最近は忙しく、中々に更新が滞っていて申し訳無い限りです…。
更新は続けていくので、長い目で見て頂ければと思います。
それでは、本編どうぞ。
愛香を失って数日間、恋は荒んでいた。
家族をその手で葬ったまではいい。
しかして、その代償は大きかった。
が。
そこは名家の息子。
曲がりなりにも、が付くが。
伝手があった。
その伝手こそが大きい存在である。
「岬ノ宮の倅が…再三に渡って、釘を刺したというのにな…。」
幸造である。
この時、四十を数えた頃だろうか。
話を耳に入れるなり、動揺を隠せずに唸る。
会議のような何か。
その場に居た人間達へと、言い放つ。
大事にならずに済んだのは確実に。
「いいか、岬ノ宮家の驕りが生んだ産物だ。
幸造による、この言葉が全てであろう。
結果、内々で事を
「十八代目…。」
新道家の通夜で、艷のある黒髪をした糸目の少女が愛香の顔を撫でる。
その最期を呟きながら、見届けているに過ぎない。
「お悔やみ申し上げます。しかして、貴殿は一体…。」
幸造はその場に居合わせ、思わず声をかける。
齢は十四、五の見た目。
「わっちのことは、どうでも良いでありんす…。」
少女は幸造の姿を、その目に映さず意にも介さない。
対して何とも古めかしい言葉遣いに、幸造は内心で首を傾げる。
「十八代目…いえ、新道愛香は、わっちの姉弟子でありんす。」
そんなことはお構いなしに、糸目の少女は続ける。
「風邪をこじらせたとは聞いたものの…
幸造は微動だにせず、少女の言葉を聞き続ける。
「岬ノ宮家でありんしょう?えぇ、ご令嬢ともなれば、命は狙われましょうとも。岬ノ宮家とは、わっちも
尚も振り向きもしないまま、少女は口を震わせ。
「どなたか存じ上げませんが、もしも岬ノ宮をご存知ならば…。」
そう言いかけたところで、幸造が少女の頭に優しく手を置く。
「すまなかった…私の目が届いていれば…このような惨状を招くようなことは…。」
幸造は静かに。
「私とて、望んだ結果では無かった…あぁ、
そう言い聞かせるように呟いた。
「
なれど。
幸造の言葉は、少女の毛を逆撫でた。
少女は漸くその顔を見せる。
言葉という刃、その手に真刀を添えて。
その目には復讐心を見せながら。
「岬ノ宮家の長男、その首。わっちが切り捨ててご覧にいたしんしょう。」
紛うことなき殺気を、幸造は本能に
「貴殿の本懐、その殺意…当てるべきは彼奴ではない…。」
この当時の幸造とて、伊達に防衛大臣ではない。
幾度となく暗殺を目論む輩を、
よって、威勢を見せつける。
去勢では無く、文字通り。
「わっちの怒りは…何処へ向ければ良いのでありんしょう?岬ノ宮家の嫡男の命に変わるものなど…。」
「俺が…なんだって?」
後ろから響く声に、二人は振り向く。
「最期に顔くれぇ見ておこうと思ったら、とんでもなく物騒なこと抜かしやがる。俺を殺したきゃ殺せよ。」
恋が拳を握りながら、二人に向かって俯き気味に歩を進める。
「主さんは…?」
「岬ノ宮恋、あんたの探してるガキだよ。」
憤怒。
何故、恋がそれを纏っているのか。
この少女には、皆目も見当など付かない。
少女の目前までやって来ると、恋はその胸倉を掴む。
「俺がこいつを見ていることしか出来なかった、その報いくれぇは受けてやる。だがな、生憎と俺もタダでやられるわきゃいかねぇ。あんたが俺を殺すのは、俺の
恋はゆっくりと。
少女の胸倉から、手を離す。
自身の掴んだ手で皺になった和服を、整えてやり。
「…一生俺を恨んどけ。あんたの大事な人を殺したのは、間違いなく俺だ。」
幸造は目を細め、恋の一連の動作を見て。
