絶望神と共に行く遊戯王5D's 作:重症患者を救いたい
昼。ネオドミノシティの名所である噴水広場は、陽光にとっぷりと満たされ、噴水を反射した光によって広場は一様に明るく染め上げられていた。
中でも目立つ建物、仕掛け時計が目印の小さな時計屋―――ポッポタイム。そのガレージに、Dホイールを押しながら入る遊星とブルーノにオレは続く。
ノワール・ワンのデュエルログを観るついでにメンテナンスも請け負ってくれるというのだから大助かりだ。二人とも他人のDホイールに興味津々という理由もあるのだろうが、
「お邪魔しますよー……っと」
勝手知らぬ他人の家。失礼のないように、と忍び足で入る。ジャックとクロウは出かけているようだ。
「緊張しているのか?」
「自分のことを調べられるのって緊張するものだよね。ボクも牛尾さんのお世話になっているけど、何度やっても自分の知らない自分が悪いことをしていないか、って不安になっちゃうよ」
「オレに後ろ暗いことがないといいんですけどね。謎の出処からの入金が怖いったらありゃしねえ。《絶望神》様もただのカードじゃないワケだし?」
“テノール”からの複数回にわたる30万の入金。ネーミングからしてイリアステルの関与が否定できない以上は、彼らにとって益となっていることをしていると思った方がいいだろう。
《アンチホープ》は今は出てきていない。曰く、デュエルディスクに置かないと出現出来ないらしい。四六時中いられると迷惑なので、その仕様は非常に助かる。
二人が2台のパソコンの電源を点ければ、とんでもない速度でタイピングがなされていく。目まぐるしく変わる画面。その後、何かしらの検索ページが出てきた。
「まずは『ウーヴァン・ディット』の名前で治安維持局のデータベースにヒットしないか確かめる」
「お願いします」
ざーっ、と流れていく文字列。そして1件のヒット。
ウーヴァン・ディット:19歳
生年月日:XXXX年4月2日
前科なし
両親不明
Dホイール免許取得日:YYYY年5月3日
「え?これだけかい?」
「まるで登録に必須の情報だけ埋まってりゃいい、みたいな違和感がありますね……」
するとデッキホルダーが熱を持った。手に取れば、《アンチホープ》がびかびか光っていた。デュエルディスクに置いて、姿を現させる。事前にソリッドビジョンの大きさを調節したので、掌サイズだ。デフォルメされていてもかわいくはないが。
『ウーヴァン・ディットはとある組織によって育てられたデュエリストハンター。その組織は現治安維持局長官と関わりが深い。表向きの経歴など調べてもそんなものよ』
「その組織とはイリアステルのことか?」
『ご明察だ。もっとも、育てた人間達は末端の末端であり、既に消されている。唯一残ったのはデュエリストとしての技能が研鑽された暗き刃。それがウーヴァン・ディット。“テノール”はイリアステルであり、報酬を送っていたのも奴らだ』
淡々と事実を並べ挙げる絶望神。だが、こいつが前に言っていたことと矛盾する。
「おかしいじゃないですか。そんな実力者ならアンタを使いこなせなかったって発言はなんだよ?……まさか、アンタを召喚する前に勝ってるからとかいうそんなくだらない理由じゃないだろうな?」
『ぎくッ』
「図星みたいだね……」
「そんな理由で、今のウーヴァンの魂をこの身体に憑依させたのか?」
遊星の瞳にはかすかな怒りが混じっている。前のウーヴァンとオレにとって、その行為は存在を侮辱しているに等しいからだ。
『以前のウーヴァン・ディットは組織が直々に始末するまでもない人間を、《サクリファイス》などを用いた吸収戦術で今後歯向かえぬよう戦意すら奪う、機械のような男だった。だが不動遊星、おまえとのデュエルを依頼された時点で気付いたのだ。自分が用済みになったのだと』
