絶望神と共に行く遊戯王5D's   作:重症患者を救いたい

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序章
1話 生まれるべきでなかった絶望


 茫漠とした意識のまま、目を覚ました。

 視界は滲んでいる。寝ぼけた状態のまま身体を起こす。

 ベッドの端にあった端末の画面を確認すれば、時刻は午前10時。起きるのが遅すぎた。

  ―――まあ、自分を必要とする存在などいないのだが。

 ゆっくりベッドから出れば、持っていないはず機械が小奇麗な机の上に無造作に置かれていた。しかし、それには見覚えがあった。

 “デュエルディスク”。あの有名なカードゲームで対戦を行うためのツール。……アニメや漫画の上では、だが。カードが立体映像となり、演出も凝っているのは創作の世界でだけ。この現実ではカードを置いたところで実体があらわれることはない、ただのなりきりセットのはずだ。

 

「……それにしちゃあ完成度が高いな、おい。形状からして5D’sのもんか?」

 

 丁度一挙配信を見終えたから記憶に新しい。その後何をするにもロスが酷いほどには面白い作品だった。覇権と言ってもいいのではないか、あのアニメは。

 ディスクには複数枚のカードがセットされていた。おそらくはデッキ。目視で完全に量がわかるほど目がいいわけではないが、おそらくは40枚。手に取って中身を確認する。

 

「なあにこれぇ?」

 

 MADで散々使い倒されたセリフが思わず出た。【シンクロン】のような統一されたテーマデッキですらない。レベル1のモンスターが多いことが特徴か。それに、「Sp」……スピードスペルと名のついた魔法カード。ますます5D’sじゃねえか、こいつも再現度高いな、とごちりながらめくった最後の40枚目。きらきらとやたらと主張が激しいカードが1枚目に止まる。

 レベル12、攻撃力5000。なるほど立派なステータス。出せれば、だが。いや、出しても『弱い』。

 

「散々こき下ろされてきたカードじゃねえか。なるほど?こいつをメインにしたデッキかよ。誰が作ったんだ?とりあえずこいつはほっといて、問題のデュエルディスクだが……」

 

 まさかな、と思いつつまっとうな姿をしているモンスターをデュエルディスクに置いてみた。

 

「そんじゃ、《終末の騎士》を召喚」

 

 宣言と共に、ゴーグルを被った赤いマフラーの騎士のホログラムが出現した。おお、と感嘆したのも束の間、え?と声が出る。

 

「あー……っと、オレは夢でも見てるのかね」

 

 瞳をぎゅっ、と閉じてゆっくり開く。そこには変わらず黒い装束の騎士が立っていた。

 

「おいおいマジかよ。いつの間に技術が進歩したんだっての。……とりあえず顔洗うか。現状確認はそれからっと」

 

 洗面所に向かって鏡に自分の姿が映る。また声が出た。

 

「んぇ!?誰だ!?」

 

 口をぱくぱくさせている鏡像の自分を指さしている様は実に滑稽なのだろうか。

 少し癖のある茶髪。右目は隠れているかどうか、といった具合。アトモス・グリーンの瞳。すっと綺麗に通った鼻筋。日本人離れしたその顔は、明らかに自分の顔ではなくて―――

 頬をつねってみる。痛い。

 

「夢じゃねえなら何?転生や転移の類じゃねえなら憑依か?しっかし、家の構造は変わってねえし……」

 

 備え付けてあった石鹸でしっかり泡を作り、綺麗に流す。洗面所を後にして、普段着を引っ張り出す。白いTシャツにデニムシャツを羽織ったカジュアルスタイル。財布を探して身分証明書を探す。

 

「免許証、免許証……あった。『ウーヴァン・ディット』、これがこの身体の名前、ね。で、Dホイールって書いてあるってことは、ほぼ確で5D’sの世界じゃねえか。頼むから“正史”の方だったり、シンクロ次元じゃねえことを祈るぜマジで、いや後者には「Sp」はねえけど」

 

 端末と財布をポケットに突っ込み、玄関を開いて一歩踏み出す。目の前には透明な窓が立ち並ぶビル群。どうやらここは大通りから少し外れたアパートのようで、宙に浮かぶ街頭モニターには『WRGP開催まであと100日!』と会場や派手な広告と共に大きな文字で映し出されている。ほっ、と安堵のため息をついた。

 

