この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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いつも読んで頂き、ありがとうございます。
更新がマチマチで申し訳ありません。
腱鞘炎が中々に、猛威を揮っておりまして…。
なんとか、今年中には完結出来たらいいなとは思っております。
このペースだと、来年まで持ち越しそうです…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-36

零の艦隊となった、瑞鳳率いる遊撃機動艦隊。

太平洋側の哨戒から外れ、大きく進路変更する。

任務遂行の為、日本海に向かって全速力で駆けていた。

 

「岬ノ宮中将、や(・)っ(・)ぱ(・)り(・)現(・)地(・)に(・)向(・)か(・)っ(・)て(・)た(・)の(・)ね(・)。」

 

勘の利く五十鈴は、恋が居なかったことに納得していた。

先に向かって、敵艦隊の撃破。

それは確かに一理ある。

だが、この五十鈴の予測は大いに外れている。

 

「中々、中将も考えることは脳まで筋肉になっていそうだけどね?実にハラショーだ。」

 

響の言い分は、確かに間違いではない。

恋は冷静でいるようで、突っ走る節がある。

それは、否が応でも察せるもので。

 

「会議に出ないなんて、不思議な軍人よね。」

 

雷までもが大きく頷く。

 

「あ…。」

 

五十鈴は何かを思い出す。

 

「どうしたのです?」

 

電が首を傾げ、五十鈴を見る。

 

「岬ノ宮中将の艦隊って、大鳳さんが居るじゃない?それなのに、救援なんて不思議よね。」

 

「深海棲艦の艦隊と交戦、そう提督は言ってました。だから、予測よりも苦戦を強いられているんじゃないかな?作戦会議にも出てないし。」

 

瑞鳳の考えは見当違いではない。

それらは全く持って、想像通り。

故の艦隊支援。

事実、恋は突っ走っていた。

通話越しでの龍玄の話さえ、その耳に入れてはいなかった。

 

「でも、遊撃機動艦隊って名前の通りよね。」

 

五十鈴は物思いに耽る。

自分たちの出番など無いに等しいものだと、そう考えていた。

 

「司令官が考えた名前らしいわね?指揮に関しては、今回だけ零君が司令官だけど。」

 

言いながら暁が人差し指を顎に当て、水平線を眺める。

 

「まさか、本当に軍人になるなんて。それも、軍学校に通いながら実践なんて元帥みたい…というか、親子揃って偉業よ?レディである私が断言するわ。」

 

暁達、第六駆逐隊は、雪が舞鶴に着任した時に建造された。

それも、姉妹全員揃って同時期。

どんな奇跡が働いたものか。

だが、零の父である紫雲のことは言わずもがな有名であった。

 

「…潮梛大将も、それなりだったわよ。」

 

この艦隊において、随一の古株である五十鈴は。

負けじと、十無の名を出す。

 

「潮梛大将?今は、柱島だったかしら?」

 

雷が額に拳を当てながら、必死に思い出そうとする。

無論、名前と顔は覚えている。

単に鎮守府の場所が、雷には思い出せないのである。

 

「そうだったかしらね。舞鶴で提督だった頃、フィリピン海奪還で航路確保の功績も残してたのよ?頼りなさこそ、未だにあるけど。岬ノ宮中将と零君の方が、男らしさで言えば全然あるわね。」

 

すると、そこまで聞いた瑞鳳が首を傾げる。

 

「え?フィリピン海奪還で航路確保したのは、岬ノ宮中将で…確か、その時の舞鶴は近海で警備と迎撃だったんじゃ…?」

 

瑞鳳は宿毛湾に居た時、その作戦に居合わせている。

よって、瑞鳳の言い分に矛盾こそ生じていない。

だが、もっともなことを忘れていた。

 

「バカね、本当にもう…あの時、私達が居なかったら出撃組は近海から出られてないわよ?すごい数だったんだから。潮梛大将が命令してなかったら、フィリピン海の航路奪還すら無かったのよ。いい?佐伯湾、宿毛湾、横須賀、ブルネイ、大湊、そして大本営…それぞれの艦隊は、私達舞鶴と柱島が近海の敵艦隊を撃破したから、すんなり行けたんだからね?」

 

「ふむ、出撃するには、航路の第一巡が必要不可欠…なるほど、実にハラショーだ。」

 

五十鈴の掻い摘んだ説明に、響は何度も小さく首を縦に振った。

 

「そうじゃなきゃ、出来ることもできなきゅ…いてっ。」

 

合わせようとした暁が、波に揺られて舌を噛む。

心配そうに見る瑞鳳に大丈夫とばかりに、視線で返した。

悶絶しているかのような表情では、なんら説得力も無かったが。

 

「ま、そんな昔の話より今よ、今。」

 

