暑い、暑すぎる…。
本格的な夏…。
それでは、本編どうぞ。
雪の憶測に衝撃を受けたのは、瑞鳳だった。
「え?零君が元帥の息子?嘘?!」
瑞鳳は驚きのあまり、語彙力を失う。
「確証を得るためにも、一つ聞かせて欲しい。」
雪が零の顔を見る。
「な、なんですか…?」
零は雪に見つめられ、恐る恐る訊き返す。
「
零はその名前を聞いた瞬間、身を乗り出す。
「父さんの名前です!何年か前から、仕事で戻れなくなったって母さんから聞いてます!」
零のその様子から、雪は額に汗を流す。
「やはりか。零君の父親は、元帥で間違いなさそうだね。」
零は驚愕の事実に、理解が追いつかない。
しかし、それは雪もだった。
「しかし…
「え?」
雪の独り言に近い呟きは、零の耳にも届いた。
「い、いや何でもないんだ、知らなかったのかと思ってね。」
雪は疑問に思った。
(何故、この子が知らないんだ?知らないはずが無い…。いや、何か事情があったのか…?それにしたって、あれだけ艦娘と一緒に居たのに…記憶が曖昧なのか…?)
「提督?どうしたの?そんな顔して。」
「ん?あ、あぁ、すまない、少し考えていたんだ。」
険しい顔で考えを張り巡らせていた雪は、瑞鳳の声で我に返る。
「考えてたって何を?」
「いや、元帥の息子がこうしてここに居る。
雪は瑞鳳に考えを悟られぬよう、話の方向を自然に変える。
「元帥は、式条前元帥を救いに行って、数年前から行方不明になった。ミイラ取りがミイラになるとは、このことかもね。」
淡々と話す雪に、零が訊く。
「もし、その元帥というのが父さんなら、俺にはまだ家族が居るってことですか…?それなら、俺も軍に入れば、また父さんに会えるかもしれないってことですか?」
零の矢継ぎ早な質問に、雪が落ち着くように促す。
「君の言いたいことはわかるよ、零君。でも、まだ君は子供なんだ。いいかい?焦っちゃいけないよ。」
「す、すいません…。」
そう言った雪は、目の前で謝る零の腕を見る。
「まずは、その腕を診て貰うのが先かな。」
雪が言えば、零は思い出したように。
「あっ、そうだ、瑞鳳!ハチマキ巻いてくれてありがと!」
そう笑顔で感謝すると、瑞鳳は固まる。
「ず、瑞鳳?」
零が心配になり、瑞鳳の顔を覗き込む。
「あ、い、いや、その、ど、どういたしまして…。」
そう言った瑞鳳の顔は、真っ赤に染め上がっていた。
それを見ていた雪は。
「瑞鳳、彼はまだ年端もいかない少年だからね?手を出すのは…。」
「出しません!!!!」
と、揶揄うも、瑞鳳は真に受け、顔が赤いまま言い返した。
「とりあえず、彼を明石のところに連れて行くといい。処置してくれるはずだ。」
「わかりました♪」
雪が言えば、瑞鳳は上機嫌に返事した。
そして、零を担ぎ。
「瑞鳳?」
「歩くのも大変でしょ?だから、私が連れて行ってあげる♪」
「あ、ありがと…。」
零は恥ずかしさから俯く。
そして、そのまま部屋を出ようとすると。
「あ、それと、瑞鳳。」
「なんですか?」
「次からは、ノックを忘れないようにね?」
