絶望神と共に行く遊戯王5D's   作:重症患者を救いたい

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今回からチームユニコーン戦です。WRGPならではのデュエルにご期待ください。


WRGP予選編
7話 邪神の咆哮!ユニコーンに走る影


 “WRGP”―――World Riding-Duel Grand Prix。

 ネオドミノシティを舞台に繰り広げられる、世界最高峰のライディングデュエル祭典。

 その第1回グランプリで栄光を手にする者は、未来永劫「伝説」の称号を刻まれる。

 参加チームは32。予選は8ブロック、各4チームによるリーグ戦。本戦に駒を進められるのは、各ブロックの頂点――わずか1チームのみ。

 

『本日で二日目ッ!予選リーグも“第三試合”に突入したァ! 一日目は激闘の連続だったが、まだまだ目が離せないぞ!』

 

 実況席のMCが声を張り上げ、場内の熱気をさらに煽る。

 

『さあ、注目のカードだ!Bブロック――チームユニコーン vs チームリベリオン!

 チームユニコーンは第一試合、あのチーム5D’sに僅差で惜敗!だが、華麗なコンビネーションは健在だ!一方、対するチームリベリオンは第二試合、なんとチームノーネームに一切ライフを削らせず圧勝!大会初出場ながら、恐るべき潜在力を秘めた新鋭だッ!』

 

 雲一つない夜空。海岸沿いにそびえるデュエル・スタジアムの照明が、波間を金色に染め上げていた。

 スタンドは超満員。市民もマスコミも、目を輝かせながらコースを見下ろしている。

 そしてその視線の先には、二つの影―――背中に誇りを、胸に意志を宿した二つのチームが、エンジンの鼓動を静かに高めていた。

 ピットに腰を下ろしていたウーヴァンは、ここまでの流れを思い返していた。

 

(クロウが負傷して、アキさんがユニコーン戦に出場。ラスト・ホイーラーの遊星は残りデッキゼロでギリギリの勝利……結果はよかったが、問題はそこじゃねえ。オレ達がいるのに、カタストロフの連中がプラシドの命令を受けて動いてやがる。このまま原作通りに進ませるわけにもいかねえし、さて……どうしたもんですかね)

「呆けてていいのかよ、ウーヴァン」

 

 海色の髪を揺らし、蒼のレーシングスーツを纏ったオルデが歩み寄ってくる。

 

「前の試合は相手がモブ同然だったからディスカーが完封したが……今回はそうはいかないだろ?」

「そうだね」

 

 銀色のレーシングスーツ姿で屈伸運動をしていたディスカーが、軽く顎を上げる。

 

「相手にはデータ分析型のブレオがいる。まだ私しかデュエルを見せていないから極端な対策は難しいだろうけど……ある程度は戦術を読まれていると思って動くべきだ」

「まあ、神を出すまでもなかったし、戦略そのものはバレちゃいないでしょうけどね」

 

 ウーヴァンは肩を竦める。

 

「塩試合にしちまったチームノーネームに非難が集中したのは予想外でしたけど」

「―――あれは諦めが早すぎたんだ。全員がすぐに闘志を失い、棄権した。だが、オレ達はそうはいかない」

 

 その時、低く落ち着いた声が背後から響いた。

 

「……おいおい、敵の大将がなんか用かよ?」

 

 振り返ると、チームユニコーンのリーダー――ジャンが立っていた。

 

「ただの宣戦布告さ」

 

 彼は涼しい顔で微笑む。

 

「君達を相手にするときは注意しろ、とチーム5D’sに忠告されたんでね。充分な準備をしてきたと伝えに来た」

 

 1敗して後がない状況にもかかわらず、余裕を崩さない。

 

「そんなこと言われて、オレ達が動揺するとでも?」

「もちろんだとも」

 

 ジャンの口元が僅かに歪む。

 

「だが、あえて伝えることに意味があるとしたら……?」

「歴戦の君達なら作戦は100通りあってもおかしくないね」

 

 ディスカーが口を挟む。

 

「要は、私達のプレイングを誘導したいわけだろう」

「ふっ……それは実際に戦ってみてからのお楽しみだ」

 

 ジャンは短く笑い、踵を返す。

 

「そろそろ試合開始だ。簡単に目論見に乗ってくれるなよ?」

 

