魔法学園の呪われ首席少女(の順位)を落としたい   作:タタラ

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14話

 

 リューの腹から突き出たキールの腕。貫通しているし、一見すると明らかな致命傷だが……。

 

 上手く、いった。とうとうやってやった。

 

 ――第二魔法を、物にしたぞ……!

 

「ひん! もうわたしは終わりですっ。し、死んじゃうんだ! でもでも、トールさまが無事なら本望……!?」

 

 ふ、リューのやつめ。従者として実に立派な心掛けだ。だが、僕は幼いころから従うお前を見捨てるほど狭量ではない。

 

 ……おっと。キールも気づいたか。

 

「――これは。手ごたえが、なさすぎる……」

 

「ふぇ?」

 

 阿呆のリューでもそろそろ分かったか?

 

 いまリューの身体を確かに貫いている腕には、血液の一滴すらついていない。お前の身体に傷一つ付いていないんだ。

 

 なぜ腹を貫通しているのに傷がないのか。

 

 ――その答えは簡単だ。

 

「【空間同化】か……! トール・ヒイラギ、貴様の!」

 

「――ああ、その通り。やっと完成させられた第二魔法だ。いまのリューは、物理的な干渉を一切受け付けない」

 

「ええっ!? わっ、ほんとだ。ぜんぜん痛くないですっ!」

 

 ふっ、驚いているなキールよ。僕には使えないとたかをくくっていただろう。

 

 残念だったな。僕はお前ごときが計れる男じゃない!

 

「この短時間で、第二魔法を習得するなどと、そんなことが……」

 

「キール。お前の敗因は、僕という男の底を知った気になっていたことだ……!」

 

 そら、第一魔法の雨あられだ。リューから飛び退いたキールだが、動揺から反応が遅れている。今なら一撃くらい当たるんじゃないか?

 

 あっ、ダメか。さすがに……。

 

「リュー、ほら。今のうちにこっちへ来い!」

 

「は、はーい! すぐ行きますっ」

 

 む、本当にすぐ来た。過去一動きが速かったかもしれん。よほど怖かったらしいな。

 

「もうっ、トールさま! これ以上できることないって感じだったのに、打つ手があったなら言っておいてくださいよう!」

 

「ははは、悪いなリュー。だが、本当に打つ手はなかったんだ、ついさっきまで。ただ……この僕の天才性が、活路を開いたわけだ」

 

「あっ。またちょっと浮かれちゃってますね、トールさま。ご当主さまに注意するよう言われてるんですけど……助けてもらったから黙っててあげますっ」

 

「――そう。ヒントは大賢者やキールの言葉に隠れていたんだ……」

 

 今リューなにか言ったか? まあいいか。

 

 それでそう……僕が第二魔法を使えるようになったきっかけ。それは間違いなく大賢者とキールが口にしたこと――

 

「第二魔法を扱うために必要な『我の強さ』、あるいは『世界を説き伏せる意思』。これが意味するところはつまり――――世界に働きかける魔法を使うときにもっとも重要なのは、ただそう在れと命じる傲慢さだったということ」

 

「そう在れと命じること、ですか……?」

 

 ぽかんとするリューとは裏腹に、キールは苦々し気な顔だな。その表情はもはや答えを言っているようなものだ。

 

 ――そう。つまり、これまでの僕は第二魔法を使うにも常識的で、技術でどうにかしようとし過ぎていたのだ。

 

 魔力をエネルギーに火や土を生み出す第一魔法と違って、第二魔法はこの世界そのものに働きかける必要がある。それは魔力を正確に動かし意図したものを生み出すというより、世界の法則自体を書き換える作業だ。

 

 そのためにより重要なのは、技術よりも魔力に乗せる意思の力。どうやらそういうことらしい。

 

 僕を見るキールは口を開く。

 

「貴様が言ったことは正しい。もっとも、魔法というのは本来第一も第二もなく、イメージが物を言う……」

 

「ほう」

 

 聞こうじゃないか。

 

