魔法学園の呪われ首席少女(の順位)を落としたい   作:タタラ

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10話

 

 この僕がレンドーア魔法学園を出なくてはいけない? 学年でもほぼ頂点に位置する、この僕が?

 

 いったいそれは、どういう冗談だ……!?

 

「大賢者さま……! 僕が、このレンドーアにふさわしくないと!?」

 

 あまりの驚きに思わず心の声が漏れ出てしまうが、それも仕方あるまい。

 

「いったい何の理由で僕をッ――」

 

 この僕を、追放するというんだ――?

 

 優れた結果を残し続ける僕だぞ。納得できる理由などあるはずもない。大賢者の回答の隙を突いて、なんとか今の発言を撤回させなければ。

 

 そんな考えで口を開いた、その直後だった。

 

 

 

「――なんでッ! どうしてヒイラギさんがダメなの!?」

 

 

 

「な……アザレア嬢っ?」

 

 すぐそばでアザレア嬢が上げた大声に、思わず思考が止まってしまう。

 

「おかしいでしょっ、ヒイラギさんがこの学園を出て行くなんて……!」

 

「ふむ。ボクの裁定に不満があるのかな? アザレアちゃん」

 

「あるに、決まってます! 誰がどう考えたっておかしいんだから! ヒイラギさんがダメなら全員がダメに決まってる! そうでしょ、みんな!?」

 

 あのアザレア嬢が、僕やリュー以外に声を掛けただと?

 

「……たしかに。アザレアさんの言う通りかも」

 

「あのヒイラギさんでもダメなんて信じられん!」

 

「大賢者さまだって、学生レベルじゃないと認めていたはずだよな!?」

 

 同級生たちが次々に、僕への評価のおかしさを口にし始める。

 

「――そうですそうですっ。わたしならともかく、トールさまが不合格なんてさすがにおかしいですよっ! わたしいま、衝撃のあまり意識飛んでましたもん!」

 

 リューめ、またよく分からない擁護を……。

 

 だがしかし、周囲の反応に少し冷静さを取り戻せてきた。騒ぎの発端になったアザレア嬢なんて、相変わらず深刻な表情で何やら呟いているし。

 

「ダメ、ぜったいダメ……。ヒイラギさんを、私がいない他所の学園になんて渡さない……! だって、ヒイラギさんだけがこの学園で――キレイで、正しくってッ……!」

 

 こんな顔つきの彼女を見るのは闇市以来か。……なんか、意外と感情の起伏が激しい、危ない女だな……。

 

 そんなことを思っていると。

 

 僕への裁定に異を唱えるアザレア嬢やクラスメイトを見て、大賢者は感心したように言った。

 

「ふうむ。まさか他の子たちにそこまで反対されるとは思わなかったよ。ずいぶん慕われているようだね、あのヒイラギ侯の子が」

 

「……恵まれたことに、そのようですね。しかし、僕からも聞かせていただきたい。――いったいいかなる理由で、僕がレンドーア魔法学園にふさわしくないと判断されたのかを」

 

「うんまあ、もちろん理由は言うつもりだったから構わないけど。まずそもそも、みんな認識が誤っているようだから、訂正しようか」

 

「訂正?」

 

「うん。ボクが下した、ヒイラギくんを他の学園に送るという判断。これは何も、ヒイラギくんの才能がレンドーアにふさわしくないからではないよ」

 

 ……なに? では、いったいどうしてこの僕が別の学園などに行かないといけないんだ。

 

「うーん、そうだね。さっきボクはキミたちの才能を見て評価を下していると言ったけど、厳密にはそれだけじゃないんだ。だってその基準しかないなら、正直図抜けた才能を持っているヒイラギくんを、この学園に置いておかない理由がないからね」

 

 ほう、図抜けた才能とな。分かっているじゃないか……!