「なんだと?」
『裏の人間ばかり相手にしていたというのに、急に表の、しかもフォーチュンカップの優勝者でありこの街をダークシグナーから救った英雄と闘うことになったのだ。今までの相手とは実力が違う。敗北して失敗を理由に組織に始末される未来を予測したのだ』
「それって、使い捨て駒ってことじゃないか!」
『しかし、あの男はやはり淡々としていた。死を受け入れていた。……ならば、だ。その命を散らせるくらいならば新たな魂の依り代にしてやろうと思ったのだ。無論、本人の承諾は得たぞ?』
「それでオレが呼ばれたってわけ」
『そうだ。そして結果、我は我を扱いこなせる者を呼びだすことに成功し、そしてウーヴァン・ディットは生き延びたのだ。そして今のお前もこの世界に来て満たされ始めている。一挙両得どころではないな』
ふふん、と鼻を鳴らす。いや、マジでこいつ……結果だけで見るなら悪くはないかもしれないが、それにしたって結局行動理由はくっそ扱いづらい自分を扱いこなせる理解力のある彼が欲しいってだけだ。
遊星もブルーノも険しい顔をしている。当然だ。
「……ま、いいさ。よろしくない組織に関わっているのはわかったが、今すぐ消されるわけじゃなさそうだし?この神様もオレを守ってくれるでしょうよ。だから、そんな怒んなくたっていいぜ、二人とも」
「だが……イリアステルは危険だ。奴らに利用されてしまうのを黙って見過ごせはしない」
「そうだよ。今度は直接接触してくる可能性だってあるんだ。どうするんだい?」
『我がいるのだ。デュエルで返り討ちにしてくれるわ!』
「召喚条件重い自覚あります?出す前にやられなきゃいいんだが。そういう意味だと、練習がてら、もう1回くらいはデュエルしときたいもんですけど……」
途端、ポッポタイムのガレージに入ってくる影。平均身長よりは小さいが、確かに青年と呼べるであろう年齢の男。バンダナで逆立たせた柿色の箒頭と顔中に施された稲妻のようなマーカーが、外見以上に粗野な印象をうかがわせる。クロウだ。
「帰ったぜ。……誰だ、そいつ?」
「どうも、ウーヴァン・ディットといいます。遊星達とはデュエルで知り合った仲でして……」
「俺に勝った相手だ。デュエリストとしての実力は高い」
「遊星に勝っただ!?マジかよ、WRGPの出場者か?」
「いや、ただのアマチュアですよ。……ちょいときな臭い出自だけどな」
「どういうことだよ?」
「実はね……」
かくかくしかじか。遊星とブルーノ、そして絶望神も交えて今までの経緯を説明する。
「イリアステルの関係者で、妙な神を連れてるって……同情できる事情はあるにせよ、信頼できんのか?」
「ウーヴァン自体は悪い奴じゃない。それはデュエルをすればわかる」
「うん、ボクたちのことも慮ってくれるし、いい人だと思うよ」
「とはいえ、疑いたくなるような情報があるのも事実。そんじゃ、信頼してもらうためにもデュエルしましょうか」
「いいぜ!遊星を倒した実力、見せてみろよ!」
クロウとオレが一定の距離を置いて対峙する。
その距離が意味するもの、それは決闘盤を使ってデュエルを行うためのプレイヤー間にとるべき距離。
互いがおいた距離が定まった時―――それは、デュエルを開始するという意思表示に他ならなかった。
「「デュエル!!」」
ターンランプが点いたのはクロウ。オレはおとなしくカードを5枚ドローし、相手の行動を待つ。
「オレのターン!まずは永続魔法《黒い旋風》を発動するぜ!」
早々に発動された【BF】のエンジン。これは、まずいか?
