この世の関節が外れた世界   作:灰桜空虚

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読んで頂き、ありがとうございます。
長らく、お待たせ致しました。
作者が色々と、忙しく…。

コミケはとんでもなく混雑してました…。
暑くて暑くて…。
冬が楽しみですね。


それでは、本編どうぞ。


Episode-5

『総員おこーし!!』

 

翌日の朝、目覚ましとも言える放送が、大音量で鎮守府中に響き渡る。

 

「うお?!ぬお?!」

 

零は寝ぼけながらも、反射的に飛び起きる。

そこに、足音が近づいてくるのを感じ。

振り向いて見れば、エプロンを纏った瑞鳳の姿があった。

 

「あ、零君起きた?」

 

瑞鳳が声をかければ、零は顔面蒼白のまま取り乱す。

 

「瑞鳳、今のは?!」

 

空襲警報を聞いた翌日というのもあり。

大音量の放送というのは、零にとっては精神的に来るものがあった。

瑞鳳からしてみれば、それは予想の範疇であった為。

 

「大丈夫、安心して。朝のマルロクサンマルになると、"総員起こし"っていう放送がかかるんだよ♪」

 

そう優しく諭す。

瑞鳳の様子から、零は落ち着きを取り戻す。

 

「そ、そっか、良かった…。」

 

そう呟けば、瑞鳳は微笑み。

 

「昨日の今日だからね、仕方ないよ。気にしないで?あ、朝ご飯、食べる?」

 

「うん!」

 

朝食を作っていた瑞鳳は、そのまま零を朝食に誘う。

既に出来上がっていたため、テーブルに並べるだけである。

よって。

 

「零君、着替えて顔洗っておいで?」

 

「その、着替えが…。」

 

そう、着の身着のままで運ばれた零には、服がないのである。

 

「あ、その一着だけかぁ。」

 

それに気付いた瑞鳳は、一つ案を思いつく。

 

「私の服、着る?」

 

「絶対無理。」

 

零はその提案を、一瞬にして一蹴した。

 

「あはは、ダメだよね。どうしようか…。あ!明石さんに頼めば、何か見繕ってくれるかも!」

 

「明石さんって、万能なんだね…。」

 

「そりゃ、なんでも開発しちゃう艦娘だからね。」

 

零の呆れたような呟きに、瑞鳳はそう返した。

 

「じゃあ、顔だけ洗っておいで?それから鎮守府を案内するついでに、工廠に寄ろっか♪」

 

「うん、ありがと。」

 

その提案に対して、零が感謝を告げれば。

 

「良いんだよ、零君。そんなお礼なんていらないんだから。」

 

瑞鳳は何処か後ろめたさがあるのか、何でもないような素振りをするも。

憂いを帯びたような表情だけは、隠しきれなかった。

 

(私がこの子にお礼を言う事はあっても…。)

 

胸中のわだかまりに、瑞鳳自身が向き合い過ぎていた。

 

「母さんに、教えてもらってたんだ。」

 

零が切り出す。

 

「何かしてもらった時、何かを貰った時。そんな時は"ありがとう"って、言いなさいって。」

 

零は懐かしむように、尚も続ける。

 

「3年前に、海岸でケガした人が居てさ。その人にも、"ありがとう"って言えば良いんだよって教えたんだ。悪いことをしたら、"ごめんなさい"って言うのも大事って。その人、急に居なくなっちゃったんだけどね。」

 

瑞鳳は黙って耳を傾けた。

しかし、その目は虚空を見つめていた。

 

「零君。」

 

「ん?」

 

瑞鳳に呼ばれ、目を合わせれば。

 

「私以外の女に、()()()()()()()()?」

 

瑞鳳のただならぬ殺気に、零は首をブンブンと振る。

 

「違うよ!俺が瑞鳳に感謝する理由には、母さんからそう教わってたんだよってことを言いたかっただけ!」

 

それを聞くと、瑞鳳は満足そうに頷き。

 

「それなら良かった、()()()()()()()()()()。」

 

瑞鳳が一言告げると、零は胸を撫で下ろす。

 

(瑞鳳は怖い?時があるから、気をつけなきゃ。)

 

