この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
UAが4000を突破してました…。
ありがたい話です、皆さんのおかげです。
ありがとうございます。

それでは、本編どうぞ。


Episode-22

翔鶴と山城を引き連れ、大湊へと向かっていた雪は。

小型船を翔鶴に曳航して貰いながら、船内で焦る心を落ち着かせていた。

 

「翔鶴、どのくらい掛かりそうだい?」

 

小型船から身を乗り出し、潮風でも聞こえるよう翔鶴に大声で尋ねる。

訊かれた翔鶴は、隣を駆ける山城に目配せをして確認すると。

 

「今時点でしたら、三十分足らずで到着できますよ。」

 

代わりに山城が答えた。

返答を聞くも、雪の焦りは収まらない。

気を紛らわすため、書類にひたすら何かを書き殴っている。

後ろを少し振り返ると、ソレが見えた翔鶴は溜息を一つ吐き。

 

「提督?そんなに焦っても、私達にも限界はありますよ?」

 

翔鶴の言葉に、雪は頷きを返す。

その顔は、腑に落ちないとばかりである。

 

「わかっているつもりだよ…一刻も早く向かわなければ、助かるものも助からなくなってしまうだろう?」

 

言い分もまたであった。

翔鶴に圧ではなく、拗ねた子供のように返し。

そして頬を膨らませ、そっぽを向いて海を見る。

余程おかしかったのか、翔鶴は笑みを雪に向ける。

更に。

 

「提督も、年相応のようで良かったです。」

 

雪を冷やかすとも、茶化すとも取れる一言を放つ。

これを聞いた本人は、勢いよく翔鶴へと視線を戻す。

 

「ちょっと待つんだ翔鶴、それはどういう意味だい?」

 

翔鶴は尚もコロコロと笑う。

 

「いえ、何でもありません。」

 

そう言って雪を見ながら、母のような眼差しを向けた。

やり取りを、横目で見守っていた山城は。

 

「海野少将にも、そんな一面があるんですね?」

 

呆気に取られつつも、生暖かい視線を雪に浴びせる。

艦娘二人に遊ばれ、雪は反撃に出る。

 

「私を弄ぶ暇があるのなら、速度の一つでも上げてくれ。」

 

そう返した雪の顔は、悪戯めいた少女の笑顔そのもの。

 

「あらあら、提督?まるで年端のいかぬ少女の顔で、酷なことを仰るんですね。残念ながら、隣の山城さんは戦艦ですよ?これ以上の速度は厳しいです。」

 

「ふ、不幸だわ…。高速戦艦じゃないことを、ここまで恨むことになるなんて…。あぁ…姉さま…私たちは不幸そのものなんですね…。」

 

翔鶴に揶揄され、額に手を当てて。

山城は、不幸だと口癖である愚痴をこぼす。

 

「まぁまぁ、山城さん。提督に少し、意地悪しちゃった私たちが悪かったのですから。」

 

肩を落とす山城を元気付けようと、翔鶴は舌を出し困ったような笑顔を見せる。

"不幸"だと、常々嘆いている山城がその程度で立ち直ることもなく。

 

「翔鶴さん…遅くてごめんなさいね…。」

 

「もう…提督のせいですからね?!」

 

中々気を取り戻さない山城を怒るのではなく、雪に翔鶴は矛先を向けた。

如何せん、腑に落ちない雪は。

 

「元はと言えば…。」

 

と、腕を組みながら文句を言おうとした矢先。

 

「海野少将、翔鶴さん、私達の鎮守府が見えて…。」

 

鎮守府が見えるなり、山城は声を上げたのも束の間。

その鎮守府の光景を目にし、唖然として固まったかと思えば。

 

「な、何よ…あれ…!提督…!姉さま…!」

 

無我夢中で港へと接岸し、山城は駆け出した。

翔鶴も雪も港へと降り、その後ろを駆け足で付いていく。

 

「これは…。」

 

「え…?」

 

鎮守府に着いた三人が、目にした光景。

 

崩れ落ちた外壁。

砲弾が何発も当たったであろう、セメントが砕けた演習場のプール。

遠目からでもわかる、血塗られ赤くなった窓ガラス。

鎮守府の正門に近づけば、ガラス片と外壁がいくつも散らばっている。

雪が上を見れば、吹き飛ばされたと一目でわかる部屋がその目に映る。

 

()()()()()()()()…!)

