絶望神と共に行く遊戯王5D's   作:重症患者を救いたい

9 / 9
9話 影に潜む車輪

 チームユニコーンとの闘いに勝利し、帰路につこうとスタジアムを出ようとしているのはチームリベリオンのオルデ、ディスカー、ウーヴァンの3人。賑やかに話している。

 

「いい具合に大舞台で勝てたな。勝利祝いで飲みたいが、どこがいいかね……」

「それなら私の家はどうかな。客人をもてなすスペースはあるから好きにくつろいでくれ」

「よ、いいとこのお坊ちゃん!それじゃあお言葉に甘えて……」

 

 話が盛り上がってきたその瞬間、立ちはだかるのは男女二人。

黒髪、日に焼けた浅黒い肌。目元の大きな傷。強面。はたから見れば威圧的な印象を受ける男。もう一人、青髪のショートヘア、いかにもキャリアウーマンといった風体の美人の女性。

 差し出された手帳が、祝勝ムードに水を差すように場の空気を引き締めた。

 

「治安維持局特別捜査課長の狭霧です」

「課長補佐の牛尾だ。ちょいと話を聞かせてもらうぜ。あんたらがさっき見せた“神”についてな」

 

 ディスカーは驚くでもなく、柔らかく笑って肩をすくめる。

 

「いやはや、勝利の余韻に浸っていたところなのですが。けれど、どうぞ。……私たちは逃げも隠れもしませんよ」

「地縛神は、かつてダークシグナーが使った禁忌の存在です」

 

 狭霧の声音は冷えきっており、その眼差しには容赦のない追及の色が宿っていた。

 

「なぜ貴方が、それを行使できるのか。我々は知る義務があります」

「オレたちが知りたいくらいさ」

 

 ウーヴァンが軽く口を挟む。挑発めいた笑みを浮かべつつも、声の奥に微かな緊張が混じる。

 

「ただなぁ……神に選ばれた、なんて言葉は臭くて好きじゃねえが―――事実そうとしか言えねえんですよ」

 

 続けざまに、オルデが一歩前へ出る。

 

「……俺達が望んで手にしたものじゃあない。勝手にやってきて、使い手として選ばれた。そう表現するほかないんだよな」

 

 その声音は真摯でありながら、どこか諦めを滲ませている。

 

「と言っても納得はしねえか。実際に聞いてみるか?――カードの意思って奴を」

「カードの、意思?まさか、カードの精霊……?」

 

 狭霧の瞳がわずかに揺れる。

 

「ご名答。地縛神含め、オレ達が持つ神には意思がある。けど三体も出すと収拾がつかねえからな。話題の《Wiraqocha Rasca》だけでいいですよね?」

「まさか、ここで出すんですか!?あのサイズのモンスターを!?」

 

 狭霧が当惑の声を上げた。だがディスカーは穏やかな笑みを浮かべ、安心させるように両手を広げる。

 

「安心してくれ!大きさは可変だから、小鳥のような姿で出るとも!――では、出ておいで!」

 

 彼がデュエルディスクに地縛神をセットすると、空気が揺らめき、黒い羽がひらひらと舞った。

 次の瞬間、デフォルメされた小さなコンドルが羽ばたきながら実体化する。

 

『わたしは《Wiraqocha Rasca》。……かつてダークシグナーであったレクス・ゴドウィンが用いたものとは、また別の存在。しかし、あなたたちが危険性を懸念するのも理解できます。質問にはなんでも答えましょう……』

 

 人ならぬ声が響いた瞬間、牛尾が思わず口を半開きにした。

 

「は、話が想定外の方向にいったな……だが、きっちり聞かせてもらうぜ」

 

 狭霧はきりりと背筋を伸ばし、真っ直ぐにディスカーたちを見据える。

 

「ええ、ここではっきりさせましょう。貴方達が街を脅かす存在でないかを!」

 

 狭霧の声は鋭く、通路の静寂を切り裂いた。

 だがその直後、ウーヴァンがにやりと口角を上げる。

 

