絶望神と共に行く遊戯王5D's   作:重症患者を救いたい

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5話 類は友を呼ぶ。消しゴムとは呼ばないで

 プラシドとの激闘を終えた後、オレは遊星たちに無事であることと、雇い主――イリアステルを撃退したことを伝えた。詳しい話は、明日ポッポハウスですることになっている。

 Dホイール《ノワール・ワン》を駐車場に停め、自宅アパートへ戻ると―――郵便受けの前に、見知らぬ男が立っていた。

 ハーフバックにまとめられた、海色のウルフヘアー。琥珀色の瞳。墨で塗りつぶしたような黒のタンクトップとズボンを身にまとい、身長はざっと185センチほどか。

 男は、威圧感を奥底に封じたような目つきで、辺りを静かに見回していた。

そして、オレを見つけるなり―――にかっ、と犬歯を覗かせて笑い、ゆっくりと近づいてきた。

 ……目は、笑っていなかった。

 

「よう、お疲れさん。あんたはウーヴァン・ディットで間違いねえか?」

「……そうですけど。誰ですか、アンタ?」

「おっと、自己紹介がまだだったな。俺はオルデ・ストロイ。あんたと同じく、創造主に嫌われた神様を持ってるぜ。……こいつだ」

 

 男――オルデが懐から一枚のカードを取り出し、こちらに見せる。

 墨のような闇を纏い、全身から毒気を放つ邪悪な姿。そのイラストに見覚えがあった。

《邪神イレイザー》。

 三邪神と呼ばれるカード群の一柱。圧倒的な破壊力を誇るが、その性能は制御が難しく、使いこなす者を選ぶとされる。

 次の瞬間、オレのデッキホルダーがじり……と熱を帯びた。反射的にホルダーを開き、デッキを取り出す。

 やはりだ。熱源は《絶望神アンチホープ》―――オレの神。

 

「なんか、反応してるな……。とりあえず、立ち話もなんなんで、家に招待しますよ」

「おっと、そいつはありがてえ。夜とはいえ、この暑さじゃ立ちっぱなしは辛くてな」

 

 本音を言えば、見ず知らずの男を家に上げるなんて御免だった。

 けれど、オレもさすがに休息を必要としていた。長い戦いの後だ。心も体も、静けさを求めていた。

 オートロックを開け、階段を上がる。二階の角部屋。オレの部屋の扉を開けて、靴を脱ぐ。

 

「適当に座ってください。冷たいの、ありますけど……」

「お、気が利くな。じゃあ、炭酸系があればもらえるか?」

 オレは冷蔵庫から缶のソーダを取り出し、無言で渡す。オルデは犬歯を見せて笑い、受け取った。

 

ソーダの缶をプシュッと開け、オルデは一口啜る。

 

「はぁ……やっぱ冷えた炭酸ってのは最高だな。デュエルの後なら尚更だ」

「……アンタも闘っていたんですか?」

「ああ。といっても相手は……ただの裏の荒くれ者連中だ。あんたの闘ってた機皇帝、だっけか。そいつのような大物と闘う機会なんざなくてな」

 

 オレは黙って、自分の缶を開けた。中身は無糖のアイスコーヒー。渋みが舌に残る。

 

「それで、なんでオレの家を……」

「ああ、それな。……こいつ、《イレイザー》に案内されたんだよ」

「……は?」

 

 眉をひそめるオレに、オルデは苦笑した。

 

「あんたの《アンチホープ》同様、こいつには意思がある。で、同類を見つけたから接触しろって五月蠅くてよ。それじゃ、神も交えて話をしようや」

 

 お互い、デュエルディスクに神をセットする。

 次の瞬間、黒き悪魔と漆黒の邪竜が、部屋の広さに合わせた姿で顕現した。

 

『我に何の用だ。破壊の神よ』

『うーっす、つれねえな絶望の神よう。同類とダチになりてえってのは悪いことなんすか?』

 

