この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
今回も上手いこと進むかどうか…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-23

一人の中将である男が、港で潮風を浴びていた。

両腕を上げ、大きく伸びをするなり。

 

「いい天気だお。」

 

何処かで聞いたことのあるような、不思議な語尾で呟く。

腰に下げている軍刀は、サーベルではなく。

日本刀に似ながら、大太刀でもない長巻(ながまき)と呼称される代物。

その軍刀の柄を掴みながら。

 

「元帥が生きてる…。沖崎、よく見つけたお。でも、俺でなく…島永さんに早く教えてやるべきだお。これを真っ先に聞いた俺が、()()()()()()()()()()()()()。」

 

中将は、刀をゆっくりと抜く。

そして刀身を照らすように持ち上げる。

 

「元帥、生きていて良かったです。()()()()()()()()()()()()()()()()、今でも悔やんでます。ですが、俺は死んで詫びる気なんてありません。」

 

幾分か眺めた後、鞘に納め。

俯きながら大きく息を吐く。

 

()()()()()()()()()()()()()。」

 

目つきは鋭く、その顔は(まさ)に鬼の形相。

見かけこそ大人びているが、声は若さを()っている。

 

「どうやら、指宿(お前)も式条側に付いたんだってな…。()()()()()()()()()()()()()?ま、始末は俺が付けてやるよ…()()()()()()。」

 

男の口にする"お前"が誰を指すものなのか、それは本人のみぞ知る。

港で暫く海を眺めていると、足音に気が付き振り返る。

足音の主は中将の顔を、不安そうに見つめながら。

 

「提督…その…。」

 

そう切り出され、中将は不思議そうに小首を傾げる。

しかし、身体を震わせて中々言い出さない。

中々言葉を出さないことに痺れを切らし、中将は口を開こうとして。

()()()()()()、再び振り返り海面を見る。

波間に揺れる自身の顔つきに気付き、"やってしまった"とばかりに。

 

「お?神威、どうしたんだお?要件があるなら、勿体ぶらずに言うんだお。」

 

艦娘、神威(かもい)に言いながら、目つきを穏やかなモノへと瞬時に戻す。

怒気を含んでいないとわかり、気が休まったのか神威が(ようや)く切り出す。

 

「大湊に、深海棲艦の大規模艦隊が向かい…その余波が舞鶴にも向かったとの伝達がありました。」

 

「それで?」

 

続きは無いのかと、至極穏やかに訊く。

 

「大湊へと向かった敵艦隊が警備府を襲撃。その後、撤退ではなくそのまま敵艦隊は、舞鶴へと侵攻を始めたのでは無いかと、海野大将より憶測を立てた上での連絡がありました。」

 

事の発端を聞いた中将は、考える。

 

(なんで…大湊なんだ?主力の鎮守府から狙うなら、いざ知らず。)

 

中将は頭を悩ませていた。

考えているうちに、別のことが過ぎる。

勢いよく神威に近づき。

 

「雪ちゃん達は無事なのかお?!」

 

両肩を掴み、雪の安否を確認する。

その勢いに()され、神威は若干顔を朱に染めながら答える。

 

「はい、海野少将は大湊に居ますが無事は確認出来たと。ただ、柳中佐は…意識不明とのことで、横須賀に運ばれるところだそうです…。あ、それと舞鶴で預かっていた少年ですが、横須賀の軍学校に入学したと、横須賀演習から帰投した方々が言ってました。」

 

神威の報告で、中将は零を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺も大人になったら、艦娘と一緒に戦いたい!その為に、今は勉強しなきゃいけないんだ…勿論この先も…だから、恋さんも色んなこと、いっぱい教えてね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさか、()()()()()本当になるとはなぁ…。)

 

"何年前だろうか"、と記憶を辿り。

懐かしみと人の成長の早さに、少しばかり口元を緩める。

そうして胸中で呟いたあと、誰に聞かせるわけでもなく。

 

「柳は島永さんに任せよう。雪ちゃんは無事なら、頭脳があるし何とかしちゃうだろうね。零君は、元気なら良かったお。…ん?あの歳で軍学校?いきなりの()()だね?!あ、まぁ、あの人の息子だもんなぁ…。」

 

独り言で、一人で勝手に納得した中将。

口をぽっかりと空け。

その姿を、神威は固まって見るほか無かった。

 

「お、すまないお、情報ありがとうだお。演習から戻ったってことは、大鳳も居るのかお?」

 

気を取り直し、中将が訊けば。

神威は敬礼を交え、姿勢を正す。

 

「はっ。大鳳さんをはじめとする主力は、全員揃ってます。」

 

それを聞いて、中将は真剣な表情で頷く。

 

「じゃあ、編成は急いで考えるお。神威は主戦力達に入渠と飯を済ませたら、執務室に集まるように伝達してくれお。」

 