無意識に、零は瑞鳳への恐怖心を抱くようになった。

それが稀であることから、零自身は然程、気にしてはいない。

かと思えば。

瑞鳳自身に至っては、そんな殺気を出しているなどとは、露程も知らない。

 

「わかった。零君は、ちゃんとお母さんの言うこと聞いてるって事なんだね♪いい子♪」

 

「あ…うぅ…。」

 

瑞鳳に褒められ、顔を赤く染め上げて恥ずかしがる零に。

 

「さて、時間も無くなっちゃうし…朝ごはん、食べちゃおっか♪」

 

「うん!」

 

瑞鳳が食事に誘えば、零は快く受け入れた。

しばらくして、朝食が終われば。

 

「よし、それじゃ最初に工廠に行くよ?」

 

「案内よろしくね。」

 

瑞鳳は零の手を握りながら、工廠へと向かう。

その顔は満足気に、笑顔であった。

工廠に着くなり、瑞鳳が明石を呼ぶ。

 

「明石さーん!居ますかー?!」

 

「居ますよー!すぐ行きまーす!」

 

昨日とは違い、物を落とさずに明石が奥から現れる。

 

「今日は、何も落としませんでした!」

 

「今日は…。」

 

明石が自慢気味に胸を張れば、零は呆れたように繰り返した。

 

「ところで、どうしたんです?」

 

明石が頬に付いた機械油を拭いながら、瑞鳳を見る。

 

「今日来たのは、零君の服を作ってあげて欲しくて。」

 

「あー、そのまま来たんですもんね。良いですよ?ただ、時間が掛かるので、それまで私の作業着を着ておきます?作業着なら男の子でも、大丈夫なはずだし。」

 

零の様子を伺いながら、替えの作業着を棚から取り出し、明石が訊くと。

 

「サイズが合うかどうか…。」

 

と、零が困りながらも着てみると。

 

「意外と着れる!」

 

少し緩いながも、気にする程では無かった。

 

「良かったね♪」

 

「うん!」

 

瑞鳳が隣で喜べば、零は元気よく頷いた。

そのまま、瑞鳳が零に提案をする。

 

「このまま見学させてもらう?」

 

「え?いいのかな?」

 

零が申し訳なさそうに、明石を見れば。

 

「構いませんよ?ただ、機械には触れないようにだけしてくださいね。」

 

明石は二つ返事で、快諾した。

 

「ありがとうございます!」

 

零が頭を下げ、瑞鳳と二人で中に入れば。

 

「うっわ!すげー!飛行機も、()()()()()()()()!」

 

興奮気味に零が、はしゃぎ出す。

瑞鳳は、聞き逃さなかった。

 

「零君、()()()()()()()()()()()()?」

 

「え?」

 

零自身、気付かぬ間に専門用語を出していた。

 

「なんでだろ…?」

 

咄嗟に出た言葉のせいか、理解が追いつかない。

 

「んー、これは飽くまでも私の推測だけどね?」

 

瑞鳳が一拍置いて、持論を述べる。

 

「きっと、何かのショックか、キッカケって言うのかな?そういうので、零君は記憶が無くなってると思うの。」

 

瑞鳳は神妙な顔つきで、零を見つめる。

 

「ここに来てから、ずっとそうじゃない?引っかかってるというか、思い出せそうで思い出せない。消化不良じゃないけど、そんな感じで零君は悩んでるように見えるの。」

 

零から目を離し、整備に出していた自身の艦載機を見つけ、撫でながら続ける。

 

「私もね、ずっとずっと悩んでた。記憶が無くなればいいのにって。でも、記憶を失くしてる零君を見てたら、忘れて寂しい部分もあるんだなぁって、思い始めたんだ。だから、このまま記憶が戻るといいね?きっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

瑞鳳の言葉は重くも、何処か儚げなモノであり。

零は何も言えず、ただその姿を目に焼き付けるだけである。

 

「あはは、ごめんね、変な雰囲気にしちゃったね…。」

 

「ううん、気にしなくていいよ。瑞鳳の言う通りだと思うし、艦娘にだって事情があると思うから。」

 

瑞鳳が謝罪をすれば、零は笑みを浮かべながらそう言った。

 

