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第十七話
時期は6月の最終週の月曜日。夏休みも目前の中、教室で普通の座学を終わらせた相澤先生が、唐突に俺達へ話を始めた。
「よし、授業はここまでにする。期末テストまで残すところ1週間だが……お前らちゃんと勉強してるだろうな? 当然知ってるだろうが、テストは筆記だけでなく演習もある。頭と体を同時に鍛えておけ。以上だ」
そう言い終わるのと同時に学校のチャイムが鳴って、相澤先生は教室から出て行った。
「「まったく勉強してなーーーいっっ!!!」」(19位・20位)
直後、中間テストでドベツートップを爆走していた上鳴の慟哭と、開き直った芦戸の笑い声が教室に響き渡る。
「体育祭やら職場体験やらで全く勉強してね〜〜っ!」(20位)
「確かに、行事続きではあったが……」(14位)
常闇が何か言っていたが、そもそも職場体験が5月だったんだから、今に至るまで1ヶ月ぐらい余裕があったハズだ。
何なら授業参観とか、クソ平和だった行事の期間まであっただろうが。
「中間は、まあ……入学したてで範囲狭いし、特に苦労なかったんだけどな……」(13位)
「──っ──っ───っ!(相槌を打っている)」(12位)
砂藤と口田が会話……てか、一方的に砂藤が話しているだけだけど、2人の会話に何人もの生徒が耳を傾けて同調する。
「行事が重なったのもあるけど、やっぱ期末は中間と違って……」(13位)
「演習試験もあるのがツレえトコだよな〜♪」(9位)
2人の話に割り込んできた峰田はずいぶんと余裕そうだ。職場体験中にマウントレディの事務所でも、俺と一緒に勉強会開いていたからな。間に入ってきたマウントレディは、チンプンカンプンですぐ俺達から離れていったけど。
「「ちゅ……ッ、中間9位!!?」」(19位・20位)
ドベ2人が素っ頓狂な声を上げて、短い足で足組みまでしている峰田を見て驚いていた。
「あんたは同族だと思ってたのに〜っ!」(19位)
「お前みたいなヤツはバカで初めて愛嬌が出るんだろうがっ! どこに需要あんだよ……!」(20位)
「世界……かな?」(9位)
完全に調子に乗っている峰田だが、実際に彼の頭は良いのだから問題ない。
順位のほぼ真ん中である9位だと微妙にも見えるかもしれないが、このクラスの勉強に関するランキングは、真ん中辺りは殆ど差のない秀才で埋まっていて、残り上位が化け物クラスの頭の良さだから、彼の順位は妥当なのである。
そんな上から目線の峰田を、睨んで嘆きの声を上げ続ける2人に、緑谷が励まそうとしてくる。
「芦戸さん、上鳴くん! が……頑張ろうよ! やっぱ全員で林間合宿行きたいもん! ねっ?!」(4位)
「うむ! 俺もクラス委員長として皆の奮起を期待している」(2位)
「普通に授業受けてりゃ赤点は出ねえだろ?」(5位)
「言葉には気をつけろォッ!!?」(20位)
成績上位者にそんな事言われても、モチベーションは上がらないだろう。轟は無意識に煽ってるだけで、応援にすらなってない。
「おふたりとも……座学なら私、お力添えできるかもしれません……!」(1位)
「「ヤオモモ〜っ!!」」(19位・20位)
彼女の言葉に、2人が蜘蛛の糸にでも縋り付く様にして近寄る。
ただでさえ個性の『創造』で莫大な知識が必要な八百万は、高校の勉強内容などもう履修済みの勢いなのだろう。
「演習の方は、からっきしでしょうけど……」(1位)
「?」(5位)
直前まで明るかったのに、自分の取り柄はコレしかないと言いたげに、八百万は落ち込み始めた。彼女、体育祭で常闇に負けたのが、まだ響いているらしい。
