魔法学園の呪われ首席少女(の順位)を落としたい 作:タタラ
ふっふっふ。さあ来い、アザレア嬢。
学年次席の僕が行くのだ、(忌々しいことに)首席のアザレア嬢が来ないのは不自然と言うもの。
「ほら、どうかしたかアザレア嬢。こっちだ」
僕はさっさと皆の前に進み出て、魔法の試射用に立てられた的と向かい合う。
うん? アザレア嬢がこない。
「……私と一緒で、いいの?」
「ああ、問題ないから。早くこっちに」
そう言ったのに、まだ来るのを躊躇っている。
なんだ、まどろっこしいな。こっちは早くアザレア嬢に恥かかせたいんだよ。
他のクラスメイトも急に静かになっているし、なんなんだ。
「……な、なあ、これ止めなくていいのかな?」
「そうだよね、ヒイラギさんに何かあったら……」
僕に何があるって?
ほらアザレア嬢、こっちだ! ……やっと来たか。
「どうした、なにをそんなに躊躇っていたんだ」
やっぱり一番槍だから嫌がってるのか? だったら嬉しいが。
「……ヒイラギさんこそ。どういうつもりなの?」
「うん? アザレア嬢を指名したことか? それならさっき言った通りだ。僕たちは学年を代表する者として、何事でもトップを走り皆を牽引する義務がある」
「……いや、私が言ってるのはそのことじゃなくて」
そのことじゃなくて? どうした、口篭って。言えないことか。
……これはもしや、本当にプレッシャーを感じているのではないか? もしそうだとしたら、たしかに理由を口になどできないだろう。貴族として、国を背負うエリートとして恥だものな……!
ふはは、これは僕の時代が来たのではないか? 僕にとってこの程度の注目はなんでもない。すなわち、アザレア嬢のみが実力を十分発揮できない環境!
これは今回の演習、勝ったな……!
――なんて、思っていたのだが。
アザレア嬢はぶっきらぼうな声で、予想だにしないことを言った。
「――最初にやるのはべつに構わないけど。……その。ヒイラギさんは、私と一緒でいいの?」
……ん? 最初にやるのは……いいのか!? プレッシャーは?
「ど、どういうことだ。注目を浴びるのが嫌だったんじゃないのか?」
「……? いや、べつに。……どうせいつもみんなに一挙手一投足警戒されて、こんな視線慣れてるから」
なんだとッ? 慣れているだと!?
……クソッ。大した家柄でもないし前に出てくる性格でもないから、こういったことには不慣れと踏んでいたのに……! これでは僕の策は不発じゃないか。
でも、だったらなおさら何を気にしているんだこの小娘は。ええい、早く言え。
「だから、私が気にしてるのは。…………ヒイラギさんは、その――呪いのこと……。気にしないの?」
「……はあ? 呪い?」
またそれか。だから気にしないと言っているだろう。
「また、そんな下らないことで……」
「な、く、くだらないって……! でも、ヒイラギさんだって知ってるでしょっ? 私の家のこと!」
「アザレア子爵家の呪い、か」
確かに僕の耳にも入っている。
彼女の生家で起こったいくつもの悲劇。そのいずれも、魔法国の者がなにより重要視する魔法や魔力の才能に関わるものだと。
だが、それがどうした。どうせそんなものただの偶然か、必然だとして魔法で説明つくものだろう。
そんなことより僕は、この演習でいかにしてお前に勝つかの方で頭がいっぱいなんだ。
「みんな、私の近くでは魔法を使いたがらない。もし呪いで事故でも起きて魔法が使えなくなったらって。そう言って……」
「ああそう……。うん、僕は気にしないから。どうぞ伸び伸びやってくれ」
いや伸び伸びされても困るな。ぜひ、なんらかの事情で全力出せずに縮こまっててくれ。
「そ、そんなあっさり」
裏で必死に頭回してるからな。こんなしょーもないことに意識を割けん。
あ、そんなに呪いのこと気にしてるなら、そこをつついて全力出させないようにするのはどうだ? ……いや、侯爵家次期当主がそんなあからさまに
「……じゃあ。ほんとうにいい? 私、となりでやるけど」
「ああ。だから、気にしなくていい」
「うん……」
もう、なんなんだ。ずっとこっちをちらちら気にして。
気が散る……ん? よく見ればアザレア嬢。落ち着かない挙動に紅潮して汗ばんだ頬、そしてすこし速い呼吸。
……なんか普通に緊張していないか、コレ。さっきこんなの慣れてるって言っていたよな。
後ろのクラスメイトたちも固唾を飲んで見守ってるし、なんだこの雰囲気は。
――……まあ、いいか!
