絶望神と共に行く遊戯王5D's   作:重症患者を救いたい

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9話 影に潜む車輪

 チームユニコーンとの闘いに勝利し、帰路につこうとスタジアムを出ようとしているのはチームリベリオンのオルデ、ディスカー、ウーヴァンの3人。賑やかに話している。

 

「いい具合に大舞台で勝てたな。勝利祝いで飲みたいが、どこがいいかね……」

「それなら私の家はどうかな。客人をもてなすスペースはあるから好きにくつろいでくれ」

「よ、いいとこのお坊ちゃん!それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 話が盛り上がってきたその瞬間、立ちはだかるのは男女二人。

黒髪、日に焼けた浅黒い肌。目元の大きな傷。強面。はたから見れば威圧的な印象を受ける男。もう一人、青髪のショートヘア、いかにもキャリアウーマンといった風体の美人の女性。

 差し出された手帳が、祝勝ムードに水を差すように場の空気を引き締めた。

 

「治安維持局特別捜査課長の狭霧です」

「課長補佐の牛尾だ。ちょいと話を聞かせてもらうぜ。あんたらがさっき見せた“神”についてな」

 

 ディスカーは驚くでもなく、柔らかく笑って肩をすくめる。

 

「いやはや、勝利の余韻に浸っていたところなのですが。けれど、どうぞ。……私たちは逃げも隠れもしませんよ」

「地縛神は、かつてダークシグナーが使った禁忌の存在です」

 

 狭霧の声音は冷えきっており、その眼差しには容赦のない追及の色が宿っていた。

 

「なぜ貴方が、それを行使できるのか。我々は知る義務があります」

「オレたちが知りたいくらいさ」

 

 ウーヴァンが軽く口を挟む。挑発めいた笑みを浮かべつつも、声の奥に微かな緊張が混じる。

 

「ただなぁ……神に選ばれた、なんて言葉は臭くて好きじゃねえが―――事実そうとしか言えねえんですよ」

 

 続けざまに、オルデが一歩前へ出る。

 

「……俺達が望んで手にしたものじゃあない。勝手にやってきて、使い手として選ばれた。そう表現するほかないんだよな」

 

 その声音は真摯でありながら、どこか諦めを滲ませている。

 

「と言っても納得はしねえか。実際に聞いてみるか?――カードの意思って奴を」

「カードの、意思?まさか、カードの精霊……?」

 

 狭霧の瞳がわずかに揺れる。

 

「ご名答。地縛神含め、オレ達が持つ神には意思がある。けど三体も出すと収拾がつかねえからな。話題の《Wiraqocha Rasca》だけでいいですよね?」

「まさか、ここで出すんですか!?あのサイズのモンスターを!?」

 

 狭霧が当惑の声を上げた。だがディスカーは穏やかな笑みを浮かべ、安心させるように両手を広げる。

 

「安心してくれ!大きさは可変だから、小鳥のような姿で出るとも!――では、出ておいで!」

 

 彼がデュエルディスクに地縛神をセットすると、空気が揺らめき、黒い羽がひらひらと舞った。

 次の瞬間、デフォルメされた小さなコンドルが羽ばたきながら実体化する。

 

『わたしは《Wiraqocha Rasca》。……かつてダークシグナーであったレクス・ゴドウィンが用いたものとは、また別の存在。しかし、あなたたちが危険性を懸念するのも理解できます。質問にはなんでも答えましょう……』

 

 人ならぬ声が響いた瞬間、牛尾が思わず口を半開きにした。

 

「は、話が想定外の方向にいったな……だが、きっちり聞かせてもらうぜ」

 

 狭霧はきりりと背筋を伸ばし、真っ直ぐにディスカーたちを見据える。

 

「ええ、ここではっきりさせましょう。貴方達が街を脅かす存在でないかを!」

 

 狭霧の声は鋭く、通路の静寂を切り裂いた。

 だがその直後、ウーヴァンがにやりと口角を上げる。

 

「そんじゃあ、そこに隠れているお嬢さんも出てきてください。まとめて話した方が楽だ」

「わ、ばれてたのね……!」

 

 通路の角の影から、ばたばたと飛び出してくる人影。瓶底眼鏡をかけた長い黒髪の女性が、両手を慌てて振りながら自己紹介をする。

 

「わ、私、記者のカーリー渚っていいます。ぜ、是非お話を聞かせてもらうんだから!」

 