神威にそれだけを伝えると、中将は執務室へと歩き出す。

歩ませる足は静かに、厳かに。

後ろ姿を見送りながら、神威は神妙な面持(おもも)ちで。

 

(あの岬ノ宮恋(みさきのみやこい)中将ともあろう方が、ここまで必死になるなんて…厳しい戦いになりそうね。)

 

 

その考えは、決して本人にバレてはならないと、唇を強く噛み締める。

 

 

 

 

 

 

 

執務室に向かった中将、もとい岬ノ宮恋は。

デスクに腰掛け、深呼吸をして顔を(しか)めながら。

 

「まったく、腑に落ちない攻め方をしてくる。大湊っちゃあ、まだ編成途中だろ?柳ねぇ…つい最近、中佐になって警備府(あそこ)を任されただけじゃ…あ?連中(やつら)はそれを狙いやがったか?」

 

そう予想を立て、編成のために書類を広げる。

 

「姫級だの鬼級だのが居たら、相当キツいだろうしな…ガチガチに編成しといてやるか。」

 

一人であるが為に口調を戻し、頭を掻きながらペンを握り走らせる。

 

 

 

――――ジリリリリリリ!!

 

 

 

「うお?!誰だよ…って、大体はわかるけどな。」

 

自身の横で鳴り響く電話に、少々驚きながらも。

悪態をつきながら、恋は受話器を持ち上げる。

 

「こちら佐伯湾泊地ぃ。」

 

語尾に怒りを混ぜ、なんとも適当な返事をする。

電話の主は、ため息混じりに。

 

[こちら、呉鎮守府。]

 

「やっぱりだお。」

 

恋は口角を上げながら、足を組んで机に乗せる。

相手は龍玄であるとわかっていたのか、余裕を見せる。

 

[なんだ、わかったのか。神威から伝達はされてるか?]

 

「されてるから出てんだお?聞く限りじゃあ、俺の手も必要かお…というか、俺も参戦せざるを得ないお?んで、()()()()()()()、奴らは攻め込んで来やがったんだお?」

 

歯ぎしりをしながら、恋が龍玄に尋ねる。

否、責め立てると言ってしまって過言では無い。

恋はそのまま続けて。

 

「せっかく…元帥の生存が確認できたから、その報告が出来ると思ったのに。」

 

[待て、()()()()()()()()()?!確実か?!何処にいるんだ?!]

 

龍玄は生存報告に、驚愕の色を示す。

机を勢いよく叩いたのは、受話器越しの恋にもわかった。

今度はそのまま恋の言葉に、疑問をぶつける。

観念したように、頭を掻きながら。

 

「どーにもこーにも、深海で囚われているみたいだお。」

 

恋が呆れたように、"単純だ"と告げる。

 

[沖崎か。]

 

それで合点がいったのか、龍玄はボソリと呟く。

更に。

 

「そうだお、沖崎・ロゼ・フリューゲル。こいつの情報は間違いないお?島永さんにも伝えてないみたいだし。」

 

そこまで恋が言うと。

恋が肩の力を抜けるように。

もしくは、自然体で話してほしいのか。

 

[そうか、感謝する…話を戻すが、お前が聞いた通りだ…岬ノ宮。大方、()()()()()()()()()()()()()()()()()。何せ、雪も精一杯で()()()()()()()、立てられんような状態だ。あいつ、作戦において横須賀と呉しか指名出来なかったんだぞ?それと、そのヘンテコな喋り方じゃなく、素で構わん。俺は、()()()()()()からな。]

 

龍玄の気を遣った言葉が、恋の鼓膜を震わせる。

すると、空気が瞬間的に重くなった。

その空気を醸し出しているのは、他でもない恋である。

まるで、仇敵(きゅうてき)を目にしたかという程。

鬼でも宿したが如く、それでいて冷ややかに。

憤怒を帯びた表情のまま、龍玄に怒涛の疑問を投げつける。

 

「指宿が向こう側に居るらしいな?アイツが向こうに居る理由が、皆目も見当が付かねぇ。海野、お前に捕縛されたとまでは聞いちゃいるが、()()()()()()()?それと、大湊はどういう状況だ?柳は横須賀に任せるっきゃねぇとしても…いずれにしても、雪ちゃんが心配なのは変わらねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?お前も早く準備しとけ…娘の窮地だろうがよ。」

 

言い切って息を整えながら、受話器を片手に龍玄の言葉を待つ。

ため息が聞こえたあと。

 

[…指宿は確かに捕縛した。だが、式条が脱獄を手伝った。あぁ、勿論…深海棲艦を使ってな。よって、看守を任せていた相垣大佐が重症を負った。手術は終わったが、峠は越えていない(ままならん)。深海棲艦が堂々と大本営に入るなどと、考えもしなかった俺の不備であり落ち度だ。大湊に雪が居るのは間違いない…連れていた翔鶴によって、艦娘の建造を試みているところだ。準備など俺の方は既に終わらせている、いつでも出撃は可能だ。]

 

龍玄の掻い摘んだ説明に、恋は納得せざるを得ない。

不敵な笑みを浮かべながら。

 

「そうかよ、じゃあ急ぐから待ってろ。それと、()()()()()()()()()()()?度肝抜かすんじゃねぇぞ。」

 

[お前のとこの大鳳だと?!]