 《アンチホープ》が威厳を崩さないのに対し、《イレイザー》のノリは軽薄だ。神も十人十色、ということだろうか。

 

『同類だと? 我と貴様がか?』

『違いないっしょ。あっちの……OCG次元でよ、俺らはクズカード呼ばわりされてたわけじゃん? だからカードプールがまだ少なくて、活躍の場が広くなるであろうこの世界に来てさ、名誉挽回、汚名返上を狙ってたんだろ?』

『……その点については否定はせん』

『まあまあ、素直になりなって。で、どうよ? 仲間にならん?この物語の主役たちを“WRGP”っていう大舞台で蹴散らしてよ、目的達成といこうじゃねえの』

『それが目的か。だが、まずは貴様の力を見極めなければ話にならん。構えろ、ウーヴァン!』

『そう来ると思ったぜ。―――オルデ! 一発かましてやろうじゃん!』

 

 次の瞬間、オレたちのデュエルディスクが、勝手に展開された。有無を言わせぬ気配が、部屋を満たす。

 

「仕方ないですね。まあ、デュエルは挨拶の上位互換だ。うだうだしゃべるより、こっちの方が手っ取り早い」

「応よ!それに雑魚の相手はもう飽きてきた。やっぱ実力者とやらねえと満たされねえからな!」

 

 ―――なるほど。戦闘狂と破壊の神。相性がいいのも納得だ。

 こちらも負けていられない。

 

「「デュエルッ!!」」

 

 ターンランプが点いたのはオルデ。先攻をとられてしまったため、オレは素直に5枚の手札を眺めて作戦を立てる。

 

「俺のターン!」

 

 カードを引き抜く音がやけに勢いを帯びて響いた。さあ、どうでるか。

 

「モンスターをセット。カードを3枚伏せてターンエンドだぜ」

 

 好戦的な性格の割には堅実な布陣。何を狙っている?

 

「じゃあ、オレのターンですよっと」

 

 1枚ドローした、その瞬間―――

 

「このスタンバイフェイズに永続罠《魔封じの芳香》を発動するぜ。これでお互いに魔法カードはセットしなければ発動できず、セットしたプレイヤーから見て次の自分ターンが来るまで発動できなくなったわけだ」

 

 妖艶な香りがデュエルの世界に混ざりこむ。場に潜ませなければ魔法の発動を許可しない閉ざされた空間の構築。

 

「また面倒なカードを……」

「仕方ねえだろ?《イレイザー》との相性がいいんだからよ」

「それはそうなんですがね。使われた方はたまったもんじゃない。モンスターをセット、カードを1枚伏せてターンエンド」

「おっと、そのエンドフェイズに永続罠《メタル・リフレクト・スライム》発動だ!このカードは効果モンスターとなり、フィールドに守備表示で特殊召喚されるぜ」

 

 次の瞬間、銀色のゲルが地面から溢れ出し、棘を生やした球体へと変貌する。

 

《メタル・リフレクト・スライム》ATK0/DEF3000 LEVEL10

 

「あらためて、ターンエンドです」

「じゃあ、いくぜ? 俺のターン!」

 

 犬歯を剥き出しにし、勢いよくカードを引き抜く。

 

「まずはこいつだ。フィールドの攻撃力0の水族・レベル10モンスター《メタル・リフレクト・スライム》を、神の現身へと変える!」

 

 スライムが急激に膨張し、銀色の質量がフィールド一面を覆う。やがてそれは巨人の形を成し、未曽有の巨像となった。堅固なる水、不滅の壁。艶やかな銀の装甲は部屋の光を反射し、神々しいまでに輝く。

 

「変化完了―――《神・スライム》!」

 

《神・スライム》ATK3000

 大型モンスターが場に降り立つ。しかし、その真価は別にある。

 

「こいつは自身以外のモンスターを対象に取らせない効果を持つ。これでこのセットモンスターへの妨害はほぼ防げるってわけだ。さあ――反転召喚、《メタモルポット》! 効果発動。お互いの手札を全て捨て、新たに5枚ドローだ!」