(貴殿は腐ってなどいない…危うい道だけは辿ってはならんぞ。)
胸中で呟いた。
「それと。」
恋は持って来ていた長巻を、少女に手渡す。
少女は糸目を見開き、恋を見る。
「
言いながら。棺の中で眠る愛香の髪を撫でる。
しかして。
鞘から抜いた刀身を見た少女は、思わぬ行動に出る。
「
恋にその刀を返す。
「次に会った時、主さんには容赦しないでありんす。その刀は、十八代目が丹精込めて
少女が静かに言い放つ。
恋はふと、その流派を口にする。
「宵上彼岸流…ッ?!」
耳にした瞬間、少女は刀身を抜き。
「はぁっ!」
「なっ!」
気合一閃、恋の喉元に切先を突きつける。
静かに見守っていた幸造も、一歩も動けずにいた。
恋は反射神経に頼り、後ろへと一歩下がっていた。
「あぶねぇ…。」
「二度と、その名を口にしてはなりません。この流派は日の目を浴びぬよう、隠されてきた流派…主さんがどのような経緯で知ったかは存じませんが。」
「俺達が襲われた日、こいつがそう言ったんだ。"宵上彼岸流には奥義はまだまだある"ってな。」
真相は軽く、すぐに解けた。
その軽さは少女には重かった。
糸目に戻った瞼から、雫を一滴流す。
「主さんの前で…そう言ったのですか?」
「あぁ。」
少女の確認に、恋は肯定しながら頷く。
(九音!私にも好きな人が出来たの!)
(もしも私に何かあった時、
「そう、ですか…
「あ?」
少女は耳に残る声を聞きながら呟き、納刀する。
そして。
「わっちは、
九音は床に座り三つ指を立て、深く挨拶をする。
「俺は…言ったか、おっさんも教えてやれよ。このままじゃ、おっさんの名前が"おっさん"になっちまう。」
九音の挨拶に、恋は呆れたように幸造に促す。
然るべき挨拶をしようと、幸造は大人の威厳を示す。
「お、おぉ、そうだな。私は内閣官房長官、島永幸造だ。何かの縁があれば、いずれまた会おう。」
その名を聞いた途端。
九音は、無礼を
非礼を詫びるべく、そのまま土下座へと移行する。
「た、大変申し訳ありませんでした!」
「気にするでない、恋を見てくれ。私を、"おっさん"と小馬鹿にしてくるぞ?」
笑い飛ばしながら、恋の背中を勢いよく何度も叩く。
「痛ってぇよ!」
二人のやり取りに微笑み、九音は立ち上がる。
「ふふっ、仲がよろしいようで。何とも
九音は笑顔を見せる。
元々が糸目なのもあり、最初から笑って見えるのは気の所為ではない。
「では、我々はお暇するぞ。」
「じゃあな。」
二人が去るなり、九音は感傷に浸り。
「岬ノ宮恋…わっちには、主さんを守る
口をついたソレは、愛香の棺の前で虚空に消えた。
「なぁ、おっさ…。」
通夜の帰り。
幸造が運転する公用車で、恋は声を掛けようとして躊躇った。
「恋よ。」
幸造が静かに語りかける。
生唾を飲み込み、恋は切り出しを待つ。
心当たり以外ない。
額からは汗が流れ、血流が激しく脈を打つ。
それほどには、自身の犯した罪に自覚を持っていた。
「私は言ったはずだ、貴殿を救うと。何故、先に事を急いだ?何故、信じなかった?新道愛香、いや、新道家も含め…何故、貴殿がこのような目に遭うんだ…?」
幸造は震える唇を、必死に噛み締めて堪える。
その口から吐き出すように、溜め込んだ疑問と
「何故、貴殿をこれ程になるまでに…両親は、家族は、大人は、貴殿を放っておいた?贖罪には程遠いながら、私は私の持ちうる限りの権限と、伝手と、立場を利用して事を納めた。貴殿の為にはならない事など、重々承知の上だ。しかして、これ以上は貴殿に苦しみを味わって欲しくない…。それだけだ、これは私の
