作者は夏風邪を引いて、辛い夏から始まりました…。
今年も暑い…。
それと、VOICEROIDなるものを買いました。
琴葉姉妹、オーソドックス。
かわいい。
いつか、このssを朗読させたいですね。
それでは、本編どうぞ。
出撃を控え、舞鶴に集った艦娘達が海上へと揃う。
艦隊陣形を成し、整列する光景は圧巻の一言に尽きよう。
それを物ともせず、優雅に悠々自適に。
全体を見渡し、弧を描くように一周するその艦娘は、超弩級戦艦。
自身の部隊に合流し、先頭に立つと和傘を広げ。
「準備は整ったかしら?」
横須賀鎮守府、その最大戦力である大和が、誰に言うでもなく呟く。
それに呼応するように。
「あぁ。この長門の率いる舞鶴主戦力は、いつでも出撃出来る。」
長門が笑みを浮かべて駆け寄りながら、大和の隣に並ぶ。
「久しぶりですね、
「
長門と大和は、互いを見やり。
「勝ちましょう。」
「勿論だ。」
激励を交わし、長門は艦隊へと戻っていく。
「長門さん、燃えてるっぽい。」
やり取りを見ていた夕立は、物珍しげに長門を見つめる。
そこに駆け寄り。
「そりゃ、合同出撃だからでしょ?」
佐世保の川内が、夕立の肩に手を置き。
「わからないけどね?ま、夜戦が無いとつまらないかな。」
「さすが、夜戦バカっぽい!」
悪戯めいた顔で言うも、夕立の火力のある言葉で返される。
そう言われると、犯人は気になるもので。
「ちょ、夜戦バカって誰が…?」
「阿武隈さんよ?」
川内はその名前を聞くと。
「阿武隈かぁ、いつか痛い目に遭わせなきゃね。」
不敵な笑みを浮かべ、拳を握った。
次の瞬間。
後ろから声をかけられ、川内は飛び跳ねることになる。
「妾も思っておるぞ。」
「っひぃ!?」
悪戯の張本人。
その初春は紫髪を靡かせ、扇子で川内の頭を軽く叩く。
「これ、驚き過ぎじゃぞ。」
「痛ったぁ!」
痛みのあまり、川内はその場でしゃがみ込む。
「して、夕立。この戦局、見事にお主らの鎮守府が囲い込まれたのぉ。」
「そうっぽい。」
夕立は赤い目を光らせる。
「…勝ち目と活路はあるのじゃな?」
この初春は、呉鎮守府所属で鍛えられている。
よって、並大抵の駆逐艦ならば敵わないであろう。
唯一といっても過言ではない、好敵手。
それが夕立である。
故に、信頼を置いていた。
「ま、
「っぽい!」
夕立の返事に、微笑み。
「舞鶴と大湊の為に、妾も一肌くらい脱ごうかの。」
そう言って、初春が腕まくりをして見せれば。
「駆逐艦も侮れないねぇ。」
川内は挑戦的に呟いた。
「大本営に居た艦娘と、呉所属の艦娘…元帥が戻ってきたら、どうなるのかな。」
「”どうなるか”なんて、そんなの大本営に戻るだけっぽい!」
至極真っ当な言い分である。
その単純な見解に、異を唱える艦娘もいた。
「そうねぇ、それだけだったらいいわねぇ。」
龍田であった。
すべてを知った今、一筋縄でいかないことなど。
想像に容易く、考えるまでも無かった。
「出撃したらわからないわよぉ?だってぇ、勝ったら私たちの提督が戻ってくるんだものぉ。」
声は抜けているが、目付きは鋭い。
龍田の醸し出すただならぬ空気に、全員が呑まれていた。
だが、そこは初春。
「…この出撃に全てがかかっている…龍田の言わんとすることは、そういうことじゃろう?」
「あらぁ?初春さんは、
見解を言うも、龍田に言い負かされてしまう。
「妾をそんな風に扱うとはのぉ…。」
初春が仕返しを考えていたところで、全艦娘の無線機が反応する。
[さて、全艦の出撃準備は整ったかな?]
