最近は指が進んでいた分、今回が上手くいくかどうか…。
それでは、本編どうぞ。
見渡す限りの水平線。
その海上で、帰投準備をしている艦娘達がいた。
「ふぅ、任務も終わったし…みなさーん!私の後に続いてくださーい!」
随伴艦に声をかけながら、阿武隈は金髪のツインテールを靡かせ先頭を駆ける。
その顔は、何処か寂しげである。
「阿武隈さん、どうかされましたか?」
すぐ後ろを付いている潮が、気になり声をかける。
阿武隈は、視線を向ける。
「舞鶴と大湊の侵攻、その前にあった提督が襲撃されたって話が気になって…。」
その寂しげな表情は、無理もないことである。
阿武隈の率いる艦隊は遠征で、資材収集をしていた。
従って雪の襲撃も、無線による情報でしか知らない。
無論、舞鶴と大湊に敵艦隊が侵攻を始めていることも。
しかし阿武隈には、
(零君には
その要因とは、零である。
零が舞鶴にいるという情報も、無線により伝達されていた。
「それと、元帥の息子さんがいらっしゃるって話も聞きましたが、大丈夫なんでしょうか?」
見計らったように、初霜も顔を覗かせる。
阿武隈は不意を突かれ、バツの悪そうな顔をしながら。
「
そう答えるのがやっとである。
「零君…?元帥の息子さんの名前ですか?阿武隈さん、ひょっとして…
「うぐっ…。」
核心に迫られ、阿武隈は唸る。
必死に誤魔化すように、機関を限界まで響かせる。
機関、つまりはエンジンである。
その音で、聞こえないフリをしようという魂胆。
しかしソレがいけなかった。
後ろの潮には、勘付かれてしまう。
「阿武隈さんが、大本営出身なのは知ってます。もしかして大本営の頃に、何かあったんですか?」
二隻は速度を上げ、阿武隈の隣で
潮の言葉で、初霜も阿武隈を訝しげに見る。
何とも言えない空気を、掻き消すかのように。
「帰ってからにしませんか?」
五月雨が割って入る。
だが、そんなのをお構いなしに。
まるで乙女の会話のように、二隻の興奮は冷めやまない。
「帰ったら司令官は居ないですし、きっと忙しくなると思うんです。だから、聞けることなら今が絶好だと…だって、知り合いなんですよね!?元帥と!その息子さん!」
「気になりますね!」
目を輝かせる潮と、初霜とは正反対に。
阿武隈は表情を曇らせ、俯く。
「…また、"元帥の息子"って…。」
「え?」
阿武隈の呟きを確認するように、五月雨が阿武隈を見る。
「あんな子供に!
顔を上げた阿武隈は、二隻を睨む。
その風貌と真剣な眼差しは、弟を庇う姉のように。
怯える二隻を尻目に、抱え込んでいたモノを。
腑に落ちず仕舞っていたモノを、吐き出すように怒鳴る。
普段の阿武隈からは、考えられないその姿。
三隻は押し黙り、黙々と進むほか無くなる。
「「……。」」
「あ…ごめんなさい…。」
気が付けば、空気が重くなっている。
四隻の無言が織りなす、その空気感。
否、阿武隈自身も
謝罪のあと再び俯く。
それは自分のせいだと、阿武隈は考えるまでもなかった。
「「阿武隈さん…。」」
心配されながらも、力なく頭を振り。
「帰ったら…帰ったらでいいなら話します…。零君が舞鶴に保護されたって話が出た時から、こうなることは何となく気付いてました…。」
観念したように、溜息を吐く。
しかして、無線越しの話。
阿武隈には、引っ掛かる部分があった。
(零君がなんで、
阿武隈は首を捻る。
長距離遠征任務により、詳しい話を知らない。
無論、零の身に何があったのかも。
阿武隈は、何も知らずにいた。
(雪ちゃんが大きくなって、もう舞鶴の提督だし…あれから十年くらいかぁ…零君も小さかったから、私のことなんてもう覚えてないよね…。)
阿武隈は零に物心付いてすぐに、舞鶴に来ていた。
それも、
「…人は大きくなるのが早いわ。」
昔を思い出し、波打つ海面を見る。
