この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
最近は指が進んでいた分、今回が上手くいくかどうか…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-24

見渡す限りの水平線。

その海上で、帰投準備をしている艦娘達がいた。

 

「ふぅ、任務も終わったし…みなさーん!私の後に続いてくださーい!」

 

随伴艦に声をかけながら、阿武隈は金髪のツインテールを靡かせ先頭を駆ける。

その顔は、何処か寂しげである。

 

「阿武隈さん、どうかされましたか?」

 

すぐ後ろを付いている潮が、気になり声をかける。

阿武隈は、視線を向ける。

 

「舞鶴と大湊の侵攻、その前にあった提督が襲撃されたって話が気になって…。」

 

その寂しげな表情は、無理もないことである。

阿武隈の率いる艦隊は遠征で、資材収集をしていた。

従って雪の襲撃も、無線による情報でしか知らない。

無論、舞鶴と大湊に敵艦隊が侵攻を始めていることも。

しかし阿武隈には、()()()()()()()()()()()()()()

 

(零君には()()()()()()()()けど…。)

 

その要因とは、零である。

零が舞鶴にいるという情報も、無線により伝達されていた。

 

「それと、元帥の息子さんがいらっしゃるって話も聞きましたが、大丈夫なんでしょうか?」

 

見計らったように、初霜も顔を覗かせる。

阿武隈は不意を突かれ、バツの悪そうな顔をしながら。

 

()()()()横須賀の学校に編入したって、き、聞いてます…。」

 

そう答えるのがやっとである。

 

「零君…?元帥の息子さんの名前ですか?阿武隈さん、ひょっとして…()()()()()()()()?」

 

「うぐっ…。」

 

核心に迫られ、阿武隈は唸る。

必死に誤魔化すように、機関を限界まで響かせる。

機関、つまりはエンジンである。

その音で、聞こえないフリをしようという魂胆。

しかしソレがいけなかった。

後ろの潮には、勘付かれてしまう。

 

「阿武隈さんが、大本営出身なのは知ってます。もしかして大本営の頃に、何かあったんですか?」

 

二隻は速度を上げ、阿武隈の隣で並行(へいこう)する。

潮の言葉で、初霜も阿武隈を訝しげに見る。

何とも言えない空気を、掻き消すかのように。

 

「帰ってからにしませんか?」

 

五月雨が割って入る。

だが、そんなのをお構いなしに。

まるで乙女の会話のように、二隻の興奮は冷めやまない。

 

「帰ったら司令官は居ないですし、きっと忙しくなると思うんです。だから、聞けることなら今が絶好だと…だって、知り合いなんですよね!?元帥と!その息子さん!」

 

「気になりますね!」

 

目を輝かせる潮と、初霜とは正反対に。

阿武隈は表情を曇らせ、俯く。

 

「…また、"元帥の息子"って…。」

 

「え?」

 

阿武隈の呟きを確認するように、五月雨が阿武隈を見る。

 

「あんな子供に!()()()()()()、人間の大人も!あの人(元帥)の息子だからって、重圧ばかりかけて!確かに、将来は軍人にだってなるでしょうけど!でも、"普通の子供"だっていいじゃない!()()()()()、大本営から舞鶴にまで異動したのに!元帥の息子(そんな言葉)は、もう聞き飽きたの!」

 

顔を上げた阿武隈は、二隻を睨む。

その風貌と真剣な眼差しは、弟を庇う姉のように。

怯える二隻を尻目に、抱え込んでいたモノを。

腑に落ちず仕舞っていたモノを、吐き出すように怒鳴る。

普段の阿武隈からは、考えられないその姿。

三隻は押し黙り、黙々と進むほか無くなる。

 

「「……。」」

 

「あ…ごめんなさい…。」

 

気が付けば、空気が重くなっている。

四隻の無言が織りなす、その空気感。

否、阿武隈自身も()()()()()()()

謝罪のあと再び俯く。

それは自分のせいだと、阿武隈は考えるまでもなかった。

 

「「阿武隈さん…。」」

 

心配されながらも、力なく頭を振り。

 

「帰ったら…帰ったらでいいなら話します…。零君が舞鶴に保護されたって話が出た時から、こうなることは何となく気付いてました…。」

 

観念したように、溜息を吐く。

しかして、無線越しの話。

阿武隈には、引っ掛かる部分があった。

 

(零君がなんで、()()()()()()…?)

