台風も、気温も、やばたにえんですね…。
作者は熱中症で、ダウンした日もありました…。
それでは、本編どうぞ。
風呂が終わった零は、着替えを済ませ、ソファに座る。
しかし、部屋に瑞鳳の姿が見えない。
「あれ?瑞鳳、何処行ったんだろ?」
辺りを見渡すも、瑞鳳は居ない。
「海野提督のところに行ったのかな?」
そう予想し、今日あったことを思い出す。
「深海棲艦に襲われて、母さんが死んで、島の皆も…。艦娘達が助けてくれたけど…俺は…何も出来なかった…。」
零の頬を、涙が伝う。
「俺…生きてるけど、海野提督と艦娘達にも迷惑かけて…。でも、皆が優しく迎えてくれて…。」
気付けば、嗚咽も混じり始める。
「ぅぐっ…この先、どうすれば…?俺の進むべき道は…。母さん、俺はどうしたらいいんだろ…?」
そのまま蹲る。
『零君、あなたは将来すごい人になるわ!私が保証する!しっかり、お父さんを見習いなさい!大丈夫、いい風が吹いてる!』
『そうだぜ!オレだってそう思ってる!だから、めげるなよ!』
そんな零の頭に、再びリフレインする言葉。
「誰の言葉かも思い出せない…。でも、ここに居たら何か思い出せそう…。なんでだ?なんで急に…。わかんない…わかんない…!」
零は蹲ったまま、涙を流し続ける。
「誰も居ないなら…今だけは、泣いててもいいよね…?母さん…ぅぐっ…。」
そうすること、数分。
「ごめんね、零君!私も入渠に…って、零君?!」
入渠から戻ってきた瑞鳳は、零の姿を見て駆け寄る。
「ひぐっ…え…あ、瑞鳳…?」
目の前に来た瑞鳳を、零が見上げる。
しゃくり上げながら呆然と自身を見上げる零に、瑞鳳は腕を伸ばし。
――怖かったね。
そう言って、抱きしめる。
「今だけは泣いてていいよ。ううん、今だけじゃない。私の前では、泣きたい時ならいつでも…こうやって抱きしめてあげるから…。辛いなら、泣いて全部吐き出して。」
優しく自身を抱きしめる瑞鳳に、しがみつくようにして零は咽び泣く。
「お、俺…っ!怖くて…っ!あの時、何も出来なかった…っ!俺がもっと…俺…俺…っ!艦娘も来てくれたのに、母さんも…っ!他の人も…っ!」
感情の整理が付かず、言葉を出し切れない零。
そんな零の痛々しい嗚咽に、瑞鳳もまた目に涙を浮かべ、抱きしめるその腕に力が籠もる。
「零君、大丈夫だよ。今、こうしてしっかり泣けてる。この先、あなたは強くなれる。だから、そんなに自分を責めたらダメ…。」
そう言葉を出せば、自身に跳ね返っていることに気が付き、目を瞑る。
(今までの私じゃ、この子に寄り添えない。今にも消えてしまいそうなこの子に…。それなら。)
「ねぇ、零君。」
閉じていた目を開き。
瑞鳳は覚悟を決めたような目で、自身の腕の中で顔を埋めている零を見る。
「どうしたの?」
零は顔を上げ、涙で腫れた目のまま、瑞鳳を見る。
その双眸には真剣な眼差しを、自身に向ける瑞鳳が映る。
「私は何があっても沈まない、約束する。それが、あなたの為になるかわからない、私が、あなたのお母さんの代わりには、なれないのもわかってる。それでも、あなたのお母さん以上に、
零は、心の底から絞り出すような瑞鳳の決意に、目を見開く。
「瑞鳳…。」
「だから、零君も諦めないで。あなたには、
「えっ…?」
零が戸惑う。
瞬間とも刹那とも感じるように、瑞鳳の言葉と共に浮かぶ、港の風景。
『んじゃ、この先の未来のために、――達は勝利してくるよ!』
『そうですわよ?私達は、負けませんのよ。』
『あぁ、――の言う通りだ。オレ達は負けねぇ、待ってろよな。』
『――ちゃんったら…もぅ。でも、そうね、心配すること無いわぁ。』
『えぇ。――は、大丈夫です、しっかり帰ってきます。ですから、いい子に待っていてくださいね?』
『帰ってきたら、また遊んであげるわ!大丈夫、いい風が吹いてる!』
朧気な雰囲気の中。
潮風に吹かれ、髪がなびく複数の女性の声。
――更に、太くも逞しい声が聞こえる。
『っし!零の前で気合も入れたな!全艦、抜錨せよ!!』
『『抜錨します!!』』
勇ましい号令に応え、海を駆けていく女性たち。
リフレインが収まり、零は落ち着いた声で話しかける。
「瑞鳳。」
「どうしたの?」
自身に話しかける零の顔を、瑞鳳が覗き込む。
「俺、
「忘れてること?」
瑞鳳が訊き返せば、零は頷く。
「うん、何人かの声というか、記憶というか、流れてくるんだけど、思い出せないんだ。」
「それは、大切な人達の?」
「わかんない。でも、そんな気がする。ここの艦娘達も、身近に居たんじゃないかってくらいに、懐かしさがあるんだ。」
零の言葉に、瑞鳳は憶測を立てる。
「でも、元帥の息子ならそれもありえるかもね?鎮守府にだって、
零は息を呑む。
「そうだ、俺、元帥の息子なんだ…。」
「きっとそのうちに、その人達のこと思い出せるといいね?」
「うん!」
元気よく頷く零を見て、瑞鳳は笑顔で袖を捲り。
「じゃあ、零君も落ち着いたし。卵焼き、作るわよ!」
「ありがと!」
零が感謝をすると、頬を赤らめ。
「どういたしまして♪」
瑞鳳は微笑んだ。
して、いざ作ろうとするも。
「零君、どうしたの?ソワソワして。ソファにでも座って、待ってて良いんだよ?」
落ち着かない様子の零に、瑞鳳はキョトンとする。
「いや、女の人の部屋で…その…。」
気が動転して、余裕の無かった零だったが。
十二歳と言えど、年頃である。
女性の部屋に居ると実感が湧けば、無理もないことであり。
「あー、落ち着いたら、今度は恥ずかしくなっちゃったのね…。」
台所で卵を割り、ボウルに入れながら、瑞鳳は察して苦笑する。
そして、一つの提案を思いつく。
「んー、じゃあ、隣で作ってるところ…見る?」
「いいの?」
零はその提案に、食い気味に訊く。
「別に、いいけど…。」
「ありがと!」
感謝し、喜ぶ零とは対照的に、今度は瑞鳳が照れ始める。
(良いんだけど、人に見られること無いからかな…?なんだかドキドキすりゅ…。)
胸の高鳴りとも、緊張とも言える胸の鼓動に、些か苛まれるが。
自分で提案した手前、無下にも出来ず、普段通りを装い淡々と仕込みを続ける。
しかしながら、別の感情も湧いていた。
(でも、こういうのも新鮮で、いいかもね。この子が隣りにいる。安心…なのかな?)