「そんじゃあ、そこに隠れているお嬢さんも出てきてください。まとめて話した方が楽だ」

「わ、ばれてたのね……!」

 

 通路の角の影から、ばたばたと飛び出してくる人影。瓶底眼鏡をかけた長い黒髪の女性が、両手を慌てて振りながら自己紹介をする。

 

「わ、私、記者のカーリー渚っていいます。ぜ、是非お話を聞かせてもらうんだから!」

 

 突如現れた場違いな人物に、狭霧の眉間に皺が寄った。

 

「……また貴方?」

 

 一方の牛尾は大きくため息をつき、頭をかきながら彼女に向き直る。

 

「おい、記者の嬢ちゃん。いいのか?その……地縛神に関わって、もしも“記憶”を思い出したらまずいんじゃないか?」

「大丈夫です!たとえ衝撃の真実が明らかになってもへっちゃらです!」

 

 カーリーは胸を張るが、その膝は小刻みに震えていた。

 

「……アトラス様に迷惑をかけるようなことにならないならいいわ」

 

 狭霧が半ば呆れたように吐き捨てる。

 そんな三者三様の反応を余所に、《Wiraqocha Rasca》が、翼を一振りして低く響く声を放つ。

 

『準備はよろしいですか?―――では、質問をどうぞ』

 

 漆黒の小鳥が、澄んだ瞳を瞬かせる。羽ばたくたびに、闇を思わせる羽根がひらひらと舞い落ちた。

 

「それでは私から。ゴドウィン前長官が用いたカードとは別存在だと貴方は言ったけれど……それなら、貴方はダークシグナーとは関係がないのね?」

 

 狭霧が一歩踏み出し、冷ややかな眼差しで問いを突きつける。

 

『ええ。使い手たるディスカーにダークシグナーの証たる痣はなく、また、わたしの顕現に人々の魂が必要ということはありません。わたし達の目的はあくまで勝利すること――かつて浴びせられた嘲笑や哀れみ、その屈辱から解放されることなのです』

「おかしいじゃねえか」

 

 牛尾が腕を組み、渋い顔をする。

 

「別物とはいえ地縛神なんだろ?それを馬鹿にするような奴がいるのか?」

 

 疑念を含んだ声に、狭霧もカーリーも眉を寄せる。二人とも納得しきれていない。

 

「そうよ!」

 

 カーリーが勢いよく眼鏡を押し上げ、声を張った。

 

「さっきの試合でもあんなに活躍したのに、馬鹿にするなんて見る目がないんだから!」

 

 その力強い言葉に、黒い小鳥は短く鳴いてから静かに答える。

 

『クソ……ではなく。クズカードと呼ばれるに至った理由があるのです。なぜこのように生み出されたのか――それを悲しまずにはいられないほどに。……わたしの効果テキストを、読んでみてください』

「どれどれ……」

 

 牛尾がカードを手に取り、じろりと目を細めて読み込む。その背後から狭霧とカーリーも覗き込み、場の空気はじわじわと重たくなっていった。

 

「……ゴドウィン前長官が使用した時とは効果が違うことは、試合で把握していましたが、これは……」

 

 狭霧の声音が硬くなる。

 

「召喚に2体のリリースが必要なのに、さらに自分のカードを戻さないと効果が発揮されない。しかも相手の盤面になにも干渉できねえ……」

 

 牛尾の声には呆れが混じる。

 

「それに、それだけカードを消費しても効果に対する耐性がないじゃない!《ミラーフォース》のようなカードに破壊されちゃう!……正直、使いづらいとしか言えないわ……」

 

 カーリーが両手を広げ、素直な感想を口にする。

 3人の顔には、徐々に納得の色が広がっていた。確かに強力な存在であるはずなのに、その効果は不格好で、どこかいびつだ。

 

『……わたしは不完全で、欠けた存在。だからこそ、皆から“クズカード”などと呼ばれました……しかし、今は違います!ディスカーという立派なパートナーによって、私は真価を発揮できるようになったのです!』

「待て、その“皆”ってのは誰だ? 公式戦であんたが出たのは、さっきが初めてだろ?」

 

