この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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読んで頂き、ありがとうございます。
台風も、気温も、やばたにえんですね…。
作者は熱中症で、ダウンした日もありました…。

それでは、本編どうぞ。


Episode-4

風呂が終わった零は、着替えを済ませ、ソファに座る。

しかし、部屋に瑞鳳の姿が見えない。

 

「あれ?瑞鳳、何処行ったんだろ?」

 

辺りを見渡すも、瑞鳳は居ない。

 

「海野提督のところに行ったのかな?」

 

そう予想し、今日あったことを思い出す。

 

「深海棲艦に襲われて、母さんが死んで、島の皆も…。艦娘達が助けてくれたけど…俺は…何も出来なかった…。」

 

零の頬を、涙が伝う。

 

「俺…生きてるけど、海野提督と艦娘達にも迷惑かけて…。でも、皆が優しく迎えてくれて…。」

 

気付けば、嗚咽も混じり始める。

 

「ぅぐっ…この先、どうすれば…?俺の進むべき道は…。母さん、俺はどうしたらいいんだろ…?」

 

そのまま蹲る。

 

『零君、あなたは将来すごい人になるわ!私が保証する!しっかり、お父さんを見習いなさい!大丈夫、いい風が吹いてる!』

 

『そうだぜ!オレだってそう思ってる!だから、めげるなよ!』

 

そんな零の頭に、再びリフレインする言葉。

 

「誰の言葉かも思い出せない…。でも、ここに居たら何か思い出せそう…。なんでだ?なんで急に…。わかんない…わかんない…!」

 

零は蹲ったまま、涙を流し続ける。

 

「誰も居ないなら…今だけは、泣いててもいいよね…?母さん…ぅぐっ…。」

 

そうすること、数分。

 

「ごめんね、零君!私も入渠に…って、零君?!」

 

入渠から戻ってきた瑞鳳は、零の姿を見て駆け寄る。

 

「ひぐっ…え…あ、瑞鳳…?」

 

目の前に来た瑞鳳を、零が見上げる。

しゃくり上げながら呆然と自身を見上げる零に、瑞鳳は腕を伸ばし。

 

 

 

――怖かったね。

 

 

そう言って、抱きしめる。

 

「今だけは泣いてていいよ。ううん、今だけじゃない。私の前では、泣きたい時ならいつでも…こうやって抱きしめてあげるから…。辛いなら、泣いて全部吐き出して。」

 

優しく自身を抱きしめる瑞鳳に、しがみつくようにして零は咽び泣く。

 

「お、俺…っ!怖くて…っ!あの時、何も出来なかった…っ!俺がもっと…俺…俺…っ!艦娘も来てくれたのに、母さんも…っ!他の人も…っ!」

 

感情の整理が付かず、言葉を出し切れない零。

そんな零の痛々しい嗚咽に、瑞鳳もまた目に涙を浮かべ、抱きしめるその腕に力が籠もる。

 

「零君、大丈夫だよ。今、こうしてしっかり泣けてる。この先、あなたは強くなれる。だから、そんなに自分を責めたらダメ…。」

 

そう言葉を出せば、自身に跳ね返っていることに気が付き、目を瞑る。

 

(今までの私じゃ、この子に寄り添えない。今にも消えてしまいそうなこの子に…。それなら。)

 

「ねぇ、零君。」

 

閉じていた目を開き。

瑞鳳は覚悟を決めたような目で、自身の腕の中で顔を埋めている零を見る。

 

「どうしたの?」

 

零は顔を上げ、涙で腫れた目のまま、瑞鳳を見る。

その双眸には真剣な眼差しを、自身に向ける瑞鳳が映る。

 

「私は何があっても沈まない、約束する。それが、あなたの為になるかわからない、私が、あなたのお母さんの代わりには、なれないのもわかってる。それでも、あなたのお母さん以上に、()()()()()()()()()()()()()()()()、私は何があっても沈まない(死なない)。エンガノ岬のようにはならないんだから。」

 

零は、心の底から絞り出すような瑞鳳の決意に、目を見開く。

 

「瑞鳳…。」

 

「だから、零君も諦めないで。あなたには、()()()()()()()()()()()()()。」

 

