大変、長らくお待たせしました。
作者は腱鞘炎に悩まされ、投稿が遅れていました…。
気付けばお盆、更には台風のお土産で土砂降り。
そして、UAが7000を突破してました。
ありがとうございます。
それでは、本編どうぞ。
作戦に向かう道中、鈴谷は長門に話しかける。
「ねねね、長門。」
「む?」
声に気が付き、長門は隣を見る。
「長門って、大湊出身だったよね?」
見れば、鈴谷が顎に人差し指を当てながら。
思い出すように、空を見上げている。
「あぁ、舞鶴に来る前…それも、
進行方向を確認しながらも、鈴谷の疑問に。
特に気にすることもなく、そう答えた。
鈴谷は尚も、質問を浴びせる。
「その時の提督って?」
「今の相垣大佐…当時、少佐として着任したばかりだったんだ。」
長門は懐かしむように、笑顔を鈴谷に向ける。
「あの頃は、相垣大佐に力もなく…”大本営で学び直せ”と、ロゼ大将に連れ戻されていたな。」
「そうなんだ…長門はどうして舞鶴に?」
鈴谷は単に気になっていただけ。
それでも、長門を不審に思わせるのには十分であり。
「…随分と、今日は掘り下げてくるじゃないか。」
決して、鬱陶しくなったわけではない。
接点がお互いに薄かった、それだけである。
困り顔で頬を掻き、返ってきたのは。
「ほら、長門と話せることなんて、滅多に無いじゃん?だから、聞いておきたいなって。」
その言い分に、長門は溜息を吐く。
しかして振り向き様の、その顔は清々しい。
「そうだな…大湊から呉に異動したのが、相垣大佐の異動と兼ね合いだったんだ。その時から呉で、海野大将の艦娘達と切磋琢磨していた。しかし、舞鶴の提督に海野大将の娘が着任したと聞いてな…その力量が気になった。軍学校での成績は首席、まして大将の娘。気にならない方が難しいだろう?」
生い立ちを話し終えるなり。
試すように、鈴谷に訊くが。
「で、どうだったの?舞鶴は。」
悪戯な微笑みで、長門に返す。
返答など、鈴谷には察せていたからだ。
「あぁ、想像以上に面白い場所だ。提督が提督なのもあるがな?何せ、着任して間もなく、戦果を上げて少将に上り詰めたような方だ。それに、お前達もいるという事実もある。相垣大佐も大本営で力を付けただろうさ。手腕に鈍さは無かった、それと――」
『何処に行こうと、このビッグセブンは!いずれ戻るぞ、大湊に!』
「――私から、啖呵を切った約束もあるからな。」
目を伏せながらの思わせぶりな発言に、首を傾げる鈴谷。
なれど、想像通り。
満足のいく、その羅列。
胸を張り、両腕を腰に当て。
「ふふん、やっぱりね!ま、良いんじゃん?それならさ。」
片目を瞑り、長門へと目配せする。
しかして、その本人は正面を向き。
水平線の先を見据える。
横顔でしか、鈴谷には認識出来ないが。
「舞鶴…私が行こうと思わなければ、お前たちに会うことも無かったんだな。」
その一言は、鈴谷を歓喜させる。
「そうっしょ?!」」
「ま、うるさいのは些か否めないな。」
「なっ!?」
長門の思わぬ反撃に愕然とする鈴谷を、横目で見やりながら。
(賑やかで私は好きだがな。)
気恥ずかしさを胸の内へと、それ以降の言葉は隠した。
これから戦場に向かうというのに、悠長な会話。
なれど、この場も道中。
「電探に反応!二時の方向!」
先頭の阿武隈の一声で、全艦が戦闘態勢に入る。
長門は主砲を構え、鈴谷は魚雷を握りしめる。
二隻が凝視したその先。
瞳には、緩やかな速度で向かってくる深海棲艦が映る。
深海棲艦、それも湧いて出てくるイロハ級などではなく。
姫級、それも。
「コンナニ大勢…一旦、ハ、話ヲサセテクレ…。」
あろうことか、佐世保の艦娘と対峙した姫級だった。
それを舞鶴の艦娘が、知る筈もなく。
「話ぃ?んなもん、するわけ無いやろ。」
龍驤が睨みつけ、威圧する。
その手に弓を構えて、照準を合わせれば。
「さて、早めに終わらせますか。」
鈴谷も続くように、魚雷発射準備を整える。