 

 壺の中に潜む単眼の魔物が嗤い、宝物をばらまくように新たなカードが両者の手へ舞い込む。可能性の芽が、互いの手札に宿った。

 

「さらに、《メタモルポット》をリリースし、罠カード《ナイトメア・デーモンズ》発動! あんたの場に「ナイトメア・デーモン・トークン」3体を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

 黒い妖精のような悪魔たちが、オレのフィールドに3体現れ、嘲笑いながら舞う。――ただのトークンではない。厄介な能力を秘めている。

 

「ナイトメア・デーモン・トークン」ATK2000

 

「賑やかになってきましたね……」

「盛り上がってきたところで、そろそろ真打登場だ!《神・スライム》には特別な力がある。アドバンス召喚に必要な3体分のリリースを、このカード1枚でまかなえるぜ!」

「来るか―――!」

「じゃあ見せてやるよ、俺の“神”を。《神・スライム》を生贄に捧げ―――降臨せよ! 死と退廃を齎す破壊の化身、《邪神イレイザー》!!」

 

 銀の巨像が光に包まれ、霧散する。

 直後、空気が濁り、ざわりと蠢き出す。澱んだ風が渦を巻き、高く、高く、天井を突き破らんばかりにせり上がっていく。その渦を裂いて現れたのは、世界に牙を剥くような刺々しい輪郭を持つ、蝙蝠のごとき翼の邪竜。闇よりも黒い滑らかな体表、そして頭部には本来の顔とは別に、巨大な嘴状の顎がそそり立つ。

 

『俺様、参上!!』

 

 軽薄な口上とは裏腹に、その威容は重く、圧倒的だ。戦慄が、背骨を駆け抜けていく。

 

「こいつの恐ろしさは、姿だけじゃねぇ。《邪神イレイザー》の攻撃力は――相手フィールドのカード1枚につき、1000ポイントアップする!」

 

 邪竜の体表を走る黒い紋様が、禍々しい光を帯びて脈動する。

 その光は、まるで相手の場にあるカードの気配を吸い上げるように強くなっていった。

 

「あんたの場には、セットモンスター1体と「ナイトメア・デーモン・トークン」3体、さらにリバースカードが1枚。合計5枚だ。つまり――今の攻撃力は!」

 

 邪竜が咆哮し、闇の波動が周囲を打ち震わせる。

 

《邪神イレイザー》ATK5000

 

『いやあ、相手の出方によって能力が変化するブザマなモンスターと言われちゃいたが、自前で相手の場にカードを用意出来りゃ、ざっとこんなもんよッ!!やろうぜ、オルデ!』

「任せな!バトルだ――《邪神イレイザー》!「ナイトメア・デーモン・トークン」を攻撃!!――――『ダイジェスティブ・ブレス』ッ!!」

 

 邪竜の両翼が大きく広がり、空間を切り裂くような咆哮と共に、漆黒の奔流が一直線に吐き出される。

 その圧力は空気を押し潰し、眼前のトークンを呑み込もうとしていた。攻撃力の差は3000―――直撃すれば致命傷は免れない。

 

「させませんよ!リバースカード・オープン―――《和睦の使者》!」

 

 瞬間、眩い障壁が展開し、オレとモンスターたちを包み込む。

 ブレスが壁面に叩きつけられ、轟音と共に黒い炎が弾かれた。

 

「このターン、オレのモンスターは戦闘では破壊されず、オレが受ける戦闘ダメージもゼロになります!」

 

 燃え残った黒い靄が障壁の外で渦を巻き、やがて霧散する。邪竜の猛攻は確かに受け流した。

 

「ちっ!防がれちまったか!《和睦の使者》の発動後、墓地に送られたことにより《イレイザー》の攻撃力は1000ダウンする」

『けっ!マジでこの仕様迷惑だよな!』

 

《邪神イレイザー》ATK5000→4000

 

悪態をつくオルデと《イレイザー》。まるで長年のコンビのように息が合っている。

 

