UAがいよいよ、5000を突破しました。
本当にありがとうございます。
それでは、本編どうぞ。
――コンコン
「はい、今開けます!」
初日の幸造による、授業も終わり。
自室で待機している零の部屋に、ノックの音が響く。
ベッドに座って雪から渡されていた書類に、目を通している所であった。
それらを置いて零がドアを開けると、栗毛の長髪をした艦娘が立っていた。
「こんばんは。」
「こんばんは、球磨型軽巡、大井よ。」
挨拶もそこそこに。
零は中に招き入れ、押入れにあった座布団を宛行う。
「え?大湊に海野提督が向かって、舞鶴にも敵が侵攻?」
「えぇ。」
大湊と舞鶴を巻き込んだこの一件は、この場で零の耳に入った。
しかして、やはり子供。
事実は受け止められても、理解など到底出来るものでは無い。
脳をフル回転させても、如何せん理解に苦しむ。
顔にも出ているあたりから、察しは付く。
「そうよ、あなたには難しい話でしょうけど。」
呆れ混じりで左腕を腰に当ててそう諭すのは、艦娘の大井である。
零に教えてやるべきと踏んで、教えてやったに過ぎない。
眉間に皺を寄せ、自身が見た敵艦隊の群れを思い出す。
「あれだけの敵艦隊、私たちも初めてよ。」
大井は目を伏せる。
「大井さんが、なんでそれを…俺に?」
「…何故でしょうね?」
零の疑問に短くソレだけを言って、立ち去ろうとするが。
「その、海野提督は…。」
零の心配そうな声色に、片目を瞑り。
「海野少将なら大丈夫よ、きっと
そう告げ、部屋を出て歩き出す。
零の耳に入れたのは他でもない、大井が目に掛けているだけに過ぎない。
でなければ、夜遅くに部屋を尋ねてまでする理由など。
「このくらい教えても、
本人の一言からもして、ソレ以外に説明はつかないであろう。
「零君、ね…。」
そんな呟きは、正面から現れた幸造の声に掻き消される。
「おぉ、大井ではないか。」
幸造は、大井が向かってきた方向を見る。
顔を赤くしながら、
「
ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「そ、そんなんじゃありません!」
「まぁまぁ、そう大きな声を出すな。
幸造は咎めもせず、大井に優しく声をかける。
その大井は俯きながら、小さく頷く。
何故、幸造が咎めないのか。
大井は疑問に思うところでもあった。
「なに、私も伝えるべきかと思っていたところだ、気に病むことはあるまい。
もと来た道を戻りながら、悠々と話しているが。
それは、幸造自身も考えていたことでもあった。
というのも、迎撃編成を考えた時点である。
「そ、それもそうでしょうけど…。」
大井にはその心理は読み取れない。
されど、幸造が嘘を付いているとも思えなかった。
歩きながら、返し文句を思いつく。
「…舞鶴に海野少将は着いた頃でしょうか?」
勘繰りながら幸造に訊けば。
「大湊からだからな、まだ暫くは掛かるかもな…それよりもどうだ、
更に返されてしまう。
大井が"どう返したものか"と悩んでいると、後ろからの足音で振り返る。
「大井さん、やっぱりもうちょっと詳しく…って、島永教官!」
振り向きざまの零は、幸造を見るなり綺麗なまでの敬礼を見せていた。
その姿は、何処か大井を奮い立たせる何かがあった。
零を意識してしまった
「……っ!」
無言で目を見開く。
幸造は、大井のソレを見過ごさなかった。
「…大井、
大井を見ながら幸造がそう言うと、大井の示した行動は。
「横須賀鎮守府
姿勢を正し、同じく敬礼を返した。
零は首を思わず、傾げてしまう。
「大井さんとはさっきも…?」
幸造は零の頭に、手を置く。
「橘花君、これは大井なりの誠意なんだ。甘んじて、
零にはなんのことやら、皆目も理解が出来ない。
が、大人しく頷いておこうと、子供ながらに仕舞い込んだ。
「して、橘花君。大井から聞いてしまった以上、私からも説明せねばならん…よって、ものの次いでだ、今からで申し訳ないが、執務室に来て欲しい。」
「はっ!」
零の敬礼は、大井という
ソレの