 突如現れた場違いな人物に、狭霧の眉間に皺が寄った。

 

「……また貴方?」

 

 一方の牛尾は大きくため息をつき、頭をかきながら彼女に向き直る。

 

「おい、記者の嬢ちゃん。いいのか?その……地縛神に関わって、もしも“記憶”を思い出したらまずいんじゃないか?」

「大丈夫です!たとえ衝撃の真実が明らかになってもへっちゃらです!」

 

 カーリーは胸を張るが、その膝は小刻みに震えていた。

 

「……アトラス様に迷惑をかけるようなことにならないならいいわ」

 

 狭霧が半ば呆れたように吐き捨てる。

 そんな三者三様の反応を余所に、《Wiraqocha Rasca》が、翼を一振りして低く響く声を放つ。

 

『準備はよろしいですか?―――では、質問をどうぞ』

 

 漆黒の小鳥が、澄んだ瞳を瞬かせる。羽ばたくたびに、闇を思わせる羽根がひらひらと舞い落ちた。

 

「それでは私から。ゴドウィン前長官が用いたカードとは別存在だと貴方は言ったけれど……それなら、貴方はダークシグナーとは関係がないのね?」

 

 狭霧が一歩踏み出し、冷ややかな眼差しで問いを突きつける。

 

『ええ。使い手たるディスカーにダークシグナーの証たる痣はなく、また、わたしの顕現に人々の魂が必要ということはありません。わたし達の目的はあくまで勝利すること――かつて浴びせられた嘲笑や哀れみ、その屈辱から解放されることなのです』

「おかしいじゃねえか」

 

 牛尾が腕を組み、渋い顔をする。

 

「別物とはいえ地縛神なんだろ?それを馬鹿にするような奴がいるのか?」

 

 疑念を含んだ声に、狭霧もカーリーも眉を寄せる。二人とも納得しきれていない。

 

「そうよ!」

 

 カーリーが勢いよく眼鏡を押し上げ、声を張った。

 

「さっきの試合でもあんなに活躍したのに、馬鹿にするなんて見る目がないんだから!」

 

 その力強い言葉に、黒い小鳥は短く鳴いてから静かに答える。

 

『クソ……ではなく。クズカードと呼ばれるに至った理由があるのです。なぜこのように生み出されたのか――それを悲しまずにはいられないほどに。……わたしの効果テキストを、読んでみてください』

「どれどれ……」

 

 牛尾がカードを手に取り、じろりと目を細めて読み込む。その背後から狭霧とカーリーも覗き込み、場の空気はじわじわと重たくなっていった。

 

「……ゴドウィン前長官が使用した時とは効果が違うことは、試合で把握していましたが、これは……」

 

 狭霧の声音が硬くなる。

 

「召喚に2体のリリースが必要なのに、さらに自分のカードを戻さないと効果が発揮されない。しかも相手の盤面になにも干渉できねえ……」

 

 牛尾の声には呆れが混じる。

 

「それに、それだけカードを消費しても効果に対する耐性がないじゃない!《ミラーフォース》のようなカードに破壊されちゃう!……正直、使いづらいとしか言えないわ……」

 

 カーリーが両手を広げ、素直な感想を口にする。

 3人の顔には、徐々に納得の色が広がっていた。確かに強力な存在であるはずなのに、その効果は不格好で、どこかいびつだ。

 

『……わたしは不完全で、欠けた存在。だからこそ、皆から“クズカード”などと呼ばれました……しかし、今は違います!ディスカーという立派なパートナーによって、私は真価を発揮できるようになったのです!』

「待て、その“皆”ってのは誰だ? 公式戦であんたが出たのは、さっきが初めてだろ?」

 

 牛尾が眉をひそめると、ウーヴァンが軽く肩をすくめ、一歩前に出た。

 

「そっからはオレが説明しますよ」

 

 彼の声音はいつになく真面目だった。

 

「神様が言うには、この世界とは異なる“別次元”では、《イレイザー》も、《Wiraqocha Rasca》も、オレの《アンチホープ》も量産されていたって話だ。……しかも、揃いも揃って使いづらい効果でな。さて――“神”と名がつく割に単純な強さを持たないカードを、世間がどう評価すると思います?」

「うーん……期待外れ、じゃないかしら?」

 

 カーリーが首を傾げる。

 

『オブラートに包めば、そうですね。現実はもっとひどいものでしたが』

 

 小鳥は、わずかに翼を落とすようにして続けた。

 

