今回も上手いこと進むかどうか…。
それでは、本編どうぞ。
一人の中将である男が、港で潮風を浴びていた。
両腕を上げ、大きく伸びをするなり。
「いい天気だお。」
何処かで聞いたことのあるような、不思議な語尾で呟く。
腰に下げている軍刀は、サーベルではなく。
日本刀に似ながら、大太刀でもない
その軍刀の柄を掴みながら。
「元帥が生きてる…。沖崎、よく見つけたお。でも、俺でなく…島永さんに早く教えてやるべきだお。これを真っ先に聞いた俺が、
中将は、刀をゆっくりと抜く。
そして刀身を照らすように持ち上げる。
「元帥、生きていて良かったです。
幾分か眺めた後、鞘に納め。
俯きながら大きく息を吐く。
「
目つきは鋭く、その顔は
見かけこそ大人びているが、声は若さを
「どうやら、
男の口にする"お前"が誰を指すものなのか、それは本人のみぞ知る。
港で暫く海を眺めていると、足音に気が付き振り返る。
足音の主は中将の顔を、不安そうに見つめながら。
「提督…その…。」
そう切り出され、中将は不思議そうに小首を傾げる。
しかし、身体を震わせて中々言い出さない。
中々言葉を出さないことに痺れを切らし、中将は口を開こうとして。
波間に揺れる自身の顔つきに気付き、"やってしまった"とばかりに。
「お?神威、どうしたんだお?要件があるなら、勿体ぶらずに言うんだお。」
艦娘、
怒気を含んでいないとわかり、気が休まったのか神威が
「大湊に、深海棲艦の大規模艦隊が向かい…その余波が舞鶴にも向かったとの伝達がありました。」
「それで?」
続きは無いのかと、至極穏やかに訊く。
「大湊へと向かった敵艦隊が警備府を襲撃。その後、撤退ではなくそのまま敵艦隊は、舞鶴へと侵攻を始めたのでは無いかと、海野大将より憶測を立てた上での連絡がありました。」
事の発端を聞いた中将は、考える。
(なんで…大湊なんだ?主力の鎮守府から狙うなら、いざ知らず。)
中将は頭を悩ませていた。
考えているうちに、別のことが過ぎる。
勢いよく神威に近づき。
「雪ちゃん達は無事なのかお?!」
両肩を掴み、雪の安否を確認する。
その勢いに
「はい、海野少将は大湊に居ますが無事は確認出来たと。ただ、柳中佐は…意識不明とのことで、横須賀に運ばれるところだそうです…。あ、それと舞鶴で預かっていた少年ですが、横須賀の軍学校に入学したと、横須賀演習から帰投した方々が言ってました。」
神威の報告で、中将は零を思い出す。
『俺も大人になったら、艦娘と一緒に戦いたい!その為に、今は勉強しなきゃいけないんだ…勿論この先も…だから、恋さんも色んなこと、いっぱい教えてね!』
(まさか、
"何年前だろうか"、と記憶を辿り。
懐かしみと人の成長の早さに、少しばかり口元を緩める。
そうして胸中で呟いたあと、誰に聞かせるわけでもなく。
「柳は島永さんに任せよう。雪ちゃんは無事なら、頭脳があるし何とかしちゃうだろうね。零君は、元気なら良かったお。…ん?あの歳で軍学校?いきなりの
独り言で、一人で勝手に納得した中将。
口をぽっかりと空け。
その姿を、神威は固まって見るほか無かった。
「お、すまないお、情報ありがとうだお。演習から戻ったってことは、大鳳も居るのかお?」
気を取り直し、中将が訊けば。
神威は敬礼を交え、姿勢を正す。
「はっ。大鳳さんをはじめとする主力は、全員揃ってます。」
それを聞いて、中将は真剣な表情で頷く。
「じゃあ、編成は急いで考えるお。神威は主戦力達に入渠と飯を済ませたら、執務室に集まるように伝達してくれお。」
神威にそれだけを伝えると、中将は執務室へと歩き出す。
歩ませる足は静かに、厳かに。
後ろ姿を見送りながら、神威は神妙な
(あの
その考えは、決して本人にバレてはならないと、唇を強く噛み締める。
執務室に向かった中将、もとい岬ノ宮恋は。
デスクに腰掛け、深呼吸をして顔を
「まったく、腑に落ちない攻め方をしてくる。大湊っちゃあ、まだ編成途中だろ?柳ねぇ…つい最近、中佐になって
そう予想を立て、編成のために書類を広げる。
「姫級だの鬼級だのが居たら、相当キツいだろうしな…ガチガチに編成しといてやるか。」
一人であるが為に口調を戻し、頭を掻きながらペンを握り走らせる。
――――ジリリリリリリ!!
「うお?!誰だよ…って、大体はわかるけどな。」
自身の横で鳴り響く電話に、少々驚きながらも。
悪態をつきながら、恋は受話器を持ち上げる。
「こちら佐伯湾泊地ぃ。」
語尾に怒りを混ぜ、なんとも適当な返事をする。
電話の主は、ため息混じりに。
[こちら、呉鎮守府。]
「やっぱりだお。」
恋は口角を上げながら、足を組んで机に乗せる。
相手は龍玄であるとわかっていたのか、余裕を見せる。
[なんだ、わかったのか。神威から伝達はされてるか?]
