この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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今後とも、作品と作者共々、応援よろしくお願いします。

それでは、本編どうぞ。


Episode-25

「アイツ、何処ニイルノ?戻ッタラ、()()()()()()()。」

 

太平洋の海で、この深海棲艦は当てもなく一人漂う。

否、当てはある。

生死不明の子供を、探しているに過ぎない。

その顔に哀愁を漂わせながら。

彷徨っている間に、何隻の艦娘に訊いただろうか。

その度に交戦もした。

中には、深海棲艦の顔を見て逃げ出す者もいた。

この深海棲艦、"大平洋深海棲姫“と呼ばれる姫級である。

練度が足りないような、並みの艦娘では太刀打ちなど皆無に等しい。

故に、増援を呼ばれる。

 

「ワタシノ話、誰モ聞ク耳ナンテ持ッテクレナイ。」

 

俯く太平洋深海棲姫は、度重なる戦いで身体に傷を幾つも負っていた。

 

「零、アレカラドウナッタ?ワタシハ、守レタノ?」

 

負傷して出血の止まらない腹部を押さえながら、独り呟く。

中破はしているであろう、その佇まい。

何を隠そう、この太平洋深海棲姫こそ。

島での一件で長門が目撃した、()()()()()()()()()()()()()

 

 

―――()()()()()()()()()

 

 

誰にとも知れず胸中で悪態をつく、その張本人。

これは、()()()()()()()()()()と言える。

零と接触したのが始まりであり、そんなことにも()()()()()()()

自身の愚かさにも、自身が深海棲艦であることにも。

己がどれほど異端なのか。

否、そんなことには気付いている。

 

「ワタシハドウシテ、イツマデモ…。」

 

太平洋深海棲姫は首を捻る。

不思議でしかない。

何を思って、零を追いかけ続けるのか。

 

「零ガ巻イテクレタ包帯…ボロボロ。」

 

両腕に巻かれた、疾うに役目は終えているであろう包帯を見て。

感傷に浸るように思い出す。

それは、何年も前に零と初めて会った日。

太平洋深海棲姫は、艦娘と交戦の末に大破していた。

 

 

 

 

『痛イ…。』

 

痛みを堪えながら辿り着いた砂浜。

近くにあった岩を背に腰掛けて、傷が癒えるのを待っていた。

 

『お姉さん、怪我してるじゃん!待ってて、包帯取ってくる!』

 

そこで通りがかった零に会ったのが、始まりである。

 

『ダイジョウブ…。』

 

『放って置いたら痛いから!』

 

『デモ…。』

 

『家もすぐそこだし、すぐ手当てするから!母さんが言ってた、他人(ひと)から何かして貰うなら素直に受け取りなさいって!』

 

『ワ、ワカッタ…。』

 

 

 

しかし、ここで疑問が残る。

 

「入ッタノガ、アノ島ダッタナンテ()()()()()()。」

 

何故、零の居た島に自身が入れたのか。

 

「イズレニシテモ、()()()()()()()()()()()()()幸運ダッタ。」

 

思い出しながら、太平洋深海棲姫は微笑む。

 

「ワタシハ、()()()()()()()()()()。」

 

血の流れる腹部を諦め、拳を握る。

 

(マダ動ケル、動カナキャ。)

 

気合いと気概で、機関を唸らせる。

 

「ダッテマダ、()()()()()言ッテナイ。」

 

軋み、悲鳴を上げる身体を無視して、海上を進む。

 

(艦娘ニ聞イテ貰エナイナラ、ワタシカラ向カウダケ。)

 

太平洋深海棲姫は、こうして()()()()()()

 

「ワタシノ限界モ近イ、次ノ鎮守府ガ違ウナラ諦メル(沈ムヨ)。」

 

 

 

正面のその先。

視界に入った鎮守府へと、堂々と向かう。

その場所は、佐世保である。

太平洋深海棲姫にとっては、ただ目に映っただけの鎮守府。

しかし、佐世保を預かる鳴波見燐火からすれば。

 

 

 

 

 

 

「深海棲艦がこっちに向かってくるぅ?!」

 

単なる迷惑に過ぎない。

肩までかかる茶髪を乱しながら、勢いよく立ち上がる。

 

「えぇ、佐世保正面海域付近よ。」

 

緊急報告で焦る燐火に、千歳が追い打ちをかけるように答える。

燐火は思わず、怒鳴ってしまう。

 

「何隻よ?!」

 

「姫級が一隻、それも太平洋深海棲姫ね。」

 

自身の索敵機で確認していた千歳は、燐火に淡々と説明する。

 

「はぁ…!?」

 

が、燐火は絶句してしまう。

深海棲艦がたった一隻で、何の準備もせず正面海域に現れるなど。

 

「一隻…本当に一隻?」

 

「間違いないけど、私もこんなこと初めてよ…。」

 

この二人の反応からして、前代未聞なのである。

 