『そんな誹謗の中で……量産されたカードの内、意思を持つわたし達は世界を超えることにしたのです』

「世界を超える……?」

 

 狭霧の声は鋭くなる。

 

「そう簡単に、違う世界に移動できるものなんですか?」

『わたし達は仮にも神。やってやれないことはありません。そして、使いこなせる者を求め、さまよい……漸くパートナーを見つけることが出来たのです』

「まさしく運命の出会いってやつね……!」

 

 カーリーが瞳を輝かせ、ペンを走らせる。

 

「別世界だのと、スケールがデカい話になってきやがったな……」

 

 牛尾は頭をかきつつも念を押した。

 

「だが、とにかく――あんた達に人を害する意思はないってことだな?」

『ええ、その通りです。愛するディスカーに迷惑をかけるようなことをするものですか!』

 

 “愛する”の一言に、その場の空気が一瞬止まる。狭霧は思わず咳払いし、視線を逸らした。

 

「……愛、ですか。わかりました。とりあえず、納得はしました」

(……愛、かあ。私、ジャックの為に何かできるかしら……?)

 

 狭霧が静かに頷いた。だが、その声音には完全な信頼ではなく、なおも探るような硬さが残っている。カーリーの内心は知らずに。

 

「だがな」

 

 牛尾が口を開き、声を低める。

 

「今Bブロックのチームの選手が、立て続けにDホイールのクラッシュに遭ってるんだ。チーム5D’s、チームノーネーム……被害に遭ってんのはその二つだ」

 

 視線が鋭くチームリベリオンの面々に向けられる。

 

「得をするのは被害を受けてないチームユニコーンと、お前達チームリベリオンだ。だが、前者は既に二敗している……となりゃ、怪しいのは現状全勝し、特別なカードまで持ってる後者じゃねえか?」

 

 張りつめた空気が一瞬広がる。

 

「根拠のない揺さぶりはやめな、牛尾の旦那」

 

 口を開いたのはオルデだった。穏やかな声色の中に、はっきりとした怒りが混じっている。

 

「俺達は普通にデュエルで勝てる。卑怯な手を使う理由なんてねえよ」

「むしろ――」

 

 ウーヴァンが軽口めかして肩を竦める。

 

「お前達も気をつけろって言ってほしいくらいですけどね」

「まあ、こうでもしないと情報を引き出せないのはわかるとも」

 

 ディスカーが朗らかに笑い、場を和ませようとする。

 その空気を裂くように、《Wiraqocha Rasca》が言葉を紡いだ。

 

『その件についてですが……闇のカードの気配が、大会開始直前から濃くなっています。狙う対象がわかっているのなら……わたし達も協力できるかもしれませんよ』

 

 その声に、場の空気が沈む。狭霧と牛尾が目を見交わした。

 互いに納得はしていない。だが、少なくとも敵意が見えない以上、無碍にはできない。

 

「……いいでしょう。今は手がかりがないのも事実です。危険因子を放置するよりは、協力を仰ぐ方が得策かもしれません」

 

 狭霧が慎重に言葉を選びながら答える。

 

「ふん。妙な真似をすりゃ、即座に手錠をかけるからな」

 

 牛尾が釘を刺すように言い放った。

 

「はいはい、そん時はおとなしく連行されてやりますよ」

 

 ウーヴァンが肩を竦め、茶化すように笑う。だがオルデの眼差しは真剣そのもので、静かに頷いていた。

 その時、カーリーが一歩踏み出す。

 

「じゃあ、これは一大スクープの機会ってわけね!真実を記事にして――」

「駄目だ」

 

 牛尾が低く遮った。

 

「この件に深入りすりゃ、命に関わる。あんたは手を引け」

「で、でも……!」

「記者魂は立派だけどな、嬢ちゃん。こいつは遊び半分で嗅ぎ回っていい話じゃねえ」

 

 人情味を帯びた声で牛尾が言い聞かせると、カーリーは唇を噛み、やがて小さく肩を落とした。

 

「……わかりました。記事にはしません。でも、せめて無事でいてくださいね」

 

 その健気な言葉に、場の空気が一瞬和らぐ。

 ディスカーが笑顔を浮かべて答えた。

 

「もちろんさ。私達は勝つためにここにいる。それ以外のことで負ける気はないよ」

 

 こうして、治安維持局とチームリベリオンとの間に、奇妙な協力体制が生まれた。

 だがそれは同時に―――彼らを取り巻く影が確かに存在するという、揺るぎない証でもあった。

 

