気付けば、あっという間に9月…。
それでは、本編どうぞ。
「ここだね…。」
跡地に着くなり、零が呟く。
「はぁはぁ…零君…やっと追いついた…。ここなの?」
息を切らせ、膝に手を付きながら、後から追いついた瑞鳳が訊く。
「そうだよ、ここに…家があったんだ…。」
零は、土地だけになった地面を撫でる。
すでに何もかもが、片付けられていた。
「この場所で、母さんと暮らしてたんだ。あっちが、学校があった場所…。」
瑞鳳が、零の視線の方を見ると。
「あ…零君が走ってきた方向ね…。」
「うん、高台はあそこだから。」
学校があった方向、それより先の高台は、零が満身創痍で駆け上がった場所であった。
それは、見ていた瑞鳳が一番わかっており。
「本当に、よく生きてたね…。」
そんな言葉が、瑞鳳の口を衝いて出る。
「ほんとだね…。それと、母さんが…吹き飛ばされたのは…こっち…。」
零は瑞鳳に悟られぬよう、涙を必死に堪えながら歩みを進める。
(今、泣いたらダメだ。)
そんな思いが、零をそうさせた。
堪えるがあまりに、言葉が途切れ途切れになる。
「零く…。」
名前を呼ぼうとして、瑞鳳は口を閉じる。
零は、唇を血が出るほどに噛み締め、顔を歪ませていた。
瑞鳳と目が合うなり、そっぽを向く。
「……
瑞鳳は訊いた。
その顔に、憂いを帯びながら。
眼前にいる少年と、自身の姿を重ねながら。
「俺は、
零は、その問いに唇から血を流しながら答える。
「この先、提督になったとしても、今回のことは絶対に忘れない。」
零は瑞鳳を見ずに、立ち止まることなく、言い放つ。
瑞鳳は悟った。
否、身に覚えがありすぎた。
(零君…そっか…どうしようも無いんだね…。)
かける言葉を見失い、瑞鳳は何も言えなくなってしまった。
互いに無言のまま、歩みを進める。
「ここだよ…、母さんが居ないな…。」
地下シェルターへ、向かうまでの通路。
その脇道にある、岩陰。
最後に見た、母の姿。
何もなかったかのように更地と化した、その目に映る景色。
零は嗚咽も出さず、静かに涙を流す。
「きっと、軍の人が…。」
それ以上、瑞鳳は言えなかった。
零が居る手前、"回収した"とは、到底言えるはずがない。
「…
零が振り向く。
「ねぇ、瑞鳳…俺だけ生きてていいのかな…?ほんとに、提督を目指していいのかな…?」
振り向いたその顔は、悲壮に歪んでいた。
血も涙も拭わず、自身に尋ねる零に。
――あなたは私の一縷の望み。
「零君が死んだらダメだよ。」
瑞鳳は、真顔で言い放つ。
「それってどういう…。」
瑞鳳に気圧され、零は目を見開きながら訊く。
「零君が生きてたから、今の私が居る。あなたという、生きる理由が出来たの。これは、私のワガママでしか無い、そんなのわかってる。でも、生きるのを零君が諦めた時は、
瑞鳳は、圧をそのままに。
――死ぬときも一緒。
「だから、零君はお母さんに胸を張れるように、生きなきゃね。それが零君を守った、お母さんへのお返しだと思うよ?」
「わかった、頑張ってみる。」
瑞鳳の言葉を受けて、零は拳を握る。
「俺は、母さんと艦娘に恩返しするよ、絶対。」
「零君…。」
瑞鳳の前に、目を真っ赤に腫らした少年が居る。
――あぁ、あなたを。
瑞鳳は笑顔を向ける。
――絶対に手放さない。
瑞鳳に渦巻く、黒い感情。
先程から、見え隠れするソレ。
――私も決めた。
何か残っていないか探し始めた零を、尚も笑顔で見続ける。
――あなたの人生を見届ける。
その笑顔は、瑞鳳の可愛らしさなど、微塵もない。
――私に希望を持たせて、勝手に死ぬなんて。
その目に、光などなく。
――
ただただ、漆黒があるだけだった。
「ねぇ、瑞鳳…。」
「どうしたの?」
圧とも、殺気とも言えるモノを完全に消し去り。
至極普通に、零に訊き返す。
「は、裸足の足跡が…母さんが居た場所から続いてるんだ…。」
「え?」
瑞鳳が目線を、地面に移す。
「まさか…。」
瑞鳳は仮説を立てた。
(お母さんって艦娘だったの…?