「あ、零君。」

 

そんな会話が終わったと同時、明石が声をかける。

 

「名字が橘花でしたっけ?」

 

「そうですよ?」

 

明石は考えるように、腕を組む。

 

「元帥の御子息…。うーん…。偶然でしょうか?大本営に居た艦娘が、この鎮守府にも居るんですよね。」

 

「「え?!」」

 

明石の一言は、二人を驚かせた。

 

「あれ?瑞鳳さんも知りませんでした?」

 

「も、もちろん…。」

 

瑞鳳は驚愕のあまり、語彙力が低下していた。

 

()()()()()()()()。最近は明るくなりましたが、来た当初は落ち込んだ様子で…。あ、ここだけの話にしておいて下さいね?本人は、()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「私が来た頃には居たから…知りませんでした。」

 

明石の説明に。

瑞鳳は俯きながら、答えた。

 

「阿武隈…。」

 

零はその名前に、どうにも引っ掛かるが。

 

「それはそうと、零君、どうですか?工廠を見学した感想は。」

 

「はい!色々と見れて、嬉しいです。機械を使えて、修理も開発も出来る明石さんは、かっこいいですね!」

 

明石に話をすり替えられ、考えるのをやめた。

 

「か、かっこいいかな…。」

 

零に褒められ、明石は頬を掻く。

 

「あ、飛行機で思い出した!瑞鳳が飛行機を飛ばすところ、見てみたい!」

 

先程とは打って変わって、零が目を輝かせ、瑞鳳を見る。

 

「あー、発艦かぁ。そしたら、訓練場に行こっか?艦載機ならそこで発艦出来るから。」

 

その提案に、零は目を輝かせたまま激しく頷く。

 

「うん!ありがと!明石さんも、見学させてくれて、ありがとうございました!」

 

そのまま、明石に感謝をすると。

 

「はーい!また、いつでも来てくださいね!あ、服は洗っておきますから!」

 

それだけ伝えると、明石は奥へと、そのまま作業に戻った。

 

「さ、じゃあ訓練場に出発!」

 

瑞鳳の号令で、工廠を後にし、二人は訓練場に向かう。

 

 

 

「うわ!広いな!」

 

訓練場に着くと、零はその広さに驚いた。

 

「艦娘がそれなりに居るし、発艦訓練も、砲撃訓練もやるからね。演習っていう艦娘同士で模擬戦をすることもあるんだよ♪」

 

瑞鳳が零に説明をすれば。

 

「そういうことかぁ。そしたら、これだけの広さがなきゃ足りないか。」

 

至極簡単に理解した。

そんな折。

 

「あら?あなたが保護された少年かしら?」

 

青い袴を着た艦娘が声をかければ。

 

「随分と可愛らしいじゃない!」

 

赤い袴を着た艦娘がそれに続いた。

その二人の姿を見て、瑞鳳が零に紹介する。

 

「二人は、この鎮守府のエース空母で、赤い袴を着てるのが、赤城さん。青い袴を着てるのが、加賀さんだよ♪」

 

「はじめまして、一航戦の赤城です。」

 

「同じく、一航戦の加賀です。」

 

瑞鳳の紹介を受け、赤城と加賀が零に自己紹介をした。

 

「橘花零です、よろしくお願いします!」

 

「随分と礼儀正しいのね!」

 

零が二人に向かって頭を下げると、赤城は感嘆の声をあげた。

 

「今日は、どうしてこちらへ?」

 

「瑞鳳の、発艦?してるところを見たくて来ました!」

 

加賀が尋ねると、零が元気よく答えた。

その姿は、少年そのものである。

 

「まぁ!失敗は出来ませんね、瑞鳳さん?」

 

赤城が悪戯っぽく微笑みながら、瑞鳳を見れば。

 

「が、頑張ります!」

 

瑞鳳が気概を見せる。

そして。

 

「零君、着替えてくるから二人と待っててね。」

 

零にそう声をかけ、更衣室に向かった。

瑞鳳が戻るまでの間、三人はプールサイドの椅子に座って待つことにした。

ふと、赤城が瑞鳳の後ろ姿を見ながら。

 

