「ルドルフとの対決…聞いたよ」
「…」
「助手席にすら乗らないとは、よほど疲れてるねシリウス」
後部座席のシリウスの心を、スピードシンボリが見透かした。
「導く者に戸惑いはつきものだ。この旅がいいものになることを祈っている」
スピードシンボリが走らせる車が、夜の都会を突き抜けていった。
シリウスは自らが操縦する飛行機で、島から島を移動した。
およそ3日かけて南国の孤島へ辿り着いた。シンボリ家と交流がある村もあり、燃料の補給もできる。
ちょっとしたターフもあり、シンボリ家と関わりのある一部のウマ娘がオフに自主トレをすることもあった。
「久しぶりだね、シリウス。何があったかは知らないけどゆっくり休みな。飛行機はうちの息子たちにみさせる。彼らもメカニックの修行が必要でね」
「ありがとう。任せる」
出迎えてくれた婦人が言った。
少しばかりシリウスの口調が和らぐ。
自然に囲まれたこの孤島でシリウスはお気に入りのスポットがある。
海を一望できる崖の上にシリウスは向かった。
「ウマッターの通知がうるせえな…」
ウマッターやLANEには、後輩たちからの心配のラインが届いていた。
多くのウマ娘がマスクをしてシリウスにメッセージを送っている。
「シリウス先輩、家出しちゃったんですか?」
「帰ってきてくれるの待ってます」
「………」
シリウスは怪訝な顔でその様子を見た。
「ふんっ!」
シリウスが不意に駆けた。
何かを振り切りたい気持ちが現れた走りでシリウスは崖に向かった。
木々を抜けて海が見えてきた時の爽快感は、確かにシリウスに癒しをもたらした。
「はぁ〜……ん!?」
深い息をついたシリウスは、招かれざる先客が先に崖の上にいるのに気がついた。
「いい景色だ…シンボリ家…これを独占してたのかぁ?ずるいなぁセレブは…」
「ステイゴールド…貴様なぜここにいる」
文字通りがけっぷちにたたずんでいた物憂げな眼差し、少しよれたコート。
声が明瞭でなくても後ろ姿のたたずまいでそれがステイゴールドだとシリウスはわかった。
「ああ。ただの偶然だ。信じてもらえないだろうけど。船で旅をしてて、食料が尽きてぶっ倒れてたら、ここに漂着した」
「ハッ、出鱈目な女だ…死ぬぞ?」
「天国だからこんなに景色がよかったのか?はは」
「チッ」
ステイゴールドがはっは、と笑った。
「死んでない。今日も奇跡みたいな日だ。まさか天下のシリウスシンボリに会うと思わなかった。いやあ、世界は大変だなぁ」
「お前も賞レースを走るウマ娘だろ。無関係じゃないはずだ」
「まあね。でも…ウイルスも私たちも、同じ自然界の友じゃないか。いやまあ友じゃないか。でも敵かというとそうじゃない」
「私は禅問答をしにここへきたわけじゃない」
「ははは。邪魔したね。私はもう帰る。そろそろ学園がうるさい頃だ。シリウス、自然界で起こっていることは必ず終わるよ。そしてまた始まる。君の疲れも、必ず消える時が来る」
「調子の狂うやつ。何が言いたいのかわかるようでわからん」
「私も、君の心に土足で入る気はない。ただ・・・少し羨ましいな・・・君とルドルフ会長の関係は・・・」
「何が言いたいんだ」
「ははは、お腹がすいた。じゃあね」
ステイゴールドは言いたいだけ言って帰っていった。
寄せては返す波の音だけを聞けるようになったシリウスは、そのままそこに寝転んだ。
「チッ、どいつもこいつも・・・」
そう言って物思いにふける予定だったが、シリウスが目覚めるとすでに夕日が落ちていた。
(しまった)
と同時に、シリウスは毛布が自分にかけられていることに気づいた。
(誰だ?ステイゴールド?まだいるのか?)
「そういえば・・・最近こんなに深く寝た事なかったっけな・・・」
誰かはわからなかったが、厚意をありがたく思ったシリウスは、軽食として持参していたにんじんスティックをかじりもう一度目を閉じた。
そのころ、トレセン学園の生徒会室。
「何か嬉しそうですね、会長」
「いや・・・なんでもないさ」
「?」
シンボリルドルフのスマホの画面には、優しい顔で眠るシリウスの写真が映し出されていた。
(シリウス、きみはいつだってこの優しいシリウスだ・・・)
「あんた、船が壊れたところにシリウスがくるなんて運がいいね。せいぜいあの子も3日滞在するかどうかってところだ」
「ははは。今回の旅は帰り路が快適そうだ。怒られなければ、乗せてもらえるだろう・・・」
「怒られる?なんでアンタがシリウスに怒られるんだい」
「いやあ、なんでもないさ・・・」
村に宿泊していたステイゴールドが、スマホの画面からシリウスの寝顔の写真を消した。
「旅はいいもんだ。世界がどうとか、レースがどうとか。それすらも忘れさせてくれる。これがシリウスの旅の始まりになったらいいけど――
そうはならないだろうね」
「あっ、流れ星!」
村の子供のときめいた声が夜空に消えていった。
崖ではシリウスの寝息は波に掻き消え、世界の喧騒はどこ吹く風の時間が流れていた。
推し2人の絡みが書きたかった。満足です。