「一隻かぁ。それなら千歳と千代田、それから川内(せんだい)、秋月、照月、島風で迎撃かなぁ。」

 

燐火は腕を組み、椅子を揺らしながら考えた編成を口にする。

その様子を黙って見ていた千歳が、燐火の編成に異議を示す。

 

「一隻にそこまでの…」

 

言いかけたところで、燐火が立ち上がり。

 

「て、提督?」

 

燐火は視線を泳がせる千歳の前へと、歩を進める。

 

「相手は姫級じゃん。警戒に警戒を重ねても、それは無駄じゃないっしょ?だから、制空は軽空母である千歳と千代田、夜戦要員は川内、対空と魚雷で秋月、照月、島風なの。わかった?」

 

三十代らしからぬ軽い口調で、千歳の肩を掴み圧をかける。

これには何も言い返せず、千歳は大人しく頷くほか無かった。

 

「わ、わかりました、すぐ出撃します。」

 

そうして千歳は大急ぎで五人を集め、出撃に向かった。

 

「頼んだよ。」

 

燐火は妙な胸騒ぎが杞憂であることを祈りながら、その後姿を見送った。

 

 

 

 

 

「正面海域に一隻ですか。」

 

出撃艦隊に組み込まれた秋月も、不信感を顕にしていた。

海上を駆ける全員が、それは感じていたことであり。

 

「ほんとに一隻ならいいけどさぁ…ん?」

 

 

 

―――キュイーーーン!!

 

 

 

 

「この音は…。」

 

川内も空を見上げながら頭の後ろで腕を組んでいると、甲高い轟音が鳴り響く。

照月は聞き覚えのある音が近づくや、川内と共に振り向く。

轟音の持ち主は機関を限界まで唸らせ、満面の笑みを見せつけて。

 

「みんな、おっそーい!」

 

全速力で艦隊を追い抜くのは、島風である。

呑気に挑発する姿は、全員を唖然とさせるには充分だった。

 

「やっぱり…。」

 

"予想が正しかった"と、照月は苦笑混じりに呆れる。

 

「千歳お姉ぇ、島風さんがまた…。」

 

千代田も呆れのあまり、千歳に声をかけるが。

 

「いいわ、()()()()()()()()()()()()()。島風さん!」

 

千代田にそう言うと、千歳はそのまま島風を呼ぶ。

 

「おぅ?!」

 

驚いた島風は、そのまま勢いに任せて身体を反転させる。

その顔を確認すると、千歳は笑みを浮かべる。

島風は不思議さで首を傾げるが。

 

「そのまま先陣を切ってください。接敵したら、無線を飛ばしてね?」

 

千歳が片目を瞑りながら、指示をするなり。

 

「わっかりました!島風、出撃しまーす!」

 

敬礼をしたかと思えば、島風は颯爽と駆け出す。

その後ろを、艦隊が追いかける形になるも。

 

「ふふっ、もう出撃してるじゃない。それより、彩雲(さいうん)を飛ばす手間が省けたわ。ね、千代田?」

 

千歳の機転を利かせた作戦に、千代田は顔を引きつらせる。

 

「なんというか…さすが、お姉ぇ…。」

 

そんなのを他所に、川内は何やら魚雷を用意していた。

 

「川内さん?」

 

気付いた秋月に訊かれた川内は、顔を上げ。

 

「ん?いや、ちょっとね。()()()()()()()()()()()あるかなぁって…。」

 

秋月と照月は顔を見合わせ不思議に思うも、それ以上は訊かなかった。

 

()()()()()()()。)

 

千歳だけがその理由を知るのみだった。

その千歳に、通信機が反応を示す。

 

[千歳さん、確認できました!間違いなく一隻、太平洋深海棲姫です!]

 

「わかったわ、ありがとう。」

 

 

 

 

艦隊がしばらく航行すると、敵影が視界に入る。

旗艦である千歳が真っ先に姿を捉えるなり、両目を見開く。

 

「し、島風さん()()()…。」

 

名を出された島風は、首を勢いよく左右に振る。

 

「ううん、島風じゃないもん!()()()()()()!」

 

艦娘達は、他鎮守府の艦隊の戦果と踏むなり胸を撫で下ろす。

立ち尽くす艦娘達を前に、身体を軋ませる太平洋深海棲姫。

艦娘達は臨戦態勢に入るのを確認しても、一切の躊躇も見せない。

そうして一歩ずつ、ゆっくりと近付き口を開く。

 

「教エテ欲シイダケ…少シ聞イテ…。」

 

何もして来ないと悟り、腕を押さえるように抱えながら千歳達を見る。

途中で交戦したのであろうか、傷は格段に増え、大破に近い。

 

「話?私たちに何を話すって言うの?」

 

川内が前に出て、睨みを利かせる。

艦娘達は囲うように砲塔を向け、いつでも川内を援護できるように構える。

それにも動じず溢れ出る血もお構いなしに、太平洋深海棲姫は虚勢を見せ。

 