 視線が一瞬、鋭くぶつかり合い、すぐに笑みに変わる。ジャンは自分たちのピットへ戻っていった。

 開始時間が迫る。ウォーミングアップを終えたオルデがヘルメットを被り、親指を立てる。

 

「じゃ、行ってくる。今回は相手のリソースを削ることに専念するぜ」

「任せましたよ」

 

 ウーヴァンが頷く。

 

「さっきはああ言ったが、あいつらは一筋縄じゃいかない」

「なにかあっても私達がフォローする。安心してくれ」

 

 ディスカーの声に送られ、両チームのファースト・ホイーラー―――オルデとアンドレがDホイールに跨り、スタート位置へと滑り出していく。

 

『さあ!両チーム準備が完了!いよいよ試合開始だッ!!』

「いいデュエルをしようじゃないか。全力で戦わせてもらうよ!」

「すべては風向き次第だぜ? いいデュエルが出来るかどうかなんざな!」

 

 軽口の裏―――ほんの一瞬、オルデの視線が鋭く細められた。

 氷を突き刺すような冷たさと、獲物を見据える猛禽の光。

 アンドレの頬がかすかに引きつる。だがすぐに互いは笑みを取り戻し、挑発を終えた。

 

「フィールド魔法《スピード・ワールド2》セット!」

『DUEL MODE ON』

 

 世界の色が変わる。

 ここから先はスピードに支配された世界。通常の決闘とは異なる理がすべてを支配する。

 カウントが浮かび上がり、観客も選手も、時すら息を止めた。

 ――まだか。まだなのか。

 誰もが固唾を呑む中、ついにその言葉が放たれる。

 

『ライディングデュエル・アクセラレーション!!!!!!』

 

 MCが打ち鳴らした戦鐘に、オルデとアンドレはスロットルをいっぱいに回す。

 虹色のモーメントが火花を散らし、タイヤは轍を刻み、夜空へ挑む咆哮を響かせた。

まず―――低く唸る重低音と共に、馬を模した機体が地を蹴った。金属の足音のようなエンジンの震えが、空気を押し分ける。

 一方で、オルデの邪竜を模した機体は―――焦る様子もなく、影のように距離を保ちながら静かに疾走していた。

 

(先行を取るつもりがないのか……?なら、このプランで行かせてもらう!)

 

 鋼の馬はその勢いのまま第一コーナーへと突入し、火花を散らしながらカーブを抜ける。わずか三秒の遅れで、鋼の竜もまた曲線をなぞるように侵入。

 両者がコーナーを抜け切った瞬間、空気が熱を帯び、デュエルの幕が開いた。

 

「第一コーナーを制したものが先攻だ! 俺のターン!」

 

 先手を取ったアンドレは、デッキからカードを引き抜くと、一瞬だけ視線を鋭く細め-――次の瞬間、迷いなく先鋒を放った。

 

「俺は《レスキューキャット》を召喚!」

 

 姿を現したのは人間の膝ほどの大きさの猫。頭には小さな安全用ヘルメット、首にはホイッスル。その愛らしさに似合わず、目は真剣だ。

 

「《レスキューキャット》を墓地へ送り、効果発動!デッキからレベル3以下の獣族モンスター2体を、効果を無効化して特殊召喚する!」

 

 猫の姿が掻き消え、宙に残ったホイッスルが鋭く鳴り響く。呼び声に応じるように、地を震わせる足音が近づいた。

 

「来い! レベル3、《X-セイバー エアベルン》! 同じくレベル3、《マイン・モール》!」

 

 三本爪を構えた獣人と、鉱夫の装いをしたモグラが姿を現す。大地と獣の匂いが、一瞬でコースを満たした。

 

『チューナーと非チューナーが揃った! アンドレ、1ターン目からシンクロか!?』

「いくぜ!レベル3の《マイン・モール》にレベル3の《X-セイバー エアベルン》をチューニング!」

 

 獣人が三つの星と化して宙を駆け、モグラを包み込む。やがてモグラも星と溶け合い、二つの輝きはひとつの渦となった。

 星々が呼応し、地脈のような光が走る。アンドレの声が、その中心に力を注ぎ込む。

 

「野性の血流交わりしとき―――大地を守護せし龍、降誕せよ!万の狡知を封じろ!」

 