 そして翌日。

 白い雲がまばらに浮かぶ青空の下、透明素材で構成されたネオドミノシティのハイウェイを、一台の赤いDホイールが駆け抜けていた。薔薇の花弁を思わせる鮮烈なフォルム――ブラッディー・キッス。だが、その走りはあまりにも無防備で、一人きりだった。

 高台に陣取る三人の男が、いやらしい笑みを浮かべる。直後、ブラッディー・キッスの前輪に異物が絡みつき、機体は制御を失った。急停止の反動で前のめりに倒れこみ、操縦者の身体は宙へと放り出される。

 

「《ローズ・テンタクルス》ッ!!」

 

 カードを翳したアキの瞳が赤く光る。サイコ・パワーでモンスターを顕現させ、落下を受け止める――はずだった。だが映像は虚しく透き通り、彼女の身体をすり抜ける。

 

(え……!? 力が発動しない……!)

 

 地面へと頭から激突する、その刹那。疾駆してきた別のDホイールが追いつき、操縦者がアキの身体を抱きとめた。

 

「やあ、無事かい?」

 

 驚きに見開いたアキの瞳に映ったのは、セキュリティの男・風馬だった。

 

「か、風馬さん……!? どうしてここに……」

「匿名の通報があってね。君が狙われる可能性が高いと聞いた。念のため後方を走っていたんだが……まさか本当に仕掛けてくるとは」

 

 アキが振り返ると、コース脇に激突したブラッディー・キッスが炎に包まれ、黒煙を上げていた。

 

「あ……でも、Dホイールが……!」

「今は君の無事が最優先だ。とにかく病院で検査を――」

「……はい。本当に、ありがとうございます」

 

 ――その光景を、遠くの高台から三人の男が眺めていた。

 

「ちっ、しくじったか!」

「しかも止めに入ったのがセキュリティじゃねえか……!」

「おい、もう嗅ぎつけられたんじゃねえか? せっかくの三十万がパァだ!」

 

 いかにもチンピラ然とした三人組――ヘルマン、ハンス、ニコラス。

 かつてプラシドに闇のカードを与えられ、チームカタストロフとしてWRGPに参戦するはずだった小悪党どもだ。だがウーヴァンがプラシドを退けたため、出場枠を失った代わりに「裏稼業」を任されていた。

 その任務は、プラシドが標的と定めた選手をクラッシュさせること―――報酬は賞金三十万。

 

「ずらかるぞ!ここにいても仕方がねえ!」

 

 慌てて逃げようとした瞬間――轟く排気音が空気を裂いた。

 

「……あン?」

 

 真っ先に気づいたのはハンス。耳に届いたのは、荒れたエンジンの咆哮。振り返ると、遠方から漆黒の機影が登ってくる。

 ぶわ、と突風が吹き抜け、街灯がきしんだ。

 昼間にも関わらず、強烈なライトが閃光弾のように彼らを照らし出す。網膜を焼く白光に、三人は思わず目を細め――次の瞬間、漆黒のDホイールがド派手なスリップ痕を刻みながら横付けに停止した。

 

「よう、悪党の皆さん。―――観念の時だぜ?」

 

 ヘルメットを外し、茶髪が風に靡く。

 その顔を見て、三人は一斉に声を上げた。

 

「ウーヴァン・ディット!?なんでテメェが……!」

「へえ、やっぱりあんたらだったか。ヘルマン、ハンス、ニコラス……名前も顔も、ぜんぶ把握済みだ」

「はっ!だったらどうする!」

 

 一触即発の空気。

 だがウーヴァンはにやりと笑みを浮かべ、ノワール・ワンのハンドルを軽く傾けた。

 

「こうするだけですよ。仕込みは上々――さあ、ショーの始まりだ!」

 

 その言葉と同時に、ノワール・ワンのフロントが大きくウイリー。

 三人のDホイールもエンジンが唸りを上げ、まるで呼応するかのように自動起動する。

 

『DUEL MODE ON. AUTO PILOT STAND BY』

「……デュエルだ。ルールは簡単、3対1。それぞれライフ4000、手札5枚。最初のターンは全員攻撃できない。ただし先攻は――俺がもらう」

「馬鹿か……! 3対1だぞ?余裕で勝てるに決まってんだ!」

「それに、俺達には“とんでもないカード”があるんだぜ。無事で済むと思うなよ!」

「ふぅん、脅しは結構。でも覚えときな。負けた瞬間、あんたらのDホイールと端末から全部のデータがセキュリティに送信される。……余罪も、ぜーんぶ、な」

 

