うぉアッマッ! うぉデッカッ! うぉキッツッ! 作:所羅門ヒトリモン
柔屋さんとの特訓が終わると、いよいよ放課後の九十九坂学園でやることはなくなってくる。
僕は帰り支度のため、職員室に行って部室の鍵を返却した。
するとそこで、先生から忘れ物についての指摘を受けた。
「柊木くん。そういえば、きみの席に消しゴムが置きっぱなしになっていたわよ?」
「え、消しゴムが?」
「まだ新品っぽかったのに、筆箱にしまい忘れちゃったの? 早くしないと盗られちゃうかもだから、そろそろ帰るなら回収しておきなさいね」
「ありがとうございます。先生。そうします」
「うん。じゃ、気をつけて帰るのよ〜」
先生に見送られて、僕は職員室を後にした。
歩きながら、学生カバンを開けて筆箱の中身を確認する。
たしかに、消しゴムが無い。
ちゃんと仕舞っておいたつもりだったが、どうやら隙間から落ちるなりして見落としていたんだろう。
僕の筆箱はフェルト生地のスリムなポーチ型で、ケースというよりはホルダータイプになっている。
ミク姉とマコ姉が手作りでプレゼントしてくれたものだ。
オシャレなので気に入っているけど、あまりペン以外のものは入れられない。
新品の消しゴムはまだ削れて小さくなっていないので、なにかと零れ落ちやすいのかもしれなかった。
教室に向かう。
雨の匂い。ワックス掛けされた廊下の匂い。
ジョギング中の雨足は、おそらく今夜遅く、いや、明日の朝まで続くのかもしれない。
窓から見える鈍色。その遅々とした動きを横目に、僕はスタスタと教室まで辿り着いた。
ドアを開ける。ガラララ、とスライド音が響く。
ピー、パシャリッ!
「え?」
「え?」
僕の席で、僕の消しゴムを写真撮影している女子がいた。
「あっ! ゆっくんじゃーん! なになに? どしたの?」
「
九十九坂学園 2−1 は、座席の位置がまだ名前順だ。
僕はハ行の二番目、
しかしながら、サ行の二番目で教室では右側に自分の席があるはずの女子が、なぜだか僕の席に座っていた。
教室の中心に位置する僕の席に座って、どういうワケだか僕の消しゴムを携帯カメラで撮っている。
なになに? も。
どしたの? も。
ここでは当然、僕のセリフだった。
だが、ドアを開けて困惑する僕とは裏腹に、当の本人は持ち前の明るさからかニパッ! としている。
自分が何か悪いことをしているだとか、そういう感覚が一切ない屈託の無さだ。眩しい。
白牛みくる。
彼女の属性は、金髪ツインテール。青のカラコン。猫っぽいツリ目。ムチムチパツパツの白い肌。綺麗系だけれど愛嬌たっぷり陽気スマイル。同級生。ギャル。オタクにも優しそう。着崩しすぎて大胆露出な制服。ミニスカ。実家が牧場。元水泳部。SNS大好き。ストリーマー。
クラスの女の子たちからは、そのルックスと性格からかなり人気を博しており、学園唯一の男である僕にも最初から距離感が近かった。
可愛くて明るくて人懐っこい爆乳ギャルに絡まれたら、人は誰でも嬉しくなってしまうものだろう。僕はギャルが好きだ。ゆっくん、とあだ名で呼ばれるのも、なんというか……イイ……
が、何をしていたのかの確認は必要だ。
「白牛さん」
「ん、なにー?」
「そこ僕の席だけど、消しゴムなんか撮って何してたの?」
「えっとねー、SNSにあげる用の写真撮ってたんだ!」
白牛さんは「見て見てっ、これ!」と自身の携帯端末の画面を見せてくる。
僕は近づいて、どれどれ? と覗き込んだ。
そこには机の上で無造作に転がる僕の消しゴム画像と、謎のセンテンスが載っていた。
o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o゚o。o゚o。o゚o ゚o。o゚
勹ラスσ勺″冫シカゞゎすれもσUナニゐナニレヽ!
ぅっカゝレ)、ナωτ″カゝゎレヽレヽレナ`⊂″、├″ロボ宀、ナれちゃっナニレ)UナょレヽカゝUωレよ°レヽ勺″∋!
