魔法学園の呪われ首席少女(の順位)を落としたい   作:タタラ

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6話

 

 ということで。

 

 魔力増強薬(仮)の捜索を始めた僕たちは、さっそく身近なところから情報を集めだした。

 

 僕にはあまりそういう伝手がない――というより、リューに手柄を譲ってやるため! 僕たちのクラスメイトであるリューの友人に話を聞いてみたところ。

 

「わ! ヒイラギさま……! え? うーん、非合法な物ですか。……あ、あんまりそういうのは詳しくないですけど、それだったら――」

 

 ボカして聞いてみたところ、出てきた情報が『闇市』。国の認可を得ていないものすら売買されていて、うちの生徒にも利用者がいる……か。

 

 僕の家の生業を気にしてか、ずいぶんと恐る恐る教えてくれたが。

 

「魔力増強薬も非合法な薬物だ。闇市が入手元である可能性もゼロではないな」

 

「そうですねえ。そんな場所があるなら、ご当主さまも把握されてそうですけど」

 

「それはそうだが、現時点だとそれくらいしか調査のとっかかりがないからな。まさかはっきり魔力増強薬を知らないかと聞いて回るわけにもいかん」

 

 そんなあからさまに嗅ぎ回ったら、黒幕も引っ込んでしまうからな。まずは小さな可能性でも一つ一つ潰すしかあるまい。

 

 この地道な行動が学園首席――ひいては侯爵家後継者の地位を引き寄せるわけだ。

 

 さあ、小さなことでもコツコツと!

 

「いつになくやる気に溢れてますね! よおし、じゃあ今日は学園もお休みですし、さっそく行ってみましょうか!」

 

 「――闇市へ!」と拳を突き上げるリュー。

 

 そうして、学園を出て闇市へと向かったのだが――

 

 

 

「――ぜ、ぜんぜん調査が進展しなーい!」

 

 おいリュー、声でかい。余計警戒されるだろうが!

 

「なんでみんなあんなに素っ気ないんですかあ。機嫌悪いときのトールさまぐらいです……」

 

「人聞きの悪い。僕はどんな時でもちゃんと対応しているだろう」

 

「えっ気づいてないんですか? トールさま、たまにすっごく雑な扱いしてきます!」

 

「なに? ……それはすまない、気をつける」

 

 ほんとにか? 他人に対してそういうあからさまな態度は取らないよう気をつけてるんだが。世間の印象が悪くなると、結果的に僕が損しそうだからな!

 

 いやしかし無意識だったかもしれん。もうすこし気をつけよう。

 

「トールさまがそんなとこ見せてくれるのわたしだけですもんねっ。ぜんぜん、いいですけどね」

 

 ふうむ。やはり幼い時からそばにいる者には、自覚なく甘えが出るのかもしれんな。

 

 一流はそうと悟らせず、相手からこちらを最優先するよう仕向けるものだ。誰からの評価も落とさず、僕が一番得をする。そういうのがベスト!

 

「ということで、態度は改めるが。それよりも今は」

 

「ご当主さまの依頼ですね。いきなり暗雲立ち込めてますっ」

 

「ああ。どうしたものかな」

 

 リューの言う通り、ここの人たちから物凄く警戒されてるんだよな。怪しい露店の薬屋に声をかけても「あんたらが買うような物はない」と一蹴される。

 

 学園生や貴族と分からないよう高価でない服に着替えて来てるんだが。

 

「今日はこれ以上ここにいても意味がないかもしれないな。闇市に詳しそうな生徒に話を聞いて、日を改めるか」

 

「うーん、そうですねぇ。それがいいかもです……」

 

 逸る気持ちはある。

 

 すぐにでも魔力増強薬を手に入れ、安全性を確認したのち服用したい。そしてアザレア嬢に勝って学園首席を――学園中から敬われ、クソ親父をもギャフンと言わせる、侯爵家当主への切符を手にしたい。

 

 だがしかし。ここは堪えることも重要だ。あまりにしつこくしていては余計に周囲を警戒させ、今後の調査にも差し支えるかもしれん。

 

 そうなれば、打倒アザレア嬢の計画も白紙に戻ってしまうからな。

 

 戦略的に行動するためにも思い出せ、あの忌々しい顔を。最近謎に周囲をウロチョロするようになったあの小娘――きっと万年二位の僕を嘲笑っているに違いない。

 

 ほら。この重い恨みによって、まるで彼女が目の前にいるかのように思い浮かべられる――ん?

