この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
如何せん、うまく進まなくて悩ましいです…。
UAが5000を突破しそうです!
皆さん、ありがとうございます!!

それでは、本編どうぞ。



Episode-26

阿武隈の艦隊が帰投をすると、鎮守府は騒々しかった。

見回す限り、全員が忙しなく走り回っている。

理由は単純明快、雪が不在にも関わらず遠隔で出撃しようとしているのだ。

無論、そんなことは阿武隈にも承知の事実。

 

「敵艦隊の南下、かぁ。」

 

誰に言うでもなく、一人呟く。

執務室に報告書だけでも出しておこうと、渡り廊下を歩いていると。

 

「あ、阿武隈!」

 

後ろから声をかけられ、振り返ると。

五十鈴が阿武隈の方へと、歩いてくるのが見える。

 

「五十鈴さん、どうしたんですか?」

 

阿武隈が首を傾げながら尋ねるも、五十鈴は中々言い出さない。

痺れを切らし、口を開こうとして。

 

()()()()()()()()()()。」

 

「聞きたいこと?」

 

そう切り出され、言葉を繰り返す。

だが、阿武隈には()()()()()()()()付いていた。

故に、ため息を漏らす。

 

「まず、ここに来た時の零君の様子と、皆さんが零君とどんな話をしたのか、零君が居た時に提督とどんな感じだったのか、()()()()()()()()()()()()()()。長距離遠征で居なかった私は、()()()()()()()()何も知りません…話はそれからです。」

 

俯きがちにそう言われ、五十鈴は静かに頷く。

 

「それでいいわよ。報告書、執務室に出すんでしょ?そのついでに話しましょ。」

 

「わかりました。」

 

阿武隈が報告書を置く、雪の居ない執務室。

その中で二人が向かい合って、ソファに腰を下ろす。

幾許かの静寂のあと、五十鈴が口を開く。

 

「そうね、どこから話すべきかしらね?」

 

五十鈴は顎に指を当てながら、机に肘を置く。

悩んでいると、阿武隈が立ち上がり。

 

「お茶、入れてきますね。」

 

そう気を利かせ、歩き出す。

五十鈴がふと、目線だけを阿武隈に送る。

すると、いつから阿武隈が遠征に出ていたのかを思い出す。

 

(迷うことないわね。)

 

少しばかり口角を上げ、目を瞑る。

阿武隈が戻り、再び腰を下ろすなり。

 

「整理は出来ましたか?」

 

と、五十鈴へ催促するように尋ねる。

当の本人はそのまま、ゆっくりと頷き。

 

「えぇ。約束通り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

 

 

 

体感にして、小一時間ほどだろうか。

遠征のルートを変更して島に向かった話。

そこで零と出会い、舞鶴に連れてくるに至った経緯。

零の母が深海棲艦になってしまったこと。

そんな最中(さなか)で、雪が指宿に襲撃を受けたこと。

更には巻き添えで、零が再び怪我を負ったこと。

はたまた、その救出中に瑞鳳が深海棲艦になりかけた話。

呉鎮守府の艦娘を交えての、零との話し合い。

零が軍人になるため、横須賀へと向かったこと。

指宿の裏切りと、元帥(紫雲)の危うさ。

零の置かれている状況。

雪が大湊へ行くことになった経緯。

 

 

 

五十鈴はその全てを、阿武隈に話した。

知る由もなかった阿武隈は、(げん)に耳を疑った。

 

まさか、自身の知らぬそんな話を聞かされて。

 

――誰が信じられるだろうか。

 

自身が目をかけていた、()()()()()()()()など。

 

――どう信じれば良いのだろうか。

 

阿武隈は知らずうちに、目から雫を溢していた。

 

「ちょ、ちょっと、阿武隈?!」

 

話し終えた五十鈴は、その涙に慌てる。

 

「ご、ごめんなさい…あんなに小さかった子が…なんで…元帥(提督)…もっと、やり方があったでしょ…いつまでも…祥鳳さんを背負って…子供に…周りに…迷惑ばかりかけて…。」

 

阿武隈の掠れ、途切れる言葉に反して、涙は止め処なく(こぼ)れる。

この姿を見せられては、五十鈴も成す術もなく。

様子を伺いつつ、見つめ続けるほかに無い。

 

「阿武隈…。」

 

困った表情で声をかけるのが、五十鈴のできる最大限なのは間違いない。

目元を乱暴に袖口で拭ったかと思えば、阿武隈は力の籠った眼差しで五十鈴を見る。

五十鈴は気概を向けられ、口にしようとした湯呑(ゆのみ)を途中で置く。

 

「五十鈴さん、()()()()()()()()()()…呉鎮守府の皆さんと同じように。ですが、零君の将来を決めつけていた人間の大人も、艦娘にも嫌気が差して当てもなく海を走り続けました。」

 

「……。」

 

今度は五十鈴が黙って話を聞く。

その顔に、先程までの狼狽(ろうばい)はもう無い。

阿武隈の言葉の先を、食い入るように待つ。

 

「その時、偶然見つけてくれたのが舞鶴鎮守府でした。勿論、今の提督じゃないですよ?潮梛十無提督…今の鹿屋基地の提督ですね。今の提督は、()()()()()()知ってるんですから。」

 

五十鈴は驚きもしなかった。

大本営所属だったのは、既存の事実。

 

(響…本当のようね?)