 

"大鳳"という名前で、龍玄は驚愕する。

それは聞いている声で、恋にも察せた。

 

「当たり前だろ?()()()()()()()()()()、どうするっつぅーんだよ…なぁ、海野。」

 

恋が急激に低い声で、龍玄を名指(なざ)す。

しかし、龍玄は落ち着いたまま。

 

[なんだ。]

 

それだけを返す。

恋は鼻で笑ったかと思えば、真剣…否、覚悟を表情に。

 

「仕留めるぞ。」

 

鋭利な刃物を獲物に突きつけるかのように。

短く、鋭く、圧をかける。

 

[あぁ、出来るならそうしよう。]

 

龍玄も短く答えたのを確認し、恋は受話器を置いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…島永大将といい、岬ノ宮といい…何故、あぁも質問攻めをしてくるんだ…。答える俺の身にもなってくれ…。」

 

各所に連絡を終えた龍玄は、疲れから椅子の背にもたれ大きく息を吐いた。

 

「しかしまさか、岬ノ宮が出てくるとはな。心強いとも、一波乱起きそうだとも思えるな。」

 

神妙な顔で、誰も居ない中呟いたかと思えば。

 

 

―――コンコン

 

 

部屋にノックの音が転がる。

 

「いいぞ、入れ。」

 

龍玄がドアに向かって、声をかけると。

艦娘が三人、入ってくる。

 

「おう、入るぜ!」

 

「失礼するわぁ。」

 

「衣笠さんもいるよ。」

 

「天龍と龍田と…衣笠か。どうしたんだ?」

 

三人の顔を見て、龍玄は至極不思議そうな顔をする。

天龍が切り出す。

 

「提督、聞いた話によりゃあ…大湊、相当ヤバいんだろ?遠征から帰ってきた駆逐共が騒いでたぜ…オレ達の出番もあるよな?」

 

「天龍ちゃん、それじゃ伝わらないわよぉ?大湊に向かう敵艦隊、遠征の子たちも騒いでたわぁ。敵艦隊の大群が、()()()()()()()()。…雪ちゃんのとこぉ、行くんでしょぉ?()()()()()私達も行きたいなぁってぇ。」

 

「で、衣笠さん達、呉所属の出番もあるよね?って聞きたくてね。」

 

天龍の説明では不足だと、龍田が割って入る。

当の割り込まれた本人はといえば。

面白くなさそうな顔をしながら、膨れっ面を見せる。

それを気にも止めず、衣笠が続いた。

三人の説明で、龍玄は優しく頷きながら。

 

「なるほどな、話が早くて助かる。いずれにしても、編成に組み込む予定だ。心配は要らん、娘の為にありがとうな。」

 

そう感謝をすると、照れくさいのを誤魔化すように。

 

「衣笠さんに至っては、提督の娘さんだし!呉のみんなもやる気よ!」

 

「そりゃあ、オレも龍田も、雪ちゃんがこんな小さい頃から見てるからな!」

 

腰に腕を当て、胸を張った衣笠の膝より下に。

天龍が屈みながら、サイズを表すように手を持って行く。

 

「ちょ、私の脚で!」

 

「いいじゃねぇか、別に!」

 

「あらぁ?とても良い脚よぉ?」

 

笑顔でじゃれ合う三人に。

 

「元帥も艦娘に手を焼きすぎたな…。では、改めて作戦要項を伝える。」

 

「「はっ!」」

 

龍玄が号令をかければ、三人が姿勢を正す。

 

「敵の大艦隊による大湊襲撃及び、舞鶴への侵攻に伴い、元帥直下所属の各艦を始め、呉鎮守府所属各艦は編成を固め次第、舞鶴防衛支援艦隊として通達する。食事と身支度を、誰が呼ばれても良いように済ませておくよう周知しておけ。」

 

「「はっ!」」

 

龍玄の命令に、敬礼を示したあとで三人は執務室を出る。

ドアが閉まったのを確認し、龍玄は目を瞑る。

 

「疲れたな、少しばかり寝るか。」

 

元帥の代役と大将、一人二役の僅かなひととき。

外は日没もまだだというのに、龍玄は疲れ果てていた。

 

「元帥…生きてるなら、早く戻って来てくれ…俺が先に過労で死んでしまう…。」

 

強靭な身体で、そんな弱音を吐いてしまっていた。

この先に待っているのは、海軍を揺るがす大戦になるとも知らずに。

 

 

 




如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。
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