この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
大変、長らくお待たせしました。
作者は腱鞘炎に悩まされ、投稿が遅れていました…。
気付けばお盆、更には台風のお土産で土砂降り。
そして、UAが7000を突破してました。
ありがとうございます。
それでは、本編どうぞ。


Episode-34

作戦に向かう道中、鈴谷は長門に話しかける。

 

「ねねね、長門。」

 

「む?」

 

声に気が付き、長門は隣を見る。

 

「長門って、大湊出身だったよね?」

 

見れば、鈴谷が顎に人差し指を当てながら。

思い出すように、空を見上げている。

 

「あぁ、舞鶴に来る前…それも、呉(・)を(・)経(・)由(・)す(・)る(・)前(・)だ(・)な(・)。確かに、大湊で建造された。」

 

進行方向を確認しながらも、鈴谷の疑問に。

特に気にすることもなく、そう答えた。

鈴谷は尚も、質問を浴びせる。

 

「その時の提督って?」

 

「今の相垣大佐…当時、少佐として着任したばかりだったんだ。」

 

長門は懐かしむように、笑顔を鈴谷に向ける。

 

「あの頃は、相垣大佐に力もなく…”大本営で学び直せ”と、ロゼ大将に連れ戻されていたな。」

 

「そうなんだ…長門はどうして舞鶴に?」

 

鈴谷は単に気になっていただけ。

それでも、長門を不審に思わせるのには十分であり。

 

「…随分と、今日は掘り下げてくるじゃないか。」

 

決して、鬱陶しくなったわけではない。

接点がお互いに薄かった、それだけである。

困り顔で頬を掻き、返ってきたのは。

 

「ほら、長門と話せることなんて、滅多に無いじゃん?だから、聞いておきたいなって。」

 

その言い分に、長門は溜息を吐く。

しかして振り向き様の、その顔は清々しい。

 

「そうだな…大湊から呉に異動したのが、相垣大佐の異動と兼ね合いだったんだ。その時から呉で、海野大将の艦娘達と切磋琢磨していた。しかし、舞鶴の提督に海野大将の娘が着任したと聞いてな…その力量が気になった。軍学校での成績は首席、まして大将の娘。気にならない方が難しいだろう?」

 

生い立ちを話し終えるなり。

試すように、鈴谷に訊くが。

 

「で、どうだったの?舞鶴は。」

 

悪戯な微笑みで、長門に返す。

返答など、鈴谷には察せていたからだ。

 

「あぁ、想像以上に面白い場所だ。提督が提督なのもあるがな?何せ、着任して間もなく、戦果を上げて少将に上り詰めたような方だ。それに、お前達もいるという事実もある。相垣大佐も大本営で力を付けただろうさ。手腕に鈍さは無かった、それと――」

 

 

 

『何処に行こうと、このビッグセブンは!いずれ戻るぞ、大湊に!』

 

 

 

「――私から、啖呵を切った約束もあるからな。」

 

目を伏せながらの思わせぶりな発言に、首を傾げる鈴谷。

なれど、想像通り。

満足のいく、その羅列。

胸を張り、両腕を腰に当て。

 

「ふふん、やっぱりね!ま、良いんじゃん?それならさ。」

 

片目を瞑り、長門へと目配せする。

しかして、その本人は正面を向き。

水平線の先を見据える。

横顔でしか、鈴谷には認識出来ないが。

 

「舞鶴…私が行こうと思わなければ、お前たちに会うことも無かったんだな。」

 

その一言は、鈴谷を歓喜させる。

 

「そうっしょ?!」」

 

「ま、うるさいのは些か否めないな。」

 

「なっ!?」

 

長門の思わぬ反撃に愕然とする鈴谷を、横目で見やりながら。

 

(賑やかで私は好きだがな。)

 

気恥ずかしさを胸の内へと、それ以降の言葉は隠した。

これから戦場に向かうというのに、悠長な会話。

なれど、この場も道中。

 

「電探に反応!二時の方向!」

 

先頭の阿武隈の一声で、全艦が戦闘態勢に入る。

長門は主砲を構え、鈴谷は魚雷を握りしめる。

二隻が凝視したその先。

瞳には、緩やかな速度で向かってくる深海棲艦が映る。

深海棲艦、それも湧いて出てくるイロハ級などではなく。

姫級、それも。

 

「コンナニ大勢…一旦、ハ、話ヲサセテクレ…。」

 

あろうことか、佐世保の艦娘と対峙した姫級だった。

それを舞鶴の艦娘が、知る筈もなく。

 

「話ぃ?んなもん、するわけ無いやろ。」

 

龍驤が睨みつけ、威圧する。

その手に弓を構えて、照準を合わせれば。

 

「さて、早めに終わらせますか。」

 

鈴谷も続くように、魚雷発射準備を整える。

不思議にも、それを制するのは翔鶴。

手を上げ、全艦の照準を自身の身体で妨害する。

 

「待ちましょう、敵意が感じられません。」

 

そう言うも、相手は姫級。

警戒心が増すのは、必然である。

艦隊を安心させるように、翔鶴は阿武隈を見つめ。

 