そんな八百万を、轟が不思議そうに見ていると、彼女の周りに耳朗、瀬呂、尾白が集まっていく。
「お2人じゃないけど、ウチもいいかな? 二次関数ちょっと応用つまずいちゃってて……」(7位)
「ワリい俺も! 八百万、古文わかる?」(18位)
「俺もいいかな? いくつかわからない部分あってさ……」(8位)
「皆さん……! いいですとも〜っ!!」(1位)
みんなから頼られた八百万は、講堂を借りるなど紅茶を用意するなど、プリプリしながら暴走気味に話を進めている。
育ちの良さを圧倒的に見せつけられ、クラスメイト達がホンワカしながら、優しい目をして見守っている八百万の方を尻目に、切島が席に座っている爆豪を見下ろす。
「この人徳の差よ……」(16位)
「俺もあるわァ……! テメぇ教え殺したろかッ!?」(3位)
「わあっ、頼む!」(16位)
切島にとっては勉強を教えてくれるなら爆豪だろうと八百万だろうと、贔屓はしない。彼は両手を上げて喜んでいた。
そんな教室の様子を机に座りながら眺めていたら、同じく座って眺めていた障子が俺に体を向けてきた。
「切裂は大丈夫なのか?」(11位)
「うん。職場体験中も峰田くんと勉強してたし……」(10位)
「なるほど。俺も頑張らないとな……」(11位)
彼はそう言って納得してくれると、席を立って俺からスタスタと離れていく。障子も尾白ほどではないが、ストイックな人間だ。たぶん、自分の勉強も誰かとやるタイプではなく、自己完結する方だろう。
そして俺も、たぶん大丈夫だ。机に飛びついてくる峰田の笑顔が頼もしかった。
「おっしゃ切裂、メシ行こうぜ!」
「うんっ!」
「あっ、峰田俺も行っていいか?!」
「あぁ切裂俺もっ!」
時間はそのまま昼休みに入っていたので、俺は峰田、上鳴、切島を連れて食堂へ移動した。
峰田はそのオープンな性格上、上鳴と仲が良い。俺と切島は個性で繋がった仲だ。たがら、この4人で集まるのはごく自然だった。俺1人や切島と2人なら芦戸とか蛙吹も来るのだが、基本的に男ばかりのムサ苦しい集まりになる。
ランチラッシュからそれぞれの昼食を受け取って、長いテーブル席に4人で座っていると、そこに轟、緑谷、飯田、麗日、蛙吹、葉隠の6人が合流して座ってきた。A組全員で長テーブル占領できるのも、珍しかった。
「なあ切島っ、お前ホントに爆豪に勉強教えてもらうの?」
「ああっ! あいつアレでも中間3位だぜ!?」
和食の焼き魚を食べながら話す上鳴に、俺と同じメニューのカレーにがっつきながら切島が返事をする。
「ハハハ……かっちゃん天才肌だから……」
「だよなー……爆豪、戦闘訓練もスゲえし……羨ましいぜっ」
1番遠い席でカツ丼を頬張りながら声を漏らす緑谷に、峰田がラーメンをすすりながら答える。
「演習試験……内容不透明で怖いね」
「突飛な事はしないと思うがな……」
話題が試験内容の事となり、箸が止まった緑谷と、その隣でカレーを食べていた飯田のスプーンも止まる。
「いやっ、前の授業参観みたいに……この学校ならやりかねねえぞ!?」
「ああ、確かに」
レンゲでスープを飲んでいた峰田の言葉に、それまで黙々と蕎麦すすってた轟が返事するだけでなく、テーブルを囲んでいた俺含めた全員が同意していた。
先週の事だ。タダでさえ一般人の面会が困難な雄英高校で、普通の学校ならお馴染みの授業参観が行われたのだ。
高校にもなって授業参観するか? とか思ったのだが、雄英に外の常識を問うだけ負けだと思った。
しかも……その日に行われた授業内容は、俺達には何も知らされず、いきなり学校にヴィランが現れて家族を人質に取り、俺達クラスメイトだけで事件を解決させる、壮大すぎるドッキリ企画だった。途中で俺は、コレ考えたヤツ絶対オールマイトだとか思っていた。
