UAが4000を突破してました…。
ありがたい話です、皆さんのおかげです。
ありがとうございます。
それでは、本編どうぞ。
翔鶴と山城を引き連れ、大湊へと向かっていた雪は。
小型船を翔鶴に曳航して貰いながら、船内で焦る心を落ち着かせていた。
「翔鶴、どのくらい掛かりそうだい?」
小型船から身を乗り出し、潮風でも聞こえるよう翔鶴に大声で尋ねる。
訊かれた翔鶴は、隣を駆ける山城に目配せをして確認すると。
「今時点でしたら、三十分足らずで到着できますよ。」
代わりに山城が答えた。
返答を聞くも、雪の焦りは収まらない。
気を紛らわすため、書類にひたすら何かを書き殴っている。
後ろを少し振り返ると、ソレが見えた翔鶴は溜息を一つ吐き。
「提督?そんなに焦っても、私達にも限界はありますよ?」
翔鶴の言葉に、雪は頷きを返す。
その顔は、腑に落ちないとばかりである。
「わかっているつもりだよ…一刻も早く向かわなければ、助かるものも助からなくなってしまうだろう?」
言い分もまたであった。
翔鶴に圧ではなく、拗ねた子供のように返し。
そして頬を膨らませ、そっぽを向いて海を見る。
余程おかしかったのか、翔鶴は笑みを雪に向ける。
更に。
「提督も、年相応のようで良かったです。」
雪を冷やかすとも、茶化すとも取れる一言を放つ。
これを聞いた本人は、勢いよく翔鶴へと視線を戻す。
「ちょっと待つんだ翔鶴、それはどういう意味だい?」
翔鶴は尚もコロコロと笑う。
「いえ、何でもありません。」
そう言って雪を見ながら、母のような眼差しを向けた。
やり取りを、横目で見守っていた山城は。
「海野少将にも、そんな一面があるんですね?」
呆気に取られつつも、生暖かい視線を雪に浴びせる。
艦娘二人に遊ばれ、雪は反撃に出る。
「私を弄ぶ暇があるのなら、速度の一つでも上げてくれ。」
そう返した雪の顔は、悪戯めいた少女の笑顔そのもの。
「あらあら、提督?まるで年端のいかぬ少女の顔で、酷なことを仰るんですね。残念ながら、隣の山城さんは戦艦ですよ?これ以上の速度は厳しいです。」
「ふ、不幸だわ…。高速戦艦じゃないことを、ここまで恨むことになるなんて…。あぁ…姉さま…私たちは不幸そのものなんですね…。」
翔鶴に揶揄され、額に手を当てて。
山城は、不幸だと口癖である愚痴をこぼす。
「まぁまぁ、山城さん。提督に少し、意地悪しちゃった私たちが悪かったのですから。」
肩を落とす山城を元気付けようと、翔鶴は舌を出し困ったような笑顔を見せる。
"不幸"だと、常々嘆いている山城がその程度で立ち直ることもなく。
「翔鶴さん…遅くてごめんなさいね…。」
「もう…提督のせいですからね?!」
中々気を取り戻さない山城を怒るのではなく、雪に翔鶴は矛先を向けた。
如何せん、腑に落ちない雪は。
「元はと言えば…。」
と、腕を組みながら文句を言おうとした矢先。
「海野少将、翔鶴さん、私達の鎮守府が見えて…。」
鎮守府が見えるなり、山城は声を上げたのも束の間。
その鎮守府の光景を目にし、唖然として固まったかと思えば。
「な、何よ…あれ…!提督…!姉さま…!」
無我夢中で港へと接岸し、山城は駆け出した。
翔鶴も雪も港へと降り、その後ろを駆け足で付いていく。
「これは…。」
「え…?」
鎮守府に着いた三人が、目にした光景。
崩れ落ちた外壁。
砲弾が何発も当たったであろう、セメントが砕けた演習場のプール。
遠目からでもわかる、血塗られ赤くなった窓ガラス。
鎮守府の正門に近づけば、ガラス片と外壁がいくつも散らばっている。
雪が上を見れば、吹き飛ばされたと一目でわかる部屋がその目に映る。
(
惨状を見た雪は、即座に指示を出す。