「へへっ、オレは《BF-蒼炎のシュラ》を召喚!」
《BF-蒼炎のシュラ》ATK1800
現れるのは、藍色の羽毛を持つ鳥人。無数の羽根を散らし、場に降り立った。
「この瞬間、《黒い旋風》の効果発動!「BF」が召喚された時、その攻撃力以下の攻撃力を持つ「BF」を、デッキから1枚手札に加える!オレが手札に加えるのは《BF-月影のカルート》!」
旋風が黒羽のデュエルを加速させる。召喚するだけでアドバンテージを確保するのは、この時代だと破格の効果だったか。
「カードを2枚伏せて、ターンエンド!さあ、お前のターンだぜ!」
「それじゃ、オレのターンですよっと」
さて、まずは《黒い旋風》を退かすことが優先だ。《サイクロン》のようなカードはないが、除去できる手段は既にある。
「《オルターガイスト・メリュシーク》を召喚!」
こちらの先鋒はフランスの伝承に登場する蛇女「メリュジーヌ」の名を冠したマーメイドの幽霊。
《オルターガイスト・メリュシーク》ATK500
「このままバトルです。《メリュシーク》は相手プレイヤーに直接攻撃できる。ダイレクトアタック!」
人魚は鳥人たちをすり抜け、クロウに直接尾鰭を叩きつける。
「くっ……へっ!大したことはねえよ!」
クロウ:LP4000→3500
「なら、《メリュシーク》第二の効果を発動です。相手に戦闘ダメージを与えた時、相手フィールドのカード1枚を対象に取り、墓地へ送る。勿論、対象は《黒い旋風》!」
「な、なに!?」
開かれていた永続魔法が水に飲み込まれる。これで加速の手段は潰した。
「カードを2枚伏せて、ターンエン―――」
「待てよ!そのエンドフェイズに《砂塵の大竜巻》を発動!先に伏せたセットカードを破壊するぜ!」
竜巻が吹き荒れ、伏せたカードが引き裂かれる。これで、オレの場には《メリュシーク》が1体とセットカードが1枚のみだ。
「そして、《砂塵の大竜巻》の効果で手札から魔法・罠カードを1枚セットする!」
「あらためて、ターンエンドです」
「よっしゃあ!オレのターン!」
意気揚々とカードが引かれる。オレの場には弱小モンスターと伏せカードが1枚しかないのだから、あまり警戒もされていないのだろう。
「オレは《BF-黒槍のブラスト》を召喚!」
《BF-黒槍のブラスト》ATK1700
先程の《シュラ》とは趣の違う、どちらかと言えばヒトに近しい形の鳥人が槍を携えて場に現れる。
「いくぜ、バトルだ!」
「バトルフェイズ開始時に速攻魔法《手札断殺》を発動。お互いに手札を2枚墓地へ送り、新たにカードを2枚引く。アンタの手札は2枚。《カルート》は墓地に送ってもらうぜ?」
「だが、攻撃自体を止めるわけじゃねえ!《蒼炎のシュラ》で《オルターガイスト・メリュシーク》を―――」
地面を蹴って、人魚へ飛び掛かる鳥人。だが、なにかに見えない何かに反発されたかのように攻撃が止まる。
「んな!?一体何が……?」
「《手札断殺》で墓地に送った《超電磁タートル》の効果さ。このカードを除外して、バトルフェイズを終了したんですよ」
「《メリュシーク》を残しちまったか……ターンエンドだ!」
除去能力を持つこの人魚は厄介だろう。伏せカードの追加もなし。だが、どう対処してくるかでこちらの動きも変わる。
「ほい、オレのターン!」
とかく、《アンチホープ》がすぐさま除去されることがあってはならない。丁寧に、ゆっくりと、相手のリソースを削っていこう。
「このままバトル!《メリュシーク》でダイレクトアタック!」
再度尾鰭を叩きつけんとする。伏せカードが開かれる様子はない。とすると、《ミラーフォース》の類ではなさそうだ。
「ぐっ……」
クロウ:LP3500→3000