「いま貴様らに伝わる第一魔法の使い方は、種族として魔法に適性の薄い人間が使うために最適化されたものだ。それが正しい方法として伝わっていること自体、俺たち魔族にとっては滑稽なことだが」

 

「なに? つまり、この第二魔法の発動方法こそが、魔法のあるべき姿だと言うのか?」

 

「俺たちのような魔力への親和性が高い種族にとってはな……」

 

 なるほど。つまり今回のような魔法の発動方法は、本来人間には適していないものということか。

 

 確かにキールの言う通り、人間はあまり魔法に長けた種族ではない。かの大賢者だってエルフとの混血だ。

 

「僕たちの間に第二魔法の秘訣が伝わっていないのはそのせいか……。下手にみながその方法を正としてしまうと、第一魔法すら発動が覚束なくなると」

 

「魔族である俺にはあずかり知らぬことだが、そのようなところだろう……」

 

 ふむ。そのせいで第二魔法の習得が遅れたと思うと腹立たしいが、文句は言うまい。おそらく人間式の魔法にもいろいろ利点はありそうだし。

 

 まあ、その辺りを考えるのはまた今度だな。今はそれよりも。

 

「……問答はこの辺りにして。そろそろ戦いを再開しようか、キール」

 

「ああ、そうだな。これ以上、俺たちの間に言葉はいらん」

 

 つぐづく潔い男だ。だが、それでこそ僕の新たな力のお披露目に相応しい。

 

 さあ、魔力を回せ。世界に命じろ。

 

 あのずいぶんと真っすぐな魔族に僕の力を……と。

 

「――む。ちょっと、リュー。戦いを再開するから下がるんだ。もうお前はいらん」

 

「あっ、ひどいです! トールさまちょっと調子に乗ってそうだから、すぐフォローできるようそばにいたんですよ!」

 

「いい、いい。お前がいても大した戦力にならんし、僕の盾にはもうさせん。……というか、誰が調子に乗っているって? 従者のくせによくそんなことを――」

 

「トールさまっ! きますよ――!」

 

 ああ、もう。締まらないな……! キールもちょっと空気を読んで待っていろよ!

 

 しかし、この僕に対してもはや不意打ちは通用しないぞ。

 

「すでに【空間同化】は発動済みだ。お前が転移で攻撃を仕掛けてこようと、先ほどまでの突きは全て無効化される……!」

 

「くっ。厄介な!」

 

 僕の背後に転移してきたキールは、すぐに意味がないことに気づき下がろうとする。そこへ殺到する炎の柱。

 

「案外できるものだな。第二魔法と第一魔法の同時発動」

 

「第二魔法を習得してすぐにそれか……! 化け物め!」

 

 酷い言われようじゃないか。ははは、敵の焦りほど心地が良い感情はないな!

 

 ……しかし。いま表には出していないが、実は現時点の僕では第二魔法の応用ができない。

 

 やはりこれまでの常識に引きずられて詠唱や魔法陣に頼ってしまう部分があるから、この場でのアドリブがきかないのだ。

 

 だが、それでも。

 

「防御に意識を割かなくともよくなった分、攻撃を工夫することができる」

 

 例えば、【炎】で生み出した火球をぎゅっと圧縮し、手のひらの上に保持し続ける。もちろん身体強化も全開だ。

 

 あとは何か企んでいそうなキールが僕のそばに転移した直後、火球ごと手のひらをぶつけてやれば。

 

「ぐ、あぁあ!」

 

「すでに発動しているから、こうしてすぐに攻撃ができるというわけだ」

 

 キールへ接触した途端に爆発する僕の手のひら。

 

「威力も爆発の指向性をいじってやれば十分だ! 今のは効いたんじゃないか?」

 

「くっ。いい、攻撃だ……!」

 

 そうだな、危なくなればまたすぐに転移で距離を取るよな。

 

 だが……いまキールは何かを狙って僕に接近していた。同じことをしようとして、再び転移で近づいてくるだろう。

 

「何度来ようとも、今のように返り討ちにしてやる。そうすればいずれ、頑丈な魔族の身体にも限界が来るだろう……!」

 

 ハハハハ、高笑いしたい気分だ! ついさっきまではいいようにやられていたが、本領を発揮した僕の前にはすべてが無駄!