「アニメ本編の世界かあ。しかも魂を生贄に捧げられるダグナー編が終わってるから安心できるな。WRGPやイリアステルに関わりさえしなけりゃ、被害に遭わねえし。わかんねえことはたくさんあるが、精々一市民として質素に暮らさせてもらいますか。……ん?」

 

 視界の端に、蟹と揶揄される髪型の男と、長身の青い髪の男の姿が目に入る。服もよく見知ったものだ。

 間違いない。不動遊星とブルーノ。この世界の主人公と、その大切な仲間。ブルーノについては、最期を知っているだけになんともいいがたい気持ちが去来する。

 

「あの結末をひっくり返すなんてことは出来やしねえが、なにかはしたくなるよな……いやいや、下手にイリアステルに目をつけられても困るし、ここはスル―……」

 

 ばたん、とドアを閉める。

 はあ、と息をついて、冷房をつけようとする。が、つかない。

 

「ちょっ、壊れてんのか?まずいな、まだ暑さの本番じゃないとはいえ修理しねえとまずい。あれ、修理っていやあ」

 

 インターホンが鳴った。はあい、と反射的に返せば、

 

「依頼されていた修理屋です!ウーヴァン・ディットさんのお家で間違いないでしょうか?」

 

 ブルーノの声がした。おそるおそるドアスコープを覗けば、工具箱を持ったブルーノと、遊星が玄関前で待機していた。

 噂をすればなんとやら。フラグは、折れないものだ。

 

 

 作業はつつがなく終わった。問題の箇所は部品を交換することであっさり直り、エアコンからは冷風が出て、心地いい温度が部屋を包んだ。

 

「いやあ、あやうくこの夏をひいひい言いながら過ごすところでしたよ。どうもありがとうございます!」

「どういたしまして!またの御贔屓を!」

 

 口座の中にはちゃんと金が入っていた。が、「テノール」という名前で何度か30万ほど振り込まれていたので、内心は怖気に襲われている。イリアステルの三皇帝の名前の由来が世界3大テノールであることは作品ファンの間でも有名だ。とてもいやな予感。なぜちょうどいいタイミングで遊星とブルーノが来たのか。これも彼らに仕組まれていたことなのか。わからない。わからない、が……どうせ運命から逃れられないのであれば、折角の蜘蛛の糸を逃すわけにはいかない。踵を返した遊星の服の袖を掴む。

 

「なんだ?」

「えっ、とですね……この後空いていたらでいいんで、ライディングデュエル頼めませんかね?遊星さんが勝てば、なんでもいうこと聞きますよ」

「ウーヴァンさん、なんでもって気軽に言ったらダメだよ。悪い人に付け込まれてしまうからね」

「こっちはもう、必死なんでね。とはいえ、アンタらの都合を無視したお願いなのは百も承知だ。断るんなら、それでも構わねえです―――」

「いや、その勝負受けよう。何か事情があるようだな。見返りはいらないが、話は聞かせてもらうぞ」

 

 低く冴えた声で遊星は答えた。蒼の瞳はまっすぐにこちらを見ている。

 胸の奥に暖かいものが広がっていく。彼の善性は、眩しい。思わず笑みがこぼれる。

 

「そりゃ、もちろん。じゃあ、早速行きましょうか」

 

 

 白い雲がまばらに浮かぶ青空の下、透明な素材で構成されたネオドミノシティのハイウェイの元にDホイールが3台。遊星号とブルーノのスクーター、そしてサイドにオレンジ色で1と刻まれたオレの漆黒のDホイール。即席でノワール・ワンと名付けた。

 セントラルへのデュエル申請も終了し、デュエルレーンが展開される。……アニメを視聴していても思ったが、一般車両にとても迷惑な仕組みだ。デュエリスト至上主義か?

 

「デュエルは真剣勝負ではありますけど、楽しみましょうや。オレの事情は一旦ほっといて、心躍るような闘いが出来たら理想的だ」

「ああ、全力でぶつからせてもらう!」

「二人とも、頑張って!」

 

 ブルーノの声援と共に、二機のモーメントエンジンが唸りをあげる。

 

「フィールド魔法《スピード・ワールド2》セット!」

『DUEL MODE ON. AUTO PILOT STAND BY』

「「ライディングデュエル・アクセラレーション!!!」」

 

 デュエル開始の宣言と共に、オレ達はスロットルを限界まで回し、モーメントを解放させる。虹色に輝くモーメントから絶大なエネルギーを受けた両輪はけたたましい音と共に火花が迸り、地面に轍を刻みつけていく。

