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それでは、本編どうぞ。
舞鶴鎮守府の会議室。
そこで、二人の声が室内に響いていた。
「まさか、
低い声が響く。
先手は言わずもがな龍玄の声であるが。
問題は、対話の相手である。
「海野君、
脚を組みながら机に頬杖をつき、放たれる言葉。
その声は高くも、飽くまでゆったりと響く。
龍玄が皮肉を込めながら、嗜める目前の相手。
気軽でありながら間を見極め、出方を待った。
が、それは悪手であった。
それ故に、その言葉に息が詰まったような感覚を覚える。
その名前というのが。
「鳴波見、この作戦に参加しようと思った理由はなんだ?」
佐世保鎮守府大将、鳴波見燐火である。
八つも年下、されど自身と
故に龍玄としても、敵には回したくない。
勘繰るように訊くが、それもまた悪手。
「雪ちゃんが危ない、
短くそれだけを燐火は言った。
だが、続く言葉に龍玄は自身の耳を疑う。
「それと、気になることも出来てね?実は、深海棲艦…それも姫級が一隻だけで
「姫級が一隻?佐世保は大丈夫だったのか?」
単純な心配である。
この、思考回路の速さ。
大将の座に居るのも、納得である。
龍玄からしたら、然程の社交辞令程度である。
しかし、その燐火から返ってくるのは。
「うん、千歳達が頑張ってくれたからね。ま、
龍玄は目を見開く。
それどころか、驚愕があまり言葉を失う。
というのも、湯呑を持つ手が止まったのも相まってである。
「に、逃がすだと?」
狼狽する龍玄の耳元で、燐火が
「こうは言ったけど、確証は無いよ?逃げられたとは言ってた、でも、あの千歳から逃げられたなんてこと、信じたくないだけかも知れない。これだけ言っとくよ…零君を
「そこで少年が出る理由はなんだ…?」
そう燐火が言うが、龍玄には尚更に疑問が
まるで見ていたかのように、自分の立場を気にせず。
「姫級一隻で鎮守府に現れる…そんなの、前代未聞っしょ?考えられるのは偵察か、
"探し物"という言葉で、龍玄はやっと理解が追いついた。
予期せずとも、予想は付くことだと。
二人の予測と推測は、大きく外れた物であったが。
「橘花零…元帥の息子ともなれば、消しにかかるのは当然のことか。」
龍玄の見解に、燐火は頷く。
「にしても、雪ちゃんが零君を拾うとはねぇ…十年ぶりなんじゃん?あの二人が揃うのって。」
龍玄は話題を大きく逸らした燐火に、溜息を漏らしてしまう。
「はぁ、お前は本当に自由奔放だな…いつになったら少年に言うんだ?自分が親戚…
燐火はそれに頭を振り。
「言わないよ、この先に何があってもね?鳴波見という
そう言って、琥珀に近い眼色を鈍く光らせる。
その眼を見た龍玄は、"これ以上は何も訊く気もない"とばかりに。
「…他人の
その言葉を聞いた燐火は、満足気に頷いた。
「流石、海野君!話が早いじゃん!」
「その言葉遣いは、どうにかならんのか…もういい年だろう?」
「いいんですぅ!女の子は、いつまで経っても女の子なんだしぃ!お偉いさんの前では、ちゃんとしてるしぃ!」
龍玄の言い分を他所に、燐火は頬を膨らませながら弁解した。
こんな様子ならば
そんな折。
――コンコン
「失礼します、島永大将と橘花少佐をお連れしました。」
「「どうぞ。」」
雪のノックに、二人は立ち上がり姿勢を正す。
「海野に鳴波見、二人とも久しぶりだな。」
二人を見るなり、幸造が右手を額に軽く当て。
敬礼を済ませながら歩を進め、声をかける。
「「はっ!お久しぶりです!」」
二人の敬礼に笑顔を浮かべながら、隣にいる零の肩を掴む。
そのまま前へと押すが、本人は焦りを見せる。
「え?!」
そんなことをされれば、子供には辛いものである。
緊張も