 牛尾が眉をひそめると、ウーヴァンが軽く肩をすくめ、一歩前に出た。

 

「そっからはオレが説明しますよ」

 

 彼の声音はいつになく真面目だった。

 

「神様が言うには、この世界とは異なる“別次元”では、《イレイザー》も、《Wiraqocha Rasca》も、オレの《アンチホープ》も量産されていたって話だ。……しかも、揃いも揃って使いづらい効果でな。さて――“神”と名がつく割に単純な強さを持たないカードを、世間がどう評価すると思います?」

「うーん……期待外れ、じゃないかしら?」

 

 カーリーが首を傾げる。

 

『オブラートに包めば、そうですね。現実はもっとひどいものでしたが』

 

 小鳥は、わずかに翼を落とすようにして続けた。

 

『そんな誹謗の中で……量産されたカードの内、意思を持つわたし達は世界を超えることにしたのです』

「世界を超える……?」

 

 狭霧の声は鋭くなる。

 

「そう簡単に、違う世界に移動できるものなんですか?」

『わたし達は仮にも神。やってやれないことはありません。そして、使いこなせる者を求め、さまよい……漸くパートナーを見つけることが出来たのです』

「まさしく運命の出会いってやつね……!」

 

 カーリーが瞳を輝かせ、ペンを走らせる。

 

「別世界だのと、スケールがデカい話になってきやがったな……」

 

 牛尾は頭をかきつつも念を押した。

 

「だが、とにかく――あんた達に人を害する意思はないってことだな?」

『ええ、その通りです。愛するディスカーに迷惑をかけるようなことをするものですか!』

 

 “愛する”の一言に、その場の空気が一瞬止まる。狭霧は思わず咳払いし、視線を逸らした。

 

「……愛、ですか。わかりました。とりあえず、納得はしました」

(……愛、かあ。私、ジャックの為に何かできるかしら……?)

 

 狭霧が静かに頷いた。だが、その声音には完全な信頼ではなく、なおも探るような硬さが残っている。カーリーの内心は知らずに。

 

「だがな」

 

 牛尾が口を開き、声を低める。

 

「今Bブロックのチームの選手が、立て続けにDホイールのクラッシュに遭ってるんだ。チーム5D’s、チームノーネーム……被害に遭ってんのはその二つだ」

 

 視線が鋭くチームリベリオンの面々に向けられる。

 

「得をするのは被害を受けてないチームユニコーンと、お前達チームリベリオンだ。だが、前者は既に二敗している……となりゃ、怪しいのは現状全勝し、特別なカードまで持ってる後者じゃねえか?」

 

 張りつめた空気が一瞬広がる。

 

「根拠のない揺さぶりはやめな、牛尾の旦那」

 

 口を開いたのはオルデだった。穏やかな声色の中に、はっきりとした怒りが混じっている。

 

「俺達は普通にデュエルで勝てる。卑怯な手を使う理由なんてねえよ」

「むしろ――」

 

 ウーヴァンが軽口めかして肩を竦める。

 

「お前達も気をつけろって言ってほしいくらいですけどね」

「まあ、こうでもしないと情報を引き出せないのはわかるとも」

 

 ディスカーが朗らかに笑い、場を和ませようとする。

 その空気を裂くように、《Wiraqocha Rasca》が言葉を紡いだ。

 

『その件についてですが……闇のカードの気配が、大会開始直前から濃くなっています。狙う対象がわかっているのなら……わたし達も協力できるかもしれませんよ』

 

 その声に、場の空気が沈む。狭霧と牛尾が目を見交わした。

 互いに納得はしていない。だが、少なくとも敵意が見えない以上、無碍にはできない。

 

「……いいでしょう。今は手がかりがないのも事実です。危険因子を放置するよりは、協力を仰ぐ方が得策かもしれません」

 

 狭霧が慎重に言葉を選びながら答える。

 

「ふん。妙な真似をすりゃ、即座に手錠をかけるからな」

 

 牛尾が釘を刺すように言い放った。

 

「はいはい、そん時はおとなしく連行されてやりますよ」

 