「翔鶴!至急、上の部屋へ行くぞ!あれは恐らく執務室だ!山城は他の艦娘がいないか、鎮守府中を探してくれ!」
「「はっ!」」
「深海棲艦がいるかもしれない、気は抜かずに!」
「わかりました!」
山城を送り出し、雪が即座に翔鶴と共にその部屋へと駆ける。
階段を駆け上がり、開け放たれたままのドアを潜れば。
二人は、言葉を詰まらせた。
外もさながら、部屋では。
「柳…!」
砂紋が頭を強打したのか、血を流しながら意識を手放していた。
雪が応急処置を施そうと、軍服を脱ぎ砂紋の頭に巻きつける。
その両隣には。
「扶桑さん!如月さん!」
「「っ…うぅ…。」」
大破状態で砂紋を庇うように、艦娘二人が倒れている。
翔鶴は艦娘二人を肩で背負い。
「提督、取り敢えず小型船にお二人を運んできます!」
「あぁ、頼むよ。
「はっ!」
翔鶴が駆け下りて行く足音だけ耳に入れ、砂紋の応急処置を終えれば。
雪は執務室の電話から、父である龍玄に連絡を試みる。
「父上、どうか出てください。」
拳を握りしめ、呼出音が鳴り止むのを待つ。
[こちら呉鎮守府。]
「父上!!」
受話器越しに聞こえた龍玄の声に安堵し、雪は思わず声を上げてしまう。
[どうしたんだ?そんなに俺が恋しかったか?]
曲がりなりにも、娘に恋しがられた龍玄。
状況も知らずに軽口を返したが、何かを感じ取り。
口を噤み、雪の出方を待つ。
「父上、いま訳があって大湊に居るのですが…。」
[大湊?!何故そんなところに居るんだ?!]
龍玄は雪が大湊に居ると知り、驚愕の声を出す。
「柳中佐の鎮守府が襲撃を受けたようで、柳中佐及び艦娘達も負傷しております。」
[何故、襲撃を受けた大湊に…お前がそんなに早く駆けつけられたんだ?]
龍玄は声色を変え、元より知っていたのでは無いかと探りを入れる。
娘と言えど軍人である以上、
雪もそれを理解した上で、電話だというのに姿勢を正し。
「大湊警備府所属の山城が、舞鶴鎮守府へと単艦出撃にて救援要請に来たのが発端です。到着した山城は大破だったため、入渠を終えてから向かったところ、このような惨劇です。」
「海野少将!」
雪が言葉を言い切るなり、大声で山城が入ってくる。
即座に振り返り、雪は山城に問いかける。
「艦娘は?」
「
山城の答えを待たずに、雪が受話器を手で覆い。
「急いで船に運んでくれ!私の乗ってきた小型船だ!」
「はっ!」
雪が指示を出し、そのまま山城は部屋を後にすると。
受話器を耳に再び当て、龍玄へと話を戻す。
「お待たせしました。」
[何も気にすることはない。お前は今、出来ることの最大限をしているだけだ。しかしながら、俺に連絡くらいしてくれても良かったんじゃないのか?]
龍玄には何も連絡していなかったと、雪は今になって思い出し。
「慌てていたもので…失念していました…。」
反省の色を見せる。
龍玄は、怒りを見せるわけでもなく。
[いや…わかっている、単にお前が心配なだけだ。こうして今、連絡をくれているわけだしな。それよりもだ、
雪は問われ、躊躇することなく。
「式条羽織とその妹でしょう。失踪前に聞いていた元帥の予想が正しければ…あの
そう進言した。
しかし、雪は自身の失敗に未だ気付いていない。
龍玄は会話の中で、それを読み取っていた。
よって。
[…艦娘を横須賀に連れていく算段は良いだろう。しかし、お前はどうやって移動するんだ?舞鶴まで戻らねばならんだろ?舞鶴からもう一度呼ぶのか?]
そう突き付けた。
雪はソレに、焦る様子を見せることもなく。
聞かれるであろうと
「舞鶴から呼ばなくとも、
戸惑うことなくそう答えた。
[建造?!ドックは崩壊してるんだろ?!]