腕を後ろで組みながら、雪が言う。
「
そう言われ、零は確信した。
なればこそ、やることは決まったのであろう。
「横須賀鎮守府付海軍学校所属、橘花零です!少佐の階級を頂いたので、この場に来ました!よろしくお願いします!」
敬礼をしながら言えば、龍玄も燐火も返す。
「立派な敬礼をありがとう。佐世保鎮守府大将、鳴波見燐火よ?よろしくね。」
「俺は何回か会ってるがな。呉鎮守府大将、海野龍玄だ…少年、軍服が似合っているじゃないか。」
零は舞鶴という、かつての住処だったこの場所に。
寂しさでもなく、重たく流れる空気でもなく。
ただただ、自身の成せることは何か。
頭を埋め尽くすのは、幼い身体に降り注ぐ責任であった。
「橘花君、早速だが作戦要項の確認をする。壁に貼ってある海図を、ここに広げてくれ。」
「はっ。」
幸造の指示で零は、
言われた通り、机の上に海図を広げる。
全指揮は龍玄なのか、幸造が目配せをする。
その視線に、小さく頷き。
「では。これより作戦要項と、敵の進軍を確認する。」
龍玄が言えば、全員が海図へと視線を移す。
そのまま作戦会議が進むに連れ。
「A地点を舞鶴近海、B地点を大湊へと続く太平洋側の中心、C地点を日本海側の中心、D地点は…少年ならどうする?」
煮詰まってきたところで、零へと龍玄が訊く。
少年で少佐と言えど、戦場に立つ軍人。
この場に呼ばれる手腕が、どの程度かと力量を試そうという魂胆。
指名された零は、必死に目を凝らす。
悩みながら見ていると、海図の一点に目が留まる。
「ここ…俺の居た島ですよね?見た目というか、あの電磁塔でわかります。もし、そうだとしたら陣取ったと考えた深海凄艦達が、集まる可能性は捨てきれません。ここも通り道にすれば、警戒しながら北に進めます。仮に外れたとしても想定内、当たっていたとしても想定内、撃破進軍が可能だと思います。」
零の見解には、全員が感嘆した。
将が付く四人がである。
「少年、その理屈でいけば確かに可能だな。しかし、艦隊をそこまで
龍玄が怪訝な顔でそう言うが、零の不敵な笑みを見て。
(考えがこれだけでは無いのか…?)
脳内に渦巻く、ある男の影。
その影が、零にも写ったというのでもあろうか。
同時、耳にリフレインする言葉。
『いいか、龍玄。正攻法には、必ず落ち度が出てくる。周囲をよく見ろ、その先に打開策がある…ま、これは息子にも教えていることだがな。』
その声をそのままに。
零をもう一度見ると、海図に線を引いている。
ここは子供らしさが垣間見え、フリーハンドは些か拙い。
だが、その動きさえ龍玄には。
紫雲をその眼で、姿を重ねていた。
「海野少将の艦隊をA地点、B地点を鳴波見大将の艦隊、C地点を島永大将の艦隊で運用することで、D地点では海野大将の艦隊を回せば大丈夫かと…島永大将は幸いにも、ニ艦隊を連れてきてますから。」
と、頬を掻きながら、苦笑混じりに話す零とは相対に。
幸造すら驚きを隠せずに居た。
「橘花君、教わっていたにしろ、これはあまりにも…。」
幸造が言えば、零は答える。
それは、誰も予想だにしない理由。
「俺に教えてくれたのは、元帥の父さんだけじゃありません。榛名や龍田の艦娘たちと、母さん…鳴波見柊も教えてくれたんですから。」
雪は声を失っていた。
まさか、
半ば、信じられない部分があったのだ。
「そうか…ならば、日本海側はどうする?」
龍玄が納得の色を見せつつ、零を更に追い込む。
幸造から既に聞いていた零は、
この間、数十分。
思考の回転は、やはり若さだろうか。
「恋さんの艦隊がありますから。なんでも、大鳳さんという艦娘は強いみたいなので。」
零の思考、艦隊運用の見解。
それらに誰ももう、何も返す言葉すら思いつかなかった。
それ程までに、零の考察とも見解とも言えるものは。
