この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
湿気でジメジメ…。
どんより、げんなりしますね…。
更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。

それでは、本編どうぞ。


Episode-31

翌日。

龍玄は早朝、それも夜明け前に目が覚めていた。

 

「朝…にもなっていないのか。」

 

胸騒ぎとまでは行かないが、鼓動が落ち着かない。

妙な感覚に苛まれていた。

気休めがてら、散歩でもしようと部屋を出る。

龍玄は、鎮守府での客間では落ち着かず。

乗ってきた船に据え付けられた、自室で一夜を過ごしていた。

 

「…久方ぶりの大戦(おおいくさ)だな。岬ノ宮には困ったものだ…いつ来るんだ?だが、()()()()()()か。元帥、お前ならこの窮地をどう乗り越える?俺は…どうしたらいい?舞鶴、大湊…二つの鎮守府を()()()()()()()()で、守り切れるのか?」

 

砂浜を強く踏み締めながら、自問自答を繰り返す。

不安をその顔から、隠すこともしない。

誰も居ない、自身のみの空間。

 

「海軍はいつから腐敗していたんだ…元帥、お前はいつから気付いていた?何も教えないまま、一人で突っ走りやがって…祥鳳は何も、お前だけのせいでは無かっただろ…。」

 

龍玄は、紫雲を責めるように拳を握る。

元帥代理(身代わり)という、その立場。

飾りと虚影でしかない、その名称。

悩みの種でしかなく。

 

「俺の全力を持ってしても…限界はあるぞ?」

 

口にした煙草に火を付け、煙を一つ吐く。

 

「…ま、やれるだけのことはやる。()()()()()()()()、あの岬ノ宮も居るしな。」

 

龍玄はそのまま、砂浜を歩き出す。

波音だけが響く海岸。

 

「考えるだけ無駄か。」

 

口元に笑みを浮かべ、海を眺める。

 

「夜はいいよねぇ…夜はさ。だったか?」

 

月がまだ輝く夜空を見上げ、呟く。

 

「艦娘か…お前たちは何を背負って、この時代に再び現れたのだろうな。」

 

龍玄は感慨深く答えも出ずに、真顔で煙を吐き出し。

艦娘への疑問を、消えゆく煙と共に闇夜へと置いた。

ひとしきり、煙草を吸った後。

 

「さて、もう一睡でもするか…この先は、いつ眠れるかもわからんしな。」

 

短く伸びをして、船へと戻った。

 

 

 

 

 

そして、その時がやってきた。

 

『総員起こーーーし!!っぽい!!』

 

気概ある艦娘の放送と共に、零は飛び起きる。

 

「うお?!久しぶりに聞いた感じがするなぁ…。」

 

驚きのあまり、呼吸を整えながら胸を撫で下ろす。

 

「おはよ♪起きた?」

 

すると、零の顔を横から覗き込むように、瑞鳳が優しく声をかける。

頬を赤らめ、零は目を見開く。

 

「ず、瑞鳳…近いよ…。」

 

だが、瑞鳳はそんなことなど気にも止めない。

 

「久しぶりの零君だからね♪見ておける時に、見ておかなきゃ♪」

 

表情と同じに軽々しく、口にはしてみたものの。

瑞鳳の胸中は、心配で埋め尽くされていた。

 

(こんな子供に…何をさせようとしてるの…。)

 

至極当然なことである。

なれど、自身が止めたところで。

 

「俺も今日から頑張る!」

 

こうも張り切っている零を見てしまえば、もどかしくなる。

瑞鳳は、溜息を吐きそうになるのを抑え。

起き上がり、気合を入れる零を。

 

()()()()…か。)

 

そう思いながら、困り顔で微笑むだけで済ませた。

そして、自身も起き上がり。

 

「さて、今日は腕によりをかけるわよ♪」

 

「おっ!瑞鳳の手料理!久しぶりな感じがする!」

 

部屋の台所に立ち、朝食の準備へと取り掛かる。

零は隣で出来上がるのを、目を輝かせながら待った。

しばらくすれば、それも出来上がり。

 

「出来たよ、召し上がれ♪」

 

「いただきます!」

 

瑞鳳は得意料理である、卵焼きを振る舞う。

頬張る零を満足そうに見ながら、瑞鳳も箸を進めた。

 

「さ、行こっか♪」

 

朝食も済ませ、食堂に行けば。

 

「なんや、零君やないか!おぉおぉ、二人揃って()()()()だったんかいな?」

 

零の姿を見るなり、目を丸くしたかと思えば。

瑞鳳が後ろにいるとわかり、意地の悪さを笑みに変え。

入口に向かい、腰に手を当て二人を嗜める龍驤。

たまらず瑞鳳は、顔を赤くする。

 

「な、何もありませんっ!」

 

その返しは、非常にまずかった。

 

「部屋で男女が一緒に…それも、二人きり…。」

 

偶然通りかかった加賀が、意味深げに呟く。

零は、申し訳なさそうな顔をして。

 

「え?俺は別に…普通に泊まっただけで…。」

 

年端もいかない少年にそう言われてしまっては、加賀も龍驤も黙る他なく。

 