「……そんじゃ、このままターンエンドだ」

「ではオレのターン!」

 

 《メタモルポット》のおかげで今の手札は6枚。潤沢ではある。だが……

 

『知ってんだぜ? テメェの《アンチホープ》様は、レベル1モンスター4体を墓地に送らなきゃ召喚できねぇんだろ? しかーし! 今テメェの場にいるのは、墓地に送れねぇ《ナイトメア・デーモン・トークン》が3体! おまけに《魔封じの芳香》が効いてっから魔法も封じられてるぜ! どう来るんだ、あん?』

「お手並み拝見ってやつだな」

 

 ガラの悪いコンビが、口角を吊り上げて煽ってくる。

 

「―――なら、こうしましょうか! オレは「ナイトメア・デーモン・トークン」2体をリリース!」

 

 その瞬間、足元に巨大な闇の孔が開く。底知れぬ漆黒の世界から、空間を揺るがす嘶きが響き渡った。やがて、闇を切り裂くように翼が広がり――空間の支配者が姿を現す。

 

「アドバンス召喚! 《闇黒の魔王ディアボロス》!」

 

 竜人のようなシルエット。灰色の体表を覆う黒鱗、暗赤色の翼膜。胸の核から走る赤いラインは、禍々しい魔力の奔流を物語っていた。

 

《闇黒の魔王ディアボロス》ATK3000

 

「なっ……なんでレベル1デッキにそんなもんが入ってやがる!?」

「なんでって……隠し味ですよ。今回は使わなかったが、こいつは闇属性モンスターをリリースしても出せる。《アンチホープ》だけが主力なんて、まさか思ってないですよね?」

「ぐっ……」

「さらに―――残った「ナイトメア・デーモン・トークン」をリリースし、《ディアボロス》の効果発動!オルデ、アンタの手札1枚をデッキトップかボトムに戻してもらう」

「ちっ……」

 

 渋々と、オルデは1枚をデッキの底へと沈めた。これでオレのフィールドは《ディアボロス》とセットモンスターの2体だけ。

 

『お、おい!これで俺様の攻撃力、2000まで落ちちまったぞ!?』

 

《邪神イレイザー》ATK4000 → 2000

 

 さっきまでの威圧感は影を潜め、邪神は苛立ち混じりに唸り声を上げた。

 

「じゃあ、バトルです!行け、《ディアボロス》!《邪神イレイザー》を亡き者にしろ!」

 

 魔王の咆哮が空間を裂き、黒き翼が大きく広がる。次の瞬間、紫電の奔流が一直線に邪神へと放たれた。圧し潰すような衝撃が、かつて神威を誇った存在を飲み込む―――。

 

「くぅ……」

 

オルデ:LP4000→3000

 

 攻撃の余波だけで、オルデのライフを削り取る。だが―――焼き尽くされた邪神の身体から、夥しい瘴気が噴き出した。まるで断末魔がそのまま嵐と化したかのように、黒い暴風がフィールド全域を覆い尽くしていく。

 

「《邪神イレイザー》が破壊されたことで、効果発動!フィールドのカード、全部ぶっ壊す!」

『死なば諸共だァッ!呪いを喰らえぇッ!』

 

 次の瞬間、嵐が牙を剥いた。

 ディアボロスの鱗が裂け、伏せられていたカードは稲妻のような瘴気の閃光に貫かれて粉々になる。《魔封じの芳香》も紙のように破れ、フィールドに存在していたすべてが音を立てて崩れ去った。

 数瞬前まで激しくぶつかり合っていた戦場が、一転して廃墟のような静寂に包まれる。

 焦げた空気が肺を刺し、細かな塵がゆっくりと降り積もっていく―――だが、それも束の間だった。

 

「……っ!セットしていた《クリッター》が墓地へ送られたことで、効果発動!」

「なら、こっちもだ!伏せてあった《破械雙極》の効果発動! まずは俺から処理するぜ!」

 