 渦が爆ぜると同時に、眩い光がコース全体を照らし出す。

 

「――――シンクロ召喚! 《ナチュル・パルキオン》!!」

 

《ナチュル・パルキオン》 ATK2500

 

 岩と樹を纏った東洋竜が、咆哮と共に空へ舞い上がる。土と樹皮の匂いを伴うその風は、観客席まで届くほど力強かった。

 会場を揺らす歓声の中、オルデは静かにその竜を見つめた。眼差しは、ただ感心だけを湛えていた。

 

「へえ? そいつには罠が発動したとき、墓地のカードを2枚除外することで、その発動を無効にし、破壊する能力がある。それで俺の戦術を封じるってわけか」

「こいつはまだ始まりに過ぎない!カードを3枚伏せ、ターンエンド!」

「こりゃ面倒そうだな」

 

 油断すれば、一瞬で置いて行かれる―――。

 そう悟ったオルデは、ヘルメットの奥で表情を引き締め、再びデッキへと手を伸ばす。

 

「俺のターン!」

 

アンドレSPC0→1

オルデSPC0→1

 

 ドローと共に手札が6枚に揃い、その中から1枚を選び出そうとした、その瞬間――アンドレの声が鋭く割り込んだ。

 

「スタンバイフェイズ、永続罠《魔封じの芳香》発動!」

 

 伏せられていたカードが表へと翻り、そこから淡い紫の煙が溢れ出す。煙はコース全体に広がり、甘くもどこか刺すような香りが、観客席の空気さえ変えていく。

 

「このカードがフィールドに存在する限り、お互いに魔法カードはセットしなければ発動できず、次の自分のターンを迎えるまで発動することはできない!」

『おおっと!! ここでアンドレ、厄介な永続罠を発動した! これでこのターン、実質オルデはスピードスペルを封じられる!』

「うわ、本当にめんどくせえ! 似たような戦術を使っちゃいたが、使われる側になると不快感たけぇな!」

 

 スピードを競うレースで、手足を縛られるような感覚―――オルデは思わず舌打ちを飲み込む。

 アンドレの視線は揺らがない。挑発でも侮りでもなく、ただ「さあ、どうする?」と告げているようだった。

 

「はっ! 魔法も罠も使わせねえたあ、いい性格してるぜ!」

 

 言葉とは裏腹に、オルデの指先はわずかに速まっていた。焦りを見せまいと、あえて大仰に笑い声を上げる。

 

「そんじゃあ、モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 フィールドの光が一瞬きらめき、伏せられたカードが冷たい銀色の光を帯びる。オルデのバイクは加速を抑え、コーナーの出口付近で次の機をうかがうように安定走行に入った。

 

『オルデ・ストロイ!手も足も出ずか!守りを固めたが、モンスター効果以外に頼れるものはないぞ!』

 

 実況の声に、観客席がざわつく。

 そのざわめきは、嘲りと期待の入り混じった熱気。次の瞬間、オルデがその守りからどう反撃に転じるのか―――視線が一斉にコースへと注がれる。

 

(何か仕込んでいるな。だが、この布陣はそうそう崩せないさ。このまま追い込む!)

「俺のターン!」

 

アンドレSPC1→2

オルデSPC1→2

 

 カードを引き抜くや否や、アンドレの視線が一瞬だけ鋭く細められる。次の手は決まっていた。

 

「バトルだ! 《ナチュル・パルキオン》でセットモンスターを攻撃!」

 

 鋼の蹄が路面を打ち、東洋竜が胸を反らせる。次の瞬間、緑光を帯びた吐息が唸りを上げ、伏せられたカードの影へと一直線に襲い掛かった。

 衝撃と共にカードが跳ね飛び、炎を纏った虎面の夜叉が霧散する。

 

「《炎王獣 ヤクシャ》が破壊されたことで効果を発動するぜ。俺の手札のカード1枚を破壊する!」

「へえ? わざわざ自分のカードを破壊するのか。一体何が始まるのかな?」

 

 オルデの視線が鋭さを増す中、アンドレの口角が上がった。

 

「驚けよ? 破壊したのは《邪神イレイザー》!こいつが破壊された時、フィールドのカードを全てぶっ壊す!」

 

 観客席からどよめきが走る。脅威の効果が、ライディングデュエルの空気を一瞬で張り詰めさせた。

 

