粉塵を撒き散らす赤の騎馬兵は馬を走らせ、蒼穹の空のもと無惨に崩れた城壁を軽々と越える。
無情に騎馬に踏まれていく積もった死体を哀れに思いながらも城壁都市フラムベンを進むが、この有り様では引き分けか、首をめぐらせれば見渡すかぎり死体の山
帝国兵もエドル兵も生きている者は見えない
どちらにせよこの死体の数では双方に甚大な被害が出たのだろう。
静寂に包まれた都市にはパチパチと何か燃える音と、死骸を求めて来たカラスの鳴き声が響きわたっていた。
帝国がエドルに対して宣戦布告を発表してから5ヶ月、破竹の勢いで東から侵攻する帝国にエドル軍は後退を余儀なくされていた。
そして最後のエドル防衛ライン、城壁都市フラムベンを攻撃するため帝国側は6万の兵力。対するエドル軍は2千の兵で帝国を向かい討った。ここを突破すればエドル皇国首都まで何の障害もなく侵攻できるのだ
全てはある皇女を滅ぼすため.....
世界を戦火の渦へと引きずり込んだ神殺しの皇女を....
ビスティッカ•フィオンレオーナ姫の死を世界は望んだ。
市街の中心、馬を降りたリタ•クルーガーは目の前の殺気を感じ始めた
剣の柄を掴み構えたリタのなまくら剣は血が付着し、刃先はボロボロだったが、その持つ手に震えはなかった
そして、その眼光の奥には同じく構えるある剣士が反射し見えていた
チェーンメイルに金色に輝く鎧、細長い長剣を持ち、肩まで程の金髪ヘアーの女剣士はゆっくりと近づき、お互い睨み合いが続く。
「そんななまくらの剣で戦えるのか?」
女剣士は不適にリタをあざ笑うように言う
「いや多分無理だね だが、戦場で死ぬ事は傭兵の本望だ」
「ほう....貴様、帝国に雇われた傭兵か」
リタは無言で頷く
「そう言うあんたはエドルの兵か?」
「まぁそんな感じだな、少し違うけど」
「意味わかんねぇよ」
そう言うとフフっと笑う女剣士は目つきを変えた
闘志に燃えたその眼はその美貌とは相対し、それにより美しさが増倍する
俺とは同じくらいの歳だろうか....?
10代の若い兵士がいることは珍しくはない、しかしこんな美しい女性が兵士なのは逆に珍しい
戦えるのか....おれ....
「さて、行こうか傭兵よ」
「おう、恨みっこなしだ」
走り出したその足に迷いはない、
真っ直ぐ向かうその思いは決まっている
殺(や)らねば、殺(や)れる.....
石畳の地を踏み込み、飛びかかるはなまくらの剣を振りかざす
瞬間、剣と剣が重なり合い、振動が身体全体に伝わる
嫌な振動だ、つい握る力を抜いてしまう
しかし、女剣士はその瞬間を見逃さなかった
空中で身をひるがえしたリタは間一髪で突き刺す長剣の刃をかわす。皮鎧を引き裂くように擦れていく刃に眼で見張りながら剣士の後ろに着地した
粉塵の舞う中、背を向け合う二人はお互いの実力に興味を覚える
「なかなかの手練れだねー、久しぶりに楽しめる相手じゃないか」
戦いに満ちた眼、それは戦のためだけにあるような笑顔だった。
全身の筋肉が唸りをあげる。全ての意識を両腕に集め、刃を感じ始めた
その瞬間、リタはコマのように身体を回転させ、女剣士の距離を一気に詰めた
そして、リタの振り上げた剣を柄で返し、そのまま打ち下ろす。
しかしリタの振り下ろした剣の峰が女剣士の顔にかすめ取り、左頬にわずかに通過させた。
一筋の血が女剣士の頬に滴り落ち、一粒一粒ゆっくりと地に落ちていく
「私に傷を付けられるなんて.....貴様、いい腕をしている。名を申せ傭兵よ....」
「リタ•クルーガー、あんたは?」
「.......、エドルの救世主とでも言っておこう」
「随分エドルに忠誠心があるな、あんな弱小国家のどこがいいんだ?」
その言葉が彼女の導火線の火を付けたのかは分からない。でもリタの一言は彼女にとってかなり戦闘意欲を描き上げてしまったのは確実だ
「そうか、じゃあ.....君が言う弱小国家にも強い奴は居るって言うことを分からせてあげるよ....」
金髪の髪は揺れ始め、風は靡き、暗雲に包まれた蒼空は女剣士のその一言で動きを変える
....魔術....!?