その最中。

五十鈴は切り替えようと、自身の頬を叩く。

速度も更に上げ、旗艦らしさをも見せる。

全艦がそれに従った。

しかして戦いは、大本営と海上だけでは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「らぁっ!!」

 

黒髪を靡かせて刀を交える、糸目の女。

その腕からは斬られたのだろうか、鮮血を垂らしている。

 

「センセー、その程度?」

 

相対するのは、金髪の女。

斬撃を刃で受け止め、糸目の女を笑顔で挑発する。

こちらの方が幾分、若く見える。

その軍服もまた、返り血と流血で染まっていた。

 

「お前、言(・)っ(・)た(・)通(・)り(・)で(・)あ(・)り(・)ん(・)し(・)た(・)ね(・)。」

 

糸目の女は、交差する刃の隙間から相手を睨む。

その相(・)手(・)とは。

 

「式条結理。再び現れた以上は、わっちに斬られたとて…文句は聞かないでありんす。」

 

「上等じゃない!」

 

言葉を皮切りに。

結理が数歩ほど後ろへ下がり、刃を離す。

構えを直し、一足飛びで一刀両断の如く斬りかかる。

糸目の女は刀の腹に手を添えて、それを受け止める。

延々続く、連撃と連撃。

刃から火花を散らし、道場の畳を血で染め合いながら激しい攻防を見せる。

 

「鈍(なま)ったんじゃない?センセー?」

 

先程から、金髪の女が"センセー"と呼ぶ糸目の女。

名は、浅瀬九音。

この道場の、主である。

 

「そんな軽口を叩くとは、*塩次郎でありんす。宵上華岸流当主を、甘(あも)うみねぇでおくんなんし。」

*塩次郎(しおじろう)…廓言葉(くるわことば)で自惚れを意味する。

 

繰り返される、連撃のぶつかり合い故に。

朝顔を模した藍色の着物は、斬痕(ざんこん)で痛々しい。

そんなことに構うこともなく、九音は刀を握り直し、柄(つか)を右逆手で持つ。

 

「お前に見(・)せ(・)る(・)こ(・)と(・)も(・)、教(・)え(・)る(・)こ(・)と(・)も(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)、奥義を見せましょう…これも、最後でありんしょうから。」

 

奥(・)義(・)を(・)知(・)ら(・)な(・)い(・)結理は警戒し、刀を横に構える。

目前の相手は、元とは言えども師。

 

(宵上華岸流って、奥(・)義(・)い(・)く(・)つ(・)あ(・)っ(・)た(・)っ(・)け(・)?)

 

防御の構えでありながら、ふと考える。

数年も前の話など、聞き流していたことだった。

 

「っ!!」

 

畳の軋音(あつおん)で我に返り、反射的に身体を反らす。

見れば既に、九音の切っ先は自身の目前。

 

「ご覧入れまするは。」

 

否、視えた瞬間には既に首を――

 

 

―――――しゅっ

 

 

――掠めていた。

 

「え?」

 

温かい何かが、首元を伝う感触。

結理が確認すると、手の平には血が付いている。

 

「斬り合いの最中に余所見(よそみ)、下らぬ所作は未(・)だ(・)でありんすね?宵上華岸流奥義、櫓風車(やぐらふうしゃ)。受けたのも、見せたのも、初…で、ありんしょう?刀くらい返すでありんす。」

 

結理の見えていなかった、九音が放った技。

縦に身体を捻らせての、脚を軸にした回転による遠心力。

逆手で持った刀で文字通り、風車のように結理の喉元を斬りつけたのだ。

 

「ちっ!誰が返すもんか!」

 

もどかしさ故に結理は、舌打ちを一つする。

考えるのをやめ、今度は一挙手一投足を目で追う。

だが、そ(・)れ(・)は(・)既(・)に(・)遅(・)く(・)。

 

「連撃あっての宵上華岸流、隙を見せたが運の尽き。続いて…と言っても、二(・)つ(・)し(・)か(・)見(・)せ(・)ら(・)れ(・)な(・)い(・)の(・)が(・)悔やまれますね…大江戸花火・枝垂柳(しだれやなぎ)。」

 

言いながら次の斬撃へと、九音は柄を反転させる。

姿勢を低く、結理の左(・)下(・)に(・)屈む。

首目掛けて刃を向け、切っ先は刹那の速さに迫る。

結理は下からの斬り上げに対抗しようと、刀を振り下ろす。

 

「はぁっ!」

 

「先程までの攻勢は…何処へやら。」

 

気合いの一太刀、それは九音にとって餌食でしかない。

刀を引き、振り下ろしを躱す。

 

「なっ?!」

 

驚く結理を他所に、そのまま斬り上げ動作に入り。

 

「首、寄越しなんし。」

 

刀を宙で返し、項(うなじ)を目駆け。

縦一文字に、振り下ろす――

 

「はーい、失礼しますよー。」

 