 

「いるじゃないか、本当に……!」

 

「どうかしました? トールさま」

 

「見ろ! あそこの露店にいるのはアザレア嬢じゃないか!?」

 

「えー? こんなとこに子爵家の令嬢がいるわけ――あっほんとだ!」

 

 僕たちの視線の先。とある露店の前に立っているのは、宿敵であるニア・アザレアその人だ。

 

 なんでいる? やけに手慣れた様子で、服装もとても庶民ぽいし。

 

 しかも僕たちをすげなく追っ払ったあの店主、アザレア嬢とは普通に話してるじゃないか!

 

「……よし、リュー。なにをしているのか様子を窺うぞ!」

 

「え! な、なんでですか?」

 

「怪しいじゃないか! 落ちぶれても貴族だというのに、身分を偽ってこんなところへ来る理由は一体なんなのか。それこそ今回の調査に関係あるかもしれない……!」

 

 まさか! アザレア嬢の魔力の量と異様な性質……魔力増強薬を使ってはいまいな……!?

 

 姑息にも薬に頼って学年一位の座を手に入れ、僕を嘲笑っている――そんな可能性も十分にあるじゃないか!

 

 もしそうだとすれば、僕が彼女に対抗するため薬を求めているのも必然と言える。アザレア嬢が先に使ってるなら、僕にも使わせろ!

 

「うー、関係あります? アザレアさんの魔力って、薬がうんぬんというより呪いの力じゃ……」

 

「いいから行くぞ! ついてくるんだ」

 

 早速あの店でなにを買おうとしているのか確認だ!

 

 ちょうどアザレア嬢たちの話が聞こえそうな路地裏に身を隠して……。

 

「――ありがとうございます。代金です」

 

「ああ、たしかに受け取った。悪いな、今回はいつもよりは少なくて」

 

「いえ」

 

 なにやら怪しいやり取りだな。アザレア嬢はここの常連らしい。

 

 いったいなんの薬を……と思ったその時だった。

 

「――あの。実は今日、いつもの薬を買うだけじゃなくて、新しい薬も探してまして」

 

「ほう、どんな薬だ? うちにあるものなら、金さえ貰えりゃ売ってやる」

 

「……ほんとうにそんな薬があるかは分からないですけど」

 

 そして、アザレア嬢の口から衝撃的な言葉が飛び出す――。

 

「――魔力量を増やす薬。ここに、ありますか?」

 

「――!!」

 

 やはり! 姑息な手で首席の座を!?

 

「あの言い方じゃ、今回はじめて買おうとしてるみたいですけどねー。わたしたちみたいに噂を聞いて探してるだけかも?」

 

「だとしても、なにかしらの情報は持っているわけだ……! 今日僕たちはなんの成果も得られなかった。せめてアザレア嬢の情報くらいは持って帰らないと!」

 

 それに。この店に魔力増強薬があるか否かもいま分かる……!

 

 さあ、耳を澄まして……。

 

「嬢ちゃんの探してるブツのことを教えるのはやぶさかじゃないが、その前に」

 

 なんだなんだ、早く言え! 気になるところで止めるんじゃ――

 

 

 

「――そこの怪しい二人。さっき追い返したはずだが、またコソコソとどういうつもりだ――?」

 

 

 

「!」

 

 し、しまった……! 声がよく聞こえないからと身を乗り出し過ぎて、僕たちの姿が見えてしまっていたか!

 

 このままでは!