 

惨状を見た雪は、即座に指示を出す。

 

「翔鶴!至急、上の部屋へ行くぞ!あれは恐らく執務室だ!山城は他の艦娘がいないか、鎮守府中を探してくれ!」

 

「「はっ!」」

 

「深海棲艦がいるかもしれない、気は抜かずに!」

 

「わかりました!」

 

山城を送り出し、雪が即座に翔鶴と共にその部屋へと駆ける。

階段を駆け上がり、開け放たれたままのドアを潜れば。

二人は、言葉を詰まらせた。

外もさながら、部屋では。

 

「柳…!」

 

砂紋が頭を強打したのか、血を流しながら意識を手放していた。

雪が応急処置を施そうと、軍服を脱ぎ砂紋の頭に巻きつける。

その両隣には。

 

「扶桑さん!如月さん!」

 

「「っ…うぅ…。」」

 

大破状態で砂紋を庇うように、艦娘二人が倒れている。

翔鶴は艦娘二人を肩で背負い。

 

「提督、取り敢えず小型船にお二人を運んできます!」

 

「あぁ、頼むよ。()()()()()()()()()()()、柳も乗せないといけない。」

 

「はっ!」

 

翔鶴が駆け下りて行く足音だけ耳に入れ、砂紋の応急処置を終えれば。

雪は執務室の電話から、父である龍玄に連絡を試みる。

 

「父上、どうか出てください。」

 

拳を握りしめ、呼出音が鳴り止むのを待つ。

 

[こちら呉鎮守府。]

 

「父上!!」

 

受話器越しに聞こえた龍玄の声に安堵し、雪は思わず声を上げてしまう。

 

[どうしたんだ?そんなに俺が恋しかったか?]

 

曲がりなりにも、娘に恋しがられた龍玄。

状況も知らずに軽口を返したが、何かを感じ取り。

口を噤み、雪の出方を待つ。

 

「父上、いま訳があって大湊に居るのですが…。」

 

[大湊?!何故そんなところに居るんだ?!]

 

龍玄は雪が大湊に居ると知り、驚愕の声を出す。

 

「柳中佐の鎮守府が襲撃を受けたようで、柳中佐及び艦娘達も負傷しております。」

 

[何故、襲撃を受けた大湊に…お前がそんなに早く駆けつけられたんだ?]

 

龍玄は声色を変え、元より知っていたのでは無いかと探りを入れる。

娘と言えど軍人である以上、()()()()()()()()()()()()()()

雪もそれを理解した上で、電話だというのに姿勢を正し。

 

「大湊警備府所属の山城が、舞鶴鎮守府へと単艦出撃にて救援要請に来たのが発端です。到着した山城は大破だったため、入渠を終えてから向かったところ、このような惨劇です。」

 

「海野少将!」

 

雪が言葉を言い切るなり、大声で山城が入ってくる。

即座に振り返り、雪は山城に問いかける。

 

「艦娘は?」

 

()()()()()()()瑞鶴さん、潮さん、五月雨さん、睦月さんを発見しました…全員大破です。恐らく、襲撃に巻き…。」

 

山城の答えを待たずに、雪が受話器を手で覆い。

 

「急いで船に運んでくれ!私の乗ってきた小型船だ!」

 

「はっ!」

 

雪が指示を出し、そのまま山城は部屋を後にすると。

受話器を耳に再び当て、龍玄へと話を戻す。

 

「お待たせしました。」

 

[何も気にすることはない。お前は今、出来ることの最大限をしているだけだ。しかしながら、俺に連絡くらいしてくれても良かったんじゃないのか?]