「な……!そんな効果を通すと思うか?ライフを1500支払い、カウンター罠《神の通告》を発動! その発動を無効にし、破壊する!」

 

アンドレ:LP4000→2500

 

「なら俺もカウンターさせてもらうぜ。《ギャクタン》を発動! 相手が発動した罠を無効にし、デッキに戻す! これにより、《神の通告》は無効だ!」

「くっ……防げなかったか!」

「さあ、《イレイザー》よ! 狂乱の嵐を巻き起こせ!」

 

 突如として路面を削る風圧が轟き、空が黒ずむ。まるで見えない巨大な爪で抉られるかのように、フィールド上のあらゆるカードが引き裂かれていった。

 芳香を漂わせる罠も、誇り高き竜の巨体も―――轟音と共に、全てが虚空へと飲まれていく。

 轟きは、唐突に止んだ。

 先ほどまで観客席を震わせていた風圧も、Dホイーラーたちの背を押し潰さんばかりの圧力も、跡形もなく消え失せる。残されたのは、剥き出しの路面と、空っぽになったフィールドだけ。

 観客席も、しばし言葉を失っていた。ざわめきは、次第に低く、重く―――そしてじわじわと大きくなっていく。

 嵐の爪痕がまだ路面に刻まれている中、アンドレの声が再び響いた。

 

「さあ……ここからが本番さ!破壊された《やぶ蛇》の効果発動!」

 

 その言葉に、オルデの口元がわずかに歪む。

 

「ちっ、んなもん仕込んでたのかよ。俺も破壊された《破械雙極》の効果発動!」

 

 両者の声がほぼ同時に重なった瞬間、観客席から驚きと歓声が入り混じったどよめきが広がる。

 

『おおっと、両者ともに破壊されることで発動する罠を仕掛けていたッ!!』

 

 互いの策が、偶然のように見えて実は互いを読み合った末の必然――――

 このデュエルが、さらに一段深い駆け引きの領域へ踏み込んだことを、誰もが肌で感じていた。

 

「まずは俺からだ。デッキから「破械」モンスター―――《破械童子アルハ》を守備表示で特殊召喚する!」

 

 瞬間、フィールドに鎖の音が響く。両腕と両足を枷で拘束された青年が現れ、

 なおも縛られながら必死に守りの構えを取った。その瞳の奥には、抗う炎が微かに灯っている。

 

「なら俺は、《やぶ蛇》の効果でEXデッキからモンスターを特殊召喚!―――大地を司りし騎士よ、今こそ限界を超えろ!天を裂き、果てに至れ!」

 

 金と銀を基調に、紅の装飾を纏った鎧。黒槍を両手に構えるその姿は威厳と気高さを宿していた。

 そして何より目を奪うのは、馬の胴体から伸びる二枚の美麗な銀翼――地上を駆け、大空までも翔ける、頂の存在。

 

「―――昇華せよ!《地天の騎士ガイアドレイク》!!」

 

 翼がひとたび薙がれると、地を蹴った蹄が轟音を響かせ、瞬く間に空へと舞い上がる。

 その身から放たれる生命の輝きは、まさに地と天を同時に支配する覇者のものだった。

 

《地天の騎士ガイアドレイク》ATK3500

 

「くそっ……全部吹き飛ばしてやったのに、最上級の融合モンスターを召喚させちまった!」

「君は初戦に出ていないが、データはブレオが把握している。―――破壊を得意とするデュエリストだとね。だからこそ、万全の布陣を突破してくると信じていた。……君を侮らなくて本当に良かったよ。おかげで、モンスター効果の対象にならず、効果では破壊されない《ガイアドレイク》を喚ぶことができた」

「ちいっ……!」

 

 アンドレの口元に微かな笑みが浮かぶ。

 

「まだバトルフェイズは続いている。《ガイアドレイク》で《破械童子アルハ》を攻撃!――『ユニバーサル・シェイバー』ッ!!」

 

 名を呼ばれた騎士が双槍を交差させ、銀翼をはためかせて空を駆ける。

 全てが吹き飛んだ戦場には、もはやリバースカードひとつない。

 枷に繋がれた青年は、抗う間もなくその槍に貫かれた。

 