 ぞっとするような宣告に、ヘルマンとハンスは思わず息を呑む。

 だがニコラスが吠えた。

 

「ビビんな!勝ちゃ問題ねぇんだ!ぶっ潰せ!」

「お、おう!こんな奴、叩きのめしてやる!」

「二度と舐めた口きけねぇようにしてやるぜ!」

「よし……やる気は充分。なら――さっさと終わらせよう」

 

 視線が交錯した。

 それは同時に、開始の合図。

 

「「「「ライディング・デュエル!アクセラレーションッ!!!」」」」

 

 四機のDホイールが一斉に走り出す。

 風を裂き、轍を刻む。

 スピードの世界―――命運を賭けた闘いが、今、幕を開けた。

 その結果……

 

「《ミスティック・パイパー》を召喚、リリースしてレベル1モンスター《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を手札に加えてさらにドロー。1枚伏せてターンエンド」

「《ヒドゥン・ナイト-フック》を召喚!カードを1枚セット!」

「《ヒドゥン・ナイト-フック》を召喚!」

「《ヒドゥン・ナイト-フック》を召喚!これからテメェは地獄を味わうことに……」

 

 チンピラたちのフィールドに並ぶ悪魔たち。だがウーヴァンは鼻で笑った。

 

「……え、それで終わりなんです?まあ、チンケな悪党らしいっちゃらしいか。じゃ、オレのターン」

 

彼がカードを引くと、スピードの世界に一瞬光が走る。

 

「《DNA改造手術》発動。フィールドのモンスターは全部、機械族だ」

「はっ、種族を変更したからってなんになるんだ!」

 

 ヘルマンが吼える。嘲るような響き。

 

「手札を1枚捨てて手札の《サイバー・ドラゴン・ネクステア》の効果発動。このカードを特殊召喚。これをトリガーにSPCを1つ取り除き《Sp-地獄の暴走召喚》を発動。《ネクステア》はフィールドにいる限り《サイバー・ドラゴン》として扱う。よってデッキから2体の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。アンタらも《ヒドゥン・ナイト-フック》をデッキから可能な限り特殊召喚できる」

 

 機械竜が轟音とともに顕現し、さらに二体の同型機体が光の中から現れる。対する彼らの《フック》は、ぞろぞろとデッキから呼び出され、合計九体が道路を埋め尽くす。

 

「はっ!俺達を有利にしてどうするつもりだ?」

「こうしますよ、っと。《サイバー・ドラゴン》扱いの《ネクステア》とハンスのフィールドの機械族扱いの《フック》3体を墓地に送る!」

「な、なんだッ!?」

 

 ウーヴァンが指を鳴らす。次の瞬間、竜と悪魔の肉体が混じり合い、金属の悲鳴を上げながら融合を果たした。

 

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 それは機械の龍だった。それは要塞だった。龍の頭部から尾までを9つのホイール状のパーツを連ねて構成された要塞龍。一部のホイールからは、《サイバー・ドラゴン》に似た機械龍が首を出し、咆哮。傲然とレーンを揺さぶる。

 

「テメェ!よくもオレのモンスターを!」

「《フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は素材となったモンスターの数×1000ポイントになる。素材は4体。よって攻撃力は―――」

 

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》ATK4000

 

「攻撃力、4000……!」

「後はこれを2回繰り返す」

「ええい、かかれ!」

 

 ウーヴァンのDホイールの影が濃くなり、その闇から6つのフックが出現。前輪の左右を狙って機体をロックしようとするが、黒の機体はウイリーの勢いを利用して跳躍。フックが空を切る。

 

「かわされた、だと!?」

「ばかですねぇ。かかれ!なんて言ったらなんかしてくるってまるわかりでしょ。それじゃあ《サイバー・ドラゴン》とヘルマンの《フック》3体を墓地へ送り2体目の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》召喚。2体目の《サイバー・ドラゴン》とニコラスの《フック》3体を墓地へ送り3体目の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》召喚」

 

 二体目、三体目と、同じ怪物が次々に誕生していく。圧倒的な光景。もはやフィールドは竜の要塞に占拠され、チンピラたちの小細工は跡形もなく吹き飛んでいた。

 