この場での大井は、考えもしないであろう。
「さて、橘花君。話は聞いておると思うが、大湊と舞鶴は今、
執務室に着き、大井と零を前にして。
デスクの椅子で座りながら、煙草に火を付け一口含む。
「その上で、私は艦隊を動かそうと思っておるのだよ。娘の境地、勿論のこと呉も動くがな。」
煙を吐き出しながら、一つ思い浮かぶ。
「あぁ、佐伯湾も動くか。」
「佐伯湾?」
幸造の"佐伯湾"という言葉に、零は反応する。
しかして、それは単なる疑問に過ぎないが。
大井は思うところがあるのか、額に汗を浮かべる。
「ほう?貴殿は初耳か。岬ノ宮恋中将の鎮守府、佐伯湾泊地だよ。」
零はその
「恋さん!恋さんが、佐伯湾なんですか?…佐伯湾って何処ですか?」
場所のわからぬ零に、大井がため息を吐きながら。
「九州よ、九州。」
そう説明を加えた。
幸造が驚いたのは、
「み、岬ノ宮を知っておるのか?」
身を乗り出すように、零を見る。
「はい、知ってます。大本営に何度か来てくれて、話もしたことがあります。」
これには二人とも度肝を抜かれた。
曲がりなりにも中将、それを下の名前で。
恐れることもなく、さらりと言い流してしまったのだ。
尚且つ、言った上で。
なんら、申し訳なさを微塵も感じさせない。
"本物だ"と、大井はその顔に驚愕の色を見せる。
対して幸造は、"面白いモノを見た"とばかりの笑顔である。
笑顔を消し去り、幸造は真顔で大井へと視線を向ける。
「大井よ、貴殿もその艦隊に組み込んだ。どうだ、この年寄りの為にも動いてくれるか?」
幸造の視線に続き、零が大井を見る。
「動きますよ、組み込まれた以上は。ただ、岬ノ宮中将も居るのなら、大鳳さんが居るということです。
大井はその視線に負けじと、悪戯めいた笑みを見せながら返す。
しかして、これは嫌味ではない。
現実を見据えたが故の、自身の見解でしかない。
この笑顔は、貼り付けただけの虚勢。
それ程までに。
「貴殿にとって、大鳳は畏怖の対象か?はたまた好敵手なのか?」
「その
奮い立たせるモノであり、他ならない。
幸造は深く頷き。
「そうか。ならば、しっかり頼んだぞ。大将である私の艦娘が、まさか中将の艦娘に遅れを取るのは…などと、
幸造が煙草をまた一口含みながら、零に問いかける。
零は終始、
なれど、訊かれた内容はわかっている。
「大井さんも海野提督のために、出撃してくれるんですか?」
「えぇ、これでも
腕を組み、片目を瞑りながら零を横目で見る。
見れば見るほど、惹きつけられる。
片目でなく、両目で見てしまえば。
(元帥の息子…これが?
胸中では、尚更に驚きは増していく。
だが、そんなものも束の間。
「では、編成を教えよう。」
幸造が書類を引出しから、広げる。
と、同時。
―――ジリリリリリ!
デスクの電話が
幸造は音で、否、零も大井もだが、身体を震わす。
「はい、横須賀鎮守府。」
[呉鎮守府、海野です。]
頭を掻きながら幸造が出れば、相手は龍玄である。
幸造は二人を外に出そうか悩んだが、その考えは捨て去った。
「何か進展でもあったか?」
[はっ。ゆ…ん”ん”、海野少将が舞鶴に到着したとの連絡がありました。よって、舞鶴に今から俺の艦隊も向かわせます。柳中佐と所属の艦娘達は、治療及び入渠を始めたとの報告も受けております。無論、岬ノ宮も全速力で向かっています。」
一連の説明を受け、幸造は力強く頷く。
「そうか、
[はっ、お待ちしております。それと、もう一つ。]
「なんだ?」
受話器を置こうとしたところで、幸造は眉を
[鳴波見も来るそうです、
そこまで聞いて、幸造は声高らかに笑い出す。
黙って見守っていた零と大井は、顔を見合わせ互いに首を傾げる。
「そうかそうか、鳴波見も来るか。相変わらず、彼奴は素直では無いな?無理もあるまい、年下の片恋相手が
[は、はぁ…。]
幸造の言わんとすることは、龍玄には読み取れなかった。
だが、増援があることはお互いに嬉々とするものでしかなかった。
「では、舞鶴でまた会おう。それと、海野よ。」
[なんでしょうか?]
