この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
今回も難産でしたが、なんとか投稿出来ました。
それと、UAがいよいよ6500を数えようとしています。
皆さんのおかげです、本当にありがとうございます。

それでは、本編どうぞ。


Episode-32

雪が再び、舞鶴へと到着する前。

金剛、霧島を建造したあとの話である。

先に出撃した山城達を、雪を乗せた船を曳行しながら翔鶴が追う。

 

「なんとか追いつくかしら?」

 

そんな呟きは、波音に攫われる。

しかして、自身の提督は後ろの小型船。

不安ばかりが募る。

建造したと言えど、練度の足りぬ二隻。

何かあっても、対応には苦しむであろうと踏んでいる。

 

「提督も無茶ばかり…。」

 

苛つきすら見せ、唇を噛み締める。

雪の無茶振りには、散々なまでに合わせてきた。

そんな翔鶴だからこその愚痴。

脳裏に浮かぶのは、ある日の瑞鳳と雪のやりとり。

 

 

 

 

――『私はあの子の為に生きるの!』

 

 

 

 

「瑞鳳さん、その後悔は私にもあります。」

 

その日、翔鶴はドアの影に隠れ。

音を立てぬよう、盗み聞きしていた。

自身と瑞鳳を重ねながら。

だが。

徹底的な違いがあると、翔鶴は内心に渦巻かせた。

 

「瑞鳳さん、()()()()()()()()でしょう?私はもう、()()()のよ。」

 

弓を強く握りしめ、思い出すのは。

 

「前元帥奪還作戦のあの日、瑞鶴は…。」

 

後悔が余程強いのか、翔鶴は目を伏せる。

海上にも関わらず、そんな悠長とも言える状態。

なれど、翔鶴にはそんな事は関係ない。

 

()()()、確実に。」

 

覚悟を決めたと同時。

 

「翔鶴さーん!提督ー!」

 

「「翔鶴さーん!」」

 

声のする方向を見れば。

 

「阿武隈さん!それに、六駆の皆さん!随分早いですね?!」

 

六駆を連れ、眼前の方向から来る阿武隈に。

遠征直後でよく動けるものだと、心底驚いた。

 

「心配要りません、あたし的には平気です!」

 

「ハラショー、阿武隈はむしろ急かしてきた。」

 

阿武隈と響に、そんなことを言い出され。

返す言葉も思いつかず、翔鶴は困り顔で微笑む。

 

「そうですか…あ、山城さんは見かけましたか?」

 

気になり聞いてみれば。

 

「金剛さん、霧島さんと一緒に舞鶴まで向かってました!」

 

それを聞くと、翔鶴は胸を撫で下ろす。

 

「ですって、ていと…あら?」

 

雪に声を掛けようと、振り向くが。

 

「余程、お疲れなのね。」

 

寝息を立てる自身の上官。

提督と呼ぶ、その女性。

だが、翔鶴の目には。

 

「やっぱりそうしていると、まるで本当にただの女の子ですね。」

 

年端もいかぬ、女性とは程遠く感じる少女と見えた。

 

「相当疲れているみたいね。」

 

阿武隈は、寝息を立てる雪を起こさぬよう。

 

「取り敢えず、報告です。道中の敵は、あたし達で撃破進軍しました。ここまで来たので、この先は心配いりません。」

 

「レディである私も頑張ったわよ!」

 

「暁ちゃんは、魚雷が中々当たらなかったのです!」

 

「な、何よ!」

 

電が、暁に釘を刺したところで。

 

「しー!司令官が起きちゃうわ!」

 

「「ご、ごめんなさい…。」」

 

雷の一声で、二人は謝罪する。

そのやり取りを、翔鶴は微笑みながら。

 

「ふふっ、元気なのはいいことですよ。そうですね、提督はお疲れのはずですから…撃破して頂けたのなら、このまま起こさぬよう、最速で舞鶴まで戻りますね。」

 

気にする様子もなく、笑顔で流す。

 

「わかりました。あたし達はこのまま、遠征も済ませてから舞鶴に戻ります。」

 

「了解です。」

 

そう交わすと、それぞれの役目へと戻った。

 

 

 

 

 

「…父上…。」

 

 

道中、聞こえた雪の寝言に。

 

「…随分、大きくなりましたね。ふふっ、私は提督が()()()()()()()()()()会った以来ですね。まさか、こうして提督に…私の上官になるとは思ってませんでした。」