「阿武隈さん、大淀さんに打電を。」

 

「な、なんて伝えます?」

 

翔鶴は微笑み。

 

「姫級と接敵、敵意なし…と。そ(・)れ(・)だ(・)け(・)伝(・)え(・)れ(・)ば(・)、大淀さんもわかってくれます。」

 

翔鶴の指示通り、阿武隈は打電する。

 

「打電終わりました。」

 

阿武隈は向き直り、姫級へと投げかける。

 

「で、話って?」

 

姫級は俯き、胸を撫で下ろす。

 

「アリガトウ、探シテイル子ガ居テ…。」

 

「探している子?」

 

長門はふと、繰り返す。

何ら変哲のない一言。

意味もなく、呟いただけに過ぎない。

 

「ソウ、探シテイル子…零ッテ名前。」

 

それを聞いた瞬間、阿武隈の髪が逆立つ。

殺気を隠すこともなく、射線を翔鶴から外し主砲を向ける。

その目には、普段の穏やかさなど毛程もない。

震えるその手は、武者震いであろう。

 

「あの子をどうする気なの?」

 

「シ、知ッテルノ?」

 

「答えて!!」

 

ただならぬ阿武隈の様子。

動くのは龍驤。

阿武隈の肩に手を置き、優しく諭す。

 

「落ち着きぃ。これだけの人数や、いつでも撃てるやろ。」

 

「そ、それもそうですね。」

 

阿武隈は銃口を下げ、大人しく従う。

 

「零ハ、無事?生キテル?佐世保ノ艦娘ニ会ッタ時モ、コウヤッテ囲ワレタ。逃ガシテクレタノガ、唯一ノ救イダッタワ。アナタノ言ウ”零”ト、ワタシノ知ッテル”零”ハ、同ジ?」

 

阿武隈を細目で見つめ、確認する姫級。

別人ならば、この姫級にとって興味はない。

なれど、阿武隈は。

零の成長を、その目で見ていない。

 

「……っ!」

 

よって、言葉に詰まるのも無理はない。

目を泳がせ、赤ん坊だった零しか思い浮かばず焦燥する。

 

(どうしよう…これで零君に何かあったら…。)

 

阿武隈のこの考えは、否が応でも杞憂に過ぎない。

何故なら、この場に居るのは舞鶴の艦娘。

 

「零君なら、栗毛で琥珀のような目をした子供ですよ?見た目ならば。根底ならば、とても純粋なのに、あの歳で痛烈な体験をしながらも、提督になる夢を今も追いかけています。安全地帯と呼ばれたあの島で、家族も失っています。それでも、助けに遅れた私たち艦娘を恨んでいてもおかしくないのに、先を見据えている…とても強い子です。」

 

翔鶴が言えば、姫級は大きく頷く。

 

「ソノ子供デ間違イナイ…生キテテ良カッタ。」

 

この姫級、太平洋深海棲姫。

なぜ、ここまで零に拘るのか。

 

「ワタシ、約束シテタノ。”何ガアッテモ守ル”ッテ。アノ島ニ襲撃ヲ仕掛ケタノハ、同胞ノ戦艦水

鬼。ワタシダケデハ、太刀打チ出来ナカッタ…。」

 

そこまで聞くと、長門は思い当たる節が出てきた。

 

「まさか!私達が駆けつけた時の…あ(・)の(・)残(・)骸(・)は(・)、お前が!?」

 

驚愕入り混じる声音で、姫級の肩を掴む。

 

「無我夢中ダッタカラ…沈メタ数ナンテ覚エテナイワ。」

 

静かに目を伏せながらも、姫級は肯定する。

 

「そ、そうだったのか…。」

 

ゆっくりと手を離す。

龍驤と鈴谷は顔を見合わせ、至極気になったことを口にする。

 

「深海棲艦がなんで、あの島に?」

 

「せや、電磁網やろ?よう入れたなぁ…んで、なんで人間と仲良くしとんねん。」

 

二隻の言葉は、姫級を困らせたかと思ったが。

 

「助ケテモラッタカラ、代ワリニ守ルッテ約束シタダケヨ。」

 

飄々と返されてしまっては、それ以上は何も言う気にもならない。

 

「「変わった深海棲艦だな。」」

 

全艦、そう口を揃えるのは無理もない。

しかし、その後で。

 

「戦艦水鬼ト企テタノハ、式条トカイウ男。アレハ、海(・)ニ(・)要(・)ラ(・)ナ(・)イ(・)。」

 

無表情で、それでいて冷酷に。

姫級は静かに、木霊させる。

 

「式条が要らないって、どういう…?」

 

「言葉ノ通リヨ。」

 

戸惑う曙に短く告げ、艤装を軋ませたかと思えば。

何事も無かったかのように、駆け出そうとする。

 

「何処行くの?」

 

それを引き止めるように、立ちはだかり手を伸ばす曙は。

 

「今まで黙ってたけど。零君なら、も(・)う(・)舞(・)鶴(・)に(・)は(・)居(・)な(・)い(・)わ(・)よ(・)。」

 

冷たく、言い放つ。

それは――

 