…本来の立場を持ってするならば、公平な裁きを貴殿に受けさせるべきなのも。」
幸造の言葉を一言一句聞き逃さぬよう、恋は耳を傾けていた。
瞬きを忘れ、充血した目からは涙を止めどなく溢れさせながら。
――後悔先に立たず。
――後の祭り。
一体、誰が生み出した
恋は当にその言葉通り、自身の過ちを悔いていた。
幸造は助手席に座る恋の顔を見て、初めて怒鳴る。
「この場で涙を流せる貴殿に!!何故、貴殿の両親は!このような結果を残させた!何故!貴殿は己の憎悪に負けたんだ!私を頼れと言ったはずだ!」
「頼ってどうにかなったのかよ!!いつまで待っても!"今は耐えろ"としか言ってくんなかったじゃねぇか!!だから、新道だって!死んじまったんじゃねぇのかよ!!ふざけんな!!だから…俺が…家族を殺したんじゃねぇのかよ…!」
恋もまた、同じように怒鳴った。
幸造は目を見開く。
路肩に車を止め、恋の胸倉を掴む。
「貴殿のしたこと、私のしたこと、形は違えど同じ過ちだ。」
幸造の眼光は鋭く、戒めるように眉間に皺を寄せる。
それも束の間。
「やってしまった事は致し方ない…貴殿も、私も、
そう言って、恋の頭に手を置く。
「すまなかった…。」
悲壮入り混じる顔でそう言われ、恋は言葉を失う。
幸造の目論見でも何でも無く。
動かしていた人間が、岬ノ宮家に恐れを為し。
敵前逃亡の如く、恋の保護を出来なかったというのが事の真相であった。
しかし、これは後にわかることである。
「…帰って寝ると良い。」
そう言って幸造は再び、恋の自宅へと車を走らせた。
「じゃあな。」
「あぁ、明日も学校だろう?しっかり寝るんだぞ。」
車を降りて幸造を見送り、恋は寝床に就く。
「…おっさんが親だったら、殺すこともなかっただろうな。」
目を閉じ、微睡みへと身を任せた。
そこから月日は流れ。
一年が経った頃。
「岬ノ宮…少しいいか?」
「あぁ。」
磯鷸が登校しながら恋を見つけ、開口一番そう伝える。
「話がある。」
「話?」
恋が気になり訊き返すが、笑みと共に磯鷸は片目を瞑り。
「あぁ、
校門に入る直前で、恋を連れ出す。
「ひとまず、食いながら聞いてくれ。」
二人で近くの公園のベンチで座りながら、磯鷸は恋にパンを一つ渡す。
神妙な面持ちで、磯鷸は続ける。
「なぁ、岬ノ宮…何も訊かず、俺と一緒に来れるか?」
「あんだと?」
磯鷸の切り出しに、恋はパンを噛みちぎりながら訝しげに睨む。
「官房長官、お前の知り合いだろ?ニュース見たか?官房長官を辞めて、海軍に入るそうだ。」
「それと何の関係があんだ?」
恋は睨んだまま、磯鷸の出方を待つ。
「俺に、式条元帥が直々に声をかけてきたんだ…昨日の晩にお互い、偶然にも居合わせてな。"俺も軍に入れてくれ"って頼んだら、"岬ノ宮恋も一緒なら構わない"。そう言われたんだ…なぁ、俺と一緒に来ないか?新道を亡くした経緯…それから、お前の事情は知っているつもりだ。」
磯鷸の純粋な心配に。
恋は心打たれるが、断りたくもあった。
ただ、幸造が海軍に行ったのが。
"もしも自身のせいであるとしたら"。
そんな考えが、脳内を過ぎる。
恋の行く末、それは。
「俺も
「知らん、
(優しい…あなたを…ずっと見てた…。)
愛香の最期と言葉を思い出し。
「海軍…行くか。」
「来てくれるのか!?」
その誘いに乗った。
磯鷸は手放しで、ソレを喜んだ。
通っていた高校を、そのまま退学し。
二人で軍学校に入学した。
恋のこの決断は、間違っていなかった。
「俺がこの海軍元帥、式条袴だ。岬ノ宮と志島の二人を歓迎しよう。」
二人の肩に手を置き、式条が辞令を渡す。