 

響からの()()()またである。

よって、五十鈴は自身の知りたい本命を。

 

「阿武隈、あんたなら知ってるかしら?橘花元帥が失踪に至った理由と、その作戦概要…あぁ、呉の明石さんと榛名さんからは聞いてるわ。でも、式条前元帥を奪還する作戦があった次の日から失踪したってことしか()()()()()()()()()のよ。」

 

本音で突きつける。

阿武隈はともなく頷く。

 

「そこは予想してました…瑞鳳さんも、私も、()()()に居ましたから。式条前元帥奪還作戦、正式名称を()()()()()()()()。名前の通りです、式条前元帥はフィリピン海側よりも南の海域で消息を絶ちました。というのも、大本営に深海棲艦が乗り込んだのが原因で、当時は中佐だった佐伯湾の岬ノ宮中将の艦隊がフィリピン海への海路を確保、その航路を使って当時同じく中佐だった、宿毛湾の沖崎・ロゼ・フリューゲル大将の艦隊が敵の本隊を叩き、横須賀の島永大将の艦隊がその応援という作戦でした。」

 

五十鈴は聞いていて、疑問が芽生えた。

 

「橘花元帥は?」

 

率直に訊けば、阿武隈は続きがあるとばかりに茶を一口啜る。

一息つき、再び五十鈴に視線を戻す。

 

「橘花元帥…当時は大将でさっきも言った通り、()()()()()()私の提督でした。岬ノ宮中将と同じく、フィリピン海を突き抜ける予定…でしたが、もっと先に居るはずだと、艦隊を更に南シナ海へと向かわせてました。橘花元帥の予測通り、式条前元帥はフィリピン海を越えていました、深海棲艦を味方に付けて(裏切りを隠さずに)です。」

 

五十鈴は目を見開く。

呉の明石と榛名が話さなかった、その概要と詳細。

それを大々的に、二人きりとはいえど。

自身に、包み隠さずに話している。

阿武隈の強い眼差しは、"()()()()()()()"と実感してしまった。

愕然とする五十鈴をお構いなしに、阿武隈は屍言(うらみ)を付け足す。

 

「あの時、()()()()式条前元帥の裏切りを知っていれば、祥鳳さんが轟沈することは無かったはずです。」

 

阿武隈は唇を強く噛みしめる。

 

「だって…作戦の連合艦隊旗艦が祥鳳さんで、先頭も先頭、先陣を切っていたんです。後衛の私達も中破大破が続いていた中、運良く小破で済んでいました。あれはもう、奇跡…ううん、()()()()()生存本能だったように思います…瑞鳳さんは見かけた程度でした。」

 

「その時には、もう零君が生まれてたのね。」

 

五十鈴が目を伏せる。

が、何処か引っかかる。

違和感が、五十鈴の胸中を渦巻く。

 

()()()…?)

 

五十鈴のその違和感を、身体は正直に表していた。

その額に、汗を滲ませる。

無論、阿武隈もわかっていた。

自身で話しているが故に。

戦々恐々とする五十鈴を、肯定するかのように。

 

「零君のお母さんが祥鳳さんなのは、聞いてますもんね?だから、五十鈴さんの気になることもわかります。子供の居る祥鳳さんが、出撃していることでもない。何故、()()()()()、奥さんの式条妃鞠(しきじょうひまり)()()()()()()()()()ですよね?それと、()()()()()。」

 

五十鈴は自身に渦巻く違和感を当てられ、身体を震わせる。

その身に、脳内に、胸中に。

絡みつく違和感。

ソレは考え難く、外れて欲しいものである。

 

「帆潟大将、潮梛大将の艦隊は、別働隊及び近海の護りとして待機でした。問題は、奥さんです。橘花元帥がお願いしたあの日、こう言われたそうです――」

 

 

 

――足掻いても無駄よ。

 

 

 

「え…?」

 

五十鈴は自身の聴力を疑った。

 

「自分の旦那でしょ?!なんで?」

 

阿武隈は首を振る。

 

「諦めていたか、最初から知っていたのか、私にもわかりません。それと、私的に気になるのは、橘花元帥が言っていた、"俺には敵が多い、海軍にだ"って言葉です。」

 

五十鈴は頭痛すら感じていた。

自身の知らない話、追いつけない事実。

 