「されてるから出てんだお?聞く限りじゃあ、俺の手も必要かお…というか、俺も参戦せざるを得ないお?んで、
歯ぎしりをしながら、恋が龍玄に尋ねる。
否、責め立てると言ってしまって過言では無い。
恋はそのまま続けて。
「せっかく…元帥の生存が確認できたから、その報告が出来ると思ったのに。」
[待て、
龍玄は生存報告に、驚愕の色を示す。
机を勢いよく叩いたのは、受話器越しの恋にもわかった。
今度はそのまま恋の言葉に、疑問をぶつける。
観念したように、頭を掻きながら。
「どーにもこーにも、深海で囚われているみたいだお。」
恋が呆れたように、"単純だ"と告げる。
[沖崎か。]
それで合点がいったのか、龍玄はボソリと呟く。
更に。
「そうだお、沖崎・ロゼ・フリューゲル。こいつの情報は間違いないお?島永さんにも伝えてないみたいだし。」
そこまで恋が言うと。
恋が肩の力を抜けるように。
もしくは、自然体で話してほしいのか。
[そうか、感謝する…話を戻すが、お前が聞いた通りだ…岬ノ宮。大方、
龍玄の気を遣った言葉が、恋の鼓膜を震わせる。
すると、空気が瞬間的に重くなった。
その空気を醸し出しているのは、他でもない恋である。
まるで、
鬼でも宿したが如く、それでいて冷ややかに。
憤怒を帯びた表情のまま、龍玄に怒涛の疑問を投げつける。
「指宿が向こう側に居るらしいな?アイツが向こうに居る理由が、皆目も見当が付かねぇ。海野、お前に捕縛されたとまでは聞いちゃいるが、
言い切って息を整えながら、受話器を片手に龍玄の言葉を待つ。
ため息が聞こえたあと。
[…指宿は確かに捕縛した。だが、式条が脱獄を手伝った。あぁ、勿論…深海棲艦を使ってな。よって、看守を任せていた相垣大佐が重症を負った。手術は終わったが、
龍玄の掻い摘んだ説明に、恋は納得せざるを得ない。
不敵な笑みを浮かべながら。
「そうかよ、じゃあ急ぐから待ってろ。それと、
[お前のとこの大鳳だと?!]
"大鳳"という名前で、龍玄は驚愕する。
それは聞いている声で、恋にも察せた。
「当たり前だろ?
恋が急激に低い声で、龍玄を
しかし、龍玄は落ち着いたまま。
[なんだ。]
それだけを返す。
恋は鼻で笑ったかと思えば、真剣…否、覚悟を表情に。
「仕留めるぞ。」
鋭利な刃物を獲物に突きつけるかのように。
短く、鋭く、圧をかける。
[あぁ、出来るならそうしよう。]
龍玄も短く答えたのを確認し、恋は受話器を置いた。
「ふぅ…島永大将といい、岬ノ宮といい…何故、あぁも質問攻めをしてくるんだ…。答える俺の身にもなってくれ…。」
各所に連絡を終えた龍玄は、疲れから椅子の背にもたれ大きく息を吐いた。
「しかしまさか、岬ノ宮が出てくるとはな。心強いとも、一波乱起きそうだとも思えるな。」
神妙な顔で、誰も居ない中呟いたかと思えば。
―――コンコン
部屋にノックの音が転がる。
「いいぞ、入れ。」
龍玄がドアに向かって、声をかけると。
艦娘が三人、入ってくる。
「おう、入るぜ!」
「失礼するわぁ。」
「衣笠さんもいるよ。」
「天龍と龍田と…衣笠か。どうしたんだ?」
三人の顔を見て、龍玄は至極不思議そうな顔をする。
天龍が切り出す。
「提督、聞いた話によりゃあ…大湊、相当ヤバいんだろ?遠征から帰ってきた駆逐共が騒いでたぜ…オレ達の出番もあるよな?」
「天龍ちゃん、それじゃ伝わらないわよぉ?大湊に向かう敵艦隊、遠征の子たちも騒いでたわぁ。敵艦隊の大群が、
「で、衣笠さん達、呉所属の出番もあるよね?って聞きたくてね。」
天龍の説明では不足だと、龍田が割って入る。
当の割り込まれた本人はといえば。
面白くなさそうな顔をしながら、膨れっ面を見せる。
それを気にも止めず、衣笠が続いた。
三人の説明で、龍玄は優しく頷きながら。
「なるほどな、話が早くて助かる。いずれにしても、編成に組み込む予定だ。心配は要らん、娘の為にありがとうな。」
そう感謝をすると、照れくさいのを誤魔化すように。
「衣笠さんに至っては、提督の娘さんだし!呉のみんなもやる気よ!」
「そりゃあ、オレも龍田も、雪ちゃんがこんな小さい頃から見てるからな!」
腰に腕を当て、胸を張った衣笠の膝より下に。
天龍が屈みながら、サイズを表すように手を持って行く。
「ちょ、私の脚で!」
「いいじゃねぇか、別に!」
「あらぁ?とても良い脚よぉ?」
笑顔でじゃれ合う三人に。
「元帥も艦娘に手を焼きすぎたな…。では、改めて作戦要項を伝える。」
「「はっ!」」
龍玄が号令をかければ、三人が姿勢を正す。
「敵の大艦隊による大湊襲撃及び、舞鶴への侵攻に伴い、元帥直下所属の各艦を始め、呉鎮守府所属各艦は編成を固め次第、舞鶴防衛支援艦隊として通達する。食事と身支度を、誰が呼ばれても良いように済ませておくよう周知しておけ。」
「「はっ!」」
龍玄の命令に、敬礼を示したあとで三人は執務室を出る。
ドアが閉まったのを確認し、龍玄は目を瞑る。
「疲れたな、少しばかり寝るか。」
元帥の代役と大将、一人二役の僅かなひととき。
外は日没もまだだというのに、龍玄は疲れ果てていた。
「元帥…生きてるなら、早く戻って来てくれ…俺が先に過労で死んでしまう…。」
強靭な身体で、そんな弱音を吐いてしまっていた。
この先に待っているのは、海軍を揺るがす大戦になるとも知らずに。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。