 

海上を駆けながら、翔鶴は感傷に浸る。

 

「かの作戦で、私が異動になるとは思いもしませんでした。舞鶴…当時の潮梛提督から、引き継ぐなんて…ですが、提督の手腕は私たちを驚かせるものでした。元帥もきっと、わかっていた上で舞鶴を任せたのでしょうね。」

 

俯きがちに、言葉を紡ぐ。

なれど、それは。

 

「提督が…あの時、もしも私の提督だったなら…私たち姉妹を、今も一緒に居させてくれたのかも知れませんね…。」

 

怨嗟でありながら、後悔の念。

タラレバでもあろう、その無念。

 

それらは、波音と。

自身の風切り音、潮風と共に。

残り香もなく、言葉を掻き消していく。

 

 

「”幸運艦”なんて(はしゃ)いでいたあの子の為に…私は沈みません。」

 

翔鶴の覚悟ほど危険なモノは無い。

自身の身体など、いざとなれば顧みないであろう。

 

 

――『翔鶴姉ぇ…ごめんね…。』

 

 

 

「っ…!」

 

翔鶴が思い出すのは。

姉妹の、それも妹の最期の声。

それでも、翔鶴は引き返せない。

 

「私は生きてる…艦の時とは違うのよ。それよりも――」

 

 

 

――提督を無事に送り届けなきゃね。

 

 

 

今、やるべき事。

今、守るべき存在。

再確認した翔鶴は、雪を見る。

 

「提督、お願いしますね。」

 

呟き、速度を安定させたまま先を急ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

――…く!

 

 

 

――…とく!

 

 

――ていとく…!

 

 

 

「提督!到着しましたよ!」

 

雪の肩を揺らし、翔鶴はひたすら呼びかける。

 

 

「ん?あぁ、寝てしまってたか…。」

 

「やっと起きてくれましたね。」

 

漸く、雪は目を覚まし、翔鶴が安堵する。

寝ぼけ眼を擦りながら、雪は自身の居る場所を確かめる。

 

「もう舞鶴か…ん?山城達は?」

 

「先に大湊の皆さんを連れて行きましたよ。それから、柳中佐も。」

 

やっとのことで状況を理解し、雪は船を降りる。

港から海を見ながら、伸びを一つすると。

翔鶴に向き直り、指示を出す。

 

「さて、父上達の為に準備をするか。鎮守府に残っている、艦娘全員に呼びかけてくれ。」

 

「はっ!」

 

舞鶴を会議場にするべく、総動員で準備を始める。

その間、雪はといえば。

 

「報告書かな?」

 

デスクにある出撃報告書を確認する。

 

「阿武隈のか…長距離遠征を頼んでいたね。」

 

目を通すと、やはり深海棲艦との対峙があった。

 

「困ったものだね…にしても、今回の遠隔出撃は…まさか、休まずに阿武隈が旗艦をやったのか?」

 

雪は怪訝な顔をしながら、報告書を睨む。

何も言わなければ、阿武隈は無理をする。

それは想定内。

だが、時間的に考えれば。

 

「さては、入渠すらせず来た(またやった)な?」

 

呟き、頭を掻きながら、報告書を乱暴に仕舞うと。

 

「軽巡、阿武隈。至急、執務室まで来てほしい。」

 

すぐに放送をかける。

椅子に座り、頬杖のまま。

 

「まったく、世話の焼ける姉貴分だ…大本営から抜け出した時から、()()()()()()()()()()()()。」

 

鼻で笑いながら、窓を見る。

 

「ま、私も大人になったということで――」

 

と、自嘲気味に言ったと同時。

 

 

 

――コンコン

 

 

 

 

「来たかい?いいよ、入っておいで。」

 

ノックの音に気付き、ドアに向かって声をかける。

 

「阿武隈、来ました!」

 

何故、呼び出されたかなど知らない阿武隈は。

 

「提督…?」

 

睨みを効かせる雪に、阿武隈は戸惑いを見せる。

 

()()()()()()()()?」

 

至極真面目に訊く。

しかし、何故。

それを問われるのかも、皆目も見当が付かない。

 

「いや…その…。」

 

言葉に詰まる阿武隈に。

雪は立ち上がり、更に詰め寄る。

 