 ウーヴァンが肩を竦め、茶化すように笑う。だがオルデの眼差しは真剣そのもので、静かに頷いていた。

 その時、カーリーが一歩踏み出す。

 

「じゃあ、これは一大スクープの機会ってわけね!真実を記事にして――」

「駄目だ」

 

 牛尾が低く遮った。

 

「この件に深入りすりゃ、命に関わる。あんたは手を引け」

「で、でも……!」

「記者魂は立派だけどな、嬢ちゃん。こいつは遊び半分で嗅ぎ回っていい話じゃねえ」

 

 人情味を帯びた声で牛尾が言い聞かせると、カーリーは唇を噛み、やがて小さく肩を落とした。

 

「……わかりました。記事にはしません。でも、せめて無事でいてくださいね」

 

 その健気な言葉に、場の空気が一瞬和らぐ。

 ディスカーが笑顔を浮かべて答えた。

 

「もちろんさ。私達は勝つためにここにいる。それ以外のことで負ける気はないよ」

 

 こうして、治安維持局とチームリベリオンとの間に、奇妙な協力体制が生まれた。

 だがそれは同時に―――彼らを取り巻く影が確かに存在するという、揺るぎない証でもあった。

 

 そして翌日。

 白い雲がまばらに浮かぶ青空の下、透明素材で構成されたネオドミノシティのハイウェイを、一台の赤いDホイールが駆け抜けていた。薔薇の花弁を思わせる鮮烈なフォルム――ブラッディー・キッス。だが、その走りはあまりにも無防備で、一人きりだった。

 高台に陣取る三人の男が、いやらしい笑みを浮かべる。直後、ブラッディー・キッスの前輪に異物が絡みつき、機体は制御を失った。急停止の反動で前のめりに倒れこみ、操縦者の身体は宙へと放り出される。

 

「《ローズ・テンタクルス》ッ!!」

 

 カードを翳したアキの瞳が赤く光る。サイコ・パワーでモンスターを顕現させ、落下を受け止める――はずだった。だが映像は虚しく透き通り、彼女の身体をすり抜ける。

 

(え……!? 力が発動しない……!)

 

 地面へと頭から激突する、その刹那。疾駆してきた別のDホイールが追いつき、操縦者がアキの身体を抱きとめた。

 

「やあ、無事かい?」

 

 驚きに見開いたアキの瞳に映ったのは、セキュリティの男・風馬だった。

 

「か、風馬さん……!? どうしてここに……」

「匿名の通報があってね。君が狙われる可能性が高いと聞いた。念のため後方を走っていたんだが……まさか本当に仕掛けてくるとは」

 

 アキが振り返ると、コース脇に激突したブラッディー・キッスが炎に包まれ、黒煙を上げていた。

 

「あ……でも、Dホイールが……!」

「今は君の無事が最優先だ。とにかく病院で検査を――」

「……はい。本当に、ありがとうございます」

 

 ――その光景を、遠くの高台から三人の男が眺めていた。

 

「ちっ、しくじったか!」

「しかも止めに入ったのがセキュリティじゃねえか……!」

「おい、もう嗅ぎつけられたんじゃねえか? せっかくの三十万がパァだ!」

 

 いかにもチンピラ然とした三人組――ヘルマン、ハンス、ニコラス。

 かつてプラシドに闇のカードを与えられ、チームカタストロフとしてWRGPに参戦するはずだった小悪党どもだ。だがウーヴァンがプラシドを退けたため、出場枠を失った代わりに「裏稼業」を任されていた。

 その任務は、プラシドが標的と定めた選手をクラッシュさせること―――報酬は賞金三十万。

 

「ずらかるぞ!ここにいても仕方がねえ!」

 

 慌てて逃げようとした瞬間――轟く排気音が空気を裂いた。

 

「……あン?」

 

 真っ先に気づいたのはハンス。耳に届いたのは、荒れたエンジンの咆哮。振り返ると、遠方から漆黒の機影が登ってくる。

 ぶわ、と突風が吹き抜け、街灯がきしんだ。

 昼間にも関わらず、強烈なライトが閃光弾のように彼らを照らし出す。網膜を焼く白光に、三人は思わず目を細め――次の瞬間、漆黒のDホイールがド派手なスリップ痕を刻みながら横付けに停止した。