 

「さあ、来いキール! どんな策もこの僕が叩き潰してやろう!」

 

「トールさま、ほんとに大丈夫ですか? あんまりその、相手を舐めすぎないでくださいね。怪我したら大変ですからっ」

 

 うるさいな。いまいいところなんだ、水を差さないように。

 

 しかしまあ、リューの言うことにも一理はある。

 

「キールが狙っている起死回生の一手。その予想くらいはしておきたいところだな……っと、また転移で奇襲か。そら、もう一発だ!」

 

「わ! いきなり近くでポンポン爆発するからびっくりしますねえ」

 

 僕に油断するなと言っておいて、お前もすいぶん気が抜けていそうだな。まあ、これ以上リューを危険な目に遭わせるつもりはないから好きにすればいいが。

 

「それで、キールの狙いだったな……。第二魔法である【空間同化】に対抗するには、同じ第二魔法しかない。キールの場合は【空間転移】を使って何かを狙っているんだろうが」

 

 身体が空間と同化しているから無敵というなら、同化している空間自体をどうにかしようとするだろう。そんなことができる魔法は第二魔法のみだ。

 

 ……おっ、またキールが来た。

 

「ふッ! こうして、最後までキールの攻撃に対処しきれるならいいが。一工夫されて攻撃を命中させられた時のことは考えておかないとな」

 

 内心もう戦闘はほぼ終わったつもりで、そんなことを考えていた時だった。

 

「――そこまで俺の狙いがバレているならば。もはやいま仕掛けるしかあるまいな……」

 

 そんな声が聞えたのち、またキールは【空間転移】を発動する。

 

 ん? 消えたが、現れない。

 

 ……逃げたか?

 

 そんなことを思った直後だった。

 

 ――足元で、バキバキと床が割れる音。

 

「下か!」

 

「もらったぞ……!」

 

 こいつ、床下に転移を!? 床で常時発動してる防御魔法を利用して転移の予兆を隠したのか……!

 

 今度は触れられる。

 

 そう思った直後、僕と重なるキールの手。

 

 そしてキールは叫んだ。

 

「【空間転移】……!」

 

 ん? ……別に、キールはどこにも転移していない。

 

 それに、触られたところもやっぱりなんともな…………くないぞ!? これは……キールの手が重なった僕の腹だけ、【空間同化】が解けている!

 

「貴様の第二魔法が対象としていた空間を、俺の【空間転移】で一部占有した。構成をいじって再発動しない限り、再び同化することはできん……」

 

 もしやいま触れられたのは、【空間同化】の構成を読み取るためか!

 

 同じ空間を対象に、互いが別の第二魔法を使ったなら。おそらくその時は、干渉力の大きな方が打ち勝つ。つまり、負けた方の第二魔法が解けるということ……!

 

「やってくれたな、キール!」

 

「ほんの一部を占有することしかできなかったが、もはや貴様は無敵ではない……!」

 

 腹の部分を持っていかれたのが痛い。腕一本くらいなら大したことなかったが、腹は臓器も多いし、一撃で形勢が逆転しかねないぞ!

 

「と、トールさまっ! ピンチですか!? わたしも参加したほうがいいですかっ!?」

 

「そんな青い顔で言われても頼りになるか。足手まといだ、下がっていろ!」

 

 リューと会話する時間くらいはくれるらしい。まあ、僕が【空間同化】を掛け直そうとしたら、その瞬間にキールが襲ってくるんだろうが。

 

 しかし、リューを遠ざけることはできたし、その間待っていてくれたことには礼を言ってやってもいい。

 

 あとはもう――

 

「俺か貴様。どちらが先に倒れるか、殴り合いだ」

 

「ふ、僕は直接攻撃なんてしやしないさ。魔法士は魔法士らしく、魔法で勝負を決める……!」

 

 

 




次話でキール戦は終わりです。
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