「零君のお母さんって、艦娘だったの?」
瑞鳳の突拍子もない疑問に、零はキョトンとする。
「いや、普通に人間だと思うよ?」
真面目な顔で、答えてみるも。
「じゃあ、なんで裸足なの?」
「そんなの俺に聞かれても…。」
瑞鳳のなんとも言えない表情に、零も困り果てる。
「だよね…。跡を追ってみる?」
「いいの?」
そんなことを訊く零を、呆れたように。
「私も艦娘だからね…?何かあっても戦えるんだよ…?」
瑞鳳はそう言って、腕を組み、軽蔑を含んだ顔で見る。
「うん、ありがと、でも何かあるってどういうこと…?」
零が首を傾げれば。
「
瑞鳳は、短く告げた。
そのまま足跡を追っていると、海岸に出た。
五十鈴達の居る海岸とは、離れており。
「五十鈴さん達、向こうで何してるんだろ…?」
「多分、壊れちゃった物とかの確認かなぁ…?暁さんは…砂で遊んでるね、あはは…。」
瑞鳳は零に訊かれ、説明していると、遊んでいる暁が目に映り。
困ったように、乾いた笑いが出てきた。
「え…?人…?」
零が岩陰を見てみれば、白い腕があった。
そのまま向かおうとすると、瑞鳳が零の肩を勢いよく掴む。
「どうしたの!?」
零は驚き、素っ頓狂な声を上げる。
「ダメ!近付いたら!」
瑞鳳は自身の勘が当たり、冷や汗を額から流す。
「深海棲艦よ!絶対ダメ!」
瑞鳳が大声で、零を説得すると。
「アラ…艦娘ネ…。大キナ声デ目ガ覚メタワ…。」
「…っ!!」
そう言って、足を引きずりながら出てきたボロボロの深海棲艦。
その圧に、瑞鳳は息を呑む。
しかし、零だけは違った。
「か、母さん…。」
「お母さんなの…?」
「うん、肌は白いけど、間違いないよ…生きてて良かった…。」
深海棲艦は、零を見ると嘲笑する。
「ソウ、アナタノ母親ハ、
「え?」
零はその言葉に、理解が追いつかない。
「コノ女ハ、私ニ身体ヲ寄越シタ。ダカラ、アナタノ母親ハ、モウイナイ。ウフフ。」
そこまで聞いて、零は理解した。
「…せよ…。」
「零君?」
零の異変に、瑞鳳は思わず声をかける。
「返せよ!!母さんを!!」
零が怒鳴るなり。
深海棲艦は、更に三日月の様に口角を上げる。
「サァ、絶望ニ堕チルトイイワ。」
深海棲艦が艤装を展開する。
「ウフフ、艦娘一人ジャ、何モデキナイワヨネ?」
そのまま、瑞鳳目掛けて砲撃を撃つ。
しかし、その砲弾は別方向からの砲弾によって、相殺される。
「あら?私達のことは気付かなかったの?バカね。」
「なのです!」
「ハラショー!」
「レディのやることじゃないわね?」
「さっきまで遊んでた暁が、それを言うの?!」
離れていただけに、到着が遅れたものの。
艤装展開済みの、五十鈴達が駆けつけた。
「アラアラ、増エタワネ。人数ガ居タッテ、ドウカシラネ?」
「電探に反応があったから来てみれば、戦艦級...それも姫じゃない...!」
五十鈴は額から汗を流す。
「迎エモ来タワネ。」
そう言って、深海棲艦は海を見る。
「ちっ!中々多いわね!!」
五十鈴の視線の先では、深海棲艦が群れを成していた。
「旗艦命令よ!全艦、抜錨!!」
「「了解!!」」
五十鈴を筆頭に、六駆の四隻、瑞鳳が海を駆ける。
「少年、今後ガ楽シミネ?」
「黙れ!母さんを返せ!」
零が強気で出るも。
「私ハ、同胞ノ所ニ向カウワ。ジャアネ。」
そう言って、地面に向かって砲撃する。
「ゲホッ!!」
地面は砂場である。
砂塵により、零の視界は奪われる。
「返せよ...その身体は母さんのなんだぞ...!!」
零は自身の無力さから、ギリギリと歯ぎしりする。