「ふふっ、あんな瑞鳳さん初めて見ました。ね、加賀さん?」

 

赤城が微笑み、加賀に訊く。

 

「えぇ。何がキッカケなのかわかりませんが、()()()()()()()()()()()、今みたいに元気なのは良いことです。」

 

加賀の言葉に、零が表情を変え、怪訝な顔を加賀に向ける。

 

「自沈?」

 

加賀が、"やってしまった"とばかりに、口を閉じると。

 

「それは、本人の口からいずれ聞けます。それと、加賀さん?私が間違っていなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

赤城の言葉に続いて、加賀も零を見る。

 

(そう…。この子から何か感じたのね、瑞鳳さん。)

 

加賀は胸中で、表情は真顔のまま誰に言うわけでもなく、そう述べた。

零としては、赤城にそう言われてしまっては、何も聞けないと幼いながらに感じ取り。

 

「その時を待ってみます。」

 

と、返した。

その会話が終われば、着替えた瑞鳳が姿を現した。

 

「零君、お待たせ♪さ、やるわよ!」

 

弓を持ち、まるで巫女にも思わせる服を着たその姿に。

 

「わぁ…。」

 

と、零は感嘆した。

その格好は、零には輝いて見えた。

 

「じゃあ、見ててね。」

 

そう言って瑞鳳は、設置されたプールに立つ。

そして矢を番え、集中力を高める。

目を開き、矢を放つと。

 

「六五三空、発艦、始めてください♪」

 

放たれたその矢は、合図と同時に、"零戦三二型"に変わる。

零戦がプールの上空を一周し、枯葉が落ちるかのように回転させながら急降下すると。

 

「あ、落ちちゃう!」

 

零が立ち上がり、心配するも。

 

「大丈夫ですよ、あれは瑞鳳さんの十八番である、"枯れ葉落とし"という芸当ですから。」

 

赤城の説明通り、水面へ落下するかと思われた零戦は、水面ギリギリで体制を整え、そのまま飛び続ける。

 

「あの技は、私達でも難しくて出来ないんですよね…。」

 

加賀が残念がるように、尚も低空飛行を続ける零戦を見やる。

 

「恐らく…この鎮守府で、あの技を披露出来るのは瑞鳳さんくらいね。」

 

赤城は真顔で、そう言った。

 

「瑞鳳って、やっぱり凄いんですね。」

 

零は、"凄い"としか表現出来なかった。

そんな零の目に、操縦士と思われる小人のような存在が映る。

小人が零に向かって、敬礼をする。

返さなければいけない、そう思った零は。

 

「これでいいのかな?」

 

と、見様見真似で敬礼を返した。

零の敬礼に、小人は満足そうに頷いた。

 

「加賀さん、あの小人?みたいなのってなんですか?」

 

零は、零戦に乗る小人を指しながら、加賀に訊く。

 

「あれは、妖精さんね。操縦の他に、砲撃の照準を手伝ってくれたり、私達の装備を整備したり、建造、開発も明石さんと一緒にやってくれたりするのよ…え?」

 

そこまで説明して、加賀は疑問を持つ。

 

「待って、あなた妖精さんが見えるの?!」

 

加賀は勢いよく、零の肩を掴む。

 

「み、見えました。明石さんが言っていた妖精さんって…。」

 

「え、えぇ、間違いないわよ。」

 

これには、赤城も驚愕の色を示す。

 

「嘘!?さすがね!」

 

二人の会話に、瑞鳳も零戦を戻し、プールサイドに駆け寄ってくる。

 

「零君!ほんとに見えるの!?」

 

「う、うん、赤城さん達にも言った通りだよ?」

 

瑞鳳にも詰め寄られ、戸惑うも、しっかり答える。

 

「零君、見学よりも先に、提督のところに行かなきゃかもね。」

 

「え?」

 

キョトンとする零を他所に。

 

「執務室に行こ!」

 

と、瑞鳳が零の腕を引く。

 

「あ、う、うん!」

 

「「私達も行きます。」」

 

この一連が、()()()()()()()となった。




如何だったでしょうか?
更新速度が遅くて、申し訳ない限りです…。
投稿は頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。

それでは、また次回に。
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