UAが4500を突破しました。
皆様、本当にありがとうございます。
今後とも、作品と作者共々、応援よろしくお願いします。
それでは、本編どうぞ。
「アイツ、何処ニイルノ?戻ッタラ、
太平洋の海で、この深海棲艦は当てもなく一人漂う。
否、当てはある。
生死不明の子供を、探しているに過ぎない。
その顔に哀愁を漂わせながら。
彷徨っている間に、何隻の艦娘に訊いただろうか。
その度に交戦もした。
中には、深海棲艦の顔を見て逃げ出す者もいた。
この深海棲艦、"大平洋深海棲姫“と呼ばれる姫級である。
練度が足りないような、並みの艦娘では太刀打ちなど皆無に等しい。
故に、増援を呼ばれる。
「ワタシノ話、誰モ聞ク耳ナンテ持ッテクレナイ。」
俯く太平洋深海棲姫は、度重なる戦いで身体に傷を幾つも負っていた。
「零、アレカラドウナッタ?ワタシハ、守レタノ?」
負傷して出血の止まらない腹部を押さえながら、独り呟く。
中破はしているであろう、その佇まい。
何を隠そう、この太平洋深海棲姫こそ。
島での一件で長門が目撃した、
―――
誰にとも知れず胸中で悪態をつく、その張本人。
これは、
零と接触したのが始まりであり、そんなことにも
自身の愚かさにも、自身が深海棲艦であることにも。
己がどれほど異端なのか。
否、そんなことには気付いている。
「ワタシハドウシテ、イツマデモ…。」
太平洋深海棲姫は首を捻る。
不思議でしかない。
何を思って、零を追いかけ続けるのか。
「零ガ巻イテクレタ包帯…ボロボロ。」
両腕に巻かれた、疾うに役目は終えているであろう包帯を見て。
感傷に浸るように思い出す。
それは、何年も前に零と初めて会った日。
太平洋深海棲姫は、艦娘と交戦の末に大破していた。
『痛イ…。』
痛みを堪えながら辿り着いた砂浜。
近くにあった岩を背に腰掛けて、傷が癒えるのを待っていた。
『お姉さん、怪我してるじゃん!待ってて、包帯取ってくる!』
そこで通りがかった零に会ったのが、始まりである。
『ダイジョウブ…。』
『放って置いたら痛いから!』
『デモ…。』
『家もすぐそこだし、すぐ手当てするから!母さんが言ってた、
『ワ、ワカッタ…。』
しかし、ここで疑問が残る。
「入ッタノガ、アノ島ダッタナンテ
何故、零の居た島に自身が入れたのか。
「イズレニシテモ、
思い出しながら、太平洋深海棲姫は微笑む。
「ワタシハ、
血の流れる腹部を諦め、拳を握る。
(マダ動ケル、動カナキャ。)
気合いと気概で、機関を唸らせる。
「ダッテマダ、
軋み、悲鳴を上げる身体を無視して、海上を進む。
(艦娘ニ聞イテ貰エナイナラ、ワタシカラ向カウダケ。)
太平洋深海棲姫は、こうして
「ワタシノ限界モ近イ、次ノ鎮守府ガ違ウナラ
正面のその先。
視界に入った鎮守府へと、堂々と向かう。
その場所は、佐世保である。
太平洋深海棲姫にとっては、ただ目に映っただけの鎮守府。
しかし、佐世保を預かる鳴波見燐火からすれば。
「深海棲艦がこっちに向かってくるぅ?!」
単なる迷惑に過ぎない。
肩までかかる茶髪を乱しながら、勢いよく立ち上がる。
「えぇ、佐世保正面海域付近よ。」
緊急報告で焦る燐火に、千歳が追い打ちをかけるように答える。
燐火は思わず、怒鳴ってしまう。
「何隻よ?!」
「姫級が一隻、それも太平洋深海棲姫ね。」
自身の索敵機で確認していた千歳は、燐火に淡々と説明する。