ちなみに来たのは母親。親父は仕事あるから無理だった。てか、来なくてよかった。
俺の母親は緑谷の母親と同じく、泣くのは演技含めて一流だが……たぶん俺のヤル気の無くなった様子を見て、ドッキリがバレたと気づいたのだろう。別の涙流しながら、頭押さえていた。挙句、ドッキリが終わった後には理不尽に怒られ、周りの親にまで謝り始めた。無論、必死で止めたよ。
おまけに、この授業参観前にわざわざ親への感謝の手紙まで書かされたが、結局内容を家族に伝える事もなかった。相澤先生曰く、書いている時に家族の事を想わせて、ドッキリに本気になってほしかったためのモノだったらしい。
手紙の枚数を40枚から20枚にまで減らした飯田に対し、1枚の数行で終わった俺は、怒られると面倒だからどうしようかと悩んだものだ。
「アレもヤバかったなー! 相澤先生もやり過ぎなんだって!」
「終わった後もヤバかったけどな!」
切島と上鳴が授業参観の内容を思い出しながら、スプーンと箸の手を動かしながら笑っていると、ラーメンのナルトを口にした峰田が余計な台詞を吐いた。
「切裂のお母さん、メッチャ謝ってきたもんな!」
「やめて」
自分の母親の話になりそうだったので、カレーを食べ進めながら俺はハッキリ告げる。しかし、周りの会話は止まらない。
「でも綺麗な人だったね!」
「そうそう、スゴく若いしっ!」
「あんな美人なお母さんのハートを射抜いた、切裂ちゃんのお父さんってどんな人なのかしら?」
峰田のひと言で、麗日、葉隠、蛙吹の女子3人が変な興味持ち始めやがった。蛙吹が聞いてくるが、答えるつもりはなかった。
そこに、カツ丼の付け合わせにあった味噌汁を飲みながら、緑谷が話に割り込んでくる。
「でも、なんかホッとしちゃった……僕の母さんも学校の事があると泣いてばっかだし……僕の家だけじゃなかったんだ、って……!」
「そ、それは単に緑谷君が心配をかけているからではないのか?」
「う……!」
カレーを食べていたスプーンがまたピタリと止まった、飯田の至極当然な理由に緑谷がビクリと体を震わす。
お前の母親の涙は、俺の母親の涙と違う。心配かけすぎの涙なんよ。
そこに切島と峰田が彼を茶化す。
「なんなら緑谷もしょっちゅう泣くもんな!」
「体育祭でも泣いてたもんな!」
「やめてよっ」
泣く頻度は多いクセに、口に言われると恥ずかしいのか、緑谷は少し赤くなった顔を隠すようにカツ丼にがっつく。それを見ている麗日は微笑していた。
「そうか、母親は……どこの家も大変なんだな」
「お、おう……」
蕎麦をすすり終えた轟が、神妙な顔で俺と緑谷を交互に見ていた。お前に家族関係で何か言われたら、肯定せざるを得なくなるのだが。
彼は蕎麦つゆに薬味を追加しながら、話を続ける。
「それと切裂……お前の作ってくれたメッセージグループ、結構助かってんだ」
「え?」
どういう事か戸惑う俺の声に、彼は話しながら蕎麦もつゆに浸らせる。
「病院で母さんが学校での事、結構聞いてくるから……アレに貼ってある写真、色々見せてんだ」
「あのクッソカオスなアルバムを!?」
峰田がラーメンをむせながら、轟に向かって叫んだ。切島も驚いてカレー食べる手を止める。
「アレ、結構フザけた写真もいっぱいあるけどよ……」
「でも笑ってたぞ?」
何か悪いのかと轟は首を傾げる。
体育祭から作った俺のメッセージグループは、様々な写真が投稿されている。A組チアガールズの写真から始まり、初めてのスーパーで子供みたいに目を輝かせながらカートを動かす八百万とか、可愛すぎるクシャミをする蛙吹の音付きGIFとか(本人の要望につき、すぐ削除された。なお、俺はバックアップを入手済み) 麗日がお餅チョコを作る動画とか、カオスそのものだった。相澤先生に見られたら、100パーセント怒られる勢いだ。