 “オレ”はこの機体を扱うのは初めてだというのに、自分の身体のように全てがフィットしていた。加速しても一切ぶれることなく、真っすぐ走り続ける。

 それでも、経験の差というものは埋められない。最適なコース取り、最適なスピードの調整。それらを熟知しているのは遊星の方だ。並走していたノワール・ワンはコーナーで一気に抜き去られた。第一コーナーを制した者が先攻を取る。後攻となったオレは……落胆するどころか、笑みを浮かべる。まずは想定の第一段階をクリアしたからだ。

 

「先攻は俺がもらった!俺のターン、ドロー!《シールド・ウィング》を守備表示で召喚!」

 

 青白い光と共に、緑色のプテラノドンのような鳥が盾のような翼を交差させて登場する。

 その翼は、いくつかの例外を除いてほとんどの攻撃を受け止められる。

 

《シールド・ウィング》ATK0/DEF900(守備表示)

 

 それにしても表側守備表示の召喚とは。OCGを嗜んでいた自分にとっては不自然な光景であり、かつ好都合だった。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンド!さあ、ウーヴァン、おまえのターンだ」

 

 戦闘破壊耐性のある《シールド・ウィング》に2枚の伏せカード。堅実な立ち上がり。下手に攻めても防がれるに違いない。

 

「ほいほい、オレのターン、ドロー!」

 

遊星SPC:0→1

ウーヴァンSPC:0→1

 

 手札6枚を一瞥する。攻勢には出れないが、悪くない手札だ。

 

「《ミスティック・パイパー》を召喚!」

 

 ピエロのような風体の笛吹がスピードの世界に混じりこむ。そして即座にその効果を発動した。

 

「《ミスティック・パイパー》の効果発動!このカードをリリースすることでデッキからカードを1枚ドローします。そしてそのカードがレベル1モンスターだった場合、さらに追加で1枚ドローだ!」

 

 笛の音と共に道化が消えていく中、デッキからカードを引く。

 

「引いたカードはレベル1モンスター《サイバー・ヴァリー》。よってさらにドローですよっと!カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

「モンスターはいないが、レベル1を中心としたデッキならば無防備というわけではなさそうだな」

「まあな!レベル1モンスターにはアンタご存じの《速攻のかかし》や《バトルフェーダー》なり、手札から直接攻撃を防ぐ効果を発動するやつらがいる。それなりに気をつけてくれ」

 

 情報を投げ合う。投げた後の波紋を伺うように。さて、ここまではお互い様子見だ。次は何をしてくる?

 

「俺のターン!」

 

遊星SPC:1→2

ウーヴァンSPC:1→2

 

次なるカードが導かれる。逡巡もなく一手を繰り出してきた。

 

「《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 

 遊星の場に現れたのは、首に大きな数珠を掛け、鎧を纏った戦士。その右腕には刺又を携えている。

 

《マックス・ウォリアー》ATK1800

 

「バトルだ!《マックス・ウォリアー》でウーヴァンにダイレクトアタック!」

「さっき言った手札誘発の類は使わない。通すぜ」

 

 寸分違わずノワール・ワンに突き刺さる一撃。衝撃で機体がバランスを崩しかける。

 

「くっ……」

 

ウーヴァン:LP4000→2200

 

 いい一撃をもらってしまった。これでライフは半分弱。しかし、これも想定内。獰猛に嗤う。

 

「相手の直接攻撃によってダメージを受けた瞬間、手札のレベル1モンスター《サイバー・ヴァリー》を公開して罠発動だ!《無抵抗の真相》!」

「そのカードは、ルドガーが使っていた……!」

「効果を知ってるんなら話は早い。公開したモンスター1体と、デッキに存在する同名モンスター1体を特殊召喚するぜ!」

 

 機械鎧を被せた龍の骸が2体並ぶ。その攻撃力は0。

 

「モンスターを展開してきたか。カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 警戒心を強めたのか、リバースカードが追加される。普通ならば小競り合いの消耗戦を仕掛け、伏せカードを消費させるのが定石か。

 

「オレのターン!」

 

遊星SPC:2→3

ウーヴァンSPC:2→3

 

 だが、それではつまらない。チェンジオブペース。ギアを上げていこう。

 

「《マンジュ・ゴッド》を召喚!」

 

 呼ぶのは儀式の先導者。その全身は無数の手で出来ている。掴み取るために。

 