「えっ…?」

 

零が戸惑う。

瞬間とも刹那とも感じるように、瑞鳳の言葉と共に浮かぶ、港の風景。

 

 

 

 

 

『んじゃ、この先の未来のために、――達は勝利してくるよ!』

 

 

 

『そうですわよ?私達は、負けませんのよ。』

 

 

 

『あぁ、――の言う通りだ。オレ達は負けねぇ、待ってろよな。』

 

 

 

『――ちゃんったら…もぅ。でも、そうね、心配すること無いわぁ。』

 

 

 

『えぇ。――は、大丈夫です、しっかり帰ってきます。ですから、いい子に待っていてくださいね?』

 

 

 

『帰ってきたら、また遊んであげるわ!大丈夫、いい風が吹いてる!』

 

 

 

 

 

 

朧気な雰囲気の中。

潮風に吹かれ、髪がなびく複数の女性の声。

 

 

 

 

――更に、太くも逞しい声が聞こえる。

 

 

 

『っし!零の前で気合も入れたな!全艦、抜錨せよ!!』

 

 

 

『『抜錨します!!』』

 

 

 

勇ましい号令に応え、海を駆けていく女性たち。

 

 

 

 

リフレインが収まり、零は落ち着いた声で話しかける。

 

「瑞鳳。」

 

「どうしたの?」

 

自身に話しかける零の顔を、瑞鳳が覗き込む。

 

「俺、()()()()()()()()()ある気がするんだ。」

 

「忘れてること?」

 

瑞鳳が訊き返せば、零は頷く。

 

「うん、何人かの声というか、記憶というか、流れてくるんだけど、思い出せないんだ。」

 

「それは、大切な人達の?」

 

「わかんない。でも、そんな気がする。ここの艦娘達も、身近に居たんじゃないかってくらいに、懐かしさがあるんだ。」

 

零の言葉に、瑞鳳は憶測を立てる。

 

「でも、元帥の息子ならそれもありえるかもね?鎮守府にだって、()()()()()()()()()()。」

 

零は息を呑む。

 

「そうだ、俺、元帥の息子なんだ…。」

 

「きっとそのうちに、その人達のこと思い出せるといいね?」

 

「うん!」

 

元気よく頷く零を見て、瑞鳳は笑顔で袖を捲り。

 

「じゃあ、零君も落ち着いたし。卵焼き、作るわよ!」

 

「ありがと!」

 

零が感謝をすると、頬を赤らめ。

 

「どういたしまして♪」

 

瑞鳳は微笑んだ。

して、いざ作ろうとするも。

 

「零君、どうしたの?ソワソワして。ソファにでも座って、待ってて良いんだよ?」

 

落ち着かない様子の零に、瑞鳳はキョトンとする。

 

「いや、女の人の部屋で…その…。」

 

気が動転して、余裕の無かった零だったが。

十二歳と言えど、年頃である。

女性の部屋に居ると実感が湧けば、無理もないことであり。

 

「あー、落ち着いたら、今度は恥ずかしくなっちゃったのね…。」

 

台所で卵を割り、ボウルに入れながら、瑞鳳は察して苦笑する。

そして、一つの提案を思いつく。

 

「んー、じゃあ、隣で作ってるところ…見る?」

 

「いいの?」

 

零はその提案に、食い気味に訊く。

 

「別に、いいけど…。」

 

「ありがと!」

 

感謝し、喜ぶ零とは対照的に、今度は瑞鳳が照れ始める。

 

(良いんだけど、人に見られること無いからかな…?なんだかドキドキすりゅ…。)

 

胸の高鳴りとも、緊張とも言える胸の鼓動に、些か苛まれるが。

自分で提案した手前、無下にも出来ず、普段通りを装い淡々と仕込みを続ける。

しかしながら、別の感情も湧いていた。

 

(でも、こういうのも新鮮で、いいかもね。この子が隣りにいる。安心…なのかな?)