「だが、《アルハ》の効果発動!破壊されたことで、デッキから「破械」モンスターを特殊召喚する!―――来い、《雙極の破械神》!」

 

 紫の長髪が爆ぜるように舞い、黄色の衣を纏った影がフィールドを踏みしめる。

 額から突き出た二本の角が紫電を散らし、その瞳には破滅を悦ぶかのような光が宿っていた。

 しかし、その攻撃力はなおも騎士に及ばない。

 

《雙極の破械神》ATK3000

 

 銀翼の騎士は双槍を下ろし、戦場を見下ろすように立ち尽くす。

 荒れ果てたフィールドには、ただ一体――《雙極の破械神》だけがなおも立っていたが、その力は明らかに劣っていた。

 アンドレはその光景を確かめると、手札から静かに1枚のカードを取り出し、フィールドへと伏せる。

 その動きは、まるで勝利を確信した者の仕草だった。

 

「カードを2枚伏せて……ターンエンドだ」

 

 宣言と同時に、場の空気がさらに重く沈む。

 背後に控える《ガイアドレイク》の存在感が、オルデに圧をかけ続ける。

 向かいのピットでは、ジャンとブレオが奏功したアンドレを讃えていた。

 

「やるな、アンドレ。読み通りだ」

「オレのデータ通り……厄介な布陣を敷けば、一気に破壊してくる」

 

 ブレオの目が細くなる。

 

「だからこそ、その先に仕掛けを用意していたんだ。罠封じの《パルキオン》、魔法封じの《芳香》、そして《神の通告》――全部が餌だった」

「もっとも、そのまま押し切れるなら、それもそれでよかったんだけどな」

 

 二人の声には、どちらの道でも勝てるという自信が滲んでいた。

 

「くっ、俺のターン!」

 

アンドレSPC2→3

オルデSPC2→3

 

アンドレ

LP:2500

SPC:3

Hand:1

Monster:《地天の騎士ガイアドレイク》

FieldMagic: 《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:Set2

 

オルデ

LP:4000

Hand:3

Monster:《雙極の破械神》

FieldMagic: 《スピード・ワールド2》

Magic&Trap:

 

 アンドレが敷いた第二陣――その牙は、さきほどの防壁以上かもしれない。そう悟ったオルデは、わずかに目を細め、気配を殺す。指先が静かに残る手札三枚を弾き取った。

 

「カードを3枚伏せて……ターンエンドだ!」

『オルデ・ストロイ、攻撃力の劣る《雙極の破械神》を攻撃表示のまま残した! あれは攻撃を誘う布石か!?』

 

 観客席がざわめく。挑発か、それとも罠か―――その答えは、次の一手で明らかになる。

 

「なるほど……また魔法・罠の応酬を狙う気か。だが、そう何度も同じ手が通じると思うかい?俺のターン!」

 

アンドレSPC3→4

オルデSPC3→4

 

守勢に回ったオルデに対し、アンドレは一歩も引かない。

 

「このままバトルだ! 《ガイアドレイク》―――《雙極の破械神》を討て!『ユニバーサル・シェイバー』ッ!」

 

 銀翼の騎士が空を裂き、双槍を閃かせて鬼神へ突撃する。だが、オルデは―――動かない。伏せカードを開くこともなく、その一撃を正面から受け止めさせた。

 黒槍が胸を貫く。鬼神は爆ぜ、紫電が虚空へ散った。

 

 オルデ:LP4000 → 3500

 

「………なに?」

 

 攻撃が通ったはずなのに、アンドレの眉がわずかに寄る。くくっ、とオルデの唇が歪んだ。

 

「倒してくれて……ありがとよ!そのおかげで、このカードが牙を剥く!《レベル・レジストウォール》!」

 

 伏せカードが翻る―――狡猾なる罠が。

 

「モンスターが破壊された時、そのモンスターとレベルの合計が同じになるように……デッキからモンスターを守備表示で特殊召喚する!《雙極の破械神》のレベルは8だ!」

 

 瞬く間に八つの星が宙に浮かび、次々と姿を形作る。

 筋骨隆々の包帯男が鈍く唸り、小悪魔が赤いパトランプをぎらつかせる。三つ目の毛玉悪魔が跳ね回り、ブリキの小戦車がガチャガチャと車輪を鳴らして並び立った。

 