 オルデの口元に薄く笑みが浮かぶ。

 

「デッキから「破機」と名の付くモンスターを特殊召喚―――来い、《雙極の破械神》!」

 

 紫の長髪が翻り、黄色の衣を纏った影が爆ぜるように姿を現す。額から突き出た二本の角が紫電を散らし、その瞳には破滅を喜ぶような光が宿っていた。

 

《雙極の破械神》ATK3000

 

「今度はオレの番ですね。《クリッター》の効果で―――デッキから攻撃力1500以下のモンスター、《サクリファイス》を手札に加える!」

 

攻防入り混じるこの盤面に、新たな駒が加わった。

 

「メインフェイズ2に移行します。儀式魔法《奈落との契約》を発動!手札のレベル1モンスター《サクリボー》をリリースして、レベルが同じモンスターを儀式召喚する!」

 

 フィールドに奈落が広がれば、中で何かが蠢き始める。蠢き、蠢き、混沌が放出される。

溢れだした混沌の中に潜む異形。上半身のみで構成される何者か。貪欲に飛び出た単眼、獲物を求めて肥大化したかぎ爪、食虫植物を彷彿とさせる不気味な羽根、そしてなにより万物を吸い込む腹部の大穴。レベル1きっての捕食者が闇の中から現れる。

 

「儀式召喚!レベル1、《サクリファイス》!」

「あんたの十八番、吸収戦術の本領発揮ってわけか」

「《サクリボー》がリリースされたことで1枚ドロー。それでは鬼狩りを始めますか。《サクリファイス》の効果発動!《雙極の破械神》を吸い込め、『ダーク・ホール』ッ!!」

 

 不可避の引力が生きとし生ける者を吸い込んでいく、筈だった。

 

「やらせるかよ!墓地の《スキル・プリズナー》の効果発動!このターン、《雙極の破械神》は対象を取るモンスター効果を受け付けない!」

「……やっぱり、読み切っていたか」

 

 吸引の奔流が霧散し、異形の口吻が虚空を噛み砕く。ここまでは想定内だ。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドです」

「俺のターンだ!」

 

邪神を失ってなお、オルデの眼に翳りはない。むしろ、燃え立つような光を宿している。

 

オルデ

LP:3000

Hand:5

Monster:《雙極の破械神》

FieldMagic:

Magic&Trap:

 

ウーヴァン

LP:4000

Hand:3

Monster:《サクリファイス》

FieldMagic:

Magic&Trap:Set1

 

「まずは、《サイクロン》だ。そのセットカードを吹き飛ばす!」

「チェーン、《八汰烏の骸》。カードを1枚ドローします」

「ちっ、ブラフか」

 

 うまく誘いは成功したが、盤面は《サクリファイス》1枚。心許ない状況に変わりはない。

 

「ま、いいさね。《死霊騎士デスカリバー・ナイト》召喚!」

 

 黒馬に跨る黒騎士が、裂けた黒マントを風に棚引かせて現れる。右手には巨大な剣、左手には死人のように青白い盾―――魂はとうに朽ち、死霊の力で無理やり動く亡骸。

 

「そして装備魔法《巨大化》を《雙極の破械神》に装備。俺のライフがあんたより少ないことで、攻撃力は倍だ!」

 

 鬼人の右腕が異様に膨れ上がる。全てを粉砕するための腕。

 

《雙極の破械神》ATK3000 → 6000

 

(まずい……!)

