この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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読んで頂き、ありがとうございます。
暑い、暑すぎる…。
本格的な夏…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-3

雪の憶測に衝撃を受けたのは、瑞鳳だった。

 

「え?零君が元帥の息子?嘘?!」

 

瑞鳳は驚きのあまり、語彙力を失う。

 

「確証を得るためにも、一つ聞かせて欲しい。」

 

雪が零の顔を見る。

 

「な、なんですか…?」

 

零は雪に見つめられ、恐る恐る訊き返す。

 

橘花紫雲(たちばなしうん)、という名前に心当たりは?」

 

零はその名前を聞いた瞬間、身を乗り出す。

 

「父さんの名前です!何年か前から、仕事で戻れなくなったって母さんから聞いてます!」

 

零のその様子から、雪は額に汗を流す。

 

「やはりか。零君の父親は、元帥で間違いなさそうだね。」

 

零は驚愕の事実に、理解が追いつかない。

しかし、それは雪もだった。

 

「しかし…()()()()()()()()()()。」

 

「え?」

 

雪の独り言に近い呟きは、零の耳にも届いた。

 

「い、いや何でもないんだ、知らなかったのかと思ってね。」

 

雪は疑問に思った。

 

(何故、この子が知らないんだ?知らないはずが無い…。いや、何か事情があったのか…?それにしたって、あれだけ艦娘と一緒に居たのに…記憶が曖昧なのか…?)

 

「提督?どうしたの?そんな顔して。」

 

「ん?あ、あぁ、すまない、少し考えていたんだ。」

 

険しい顔で考えを張り巡らせていた雪は、瑞鳳の声で我に返る。

 

「考えてたって何を?」

 

「いや、元帥の息子がこうしてここに居る。()()()()()()()()()()()?」

 

雪は瑞鳳に考えを悟られぬよう、話の方向を自然に変える。

 

「元帥は、式条前元帥を救いに行って、数年前から行方不明になった。ミイラ取りがミイラになるとは、このことかもね。」

 

淡々と話す雪に、零が訊く。

 

「もし、その元帥というのが父さんなら、俺にはまだ家族が居るってことですか…?それなら、俺も軍に入れば、また父さんに会えるかもしれないってことですか?」

 

零の矢継ぎ早な質問に、雪が落ち着くように促す。

 

「君の言いたいことはわかるよ、零君。でも、まだ君は子供なんだ。いいかい?焦っちゃいけないよ。」

 

「す、すいません…。」

 

そう言った雪は、目の前で謝る零の腕を見る。

 

「まずは、その腕を診て貰うのが先かな。」

 

雪が言えば、零は思い出したように。

 

「あっ、そうだ、瑞鳳!ハチマキ巻いてくれてありがと!」

 

そう笑顔で感謝すると、瑞鳳は固まる。

 

「ず、瑞鳳?」

 

零が心配になり、瑞鳳の顔を覗き込む。

 

「あ、い、いや、その、ど、どういたしまして…。」

 

そう言った瑞鳳の顔は、真っ赤に染め上がっていた。

それを見ていた雪は。

 

「瑞鳳、彼はまだ年端もいかない少年だからね?手を出すのは…。」

 

「出しません!!!!」

 

と、揶揄うも、瑞鳳は真に受け、顔が赤いまま言い返した。

 

「とりあえず、彼を明石のところに連れて行くといい。処置してくれるはずだ。」

 

「わかりました♪」

 

雪が言えば、瑞鳳は上機嫌に返事した。

そして、零を担ぎ。

 

「瑞鳳?」

 

「歩くのも大変でしょ?だから、私が連れて行ってあげる♪」

 

「あ、ありがと…。」

 

零は恥ずかしさから俯く。

そして、そのまま部屋を出ようとすると。

 

「あ、それと、瑞鳳。」

 

「なんですか?」

 

「次からは、ノックを忘れないようにね?」

 

「は、はい、気をつけます…。」

 

瑞鳳は、雪に釘を刺された。

 

「これから何処に向かうの?」

 

零が、瑞鳳の背から声を掛ける。

 

「工廠だよ♪」

 

「こ、コウショウ?」

 

「明石さんがそこで、私達の艤装の修理とかしてくれてるんだよ♪」

 

「へぇ…。」

 

(コウショウ…。これも何処かで聞いたなぁ…。)

 

零は何かが引っ掛かる。

 

が。

 

