この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
作者は夏風邪を引いて、辛い夏から始まりました…。
今年も暑い…。
それと、VOICEROIDなるものを買いました。
琴葉姉妹、オーソドックス。
かわいい。
いつか、このssを朗読させたいですね。

それでは、本編どうぞ。


Episode-33

出撃を控え、舞鶴に集った艦娘達が海上へと揃う。

艦隊陣形を成し、整列する光景は圧巻の一言に尽きよう。

それを物ともせず、優雅に悠々自適に。

全体を見渡し、弧を描くように一周するその艦娘は、超弩級戦艦。

自身の部隊に合流し、先頭に立つと和傘を広げ。

 

「準備は整ったかしら?」

 

横須賀鎮守府、その最大戦力である大和が、誰に言うでもなく呟く。

それに呼応するように。

 

「あぁ。この長門の率いる舞鶴主戦力は、いつでも出撃出来る。」

 

長門が笑みを浮かべて駆け寄りながら、大和の隣に並ぶ。

 

「久しぶりですね、()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

()()()私も思っていたところだ。」

 

長門と大和は、互いを見やり。

 

「勝ちましょう。」

 

「勿論だ。」

 

激励を交わし、長門は艦隊へと戻っていく。

 

「長門さん、燃えてるっぽい。」

 

やり取りを見ていた夕立は、物珍しげに長門を見つめる。

そこに駆け寄り。

 

「そりゃ、合同出撃だからでしょ?」

 

佐世保の川内が、夕立の肩に手を置き。

 

「わからないけどね?ま、夜戦が無いとつまらないかな。」

 

「さすが、夜戦バカっぽい!」

 

悪戯めいた顔で言うも、夕立の火力のある言葉で返される。

そう言われると、犯人は気になるもので。

 

「ちょ、夜戦バカって誰が…?」

 

「阿武隈さんよ?」

 

川内はその名前を聞くと。

 

「阿武隈かぁ、いつか痛い目に遭わせなきゃね。」

 

不敵な笑みを浮かべ、拳を握った。

次の瞬間。

後ろから声をかけられ、川内は飛び跳ねることになる。

 

「妾も思っておるぞ。」

 

「っひぃ!?」

 

悪戯の張本人。

その初春は紫髪を靡かせ、扇子で川内の頭を軽く叩く。

 

「これ、驚き過ぎじゃぞ。」

 

「痛ったぁ!」

 

痛みのあまり、川内はその場でしゃがみ込む。

 

「して、夕立。この戦局、見事にお主らの鎮守府が囲い込まれたのぉ。」

 

「そうっぽい。」

 

夕立は赤い目を光らせる。

 

「…勝ち目と活路はあるのじゃな?」

 

この初春は、呉鎮守府所属で鍛えられている。

よって、並大抵の駆逐艦ならば敵わないであろう。

唯一といっても過言ではない、好敵手。

それが夕立である。

故に、信頼を置いていた。

 

「ま、()()()()()()心配は要らなかろうな。」

 

「っぽい!」

 

夕立の返事に、微笑み。

 

「舞鶴と大湊の為に、妾も一肌くらい脱ごうかの。」

 

そう言って、初春が腕まくりをして見せれば。

 

「駆逐艦も侮れないねぇ。」

 

川内は挑戦的に呟いた。

 

「大本営に居た艦娘と、呉所属の艦娘…元帥が戻ってきたら、どうなるのかな。」

 

「”どうなるか”なんて、そんなの大本営に戻るだけっぽい!」

 

至極真っ当な言い分である。

その単純な見解に、異を唱える艦娘もいた。

 

「そうねぇ、それだけだったらいいわねぇ。」

 

龍田であった。

すべてを知った今、一筋縄でいかないことなど。

想像に容易く、考えるまでも無かった。

 

「出撃したらわからないわよぉ?だってぇ、勝ったら私たちの提督が戻ってくるんだものぉ。」

 

声は抜けているが、目付きは鋭い。

龍田の醸し出すただならぬ空気に、全員が呑まれていた。

だが、そこは初春。

 

「…この出撃に全てがかかっている…龍田の言わんとすることは、そういうことじゃろう?」

 

「あらぁ?初春さんは、()()()()()()()()()()()()()()?」

 

見解を言うも、龍田に言い負かされてしまう。

 

「妾をそんな風に扱うとはのぉ…。」

 

初春が仕返しを考えていたところで、全艦娘の無線機が反応する。

 

[さて、全艦の出撃準備は整ったかな?]