不思議にも、それを制するのは翔鶴。
手を上げ、全艦の照準を自身の身体で妨害する。
「待ちましょう、敵意が感じられません。」
そう言うも、相手は姫級。
警戒心が増すのは、必然である。
艦隊を安心させるように、翔鶴は阿武隈を見つめ。
「阿武隈さん、大淀さんに打電を。」
「な、なんて伝えます?」
翔鶴は微笑み。
「姫級と接敵、敵意なし…と。
翔鶴の指示通り、阿武隈は打電する。
「打電終わりました。」
阿武隈は向き直り、姫級へと投げかける。
「で、話って?」
姫級は俯き、胸を撫で下ろす。
「アリガトウ、探シテイル子ガ居テ…。」
「探している子?」
長門はふと、繰り返す。
何ら変哲のない一言。
意味もなく、呟いただけに過ぎない。
「ソウ、探シテイル子…零ッテ名前。」
それを聞いた瞬間、阿武隈の髪が逆立つ。
殺気を隠すこともなく、射線を翔鶴から外し主砲を向ける。
その目には、普段の穏やかさなど毛程もない。
震えるその手は、武者震いであろう。
「あの子をどうする気なの?」
「シ、知ッテルノ?」
「答えて!!」
ただならぬ阿武隈の様子。
動くのは龍驤。
阿武隈の肩に手を置き、優しく諭す。
「落ち着きぃ。これだけの人数や、いつでも撃てるやろ。」
「そ、それもそうですね。」
阿武隈は銃口を下げ、大人しく従う。
「零ハ、無事?生キテル?佐世保ノ艦娘ニ会ッタ時モ、コウヤッテ囲ワレタ。逃ガシテクレタノガ、唯一ノ救イダッタワ。アナタノ言ウ”零”ト、ワタシノ知ッテル”零”ハ、同ジ?」
阿武隈を細目で見つめ、確認する姫級。
別人ならば、この姫級にとって興味はない。
なれど、阿武隈は。
零の成長を、その目で見ていない。
「……っ!」
よって、言葉に詰まるのも無理はない。
目を泳がせ、赤ん坊だった零しか思い浮かばず焦燥する。
(どうしよう…これで零君に何かあったら…。)
阿武隈のこの考えは、否が応でも杞憂に過ぎない。
何故なら、この場に居るのは舞鶴の艦娘。
「零君なら、栗毛で琥珀のような目をした子供ですよ?見た目ならば。根底ならば、とても純粋なのに、あの歳で痛烈な体験をしながらも、提督になる夢を今も追いかけています。安全地帯と呼ばれたあの島で、家族も失っています。それでも、助けに遅れた私たち艦娘を恨んでいてもおかしくないのに、先を見据えている…とても強い子です。」
翔鶴が言えば、姫級は大きく頷く。
「ソノ子供デ間違イナイ…生キテテ良カッタ。」
この姫級、太平洋深海棲姫。
なぜ、ここまで零に拘るのか。
「ワタシ、約束シテタノ。”何ガアッテモ守ル”ッテ。アノ島ニ襲撃ヲ仕掛ケタノハ、同胞ノ戦艦水
鬼。ワタシダケデハ、太刀打チ出来ナカッタ…。」
そこまで聞くと、長門は思い当たる節が出てきた。
「まさか!私達が駆けつけた時の…
驚愕入り混じる声音で、姫級の肩を掴む。
「無我夢中ダッタカラ…沈メタ数ナンテ覚エテナイワ。」
静かに目を伏せながらも、姫級は肯定する。
「そ、そうだったのか…。」
ゆっくりと手を離す。
龍驤と鈴谷は顔を見合わせ、至極気になったことを口にする。
「深海棲艦がなんで、あの島に?」
「せや、電磁網やろ?よう入れたなぁ…んで、なんで人間と仲良くしとんねん。」
二隻の言葉は、姫級を困らせたかと思ったが。
「助ケテモラッタカラ、代ワリニ守ルッテ約束シタダケヨ。」
飄々と返されてしまっては、それ以上は何も言う気にもならない。
「「変わった深海棲艦だな。」」
全艦、そう口を揃えるのは無理もない。
しかし、その後で。
「戦艦水鬼ト企テタノハ、式条トカイウ男。アレハ、
無表情で、それでいて冷酷に。
姫級は静かに、木霊させる。
「式条が要らないって、どういう…?」
「言葉ノ通リヨ。」
戸惑う曙に短く告げ、艤装を軋ませたかと思えば。
何事も無かったかのように、駆け出そうとする。
「何処行くの?」
それを引き止めるように、立ちはだかり手を伸ばす曙は。
