、零は額から汗を流し、手にも汗を握る。
そんな零を差し置いて、幸造は眼光鋭く口を開く。
「この先、貴殿が耳にしたく無いモノ、目を覆いたくなるようなモノ、それらを必ずその身で味わうことになる。それでも、軍人になりたいと、いや、"なる"と言い切れるか?ここで踵を返しても、私は何も責めまい。海野少将に言って、舞鶴に戻す手筈を取ろう。」
"覚悟を問われている"と瞬時に悟った零は、圧に負けぬよう耐えるので精一杯である。
頭では理解が出来ているものの、口が思うように開かない。
知ってか知らずか、幸造は尚も言葉を待ち続ける。
『行きなさい!!』
(母さん…。)
母が発した最期の声が、腹を抉られた姿が、脳裏で浮かびリフレインする。
瞬間、零は先程までの圧を吹き飛ばさんばかりに。
拳を握りしめ、声高らかに。
「俺は!あの海を駆ける艦娘達と一緒に!綺麗な海を見続けたい!そして、母さんに顔向けできるような!父さんに並ぶような!そんな軍人になりたいです!」
そう言い切った零の目からは、涙が止めどなく溢れていた。
宣言にも近い覚悟を聞き届けた幸造は、満足そうに何度も頷き。
「よくぞ言った!!合格だ!
「はっ!」
幸造の激励に零はその顔を涙で濡らしながら、敬礼を返した。
と、同時に。
—―コンコン
と、ノックが響いたかと思えば。
扉が開き。
「提督、何か大声が聞こえたわよ…って!提督!こんな子供を泣かせて!何してるのよ!」
一人の艦娘が、足音を響かせながら幸造のデスクへと向かう。
幸造は勘違いを訂正すべく、口を開き。
「い、いや、由良よ、違うんだ、この少年が今日から来ると言っていた橘花君だ。今、入学テストという名の見極めをだな…」
幸造の言葉を遮り、由良は。
「何がテストですか!泣かせてもう!怖かったね?大丈夫だから、泣かないで、ね?」
「い、いや、その…。」
由良と呼ばれた艦娘が、零の頭を撫でるが。
零自身も、慰めらている理由がわからず、言葉に詰まる。
「この子は相当に苦労していてだな?だから覚悟を聞こうと思い、熱くなってしまった結果なのだよ…。」
幸造は自身を落ち着かせるべく、煙草を吹かす。
しかし、鬼の形相に近しい由良は止まらず。
「何が"熱くなった"よ!それで?!合格なの?!」
由良の怒鳴り声に、幸造は煙草を口から落としそうになるも。
「あ、あぁ!合格だとも!」
若干引き気味になりながら、当然とばかりに答える。
由良はそのまま怒鳴り声で。
「当たり前でしょ!!」
自分で見極めたわけでもあるまいに、零を抱きしめながら言い放った。
当の零は追いついて行けずに、ただ由良の腕の中で大人しくしているばかりである。
幸造はこの場を収めるべく、思いつきで由良に指示を出す。
「あ、あぁ、ついでだ、夜も暮れた。橘花君を部屋へ案内してやってくれ。」
由良は怪訝な顔を幸造に向けながら、不承不承。
「っもう…。了解よ、案内するから一緒に行きましょ、ね?」
零の手を引いた。
「あ、その前にいいですか?」
零は由良に連れ出される寸前、立ち止まり。
「
幸造に頭を下げた。
「あぁ、貴殿の活躍を期待していようとも。こちらこそ、よろしく頼むぞ。」
幸造も圧を完全に消し去り、満面の笑みで答えた。
しかし、横槍が如く。
「いいのよ、頭なんて下げなくて。」
由良が吐き捨てるように言ったあと、舌を出して幸造を
二人が執務室を去ったあと、煙草を灰皿に押し付けて幸造は窓を眺める。
「本当に楽しみが増えた。早く戻って来てください、元帥。
目を瞑れば、脳裏に浮かぶ紫雲に。
『幸造!海を!日本を!明るくするぞ!』
『死こそ最大の汚点だ!よく覚えとけ!病気か寿命以外で、この戦争で死ぬんじゃねぇぞ!』
「あなたの声は、顔は、いつでも浮かびますなぁ。まるで、昨日までかのように。」
目を開け、染み染みと呟いた。
―――ジリリリリ
感傷に浸っていると、デスクの電話が音を響かせる。
受話器を持ち上げ。
「こちら横須賀鎮守府。」
幸造が名乗れば。
[呉の海野です。島永大将…折り入って
相手は、龍玄である。
椅子に腰掛け、幸造が低い声を出す。
「報告だと?」
[はい、大湊近海で深海棲艦の艦隊が多数確認されました…。]
受話器越しから伝わる、龍玄の焦燥しきった声に。
そして、その内容に。
「艦隊が多数…だと?!」
思わず、大声を上げる。
[はい、およそ二十の艦隊です。隻数ではありません、繰り返します、二十の艦隊です。]
驚愕する幸造をお構い無しに、龍玄は続ける。
聞かされていることが事実であると。
構造は飲み込むことに、時間を要した。
「柳のところは艦隊の増強最中だぞ!?まして、一艦隊のみだ!すぐに増援を送らねばならん!」
[わかっております。娘が既に動いていますが、その報告はあまりの
やり取りの中で、龍玄の"惨劇"という言葉に、幸造は眉を上げる。
「惨劇だと?」
確認すれば、龍玄の唾を飲み込む音が伝わり。
声を震わせながら、続く言葉は。
[三隻の中破、大破した艦娘達を…損壊したドックにて発見、二隻は…執務室で柳中佐と共に発見されました。この二隻は大破で、柳は出血多量に加え、意識不明だそうです…。]
聞き終えた幸造は、思考を張り巡らせ一つの答えに辿り着く。
怒りを抑え、血管を額に浮かび上がらせながらも。
「
龍玄に声を低くしたまま訊けば。
[…わかっております、
「すぐに艦隊を向かわせよう、近隣の鎮守府にも声を掛けろ。貴殿も早急に向かわせるんだ。」
[はっ!]
受話器を乱暴に置き、幸造は編成を考えるべくデスクに向かう。
引き出しから書類を引っ張り出し、叩きつけるように広げ。
「やってくれおったな!私の教鞭から逃げ出した
怒りを顕にしながら、ペンを走らせた。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。