 

無線から聞こえる声の主は、雪だった。

ここは舞鶴、雪が預かる場所である。

よって、艦娘達へと指示を出す。

 

[ここからの戦いは全力で臨んで欲しい、私からはそれだけだよ。各艦、上官からの号令で向かうように。]

 

「「はっ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

無線で言い終えた雪は、父である龍玄へと無線機を渡す。

 

「では、元帥代理の海野大将からどうぞ。」

 

「俺からか…呉鎮守府全艦、出撃せよ。」

 

[[出撃します!!]]

 

受け取った龍玄は、致し方なしとばかりに命令を下す。

艦娘達の声が聞こえると、幸造へ渡し。

 

「島永大将もお願いします。」

 

「相わかった。」

 

幸造に続いて、雪、燐火、ロゼと出撃号令を行う。

最後、零へと無線機をロゼが渡す。

 

「あなたもよ?」

 

「お、俺ですか…?」

 

呆けたように訊いてくる零に、呆れすら見せながら。

 

「いい?借りてるだけとは言えど、今回はあなたも提督なの。それも今回だけとは限らない、この先もあるはずよ。だから、練習だと思って声を聞かせてあげて。」

 

恐る恐る受け取り、零は高鳴る鼓動を必死に抑え。

 

「みんな、聞こえるかな?」

 

[[聞こえます!]]

 

確認を取れば、無線越しに響く声。

応えるように深呼吸を挟み。

 

「全員…とにかく、沈まずに戻ってきて欲しい。旗艦、瑞鳳の判断で無理だとわかったら、撤退してでも…無事に帰投してくれればいいからさ。」

 

[[はっ!!]]

 

気概のある返事が耳に届くと。

 

「では…遊撃機動部隊、出撃せよ!!」

 

丹田(たんでん)から声を出し、艦娘を見送るが如く。

六隻へと、命令を下す。

 

[[遊撃機動部隊、出撃します!!]]

 

返ってきた声と共に、無線が切れる。

零は力が抜けたように、椅子へと腰を下ろす。

 

「ふぅ…無事に、だからね?頼んだよ。」

 

目を瞑りながら、呟くと。

 

「心配か?だが、貴殿の気持ちは全員に届いたはずだぞ。」

 

幸造が零の肩に手を置く。

 

「提督が恐れてどうする?貴殿の父の言葉は、伊達ではないだろう?」

 

そう言って聞かせれば、零も思い直す。

 

「そうですね、俺の艦隊を信じます。」

 

零の言葉に、幸造は大きく頷く。

 

「それでこそ、軍人とはそういうものだ。なぁ?海野。」

 

前触れもなく名を呼ばれた龍玄は、目を見開く。

 

「いえ、その、はい…。」

 

「なんだ、随分と歯切れが悪いな。」

 

 

自身の無茶振りということも知らずに、顰めた顔で龍玄を責める。

やり取りが面白かったのか、燐火が笑い出す。

 

「あはは、海野くんでも、弱いことってあるんだね。」

 

「ほ、放っておけ!」

 

龍玄の返しが気に入らなかったのか、頬を膨らませ。

 

「見た?雪ちゃん、君のお父さんはこんな人なんだよぉ。」

 

そう言いながら、されるがままの雪に頬ずりをする。

何とも言えない表情で、ロゼは苦言を呈する。

 

「いい歳して、みっともないわね。」

 

それを聞いた燐火は、黙っているわけにもいかない。

雪から顔を離し、ロゼに文句を並べる。

 

「な、なんですって?!連絡もまともにしてこなかった、あんたがそれを言うの?!心配ばっかりかけてたくせに?!」

 

「そ、それとこれとは話が違うじゃないの!」

 

同じ大将、引けを取らない。

ロゼも負けじと応戦する。

終わらぬ言い合いが始まると踏んだ幸造は、二人を宥める。

 

「まぁまぁ、二人とも落ち着こうではないか。(はた)から見れば、二人とも似たようなものだしな…して、沖崎。詳しい話を持ってきたんだろう?もののついでだ、この場で全員に説明してはくれぬか?」

 

幸造の言葉に、燐火は言い返したかったが、それを抑えてロゼを見る。

すると、ロゼはバッグから封筒を取り出し。

この場に居る、全員の顔色を伺うように。

 

「最初に言っておきます。今からお見せするのは、信じ難い物かもしれません。ですが、紛うことなく真実です。零君もいいわね?これは、あなたのお父さんの現状。見たくなかったら逃げ出していいわ…そのくらい、酷いものだから。」

 

「だ、大丈夫です。」

 

零は何を見せられるのかと、冷や汗をかきながら頷く。

その封筒から取り出されたのは、数枚の写真。

それも、痛ましく悍ましい内容だった。

 

「え…?」

 

「な、なんだこれは…。」

 

燐火と龍玄が思わず口走る。

それ以外は、言葉を失っているに過ぎない。

全員が目にしたもの。

それは。

 