そう思ったリタは戦う相手を明らかに間違えてしまった。
絶対に真っ正面から対峙してはならないものにリタは勝負してしまったのだった
黒みの掛かった雲は雷光により光輝き、女剣士はその剣を空高々に上げた
「フードゥル、ル・トネール サーブル.....
雷鳴の騎士よ.....我に従い、光り散れ!!」
突然の稲妻光が走り、衝撃が周囲に伝わる
こいつは.....アークランカー.....!?
「お前、卑怯だぞッ!!」
「戦いに『卑怯』は一つの技だ.....相手が悪かったな」
蒼空にあげた長剣は稲光によって刃は光放ち、所々電線が走っていた
「雷斬鉄槌っ!!!」
一瞬だった
その口から出た言葉がリタに伝わる直後に女剣士の顔がもう目の前にあった。信じられない動き、人間離れした機動力、全てが「アークランカー」によってなせる技術だった
「くっ...!!」
有り得ないスピードで振り抜かれた長剣に応戦するリタ
剣の柄を持ち上げ、一瞬だけ見える長剣の切り裂く弾道線を見逃すことなく必死に剣で弾いていく
しかし、それを横臥(おうが)するかのように剣を突き立てる
剣と剣が弾くごとに激しい火花が飛び交い、長剣が当たるごとに重い衝撃が全身に伝わっていく
立て直す間なく突き立てる長剣が腕リタの腕を直撃した。皮鎧ではない茶色の布は鮮血に染まり、そして剣を落としてしまう
「惜しいな....帝国の傭兵よ、地に墜ちるがいい」
振り上げる長剣、ふらつく足は構える
剣を横にしたリタは深呼吸をし、真上から来る長剣を受け止めようと体勢をとっさに低くした
斬る直前、女剣士は感じた
男の闘志に燃えたその眼に湧き上がってくるような力
こいつは.....使える.....
ニヤリと笑う女剣士は振り下ろす長剣を突然を戻した
「二つの道をやろう」
死を覚悟したリタにとってその言葉は意表を突かれるものだった
キョトンとするリタに女剣士は続ける
「二つの道だ、一つはこのまま私に斬られるか、もう一つは.....」
「私の兵になるか.....」
「なんのつもりだ」
即答に近い疑問をリタは投げかけた
今の今までこの女剣士は俺を殺そうとしていたのだ
「ふざけるな....貴様何を企んでいる....」
「さぁ~ね~、まぁ選ぶのは自分だからね」
落とした剣を持ち直したリタは女剣士に再度向かう
石畳を踏み込み、その足元の地はひび割れる
「剣を引いたのが運の尽き!卑怯が戦術の一つならこちらも不意打ちで生かしてもらう!!」
油断している女剣士に体勢を低くしながら横腹を斬り込むリタ
「ラァァァァ!!!」
リタは一本のなまくらの剣を女剣士の金鎧めがけて疾風のごとく斬り抜く.......が、
当たるか当たらないかその時、勢いよく蹴り上げた女剣士の足はしっかりとリタの股間に命中、突撃したリタは味わったことのない痛みによって力を落としてしまう
下から込み上げるズンズンとした痛み、
その様子にニタニタと不気味な笑みを浮かべる女剣士はもがき苦しむリタの前にしゃがみこんだ
「おもしろいやつだ、気に入ったぞ」
「ひ、卑怯なッ......」
「言ったろ?『卑怯』も戦術のうちだって.....」
「ビスティッカ様!何をしているんですか!?」
後ろから馬に乗ったエドル兵がやってくるのが見えた
朦朧(もうろう)とする中、リタは突然の黄色い声を最後に気を失ってしまう
ビスティッカ....
フィオンレオーナ姫......?