「そして《メリュシーク》が戦闘ダメージを与えたことで効果発動。あんたが最初のターンに伏せたカードを墓地へ送る」
「ちっ……」
悔しそうな顔を見せる。だが、それがブラフの可能性はある。心理戦でイェーガーを出し抜いたこともある男だ。油断は出来ない。
故に。追撃を行う。
「ここで《メリュシーク》をリリースし、速攻魔法《エネミーコントローラー》を発動!《蒼炎のシュラ》を対象にし、エンドフェイズまでそのコントロールを得る!左!右!A!B!」
ABCのコマンドの付いたコントローラーが、オレの指示通りにボタンやキーを動かすと、端子を《シュラ》に接続させ、オレの場に移動させた。
「墓地に送られた《メリュシーク》の効果で、デッキから「オルターガイスト」モンスターである《オルターガイスト・ペリネトレータ》を手札に加えるぜ?んでもってコントロールを得た《シュラ》で《ブラスト》を攻撃!」
蒼の鳥人が槍持つ鳥人へと跳躍し、飛び蹴りを喰らわせる。
「うっ……」
クロウ:LP3000→2900
……またも、伏せカードが発動されることはなかった。オレの“フィールドにカードが1枚しかない”からだろう。鳥獣族1体をリリースしてフィールドのカードを2枚破壊する《ゴッドバードアタック》を使わせないように、オレは立ち回っている。
「バトルは終了です。メインフェイズ2。《サイバー・ヴァリー》召喚。《シュラ》とこのカードを対象に効果発動。この2体を除外してカードを2枚ドロー」
「くそ!人のカードで好き勝手しやがって!」
「ターンエンドです、さ、アンタのターンだ」
「オレのターン!」
クロウ
LP:2900
Hand:3
Monster:
FieldMagic:
Magic&Trap:Set1
ウーヴァン
LP:4000
Hand:5(1枚は《オルターガイスト・ペリネトレータ》)
Monster:
FieldMagic:
Magic&Trap:
オレのフィールドはがら空き。とはいえ、クロウも《速攻のかかし》然り《バトルフェーダー》然り、手札誘発の存在は知っているだろう。さて、どう来るか。
「来い、チューナーモンスター《BF-極北のブリザード》!こいつの効果で墓地のレベル4以下の「BF」一体を守備表示で特殊召喚する!」
召喚されたのは、極北の名にふさわしい氷色の羽毛を持つ、でっぷりとした鳥。降り立ったそれはディスクのある部分、墓地ゾーンをその黄色い嘴でたたいた。
墓地から溢れる黒い閃光が、クロウを包み込むほどに膨れ上がる。
「甦れ、《黒槍のブラスト》!」
「よし、これでシンクロ召喚が出来る!」
「これで切り返せればいいが……」
「レベル4の《黒槍のブラスト》にレベル2の《極北のブリザード》をチューニング!」
《ブリザード》がその丸々とした身体を羽搏きで浮かせ、大きく飛び上がる。はらはらと舞い散る白と黒の混じり合った羽根。その羽根に飾られた風の中で、《ブラスト》の身体が崩れていく。4つの光の星となった同胞を引き連れ、ブリザードはくぇと一鳴きした。弾けるようにその身体も2つの星へ。
「漆黒の力!大いなる翼に宿りて、神風を巻き起こせ!―――シンクロ召喚!吹き荒べ、《BF-アームズ・ウィング》!!」
途端に溢れ返る光が渦巻き、その内から出現するは漆黒の鎧を纏った銃剣を携えた戦士。
黒い双翼が広がれば、一面水晶で覆われた仮面が一際大きく発光した。
《BF-アームズ・ウィング》ATK2300
「バトルだ!《アームズ・ウィング》でダイレクトアタック!『ブラック・チャージ』!」
対象目掛けて一直線に滑空し、一息で十数発もの弾丸を銃剣から連射する。軌道がぶれる突貫中の射撃である以上、命中に期待は出来ない。だが、オレを怯ませるには十分だった。