山城と雪の掛け合いを聞いていた龍玄は。
無理があるとばかりに、思わず怒鳴るように大声を出す。
「壊れているのは、
雪が言えば、龍玄は少し間を空けて。
[戦力増強にもなるか…。]
納得はしたが、その声に不服を混ぜる。
そこで龍玄は、肝心でもある雪の作戦を聞くことにした。
「襲撃を受けた、ということはもう一度侵攻があってもおかしくない。お前は
雪が口を開こうとした時、翔鶴が息を切らせながら入ってくる。
「はぁ…はぁ…!っ…て、提督…!」
「全員運び終わったのかい?翔鶴、取り敢えず息を整えるんだ。」
落ち着かせるように、雪が横目で焦燥している翔鶴を見ながら言うが。
何かあったのか聞く耳を持たず、翔鶴は膝に手をつき激しく首を振る。
[気にせずそのままでいい、俺も話を聞こう。]
ただならぬ様子を悟って、龍玄は言う。
「は、運び終わりました…っ!それより、舞鶴にも…
「な…っ!」
[舞鶴もだと…!?]
翔鶴の報告で、その場の空気が凍りつく。
雪は焦る脳内をフル回転させ、震える手を伸ばし。
船で書き殴っていた紙を、翔鶴に手渡す。
「柳を運んだ後で建造ドックが動くならば、この通りに建造して欲しい。」
「け、建造ですか?」
「あぁ、艦種は戦艦二隻。
申し訳なさそうな雪の顔と、その震える手。
翔鶴はソレ以上、考える余地など無く。
「わ、わかりました…!」
返事だけをして、翔鶴が再び執務室を去ろうとした時。
受話器から龍玄が、その足を呼び止める。
[翔鶴、待つんだ。]
「海野大将?」
龍玄の声に気付き、翔鶴は止まる。
[上官の指示と言えども、無計画に動くのは些かどうかと思うぞ?建造したとして、
龍玄が語りかけるように、翔鶴に問う。
翔鶴は雪の右手を真っ直ぐに。
一切の曇り無い瞳で、受話器を見つめ。
「私は、
[…うむ。]
「やはり、連れてくるのは
翔鶴の意気込みに、龍玄はソレ以上何も言えなくなっていた。
それだけ言い残すと感嘆している雪に敬礼し、翔鶴は颯爽と駆け出した。
[ならば、
再び二人になり、龍玄が雪に問いかける。
[この局面、どう打開する?]
その声は、重く静かに雪の耳に響く。
重圧を受けながらも、自身の経験則から答えを絞り出そうとする。
「まずは舞鶴の編成をこの場で考え、迎え撃つ為に作戦を同時進行します。」
[悪くはない考えだ。しかし、それでは間に合わないんじゃないのか?聞いている限りでは、切羽の詰まっている状況だ、よく考えるんだ。]
雪は額に手を当て、受話器片手に。
一枚の紙を引き出しから取り、ペンを走らせる。
しかし、そのペンは途中で止まる。
(考えろ、打開策…
脳内を埋め尽くす焦りと、緊迫感。
顔にまで、それは顕れている。
苛まれ阻まれ、ペンを持つ右手は一向に進まない。
答えの行き詰まった雪の耳に、龍玄が諭すように。
[
「ち、父上…。」
龍玄に激励され、雪は先程までの紙を丸める。
そして新しく紙を引っ張り出し、今度は止まること無く再び書き殴る。
龍玄は受話器越しで、ペンの音だけを聞いて静かに待つ。
数分後、出来上がるなり。
その紙を見ながら、龍玄に読み上げる。
「作戦を訂正します。
[ほう、
雪の考えに好奇心からか、龍玄は言葉で試す。
動きと編成、作戦と方法。
全てをその頭に思い浮かべた雪は。
「舞鶴は、私の陣地です。自分の持ち場を守るのは、当然でしょう?真っ向勝負を…いえ、真正面で
そう口角を上げ、目を爛々と輝かせて答える。
艦娘達が居れば今の雪を、恐々として見るであろう。
その猟奇的なまでの目。
獲物を屠るため、計算の限りを尽くした紙。
それらは、龍玄の発破の効果ですらある。
[気に入った、その作戦ならば良いだろう…またかけ直す。]
その声と共に電話が終わり、雪は静かに受話器を置く。
「いよいよ、私の死も近づいてきたかな。」
意味深な発言と共に。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。