「親殺しか…島永さんから話は聞いている。なに、心配はするな。
「はい!」
「…おう。」
気概を見せながら、返事をする磯鷸。
気怠げに、ぶっきらぼうな返事をする恋。
相対的な二人だが、式条は気にする様子など見せなかった。
恋は案内された工廠にて、建造を試みる。
「如月と申します。お側に置いてくださいね?」
建造後、恋の初めて会った艦娘は如月だった。
目立つ髪留め。
その顔立ち。
恋は、言葉に詰まる。
「あ、いや、俺は岬ノ宮恋…。」
「あなたが私の司令官?!」
目を輝かせ、如月は恋に勢いよく近づく。
恋は何もすることなく、ただただ黙っていた。
「司令官?」
「るっせぇよ…。」
如月に嫌気が差したわけでもない。
何故か、無意識に。
それが口をついた。
(これで大人しく…。)
恋は慣れた嫌われ方に、思うことはそれだった。
しかし。
「司令官、本当は優しい人ですよね?如月にはわかります。」
如月の晴れやかな笑顔。
屈託のない純粋な瞳。
徐に、恋が如月の頭に手を置き。
率直な感想を聞かせる。
「お前、かわいいな。」
「ほえ?!」
如月は顔を朱に染める。
だが、頬を膨らませ。
「司令官はもっと、話し方を柔らかくしたらいいと思います。」
そう言われ、その日の夜。
自室のベッドで、恋はネットを開き調べることにした。
「柔らかい話し方っと…。」
「やるお…頑張るお…いいお…!これだ!!」
某掲示板で、見かけた話し方。
間違ってはいないが、これはズレているような気もしない。
翌日。
海岸の手すりに肘を置く磯鷸を見つけ、早速。
「ん?岬ノ宮か。初の艦娘は誰が来てくれたんだ?」
「如月だお。」
披露するが、これには磯鷸も口を開ける。
鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔で。
「な、なんだその話し方は…。」
「お?柔らかい話し方だお!」
訊けば、恋は元気よく返す。
呆れてものも言えなくなり。
「それでは摩訶不思議な話し方だろ…。」
思わず、正論であり本心を溢してしまう。
「
「そ、そうか…。」
「志島は誰が来たんだお?」
磯鷸は気にするのをやめ、そのまま海を眺め。
「睦月だ。」
「姉妹艦かお…運がすごいお。」
磯鷸が恋の顔を見る。
少しばかり、憑き物が取れたようにも見えた。
「良かったな、岬ノ宮。」
「何がだお?」
磯鷸は海へと視線を戻し。
「
「…あぁ。」
二人の軍人は、潮風を受けながら。
友と喜びを分かち合っていた。
「これが全容だ。」
幸造は語り終えると、再び煙草に火を付ける。
「へぇ。提督と岬ノ宮中将って、旧知の仲なのね?」
「そうだな、アレとは長い付き合い…もう二十年は経つな。」
由良の疑問に、怯えること無く答える。
「佐伯湾の如月さん…うちの如月さんとは違って、圧が凄いのよね…。」
「ほう?彼奴が如月を可愛がっているからか…いや、
柔かく話す幸造に。
微笑みながら一つ頷くと、由良は立ち上がり。
「さて、私は用意された部屋に戻ろうかな。明日は出撃だもんね。」
「おぉ、そうか。長話に突き合わせて悪かったな。」
そのまま幸造は勿体ないと、煙草を吸いきってから戻ることにした。
由良が部屋まで戻る途中に。
「あら?」
袖口が何も無いにも関わらず、裂け目が出来ていた。
「出撃はもうすぐなのに…縁起でもないわね。」
目立つものでもなく、気にせず部屋に戻った。
「…全員無事で居られますように。」
お守りを握りながら、目を瞑った。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。