ちなみに、1回爆豪が「休日にピコピコ着信がうるせえッ、まとめて投稿しろバカがッ!」ってキレたから、クラス内でルールがある程度決められた。イベントの時は纏めて投稿する尚且つ、必ず自分以外のクラスメイト達も映っていて、自撮りだけの独りよがりな写真は禁止になった。
「あ、写真と言えば……遊園地の写真、まだグループに乗っけてなかったわ!」
「遊園地!?」
「あっ! 飯田くん、アレ上鳴くんと行ったの!?」
箸を止めて携帯を取り出した上鳴のひと言に、ラーメンすするのを止めた葉隠が反応し、カツ丼のカツを箸で摘んでいた緑谷が驚いた。
「ああ! 峰田君と切裂君も一緒にな!」
カレー掬ったスプーンを持つ飯田の返事の通り、授業参観の前日である日曜日、俺と峰田と上鳴は彼に誘われて、保須の近くにある『ズードリームランド』という動物をモチーフにした遊園地に行っていた。
「え? 何の話!?」
「初耳だぜ!?」
「えっと……コレはその……!」
俺が飯田から聞いたのは、保須事件で緑谷達が助けたプロヒーロー『ネイティブ』が遊園地のチケットをくれたらしい。
上鳴を誘った時点で『ヒーロー殺し』の事は省き、飯田は職場体験先の事務所のプロヒーローから貰ったのだという話で説明していた。緑谷も轟も、すぐその空気を読んだ。
「飯田くん、この前はありがとう!」
「楽しかったぜっ!」
「こちらこそ! 俺も誰を誘おうか迷っていたから、助かったよ!」
で、なんで俺達が誘われたのかと言うと、チケットの結構期間がギリギリだったらしく……緑谷は休日に超常黎明期のヒーローの資料を集めた期間限定の博覧会があると言ってパス。轟の休日は母親の見舞いがあるので、完全にチケットが余っていた。
ソレを飯田が誰を誘おうか学校で迷っていた所に、たまたま俺と峰田と上鳴が通りかかったのだ。
「なんか……スゲえ組み合わせだな……!」
「うん、確かに……!」
切島と麗日の言う通り、問題児2人と予測不能な1人とクラス委員長である。クラスメイト達が見れば、飯田の制御している手綱が凄い事になりそうな光景だ。
「けっこうバタバタしたけど、楽しかったよなぁ!?」
「うんっ! 常闇くんにも、アップルパイお土産で買ってあげれたし」
「へー! そんなに有名なの!?」
「ああっ! なんか期間限定みたいだったぜ!?」
「本当はお土産として、クラス全員分を買いたかったが……いかんせん少し値段が高い上、数が限られていてね……」
飯田に遊園地に誘われた時、たまたま近くにいた常闇が行きたそうにしていたので理由を聞いたら、その遊園地に期間限定で販売されるアップルパイが食べたかったそうだ。そういえば、彼の好きな食べ物はリンゴだった。
「それにしても、切裂君と峰田君には驚かされたよ。まさか、2人があれ程子供に人気があるとはね!」
飯田はそう言っているが、俺が1番衝撃的だったのは、彼の個性の『エンジン』は本人が飲む物の燃料式で……オレンジジュースで動いていると知った時だったけど。
「子供達みんな峰田くんに吸い寄せられてったからね!」
遊園地である以上、子供の人数は多いだろうとは思っていたが、保須に近いとは言え、まさか『保須事件』に巻き込まれていた子もいるとは思わなかった。
『USJ事件』に続いて敵連合が絡んでいる『保須事件』のニュースが、だいぶ俺と峰田で目立っていたせいで、そこそこ顔が広がってしまっていた。
「すっかり、子供のヒーローね。峰田ちゃん」
「よ、よせやいっ!」