 

「トールさま、喜んでる場合じゃないですよっ。これ、ここから落とされる流れですって!」

 

「よ、喜んでなどいないが。しかし確かに……僕に才能があると言うならどうして今回の評価が下ったのか、非常に気になるところだ」

 

 実は大した理由じゃないんじゃないか? クラスメイトの嘆願によって意見を翻す程度のものであってくれ。

 

 こちらには(遺憾ながら)大賢者べた褒めのアザレア嬢までついている。分かっているな、アザレア嬢。全力でこの僕をフォローするんだ!

 

 ――さあ、大賢者よ。とっととその理由とやら言ってみろ。

 

「あちこちからものすごい視線を感じるね。特にそこの、アザレアちゃん。まあいいや、それでヒイラギくんを落とした理由だけど」

 

 そうして、大賢者はまっすぐ僕を見て言った。

 

「ヒイラギくん、キミはね。すこし――早熟が過ぎたんだ」

 

 なん……早熟? いち早く実力を発揮できるようになって何が悪いと言うんだ。

 

「あ、待って、もう少し詳しく説明するから。アザレアちゃんは物騒な魔力収めてね! ……で、ボクが何を言いたいかなんだけど。まあ、言ってみれば簡単な話だよ。ヒイラギくんは確かに優れた才能を持っていて、すでにそれを高レベルまで磨いている。つまり言い換えると――伸びしろが少ないんだよ」

 

「なっ……!」

 

 伸びしろ、だと!? クソ、すこし気にしていたことを……!

 

「もちろんまだ伸びる部分はあるだろうけど、それは既存のスキルツリーを限界まで伸ばす方向になる。ヒイラギくんなら独力でなんとかできるんじゃないかな? だったら、レンドーアで指導を受けるべき粗削りの原石を代わりに連れてきて、ヒイラギくんには自己研鑽と周囲の学生の底上げを目的に、他所の学園に行ってもらうのがいい」

 

 言っていることは、わりと的を射ているように思える。だがしかし、そこに僕の意思が一切介在していないではないか!

 

 レンドーア以外の学園では権威が足りんぞ! それにクソ親父に課された首席卒業も達成できなくなる……!

 

「お言葉ですが、大賢者さま。僕はまだ、自分の伸びしろというものを諦めてなどいないのです。それこそ……アザレア嬢のように第二魔法、そしてゆくゆくは第三魔法まで――」

 

「――おそらく無理だろうね、それは」

 

「そッ……それは、なぜです?」

 

「そうだね、まずは前提として。第二魔法や第三魔法は、習得に適性が必要だと知っているね?」

 

「……はい」

 

「じゃあ、具体的にはどんな適性、素質が求められるのか。これはあくまでボクの感覚なんだけどね。――答えは、我の強さだよ」

 

 我の強さ? 性格的なことを言っているのか? どういうことだ……。

 

「ふふ、不思議に思っているようだね。でも、考えてみればそうおかしなことではないんだよ。なぜなら、第二・第三魔法の本質は、己の意思と魔力を以って世界に働きかけること。そこに必要なのは十分な魔力量と技術、そして――世界をねじ伏せるだけの、強い意思の力だ」

 

「その力が、僕には欠けていると?」

 

「ボクの見立てではね。もちろん魔力量と技術については問題ないんだけど、どうもキミは周囲の顔色を窺いすぎる。もともと注目してたからずっと見ていたけど……この短い間でもクラスメイトに気を配り、緊張している者に声をかけ、簡単な指南までしていたじゃないか。キミはありていに言うと――優しすぎる」

 

 それは……言われてみれば、たしかにそうかもしれない。

 

 優れた僕は、しばしば愚かな周囲を導くことを余儀なくされる。本当はそんなことをしたくないが、立場と状況がそれを許さない。

 

 盲点だった。まさか僕の優れた人格が、魔法の習得に悪影響を及ぼすなんて……!

 

 だが、そうと分かれば話は簡単だ。要はこの周囲を気遣いすぎる優しさを、すこしだけ抑えてやればいいというわけなのだから!