 

阿武隈は首を捻る。

長距離遠征任務により、詳しい話を知らない。

無論、零の身に何があったのかも。

阿武隈は、何も知らずにいた。

 

(雪ちゃんが大きくなって、もう舞鶴の提督だし…あれから十年くらいかぁ…零君も小さかったから、私のことなんてもう覚えてないよね…。)

 

阿武隈は零に物心付いてすぐに、舞鶴に来ていた。

それも、()()()()()()()である。

 

「…人は大きくなるのが早いわ。」

 

昔を思い出し、波打つ海面を見る。

泣くのを堪えて唇を強く噛む。

 

「私は…()()()()()()()()()()()…ないよぅ…。」

 

小さく呟きながら駆ける、その背中は小さい。

後ろの三隻は顔を見合わせる。

 

「本当に何があったんでしょうか…?」

 

()()()()()って…。」

 

「阿武隈さん、心配ですね。」

 

五月雨、初霜、潮は。

項垂れながら進む阿武隈を見つめるしかない。

三隻は切り替え、辺りの哨戒を兼ねて警戒しながら、先を進むことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。

深海でも、準備が始まっていた。

 

「連レテ来タワヨー。」

 

「あぁ…指宿、調子はどうだ?」

 

「はっ!何の問題もありません!」

 

式条は指宿を嗜める。

というのも、大本営での一件。

式条は指宿を連れ帰り、食事と寝床を与えていた。

そうして、起きてきた指宿に声を掛けたのである。

薄暗く、海水独特の生臭さも鼻につくこの場所。

荒く削り開けたような、岩壁(がんぺき)に囲われた狭い部屋。

その一室を執務室とでも呼ぶのか、デスクを置いて式条が使っている。

目が覚めるなり、深海棲艦に案内された指宿はと言えば。

見なくてもわかるほどに、萎縮のあまり敬礼すら辿々(たどたど)しい

 

「では、改めて歓迎しよう…深海へようこそ。」

 

式条は不敵な笑みを浮かべ、手を差し出す。

 

「こちらこそ…しかし、今後はなんとお呼びすれば…。」

 

握手を交わした後で指宿は、焦りの表情を見せる。

その表情を見て、睨んだのも束の間。

 

「なんだ?忘れたのか?深海では元帥だ。向こうでは、反逆者ですらあるだろうな…此処に連れて来た以上、貴様を大将に据え置くと言ったはずだ。それに、()()()()()()もう既に指示を出してある。始めるぞ…我々の侵略(戦い)をな。」

 

静かに、それでいてその目に憎悪を込めて、指宿を見上げる。

その怨恨とも、怨嗟とも言える根源が何処にあるのか、指宿にはわからない。

しかし、指宿にも艦娘に恨みはあった。

それは海軍を離れた、解明事由(判断材料)でもある。

指宿とて、中将を預かっていた身である。

それなりに戦果を上げていたのも、また事実。

だからこそ、なればこそ。

指宿には、腑に落ちないことばかりだった。

それ故に。

 

「そうですな…元帥、()()()()()()()()()()()()()。俺を裏切ってきた艦娘も、あの小娘も、あの小僧も…肉骨臓(かんぷ)亡きまでに…この世から消さねばなりませんな。」

 

下卑た笑みを黒く染め上げ、式条を見下ろす。

 

「ほう…殺意溢れる(とてもいい)目をしてるじゃないか、貴様にも見せてやるか…()()()()をな。戦艦棲姫、貴様も付いて来い。」

 

「はっ!」

 

「了解ヨ、()()。」

 

式条は、指宿と戦艦棲姫に指で手招きする。

二人は頷き、後を追う。

 

 

 

――ピチャン。

 

 

 

天井から滴る雫の音が、指宿の鼓膜を揺らす。

 

「げ、元帥、このような場所に何が…?」

 

階段を下りること何度目か、指宿の肥えた身体には辛いものであった。

息を荒く汗も流し、シャツは絞れるほど濡れている。

式条が振り返り。

 

「情けない己を恨め、黙って付いて来い。」

 

蝋燭の火を指宿に向け。

それだけ言うと、踵を返して歩みを進める。

 

「アノ人、最近ゴ機嫌ナナメダカラ、アンマリ刺激シチャダメヨ?」

 

「っぐ…。」

 

戦艦棲姫が()()()()

指宿は、その妖艶な笑顔を向けてくる戦艦棲姫に。

禍々しい何かを感じ取り、薄気味悪さを感じた。

思わず呟いてしまう。

 

「戦艦棲姫、敵だった頃から凄まじいな。」

 

「アラ?ソレハ、褒言葉ナノ?」

 

「褒めてなどいない、こうして話すことになるなど…考えたこともなかった。」

 

「ソウ。ワタシハ、味方ガ増エタ。ダカラ、少シダケド…コレデモ歓迎シテルノヨ?」

 

呟きを聴き取るのは、曲がりなりにも(ふね)だからだろうか。

その聴力に驚きながらも、指宿は横目で会話を試みた。

表情が引きつっているのは、戦艦棲姫にも見て取れる。

しかし、そんなことお構い無しに。

 

 

 

――同胞達ヲ沈メテタノハ忘レナイケドネ。

 

 

 

指宿の胸ぐらを前触れもなく、勢いよく掴む。

瞳孔を完全に開き、その眼前に無表情で迫る。

 

「…っ!!」

 

これには指宿も予想外であり、完全に油断していたまであった。

圧と恐怖に負けじと、軍人の根性を見せる。

 