「召喚に成功したことで効果発動だ。デッキから儀式魔法か儀式モンスターを手札に加える。オレは儀式魔法《Sp-奈落との契約》をサーチする」

「ライディングデュエルで儀式だって!?珍しい戦術だ」

 

 ブルーノが驚くのも無理はない。手軽に大型モンスターが出せるシンクロ召喚に比べて儀式召喚は儀式の生贄となるモンスター、儀式魔法、儀式モンスターの3枚が必要という消費の大きな召喚法だ。5D’s本編でも使用しているデュエリストはいなかった。

 

「《サイバー・ヴァリー》の効果発動。このカードと《マンジュ・ゴッド》を対象にして除外することで、カードを2枚ドローする」

 

 骸と先導者が消滅。こうやってちまちまアドバンテージを稼がなければ、あっという間にじり貧になる。さて、お出ましの時間だ。

 

「SPCが2つ以上あることで儀式魔法《Sp-奈落との契約》を発動だ!このカードは闇属性モンスターの儀式召喚を行う!生贄として儀式召喚するモンスターと同じレベルのモンスターをリリースしなけりゃいけないんですがね。オレは手札のレベル1の《サクリボー》を儀式の餌にする!」

 

 少しずつ、少しずつスピードの世界が熱気を帯びていく。レーンに空いた奈落の底が供物を得たことで臨界点に達し、崩壊。視界を曇らせる瘴気。既に何かが蠢いている。

 

「これは……!?」

 

 遊星の驚きを余所に煙が晴れた。人ではない。上半身のみの異形。腹を捻じ曲げる大穴。巨大なかぎ爪へと膨張した指。食虫植物を彷彿とさせる羽。見るもおぞましいほど飛び出た単眼―――生まれついての捕食者。

 

「儀式召喚!レベル1!《サクリファイス》!」

 

《サクリファイス》ATK0

 

「攻撃力0?だが、ただのモンスターであるはずがない」

「その通りさ!だが、その前に《サクリボー》がリリースされたことで1枚ドローさせてもらうぜ。そして《サクリファイス》の効果発動!《マックス・ウォリアー》を吸収する!『ダーク・ホール』ッ!」

「吸収効果だと!?」

 

 腹を捻じ曲げる大穴はブラックホールさながら戦士を吸い込んでいく。刺又を捨て、大穴の淵を掴んで抵抗するが無駄なことだった。巨大な爪がその背中を抉りこむと、そのまま内部にねじ込んでいく。

 

「そして《サクリファイス》の攻守は吸収したモンスターの数値と同じになる」

 

《サクリファイス》ATK0→1800

 

 遊星は黙ったままだった。今はまだアクセルシンクロを習得していない段階。同じく吸収効果を持つ【機皇帝】への恐怖はまだ心の中にあるのだろう。だが、彼は吠えた。

 

「まだだ!《シールド・ウィング》は2回まで戦闘では破壊されない!《サクリファイス》だけでは突破は不可能だ!」

「《サクリファイス》だけでは、そうですねえ。しっかし、そいつはオレのデッキなら簡単に餌に出来るんだぜ?攻撃力0の《サイバー・ヴァリー》と《シールド・ウィング》の2体をリリース!」

「なに!?」

 

 地面から伸びた4本の白い手が蓮のように広がって《サイバー・ヴァリー》を包み込み、巨大な毒々しい色の尾が《シールド・ウィング》に巻き付いて、両者が地面に飲み込まれる。そして、潜行していた大蛇がその姿を現す。インド神話における大蛇の名を冠した、華美なるラミア型の上級モンスター。

 

「《レプティレス・ヴァースキ》を特殊召喚!こいつは自他のフィールドを問わず攻撃力0のモンスターを2体リリースすることで呼べるモンスターだ」

 

《レプティレス・ヴァースキ》ATK2600

 

「遊星のモンスターが、あっという間に2体とも利用された!?」

「オレのデッキは相手の力を利用する。ウーヴァン・ディット……「奪う」と盗賊を意味する「ヴァンデット」をもじったオレの名前通りな!バトルだ!《サクリファイス》で、ダイレクトアタック!」

「断ち切らせはしない!罠発動、《くず鉄のかかし》!相手モンスター一体の攻撃を無効にする!!」

 