「元帥は、深海にて式条より拷問を受けてます。この写真は周辺で張り込みをしていた時に、偶然にも潜水艇とでも言いましょうか…それに乗って、二人が海上に姿を現れたところを撮りました。船首に居るのが式条と、この甲板に居るのが橘花元帥です。この通り、元帥は片腕、片足、片目を抉り取られてます…まるで、生き地獄を味わわせるように…惨いこと極まりないです。」

 

目を伏せるロゼの腕を、零が掴む。

 

「あ、あの、これが本当に…父さんですか…?」

 

唇を震わせ、写真に映っている満身創痍の父を見ながら、力なく零は訊く。

眼前の現実は、子供にはまだ重たい。

大人である全員がわかっている。

しかし、承知の上で。

敢えて、ロゼは心を鬼にする。

 

「えぇ、間違いなく…あなたのお父さんよ。」

 

冷たく言っているようにも聞こえるが、ロゼは唇を震わせていた。

龍玄も黙って目を伏せている。

燐火は鬼の形相で、写真を睨みつけている。

そんな中、口を開いたのは幸造だった。

 

「橘花君、最初に私は聞いたな。」

 

零を強い眼差しで見る。

 

「”覚悟はあるか”と。いずれ血を見ることになるとは、このことだとも言えよう…嘆いておる暇は無いぞ、元帥奪還が優先だからな。」

 

そう言っている幸造の目は、血走っていた。

さながら、鬼でも宿したかのようである。

復讐心を抑えつけ、零を諭しているのだ。

 

「…今回の作戦は、大湊奪還、舞鶴防衛…そして、元帥奪還が目的だ。」

 

目を伏せながら、龍玄も重い口を開く。

 

「少年、お前が組み込まれたのは幸運だったな。今回、その手で父親を救える。戦果も上げれば、昇進だって夢では無いだろう。だがな、それには犠牲だって付くんだ。実際に戦う艦娘、俺達だって襲撃されないとも限らない…今、こうしている間にもな。だが、戦場からは逃げ出せない、逃げ出すわけにはいかない。それが、我々に課せられた義務であり、任務だからだ。」

 

腕を組みながら、静かに語る。

それが、零にどう響くのか。

龍玄は目線も合わせず、零の言葉を待つ。

待った答えは。

 

「戦果とか、そんなのどうでもいいです。母さんが深海棲艦になった今、家族と呼べるのは父さんだけです。島永大将が言った通り…連れ戻す、それだけです。海野少将から借りた艦隊もありますから。」

 

重くなった頭を上げ、顔を合わせる。

やはり、龍玄には面影が重なって見えた。

 

「本当に、よく似てるな。海軍に来た頃、あいつは同じ顔をしていた――」

 

 

 

 

――龍玄!諦めんな!お前の艦隊はそんなもんじゃねぇ!

 

 

 

 

「だが、少年のような幼さは無かったな。」

 

口角を上げ、懐かしむ口調。

それだけで誰を指しているのか、零にはわかった。

 

「父さんと俺は、親子ですから。」

 

それだけ返し、部屋を出ようとするが。

ドアの前に着くと、思い直して振り返り。

 

「勝敗よりも、あんな父さんを見ていたくありません。必ず、()()()()()()。」

 

ドアを閉める音に、全員が反応すらしなかった。

そのくらいには、自然なことであった。

 

「ロゼさん、瑞鳳は変わりました。」

 

その静寂を破るのは、雪だった。

 

「あの少年が来てからというものの、明るくなったようでとても危うい。しかし、その危うさの中にも、愛情があるように見えました。愛が故の、かも知れませんが。」

 

「今、それと何の関係が?」

 

ロゼは気になった。

自身の知る瑞鳳は、明るくは決して無かった。

むしろ、他の艦娘から心配されていたまである。

 

「宿毛湾から舞鶴に来た当初から見て、あの少年と関わるようになるまでは酷く落ちぶれていました。艦娘に生まれたことすら、後悔してましたからね。ですが、私の知らない話…祥鳳さんが沈んだ、南方海域での話にまで遡りました。聞いた限り、瑞鳳は相当に参っていたと思います。彼が来てから瑞鳳に限らず、舞鶴の全員が活気に溢れました。これは、紛れもない事実です。」

 

自身の知っている瑞鳳と、大きくかけ離れた雪の説明に。

 

「そう…。」

 

小さく頷きながらも、顔には悲壮感が溢れていた。

 

「私の時には、何もしてあげられなかった…それを雪ちゃんが私の代わりに…ありがとう。」

 

理由はこれに尽きる。

自身の不甲斐なさ、それが顕著に出たのだ。

 

「なら、私からも。」

 