 

「よう、悪党の皆さん。―――観念の時だぜ?」

 

 ヘルメットを外し、茶髪が風に靡く。

 その顔を見て、三人は一斉に声を上げた。

 

「ウーヴァン・ディット!?なんでテメェが……!」

「へえ、やっぱりあんたらだったか。ヘルマン、ハンス、ニコラス……名前も顔も、ぜんぶ把握済みだ」

「はっ!だったらどうする!」

 

 一触即発の空気。

 だがウーヴァンはにやりと笑みを浮かべ、ノワール・ワンのハンドルを軽く傾けた。

 

「こうするだけですよ。仕込みは上々――さあ、ショーの始まりだ!」

 

 その言葉と同時に、ノワール・ワンのフロントが大きくウイリー。

 三人のDホイールもエンジンが唸りを上げ、まるで呼応するかのように自動起動する。

 

『DUEL MODE ON. AUTO PILOT STAND BY』

「……デュエルだ。ルールは簡単、3対1。それぞれライフ4000、手札5枚。最初のターンは全員攻撃できない。ただし先攻は――俺がもらう」

「馬鹿か……! 3対1だぞ?余裕で勝てるに決まってんだ!」

「それに、俺達には“とんでもないカード”があるんだぜ。無事で済むと思うなよ!」

「ふぅん、脅しは結構。でも覚えときな。負けた瞬間、あんたらのDホイールと端末から全部のデータがセキュリティに送信される。……余罪も、ぜーんぶ、な」

 

 ぞっとするような宣告に、ヘルマンとハンスは思わず息を呑む。

 だがニコラスが吠えた。

 

「ビビんな!勝ちゃ問題ねぇんだ!ぶっ潰せ!」

「お、おう!こんな奴、叩きのめしてやる!」

「二度と舐めた口きけねぇようにしてやるぜ!」

「よし……やる気は充分。なら――さっさと終わらせよう」

 

 視線が交錯した。

 それは同時に、開始の合図。

 

「「「「ライディング・デュエル!アクセラレーションッ!!!」」」」

 

 四機のDホイールが一斉に走り出す。

 風を裂き、轍を刻む。

 スピードの世界―――命運を賭けた闘いが、今、幕を開けた。

 その結果……

 

「《ミスティック・パイパー》を召喚、リリースしてレベル1モンスター《サイバー・ドラゴン・ネクステア》を手札に加えてさらにドロー。1枚伏せてターンエンド」

「《ヒドゥン・ナイト-フック》を召喚!カードを1枚セット!」

「《ヒドゥン・ナイト-フック》を召喚!」

「《ヒドゥン・ナイト-フック》を召喚!これからテメェは地獄を味わうことに……」

 

 チンピラたちのフィールドに並ぶ悪魔たち。だがウーヴァンは鼻で笑った。

 

「……え、それで終わりなんです?まあ、チンケな悪党らしいっちゃらしいか。じゃ、オレのターン」

 

彼がカードを引くと、スピードの世界に一瞬光が走る。

 

「《DNA改造手術》発動。フィールドのモンスターは全部、機械族だ」

「はっ、種族を変更したからってなんになるんだ!」

 

 ヘルマンが吼える。嘲るような響き。

 

「手札を1枚捨てて手札の《サイバー・ドラゴン・ネクステア》の効果発動。このカードを特殊召喚。これをトリガーにSPCを1つ取り除き《Sp-地獄の暴走召喚》を発動。《ネクステア》はフィールドにいる限り《サイバー・ドラゴン》として扱う。よってデッキから2体の《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚。アンタらも《ヒドゥン・ナイト-フック》をデッキから可能な限り特殊召喚できる」

 

 機械竜が轟音とともに顕現し、さらに二体の同型機体が光の中から現れる。対する彼らの《フック》は、ぞろぞろとデッキから呼び出され、合計九体が道路を埋め尽くす。

 