「来い!レベル1、《グレイブ・スクワーマー》!レベル1、《ヘル・セキュリティ》!レベル3、《クリッター》!レベル3、《カードガンナー》!」

 

 衝撃の余韻を残したまま、戦場は一瞬にして新たな駒で埋め尽くされる―――スピードの世界に。

 

「モンスター展開のカードか……これは迂闊だったかな。バトルは終了だ。メインフェイズ2、カードを2枚伏せて、ターンエンド――」

「待ちな!」

 

 オルデの声が鋭く割り込む。伏せカードが翻り、闇色の魔法陣が足元からせり上がった。

 

「メインフェイズ終了時、《クリッター》をリリース―――《ナイトメア・デーモンズ》発動! あんたの場に“悪夢”を置き土産だ!」

 

 黒い小悪魔たちが、アンドレの背後に3体、影から滲み出るように現れる。

 にやりと笑い、頭上をくるくると舞いながら嘲笑を浴びせた。

 

「さらに、《クリッター》が墓地に送られたことで……デッキから攻撃力1500以下のモンスターをサーチだ。攻撃力0の《超電磁タートル》、いただきだぜ。まだメインフェイズだ、どうする?」

「……いや、このままエンドフェイズに入る」

「なら―――このタイミングで《雙極の破械神》の効果が牙を剥く!破壊されたターンのエンドフェイズに、墓地から甦るんだよ!」

 

 爆ぜる紫電と共に、角の生えた鬼神が再び地を踏み鳴らす。その瞳は、より深い憤怒に燃えていた。

 

「さらに特殊召喚成功時――手札の《超電磁タートル》を捨てて発動! 相手フィールドのカード1枚を対象を取らずに破壊する!」

「させるか!《奈落の落とし穴》発動!」

 

 足元に亀裂が走り、底知れぬ闇が口を開けた。鬼神の巨躯が沈み込むが、その雷光だけは消えずに残る。

 

「じゃあ、破壊するのは、前のターンに伏せたカードだ。さらに、《心鎮壺》発動!このターンに伏せた魔法・罠2枚を対象にし、発動できなくする!」

「くっ……だが、君の手札は0枚。《ガイアドレイク》を突破する手段は残っていないようだな。ターンエンド!」

「そうだな。今は持ってねえ。―――だが、引きゃいいんだよ! 俺のターン!」

 

アンドレSPC4→5

オルデSPC4→5

 

 勢いよくカードを引いた瞬間、オルデの表情が一変する。

 手札に加わったその一枚から、ぞわりと戦場全体を震わせるような圧が滲み出した。

 ―――引き当てた。この局面を覆すべき「何か」を。

 指先に絡みつく感触は、明らかに常のデュエルモンスターとは異なる。

 運命に選ばれたかのように、カードがオルデの手中で冷たく脈動していた。

 

「いくぜ! まずは《カードガンナー》の効果! デッキトップから3枚を墓地に送り、攻撃力を上げる!……もっとも効果は無効にされちまうがな」

「墓地肥やしか……だが、その程度でこの状況を覆せるのか?」

 

 アンドレの冷笑をよそに、オルデは墓地へカードを落とし込む。その行為は力を得るためではなく、後の布石を刻む儀式のようだった。

 

「出来るさ。このカードがあればな!」

 

 オルデが右腕を高く掲げると、3体の下級モンスターに影が落ちた。筋骨隆々の屍人、パトランプを灯す小悪魔、そしてブリキの兵士――その身体が次々と闇に呑まれ、断末魔のような咆哮と共に消えてゆく。

 

「俺は―――《グレイブ・スクワーマー》!《ヘル・セキュリティ》!《カードガンナー》! 三体をリリース!」

「な、三体のリリースだと……!」

「来い!闇を裂き、破壊そのものを体現する者!降臨せよ――《邪神イレイザー》!!」

 

 漆黒の稲妻が走り、戦場全体が揺らぐ。

 瓦礫の山から這い出すように、巨大な竜が姿を現す。その体躯は鋼のようであり滑らかで、翼には世界に叛逆するかのような棘が生えており、黒炎を纏う。

 空気が焼け、走者たちの視界すら歪ませるほどの悪意が迸っていた。

 邪竜――《邪神イレイザー》。

 死と退廃を撒き散らす破壊の権化が、戦場を支配した。

 