 

龍玄には何も連絡していなかったと、雪は今になって思い出し。

 

「慌てていたもので…失念していました…。」

 

反省の色を見せる。

龍玄は、怒りを見せるわけでもなく。

 

[いや…わかっている、単にお前が心配なだけだ。こうして今、連絡をくれているわけだしな。それよりもだ、()()()()()()()()()()()()()?]

 

雪は問われ、躊躇することなく。

 

「式条羽織とその妹でしょう。失踪前に聞いていた元帥の予想が正しければ…あの兄妹(きょうだい)が何か企てたとしか。それから翔鶴と山城を、横須賀に向かわせる予定です。ドックの広さもありますから。」

 

そう進言した。

しかし、雪は自身の失敗に未だ気付いていない。

龍玄は会話の中で、それを読み取っていた。

よって。

 

[…艦娘を横須賀に連れていく算段は良いだろう。しかし、お前はどうやって移動するんだ?舞鶴まで戻らねばならんだろ?舞鶴からもう一度呼ぶのか?]

 

そう突き付けた。

雪はソレに、焦る様子を見せることもなく。

聞かれるであろうと()()()()()()のか、()()()()()なのか。

 

「舞鶴から呼ばなくとも、()()()()()()()()()()()()()。」

 

戸惑うことなくそう答えた。

 

[建造?!ドックは崩壊してるんだろ?!]

 

山城と雪の掛け合いを聞いていた龍玄は。

無理があるとばかりに、思わず怒鳴るように大声を出す。

 

「壊れているのは、()()()()()()()。確認はしてませんが、まだ動けば或いは。」

 

雪が言えば、龍玄は少し間を空けて。

 

[戦力増強にもなるか…。]

 

納得はしたが、その声に不服を混ぜる。

そこで龍玄は、肝心でもある雪の作戦を聞くことにした。

 

「襲撃を受けた、ということはもう一度侵攻があってもおかしくない。お前は()()()()()()()()?」

 

雪が口を開こうとした時、翔鶴が息を切らせながら入ってくる。

 

「はぁ…はぁ…!っ…て、提督…!」

 

「全員運び終わったのかい?翔鶴、取り敢えず息を整えるんだ。」

 

落ち着かせるように、雪が横目で焦燥している翔鶴を見ながら言うが。

何かあったのか聞く耳を持たず、翔鶴は膝に手をつき激しく首を振る。

 

[気にせずそのままでいい、俺も話を聞こう。]

 

ただならぬ様子を悟って、龍玄は言う。

 

「は、運び終わりました…っ!それより、舞鶴にも…()()()()()()()()()迫ってきているとの情報を…大淀さんより通信がありました…!!」

 

「な…っ!」

 

[舞鶴もだと…!?]

 

翔鶴の報告で、その場の空気が凍りつく。

雪は焦る脳内をフル回転させ、震える手を伸ばし。

船で書き殴っていた紙を、翔鶴に手渡す。

 

「柳を運んだ後で建造ドックが動くならば、この通りに建造して欲しい。」

 

「け、建造ですか?」

 

「あぁ、艦種は戦艦二隻。()()()()?」

 

申し訳なさそうな雪の顔と、その震える手。

翔鶴はソレ以上、考える余地など無く。

 

「わ、わかりました…!」

 

返事だけをして、翔鶴が再び執務室を去ろうとした時。

受話器から龍玄が、その足を呼び止める。

 

[翔鶴、待つんだ。]

 

「海野大将?」

 

龍玄の声に気付き、翔鶴は止まる。

 

[上官の指示と言えども、無計画に動くのは些かどうかと思うぞ?建造したとして、()()()()()()()()()()()()()()?今こうしている間に、舞鶴にも侵攻されているんだ。建造して増やしたとて、その戦力など高が知れているだろう?]