それが何か、未だにわからない。

そう考えている間にも、瑞鳳は歩みを進める。

 

「あの、さ、瑞鳳?」

 

「どうしたの?」

 

零は恐る恐る、瑞鳳に声をかける。

 

「重くない?下ろしてくれていいよ?歩けるからさ。」

 

零の進言虚しく。

 

「重くないよ、全然平気だから。心配しないで?」

 

零の気恥ずかしさも気にせず、一蹴される。

 

「もうすぐ着くから、我慢してね?」

 

「う、うん…。」

 

なんとも言えない表情で、頷くと瑞鳳が止まる。

 

「さ、着いたよ。」

 

そっと零を下ろし、瑞鳳が中に案内する。

 

「明石さーん!居ますかー!」

 

そう瑞鳳が呼べば。

 

「はーい!ちょっと待ってくださいねー!きゃあ!」

 

奥から返事が聞こえたと同時、何かが崩れる音が聞こえてくる。

 

「え?大丈夫なの?」

 

零が心配になり、瑞鳳を見れば。

 

「あ、あはは、いつものことだからね…。」

 

瑞鳳は苦笑いを浮かべていた。

そこに、頬が機械油で黒くなった、ピンク髪の艦娘が現れる。

 

「お待たせしました!いやぁ、部品入れが崩れてきちゃって…えへへ。」

 

「ね?いつものことって言ったでしょ?」

 

「う、うん。」

 

「え?なにがですか?」

 

何も知らない明石とは対照的に、零と瑞鳳は苦笑する。

 

「あ、明石さん、この子の腕を見てもらいたくて。」

 

「え、はい。ちょっと見せてくださいね。」

 

明石が零の腕を見る。

 

「鉢巻、取らせてね。」

 

先程とは変わり、鉢巻を剥がす明石の顔が真剣になる。

剥がすことを諦め、ハサミを取り出し。

 

「えっと…。」

 

「自己紹介がまだでしたね。私、この工廠を担当している明石です。よろしくね。」

 

「橘花零です。」

 

「零君、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。」

 

「はい。」

 

血が乾き、剥がし難い鉢巻をハサミで切りながら明石は自己紹介をした。

しかし、真剣な表情はそのままである。

 

「貫通こそしてないけど、皮膚は縫合が必要かな。大丈夫、この私に任せれば、今日にもお風呂に入れるよ!」

 

(なにこれ…?深海棲艦の砲弾の欠片?これで普通なのがおかしいわよ。)

 

零の傷を見た明石は、胸中では驚くも、零を不安にさせないために飲み込んだ。

 

「あ、ありがとうございます。」

 

そのまま麻酔を打ち、明石は手際よく零の腕を縫合した。

縫合と麻酔を受けていた零は、終始痛がっていたが。

 

「さ、終わったよ!それにしても、そのケガでよく我慢できましたね?」

 

「必死…でしたから。」

 

「そっか。ま、あとは瑞鳳さんに任せますね。あ、お風呂に入ってもいいけど、強く洗わないようにね?いくら私と妖精さん特性の薬といえど、染み込んだら痛いからね?」

 

「は、はい。」

 

(ん?妖精?)

 

零は疑問に思うも、そのまま流すことにした。

というのも、瑞鳳にいつでも聞けると思ったからである。

 

「あ、ありがとうございました。」

 

「はーい!また何かあったら来てくださいねー!」

 

処置が終わり、瑞鳳に担がれ。

 

「零君、お疲れ様!部屋に戻ったら、卵焼き、約束通り作ってあげりゅ!」

 

「ほんとに?!ありがと!」

 

自身の背で喜ぶ零の姿を見て、瑞鳳は。

 

(きっと、私、この子の為に艦娘になったんだ。)

 

そう感じていた。

 

「明日は、鎮守府を案内してあげる!」

 

「え?いいの?」

 

「うん、明日は非番だからね。」

 

瑞鳳の"非番"という言葉が、零の頭の中でリフレインする。

 

『今日は非番よ!零君!私が遊んであげるわ!』

 

「え?」

 

「ん?どうしたの零君?」

 

瑞鳳が異変を感じ、背に居る零を見る。

 

「い、いや…。」

 

「傷が痛むの?大丈夫?」

 

「う、うん、それは平気。」

 

零が返せば、瑞鳳はそのまま歩みを進める。

 

「無理はしないで、何かあったら言うんだよ?」

 

「ありがと。」

 

