魔法学園の呪われ首席少女(の順位)を落としたい   作:タタラ

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閑話 先生から見た天才たち

 

 すでに陽が落ち、すっかり夜の帷が降りた学園内。

 

 疲労感を抱えながら、私は重たい足を引きずるように歩く。

 

 ――あ~~、疲れた。なんで三年の演習でこんなことになるんだ……。まだせいぜい十五歳だろう、あの二人!

 

 思い出したらあまりの理不尽さに腹が立ってきた。焦げた床や傷ついた結界の補修でもうこんな時間だし。真っ暗じゃないか。

 

 私は人のいない学園の敷地をすたすたと歩く。

 

 全く……。どういう魔力があれば、学園でも最上位の教師が張った結界を傷つけられるんだか。

 

 ヒイラギさん――あ、いや、ヒイラギが何とかしてくれたからよかったものの、暴発していたらそれこそ訓練場が消し飛んでいたんじゃないか?

 

 思い出しても体が震えるよ。あの膨大な、どす黒く不吉な魔力。あれこそがアザレア子爵家の呪いの源流に違いない。だからあんな家の娘を入学させることは反対だったんだ……!

 

 ……しかし、本当に良かった。あの場にヒイラギがいてくれなかったらどうなっていたことか。

 

 さすがはかのヒイラギ侯のご子息で、この学園きっての傑物だ。いま思い出してもあの神業に驚きを禁じ得ない。

 

 正直、私の実力では何をしているのかはっきりと分からなかったが。ただ明らかなのは、ヒイラギがアザレアの魔法陣に干渉し、本来はあり得ない他者の魔法発動の補助を行っていたことだ。

 

 あれがヒイラギ侯爵家にいくつも伝わるという魔法技術の一つなのか? 先の第一魔法で、ヒイラギの腕がすでに魔法国の最上位に近いとは分かっていたが、まさかあそこまでとは。

 

 ……そもそも、第一魔法のどれか一つでも発動できるなら、その時点で上級魔法士を名乗れるんだからな。他の国ならそれだけで最上位レベルだ。

 

 まったく。今年の三年はどうなっているんだか。ヒイラギとアザレア――あの二人がずば抜けすぎていて、正直教師の面目を保つことができんぞ。

 

 ……まあ、そんな私の不安はいったん忘れるとして。

 

 今日は、本当になんとかなって良かった。まさか侯爵家の嫡男を置いて私が逃げるわけにもいかんし、あのまま暴発していたらみんなであの世行きだったろう。

 

「こうして残業に文句を言えるのも、あの天才のおかげだな。……しかし。私なんかはもう身の程を知っているからいいが」

 

 同級生にはいるんだろうな。――あの天上の才能を前に、心を折られる者が。

 

 そんなことを何とはなしに思った、その時だった。

 

 ほとんど灯りのない、訓練場から校舎へと向かう道中。脇に立ち並ぶいくつもの施設の間で物音がした。

 

 もう夜なのに、いったい……。ん、こいつらは――

 

「制服を着た者が二人。うちの生徒か。――こら! こんな時間にこそこそしているのは誰だっ? 校則違反だぞ!」

 

 そう声をかけると、二つの人影は慌ててこっちを向いて……。

 

 ――ふん、逃げるか。まあそうだろうな。

 

 私ももう疲れてるんだ、これ以上仕事を増やしたくはない。とりあえず今回は見逃して、学園全体に注意を入れるのみでいいだろう。それでまだ続くようなら、その時は本格的に取り締まればいい。

 

「まあ、学生なんてやんちゃをするものだからな。私のときもそう……ん? なんだあれは」

 

 二人が去ったあと、地面に落ちた包みが一つ。

 

 近づいてつまみ上げ、包みを開けてみると……。

 

「んん? なんだこの液体は。まさか、危険な薬物じゃないだろうな……」

 

 小さな瓶に入った薄緑の薬……? ポーションのようにも見えるが、わざわざこんな包みに入れて夜更けに持ち出すものか?

 

 怪しい。ものすごく怪しいぞ。

 

「はあ……。まったく、どうしてこう面倒ごとを増やしてくるのか。今日はもう、さっさと帰ってゆっくりしたかったというのに」

 

 残業はまだ少し続くみたいだ。教師になって数年経つが、今年はすでに面倒ごとが何件も起きてる。

 

 だいたいいつもそうなんだ。

 

 ヒイラギやアザレアのように、不世出の傑物が現れたとき。

 

 ――こうして、色々なことが一気に動き出すのだ。

 

 

 

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