身動きできない隙をついて一気に距離を詰めた《アームズ・ウィング》は、銃剣を振り下ろし―――帽子を被った巨大なデフォルメされた蚊に抑え込まれた。
「な、なんだ?」
「手札の《スモーク・モスキート》の効果を発動したのさ。相手モンスターの攻撃によってオレが戦闘ダメージを受ける際にこのカードは特殊召喚でき、この戦闘で発生する戦闘ダメージを半分にする」
ウーヴァン:LP4000→2850
「そして、ダメージステップ終了時にバトルフェイズを強制終了させる」
《スモーク・モスキート》が煙を吐き出し、一瞬視界を遮る。これでたとえモンスターが《スワローズ・ネスト》のようなカードで追加召喚されたとしても、追撃は不可能となった。
「……カードを1枚伏せて、ターンエンドだ!」
「そんじゃあ、まあ、そろそろ本気だしますか。オレのターン!」
獰猛に嗤う。クロウが身構える。遊星とブルーノが警戒する。
「手札のモンスターカード《オルターガイスト・ペリネトレータ》を捨て、《ワン・フォー・ワン》を発動!デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する!オレが召喚するのは、《ブロック・スパイダー》!」
呼び出されるは、胴体がブロックで構成された、サングラスをかけたファンシーな蜘蛛。
「《ブロック・スパイダー》の効果発動!このカードが特殊召喚に成功した時、デッキから同名モンスターを1体特殊召喚するぜ?来い!」
蜘蛛が2体に増え、手袋をつけた前脚二つでお互いに握手しあう。
「さらに墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動!デッキトップのカードを墓地へ送り、このカードを特殊召喚する!」
目玉の付いた球根がぽこっ、と地面から出現する。
「これでレベル1モンスターが4体揃った……」
「来るのか!?」
「いくぜ?《スモーク・モスキート》、《ブロック・スパイダー》2体、《グローアップ・バルブ》の4体を墓地へ送る!」
石畳から瘴気が溢れだし、降臨するは絶望を司る神。数々の嘲弄、汚名を感じさせぬ程の異様なる威容を放ち、紅の眼が義賊を射抜く。
「暴れていいぞ!《絶望神アンチホープ》!!」
『我等が存在意義は勝ち続けること!』
《絶望神アンチホープ》ATK5000
クロウが一歩後ずさる。そして、ほくそ笑んだ。
「この瞬間を待ってたぜ!罠発動!《奈落の落とし穴》!攻撃力1500以上のモンスターが召喚・特殊召喚に成功した時、そのモンスターを破壊しゲームから除外する!」
「やらせませんって!《禁じられた聖槍》を発動!攻撃力を800ダウンし、このカード以外の魔法・罠の効果を受けなくする!」
《アンチホープ》に向かってくる魔法・罠の対処はこのカードなくして対処が出来ない。半ば必須カードになっている。しかし《奈落》か。モンスターを4体並べた時点で《ゴッドバードアタック》をしなかったあたり、オレが警戒をしすぎたのか―――いや、クロウはまだ笑っている。
「これにチェーンだ!《アームズ・ウィング》をリリースして《ゴッドバードアタック》を発動!フィールド上のカードを2枚破壊する!オレが対象にするのは《アンチホープ》と《奈落の落とし穴》だ!」
「な、なんだとッ!?」
『馬鹿な!』
《アームズ・ウィング》が光を蓄え、自らのエネルギーを充填させると、狙いすまして《アンチホープ》と開かれた《奈落》へと光弾を放つ。光に貫かれ、弾けとぶ絶望神。想定外だ。
「へへっ、ご自慢の神様はふっとばしてやったぜ!」
「すごい!モンスターが4体並んだ時に《ゴッドバードアタック》を発動しなかったのは、ウーヴァンがまだ通常召喚を行なっていなかったからだね」