「はぁ…!?」
が、燐火は絶句してしまう。
深海棲艦がたった一隻で、何の準備もせず正面海域に現れるなど。
「一隻…本当に一隻?」
「間違いないけど、私もこんなこと初めてよ…。」
この二人の反応からして、前代未聞なのである。
「一隻かぁ。それなら千歳と千代田、それから
燐火は腕を組み、椅子を揺らしながら考えた編成を口にする。
その様子を黙って見ていた千歳が、燐火の編成に異議を示す。
「一隻にそこまでの…」
言いかけたところで、燐火が立ち上がり。
「て、提督?」
燐火は視線を泳がせる千歳の前へと、歩を進める。
「相手は姫級じゃん。警戒に警戒を重ねても、それは無駄じゃないっしょ?だから、制空は軽空母である千歳と千代田、夜戦要員は川内、対空と魚雷で秋月、照月、島風なの。わかった?」
三十代らしからぬ軽い口調で、千歳の肩を掴み圧をかける。
これには何も言い返せず、千歳は大人しく頷くほか無かった。
「わ、わかりました、すぐ出撃します。」
そうして千歳は大急ぎで五人を集め、出撃に向かった。
「頼んだよ。」
燐火は妙な胸騒ぎが杞憂であることを祈りながら、その後姿を見送った。
「正面海域に一隻ですか。」
出撃艦隊に組み込まれた秋月も、不信感を顕にしていた。
海上を駆ける全員が、それは感じていたことであり。
「ほんとに一隻ならいいけどさぁ…ん?」
―――キュイーーーン!!
「この音は…。」
川内も空を見上げながら頭の後ろで腕を組んでいると、甲高い轟音が鳴り響く。
照月は聞き覚えのある音が近づくや、川内と共に振り向く。
轟音の持ち主は機関を限界まで唸らせ、満面の笑みを見せつけて。
「みんな、おっそーい!」
全速力で艦隊を追い抜くのは、島風である。
呑気に挑発する姿は、全員を唖然とさせるには充分だった。
「やっぱり…。」
"予想が正しかった"と、照月は苦笑混じりに呆れる。
「千歳お姉ぇ、島風さんがまた…。」
千代田も呆れのあまり、千歳に声をかけるが。
「いいわ、
千代田にそう言うと、千歳はそのまま島風を呼ぶ。
「おぅ?!」
驚いた島風は、そのまま勢いに任せて身体を反転させる。
その顔を確認すると、千歳は笑みを浮かべる。
島風は不思議さで首を傾げるが。
「そのまま先陣を切ってください。接敵したら、無線を飛ばしてね?」
千歳が片目を瞑りながら、指示をするなり。
「わっかりました!島風、出撃しまーす!」
敬礼をしたかと思えば、島風は颯爽と駆け出す。
その後ろを、艦隊が追いかける形になるも。
「ふふっ、もう出撃してるじゃない。それより、
千歳の機転を利かせた作戦に、千代田は顔を引きつらせる。
「なんというか…さすが、お姉ぇ…。」
そんなのを他所に、川内は何やら魚雷を用意していた。
「川内さん?」
気付いた秋月に訊かれた川内は、顔を上げ。
「ん?いや、ちょっとね。
秋月と照月は顔を見合わせ不思議に思うも、それ以上は訊かなかった。
(
千歳だけがその理由を知るのみだった。
その千歳に、通信機が反応を示す。
[千歳さん、確認できました!間違いなく一隻、太平洋深海棲姫です!]
「わかったわ、ありがとう。」
艦隊がしばらく航行すると、敵影が視界に入る。
旗艦である千歳が真っ先に姿を捉えるなり、両目を見開く。
「し、島風さん
名を出された島風は、首を勢いよく左右に振る。
「ううん、島風じゃないもん!