「沈んだのは祥鳳さんだけじゃない、呉の()()()()。海野大将の前任、字滝景(あざたきけい)大将だった時だったから…。」

 

阿武隈の話からでもわかる、その日の凄惨さ。

五十鈴は言葉を選ぶ余裕もなかった。

 

「酷な戦いだったのね…。」

 

語彙力の低下からでも感じ取れたのか、阿武隈は立ち上がる。

 

「話し込んじゃった…迎撃ですよね?私も出ます、準備に行ってきます。」

 

阿武隈が部屋を出ても、五十鈴は完全に固まっていた。

 

「阿武隈って…とんでもない艦娘だったのね…。」

 

それでも必死に思考を回転させ。

整理が終わるなり、そう感嘆していた。

五十鈴も部屋を出ようとして。

 

「いてて…足が痺れちゃった…。」

 

よろめき、脚を(さす)りながら立ち上がり。

やっとのことで、食堂の艦娘達と合流出来たのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「提督、建造完了しました。」

 

五十鈴と阿武隈が話し込んでいる頃、翔鶴が雪へと報告していた。

 

「あぁ、ご苦労さま。どうだった?」

 

雪が訊けば、建造した艦娘を翔鶴は招き入れる。

 

「英国生まれの金剛デース!!」

 

「マイクチェック、ワン、ツー、よし、大丈夫そうね…金剛型四番艦、霧島です。」

 

雪はその面々に、満足気味に頷き。

 

「舞鶴の海野雪だ、よろしく頼むよ?金剛、霧島。」

 

「「はい!」」

 

二人は雪が提督とわかるなり、敬礼を返す。

翔鶴は神経を擦り減らしたのか、疲れたような顔をしている。

 

「翔鶴、疲れている暇は無いぞ?父上達の艦隊が来るまで、時間を稼ぐ他無いんだ。」

 

「大丈夫です。」

 

翔鶴の余裕そうな返答に、雪は頷く。

考えていた作戦を、脳内で展開させる。

 

「これから、既に舞鶴へ向かった山城を追いかける。金剛、霧島は山城と合流後、曳行を手伝ってやって欲しい。翔鶴は私を舞鶴までそのまま最速で送って欲しい、小型船くらいどの鎮守府にも隠されいるからね。」

 

「「はっ!」」

 

雪の一声で、すぐに作戦は始まった。

一見すると大湊は放棄したように見えるが。

これこそ雪の目論見、舞鶴に敵を集結させるためである。

敵艦隊の全てを一点に集中、その為には航路を通るのは間違いない。

よって、舞鶴に向かう道中で幸造の艦隊で。

大湊から向かってくる道中の艦隊も撃破できる。

尚且つ、敵艦隊が減ったところを、龍玄の艦隊と共に舞鶴で叩き伏せる。

雪が龍玄に説明したのは、この策略と戦略持ってしてのモノ。

敵艦隊(それら)に追いつかれず、如何に早く辿り着けるか。

それが雪の手腕にかかっているのである。

 

「無理をさせてすまないな。」

 

そう言葉を出すのは、雪自身が一か八か(賭け)と踏んでいるからこそ。

艦娘とて、()()()()()()()()()

それでも、雪の立てた作戦以上に。

良い手など、思いつきなどしない。

翔鶴が雪の考えに乗ったのは、()()()()()()

 

 

――追い込まれているのは、海軍側。

 

 

それを、全員がわかっていたのだ。

雪も、龍玄も、幸造も。

ただ一人、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「雪ちゃん、頼んだお…なんとしても、舞鶴に無事に着いてくれお。」

 

恋は舞鶴にて、決着を付ける気でいる。

それも大将二人が諦めかけている、この大戦(おおいくさ)に。

舞鶴に向かうための船に揺られながら、舞鶴の方を見る。

 

「大鳳、()()()()()()()()()。」

 

「はっ!」

 

静かに声を低く、されど語尾はそのまま。

恋が大鳳を見れば、大鳳は姿勢を正す。

その立ち振舞に隙はない。

佐伯湾でどれほど鍛え抜かれたのだろうか。

しかして、この大鳳の力量を持ってしても。

恋のこの気迫を持ってしても。

 

 

 

天は味方など、してくれはしない。

それを、身を持って知ることになる。

何を隠そう、本人の覚悟は揺るぎない。

 

 

 

 

 

――さぁ、私の最期(戦場)だ、邪魔はさせない。

 

 

 

 

 

散々というほど、練っていた。

散々なまでに、呟いていた。

散々に、張り巡らせた。

散々な故に、別れさえ惜しんだ。

散々たる末に、そう決めた。

誰も止めることの出来なかった──

()()の覚悟と信念。

 

 

 

 

 

 

 

――()()()()確実なのだから。




如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。
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