「バトルだ!《雙極の破械神》で《サクリファイス》を粉砕!これで、終わりだ!」

「墓地の《超電磁タートル》の効果発動!」

「無駄だぜ! モンスター効果が発動した瞬間、《デスカリバー・ナイト》の効果発動! このカードをリリースしてその発動を無効にし、破壊する!」

 

 磁力の防壁は、死霊の剣に貫かれて霧散する。守りを失った《サクリファイス》の腹に、《破械神》の拳がめり込み、爆発四散。黒煙が立ちこめる。

 

「やったか?」

「見事な攻撃でしたよ。オレのライフも大きく削られた―――だが、0には届いてねえ」

 

 ウーヴァン:LP4000 → 1000

 

「チッ、一体何が……!」

「手札の《スモーク・モスキート》の効果です。相手モンスターの攻撃によってオレが戦闘ダメージを受けるとき、このカードを特殊召喚し、その戦闘ダメージを半分にした……それだけですよ」

 

 デフォルメされた巨大な蚊が、衝撃を受け止めてくれていた。

危ないところだった。《八汰烏の骸》でこのカードを引けていなければ、オレは負けていた。

 

「くそっ、《雙極の破械神》は俺のライフがあんたのライフを上回っていることにより攻撃力が元々の半分の数値になっちまう」

 

《雙極の破械神》ATK6000→1500

 

 力を失い垂れ下がる鬼人の右腕。有り余った力の代償は小さくない。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

「オレのターン!」

 

 カードを引いた瞬間、墓地が騒めいた。最初のターンに引き当て、《メタモルポット》により捨てられていたカード。それが蠢動した。

 

(わかってますよ。大分出番がなかったんだ。存分に暴れていいさ)

 

「まずは墓地の《グローアップ・バルブ》の効果発動。デッキトップからカードを1枚墓地へ送り、このカードを特殊召喚します」

 

 ぽこっ、と目玉の付いた球根が地面から生える。まずは布石を打つ。

 

「続いて、《金華猫》を召喚!」

 

 霊子で出来た猫を呼び出す。レベル1デッキのキーカード。

 

「召喚成功時、効果発動。墓地のレベル1モンスター《サクリファイス》を復活……」

「させるかよ!リバース発動、《ブレイクスル―・スキル》!《金華猫》の効果を無効にする!」

「無駄だぜ?チェーンして《禁じられた聖槍》を発動!《金華猫》は攻撃力を800ダウンする代わりにこのカード以外の魔法・罠の効果を受けない!」

 

 黒猫は翠のオーラを纏い、効果を無効化する光線を受けてもびくともしない。そして効果によって、捕食者が復活した。

 

「ちっ、こいつで《雙極の破械神》を吸い込もうってか」

「それもありなんですけどね。アンタの残る手札1枚が《バトルフェーダー》だったらちょいと面倒だ。だから……オレの“神”を呼ばせてもらう!」

 

 ぞわり、と空気が重くなる。

 

「来やがるか……!」

「オレのフィールドの《スモーク・モスキート》、《グローアップ・バルブ》、《金華猫》、《サクリファイス》、レベル1モンスター4体を墓地に送る!」

 

 強大な何かの到来に部屋が揺れている。大地が裂かれたかのような衝撃が走る。その全ては錯覚だった。だが、その存在の威圧感が錯覚を現実のものと誤認させる。蒼い閃光が一瞬視界を奪ったかと思えば、そこには深い深い漆黒に染め上げられた強靭な肉体があった。先程の紛い物とは違い、観るもの全てを戦慄させる、神意の体現者。

 

「暴れていいぞ!《絶望神アンチホープ》!!」

『待っていたぞ、この時を!』

 

《絶望神アンチホープ》ATK5000

 

 その表情には、歓喜が溢れていた。ついに感情を隠すことなく、純粋な興奮が《アンチホープ》の瞳に宿る。まるでこれから起こる破壊の瞬間を待ち焦がれているかのように。

 わくわく《アンチホープ》。

 

「バトルだ!《アンチホープ》で《雙極の破械神》を攻撃!『アンチホープ・ディスペア・スラッシュ』ッ!!」

 

 外殻に装備された5本の剣のうち、2本が鋭く抜き取られ、絶望神はそれを両手に力強く握りしめる。

 その動きはまるで刃を躍動させる舞踏のように美しく、しかし同時に凄絶な殺意を伴っていた。

 防御の術を失った鬼神は、一瞬にして袈裟切りにされ、体中に深い裂傷が走る。

 爆発音とともに辺り一帯が激しく揺れ、大きな衝撃波が辺境を襲う。

 そして、その余波はオルデにも及んだ。

 