 

 そう焦った直後、露店に向いていたアザレア嬢もこちらに顔を向け、そしてその目を見開く。

 

「――え……。ヒイラギさんと、オリーブさん――?」

 

 くっ、見つかってしまったか。

 

「なんで、ここに」

 

「なんだ嬢ちゃん。……この二人、知り合いか?」

 

 クソ。一番聞きたかったところを聞けなかった……! 周囲からも注目浴びているし。

 

 ――もう、走って逃げるか?

 

 なんて、思っていたのだが。思わぬところから助け舟を出される。

 

「――二人とも、私の……友だちです。すみません、ここにはまだ慣れてないみたいで」

 

 なに? こいつ……なぜ僕たちのことを庇う?

 

 そんな疑問を抱きつつも、アザレア嬢がなんとか誤魔化そうとする言葉を聞く僕たち。

 

 結局、露店の店主は最後まで僕たちを怪しんではいるようだったが。

 

 それでも、なんとか大事にならずにその場を後にする。

 

 アザレア嬢に「ついてきて」と言われ、とりあえず後ろについて歩き出すが……。

 

 く、宿敵に情けをかけられるなんてなんという屈辱!

 

 ……おや、店がない空白地帯で足を止めたな。コソコソしていた僕たちへ詰問でもしようというのか?

 

 身構える僕だったが、アザレア嬢が口にしたのは深いため息だった。

 

 これはこれで屈辱的……!

 

「……二人とも、なんの目的でここに来たのか知らないけど。悪目立ちしすぎだから」

 

「なにっ? だが、ちゃんと学園の制服は脱いで、リューに用意してもらった庶民の服を着ているぞ」

 

「たしかに高い服じゃなさそうだけど。そんないかにもおろし立ての服で闇市に来る人いないから」

 

「たしかに……。も、盲点でした!」

 

 リューのやつめ、これでバッチリと言ってたじゃないか! 庶民のことなどお前頼りだったというのに。

 

「どの店も門前払いだったのはそういう訳か。分かった、次はもう少し下調べして来るとしよう。それに、さっきは誤魔化してもらって助かったよ。ありがとう」

 

 もっと庶民にふさわしい格好になってから出直しだな。

 

「……べつにあれくらい、なんてことないけど。というか、服変えたってこんな庶民いないと思う。……王子様じゃないんだから」

 

「ん? 何か言ったかな、アザレア嬢」

 

「ッなんでもない」

 

 なんだ、人の顔をチラチラ見て。まあいいか。

 

 しかし、今回失敗した原因は分かったが。いま僕が気になっているのはそれよりも――。

 

「アザレア嬢。君に一つ聞きたいことがある」

 

「……なに?」

 

「さっきの店で最後に聞こうとしていたこと。――魔力を増加させる薬。なぜそんなモノを探していたんだ?」

 

 僕をさらに引き離そうとでもしているのか? ただでさえ化け物じみた魔力を持っているのだ、これ以上増やそうとする目的はいったいなんだ。

 

「それは――」

 

 そんな僕の疑問に。アザレア嬢は少し言い淀み、それでも口を開けようとしたその瞬間だった。

 

「トールさまっ。見てください、周り!」

 

「ん?」

 

 アザレア嬢の近くだといつも静かになるリューが、険しい顔で注意を促す。

 

 ……ほう。どうも、囲まれているようだ。

 

 ガラの悪い男たちが何人も、この空き地を僕たちに向かって進んでくる。

 

 魔力も感じる。魔法士が何人か混じってるな。

 

「……なんで? 今さらここで私に絡んでくるやつなんて――」

 

「なんだアザレア嬢。まるで、ここで君は有名人かのような言い方じゃないか」

 

「そっ、それは……」

 

「まあ、その話は後でするとして。いまはあいつらの相手か」

 

「……そうだね。まずは面倒ごとを片付けなきゃ」

 

 どうせ大したやつらじゃなかろう。ささっと追い払ってアザレア嬢と話の続きを――って。

 

 な、なんでアザレア嬢そんな本気の臨戦態勢なんだ?

 

「私に、私たちに手を出してくるやつには。――容赦しないから」

 

 ええ? 殺すつもりじゃないよな?

 

「と、トールさまあ。この人こわい……」

 

 うん。同感だ……。

 

 

 

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