 異形のかぎ爪から遊星を護るように鉄製のかかしが現れる。

 《くず鉄のかかし》に対し、爪がぶつかり合い、高らかな金属音と火花を散らす……そんな一瞬の拮抗の後、爪は《くず鉄のかかし》により弾かれた。

 さらに遊星は攻撃を防いだ《くず鉄のかかし》を指差すと、もう一つの効果を発動させる。

 

「《くず鉄のかかし》は効果発動後、再び場にセットされる!」

 

 自身の効果により、《くず鉄のかかし》は墓地に送られる事なく、そのまま裏側表示でセットし直された。

 使い減りしない罠カード……それこそが、《くず鉄のかかし》の真骨頂。面倒なカードだ。

 

「攻撃力が低い《サクリファイス》の方にそれ使うんですか。じゃ、残りの伏せカードの内1枚は《ガード・ブロック》あたりか?」

「……」

 

 伏せカードを推測し投げかけるも、動じない。流石にそれで動揺するような精神ではない、か。

 

「《レプティレス・ヴァースキ》でダイレクトアタック!」

 

 蛇女の上半身が4本腕を合掌してエネルギーを遊星号に向かって放てば、予想通り受け流された。

 

「《ガード・ブロック》発動!戦闘ダメージを0にしてカードを1枚ドローする!」

「想定通りだな。ターンエンド!」

 

 ここまでの流れはオレが優勢。だが、遊星は笑っていた。

 

「まさか、おまえがここまでのデュエリストだとは思ってもみなかった。そんな強敵と闘えることを誇りに思う」

「まだ序盤ですし、そんなタマじゃねえですよ。“オレ”は余生でデュエルを楽しみたいだけの若輩者だっての。ホントは慎ましく生きれりゃ充分だ」

「楽しみたい、それだけでも十分さ。だからこそ、俺も全力で立ち向かう!俺のターン!」

 

遊星SPC:3→4

ウーヴァンSPC:3→4

 

遊星

LP:4000

SPC:4

Hand:4

Monster:

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set2(1枚は《くず鉄のかかし》)

 

ウーヴァン

LP:2200

SPC:4

Hand:4

Monster:《サクリファイス》《レプティレス・ヴァースキ》

FieldMagic:《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set1+《マックス・ウォリアー》(《サクリファイス》に装備状態)

 

 遊星の口角がふっ、と上がる。間違いなく良いカードを引き当てたに違いない。

 

「手札から《Sp-エンジェル・バトン》を発動!このカードはSPCが2つ以上存在する時に発動できる。カードを2枚ドローし、その後手札1枚を墓地に送る」

 

 手札交換というには便利すぎるカード。もう少し発動条件を厳しくしてもいいんじゃないか?

 

「チューナーモンスター《クイック・シンクロン》は手札からモンスター1体を墓地に送り、特殊召喚できる!」

 

 ガンマン風の小さな機械人が登場。これは反撃の狼煙になるか。

 

「さらに、《クリア・エフェクター》を召喚!」

 

 神秘的な衣装を纏った女性がスピードの世界に混じりこむ。

 

「そして、永続罠発動!《エンジェル・リフト》!墓地から《チューニング・サポーター》を特殊召喚!」

 

 鍋のような形状の頭部を揺らし、小さなロボットは跳ね回った。

 

「いくぞ!レベル1の《チューニング・サポーター》とレベル2の《クリア・エフェクター》に、レベル5の《クイック・シンクロン》をチューニング!」

 

 遊星が腕を振るうと、《クイック・シンクロン》は5つの円環へと変化する。それに追従するように残る2体のモンスターも3つの星へと姿を変えていく。

 

「集いし闘志が、怒号の魔神を呼び覚ます!光差す道となれ!!!」

 

 束ねられた8つの星が描くのは魔神の姿。三叉の黄金角が伸びる頭部に真紅の眼光が灯る。藍の鎧に包まれた胴体、そこからは四本の腕が伸びていた。魔神はレーンを砕きながら二対の羽根を広げ、降り立つ。

 

「―――シンクロ召喚!!粉砕せよ、《ジャンク・デストロイヤー》ッ!!!」

 

 凛々しさと荒々しさを兼ね備えた佇まい。「ジャンク」きっての破壊者がその存在を誇示する。

 

《ジャンク・デストロイヤー》ATK2600

 