「は、はい、気をつけます…。」
瑞鳳は、雪に釘を刺された。
「これから何処に向かうの?」
零が、瑞鳳の背から声を掛ける。
「工廠だよ♪」
「こ、コウショウ?」
「明石さんがそこで、私達の艤装の修理とかしてくれてるんだよ♪」
「へぇ…。」
(コウショウ…。これも何処かで聞いたなぁ…。)
零は何かが引っ掛かる。
が。
それが何か、未だにわからない。
そう考えている間にも、瑞鳳は歩みを進める。
「あの、さ、瑞鳳?」
「どうしたの?」
零は恐る恐る、瑞鳳に声をかける。
「重くない?下ろしてくれていいよ?歩けるからさ。」
零の進言虚しく。
「重くないよ、全然平気だから。心配しないで?」
零の気恥ずかしさも気にせず、一蹴される。
「もうすぐ着くから、我慢してね?」
「う、うん…。」
なんとも言えない表情で、頷くと瑞鳳が止まる。
「さ、着いたよ。」
そっと零を下ろし、瑞鳳が中に案内する。
「明石さーん!居ますかー!」
そう瑞鳳が呼べば。
「はーい!ちょっと待ってくださいねー!きゃあ!」
奥から返事が聞こえたと同時、何かが崩れる音が聞こえてくる。
「え?大丈夫なの?」
零が心配になり、瑞鳳を見れば。
「あ、あはは、いつものことだからね…。」
瑞鳳は苦笑いを浮かべていた。
そこに、頬が機械油で黒くなった、ピンク髪の艦娘が現れる。
「お待たせしました!いやぁ、部品入れが崩れてきちゃって…えへへ。」
「ね?いつものことって言ったでしょ?」
「う、うん。」
「え?なにがですか?」
何も知らない明石とは対照的に、零と瑞鳳は苦笑する。
「あ、明石さん、この子の腕を見てもらいたくて。」
「え、はい。ちょっと見せてくださいね。」
明石が零の腕を見る。
「鉢巻、取らせてね。」
先程とは変わり、鉢巻を剥がす明石の顔が真剣になる。
剥がすことを諦め、ハサミを取り出し。
「えっと…。」
「自己紹介がまだでしたね。私、この工廠を担当している明石です。よろしくね。」
「橘花零です。」
「零君、ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。」
「はい。」
血が乾き、剥がし難い鉢巻をハサミで切りながら明石は自己紹介をした。
しかし、真剣な表情はそのままである。
「貫通こそしてないけど、皮膚は縫合が必要かな。大丈夫、この私に任せれば、今日にもお風呂に入れるよ!」
(なにこれ…?深海棲艦の砲弾の欠片?これで普通なのがおかしいわよ。)
零の傷を見た明石は、胸中では驚くも、零を不安にさせないために飲み込んだ。
「あ、ありがとうございます。」
そのまま麻酔を打ち、明石は手際よく零の腕を縫合した。
縫合と麻酔を受けていた零は、終始痛がっていたが。
「さ、終わったよ!それにしても、そのケガでよく我慢できましたね?」
「必死…でしたから。」
「そっか。ま、あとは瑞鳳さんに任せますね。あ、お風呂に入ってもいいけど、強く洗わないようにね?いくら私と妖精さん特性の薬といえど、染み込んだら痛いからね?」
「は、はい。」
(ん?妖精?)