「私の為に出撃してくれたのは、確かに有り難く感じるよ。だが、君が万全じゃないのは受け入れられない。報告書を見た限りでは、交戦もあったんだろう?疲労がある状態で、再出撃と遠征…今回も交戦があったはずだ。入渠もせず出てしまえば、それは自沈行為だ。」

 

そう言われてしまい、阿武隈は返す言葉など思いつかない。

視線を泳がし。

 

(そんなに責めなくても…。)

 

と、内心では思っている。

だが、雪にとっては重大だった。

 

「いいかい?これからの戦いは、海軍の命運がかかっているとも思っていい。よって、万全な状態で居るためにも、入渠は欠かしちゃいけないんだ。」

 

そう返され、阿武隈は反撃とばかりに。

俯き、頬を膨らませ。

 

「あんなに小さかったくせに…。」

 

聞こえないように、呟いたつもりだが。

 

「私も人間だからね、大人にはなるよ。あの頃のまま、というわけにはいかないさ。」

 

阿武隈は、”してやられた”という気分になった。

棘を見せたつもりが、根こそぎ刈り取られた。

よって。

 

「…気をつけます。」

 

と、威勢もなく言うと。

 

「頼んだよ、阿武隈。」

 

雪らしからぬ、むず痒い言葉。

それでいて、歯の浮くような台詞。

否、他の艦娘なら何も思わないであろう。

しかして、阿武隈には聞き慣れない言葉であった。

 

「提督も…そんなこと言うんですね?」

 

気に入らない表情で、そのまま言い放つ。

 

「私だって、提督だよ。」

 

「そ、そうですか。」

 

旧知の仲だというのに、何処か他人行儀なやり取り。

阿武隈が一番、食い違っている。

 

(いつまでも子供じゃない、かぁ。)

 

阿武隈の中での雪は、十歳の幼女で止まっているのだ。

 

むず痒さをそのままに、阿武隈は廊下へと出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の知る限りは、この程度です。大湊のことは、ロゼさんの知る限りです。」

 

説明を終えた雪は、一息つく。

 

「そう…出撃中に寝るなんてこと、あなたもあるのね?」

 

ロゼはコロコロと笑いながら、雪の肩に肘を当てる。

 

「つ、疲れてたんです、きっと。」

 

他人事のように、顔を赤くさせながら照れた表情を見せる。

ロゼは”珍しいものを見た”とばかりに、目を見開く。

 

「そんな顔も出来るようになったのね?あ、それと。」

 

そのまま付け足すように。

 

「瑞鳳ってあんなに()()()()()()()()()?その説明もできる?」

 

そう疑問をぶつけた。

白を切るつもりもなく、雪はそのまま答える。

 

「指宿が攻め込んだ際、瑞鳳は零君を救うべく…いや、私の救出に駆けつけてくれていたんですが…私を庇って撃たれた零君を見た瞬間から、深海棲艦のようになりかけたのが原因です。」

 

ロゼは目を丸くする。

 

「あなたを庇って、零君が撃たれたの?指宿に?」

 

「はい。」

 

悪びれることもなく、雪は率直に返事をする。

ロゼは心底驚いた。

 

「それで、瑞鳳が深海化…なんで?待って、理解が追いつかないわ…。」

 

ロゼはその時の状況を理解するべく、雪に訊く。

詳細を説明するべく、雪は再びロゼに当時の状況を説明した。

数十分後。

 

 

 

 

 

「なるほどね…あの瑞鳳が…。」

 

「それほど、彼に対する思いが強いのかも知れません。」

 

雪が茶を一口啜ると、ロゼは核心をつく。

 

「あんな少年に、それも元帥の息子に恋心を…不思議なものね。」

 

雪には程遠い感情だった。

故に。

 

「人の思い以上の恋情なんて、()()()()()()()()()()()。」

 

そう告げる。

 

「そうね…さ、作戦も始まるし、私は戻るわね。」

 

「わかりました。」

 

軽く手を振り、ロゼは持ち場へと戻った。

 

「零君、君の手腕も見せて貰うよ。」

 

再び、デスクへ視線を向け。

ロゼの居なくなった執務室で、ペンを走らせながら呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん…?私は…?」

 

そんな最中、一人の人間が目を覚ました。




如何だったでしょうか?
毎回、最近は難産です…。
勢いで書いていたリメイク前に戻りたい…。
それでは、また次回に。
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