今度は幸造が、受話器を置く龍玄の手を止めさせる。
「橘花君も
[しょ、少年をですか?!な、なんでまた…。]
この言葉には、龍玄も衝撃を受ける。
「指揮ができる者は、多いほうが良いだろう?まだ私の教鞭も途中だがな。だが、
横目で幸造が、二人の方を見る。
耳だけを傾けていた大井が怖い物見たさの如く、零の方へと勢いよく顔を振り向かせる。
当の本人は、後頭部を掻きながら苦笑を浮かべる。
零自身にとっては、信じられないことを頭の中で繰り返しながら。
(俺が少佐で、舞鶴に…。)
拳を握りながら、決意を顕にするなり。
徐に、幸造のもとへと歩み寄る。
大井は完全に、止めることを忘れていた。
足音に気付いた幸造が、制することなく。
「自分でも話してみるか?相手は海野だ。」
そう言って、零に受話器を渡す。
「お電話代わりました。海野大将、橘花です。」
[少年か。聞いていたのか?]
その声に臆することなく、零は龍玄に告げる。
「はっ。俺は、海野提督…海野少将に助けられました。だから、今度は俺が返す番です。なので、島永教官から頂いた、
龍玄も大井も、その言葉を疑った。
(誰から教わるんだ、
龍玄は声に出さず、静かに胸中で。
大井は自身の見たもの、感じたものを今一度噛み締めた。
「そう…。」
幸造が呟いた大井に言う。
「貴殿の感じたモノ、いま目にしているモノ…それは本物だ。
大井は自身の感覚は、"間違っていなかった"と、安堵した。
[良いだろう…ならば、娘を大湊を、海軍を…少年、お前にも背負って貰いたい。頼めるか?]
「はっ!」
龍玄の振り絞るような声に、凛とした声で零は返した。
それは、居合にも似た返しであった。
そう比喩されるほどの、迷いのない返事であった。
[迷いの一切も無いか…では、少年も舞鶴でまた会おう。島永大将に代わってくれ。]
龍玄にそう言われ、幸造に受話器を渡す。
「島永教官、ありがとうございました。」
一言、感謝を加えて。
「代わったぞ。」
[では、少年も組み込まれましたので…作戦参加者を繰り返します。]
「うむ。」
龍玄は確認を含めた、作戦参加者の名前を述べる。
[島永大将、鳴波見大将、この海野龍玄、岬ノ宮中将、海野少将、そして橘花少佐、回復が間に合えば柳中佐が加わる予定です。]
「相わかった、では舞鶴にこれより向かう。艦隊は横須賀からはニ艦隊の予定だ。」
[はっ。]
全て聞き終え、幸造は受話器を置く。
「丁度良かったな…では、大井。今から編成を伝達する、組み込んだ艦娘達を集めて欲しい。」
「はっ!」
「では、行こうか。」
「「はっ!!」」
編成を聞き終え、大井が集めた艦娘達。
その確認をすると、執務室を出て全員が港に降り立った。
零と幸造が船に乗り込み、動き始めたのを確認すると。
「艦隊、抜錨!!」
旗艦である、由良が海へと踏み込み。
一本に束ねた紫がかった三つ編みの銀髪を揺らしながら、艦隊に号令をかける。
「「抜錨します!!」」
由良を含めた合計十二隻が、一斉に海を駆ける。
その中には、勿論のこと大井の姿もある。
「圧巻だ…。」
デッキで眺める零は、感動に近いものを感じていた。
「ああやってれば、ただの子供よね。」
大井はといえば、数刻前までのは夢かと感じていた。
「ふふっ、大井さんもそう思うわよね?」
由良が道中で、怪訝な顔をする大井に話しかける。
「えぇ、まぁ…。」
由良は来た時の零を思い出しながら。
「あの子…いえ、橘花少佐は私が初めて会った時、提督の前で泣きながら誠意を見せてたの。」
「え?」
大井は、そんなことは知らない。
自身の耳を少しばかり疑う。
それは当然のこと、幸造も零も話していないのだ。
「お母さんを亡くして、それでも助けてくれたのが艦娘だからって。だから、綺麗な海を見たいんだそうよ?私達、艦娘と一緒に、ね。」
大井は記憶の片隅を探る。
「…橘花少佐のお母さんって…。」
そう言いかけた時、横槍を入れる艦娘が現れる。
「やめなさいよ、本人も知らないんだから。」
声の主は、霞だった。
大井は咄嗟に道を譲る。
「いいのよ、知ってるのは私達だけで。」
霞は後ろ向きで、そのまま海上を駆ける。
「いい?子供だから知らない方が良いってわけじゃないのよ?