 

そう感じたことのない感覚に、答えが出ない。

よって、考えて居ても仕方がないと思い、目の前の作業に集中した。

ややあって、卵焼きが完成すれば。

 

「さぁ!瑞鳳特製の卵焼き!完成よ!」

 

「おぉ!」

 

瑞鳳の卵焼きに、零は目を輝かせる。

 

「さ、座って食べよっか♪」

 

「うん!」

 

二人は、テーブルに向かい合って座り。

 

「「いただきます!」」

 

卵焼きを一口入れた零は、目を見開き飲み込む。

 

「美味い!美味いよ!瑞鳳!」

 

そんな無邪気な零を見て、瑞鳳は顔を綻ばせる。

 

「ふふっ、良かった♪」

 

笑顔で見ていたのも束の間、瑞鳳の感情に陰りが差す。

 

(この笑顔を守らなきゃ…。この子が居なくなったら…私…。)

 

そんな瑞鳳に気付かず、零は卵焼きに夢中である。

 

(あぁ…愛おしい。誰にも…この子を取らせたりしたくない。絶対、絶対、私がずっと…。)

 

そこまで考えていたところで、瑞鳳は我に返る。

 

(何を考えていたの…私…?でも…これが…提督の言っていたことなら。)

 

自問自答していた瑞鳳の脳裏に浮かんだのは、雪の言葉。

 

 

 

『この海を駆けていれば、()()()()()()()()()()。』

 

 

 

瑞鳳は、その言葉の真意を、その時は汲み取れなかった。

しかし、零の顔を見ていれば。

 

(やっぱり、私はこの子の為に艦娘になったんだ♪)

 

そう解釈した。

と、腑に落ちたところに。

 

「ん?瑞鳳どうしたの?」

 

箸が止まっている瑞鳳に、零が声をかけた。

 

「あ、ううん、何でもないよ?」

 

「なら、良かった。」

 

零は先程までの瑞鳳と変わらないことに、安心した。

心配のベクトルは違うが、瑞鳳も零に訊く。

 

「それよりも、お腹はいっぱいになった?」

 

皿の卵焼きを平らげた零は、瑞鳳の問いに笑顔で。

 

「お腹いっぱいになった!ありがと!ごちそうさま!」

 

「そっか、良かった♪お粗末様♪」

 

元気のいい返事を聞き、瑞鳳も安心した。

そして、瑞鳳も食べ終わり、片付けも済ませば。

ベッドに座り、零に声をかける。

 

「零君、一緒に寝よっか。」

 

「え?!」

 

瑞鳳の言葉に、零は驚いた。

 

「恥ずかしがらなくていいよ?言ったでしょ、お母さんの代わりにはなれなくても、傍に居るって。」

 

「あ…えっと、じゃあ、よろしく…?」

 

零が恐る恐る、瑞鳳に言えば。

 

「うん♪おいで♪」

 

上機嫌に、零をベッドに寄せて抱きしめた。

 

「瑞鳳、俺も瑞鳳と一緒に居たい。」

 

瑞鳳に抱きしめられながら、零は言う。

更に、零は続ける。

 

「瑞鳳があんな風に言ってくれたし、俺も約束する。絶対に死なない。」

 

後ろ向きで顔は見えないが、瑞鳳は微笑み。

零を自身の顔から見えるように、寄せ付ける。

そして。

 

 

「約束だよ、()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

 

そう言い放った瑞鳳の目を見た零は、異様な雰囲気に呑まれる。

 

「ず、瑞鳳?」

 

零は思わず、訊き返す。

 

「何があっても、私が守れるように頑張る。だから、約束だよ?」

 

その雰囲気も一瞬で、零は安心し。

 

「うん…約束…。」

 

そのまま、瑞鳳の腕の中で眠りに就いた。

 

「何があっても手放さない。()()()()()、この子を渡さないし、殺させない。この子は()()()()…。」

 

瑞鳳はたった一日で、感情を抱いた。

それも、後戻りは出来ない、取り決め(独占欲)

 

「零君、やっと見つけた私の希望。私だけの…。ふふっ♪」

 

そう、零の感じた異様な雰囲気。

ドックで扶桑が感じた、異質さ。

それは、()()()()()()()()()

 

 

 

 

()()()()()♪」

 

 

 

 

そう微笑む、瑞鳳のその目は。

 

 

――黒く淀んで、濁っていた。




如何だったでしょうか?

それでは、また次回に。
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