艦娘達は、他鎮守府の艦隊の戦果と踏むなり胸を撫で下ろす。
立ち尽くす艦娘達を前に、身体を軋ませる太平洋深海棲姫。
艦娘達は臨戦態勢に入るのを確認しても、一切の躊躇も見せない。
そうして一歩ずつ、ゆっくりと近付き口を開く。
「教エテ欲シイダケ…少シ聞イテ…。」
何もして来ないと悟り、腕を押さえるように抱えながら千歳達を見る。
途中で交戦したのであろうか、傷は格段に増え、大破に近い。
「話?私たちに何を話すって言うの?」
川内が前に出て、睨みを利かせる。
艦娘達は囲うように砲塔を向け、いつでも川内を援護できるように構える。
それにも動じず溢れ出る血もお構いなしに、太平洋深海棲姫は虚勢を見せ。
「邪魔ニナルカラ、話ガ出来ルヨウニ…
話すのも辛いのか、肩で息をしながら艦隊の全員を見渡す。
千歳が目を瞑り。
「いいでしょう、聞いてあげます。一つ条件として、内容によってはあなたを撃破します。」
「「え?!?!」」
その進言に驚愕の色を見せ、艦娘達は千歳を一斉に見る。
太平洋深海棲姫は、真顔で頭を下げる。
そこまでされては、敵意を感じることは不可能。
警戒は怠らず、誰からともなく砲塔を下ろす。
「
「ありがとう?み、みんな、き、聞いた?!いま、ありがとうって?!」
「「い、言ったわね…。」」
これに島風は更に驚き確認をすれば、全員が首を縦に振った。
「教エテ貰ッタ…何カ施シヲ受ケタラ、ソウ言ンダッテ…。」
それに答えるかのように、太平洋深海棲姫は説明する。
続けて本題をぶつける。
「コレヲ教エテクレタ子供ヲ探シテイルノ…ソレモ、
「「え、エレクトロニル・アイランド…?」」
首を傾げて考える者が多い中、千歳だけは勘付いた。
「ま、まさか…舞鶴付近で襲撃にあった島ですか?」
「間違イナイ。」
視界に映るのが敵なのか、それとも通り掛かっただけの姫級なのか。
千歳は考えが纏まらず、目を泳がせる。
「ち、千歳お姉ぇ?」
心配になり、堪らず千代田は千歳の袖を掴む。
「襲撃したのも…?」
「ソレハ、間違イナク…
「どういうこと?」
川内は依然として理解が追いつかないのは、同義である。
「ワタシ…アノ日、同胞ニ囲マレテ戦ッテ、《気付イタラ海ニ流サレテタカラ》》…。」
ここまで言葉足らずなのは、受けている傷が原因であろう。
そんなことは、全員が見て取れていた。
(これじゃ、
「取り敢えず、提督には報告…いえ、
「ちょ…!」
千代田が顔面蒼白で、拳を握り俯いた千歳の肩を掴もうとして。
「千代田さん、千歳さんの言う通りです…
「まともに話せない相手が、この場で攻撃するとも思えません。勿論、傷が癒えたあとでも。それなら、回復に専念してもらって詳細を教えてもらうのが妥当です。」
秋月と照月に止められ、千代田は力なく腕を下ろす。
「提督にはどう説明するの?」
島風は顎に指を当て、千歳に訊く。
考えていたのか、顔を上げ。
「逃げられたことにして、帰投しましょう。傷が癒えてから、提督にも一緒に聞いてもらえばいいですし。」
と、微笑みながら言い放った。
「アリガトウ…。」
「深海棲艦の"ありがとう"ほど、聞き慣れないものないわね…。」
言いながら川内は唇を噛み、しばらく握っていた魚雷を仕舞い込む。
(
胸中の言葉と一緒に。
「「…なんか、気が抜けたぁ。」」
脱力しながら去っていく艦娘達が、余程に不思議なのか。
「?」
太平洋深海棲姫は自身が元凶だとも思わず、首を傾げながら波止場を目指した。
「逃げられちゃったかぁ。」
帰投した千歳から、執務室で説明を聞くなり。
そんなことがあったとは知らない燐火は、気の抜けた声で溜息を吐く。
「すみません…。」
旗艦であり、秘書艦である千歳が頭を下げる。
「仕方ないよ、どうせ単艦だから分が悪いって思ったんじゃん?ご苦労さま、ゆっくり休んでね。」
「ありがとうございます。」
千歳が執務室を出ると、デスクの書類を片付け。
「そういう日もあるかな…。」
燐火の感じていた胸騒ぎは、願いと同じく杞憂に終わった。
が、その胸騒ぎは別なところで当たることになる。
如何だったでしょうか?
作者のミスで投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。
それでは、また次回に。