 

「性格っていうのは、言われたからってなかなか変えられるものじゃないからね。正直ヒイラギくんがこれ以上強くなるには、小手先の技術を学んでいくのが一番いい。それでもこの国のトップクラス、つまり全世界有数の魔法士にはなれるだろうから」

 

 はっ、言っているがいいさ。大賢者だかなんだか知らないが、人を見る目だけはダメだったと思い知らせてやろう。

 

 しかしさしあたっては、僕が大賢者の見立てを覆すまでどう時間を稼ぐかだな。第二魔法習得までにここを追い出されてはたまらない。

 

 ……よし。こういう時のためのお前たちだぞ、クラスメイト諸君! 猶予をもらえるよう大賢者に嘆願するんだ。

 

 お、筆頭はアザレア嬢か。よし行け!

 

「大賢者さま、あなたはヒイラギさんに……その光を捨てろって言うんですか――? そんな、バカげたことを……!」

 

「人間的には素晴らしい性質なんだけどね。でも、ボクはキミたちが魔法士として高みへ昇る手助けをしに来ているんだ。そのために合理的で、期待値の高い選択をするまでだよ」

 

「それが、ヒイラギさんを切り捨てることですか? 理不尽な……!」

 

 そうそう、その調子! さあ、自らが落ちぶれる原因を作っているとも気づかずに、もっと僕のことを良く言うんだ。

 

 よしよし、他のクラスメイトたちも口々に僕を庇い出したぞ。

 

「トールさまはすごいんです! 魔法以外はちょっとダメなとこも、かわいくって仕えがいがあるんですからっ」

 

 お前はやっぱり一人だけ言っていることがずれてるぞ! この間も言っていたが、さては阿呆のくせに僕のことを舐めてるのか?

 

 っと、大賢者に動きが。

 

「ふうん。本当に、びっくりするくらい慕われている。他の学年はもっとピリついてたんだけどなあ」

 

 ふ、僕の人徳がなせる業だな。

 

「でも。やっぱりみんな、平和ボケしてるよね。これでもボクは、世界で最も名の通った魔法士だよ?」

 

 ……?

 

 何が言いたい? 先ほどまでと変わらない柔らかな表情だというのに、どこか圧迫感がある……。

 

 周りのみんなも、妙な空気を感じてにわかにざわつき出す。

 

 大賢者は、そんな僕たちに向かって言い放った。

 

「生まれ故郷であるこの国を、再び戦場にするわけにはいかない。魔法国やキミたちの未来のためなら、ボクは鬼教師にだってなろうじゃないか。学園の垣根を越えたテコ入れを始め、キミたちには――試練を与えねばならない」

 

 戦場に試練、だって? 大賢者ドロテアが愛国者というのは有名な話だが、いったい彼女は何を知っている?

 

「遅くとも、今年の精霊大祭までには。キミたちを他国にも堂々と見せられる立派な魔法士に――」

 

 そう大賢者が呟いたのを耳にして。

 

 そして、次の瞬間だった。

 

 

 

 どこからか。強烈に耳を叩く、大きな爆発音が轟いた。

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 ビリビリと空気が振動している。それに巨大な魔力の奔流を感じた。

 

 どこかのバカが魔法を暴発させた、なんていう規模ではなさそうだが。

 

 クラスメイトたちは、この身を震わすような魔力の残滓に怯えているようだな。例外はこれ以上に強大な魔力を持つアザレア嬢と、眉根を寄せ鋭い目付きを見せる大賢者のみ。

 

 大賢者といえば、この爆発音の直前に気になることを言っていたが……。

 

「――どうも。ボクたちはいま、誰かから襲撃を受けているようだね。それも、いまの魔力は……」

 

 未知の敵からの襲撃、と。

 

 このタイミング……大賢者は、何か知っているんじゃないか?

 

 

 

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