コーンスープ飲みながら峰田を見る蛙吹に、彼は顔を隠す様にしてラーメンのスープを丼から直接飲もうとする。
そこからのファンサは楽だった。と言ってもやりすぎは遊園地の迷惑になるから、ほどほどにしておいたけど。
「でもよ……切裂は個性見せるまで、チビッ子誰もわからなかったけどな!」
「なんなら個性見せても信じてくれなかったよ」
笑いながらカレーを食べて話す俺に、少し心配そうな上鳴が携帯イジりながら声をかける。
「切裂……お前あのヒロコス、やめたら?」
「絶対嫌」
「そ、そーかい……」
「俺はカッコイイと思うぜ!」
有無を言わせようとしない俺の笑顔のままの言い方に、彼は引き下がる。切島は目を輝かせながら俺に賛同してくれた。
もちろん俺と峰田だけでなく、飯田と上鳴もヒーローなのだから、子供達にオトモダチとして紹介した。もしかしたら2人にも、未来のファンができたかもしれない。
「それよか聞いてくれよ! 上鳴の『チャージズマ』 チビッ子、誰も言えなかったんだぜ!」
峰田の言う通り、子供に何度教えても「ちゃーぢゃぢゃぢゃ」な有様で、「チャ」しか合ってなくて、俺と峰田と飯田の3人で笑っていた。
ちなみに「テンヤ」はすぐ覚えられた。やっぱヒーロー名で、わかりやすい&言いやすいは大切だ。
「上鳴くん、ヒーロー名……改名したら?」
「『ジャミングウェイ』なら『うぇ〜い』で通ったんじゃない?」
「その覚えられ方はカンベンしてくれぇ!」
さすがに自分の汚点で子供に呼ばれるのは嫌だったか。彼の悲痛な叫びに、テーブルが笑いに包まれた。
「そのあとの委員長はカッコ良かったけどな!」
「え、何かあったの?」
「いやぁ……俺達ではしゃいでいたら、迷子の子見かけちまってな……」
俺達が集まったせいで迷子の子供が出てしまい、飯田が率先して迷子センターへと届けてくれたのだ。
「ああ……昔、兄さんがヒーローを志した理由が『迷子を見かけたら迷子センターへ手を引いてやれる人間が、1番格好良いから』と言っていたのを覚えているのだが……その気持ちが、少しだけわかった気がしたよ……!」
飯田の優しい笑顔に、俺もみんなも表情が綻んだ。
そのあとにもアクシデントは起こったが、まあ無事に解決できたし、遊園地も楽しめた。なんなら新しいファンまで作った。
「『保須事件』で、アレほど目立つとは思わなかったもんな……」
「マジで『ピンチはチャンス』だな!」
「ああ。モノにしたお前らはスゲえよ……!」
切島と轟が羨ましそうに俺と峰田を見ていると、ラーメン丼を置いた彼が俺に顔を向けた。
「あっ、切裂聞いたか!? マウントレディ……引っ越すって!」
「本当に!?」
福神漬けを齧っていた俺の返事と同時に、緑谷が反応した。
「そう言えばネットニュースになってたよ! 東京の保須に事務所、開くって!」
初耳だった。俺が原因で『保須事件』に関われたから、事務所の返済が終わって、物件を他に取られる前に動いたのだろう。
「田等院で会えなくなるのは寂しいけど……よかったね!」
「今度は事務所壊さないといいな!」
「確かに!」
峰田のひと言に、テーブルの全員が笑った。彼女の器物損壊はテレビにも映った事あるから、結構有名だった。
「きっと、またヒーローチャートランキング上げるぜっ! マウントレディ!」
「うんっ! 下半期も楽しみだよ!」
「おっしっ! 写真上げたぜ!」
峰田と緑谷が盛り上がっている最中に、上鳴がようやく携帯から手を離し、食事を再開する。
自分の携帯が震えてメッセージを確認してみると、飯田がウサギの耳、峰田が象の耳、上鳴が熊の耳、そして俺が犬の耳を模したカチューシャをつけて並んでいる写真が、アルバムの中に投稿されていた。あとは、乗り物のコーヒーカップで高速回転する俺達とか、メリーゴーランドの馬なのに本物の乗馬かってぐらい姿勢の良い飯田とか、お化け屋敷でビビって漏電する上鳴とか、子供に襲われる峰田とか。