燐火が手を挙げる。

 

「海野君には話したけど、深海棲艦…それも姫級が一隻、佐世保に来たの。理由はわからない、千歳達に迎撃して貰った結果、逃げられた。きな臭いったら、ありゃしない。もし、探し物だとしたら、少年の身柄かも知れないし、偵察なのかも知れない。明白じゃない以上、あらゆる可能性を視野に入れておいて。」

 

燐火の、真剣たる言い分。

全員が息を呑む。

 

「元帥の息子なら尚更、警戒しておくに越したことないよ。」

 

更に付け足し言えば、龍玄も続く。

 

「あぁ、そうだな。それに、深海棲艦を連れて式条は大本営に来たらしい…撃たれた相垣が物語っている。それに、警戒すべきはもっと身近にもあるぞ。考えてもみろ、大本営に何故、式条が来れた?」

 

龍玄の問いに、顔を見合わせるロゼと燐火。

なれど、雪は疾うに勘づいていた。

 

「式条羽織少将でしょう。」

 

幸造も悟って、大きく頷く。

 

「私の教鞭から逃げ出した、彼奴のことだ…不思議でもない。それに、海野。貴殿が自ら私に言ったではないか、”大本営に乗り込まれた”とな。」

 

それらの情報共有は、意図せず繋がっていた。

ある一点だけを除けば。

 

「とりあえず、艦隊の連絡を待つとしますかね。」

 

燐火は言いたいことを言えたのか、お開きとばかりに伸びをする。

 

「本当に…お前は自由だな。」

 

龍玄が言えば、全員が苦笑した。

 

 

 

 

 

 

 

一方で。

 

 

 

 

 

 

「いたたた!」

 

病室で喚く声が響く。

 

「い、痛い…流石に体を貫かれたのは…手痛いな。」

 

寝返りを試みるが、激痛が全身に走り。

鬱憤がふいに、口を()く。

この男、相垣南穂(あいがきみなほ)

深海棲艦に襲撃され。

深手を負った、本人である。

 

「しかし、我ながら抜かったな。」

 

自身の現状に、自嘲気味に反省する。

 

「大本営が静かだな…誰か居ないか?ぐっ!?」

 

近くにあった松葉杖を使い、必死に立ち上がろうとして。

転倒直前、間一髪で助ける艦娘が現れた。

 

「何やってンだ!無理すンな!」

 

「か、江風…助かった。」

 

江風であった。

鎮守府に残り、南穂の様子を見ていた。

丁度良かったとばかりに、南穂は訊く。

 

「海野大将は?」

 

「あぁ、舞鶴にな。相垣大佐は治療に専念しな。」

 

江風は、ベッドに南穂を寝かせ。

パイプ椅子に腰掛けると、腕を組み。

 

「深海棲艦に撃たれたあんたを、この江風さんが運んでやったンだ。」

 

溜息がてら、説明をする。

南穂は自身の身体を改めて見る。

 

「撃たれたのは覚えている…あぁ、ありがとう。」

 

包帯で痛々しいのは、江風から見ても一目瞭然。

 

「ま、生きてりゃ物種ってな。」

 

「ごもっとも。」

 

二人は顔を見合わせ、笑い合う。

 

「式条親子も指宿も、正式に反逆者認定されたし、あとは海軍の頑張り次第だな。」

 

南穂から視線を外し、江風は窓を見る。

 

「ま、大丈夫だろ…大本営の艦娘も居るし。」

 

引っ掛かりが、南穂に生まれる。

 

「まさか、それで大戦でも始まったのか?」

 

思わず、背を向けている江風に問いかける。

その江風の言葉は。

 

「別に、相垣大佐のせいじゃない。起こってなかったのが、不思議なくらいだ…大湊奪還と舞鶴防衛、それが今回の目的だってな。」

 

南穂は目を見開く。

その顔を、歓喜が埋め尽くす。

 

「生きてたのか!!良かった!!いてて…。」

 

痛みに悶える南穂に、江風は苦笑を浮かべる。

 

「ほんと、不思議なやつだな。」

 

「それよりも、大湊が襲撃とは…それに、舞鶴も…こんな時に、私が参戦できないとは大佐の名も廃れてしまうな。」

 

南穂は拳を握る。

 

「大湊は、私も任務で居たんだ。そこで、長門が偶然にも建造出来てな。何故か、舞鶴に行ったんだが…。」

 

南穂は寂しげでありながら、嬉々とした表情を見せる。

不思議に思うも、相手は人間。

艦娘である江風は、不思議な感情を見せる男を。

 

「なんだか、あいつ()にそっくりだ。」

 

自身の知る少年と重ねた。




如何だったでしょうか?

それでは、また次回に。
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