零は疑問に思うも、そのまま流すことにした。
というのも、瑞鳳にいつでも聞けると思ったからである。
「あ、ありがとうございました。」
「はーい!また何かあったら来てくださいねー!」
処置が終わり、瑞鳳に担がれ。
「零君、お疲れ様!部屋に戻ったら、卵焼き、約束通り作ってあげりゅ!」
「ほんとに?!ありがと!」
自身の背で喜ぶ零の姿を見て、瑞鳳は。
(きっと、私、この子の為に艦娘になったんだ。)
そう感じていた。
「明日は、鎮守府を案内してあげる!」
「え?いいの?」
「うん、明日は非番だからね。」
瑞鳳の"非番"という言葉が、零の頭の中でリフレインする。
『今日は非番よ!零君!私が遊んであげるわ!』
「え?」
「ん?どうしたの零君?」
瑞鳳が異変を感じ、背に居る零を見る。
「い、いや…。」
「傷が痛むの?大丈夫?」
「う、うん、それは平気。」
零が返せば、瑞鳳はそのまま歩みを進める。
「無理はしないで、何かあったら言うんだよ?」
「ありがと。」
瑞鳳は歩きながら、零に言うも。
(さっきのなんだろ。)
零は違和感に駆られていた。
「さ、着いたよ。」
考えている間に、瑞鳳の部屋に着いた。
「さ、卵焼き…の前に、お風呂入っておいで。」
瑞鳳は、零を自室の風呂に案内する。
艦娘たちは、基本的に入渠…言わばドックで済ませるが、簡易的な風呂場も部屋に設置してある。
「うん、じゃあ、借りるよ?」
「うん♪ゆっくりしておいで♪」
零が風呂に入ったのを確認すると。
「私も入渠してこようかな。」
そして、瑞鳳はドックに向かった。
――零に伝えないまま。
「さて、入りますか。装甲は薄いからね、当たらなきゃ良いのに。」
愚痴を吐きながら、瑞鳳が中に入る。
すると、先客が何名かいた。
「おぉ、瑞鳳やん!なんや、少年を拾ったらしいな?」
龍驤が声をかける。
「いやぁ、拾ったというか、保護なんだけどね…。」
龍驤の疑問に、棘を少々感じながらも言葉を返す。
「ん?拾ったも保護したも同じやろ。」
棘などではなく、龍驤の頭が単純に弱かったことに気づき、苦笑する。
「瑞鳳さん、現場は散々だったと聞きましたが…。」
「散々なんてものじゃないです、悲劇ですよ、あんなの…。」
扶桑の問いに、瑞鳳はシャワーを浴びながら俯く。
「瑞鳳、少年の様子はどうだ?」
「少し前に目が覚めましたよ?明石さんに治療してもらった後、今は私の部屋でお風呂に入ってます♪」
長門に聞かれ、打って変わって笑顔で瑞鳳は答えた。
「ご機嫌やんけ。」
「ご機嫌だな。」
「不幸だわ…。」
若干一名を除く二人に、瑞鳳はそう言われてしまった。
「にしても、不思議なこともあるんですね…。」
「何がだ?」
扶桑の呟きに、長門が反応する。
「深海棲艦が、安全地帯と呼ばれる島に襲撃。生存者は少年一人。他の島民は全員…。何をどうしたらこんなことに。」
扶桑の言い分はもっともだった。
「こんなとこで考えてたって、何もわからへんやろ。」
龍驤が至極つまらなさそうに、言い放つ。
「他人事のように…。」
長門が呆れ半分に、龍驤に言えば。
「他人事っちゅーことはあらへんよ、ウチはあの場に居なかった。
龍驤は天井を見上げる。
「ウチらが守れんかった、事実はそうやろ?でも、任務で遠征に行ってたウチはわからんねん。せやから、理解が追いつかんのや。」
龍驤が虚無感を纏った目で、瑞鳳を見る。
「なぁ、瑞鳳。キミが行けて、なんでウチが居なかったんや?
「守れはしなかった。でも、守るべきものは見つけましたよ。」
瑞鳳は淡々と、龍驤の目を見ながら返した。
「そうかい。」
(目が、生きてるやんけ。)
龍驤はこれ以上は何も言わないと、そっぽを向く。
「それよりも、少年は一人なんでしょう?大丈夫なの?」
扶桑の心配に、瑞鳳は思い出したように。
「あ!零君に何も言わずに来ちゃった!急がなきゃ!」
そう言って、シャワーもそこそこに、急いで湯船に入る。
「被弾が少ないから、すぐに終わりそう。良かった。」
時間になれば、颯爽とドックを出る。
「では、皆さん、また後で!」
瑞鳳がドックを後にすると、三人が顔を見合わせる。
「なんや、あの瑞鳳。人が変わったみたいやな…。」
「え、えぇ。何かあったんでしょうか?」
「大方、あの少年が絡んでるんだろうな。」
悪いことではないと、気にしないことにしたが。
扶桑だけは見逃さなかった。
(瑞鳳さんの、あの目。生きてるようで、とても危ういモノ…。)
扶桑は違和感を抱いたまま、入渠を続けるのであった。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。