アザレア嬢が緊張して、周りに重苦しい雰囲気まで漂っているなら。これはむしろ、僕が最初狙った通りの状況になのでは?
うん。それに、あの教師も僕の家格に気を遣ってうるさく言ってこないが、そろそろ痺れを切らしそうだしな。
狙った経過を辿ったわけではないのだが……もう、やってしまうか。
「――どうやら、アザレア嬢には少し落ち着く時間がいりそうだな。ならば、まずは僕から行かせてもらおうか」
隣からか細く「あ」と声が上がったが気にしない。
こんなことはなんでもないという表情を意識し、身体の奥から魔力を励起してと。
よし。では、この場の皆に見せてやる。侯爵家のエリートたる僕が必死こいて習得した、現時点で使える最も高度な魔法を……!
「――お、おい見ろよあれ。魔法陣が二つ!? ヒイラギさんでも緊張して間違えたりとかするのかっ?」
「馬鹿、そんなわけないだろう。あれは……第一魔法の多重発動だ……!」
ふふふ、驚いているな。そうだろうとも。お前たちなら一つの魔法を発動するのでいっぱいいっぱいだろうからな。
選ばれし魔法学園生でもそんな有様なのだから、魔法の多重発動なんてできれば、学生という括りから外しても国内の上澄みだ。
ああ、この驚愕と称賛の視線が心地良い……!
「あ~。トールさま、すごーく得意げなお顔。ご当主さまに怒られちゃいますよ~」
やかましいぞリュー。僕の心の中を覗くな。ある程度でも僕の内心を読めるのはお前くらいのものだ。
……と、魔法の制御が。いかんいかん、ここからが大事なんだ。
突き出した両手の先の魔法陣へ、慎重に魔力を注いで、と。
「おおお、属性を帯びた魔力が溢れてきた……! あれは……水と風か!?」
「私なんてまだ片っぽだけでも一苦労なのに、同時に二つの属性なんて……!」
黄色い声援どうもありがとう。とてもいい気分だぞ。
だがしかし。まだ、これで終わりではないのだ……!
「ん? なんだあれ。二つの魔法陣が移動して……前後に並んだ……?」
「……ま、まさか――あれはッ!?」
ふうううぅ。さすがにこれは、制御がきついが……!
しかし。
――成ったぞ!
「第一魔法――【氷】……!」
練り上げた魔力が、二つの魔法陣を順番に通る。そして、その結果現象として現れたのは。
「
魔法陣から的に向かって、凍える魔力が光線のように飛んでいく。この僕の魔力で満ちた細く伸びる領域に少しでも触れれば、この通り――
「――あ! ま、的が一瞬で凍り付いて……!」
パリン、と。軽い音を立て、凍った的が粉々に砕け散った。
――第一魔法【水】と【風】の複合という高等技術によって、上位属性の魔法を再現する。学生の枠に収まらないこの離れ業に、教師も含めた全員が息を呑んでいる。
ふはは、見たか僕の実力を……! これなら緊張しているアザレア嬢への追い打ちとしても!
そう思って、気分良く隣に視線を向けると。
――いや、アザレア嬢一切こっちを見ていないじゃないか!
「……ふうー。だれかと並んで魔法を使うなんて初めてだけど……。ぜったい、失敗しちゃダメ。呪いなんて気にしない、気にしない……」
魔法を放つ準備――魔力の精錬を行っているようだが、すぐ横で大技を放った僕には全然視線を向けていない。
ただ小さな声で何かブツブツ言って、ちょっと青ざめた顔をしているが。
……ええい! もう知るか! 僕は僕で今できる最高を披露したのだ。後は野となれ山となれ、だ!
「――さあ、アザレア嬢! 次は君の番だ……!」