「邪魔ニナルカラ、話ガ出来ルヨウニ…周辺ノ同胞ヲ沈メテキタ(ゴミ掃除ハ終ワラセタ)…少シ聞イテ…戦ウノハ、ソノ後デ…見テノ通リ、魚雷ガ当タレバ…オシマイダカラ…。」

 

話すのも辛いのか、肩で息をしながら艦隊の全員を見渡す。

千歳が目を瞑り。

 

「いいでしょう、聞いてあげます。一つ条件として、内容によってはあなたを撃破します。」

 

「「え?!?!」」

 

その進言に驚愕の色を見せ、艦娘達は千歳を一斉に見る。

太平洋深海棲姫は、真顔で頭を下げる。

そこまでされては、敵意を感じることは不可能。

警戒は怠らず、誰からともなく砲塔を下ろす。

 

()()()()()。」

 

「ありがとう?み、みんな、き、聞いた?!いま、ありがとうって?!」

 

「「い、言ったわね…。」」

 

これに島風は更に驚き確認をすれば、全員が首を縦に振った。

 

「教エテ貰ッタ…何カ施シヲ受ケタラ、ソウ言ンダッテ…。」

 

それに答えるかのように、太平洋深海棲姫は説明する。

続けて本題をぶつける。

 

「コレヲ教エテクレタ子供ヲ探シテイルノ…ソレモ、エレクトロニル・アイランド(安全磁場包囲島)ニ居タ子供ナノ…。」

 

「「え、エレクトロニル・アイランド…?」」

 

首を傾げて考える者が多い中、千歳だけは勘付いた。

 

「ま、まさか…舞鶴付近で襲撃にあった島ですか?」

 

「間違イナイ。」

 

視界に映るのが敵なのか、それとも通り掛かっただけの姫級なのか。

千歳は考えが纏まらず、目を泳がせる。

 

「ち、千歳お姉ぇ?」

 

心配になり、堪らず千代田は千歳の袖を掴む。

 

「襲撃したのも…?」

 

「ソレハ、間違イナク…()()()()()()()…。」

 

太平洋深海棲姫(敵か不明な相手)の一言で、尚更に理解が追いつかない。

 

「どういうこと?」

 

川内は依然として理解が追いつかないのは、同義である。

 

「ワタシ…アノ日、同胞ニ囲マレテ戦ッテ、《気付イタラ海ニ流サレテタカラ》》…。」

 

ここまで言葉足らずなのは、受けている傷が原因であろう。

そんなことは、全員が見て取れていた。

 

(これじゃ、()()()()()()()()()()()。)

 

「取り敢えず、提督には報告…いえ、()()()()()()()()…鎮守府付近の波止場でなら、()()()()()()身体を休められるでしょう。」

 

「ちょ…!」

 

千代田が顔面蒼白で、拳を握り俯いた千歳の肩を掴もうとして。

 

「千代田さん、千歳さんの言う通りです…()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「まともに話せない相手が、この場で攻撃するとも思えません。勿論、傷が癒えたあとでも。それなら、回復に専念してもらって詳細を教えてもらうのが妥当です。」

 

秋月と照月に止められ、千代田は力なく腕を下ろす。

 

「提督にはどう説明するの?」

 

島風は顎に指を当て、千歳に訊く。

考えていたのか、顔を上げ。

 

「逃げられたことにして、帰投しましょう。傷が癒えてから、提督にも一緒に聞いてもらえばいいですし。」

 

と、微笑みながら言い放った。

 

「アリガトウ…。」

 

「深海棲艦の"ありがとう"ほど、聞き慣れないものないわね…。」

 

言いながら川内は唇を噛み、しばらく握っていた魚雷を仕舞い込む。

 

()()()()()()()。)

 

胸中の言葉と一緒に。

 

「「…なんか、気が抜けたぁ。」」

 

脱力しながら去っていく艦娘達が、余程に不思議なのか。

 

「?」

 

太平洋深海棲姫は自身が元凶だとも思わず、首を傾げながら波止場を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げられちゃったかぁ。」

 

帰投した千歳から、執務室で説明を聞くなり。

そんなことがあったとは知らない燐火は、気の抜けた声で溜息を吐く。

 

「すみません…。」

 

旗艦であり、秘書艦である千歳が頭を下げる。

 

「仕方ないよ、どうせ単艦だから分が悪いって思ったんじゃん?ご苦労さま、ゆっくり休んでね。」

 

「ありがとうございます。」

 

千歳が執務室を出ると、デスクの書類を片付け。

 

「そういう日もあるかな…。」

 

燐火の感じていた胸騒ぎは、願いと同じく杞憂に終わった。

 

 

 

 

が、その胸騒ぎは別なところで当たることになる。




如何だったでしょうか?
作者のミスで投稿が遅くなり、申し訳ありませんでした。

それでは、また次回に。
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