「俺は、()()()()()()()だ…()()にも、()()()にもな。()()()()、お前に殺されるなど、今でも考えたくはない。」

 

否、根性などではない。

静かに、己の内心を打ち明けたのだ。

深海棲艦という元来の(かたき)に。

これは指宿なりの、歩み寄りとも言える。

それが戦艦棲姫にも伝わったのか。

 

満足気に、指宿から顔を離す。

舌舐めずりをしたあと、笑顔で。

 

「フフ、ヨロシクネ?()宿()()()?」

 

そう返すと。

 

「いつまで話しているつもりだ、早く来い。」

 

すでに幾数段も先を行っていた式条が、見計らったかのように。

向かい合い、視線をぶつけ合う(自己紹介する)二人に声をかける。

 

「ハァーイ。提督ガ呼ンデルワ、早ク行キマショ?」

 

「あ、あぁ。」

 

指宿は解放されたとわかるなり、息を吐く。

 

(あまり深く関わるのは…よしておこう。)

 

胸中までバレたくないのか、警戒を解かずに後ろを歩く。

 

 

 

「ここだ。」

 

三人が辿り着いたのは、鉄格子で覆われた檻だった。

 

「うぶっ…!!」

 

近づけば、血と何かが腐ったような強烈な匂い。

指宿は体内の不快感に、吐き気を催す。

 

「貴様、それでも軍人か?情けない事、この上無いな。」

 

壁に手をつき、今にも(うずくま)りそうな指宿を尻目に。

式条は呆れながら、鉄格子の鍵を開け、中に入る。

戦艦棲姫は指宿のその姿が気に入ったのか、笑みを漏らしている。

 

()()()()()()()、モットソノ姿ヲ見ラレルカシラ?」

 

呟きながら、口元を抑える指宿を嬉々として眺める。

その戦艦棲姫を無視するように、式条が声を響かせる。

 

「見ろ、指宿。」

 

「は…はっ…。」

 

呼ばれるなり、指宿は吐き気に苛まれながら、鉄格子の中を見る。

式条が鎖で繋がれた、ソレの頭髪を掴み上げ蝋燭で照らす。

顔が見えると、指宿は目を見開いた。

驚いている隙など与えず、式条は続ける。

 

…「これが俺の後釜であり、現海軍元帥。」

 

 

 

――橘花紫雲だ。

 

 

 

その名を口にした。

 

「なっ…!」

 

名を聞かされ、指宿は絶句した。

 

「行方不明だったのは…まさか?!」

 

指宿が絶句した理由。

その姿を見れば、是非もない。

潰された右目、斬り落とされた右腕と右脚。

更には、全身からの致死量なまでの出血。

無論、顔面もである。

最早(もはや)右腕は、壊死を起こして腐りかけている。

呆然とする指宿の耳に、掠れた声が過ぎる。

 

「し、式条…てめぇ…。」

 

紫雲は息も絶え絶えに、式条を睨む。

 

「貴様の渇望執着(しぶとさ)には…っ!」

 

紫雲の言葉を気にせず、式条は壁にその頭を叩きつける。

 

「ぐぁ…!」

 

「呆れるばかりだ。」

 

気絶した紫雲を見下ろしながら、吐き捨てる。

 

「アラアラ。」

 

腕を組んで、一部始終を見ていた戦艦棲姫。

何を思うのか笑みを貼り付けたまま、感嘆する。

指宿は絶句したまま、吐き気すら忘れ。

 

「……っ!はぁはぁ…!」

 

否、呼吸までも忘れていた。

拷問を超えたナニカに、自身の目をも疑う始末。

構うこと無く、式条は腰のサーベルを抜き。

 

――ガギン!

 

交渉材料(こいつ)を使って、日本海軍の戦力を総集結させる。足は潜水艦がある、それに乗っていく…ふっ、橘花(こいつ)とその息子には苦い絡繰(からくり)を搭載した…な。」

 

床に突き刺し、見下ろしたまま顔を歪ませる(嘲笑する)

 

「無論、お前もだ。」

 

式条は指を鳴らす。

壁越しの影から顕れたのは。

 

「呼ンダ?言ワレナクテモ、行クワヨ。」

 

深海仏棲姫、零が対峙した母だったソレである。

 

「イイワネ!絶望サセテ!深海ノ奈落ニ連レ込ミマショ!」

 

戦艦棲姫は姿を見るなり、目を輝かせる。

揃う三人に、指宿は肩を震わせる。

 

「はっ。わかりました…やりましょう、()()()()()()()()()。」

 

上げた顔は、異様とも奇妙とも言える。

四つの三日月。

ソレらを見た者なら、表情も、立ち振舞いにも。

表現方法など、思いつくはずもないであろう。

故に。

 

 

 

 

 

 

――この深海に、異形が集まった瞬間である。

 

 

 

 

 

 




なんとか書き上げられました…。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。
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