泣くのを堪えて唇を強く噛む。
「私は…
小さく呟きながら駆ける、その背中は小さい。
後ろの三隻は顔を見合わせる。
「本当に何があったんでしょうか…?」
「
「阿武隈さん、心配ですね。」
五月雨、初霜、潮は。
項垂れながら進む阿武隈を見つめるしかない。
三隻は切り替え、辺りの哨戒を兼ねて警戒しながら、先を進むことにした。
その頃。
深海でも、準備が始まっていた。
「連レテ来タワヨー。」
「あぁ…指宿、調子はどうだ?」
「はっ!何の問題もありません!」
式条は指宿を嗜める。
というのも、大本営での一件。
式条は指宿を連れ帰り、食事と寝床を与えていた。
そうして、起きてきた指宿に声を掛けたのである。
薄暗く、海水独特の生臭さも鼻につくこの場所。
荒く削り開けたような、
その一室を執務室とでも呼ぶのか、デスクを置いて式条が使っている。
目が覚めるなり、深海棲艦に案内された指宿はと言えば。
見なくてもわかるほどに、萎縮のあまり敬礼すら
「では、改めて歓迎しよう…深海へようこそ。」
式条は不敵な笑みを浮かべ、手を差し出す。
「こちらこそ…しかし、今後はなんとお呼びすれば…。」
握手を交わした後で指宿は、焦りの表情を見せる。
その表情を見て、睨んだのも束の間。
「なんだ?忘れたのか?深海では元帥だ。向こうでは、反逆者ですらあるだろうな…此処に連れて来た以上、貴様を大将に据え置くと言ったはずだ。それに、
静かに、それでいてその目に憎悪を込めて、指宿を見上げる。
その怨恨とも、怨嗟とも言える根源が何処にあるのか、指宿にはわからない。
しかし、指宿にも艦娘に恨みはあった。
それは海軍を離れた、
指宿とて、中将を預かっていた身である。
それなりに戦果を上げていたのも、また事実。
だからこそ、なればこそ。
指宿には、腑に落ちないことばかりだった。
それ故に。
「そうですな…元帥、
下卑た笑みを黒く染め上げ、式条を見下ろす。
「ほう…
「はっ!」
「了解ヨ、
式条は、指宿と戦艦棲姫に指で手招きする。
二人は頷き、後を追う。
――ピチャン。
天井から滴る雫の音が、指宿の鼓膜を揺らす。
「げ、元帥、このような場所に何が…?」
階段を下りること何度目か、指宿の肥えた身体には辛いものであった。
息を荒く汗も流し、シャツは絞れるほど濡れている。
式条が振り返り。
「情けない己を恨め、黙って付いて来い。」
蝋燭の火を指宿に向け。
それだけ言うと、踵を返して歩みを進める。
「アノ人、最近ゴ機嫌ナナメダカラ、アンマリ刺激シチャダメヨ?」
「っぐ…。」
戦艦棲姫が
指宿は、その妖艶な笑顔を向けてくる戦艦棲姫に。
禍々しい何かを感じ取り、薄気味悪さを感じた。
思わず呟いてしまう。
「戦艦棲姫、敵だった頃から凄まじいな。」
「アラ?ソレハ、褒言葉ナノ?」
「褒めてなどいない、こうして話すことになるなど…考えたこともなかった。」
「ソウ。ワタシハ、味方ガ増エタ。ダカラ、少シダケド…コレデモ歓迎シテルノヨ?」
呟きを聴き取るのは、曲がりなりにも
その聴力に驚きながらも、指宿は横目で会話を試みた。
表情が引きつっているのは、戦艦棲姫にも見て取れる。
しかし、そんなことお構い無しに。
――同胞達ヲ沈メテタノハ忘レナイケドネ。
指宿の胸ぐらを前触れもなく、勢いよく掴む。
瞳孔を完全に開き、その眼前に無表情で迫る。
「…っ!!」
これには指宿も予想外であり、完全に油断していたまであった。
圧と恐怖に負けじと、軍人の根性を見せる。
「俺は、
否、根性などではない。
静かに、己の内心を打ち明けたのだ。
深海棲艦という元来の
これは指宿なりの、歩み寄りとも言える。
それが戦艦棲姫にも伝わったのか。
満足気に、指宿から顔を離す。
舌舐めずりをしたあと、笑顔で。
「フフ、ヨロシクネ?