「ああ!あの時点で2体吹き飛ばしても他の上級モンスターを召喚される恐れがあったからな。だったら、召喚した時の隙をついてやればいい。勿論、1枚じゃ防がれちまうだろうから、2段構えでな!」
「流石だクロウ。俺が苦戦させられた神を簡単に攻略した!」
ギャラリーがクロウを褒める。なるほど迂闊だったかもしれない。罠の扱いに関してはクロウが1枚上手だ。
「お見事。ですが、アンタらが言う通り、オレはまだ通常召喚していません。《金華猫》を召喚!」
霊子で出来た妖怪猫を呼び出す。
《金華猫》ATK400
「召喚に成功したことで効果発動。墓地からレベル1モンスターである《オルターガイスト・ペリネトレータ》を特殊召喚する!」
炎をモチーフとした魔人、《メリュシーク》と対になる霊が猫に誘われ地面から登場する。
《オルターガイスト・ペリネトレータ》ATK500
「バトルだ!《金華猫》と《オルターガイスト・ペリネトレータ》でダイレクトアタック!」
猫がクロウを惑わせ、魔人が小さな炎をぶつけた。ささやかな叛逆だ。
「ぐあっ!」
クロウ:LP2900→2500→2000
「《ペリネトレータ》が戦闘ダメージを与えたことで1枚ドローします。カードを1枚セットし、エンドフェイズに《金華猫》の効果発動。このカードは召喚したターンのエンドフェイズに手札に戻る。そして《金華猫》がフィールドを離れたことで蘇生した《ペリネトレータ》は除外される。ターンエンド!」
「へっ、一度超大型モンスターを出した後は、じり貧になるって相場が決まっているもんだぜ。オレのターン!」
クロウ
LP:2000
Hand:2
Monster:
FieldMagic:
Magic&Trap:
ウーヴァン
LP:2850
Hand:2(1枚は《金華猫》)
Monster:
FieldMagic:
Magic&Trap:Set1
今、風はクロウに吹いている。この勢いに乗ってクロウがどこまで展開するかで勝負は決まる。
「《BF-疾風のゲイル》を召喚!」
《BF-疾風のゲイル》ATK1300
完全な鳥に近いモンスターが現れる。攻守半減効果の裁定が細かいことでよく知られる1枚だ。
「そして、お前の《手札断殺》で墓地に送られた《BF-大旆のヴァーユ》の効果を発動!こいつと「BF」モンスターを除外することで、そのレベルの合計と同じレベルを持つ「BF」シンクロモンスターを効果を無効にして特殊召喚する!レベル1の《ヴァーユ》とレベル6の《アームズ・ウィング》を除外する!」
地面に開いた黒い穴から飛び立つ一つの影。甲冑にも似た意匠の外殻に、鋭利な刃を想起させる翼。強靭な四肢。中空でそれは姿を転じ、黒い羽根が舞う中それは降り立った。
「出ろ!《BF-アーマード・ウィング》!!」
《BF-アーマード・ウィング》ATK2500
「総攻撃力がウーヴァンのライフを上回ったよ!」
「いけるか!?」
「バトルだ!《疾風のゲイル》でダイレクトアタック!」
《ゲイル》がその名の通り、風を巻き起こし、それがかまいたちの如くオレに襲い掛かる。
「ぐっ……」
ウーヴァン:LP2850→1550
「トドメだ!《アーマード・ウィング》でダイレクトアタック!『ブラック・ハリケーン』ッ!!」
《アーマード・ウィング》は旋風を身に纏い、無防備な体目がけて拳を振るう。瞬間、オレは《金華猫》以外に残った手札1枚を切った。
「手札の《カイトロイド》の効果発動です!このカードを手札から捨て、直接攻撃によって発生するダメージを0にする!」
拳はデフォルメされたハンググライダーによって受け止められた。このデッキでは非常に重宝する防御札だ。
「凌がれちまったか……カードを1枚伏せて、ターンエン―――」