そう感じたことのない感覚に、答えが出ない。
よって、考えて居ても仕方がないと思い、目の前の作業に集中した。
ややあって、卵焼きが完成すれば。
「さぁ!瑞鳳特製の卵焼き!完成よ!」
「おぉ!」
瑞鳳の卵焼きに、零は目を輝かせる。
「さ、座って食べよっか♪」
「うん!」
二人は、テーブルに向かい合って座り。
「「いただきます!」」
卵焼きを一口入れた零は、目を見開き飲み込む。
「美味い!美味いよ!瑞鳳!」
そんな無邪気な零を見て、瑞鳳は顔を綻ばせる。
「ふふっ、良かった♪」
笑顔で見ていたのも束の間、瑞鳳の感情に陰りが差す。
(この笑顔を守らなきゃ…。この子が居なくなったら…私…。)
そんな瑞鳳に気付かず、零は卵焼きに夢中である。
(あぁ…愛おしい。誰にも…この子を取らせたりしたくない。絶対、絶対、私がずっと…。)
そこまで考えていたところで、瑞鳳は我に返る。
(何を考えていたの…私…?でも…これが…提督の言っていたことなら。)
自問自答していた瑞鳳の脳裏に浮かんだのは、雪の言葉。
『この海を駆けていれば、
瑞鳳は、その言葉の真意を、その時は汲み取れなかった。
しかし、零の顔を見ていれば。
(やっぱり、私はこの子の為に艦娘になったんだ♪)
そう解釈した。
と、腑に落ちたところに。
「ん?瑞鳳どうしたの?」
箸が止まっている瑞鳳に、零が声をかけた。
「あ、ううん、何でもないよ?」
「なら、良かった。」
零は先程までの瑞鳳と変わらないことに、安心した。
心配のベクトルは違うが、瑞鳳も零に訊く。
「それよりも、お腹はいっぱいになった?」
皿の卵焼きを平らげた零は、瑞鳳の問いに笑顔で。
「お腹いっぱいになった!ありがと!ごちそうさま!」
「そっか、良かった♪お粗末様♪」
元気のいい返事を聞き、瑞鳳も安心した。
そして、瑞鳳も食べ終わり、片付けも済ませば。
ベッドに座り、零に声をかける。
「零君、一緒に寝よっか。」
「え?!」
瑞鳳の言葉に、零は驚いた。
「恥ずかしがらなくていいよ?言ったでしょ、お母さんの代わりにはなれなくても、傍に居るって。」
「あ…えっと、じゃあ、よろしく…?」
零が恐る恐る、瑞鳳に言えば。
「うん♪おいで♪」
上機嫌に、零をベッドに寄せて抱きしめた。
「瑞鳳、俺も瑞鳳と一緒に居たい。」
瑞鳳に抱きしめられながら、零は言う。
更に、零は続ける。
「瑞鳳があんな風に言ってくれたし、俺も約束する。絶対に死なない。」
後ろ向きで顔は見えないが、瑞鳳は微笑み。
零を自身の顔から見えるように、寄せ付ける。
そして。
「約束だよ、
そう言い放った瑞鳳の目を見た零は、異様な雰囲気に呑まれる。
「ず、瑞鳳?」
零は思わず、訊き返す。
「何があっても、私が守れるように頑張る。だから、約束だよ?」
その雰囲気も一瞬で、零は安心し。
「うん…約束…。」
そのまま、瑞鳳の腕の中で眠りに就いた。
「何があっても手放さない。
瑞鳳はたった一日で、感情を抱いた。
それも、後戻りは出来ない、
「零君、やっと見つけた私の希望。私だけの…。ふふっ♪」
そう、零の感じた異様な雰囲気。
ドックで扶桑が感じた、異質さ。
それは、
「
そう微笑む、瑞鳳のその目は。
――黒く淀んで、濁っていた。
如何だったでしょうか?
それでは、また次回に。