が、凶刃が結理を斬ることは無かった。

吹き飛ぶ壁と共に、轟(・)音(・)が(・)風穴を空ける。

そこから出た人影。

 

「に、兄さん?!」

 

式条羽織、結理の兄が割って入る。

それも、結理を既に抱えて。

 

「結理、言ったはずだよ?此方に引き込む為の、交(・)渉(・)ま(・)で(・)だって。斬(・)り(・)合(・)い(・)は(・)違(・)う(・)よ(・)ね(・)?殺すのは、まだ早い。私情を挟むのも止してくれ…結理、お(・)前(・)を(・)仕(・)向(・)け(・)た(・)の(・)は(・)間違いだったのかな?」

 

「なっ…そういうわけじゃ…!」

 

羽織は、不気味な笑顔で結理を嗜める。

圧すらも感じさせる、その笑顔。

結理は口を閉じる他にない。

 

「…式条羽織。」

 

「先生と呼ばれてるにしても、箔(・)が(・)付(・)き(・)過(・)ぎ(・)で(・)は(・)?」

 

九音が睨みを利かせれば、渋い顔で羽織は嫌味を返す。

羽織の目には、着物を廃れさせた女が映るだけ。

 

「…その小娘を渡すでありんす、さもなくば。」

 

九音とて、どんな格好であれ手練。

言葉を言い切らず、距離を詰める。

その手から、刀は離されていない。

 

「はぁ、こ(・)の(・)壁(・)を(・)見(・)て(・)も(・)突っ込んでくるのかぁ。」

 

気の抜けたような声で、気怠そうに。

黒髪の後頭部を掻きながら、青黒い目を鋭くさせる。

そして結理を肩に担いだまま、片手で軍刀を抜き。

 

「そのくらい、見(・)え(・)て(・)ま(・)す(・)よ(・)。」

 

軽々しく受け止めたが、その軍刀は。

 

「…これは予想外。」

 

真っ二つに斬られ、思わず呟く。

 

「見えていようが、強(・)度(・)が(・)無(・)け(・)れ(・)ば(・)無意味でありんす。」

 

奥底の知れぬ、その佇まい。

羽織は思いがけず、冷や汗を額に一滴見せる。

 

「式条羽織、主さんはわっちの邪魔ばかり。当(・)初(・)か(・)ら(・)、変わらないでありんすね。」

 

糸目を真っ直ぐ。

切っ先は羽織に向け、次の斬撃に移ろうとする。

しかし、それは阻まれる。

 

「撃て!」

 

羽織の号令で、轟音が鳴り響く。

壁に穴を空けた張本人、深海棲艦の砲撃によって。

 

 

―――ドォォォォン!!

 

 

主砲から放たれた砲弾が、羽織に向かって走る九音を襲う。

しかし。

 

「邪魔でありんす!」

 

「アラァ、面白イワネ?」

 

阻まれたのは、羽織との距離。

九音は砲弾を文字通り、真っ二つに斬った。

 

「ナラ、撃チ込ムダケヨ。」

 

深海棲艦は機銃を乱射するが、相手に取って不足があるとは知らない。

九音は連撃を極めた、宵上華岸流。

 

「舐められたものですね?式条結理。も(・)う(・)一(・)つ(・)だ(・)け(・)、ご覧いたしんしょう。宵上華岸流、連撃の真髄。」

 

――宵上華岸流奥義

 

その技を、今度は口に出さない。

 

 

 

――神社祭囃子(かみやしろまつりばやし)・千間鳥居(せんげんとりい)

 

 

 

機銃から乱射される砲弾。

それらは全て斬られて弾かれる。

九音の容赦など微塵も見せない、刀の切り返し。

握られている刀は、掌で回転しているかと思わせる程の疾さ。

道場が壊れると悟り、壁の穴から外へと走りながらの乱斬り。

 

「深海棲艦の砲撃ですよ…?」

 

眼前でそれを見せつけられた羽織と結理は、驚愕する。

深海棲艦は、自身の目を疑った。

 

「だから舐(・)め(・)る(・)な(・)と(・)、言ったでありんしょう?この刀とて、今は滅多にお目に掛かれない、和鋼(わはがね)で鍛え上げられた刀。その程度、斬れて当然でありんす。」

 

九音は結理の首に、切っ先の狙いを定める。

しかし。

 

「…交渉決裂、これ以上の長居は不要ですね。」

 

式条兄妹は深海棲艦と共に、道場の付近を流れる川に飛び込む。

そのまま速度を上げ、去って行った。

 

「…またもや、取り返せなかった。」

 

船も無く、後を追うことも叶わず。

九音は納刀しながら呟き、道場を見る。

 

「滅茶苦茶でありんす。」

 

その糸目は、怒りのあまり。

 

「…容(・)赦(・)が(・)出(・)ま(・)し(・)た(・)ね(・)。」

 

翡翠の色を見せていた。

 

 

 

 




如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。
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