無線から聞こえる声の主は、雪だった。
ここは舞鶴、雪が預かる場所である。
よって、艦娘達へと指示を出す。
[ここからの戦いは全力で臨んで欲しい、私からはそれだけだよ。各艦、上官からの号令で向かうように。]
「「はっ!!」」
無線で言い終えた雪は、父である龍玄へと無線機を渡す。
「では、元帥代理の海野大将からどうぞ。」
「俺からか…呉鎮守府全艦、出撃せよ。」
[[出撃します!!]]
受け取った龍玄は、致し方なしとばかりに命令を下す。
艦娘達の声が聞こえると、幸造へ渡し。
「島永大将もお願いします。」
「相わかった。」
幸造に続いて、雪、燐火、ロゼと出撃号令を行う。
最後、零へと無線機をロゼが渡す。
「あなたもよ?」
「お、俺ですか…?」
呆けたように訊いてくる零に、呆れすら見せながら。
「いい?借りてるだけとは言えど、今回はあなたも提督なの。それも今回だけとは限らない、この先もあるはずよ。だから、練習だと思って声を聞かせてあげて。」
恐る恐る受け取り、零は高鳴る鼓動を必死に抑え。
「みんな、聞こえるかな?」
[[聞こえます!]]
確認を取れば、無線越しに響く声。
応えるように深呼吸を挟み。
「全員…とにかく、沈まずに戻ってきて欲しい。旗艦、瑞鳳の判断で無理だとわかったら、撤退してでも…無事に帰投してくれればいいからさ。」
[[はっ!!]]
気概のある返事が耳に届くと。
「では…遊撃機動部隊、出撃せよ!!」
六隻へと、命令を下す。
[[遊撃機動部隊、出撃します!!]]
返ってきた声と共に、無線が切れる。
零は力が抜けたように、椅子へと腰を下ろす。
「ふぅ…無事に、だからね?頼んだよ。」
目を瞑りながら、呟くと。
「心配か?だが、貴殿の気持ちは全員に届いたはずだぞ。」
幸造が零の肩に手を置く。
「提督が恐れてどうする?貴殿の父の言葉は、伊達ではないだろう?」
そう言って聞かせれば、零も思い直す。
「そうですね、俺の艦隊を信じます。」
零の言葉に、幸造は大きく頷く。
「それでこそ、軍人とはそういうものだ。なぁ?海野。」
前触れもなく名を呼ばれた龍玄は、目を見開く。
「いえ、その、はい…。」
「なんだ、随分と歯切れが悪いな。」
自身の無茶振りということも知らずに、顰めた顔で龍玄を責める。
やり取りが面白かったのか、燐火が笑い出す。
「あはは、海野くんでも、弱いことってあるんだね。」
「ほ、放っておけ!」
龍玄の返しが気に入らなかったのか、頬を膨らませ。
「見た?雪ちゃん、君のお父さんはこんな人なんだよぉ。」
そう言いながら、されるがままの雪に頬ずりをする。
何とも言えない表情で、ロゼは苦言を呈する。
「いい歳して、みっともないわね。」
それを聞いた燐火は、黙っているわけにもいかない。
雪から顔を離し、ロゼに文句を並べる。
「な、なんですって?!連絡もまともにしてこなかった、あんたがそれを言うの?!心配ばっかりかけてたくせに?!」
「そ、それとこれとは話が違うじゃないの!」
同じ大将、引けを取らない。
ロゼも負けじと応戦する。
終わらぬ言い合いが始まると踏んだ幸造は、二人を宥める。
「まぁまぁ、二人とも落ち着こうではないか。
幸造の言葉に、燐火は言い返したかったが、それを抑えてロゼを見る。
すると、ロゼはバッグから封筒を取り出し。
この場に居る、全員の顔色を伺うように。
「最初に言っておきます。今からお見せするのは、信じ難い物かもしれません。ですが、紛うことなく真実です。零君もいいわね?これは、あなたのお父さんの現状。見たくなかったら逃げ出していいわ…そのくらい、酷いものだから。」
「だ、大丈夫です。」
零は何を見せられるのかと、冷や汗をかきながら頷く。
その封筒から取り出されたのは、数枚の写真。
それも、痛ましく悍ましい内容だった。
「え…?」
「な、なんだこれは…。」
燐火と龍玄が思わず口走る。
それ以外は、言葉を失っているに過ぎない。
全員が目にしたもの。
それは。