「ぐわぁあああああっ!!」

 

 壁に叩きつけられた彼の身体が鈍く音を立てる。

 苦悶の表情が浮かび、床に倒れ伏すその姿を見て、思わず駆け寄らずにはいられなかった。

 

「大丈夫ですか?」

 

 問いかける声に、彼はわずかに眉をひそめ、苦笑を浮かべる。

 

「あ?こんなもん、平気だ、平気。つうか、よく最後の手札が《バトルフェーダー》だって気づいたな?」

 

 その言葉に込められた、どこか屈託のない強さが胸に響いた。

 

「レベル1デッキ使いなんでね。その手の防御カードは勘でなんとなくわかるんですよ」

「へえ……なかなかやるじゃねえか」

『当然だ。ウーヴァンは我を使いこなす器。絶望を与える存在へと我を昇華させる契約者なのだからな』

 

 デュエルが終わった後も顕現している《アンチホープ》。嬉しさが隠せていない。

 

「あー……《イレイザー》の方のご機嫌はどうなんでしょうね」

「おっと、そうだったな」

 

 オルデは墓地から邪神を取り出すと、慎重にデュエルディスクにセットした。

 

『かーっ!負けかよ!そりゃ、俺様一発屋だから防がれると返しで弱いけどよう!《雙極の破械神》に繋げる動きは悪くねえ筈なんだけどなあ!なんかなー。もう一丁欲しいぜえ!』

「やかましいぜ、《イレイザー》。反省は後にしな。で、どうよ?俺達と組んでWRGPに参加しねえか?」

「オレもWRGPって大舞台に立ちたいんでね。喜んで承諾しますよ。とはいえ、二人だけじゃトップには立てない。あと一人必要ですよねえ」

 

 そう告げた瞬間、胸の奥で一抹の不安がざわつく。どんな仲間を迎え入れるべきか、その重みがずっしりと肩にのしかかるのだ。

 

『目星はつけてるぜ!本人の立場的に説得が必要だけどな!』

『なに?我らの同類がまだいると?』

 

 二体の神の声が弾んだ。可哀そうな扱いをされた神たちの中で、最も目立つのはやはり《ラー》だろう。あのライフちゅっちゅギガント。

 

「どんな神なんです?」

 

 問いかけると、オルデは軽く肩をすくめた。

 

「半年以上前にこの街を騒がせた連中のトップが使ってた神らしいから微妙だぜ?確か……うぃらこちゃらすか?だっけか」

「は?」

 

 その名前を聞いて、オレは内心で苦笑した。確かに、診療が必要な神だ。けれど、この世界で重要な役割を持つカードでもある。一度討伐されて弱体化した身としては、あまり目立ちたくないだろう。

 

『我に名案がある!シグナー共の前に引きずり出し、危険性がないことを証明するのだ。』

 

 《アンチホープ》が力強く宣言するが、オレは眉をひそめる。

 

「おいおい、たとえ神が良くてもデュエリストの方にも都合があんだろうよ。どこが名案なんです?」

「いや、出るのに問題がなくなるってんなら説得できるかもしれないぜ?そいつ、よく公園で鳥と戯れる程には暇みてえだし」

「なんだそりゃ?どっかの爺さんなんです?」

「いや、超がつくほどの銀髪イケメン。連絡先自体は交換してる。後、ジャック・アトラス並みにデカい」

「暇を持て余した元モデルかなんかで?」

 

 そんな話をしているうちに、オレの中で何かがざわめいた。そいつと組むべきか、それとも違う道を行くべきか―――。明日、遊星たちも交えてじっくり見極める必要がありそうだ。

 




 WRGPに出場する都合上、主人公を含めた3人のオリキャラが登場します。
 《アンチホープ》、《イレイザー》、《Wiraqocha Rasca》、重症患者達に活躍させるための物語となります。
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