「あっはっはっ! カワイーっ!」
「いいなー! 今度私達も行ってみよう!」
「ええ、面白そうっ! ケロっ♪」
その中々カオスな写真集に、女子達の反応も上々だ。しかし飯田がその浮かれそうな空気をしっかり締めた。
「遊ぶにしろ何はともかく、まずは皆で期末試験を乗り越えないとな!」
「うっ……そうだった。試験だったよね……」
「あ、話逸らした!」
ご飯を箸で持ち上げていた上鳴がなんか言ったが、緑谷は無視して話を強行する。
「筆記試験は授業範囲内から出るから、まだ何とかなるけど……」
「まだ何とかなるんやな……」(15位)
カツ丼頬張る緑谷の目の前で、和食の魚を突っつきながら、少し呆然としてそうな麗日が呟く。主人公よりヒロインが頭悪いって『ジャンプ』じゃ珍しい気がする。
「演習試験、ホント何するんだろう?」
「1学期でやった事の総合的内容……」(17位)
「……とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」(6位)
緑谷の問いかけに、ラーメンすすりながら答える葉隠。宙に箸で運ばれる麺が消えていく光景はずっと見ていられそうだが、彼女は頑張らないと危ない。よく一緒にいる尾白が、えらい頭良いのが不思議だった。
そして、意外とか言うと失礼だが、パンをちぎって食べている蛙吹、峰田より頭良いんだよね。
「今までやった事って、戦闘訓練と救助訓練……あとは基礎トレ……」
「試験勉強に加えて、体力面でも万全に準備……うっ!?」
麗日がこれまでの授業内容を思い出していたが、カツ丼食べる手を止めて思考していた緑谷の頭に、いきなり肘がぶつけられた。
「ああ、ごめん。頭大きいから当たってしまった!」
そこにはワイングラスとカットステーキの皿が乗ったトレーを持った物間がいた。ワイングラスだけど、中身はぶどうジュースだろう。えらい凝ったモン持ってやがる。
「B組の……! えっと……かっちゃんが『ダサ刈り』って言ってた……」
「物間だよっ! 体育祭で拳藤が紹介してなかったけぇ!?」
記憶力良いハズな緑谷の中々酷い言い草に、いきなりペースを乱された物間は眉をヒクつかせる。あの空間、俺のせいで中々カオスだったから、覚えてなくても仕方ない。
しかし彼は自分を落ち着かせようと、ひと息を吐いてから話を始めた。
「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね? 体育祭に続いて注目浴びる要素ばかり増えてくよね、A組って…………ただ、その注目って決して期待値とかじゃなくって、トラブルを引きつける的なモノだよね?」
「なんかトゲのある言い方だなあ!」
「そうだぁ! コッチは好きでヴィランに襲われてんじゃねーよ!」
切島と峰田が食べる手を止めて物間に噛み付く。峰田はともかく、切島と物間は相性悪い。爆豪ほどではないが。
それでも物間は、知ったこっちゃないと言わんばかりに話を続ける。
「ああ怖い! いつか君達が呼ぶトラブルに巻き込まれて、僕らまで被害が及ぶかもしれないな〜っ! 疫病神に祟られたみたいに!」
物間の言う事は合っているちゃあ合っている。だからこそ、B組もこのままではいけないと思っていた。やはりA組で彼のストッパーは、俺しかいないようだ。
「物間くん。B組もいつ巻き込まれてもいいように、クラスメイト鍛えといてよ。鉄哲くんは放課後、しょっちゅう俺んトコ自主練来るよ!」
「巻き込まれるのがゴメンだっつってんのにっ、何言ってんのかなぁ君ぃ!? そして、なにやってるのかなぁ鉄哲ぅッ!!?」