「「純粋…。」」

 

言えることは、たったの感想(それ)だけだった。

他愛のない話をしていれば、他の艦娘たちも集まってくる。

 

「あら?三人も揃って、どうしたんですか?」

 

榛名が不思議そうに見つめると、龍驤が口を開こうとする。

 

「いやぁ、零君と瑞鳳が…むぐぅ!」

 

が、それを急いで龍驤の口を手で塞ぎ。

 

「な、何でもありません!朝の挨拶をしていただけです!」

 

抑え込みながら、瑞鳳は必死に取り繕う。

榛名は、"一悶着あっただろう"というのはわかっていたが。

深いことではないと踏み。

 

「そうですか、()()()()()()しないでくださいね。」

 

そう告げ、席のある中央へと向かっていく。

龍驤は気付かれたと悟り、頬を掻く。

榛名にとっても、零という存在は大きい。

その存在が話題の中心ともなれば、容赦は薄い。

龍驤の様子からして、圧をかけたのは間違いない。

が、これは本人の意図とは程遠く。

 

(出撃前で呑気なのは…榛名は許せません。)

 

これである。

龍驤の勘違いで、瑞鳳と零は解放された。

加賀は榛名の後を追い。

 

「榛名さん、あんまり龍驤さんを()()()()()()()()。」

 

話しかけるが、榛名は。

 

「気を抜かし過ぎれば、轟沈の可能性だって出てきます。私は注意しただけですよ?怒ってなんかないです。」

 

真顔で返し、加賀の肩に手を置く。

 

「戦場において、油断は禁物です…気が抜けていれば尚更。これから、作戦要項の説明でしょう?それならば…と、思っただけです。」

 

榛名の意図を知り、加賀は目を見開く。

 

(なんて圧…元帥の艦娘というのは伊達じゃないわね。)

 

胸中の言葉は押し留めた。

そうする他に、言葉といえば。

"艦娘らしからぬ"、という褒め言葉であり。

"化物"という罵倒にも似た、褒め言葉しかない。

 

「そうね…()()()()()。」

 

拳を握り、選んだ精一杯であろう。

榛名は目を丸くする。

 

「加賀さんが気にすることではありませんよ?榛名は大丈夫です。ただ、これから指揮を取るという零君が可哀想で…気も張ってるでしょうし。」

 

そう言いながら、零をふと見る。

すると、視界に入った瑞鳳と目が合う。

 

 

 

―――え?

 

 

 

榛名は思わず、加賀や龍驤に向けた以上の圧を瑞鳳に向けた。

それは、またしても自身の意図とは関係なく。

極自然に、無意識に。

疑問は、榛名自身が感じた。

それ程に、瑞鳳は異様であった。

 

()()()()()…私を…。)

 

榛名が見た瑞鳳の目。

まるで、黒を濃くしたような瞳。

元来の瑞鳳の目ならば、琥珀に近い茶色。

垣間見えたのは一瞬。

なれど、一瞬。

その一瞬は、榛名を大きく揺さぶった。

それも束の間、その威圧感を瑞鳳が消し去り。

 

「…?榛名さん、どうかしたんですか?」

 

身に覚えがないばかりの、白々しさ。

決して白々しいわけではない。

瑞鳳自身も、()()()()()()のだ。

零の事となれば、否が応でもそうなってしまう。

 

「いえ…別に…榛名は大丈夫です…。」

 

榛名が俯き気味に返すのも、また然り。

 

「瑞鳳。」

 

助け舟とばかりに、雪が瑞鳳の元へと現れる。

榛名は横目でやり過ごし、その場を後にする。

だが、雪はその様子が気になったのか。

 

「ん?榛名、どうかしたかい?」

 

声をかけるが、榛名は気にせずとばかりに席に座った。

 

「…何かあったのかい?」

 

加賀も零も、瑞鳳も龍驤も。

一体何だったのか、結局わからず。

 

「「…わかりません。」」

 

口を揃えて言われては、雪も言えることはなく。

 

「そ、そうか…。」

 

消化不良に苛まれながらも、用意していた自席へと向かう。

 

(しかし…瑞鳳の目はあんなに黒かったか?)

 

思い直し。

雪が再び見れば、同じように席についた瑞鳳の目は。

 

(気のせいか。)

 

見慣れた瞳へと戻っていた。

 

「何やら、怪しい感じを醸し出すね?雪ちゃんの瑞鳳。」

 

長机に腰掛けると、隣に座る燐火が耳打ちする。

燐火とて、見逃していなかった。

 

「一部始終、見てたけどさ。元帥の艦娘なだけあって、榛名は真面目だねぇ。ちょっちばかり、龍驤と加賀が悪ふざけしただけなのに…。ま、瑞鳳に至っては()()()()()だけどね。」

 

横目で瑞鳳を見やりながら、燐火は事の顛末(てんまつ)を教えた。

しかして、つまらないわけではない。

燐火としては、艦娘の嫉妬心を見れたのだ。

 

(ま、イイもの見れたかな。)

 

それだけを胸中で呟き、ドアが開いた方向を見る。

 

「お、来ておったか。」

 