「シンクロ召喚に成功したことで、《チューニング・サポーター》、《クリア・エフェクター》、《ジャンク・デストロイヤー》の効果が発動!まずはシンクロ素材となった《チューニング・サポーター》の効果でカードを1枚ドロー!さらに《クリア・エフェクター》もまた、同様の効果を持つ!そして《ジャンク・デストロイヤー》の効果が発動ッ!このカードがシンクロ召喚に成功した時、チューナー以外の使用したシンクロ素材の数までフィールドのカードを破壊する事が出来る!俺が素材にしたモンスターは2体!俺が破壊するのは《サクリファイス》と《レプティレス・ヴァースキ》だ!『タイダル・エナジー』ッ!!」

 

 4つの巨腕に蓄えられたエネルギーが全て放出される。氾濫する莫大な力の渦はそのまま、オレの2体のモンスターを粉砕した。……《クリア・エフェクター》を素材にしたモンスターはアニメ版だと効果が無効になったはずだが、これはOCG版らしい。

 とかく、オレのフィールドにモンスターはいなくなってしまった。

 

「《ジャンク・デストロイヤー》でダイレクトアタック!『デストロイ・ナックル』ッ!」

「これが通れば遊星の勝ちだ!」

「んなもん通しませんって!その攻撃はデッキで受ける!」

「デッキだと?」

「《パワー・ウォール》!受けるダメージが0になるように、500ポイントにつきカードを1枚墓地に送る!本来受けるダメージは2600。よってオレは6枚のカードを墓地に送る!」

 

 ばさっ、とデッキからカードを複数枚引き抜き、投げるようなモーションを取れば、6枚のカードが壁のように展開し、《ジャンク・デストロイヤー》の拳を受け止めた。

 

「攻撃を利用して一気に6枚も……」

「美味しく受け止めさせてもらったぜ?さ、次はどうします?」

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

 さて、目論見通りといったところか。墓地がびかびかと光ってうるさいが、出番は来るから焦らないでほしいもんだ。

 

「オレのターン!」

 

遊星SPC:4→5

ウーヴァンSPC:4→5

 

 ドローする。手札を確認し、流れるようにカードを捌く。

 

「まずはSPCが2つ以上存在することで《Sp-エンジェル・バトン》を発動!2枚ドローして1枚捨てます。そして捨てられた《魔轟神ルリー》の効果発動!こいつを特殊召喚する!」

 

 ピンク色の肌の小悪魔が、地面から出現する。《ルリー》、《棺》、【デモンスミス】……あの出張セットのうちの1体。

 

「続いてはこいつだ!《イービル・ソーン》を召喚!」

 

 刺々しい蕾と食虫植物を生やした蔦が生える。

 

「《イービル・ソーン》の効果発動!このカードをリリースすることで相手に300ダメージを与え、デッキから同名カードを2体攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 蕾が破裂し、遊星にささやかなダメージを与えると同時、禍々しい蔦が増殖。

 

「くっ……」

 

遊星:LP4000→3700

 

「さらに墓地のチューナーモンスター《グローアップ・バルブ》の効果発動。デッキトップからカードを1枚墓地に送り、このカードも復活させる!」

 

 地面からぽこっと、目玉の付いた球根が生えた。これで準備は整った。空気が、ざわりと濁りだす。

 

「レベル1のモンスターが4体か……狙いはシンクロ召喚か?」

「その想定は甘いですよ!―――オレは!レベル1のモンスター4体を墓地へ送る!」

「なに!?」

 

 スピードの世界にぽっかりと黒い大きな穴が開く。穴は虚となって広がっていき、際限なく強烈なプレッシャーが溢れだす。嵐のような威圧感。風が吹き荒れる。

 

「一体何が始まるというんだ……!?」

 

 虚が完全に開いた瞬間、その淵を逞しい巨人の掌が掴み、その姿を徐々に現していく。昏く輝くオールブラックの身体が空の青を鈍く照り返し、暗黒の宇宙の向こう側、この世のあらゆる光を闇に染めかねんほどの神体。甲羅のような装甲を纏い、紅の瞳が遊星を睥睨する。心臓を握りつぶしかねない程の威圧感を放つその名を、オレは高らかに叫んだ。

 

「墓地に眠りし神よ、今こそ現れよ!全ての闇と混沌を統べる絶望の化身!《絶望神アンチホープ》ッ!!」

 

 石畳が震える。街頭が軋む。空間が波打つ。使い手である自分さえ慄く。

 

『我はここに再誕せり!第四の絶望―――生まれるべきでなかった絶望を知らしめんがために!』

 

 ……喋れたのか、この神。

 

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