瑞鳳は歩きながら、零に言うも。

 

(さっきのなんだろ。)

 

零は違和感に駆られていた。

 

「さ、着いたよ。」

 

考えている間に、瑞鳳の部屋に着いた。

 

「さ、卵焼き…の前に、お風呂入っておいで。」

 

瑞鳳は、零を自室の風呂に案内する。

艦娘たちは、基本的に入渠…言わばドックで済ませるが、簡易的な風呂場も部屋に設置してある。

 

「うん、じゃあ、借りるよ?」

 

「うん♪ゆっくりしておいで♪」

 

零が風呂に入ったのを確認すると。

 

「私も入渠してこようかな。」

 

そして、瑞鳳はドックに向かった。

 

 

――零に伝えないまま。

 

 

「さて、入りますか。装甲は薄いからね、当たらなきゃ良いのに。」

 

愚痴を吐きながら、瑞鳳が中に入る。

すると、先客が何名かいた。

 

「おぉ、瑞鳳やん!なんや、少年を拾ったらしいな?」

 

龍驤が声をかける。

 

「いやぁ、拾ったというか、保護なんだけどね…。」

 

龍驤の疑問に、棘を少々感じながらも言葉を返す。

 

「ん?拾ったも保護したも同じやろ。」

 

棘などではなく、龍驤の頭が単純に弱かったことに気づき、苦笑する。

 

「瑞鳳さん、現場は散々だったと聞きましたが…。」

 

「散々なんてものじゃないです、悲劇ですよ、あんなの…。」

 

扶桑の問いに、瑞鳳はシャワーを浴びながら俯く。

 

「瑞鳳、少年の様子はどうだ?」

 

「少し前に目が覚めましたよ?明石さんに治療してもらった後、今は私の部屋でお風呂に入ってます♪」

 

長門に聞かれ、打って変わって笑顔で瑞鳳は答えた。

 

「ご機嫌やんけ。」

 

「ご機嫌だな。」

 

「不幸だわ…。」

 

若干一名を除く二人に、瑞鳳はそう言われてしまった。

 

「にしても、不思議なこともあるんですね…。」

 

「何がだ?」

 

扶桑の呟きに、長門が反応する。

 

「深海棲艦が、安全地帯と呼ばれる島に襲撃。生存者は少年一人。他の島民は全員…。何をどうしたらこんなことに。」

 

扶桑の言い分はもっともだった。

 

「こんなとこで考えてたって、何もわからへんやろ。」

 

龍驤が至極つまらなさそうに、言い放つ。

 

「他人事のように…。」

 

長門が呆れ半分に、龍驤に言えば。

 

「他人事っちゅーことはあらへんよ、ウチはあの場に居なかった。()()()()()()()()()。」

 

龍驤は天井を見上げる。

 

「ウチらが守れんかった、事実はそうやろ?でも、任務で遠征に行ってたウチはわからんねん。せやから、理解が追いつかんのや。」

 

龍驤が虚無感を纏った目で、瑞鳳を見る。

 

「なぁ、瑞鳳。キミが行けて、なんでウチが居なかったんや?()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「守れはしなかった。でも、守るべきものは見つけましたよ。」

 

瑞鳳は淡々と、龍驤の目を見ながら返した。

 

「そうかい。」

 

(目が、生きてるやんけ。)

 

龍驤はこれ以上は何も言わないと、そっぽを向く。

 

「それよりも、少年は一人なんでしょう?大丈夫なの?」

 

扶桑の心配に、瑞鳳は思い出したように。

 

「あ!零君に何も言わずに来ちゃった!急がなきゃ!」

 

そう言って、シャワーもそこそこに、急いで湯船に入る。

 

「被弾が少ないから、すぐに終わりそう。良かった。」

 

時間になれば、颯爽とドックを出る。

 

「では、皆さん、また後で!」

 

瑞鳳がドックを後にすると、三人が顔を見合わせる。

 

「なんや、あの瑞鳳。人が変わったみたいやな…。」

 

「え、えぇ。何かあったんでしょうか?」

 

「大方、あの少年が絡んでるんだろうな。」

 

悪いことではないと、気にしないことにしたが。

扶桑だけは見逃さなかった。

 

(瑞鳳さんの、あの目。生きてるようで、とても危ういモノ…。)

 

扶桑は違和感を抱いたまま、入渠を続けるのであった。




如何だったでしょうか?

それでは、また次回に。
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