「このエンドフェイズ、《リミット・リバース》を発動!攻撃力1000以下のモンスターである《ブロック・スパイダー》を特殊召喚!そして、その効果によりデッキから最後の《ブロック・スパイダー》を特殊召喚!」
ブロック蜘蛛が再びフィールドに2体揃えられる。
「お前、まさか……!ターンエンドだ!」
「わかっているようですね。絶望は1度きりじゃない。それを見せてやるよ。オレのターン!」
デッキトップに指をかけ、勢いよく引き抜き、風を巻き起こす。デュエルにおいて、風向きは自然に変わるものじゃあない。自分でコントロールするものだ。
「《金華猫》を召喚!召喚成功時の効果により、墓地から《オルターガイスト・メリュシーク》を復活させる!」
猫と人魚が並ぶ。その横にはブロック同士が組み合わさった蜘蛛が2体。
「またレベル1モンスターが4体……」
「いくぜ?《ブロック・スパイダー》2体、《金華猫》、《オルターガイスト・メリュシーク》を墓地に送る!出でよ!《絶望神アンチホープ》!」
『小さき者よ、我に歯向かう愚を知れ!』
荘厳なるや漆黒の絶望神。その身に受けた絶望が心から晴れぬ限り、何度でも蘇る。
《絶望神アンチホープ》ATK5000
「嘘だろ……」
「これが現実さ。バトルフェイズ!《アンチホープ》で《アーマード・ウィング》を攻撃!『アンチホープ・ディスペア・スラッシュ』ッ!!」
外殻の5本の剣がゆっくりと抜かれると、雨のように甲冑の鳥人へと降り注ぐ。
「罠発動!《聖なるバリア-ミラーフォース-》!」
「無駄だぁ!墓地の《ブロック・スパイダー》を除外し、《アンチホープ》の効果発動!ダメージステップ終了時まで他の効果を受けず、戦闘では破壊されない!」
「くそ!ダメか!」
剣雨に貫かれる《アーマード・ウィング》。その余波がクロウを襲い、ライフを0にした。
「ぐぁあああああッ!」
クロウ:LP2000→0
大の字になって倒れるクロウ。その顔には悔しさが滲んでいた。
「だーっ!チクショウ!負けちまった!」
「どうも、対戦ありがとうございました。楽しいデュエルでしたよ」
「へっ、次は負けねえからな!」
固く握手を交わす。絆が芽生えた瞬間だった。
「強いな。俺だけでなくクロウにも勝つとは」
「WRGPまで後3ヶ月ちょっとだ。キミのような強敵に会えたのは幸運だったかもしれない」
「ああ、身近なところでもこれだけの実力をもった奴がいるんだ。世界にはもっと強い奴がいるんだろうな」
『勝利する度、我が憎悪が清められていくのを感じるぞ……』
感じ入る3人と神。少しは彼らに貢献できたのであれば喜ばしいことだ。いや、神はどうでもいいが。
瞬間、端末が振動する。非通知の電話。
『今から旧サテライトの湾岸に来い。誰もつれず一人で、だ。逃げれば、わかっているな?』
聞いたことのある命令口調。やはり、この身が背負った宿命からは逃れられないようだ。
「あー……オレのDホイールのメンテナンス、今からお願いできますか?呼び出しくらっちゃってな」
「……イリアステルか?だったら俺達も」
「いえいえ、一人で、ってご指名なんで」
『相手は世界の上層さえも動かせる組織だ。貴様らが動いたところでこのウーヴァンの身が助かる保証はない。おとなしく機体の調整に集中してくれた方がマシだ』
「けどよ!」
「大丈夫ですって、無事に帰ってきますから」
「……わかった。けれど、ボク達がキミの身を案じていることを忘れないで」
ブルーノ達が真摯な眼差しを向けてくる。以前の世界では、こんな風に心配してくれる仲間がいなかったから新鮮だ。心地いい。
「承知です。さあ、善は急げだ」
指定された場所に向かえば、電話の主―――プラシドと対面することになるだろう。準備はきっちりしておかねば。絶望に絶望を重ねる用意は、既に出来ている。後は、機体の調子を万全にすることだけだ。