「はっ!俺達を有利にしてどうするつもりだ?」

「こうしますよ、っと。《サイバー・ドラゴン》扱いの《ネクステア》とハンスのフィールドの機械族扱いの《フック》3体を墓地に送る!」

「な、なんだッ!?」

 

 ウーヴァンが指を鳴らす。次の瞬間、竜と悪魔の肉体が混じり合い、金属の悲鳴を上げながら融合を果たした。

 

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

 それは機械の龍だった。それは要塞だった。龍の頭部から尾までを9つのホイール状のパーツを連ねて構成された要塞龍。一部のホイールからは、《サイバー・ドラゴン》に似た機械龍が首を出し、咆哮。傲然とレーンを揺さぶる。

 

「テメェ!よくもオレのモンスターを!」

「《フォートレス・ドラゴン》の攻撃力は素材となったモンスターの数×1000ポイントになる。素材は4体。よって攻撃力は―――」

 

《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》ATK4000

 

「攻撃力、4000……!」

「後はこれを2回繰り返す」

「ええい、かかれ!」

 

 ウーヴァンのDホイールの影が濃くなり、その闇から6つのフックが出現。前輪の左右を狙って機体をロックしようとするが、黒の機体はウイリーの勢いを利用して跳躍。フックが空を切る。

 

「かわされた、だと!?」

「ばかですねぇ。かかれ!なんて言ったらなんかしてくるってまるわかりでしょ。それじゃあ《サイバー・ドラゴン》とヘルマンの《フック》3体を墓地へ送り2体目の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》召喚。2体目の《サイバー・ドラゴン》とニコラスの《フック》3体を墓地へ送り3体目の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》召喚」

 

 二体目、三体目と、同じ怪物が次々に誕生していく。圧倒的な光景。もはやフィールドは竜の要塞に占拠され、チンピラたちの小細工は跡形もなく吹き飛んでいた。

 

「バトル。3人に《フォートレス》で1体ずつ攻撃。『エヴォリューション・リザルト・アーティレリー』3連打ッ!!」

「やらせるか!《聖なるバリア-ミラーフォース》!」

「ライフを半分支払い、手札からカウンター罠《レッド・リブート》発動。その効果を無効化し、フィールドにセットする。そして、このターン罠カードを発動できない」

「馬鹿な!」

「はい、終わり」

 

 閃光。重砲の咆哮が三人を一斉に呑み込む。悲鳴も追いつかない。Dホイールは強制的に停止し、彼らは顔を歪めたままシートに崩れ落ちた。

 

「な、何だよこの化け物……!」

「はっきり言いましょうか? ――アンタらじゃ相手にならねえ」

 

 ウーヴァンは鼻で笑い、背を向けた。

直後、セキュリティのサイレンが鳴り響く。取り囲まれた三人は、呆気なく拘束されていった。

 

「……やるじゃねぇか。闇のカードを検知したらあっという間に情報が集まった。おかげで、十六夜が被害に遭うのを防ぐことが出来た」

 

 逮捕劇を見届けながら、牛尾がDホイールを寄せてきた。

 

「けどな、やりすぎだろ。あんな怪物を三体も並べるとはな」

「はは、勝てばいいんでしょ?手っ取り早く終わらせるのがオレのやり方なんで」

 

 ウーヴァンは笑みを崩さずに答える。

 

「今回オレ達が事件にかかわったことはチーム5D’sの皆さんには話さないでください。あくまで、治安維持局が解決したってことで。ないとは思うが、恩や情の所為でプレイングに影響出てもつまらないですし?……後、正直言うと大会以外で目立ちたくねえ」

「わかったよ、匿名の通報者がいたってことにしてやる」

 

 牛尾は短く頷くと、ふっと口元を緩めた。

 

「……それにしても、お前さんは妙に割り切ってるな。情に流されない分、強いかもしれんが……ほんとに大丈夫か?」

「心配ありがとうございます。でも、オレはオレの勝ち方で走るだけですよ。大会の上でなら、ね」

 