ゐ<ゑカゞぁ£″カゝっτぉレヽτ、ぁUナニゎナニUτぁ(†″ょぅカゝナょ……?
o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o゚o。o゚o。o゚o ゚o。o゚
「──なんて?」
「あ、そかそか! ゆっくん読めない系だよね? 代わりに読んであげるね!」
白牛さんは自分で打ったのであろうテキストを、朗々と読み上げた。
「クラスの男子が忘れ物したみたい! うっかりさんで可愛いけど、ドロボウされちゃったりしないか心配だよ! みくるが預かっておいて、明日渡してあげようかな……?」
「なるほど」
もはや絶滅した文化だと思っていたけど、パラレルワールドで蘇っていたんだね。
ギャル文字。
または、ギャル語と言うんだったか……
この可読性を敢えてゴミにしたとしか思えないサブカル文字体系は、たしかに平成の時代の産物。凄まじいノスタルジーだぜ……
「ありがとう白牛さん。でも、大丈夫。消しゴムはきちんと回収されたからね?」
「あーん! せっかく明日、皆の前でゆっくんにありがとうって言ってもらえるチャンスだったのにー……」
「ハハハ。相変わらず、承認欲求高めだね」
白牛さんは中学で水泳部をやめてから、SNSでのバエやバズ稼ぎに打ち込んでいる。
普段はコスメ系の投稿が多いようだけど、一年生の頃にクラスの男子について軽い気持ちで投稿したら、それがべらぼうにバズったとかで。
恐らく今日も僕関連の情報を発信して、一山ならぬ一バズ当てようとしていた感じかな。
みくるちゃん@ちゃんねるは、クラスの女子たちもよく閲覧しているようだし。
僕が納得していると、白牛さんが「そうだ!」とおもむろに閃き顔になった。
そしてニンマリ。
「ね! ね! ゆっくん?」
「なに?」
「もし良かったら、みくるとカップルチャンネルやらない?」
「ビジネスカップルチャンネルってことかな?」
「うっ、そ、そうだけどぉ〜! もうちょっと動揺してくれてもいいのに〜!」
白牛さんは依然として僕の席に腰を下ろしたまま、ぐでー、と机の上にうなだれる。
なんてことだ。おっぱいがデカすぎて、セルフネックピローみたいになってるじゃないか……!
世が世なら、この画像をネットに投稿した方がバズりは期待できただろう。
白牛さんはブレザーのジャケットも羽織ってないし、気の早い夏服、サマーブラウスをかなり着崩している。
そのせいで、本人は「見えてもいいヤツでーす♡」なんて言っているけど、ギャルらしい派手なデザインの水色豹柄ブラジャーがじゃっかんながらはみ出てもいる。
立った状態で、そんな彼女がぐでーんとしているのを見下ろしたら、僕のチンチンはピクピクしてしまった。
舌を噛む。
さて、それはともあれカップルチャンネル……
今現在の日本のルールでは、男である僕に自由恋愛は許されていない。
ギャルである白牛さんも、当然
なので、白牛さんの提案内容は即座に僕のなかでビジネスカップルチャンネルだと変換された。
それに実を言うと、この手の提案を受けるのははじめてじゃなかった。
「たとえビジネスだとしても、ネット社会はリンチ社会だからなぁ。下手に僕とカップルだなんて公言したら、白牛さん炎上しない?」
「大丈夫だよ! ちゃんとチャンネル開設前に、あらかじめこれはビジネスです! 子どもの遊びです! って前置き出すし!」
「それでも、リスキーなことに変わりはないと思うけどなぁ」
どんなに前置きや御託を並べたところで、世の中には自分の見たようにしか物事を見れない人種がいる。
百合営業やBL営業をして数字を出すことに成功したストリーマーが、活動を重ねていくうちに相手がたと険悪な仲になってしまって、チャンネルとしてはとっくにカップリング売りをやめているのに、ファンはいつまで立っても「〇〇てぇてぇないの?」とか繰り返すため、それがストレスになったストリーマーがお気持ち表明して炎上とか。
事例はいくらでもあるだろう。
「僕はカップルチャンネル、反対だな」
「えーん! ゆっくんにフラれたー!」
「違うよ。白牛さんが傷つくところを見たくないだけだよ」
「ゆっくん……♡ そう言ってくれるのは、嬉しいんだけどさぁ〜……ダメ?」
「だーめ」
「♡ むぅぅ、ちぇっ。ゆっくんとだったら、ぜっーたいっ万バズイケるのに!」
白牛さんは左のツインテを、くるくる指でいじり回しながら分かりやすくいじけた。
ところで、白牛さんはいつまで僕の席に座り続けるつもりなんだろう?