「元帥は、深海にて式条より拷問を受けてます。この写真は周辺で張り込みをしていた時に、偶然にも潜水艇とでも言いましょうか…それに乗って、二人が海上に姿を現れたところを撮りました。船首に居るのが式条と、この甲板に居るのが橘花元帥です。この通り、元帥は片腕、片足、片目を抉り取られてます…まるで、生き地獄を味わわせるように…惨いこと極まりないです。」
目を伏せるロゼの腕を、零が掴む。
「あ、あの、これが本当に…父さんですか…?」
唇を震わせ、写真に映っている満身創痍の父を見ながら、力なく零は訊く。
眼前の現実は、子供にはまだ重たい。
大人である全員がわかっている。
しかし、承知の上で。
敢えて、ロゼは心を鬼にする。
「えぇ、間違いなく…あなたのお父さんよ。」
冷たく言っているようにも聞こえるが、ロゼは唇を震わせていた。
龍玄も黙って目を伏せている。
燐火は鬼の形相で、写真を睨みつけている。
そんな中、口を開いたのは幸造だった。
「橘花君、最初に私は聞いたな。」
零を強い眼差しで見る。
「”覚悟はあるか”と。いずれ血を見ることになるとは、このことだとも言えよう…嘆いておる暇は無いぞ、元帥奪還が優先だからな。」
そう言っている幸造の目は、血走っていた。
さながら、鬼でも宿したかのようである。
復讐心を抑えつけ、零を諭しているのだ。
「…今回の作戦は、大湊奪還、舞鶴防衛…そして、元帥奪還が目的だ。」
目を伏せながら、龍玄も重い口を開く。
「少年、お前が組み込まれたのは幸運だったな。今回、その手で父親を救える。戦果も上げれば、昇進だって夢では無いだろう。だがな、それには犠牲だって付くんだ。実際に戦う艦娘、俺達だって襲撃されないとも限らない…今、こうしている間にもな。だが、戦場からは逃げ出せない、逃げ出すわけにはいかない。それが、我々に課せられた義務であり、任務だからだ。」
腕を組みながら、静かに語る。
それが、零にどう響くのか。
龍玄は目線も合わせず、零の言葉を待つ。
待った答えは。
「戦果とか、そんなのどうでもいいです。母さんが深海棲艦になった今、家族と呼べるのは父さんだけです。島永大将が言った通り…連れ戻す、それだけです。海野少将から借りた艦隊もありますから。」
重くなった頭を上げ、顔を合わせる。
やはり、龍玄には面影が重なって見えた。
「本当に、よく似てるな。海軍に来た頃、あいつは同じ顔をしていた――」
――龍玄!諦めんな!お前の艦隊はそんなもんじゃねぇ!
「だが、少年のような幼さは無かったな。」
口角を上げ、懐かしむ口調。
それだけで誰を指しているのか、零にはわかった。
「父さんと俺は、親子ですから。」
それだけ返し、部屋を出ようとするが。
ドアの前に着くと、思い直して振り返り。
「勝敗よりも、あんな父さんを見ていたくありません。必ず、
ドアを閉める音に、全員が反応すらしなかった。
そのくらいには、自然なことであった。
「ロゼさん、瑞鳳は変わりました。」
その静寂を破るのは、雪だった。
「あの少年が来てからというものの、明るくなったようでとても危うい。しかし、その危うさの中にも、愛情があるように見えました。愛が故の、かも知れませんが。」
「今、それと何の関係が?」
ロゼは気になった。
自身の知る瑞鳳は、明るくは決して無かった。
むしろ、他の艦娘から心配されていたまである。
「宿毛湾から舞鶴に来た当初から見て、あの少年と関わるようになるまでは酷く落ちぶれていました。艦娘に生まれたことすら、後悔してましたからね。ですが、私の知らない話…祥鳳さんが沈んだ、南方海域での話にまで遡りました。聞いた限り、瑞鳳は相当に参っていたと思います。彼が来てから瑞鳳に限らず、舞鶴の全員が活気に溢れました。これは、紛れもない事実です。」
自身の知っている瑞鳳と、大きくかけ離れた雪の説明に。
「そう…。」
小さく頷きながらも、顔には悲壮感が溢れていた。
「私の時には、何もしてあげられなかった…それを雪ちゃんが私の代わりに…ありがとう。」