「バトル。3人に《フォートレス》で1体ずつ攻撃。『エヴォリューション・リザルト・アーティレリー』3連打ッ!!」

「やらせるか!《聖なるバリア-ミラーフォース》!」

「ライフを半分支払い、手札からカウンター罠《レッド・リブート》発動。その効果を無効化し、フィールドにセットする。そして、このターン罠カードを発動できない」

「馬鹿な!」

「はい、終わり」

 

 閃光。重砲の咆哮が三人を一斉に呑み込む。悲鳴も追いつかない。Dホイールは強制的に停止し、彼らは顔を歪めたままシートに崩れ落ちた。

 

「な、何だよこの化け物……!」

「はっきり言いましょうか? ――アンタらじゃ相手にならねえ」

 

 ウーヴァンは鼻で笑い、背を向けた。

直後、セキュリティのサイレンが鳴り響く。取り囲まれた三人は、呆気なく拘束されていった。

 

「……やるじゃねぇか。闇のカードを検知したらあっという間に情報が集まった。おかげで、十六夜が被害に遭うのを防ぐことが出来た」

 

 逮捕劇を見届けながら、牛尾がDホイールを寄せてきた。

 

「けどな、やりすぎだろ。あんな怪物を三体も並べるとはな」

「はは、勝てばいいんでしょ?手っ取り早く終わらせるのがオレのやり方なんで」

 

 ウーヴァンは笑みを崩さずに答える。

 

「今回オレ達が事件にかかわったことはチーム5D’sの皆さんには話さないでください。あくまで、治安維持局が解決したってことで。ないとは思うが、恩や情の所為でプレイングに影響出てもつまらないですし?……後、正直言うと大会以外で目立ちたくねえ」

「わかったよ、匿名の通報者がいたってことにしてやる」

 

 牛尾は短く頷くと、ふっと口元を緩めた。

 

「……それにしても、お前さんは妙に割り切ってるな。情に流されない分、強いかもしれんが……ほんとに大丈夫か?」

「心配ありがとうございます。でも、オレはオレの勝ち方で走るだけですよ。大会の上でなら、ね」

 

 軽く肩をすくめて答えるウーヴァン。

 牛尾はしばらくその横顔を見つめ、やがて小さく笑った。

 

「……ならいい。無茶すんなよ」

「それはそっちのセリフでしょう、牛尾の旦那。オレら一般人よりは危ない橋わたってるでしょ?」

「はっ、言うじゃねえか」

 

 二人の笑い声が短く交わり、風に溶けた。

 遠くでセキュリティカーの赤色灯が回る。

 ウーヴァンは軽く手を上げ、Dホイールを加速させた。

 

「じゃあ、また明日会場で」

 

 黒い機影は闇に消え、牛尾の視界から去っていく。

 その背を見送りながら、牛尾は低く呟いた。

 

「……本当に、只者じゃねえな」

 

 整備ヤードに戻ると、オルデとディスカーが待っていた。

 街を覆っていた黒い気配は消え、空気はようやく澄み渡っていた。

 

「……片がついたな」

 

 オルデが言う。声は低いが、どこか解放感が漂っている。

 

「余計な雑音は消えた。あとは走るだけだ」

「ああ。邪魔者がいなくなったのは好都合だね」

 

 ディスカーは柔らかい口調で続ける。

 

「大会に集中できるし……何より、私達の力を正しく示す舞台が整ったからね!」

 

 ウーヴァンは肩をすくめ、軽い笑みを浮かべた。

 

「ちょっとしたウォーミングアップってとこでしたね。こっからが本番だ」

「次はチーム5D’s……か」

 

 オルデが鋭い眼差しを遠くに向ける。

 

「あいつらの結束は強い。その力は本物だ。だが、俺達も伊達にここまで来たわけじゃない」

「ああ、その通りさ」

 

 ディスカーは静かに頷き、言葉を区切る。

 

「彼らが絆なら――我々は反逆の矜持。どちらが上か、答えを出そうじゃないか」

 

 ウーヴァンは仲間ふたりを見渡し、ニヤリと口角を上げた。

 

「上等じゃないですか。勝つのは俺達、チーム・リベリオンさ」

 

 三人の視線が交錯する。

 それは宣戦布告にも似た静かな合意。

 やがてヤードに灯るライトが、彼らの黒きDホイールを照らし出す。

 次なる舞台――チーム5D’s戦。

 反逆の走りが、今まさに始まろうとしていた。

 

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