そんなふうに机におっぱいを押し付けたり、お尻をびったり椅子に乗せられてしまうと、僕は明日の授業中勃起を堪えきれないかもしれないんだけど……机の下で勃起を隠す秘技、テーブル・アンダー・ザ・チンポを一日中実践する羽目になりかねないんだけど……
僕が内心で「くっ!」と身悶えしていると、
「そうだ! じゃあさ、匂わせ彼氏チャレンジは?」
「匂わせ彼氏チャレンジ?」
「そ! ゆっくんのことはぜったい明言しないんだけど、ちょっとした写真とかで彼氏がいる風を装うヤツ! 私、アレやりたいでーす♡」
白牛さんはガバッと身を起こして、机に両手を突きながら「どう!?」と僕を見上げた。
おっぱいがボヨン♡ と跳ねて強調された。
匂わせ彼氏チャレンジか……まぁ……そのくらいだったら……問題ないか?
「うーん……けど、それってたとえばどんなふうにやるの?」
「よくぞ聞いてくれました! みくるちゃんに策があります!」
白牛さんは立ち上がると、携帯カメラをONにして僕に引っ付いてきた。
腕を組んで、おっぱいが僕のカラダに当たるのも構わず、
「イエイ♪」
ピー、パシャリ!
慣れた仕草で瞬く間に自撮りを終える。
撮れた写真は、
「こんな感じで、ゆっくんの腕がギリ映ってるか映ってないかくらいにしておいて、投稿文にはこう載せちゃいます!」
o゚o。o゚o。o゚o。o゚o。o゚o゚o。o゚o。o゚o ゚o。o゚
ぁめσ℧っτジ乂ジ乂! τ″も、ゐ<ゑσせレヽUゅωレよレヽまUカゝナょレヽ!
`⊂もナニ″ち`⊂レヽっUょナょʖˋ、ぁめσレまぅカゝ⊇″もちょー/ヽッ匕oー!
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「ごめんなさい。読めません」
「なんで敬語!? 内容はね、雨の日ってジメジメ! でも、みくるの青春は今しかない! 友だちと一緒なら、雨の放課後も超ハッピー! でーす♡」
「これ誰が読めるんですか?」
「え、ひどい系? ゆっくん今時の女の子とチャットとかしないの〜? みくるの周りは、皆これでやりとりしてるよ?」
「マジかよ」
ギャル文字が予想よりもキツイ。
こんなのもう異世界アニメの異世界語だろ。
てか、左腕に当たってるおっぱいの感触のせいで、僕のIQと読解力が下がっているかもしれない。
しかしなるほど。
写真の出来栄えを見るに、たしかにこれなら一緒に写っているのが男かどうかは断言できない。
肩の位置から平均的な女子よりもかなり身長が高そうだとは推測できるが、それも白牛さんがいい感じに斜めに撮っているので画像だけでは何とも言えない。
「僕のことを友だちとしか言わないのも、匂わせテクニック?」
「そ! お願いゆっくん! たまにでいいから、私と匂わせ彼氏チャレンジしよっ?」
「チャレンジの意味が、社会のルールにどれだけ抵触しないでいられるか、限界を攻めるような意味合いになってないかなぁ……」
「いいじゃん! そうゆーのの方が、コウフンするくない? 楽しくない?」
「イケない子だ……」
「ふっふっふっ。そうでーす♡ みくるはイケない子でーす♡」
意図的なのか無自覚なのか。
そのとき白牛さんは、さらに僕の腕に寄りかかって上目遣いで頼み込んできた。
「ねぇ、いいでしょー?」
スリスリ♡ スリスリ♡
おっぱいが当て擦られる。
左腕が抱きしめられて、おっぱいの間に挟み込まれて埋没する。
(デッカ……スッゴ……!)
僕は黙り込んで、思わず唇を引き結んだ。
そんな様子に、白牛さんはさらに甘え声を出す。
男の左腕をおっぱいの間に抱き込んで、駄々っ子のように小さく跳び跳ねたのだ。
「おねがいっおねがいっゆっくん!」
ぴょんぴょん♡ むぎゅ〜♡ スリスリ♡
ぴょんぴょん♡ むぎゅ〜♡ スリスリ♡
「みくるん家のモーモーミルクもあげるからぁ!」
「白牛さん家の?」
「うんっ! あまくておいしいよっ? みくるのじかしぼりだよっ?」
ぴょんぴょん♡ むぎゅ〜♡ スリスリ♡
ぴょんぴょん♡ むぎゅ〜♡ スリスリ♡
挙げ句の果て、いじけた声になって……
「ゆっくぅん……!」
チラッチラッ。
「分かった。やろう。匂わせ彼氏チャレンジ」
「ホント!? ゆっくん超好き〜♡」
スリスリ♡ スリスリ♡ ギュゥ〜♡
ああ、僕はギャルに弱い……