深海棲艦が向かった海へと、目を移すと。
「サァ、マダマダ、絶望サセナキャネ!!」
深海棲艦が手を挙げるなり。
「「グオォ!!!!」」
深海棲艦が湧くように出てきた。
「数が尋常じゃないわ!!」
雷が砲撃をしながら、叫ぶように言う。
「くっ!瑞鳳!提督に通信して頂戴!!」
「りょ、了解!」
雷の声を受けて、五十鈴が瑞鳳へと命令を飛ばす。
しかし、瑞鳳が通信を試みるも。
「ダメです!繋がりません!」
五十鈴は魚雷を放ちながら、瑞鳳へと振り返る。
その顔は、苦虫を噛み潰したようである。
「大淀は?!」
「大淀さんもです!」
瑞鳳が発艦しながら、半ば怒鳴るように五十鈴に言う。
「何よ...それ...。」
「司令官が出ないって、どういうことよ?!」
暁が砲撃をやめて、瑞鳳を見る。
「わ、私にもわかりません...!」
瑞鳳は、制空権を取ることで精一杯だった。
無論、他の艦娘達も同じであり。
「暁、何隻かそっちに行ったよ!」
響が言うも、暁は砲撃をやめてしまっている。
「暁!!」
「へ?!あ!回避!!」
響の怒鳴り声に、暁はやっと戦場だという事を思い出す。
しかし、深海棲艦の砲撃は目前まで迫っており。
「きゃっ!!」
間一髪、回避できるも。
「いてて、掠ったわ...!」
腕をさすれば、血が出ている。
「帰ったら入渠しなきゃ...。」
そんな状態でも、そこは艦娘である。
小破にも満たないと判断するなり、再び砲撃する。
それは、零も見ていた。
「海野提督が通信に出ない...?」
零は疑問に思った。
しかし、それ以上に焦燥していた。
「それより、暁が...みんなが...どうしよう...。」
焦るがあまり、頭を悩ませる。
「くっ!!まだまだ敵は出てくるわよ!」
「制空権もギリギリです!」
零の眼前では、艦娘達が必死に抵抗している。
「きゃあ!」
今度は雷が被弾する。
「雷さん!大丈夫ですか?!」
瑞鳳が声をかければ。
「小破未満!大丈夫よ!」
「安心しました...。」
雷の言葉に、瑞鳳は胸を撫で下ろす。
「このままじゃ...。」
一連を零は、見守ることしか出来ない。
それは本人にとっては、苦痛であり。
「どうしたら...思い出せ、何でもいい、艦娘に関わること...何でもいいんだ...!!」
必死になる零の脳内に、ある言葉が過ぎる。
『死こそ最大の汚点だ!』
「え?父さん...?」
『零、幼いお前には早いかも知れんが、指揮を叩き込んでやる!元帥特権でな!ふはははっ!!』
「あ...あぁ...。」
今度は、記憶として。
『零!元帥の息子のお前なら、指揮だってすぐ覚えられるぜ?このオレ、天龍が保証してやる。だから、勉強頑張れよ?』
「天龍...。」
鮮明に。
『天龍ちゃんよりは、上手でしょぉ?ふふっ、覚えられた?賢いわねぇ。』
「龍田...。」
『さ、零君も敬語を覚えましょうね。榛名は大丈夫です、しっかり教えますよ?』
「榛名...。」
学問に共に励んだ艦娘。
『今日は私が遊んであげるわ、いい風が吹いてるからね。え?いつでもそう言ってる?いいのよ、さ、今日は非番よ!目いっぱい遊びましょ!』
「天津風...。」
共に遊んだ艦娘。
それぞれの声、姿、言葉。
顔も、名前も。
『鈴谷、行きますわよ?準備はよろしくて?』
「熊野...。」
『零君と、この先の未来の為に!鈴谷達は、勝利してくるよ!』
「鈴谷...。」
笑顔を向け、出撃した艦娘も。
『悪いな...零、お前を巻き込むわけにはいかない。』
『明石...頼む。』
そして、自身の記憶が無くなる瞬間も。
「あぁ...みんな...そうだ、俺は...