 

龍玄が語りかけるように、翔鶴に問う。

翔鶴は雪の右手を真っ直ぐに。

一切の曇り無い瞳で、受話器を見つめ。

 

「私は、()()()()同じ過ちなど望んでおりません。提督が建造しろ(やれ)と仰るのなら、それを呑むだけです。この人に、何年付いてきているとお思いですか?()()()()()()()()()()…。いえ、だからこそ!零君と同じように、私も前を向くだけです!私に出来うることを、提督は指示しているだけ!それならば、私は遂行するのみです!たとえ少ない戦力だとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

[…うむ。]

 

「やはり、連れてくるのは()()()()()()()()()。」

 

翔鶴の意気込みに、龍玄はソレ以上何も言えなくなっていた。

それだけ言い残すと感嘆している雪に敬礼し、翔鶴は颯爽と駆け出した。

 

[ならば、()()()()。]

 

再び二人になり、龍玄が雪に問いかける。

 

[この局面、どう打開する?]

 

その声は、重く静かに雪の耳に響く。

重圧を受けながらも、自身の経験則から答えを絞り出そうとする。

 

「まずは舞鶴の編成をこの場で考え、迎え撃つ為に作戦を同時進行します。」

 

[悪くはない考えだ。しかし、それでは間に合わないんじゃないのか?聞いている限りでは、切羽の詰まっている状況だ、よく考えるんだ。]

 

雪は額に手を当て、受話器片手に。

一枚の紙を引き出しから取り、ペンを走らせる。

しかし、そのペンは途中で止まる。

 

(考えろ、打開策…()()()()()()()()()()()…。)

 

脳内を埋め尽くす焦りと、緊迫感。

顔にまで、それは顕れている。

苛まれ阻まれ、ペンを持つ右手は一向に進まない。

答えの行き詰まった雪の耳に、龍玄が諭すように。

 

[()()()()()()()()()()()()()()()()()。いいか?いま、その場には確かにお前しか居ない。だが、こうして話を聞いている人間もいるんだ(お前は一人じゃない)。俺達を頼るのも手だろう?心配は要らん、元帥権限を今は持ち合わせている。島永大将にも俺から応援を要請する、その上で答えを導き出すんだ。難しく考えるなよ?お前は自慢の娘だ。]

 

「ち、父上…。」

 

龍玄に激励され、雪は先程までの紙を丸める。

そして新しく紙を引っ張り出し、今度は止まること無く再び書き殴る。

龍玄は受話器越しで、ペンの音だけを聞いて静かに待つ。

数分後、出来上がるなり。

その紙を見ながら、龍玄に読み上げる。

 

「作戦を訂正します。()()()()の艦隊を舞鶴に向かわせ、道中の敵艦隊を撃破しながら進軍。舞鶴の艦隊編成はもう書き上げたので、翔鶴に無線で大淀に指示を出させます。次に島永大将の艦隊ですが、こちらは大湊の残党哨戒をお願いしたいです。」

 

[ほう、()()()()()()()()()()()()?]

 

雪の考えに好奇心からか、龍玄は言葉で試す。

動きと編成、作戦と方法。

全てをその頭に思い浮かべた雪は。

 

「舞鶴は、私の陣地です。自分の持ち場を守るのは、当然でしょう?真っ向勝負を…いえ、真正面で打ち負かし(叩き伏せ)ます。」

 

そう口角を上げ、目を爛々と輝かせて答える。

艦娘達が居れば今の雪を、恐々として見るであろう。

その猟奇的なまでの目。

獲物を屠るため、計算の限りを尽くした紙。

それらは、龍玄の発破の効果ですらある。

 

[気に入った、その作戦ならば良いだろう…またかけ直す。]

 

その声と共に電話が終わり、雪は静かに受話器を置く。

 

「いよいよ、私の死も近づいてきたかな。」

 

意味深な発言と共に。

 

 




如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。
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