「今まで黙ってたけど。零君なら、
冷たく、言い放つ。
それは――
「舞鶴…?今マデ、アノ子ガ舞鶴ニ居タノ?アノ
――太平洋深海棲姫の動きを止める。
振り返ったその姿に、隙は無く。
近づけば、その場で屠るのも厭わない。
凛とした立ち姿。
というわけでもなく。
「ソレナラ、
立っているのは、当しく敵。
そう思わざるを得ないほどの、禍々しい殺気。
探し求め、手の届く距離に居るようで、遠い。
もどかしさ故に、焦燥を重ねた執着。
それを具現化させるように、砲塔を向ける。
曙は後ずさり、主砲を構えながら出方を待つ。
「やる気…?」
「ダトシタラ?」
数に物怖じせず、好戦的に振る舞う。
「零サエ取リ戻セタラ、無事ヲ確認出来タラ…ソレデイイ。」
何故、今は舞鶴に集結していると言わなかったのか。
敵意が無いとは言え、相手は敵。
ここまで執着心を顕にしているのなら、尚更。
危うさは一目瞭然、当然の芸当。
機密情報を漏らすわけにはいかない。
曙の機転である。
これに異を唱える者は、誰一人として居ない。
全艦が固唾を呑み、構える中。
落ち着きを見せ、太平洋深海棲姫に歩み寄る艦娘が一人。
「本当にやる気なら、とっくに砲撃くらいしとるやろ。」
小波のように、ゆったりと。
二隻の間に割って入る。
「言うとすれば、そのうち会えるやろ…ってくらいやな。」
笑みを見せながら、太平洋深海棲姫を諭す。
主砲を下ろし、事も無げに。
「ソウ、アリガトウ。生キテルナラ、マタ会エル。確カニソウネ。」
今度こそ立ち去ろうとして、立ち止まる。
「ア、何処ニ向カッテルノ?オ礼ニ、
呆気に取られるも、阿武隈は。
「舞鶴近海の哨戒警備、今は落ち着いているのでもう少し北上する予定です。」
そう答えた。
「ワカッタワ、頑張ッテネ。」
「あなたは?」
再び立ち去ろうと進みながら、太平洋深海棲姫は片目を瞑り。
「他ニモ、行クベキ所ガ出来タノヨ。」
速力を最大に、姿を遠くした。
台風のようだったと、安堵するも。
「…深海棲艦が”ありがとう”だと?!」
長門は我に返り、驚愕した。
それも叫ぶように。
「そ、それ!鈴谷も思った!!」
今まで何も感じなかったが、思い返せば摩訶不思議な体験であった。
「非道の集まりだと思ってたけどね。」
曙までもが手に汗を握る。
「ま、ウチらは任務に集中するだけやで。」
「ふふっ、そうですね。」
空母の二隻だけが、不思議にも思ってなかった。
三者三様、十人十色。
と、腑に落ちていた。
「動き始めたか。」
「そのようですな。」
一方で、作戦を練っていたのは海軍だけではない。
「我々の艦隊も向かわせているんだろうな?」
ここは潜水艦内。
無線機を片手に、式条が横目で指宿に問う。
「はっ、抜かり無く。して、敵艦隊は日本海、太平洋、舞鶴近海に出撃と配置したようです。」
「敵、か。言うではないか、先日まで居たというのにな。」
「私はもう此方側です故。」
指宿は何やらペンを海図に走らせながら、式条の顔も見ないまま返す。
それほど集中していると見た式条は、特に咎めもしない。
「手腕は衰えていないようだな、体型も元に戻りつつある。」
「堕落したのはいつ頃だったか、覚えておりませんが。」
否、指宿は覚えている。
自身が堕落という名の鍛錬も、勤勉さをも失った理由を。
『提…督…申し訳ない…。』
記憶に残る言葉が一つ。
(今はやめてくれ。)
指宿は必死に誤魔化すように、ひたすら書き殴る。
「この配置で行けば、接敵しても…いや、ここもか。」
(ほう…腐っても元中将。引き入れたのは正解だったな。)
額の汗を拭いながら、未だに先手を打とうとばかりに必死な指宿。
その様子を満足気に見ている式条は、不敵な笑みを浮かべながら。
「頼りにしている、
「はっ!」
式条は立ち上がり、指宿の肩に手を置いたかと思えば部屋を出る。
「さて、
ドアを閉め、廊下を歩き出した。
如何だったでしょうか。
それでは、また次回に。