そう返すと。
「いつまで話しているつもりだ、早く来い。」
すでに幾数段も先を行っていた式条が、見計らったかのように。
向かい合い、
「ハァーイ。提督ガ呼ンデルワ、早ク行キマショ?」
「あ、あぁ。」
指宿は解放されたとわかるなり、息を吐く。
(あまり深く関わるのは…よしておこう。)
胸中までバレたくないのか、警戒を解かずに後ろを歩く。
「ここだ。」
三人が辿り着いたのは、鉄格子で覆われた檻だった。
「うぶっ…!!」
近づけば、血と何かが腐ったような強烈な匂い。
指宿は体内の不快感に、吐き気を催す。
「貴様、それでも軍人か?情けない事、この上無いな。」
壁に手をつき、今にも
式条は呆れながら、鉄格子の鍵を開け、中に入る。
戦艦棲姫は指宿のその姿が気に入ったのか、笑みを漏らしている。
「
呟きながら、口元を抑える指宿を嬉々として眺める。
その戦艦棲姫を無視するように、式条が声を響かせる。
「見ろ、指宿。」
「は…はっ…。」
呼ばれるなり、指宿は吐き気に苛まれながら、鉄格子の中を見る。
式条が鎖で繋がれた、ソレの頭髪を掴み上げ蝋燭で照らす。
顔が見えると、指宿は目を見開いた。
驚いている隙など与えず、式条は続ける。
…「これが俺の後釜であり、現海軍元帥。」
――橘花紫雲だ。
その名を口にした。
「なっ…!」
名を聞かされ、指宿は絶句した。
「行方不明だったのは…まさか?!」
指宿が絶句した理由。
その姿を見れば、是非もない。
潰された右目、斬り落とされた右腕と右脚。
更には、全身からの致死量なまでの出血。
無論、顔面もである。
呆然とする指宿の耳に、掠れた声が過ぎる。
「し、式条…てめぇ…。」
紫雲は息も絶え絶えに、式条を睨む。
「貴様の
紫雲の言葉を気にせず、式条は壁にその頭を叩きつける。
「ぐぁ…!」
「呆れるばかりだ。」
気絶した紫雲を見下ろしながら、吐き捨てる。
「アラアラ。」
腕を組んで、一部始終を見ていた戦艦棲姫。
何を思うのか笑みを貼り付けたまま、感嘆する。
指宿は絶句したまま、吐き気すら忘れ。
「……っ!はぁはぁ…!」
否、呼吸までも忘れていた。
拷問を超えたナニカに、自身の目をも疑う始末。
構うこと無く、式条は腰のサーベルを抜き。
――ガギン!
「
床に突き刺し、見下ろしたまま
「無論、お前もだ。」
式条は指を鳴らす。
壁越しの影から顕れたのは。
「呼ンダ?言ワレナクテモ、行クワヨ。」
深海仏棲姫、零が対峙した母だったソレである。
「イイワネ!絶望サセテ!深海ノ奈落ニ連レ込ミマショ!」
戦艦棲姫は姿を見るなり、目を輝かせる。
揃う三人に、指宿は肩を震わせる。
「はっ。わかりました…やりましょう、
上げた顔は、異様とも奇妙とも言える。
四つの三日月。
ソレらを見た者なら、表情も、立ち振舞いにも。
表現方法など、思いつくはずもないであろう。
故に。
――この深海に、異形が集まった瞬間である。
なんとか書き上げられました…。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。