理由はこれに尽きる。
自身の不甲斐なさ、それが顕著に出たのだ。
「なら、私からも。」
燐火が手を挙げる。
「海野君には話したけど、深海棲艦…それも姫級が一隻、佐世保に来たの。理由はわからない、千歳達に迎撃して貰った結果、逃げられた。きな臭いったら、ありゃしない。もし、探し物だとしたら、少年の身柄かも知れないし、偵察なのかも知れない。明白じゃない以上、あらゆる可能性を視野に入れておいて。」
燐火の、真剣たる言い分。
全員が息を呑む。
「元帥の息子なら尚更、警戒しておくに越したことないよ。」
更に付け足し言えば、龍玄も続く。
「あぁ、そうだな。それに、深海棲艦を連れて式条は大本営に来たらしい…撃たれた相垣が物語っている。それに、警戒すべきはもっと身近にもあるぞ。考えてもみろ、大本営に何故、式条が来れた?」
龍玄の問いに、顔を見合わせるロゼと燐火。
なれど、雪は疾うに勘づいていた。
「式条羽織少将でしょう。」
幸造も悟って、大きく頷く。
「私の教鞭から逃げ出した、彼奴のことだ…不思議でもない。それに、海野。貴殿が自ら私に言ったではないか、”大本営に乗り込まれた”とな。」
それらの情報共有は、意図せず繋がっていた。
ある一点だけを除けば。
「とりあえず、艦隊の連絡を待つとしますかね。」
燐火は言いたいことを言えたのか、お開きとばかりに伸びをする。
「本当に…お前は自由だな。」
龍玄が言えば、全員が苦笑した。
一方で。
「いたたた!」
病室で喚く声が響く。
「い、痛い…流石に体を貫かれたのは…手痛いな。」
寝返りを試みるが、激痛が全身に走り。
鬱憤がふいに、口を
この男、
深海棲艦に襲撃され。
深手を負った、本人である。
「しかし、我ながら抜かったな。」
自身の現状に、自嘲気味に反省する。
「大本営が静かだな…誰か居ないか?ぐっ!?」
近くにあった松葉杖を使い、必死に立ち上がろうとして。
転倒直前、間一髪で助ける艦娘が現れた。
「何やってンだ!無理すンな!」
「か、江風…助かった。」
江風であった。
鎮守府に残り、南穂の様子を見ていた。
丁度良かったとばかりに、南穂は訊く。
「海野大将は?」
「あぁ、舞鶴にな。相垣大佐は治療に専念しな。」
江風は、ベッドに南穂を寝かせ。
パイプ椅子に腰掛けると、腕を組み。
「深海棲艦に撃たれたあんたを、この江風さんが運んでやったンだ。」
溜息がてら、説明をする。
南穂は自身の身体を改めて見る。
「撃たれたのは覚えている…あぁ、ありがとう。」
包帯で痛々しいのは、江風から見ても一目瞭然。
「ま、生きてりゃ物種ってな。」
「ごもっとも。」
二人は顔を見合わせ、笑い合う。
「式条親子も指宿も、正式に反逆者認定されたし、あとは海軍の頑張り次第だな。」
南穂から視線を外し、江風は窓を見る。
「ま、大丈夫だろ…大本営の艦娘も居るし。」
引っ掛かりが、南穂に生まれる。
「まさか、それで大戦でも始まったのか?」
思わず、背を向けている江風に問いかける。
その江風の言葉は。
「別に、相垣大佐のせいじゃない。起こってなかったのが、不思議なくらいだ…大湊奪還と舞鶴防衛、それが今回の目的だってな。」
南穂は目を見開く。
その顔を、歓喜が埋め尽くす。
「生きてたのか!!良かった!!いてて…。」
痛みに悶える南穂に、江風は苦笑を浮かべる。
「ほんと、不思議なやつだな。」
「それよりも、大湊が襲撃とは…それに、舞鶴も…こんな時に、私が参戦できないとは大佐の名も廃れてしまうな。」
南穂は拳を握る。
「大湊は、私も任務で居たんだ。そこで、長門が偶然にも建造出来てな。何故か、舞鶴に行ったんだが…。」
南穂は寂しげでありながら、嬉々とした表情を見せる。
不思議に思うも、相手は人間。
艦娘である江風は、不思議な感情を見せる男を。
「なんだか、
自身の知る少年と重ねた。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。