 軽く肩をすくめて答えるウーヴァン。

 牛尾はしばらくその横顔を見つめ、やがて小さく笑った。

 

「……ならいい。無茶すんなよ」

「それはそっちのセリフでしょう、牛尾の旦那。オレら一般人よりは危ない橋わたってるでしょ?」

「はっ、言うじゃねえか」

 

 二人の笑い声が短く交わり、風に溶けた。

 遠くでセキュリティカーの赤色灯が回る。

 ウーヴァンは軽く手を上げ、Dホイールを加速させた。

 

「じゃあ、また明日会場で」

 

 黒い機影は闇に消え、牛尾の視界から去っていく。

 その背を見送りながら、牛尾は低く呟いた。

 

「……本当に、只者じゃねえな」

 

 整備ヤードに戻ると、オルデとディスカーが待っていた。

 街を覆っていた黒い気配は消え、空気はようやく澄み渡っていた。

 

「……片がついたな」

 

 オルデが言う。声は低いが、どこか解放感が漂っている。

 

「余計な雑音は消えた。あとは走るだけだ」

「ああ。邪魔者がいなくなったのは好都合だね」

 

 ディスカーは柔らかい口調で続ける。

 

「大会に集中できるし……何より、私達の力を正しく示す舞台が整ったからね!」

 

 ウーヴァンは肩をすくめ、軽い笑みを浮かべた。

 

「ちょっとしたウォーミングアップってとこでしたね。こっからが本番だ」

「次はチーム5D’s……か」

 

 オルデが鋭い眼差しを遠くに向ける。

 

「あいつらの結束は強い。その力は本物だ。だが、俺達も伊達にここまで来たわけじゃない」

「ああ、その通りさ」

 

 ディスカーは静かに頷き、言葉を区切る。

 

「彼らが絆なら――我々は反逆の矜持。どちらが上か、答えを出そうじゃないか」

 

 ウーヴァンは仲間ふたりを見渡し、ニヤリと口角を上げた。

 

「上等じゃないですか。勝つのは俺達、チーム・リベリオンさ」

 

 三人の視線が交錯する。

 それは宣戦布告にも似た静かな合意。

 やがてヤードに灯るライトが、彼らの黒きDホイールを照らし出す。

 次なる舞台――チーム5D’s戦。

 反逆の走りが、今まさに始まろうとしていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

主人公の個性奪っちゃったみたいだから返すね(作者:しおんの書棚)(原作:僕のヒーローアカデミア)

原作のあらすじすら怪しいような転生オリ主の勘違いから始まる、僕と私のヒーローアカデミア。


総合評価:7153/評価:7.94/連載:16話/更新日時:2026年02月04日(水) 06:00 小説情報

現代怪異社会の博麗霊夢(偽) (作者:拓拓)(原作:東方Project)

「東方Project」オタクの主人公が、「博麗霊夢(偽)」になりきってオカルト退治を行う。


総合評価:4228/評価:8.45/連載:24話/更新日時:2026年02月09日(月) 17:00 小説情報

直葉「お兄ちゃーん、あの人に手を出されたー。」キリト「お前を〇す」(作者:狩宮 深紅)(原作:ソードアート・オンライン)

性懲りもなくまた書きに来ました。▼ちょっと重めで策士な直葉ちゃんのSSです。▼内容は…。まあ、タイトルの通りです。▼時系列は本編終了後を想定しています。


総合評価:3271/評価:6.47/連載:13話/更新日時:2026年04月05日(日) 02:00 小説情報

俺が死んだと思っている仲間と会うのが気まずい(作者:guruukulu)(原作:葬送のフリーレン)

何で死んだのが分身って誰も気付かないの・・・


総合評価:5619/評価:8.07/連載:6話/更新日時:2026年04月01日(水) 19:00 小説情報

とある転生者の受難日記(作者:匿名)(原作:七つの大罪)

これは、ひょんなことから転生した男の、ありとあらゆる苦難が綴られた日記である。


総合評価:14797/評価:9.12/連載:23話/更新日時:2026年05月08日(金) 19:07 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>