「二人とも早いな…。」

 

開いたドアから、幸造と龍玄が現れる。

 

「女同士、()()()()()()()()()()()ねぇ。」

 

燐火が雪の肩に手を回し、雪の頬に自身の頬を擦り付ける。

雪は真顔で何も気にせず…。

否、心ここに在らずといった表情で、されるがままである。

 

「嫌がって…いや、あの顔は喜んでいる…。」

 

父である龍玄が止めようとするも、雪の表情は見知っている。

 

(あれで喜んでおるのか…。)

 

幸造も、これには驚いた。

目を丸くしながら、口も開け。

さながら、面食らっている。

 

「では、揃ったことですし。」

 

燐火を引き剥がし。

言いながら雪が見れば、艦娘たちが既に集まっていた。

 

「そうだな、始めるか。岬ノ宮が居ないのは…仕方ない。」

 

龍玄が溜息混じりに、机上に書類を広げる。

そして、咳払いを一つ織り交ぜる。

その場の全員が、固唾を飲む。

 

「よし、では始めるぞ。まずは、大湊へ雪を迎えに行った艦娘達はご苦労だった。おかげで、海野少将はこの場にて会議に参加が出来ている…この場で感謝する。しかし、大湊は柳中佐も、艦娘も居ない状況だ。この最中での敵の侵攻…よって、佐世保、舞鶴、佐伯湾、横須賀、目が覚めれば、柳中佐…大湊が加わる。これは、橘花元帥奪還の先駆けともなる作戦だ。いいか、心して挑め…作戦名を――」

 

 

――北方海域奪還作戦及び、舞鶴正面海域防衛戦とする。

 

 

「「はっ!!」」

 

龍玄の激励に、艦娘も提督達も敬礼を見せる。

すると、ドアが開け放たれる。

 

「私を加えて頂いても、よろしくて?」

 

声の主は。

 

「沖崎!」

 

沖崎・ロゼ・フリューゲルである。

龍玄は思わず名を呼んだ。

 

「ブルネイから遥々来ました…という(てい)にして頂いて。勿論、後で説明くらいしますので。」

 

薄金の髪を靡かせ、前へと出る。

零が、その所作を凝視する。

その視線に気が付き、ロゼが微笑みかける。

 

「赤い…目…。」

 

零が物珍しさから呟く。

その呟きは、本人に届いた。

そのまま立ち止まり、零へと訊く。

 

「気になるかしら?私、アルビノなのよ。」

 

「あるびの?」

 

アルビノとは、生まれ持って色素が薄いのが特徴である。

だが、そんな言葉を零は知らなかった。

 

「綺麗な目ですね。」

 

率直なまでの感想。

零としては、()()()()()見慣れている。

よって、深い意味では言っていない。

 

「あなた、()()()()()()。ところで、その軍服は?」

 

心底不思議そうな顔で、ロゼは見る。

その少年の歪さたるや。

ロゼには、不思議でならない。

 

「今回の作戦で、少佐の階級を頂きました!橘花零です!」

 

零が頭を下げながら自己紹介をする。

 

「橘花…零…。そう、生きていて何よりよ。」

 

名を聞くなり、ロゼは手を腰に当て。

 

「敬礼は出来るのかしら?」

 

「はっ!」

 

零は"忘れていた"とばかりに、敬礼をする。

堅苦しい表情と、敬礼との合わなさで。

思わず、吹き出してしまう。

 

「ふふっ!面白い子に()()()()()。そう、頑張ってね。」

 

それだけ言い残し、ロゼは前に立つ。

 

「沖崎・ロゼ・フリューゲル、現時刻から加勢いたします。」

 

深々と頭を下げ、凛とした立ち振舞いのまま。

少しばかり見渡したあと、開いている席へと座る。

 

「作戦の詳細は、各自で確認するように。総出撃となることだけは、念頭に入れておいてくれ。では、これよりヒトマルマルマル、作戦開始!」

 

「「はっ!!」」

 

龍玄による鶴の一声。

それが合図ともなり、全員が敬礼の後で。

一斉に、出撃の準備に取り掛かる。

龍玄達もまた、各艦娘のもとへと向かう。

 

 

 

 

 

「いよいよ…か。」

 

歩きながら、雪は一人呟く。

執務室に着き。

 

「祥鳳さん、仇は取りますから。」

 

そう言って、ネックレスを握る。

雪は軍刀をそのまま、デスクに立てかける。

 

「さてと、作戦か。上手く流れに沿ってくれるといいな。」

 

編成を今一度、確認しようとした時。

 

「雪ちゃん。」

 

雪を名指す声に、ドアへと急いで目を向ける。

そこには。

 

「ろ、ロゼさん!」

 

ロゼが立っていた。

 

「私も来たわよ、大湊ではご苦労さま。大湊での話、詳しく聞かせてくれるかしら?」

 

ロゼが来客用の椅子に座りながら、雪の出方を伺う。

 

「は、はぁ、わかりました…。」

 

 

 

 

雪は説明を始める。




如何だったでしょうか…。
スランプに悩まされ、更新が遅くなりました…。
それでは、また次回に。
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