「な、なんとォッ!数ターン前に場を蹂躙した《邪神イレイザー》……その二枚目が召喚されたァッ! あのカードはいったい何なんだ!?」

「ば、馬鹿な……!データに存在しないぞ!」

「信じられん、何が起きている……!?」

 

 実況も声を失い、チームユニコーンの面々は困惑に目を見開く。

 対照的に、チームリベリオンは口元を吊り上げた。

 

「いやあ……まさか《イレイザー》だけは3枚の依り代を揃えてあるなんてな。最初に聞かされた時は、流石に驚いたぜ」

「ふふ……私達ですら驚いたんだ。まして彼らにとっては想定外だろうね」

 

 スタジアム全体がどよめきに包まれる中、オルデは邪竜の真価を告げ放った。

 

「こいつの恐ろしさは、姿だけじゃねぇ。《邪神イレイザー》の攻撃力は――相手フィールドのカード1枚につき、1000ポイント上がる!」

 

 漆黒の鱗を走る黒い紋様が、血管のように浮かび上がる。

 その脈動はフィールド全体を侵食するかのように強まり、相手のカード一枚一枚を吸い上げ、力へと変換していった。

 

「あんたの場には、《ガイアドレイク》と「ナイトメア・デーモン・トークン」3体、さらに伏せカードが2枚……合計6枚! つまり、攻撃力は――!」

 

 邪竜が天を衝く咆哮を放つ。

 闇の奔流がスタジアムを震わせ、空間そのものを圧し潰す。

 

《邪神イレイザー》 ATK6000

 

「攻撃力―――6000!!」

 

 観客席が悲鳴と歓声で入り乱れる中、オルデは右手を突き出す。

 

「《ガイアドレイク》との攻撃力差は2500―――あんたのライフと同じだ!バトルだ!《邪神イレイザー》、滅びの咆哮で焼き尽くせ―――『ダイジェスティブ・ブレス』ッ!!」

 

 邪竜の翼が大きく広がり、闇を裂く轟音とともに漆黒の奔流が放たれる。

 それは炎でも雷でもない。存在そのものを削り取る悪意の奔流だった。

 銀翼の騎士が抵抗する間もなく押し潰され、光の粒子となって霧散する。

 

「ぐぅわああああッ!!」

 

アンドレ:LP2500 → 0

 

『決まったぁぁあああッ!! 第一戦を制したのは――チームリベリオン、オルデ・ストロイ!!』

 

 スタジアムは歓声と悲鳴の奔流に呑まれた。勝利を称える咆哮と、敗北を悔やむ声とが入り乱れ、観客席全体が震えている。

 その中心で、闇を纏った邪竜はなおも天を睥睨し、圧倒的な存在感を示していた。

 

『(今の俺様、超かっこよくね?とはいえ、次が問題だよなあ……)』

 

 内心を誰に悟られることもなく、悠然と。

 アンドレは姿勢を崩されながらも必死に減速し、何とかピットへと滑り込む。額には汗が滲み、肩で荒い息を繰り返す。

 一方、オルデは減速することなく悠然とスタジアムを駆け抜け、己の勝利を誇示するかのように邪竜を従え続けていた。

 

「悪い……ブレオ。相手の策に呑まれた」

「気にするな。お前が切り開いた道は、無駄にはしない」

 

 ブレオはヘルメットの奥で鋭く目を細め、力強く続ける。

 

「今の闘いで相手のリソースは削れた。ここからはオレが巻き返す。必ずな」

「……そうだ。オレ達は勝利を逃さない。次こそ掴み取るんだ」

『続くセカンドホイーラーはブレオ!!このままリベリオンが押し切るか、それともユニコーンが逆襲するのか!? 第二戦―――注目の幕開けだッ!!』

 

 ブレオがDホイールに跨がり、エンジンを咆哮させる。鋼鉄の獣は猛然と走り出し、すでにコースを駆けるオルデの背後へと迫っていった。

 

「アンドレの無念は、この俺が晴らす!」

「はっ!出来るもんならやってみな!」

 

 ふたたび、スピードの世界に闘気が渦巻く。

 轟音の中で、二人の声が重なる。

 

「「デュエル!!」」

 

 決戦の火蓋は、再び切って落とされた。

 

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