 

 

 

 

「舞鶴…?今マデ、アノ子ガ舞鶴ニ居タノ?アノ鎮守府(場所)ニ?」

 

――太平洋深海棲姫の動きを止める。

 

振り返ったその姿に、隙は無く。

近づけば、その場で屠るのも厭わない。

 

 

凛とした立ち姿。

 

 

というわけでもなく。

 

「ソレナラ、何(・)処(・)ニ(・)居(・)ル(・)ノ(・)?教エテ。」

 

立っているのは、当しく敵。

そう思わざるを得ないほどの、禍々しい殺気。

探し求め、手の届く距離に居るようで、遠い。

もどかしさ故に、焦燥を重ねた執着。

それを具現化させるように、砲塔を向ける。

曙は後ずさり、主砲を構えながら出方を待つ。

 

「やる気…?」

 

「ダトシタラ?」

 

数に物怖じせず、好戦的に振る舞う。

 

「零サエ取リ戻セタラ、無事ヲ確認出来タラ…ソレデイイ。」

 

何故、今は舞鶴に集結していると言わなかったのか。

敵意が無いとは言え、相手は敵。

ここまで執着心を顕にしているのなら、尚更。

危うさは一目瞭然、当然の芸当。

機密情報を漏らすわけにはいかない。

曙の機転である。

これに異を唱える者は、誰一人として居ない。

全艦が固唾を呑み、構える中。

落ち着きを見せ、太平洋深海棲姫に歩み寄る艦娘が一人。

 

「本当にやる気なら、とっくに砲撃くらいしとるやろ。」

 

小波のように、ゆったりと。

二隻の間に割って入る。

 

「言うとすれば、そのうち会えるやろ…ってくらいやな。」

 

笑みを見せながら、太平洋深海棲姫を諭す。

主砲を下ろし、事も無げに。

 

「ソウ、アリガトウ。生キテルナラ、マタ会エル。確カニソウネ。」

 

今度こそ立ち去ろうとして、立ち止まる。

 

「ア、何処ニ向カッテルノ?オ礼ニ、向(・)カ(・)ウ(・)場(・)所(・)ガ(・)場(・)所(・)ナ(・)ラ(・)案内スルワ。」

 

呆気に取られるも、阿武隈は。

 

「舞鶴近海の哨戒警備、今は落ち着いているのでもう少し北上する予定です。」

 

そう答えた。

 

「ワカッタワ、頑張ッテネ。」

 

「あなたは?」

 

再び立ち去ろうと進みながら、太平洋深海棲姫は片目を瞑り。

 

「他ニモ、行クベキ所ガ出来タノヨ。」

 

速力を最大に、姿を遠くした。

台風のようだったと、安堵するも。

 

「…深海棲艦が”ありがとう”だと?!」

 

長門は我に返り、驚愕した。

それも叫ぶように。

 

「そ、それ!鈴谷も思った!!」

 

今まで何も感じなかったが、思い返せば摩訶不思議な体験であった。

 

「非道の集まりだと思ってたけどね。」

 

曙までもが手に汗を握る。

 

「ま、ウチらは任務に集中するだけやで。」

 

「ふふっ、そうですね。」

 

空母の二隻だけが、不思議にも思ってなかった。

三者三様、十人十色。

理(ことわり)とは、そういうものである。

と、腑に落ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動き始めたか。」

 

「そのようですな。」

 

一方で、作戦を練っていたのは海軍だけではない。

 

「我々の艦隊も向かわせているんだろうな?」

 

ここは潜水艦内。

無線機を片手に、式条が横目で指宿に問う。

 

「はっ、抜かり無く。して、敵艦隊は日本海、太平洋、舞鶴近海に出撃と配置したようです。」

 

「敵、か。言うではないか、先日まで居たというのにな。」

 

「私はもう此方側です故。」

 

指宿は何やらペンを海図に走らせながら、式条の顔も見ないまま返す。

それほど集中していると見た式条は、特に咎めもしない。

 

「手腕は衰えていないようだな、体型も元に戻りつつある。」

 

「堕落したのはいつ頃だったか、覚えておりませんが。」

 

否、指宿は覚えている。

自身が堕落という名の鍛錬も、勤勉さをも失った理由を。

 

『提…督…申し訳ない…。』

 

記憶に残る言葉が一つ。

 

(今はやめてくれ。)

 

指宿は必死に誤魔化すように、ひたすら書き殴る。

 

「この配置で行けば、接敵しても…いや、ここもか。」

 

(ほう…腐っても元中将。引き入れたのは正解だったな。)

 

額の汗を拭いながら、未だに先手を打とうとばかりに必死な指宿。

その様子を満足気に見ている式条は、不敵な笑みを浮かべながら。

 

「頼りにしている、指(・)宿(・)大(・)将(・)。」

 

「はっ!」

 

式条は立ち上がり、指宿の肩に手を置いたかと思えば部屋を出る。

 

「さて、死合(戦争)をしようではないか。橘花零、海野雪。」

 

ドアを閉め、廊下を歩き出した。




如何だったでしょうか。
それでは、また次回に。
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