霞がそう告げると、大井も由良も忘れることにした。
「そうね、今は作戦に集中しましょう、ね?」
「えぇ、そうするわ。」
由良が諭すように言えば、大井も肯定した。
その離れた艦隊で、憶測を張り巡らせる艦娘も居た。
「舞鶴に大湊、相当離れた二つの鎮守府…共通点は何かな?」
顎に人差し指を当て、空を眺める艦娘は鬼怒である。
「考えたって…難しいわね。」
前を駆ける、足柄は同じく首を捻る。
「舞鶴で提督達の作戦が立つのを、待つしかありません。」
前に出て、鬼怒の隣に来たのは長良である。
「そうよねぇ。」
全員が考えるのを止めて、歩を進める。
この場の井戸端会議的な何かは、もっと詰めるべきだったと後に気付く。
なれど、進める場所では無いのも確かである。
「橘花少佐、良いかな?」
「何でしょうか?」
そんな中、幸造は船内に零を連れ戻す。
「すまんな、中々見れない光景だろうに。」
「いえ、それで?」
零に椅子に座るよう先導し、自身もゆったりと座る。
背筋に自ずと力が入るが、零はそれに構わず言葉を待つ。
「いいか?この先は流れる血を見るやも知れん、
幸造の言わんとすることが、零には察せた。
「「提督が諦めてはいけない。死こそ最大の汚点、指し示し、本領を発揮させる。それが、指揮。」」
幸造と零の二人の声が重なる。
これには幸造も驚いた。
「さすがに教わっておったか。」
「はい、昔から刻みつけられました。」
零の返答に、幸造は口角を上げる。
「貴殿には驚かされてばかりだな。」
そう言いながら、満足気に頷いた。
「あ、ありがとうございます…?」
零はキョトンとしながら、頭を下げた。
話が終わり。
再びデッキに出てきた零に、接舷しながら話かける艦娘がいた。
「橘花少佐?」
「あなたは?」
零は初めて見る水色の髪をした艦娘に、思わず問いかける。
「霞よ、あなた挨拶の仕方はわかるかしら?」
「挨拶?誰にですか?」
聞き返した零に、半ば呆れる霞は。
「いい?確かに、交流のある相手かも知れないわ。でも階級はあなたより、よっぽど上よ?だから、礼節としての挨拶を教えてあげるわ。こう言うのよ?」
霞が一言教えると、デッキでひたすら零は暗記を始める。
「ま、頑張りなさいな。」
そう告げると、霞は隊列へと戻った。
そこから練習を終え、他愛のない会話をしながら黙々と進むこと数時間。
「舞鶴に到着するぞ。」
「はっ。」
再び、舞鶴に到着し再びその地に降りる。
艦娘達も艤装を解除するなり、
「まだ何日くらいしか経ってないのに、懐かしく感じる。」
「何ヶ月も住んでいたんだ、無理もあるまい。」
幸造と話しながら、零は見慣れた鎮守府を見ていると。
一人の影が、歩いてくるのが見える。
「島永大将、お久し振りです…おや?」
その主は言わずもがな、雪である。
零の姿に気付くと、言葉を途中で止める。
二人を見ながらも幸造は、何も言わず二人を眺める。
敬礼を構え、雪へと真っ直ぐ視線を向け。
「横須賀鎮守府付海軍学校所属、橘花零です!今回、少佐の階級を頂き海野少将のお力添えをするべく馳せ参じました!よろしくお願いします!」
零は気概を見せるように、強く言い放った。
「そうか、遠い所お疲れ様…いや。」
雪は握手をしようと、手を伸ばすが。
途中で、思い直すと。
「舞鶴鎮守府、海野雪。島永大将、橘花少佐。この度は舞鶴、大湊の援護に来て頂き感謝致します。」
姿勢を整え、敬礼で返した。
その凛とした声色と、姿に零は再び憧れを抱く。
「敬礼に挨拶、立派だったよ。」
そう、雪に耳元で囁かれ、零は顔を赤くする。
幸造は満足そうに、霞の肩に腕を回し。
「長生きはしてみるもんだなぁ。」
そう言うと、霞は驚き。
「うるっさいわよ、このクズ!」
「相変わらず連れん奴だなぁ。」
地団駄を踏むように、その腕を振りほどき雪のもとへと去っていく。
幸造が寂しそうにしたのも、束の間。
「橘花少佐に教えたの、貴殿だろう?」
その後ろ姿に、茶化すように一言告げる。
すると、恥ずかしいのか霞は躓く。
顔を朱に染め、睨み付け。
「ふん!」
と、幸造を相手にするのをやめる。
「海野大将と鳴波見大将は、既に中で待機しております。」
そう雪が助け舟を出し、一行は鎮守府内へと入って行った。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。