ソレ以上に完璧な案は、持ち合わせていなかった、
否、
「度肝を抜かされたな…。では、日本海側を岬ノ宮に…ん?そういえば、奴がまだ来てないな?」
龍玄が思い出したように呟くが、誰も恋からの連絡を貰っていない。
待っていれば来るだろうと、気にしないことにするが。
その恋は既に、
「お?まだ誰も来てないのかお?」
幸か不幸か。
日本海側から、大湊へと向かっていたのだ。
舞鶴に集まった者達は、知る由もない。
「敵艦隊は?」
恋が船の横を駆ける、大鳳に訊く。
落ち着きはそのままに。
「偵察機に反応はありません。」
恋にそう言葉を返せば、本人は頷く。
「わかったお、もう少し先に進んでみるお。」
「はっ!」
完全な恋の勘違い。
作戦も立てず、誰が現地に行くというのか。
恋の率いる艦隊は、そのまま北方を目指す。
これが、吉と出るか凶と出るか。
それは後にわかることである。
舞鶴では、作戦も煮詰まり。
「では、明日、ヒトマルマルマルから作戦開始とする。」
「「はっ!!」」
龍玄の言葉で、敬礼を交わした後。
全員が執務室を出た。
零が廊下を暫く歩いていると、声が聞こえてくる。
振り返れば、白髪と鉢巻を揺らしながら駆けてくる姿が見える。
「零君!!」
駆け寄る艦娘は、勿論のこと。
「瑞鳳!?」
瑞鳳である。
驚く零に、勢いそのまま抱きつく。
「零君、どうしたの?まさか、寂しくて戻って…え?」
零の軍服。
その胸元を見て、漸く気付く。
視線で察し、零も頷き返す。
「うん、実は少佐になったんだ。それで、今回の大湊と舞鶴の攻防作戦に参加させてもらうことになってさ…舞鶴の艦隊を借りて指揮することも決まってるんだ。もちろん、
瑞鳳は最後まで聞き終えると、再び零に抱きつく。
「零君、おめでとう…本当の軍人になれたんだね。艦隊は任せてね?私も出るわよ、もちろん♪」
腕の中の軍服を着た少年。
傷だらけで悲劇に遭いながら、縋るように初めて出会った少年。
その姿は、確かに幼い少年の形をしていたはずだった。
だが、自身の掲げた贖罪とも言える目標。
恐らくこれを、周囲の大人も。
この作戦で背中を預ける艦娘も。
これを
だが、瑞鳳は違った。
――"少年"は"少佐"という軍人に変わってしまった。
そう感じ、気付かれぬよう唇を震わせる。
感じたものは、そのまま仕草に出てしまう。
それは、嬉しさなどではない。
否、"嬉しさも"あるが。
ソレ以上に、胸中で渦巻いたあの
無慈悲にも、零は逃げられなくなった。
無論、
カチリ、カチリと。
刻まれる時間、運命の歯車。
それらは止まらない。
――ずっと一緒。
零の考えとは裏腹、瑞鳳の真の
未だ序章、ここからである。
強いて、敢えて。
この
魔法も呪いも無い。
否、それは違う。
人々から忌み嫌われ。
糾弾され、限界を超え。
やがて臨界点を迎える。
なれば――喪失。
喪失し、全てを拒み。
ひたすらに恨みを纏う。
なれば――怨恨。
怨恨は消えず、ただひたすらに。
恨みを唱え続け、自身を壊す。
なれば――呪詛。
呪詛を綴り、
自身も相手も縛る。
なれば――呪縛。
呪を祝としてしまう。
なれば――
何人足りとも寄せ付けぬ。
邪"魔"されない、その方"法"。
なれば――魔法。
"綺麗"でも"絢爛"でもない。
"魔法"にそのようなモノは存在しない。
瑞鳳の底知れぬ束縛、嫉妬、独占欲。
それらもまた。
――魔法と呪いでしかない。
この例えが正しいのならば。
それらが今後、どのような影響があるかどうかは。
「零君…私と一緒に、
この瞬間から。
荒ぐ呼吸を抑えながら、頬を赤く染め上げ。
零の耳元で囁く、この
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。