今の零に突き刺さる、元帥である父の教え。
『零、いいか?指揮を執る上で、絶対に忘れたらいけないことがある。』
「そうだった...。」
零は目を瞑る。
『「提督が諦めてはいけない。」』
『「指し示し、本領を発揮させる。」』
『「それが、"指揮"。」』
父の言葉と重なり。
そこまで、思い出したところで、零は吐き気を催す。
「お、おうぇええ...!!」
無理も無い。
急激に、物事を思い出したことにより、その反動が零を襲った。
「おえ...通信機あるかな?あ、小型船なら!」
零は吐き気を堪え、自身が乗ってきた小型船に向かう。
「やっぱりあった!」
零は船に飛び乗った。
「どうしようかしらね...!このままじゃ、ジリ貧じゃない!」
五十鈴は焦る気持ちを抑え、砲撃を休ませない。
「...弾薬も減ってるわね。六駆のみんなは?!」
「弾薬と燃料が、私達みんな怪しいわ!」
六駆の一番艦、暁が五十鈴に伝える。
「ほんとにジリ貧ね!」
五十鈴は、ふと、ある事に気付く。
「あ!零君は大丈夫かしら?!」
振り向き、海岸を見るも。
そこに零の姿は無かった。
「瑞鳳!大変よ!零君が居ないわ!」
五十鈴のソレは、弓を握る瑞鳳の怒髪天を衝いた。
「......
瑞鳳らしからぬ、短く鋭い文言。
五十鈴が受けた、圧とは程遠い、殺気。
深海棲艦も、艦娘も。
その殺気を受け、一瞬なれど動きを止めた。
「零君が居ないって、ありえないです。あの子が居なくなるはずありません。だって、約束したんだから。」
動きが止まった一瞬に、艦娘達の通信機が反応を示す。
[みんな、聞こえる?]
「「零君?!?!」」
通信機の声には、全艦が驚いた。
[小型船から通信してるんだ。俺が、この場を仕切ろうと思うんだけど、どう?]
零の提案に、五十鈴が随伴艦の五隻を見れば。
──全員が頷いた。
「零君、でき...ううん、お願いね?」
瑞鳳が通信越しの声に安心し、殺気を解く。
[任せて。大丈夫、みんなをしっかり撤退させるから。]
そう言ったかと思えば。
[全艦!単横陣で回避優先!西方面に後退せよ!]
「「了解!」」
[五十鈴さんは砲撃!弾薬大丈夫そう?]
「えぇ、まだ残りはあるわ!」
[よし!砲撃しながら、牽制して!当たらなくても大丈夫だから!]
「了解よ!」
[六駆のみんなは、弾薬が少ないなら魚雷で牽制!]
「「了解!!」」
[それから、瑞鳳。]
「はい、瑞鳳です♪」
[得意の枯葉落としで、敵を翻弄しながら、自滅させるのを狙えばいいよ。]
「はい♪」
それぞれに、指示を出して見せた。
零の思惑通り、深海棲艦は次々と轟沈。
或いは、自爆した。
「ハラショー!」
「ま、元帥の息子なら、これくらいして貰わなきゃね?」
全員の活気が戻る。
[響は、俺の小型船をついでに、回収してくれると嬉しいな。]
「ハラショー!任された!」
そうして、無事に撤退は出来た。
「フフフ、マタ何処カデネ?次コソ、深海ノ奈落ニ落トシテアゲルワ。」
姫級の深海棲艦は、遠ざかる零達を。
その後ろ姿を。
嗤いながら、見ていた。
「ソノ時マデ、
そんな一言を残し、深海棲艦全艦も撤退した。
この一戦の後、舞鶴鎮守府が崩壊を始めるとは。
未だ、誰も知る由もない。
如何だったでしょうか?
ほんとに忙しくて、更新遅いです。
申し訳ないです...。