とんでもない事言い放つ俺に、物間はこの場にいない鉄哲に向かって叫ぶ。そんな彼の反応に、切島が更に話を広げる。
「おうっ! アイツがいると、お互いに訓練の幅広がるからな!」
「最近は鎌切とか、回原とか鱗まで来るようになったもんな! B組の物理
調子に乗って峰田も話に便乗し始めた。当然な話だが俺の特訓にはB組だけでなく、今まで来た緑谷はもちろん、佐藤や尾白も来ている。轟や芦戸など、物理攻撃じゃないタイプの前衛は頻度が少ないが、ソレでもたまに来る。爆豪だけは煽ったりしないと、滅多に来ない。
俺と切島と鉄哲がサンドバッグの代わりに皆の技受け止めて、俺達は硬化の強化。相手は技の強化を行う。峰田はモギモギで高速移動しながら俺達の攻撃を避けまくって、相手は個性使ってなんとか捕まえようとする。
お互いに個性を伸ばせるWINWINな関係で、体育館γが軽い訓練所状態にまで発展した。
「全く悉く僕の想像の上を行く行動してくるねえ君っ! A組とB組の仲をこれ以上良くして、どうするつもりなんだいっ?! あいてッ!?」
「良いじゃない別に! あと物間っ、飯田の件知らないの?!」
ヒステリックに叫ぶ物間の後ろから、カツ丼のトレー持ってる拳藤が彼の頭に軽くチョップを落とす。
「拳藤君!」
委員長である飯田がいち早く、彼女に反応した。ちなみに拳藤の個性も物理の前衛向きだから、特訓には何回か来てる。野郎共ばっかの紅一点になるから頻度は少ないが、やっぱり自分の個性を伸ばす訓練はしたいのだろう。
「ゴメンなA組、コイツ、試験前でちょっと心がアレなんだよ。あと、あんたらさ……期末の演習試験、不透明とか言ってたね? 入試の時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ」
「えっ!」
「ホント!?」
「ロボなら楽チンだぜっ!!」
「上鳴ちゃん。行儀悪いわ」
葉隠と麗日が驚き、上鳴が箸を咥えたままガッツポーズをとって、蛙吹にたしなめられる。
「待って、なんで知ってるの!?」
「私、先輩に知り合いいるからさ……聞いた。ちょっとズルだけど……」
「いや……ズルじゃないよ。そうだきっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれてたんだ。そっか先輩に聞けばよかったんだ。なんで気がつかなかったんだ…………ブツブツブツブツ」
カツ丼食べる手が止まった緑谷まで、変なスイッチが入ってしまった。聞くも何も、クソナードのお前じゃ先輩で聞ける相手いないだろうに。
拳藤の登場で完全にペースを乱された物間が、頭を押さえながら彼女に感情的な声を絞り出す。
「バカなのかい拳藤……! せっかくの情報アドバンテージを……ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ……! あうっ!」
そんな彼に再び彼女のチョップが頭へと落とされる。
「憎くはないっつーの。それじゃあ、お互い頑張りましょう。林間合宿、みんなで行きたいしね!」
「ああ! お互い健闘を祈ろう!」
お互いに飯のトレー持っているからか、いつもの手刀で気絶はさせなかった拳藤は、最後に飯田に挨拶してから物間の襟首を掴んで歩いて行ってしまった。ホント、仲だけは良さげである。
俺達の話が終わる頃には、ほとんどのクラスメイトが昼食を平らげていた。
・・・♡・・・♡・・・
「いやったぁ〜〜っ!!♪」
その日の放課後、教室では芦戸の歓喜の声が上がっていた。
上鳴が彼女に、昼食時に聞いた拳藤からの情報を話したからだ。
「芦戸は対人だと個性の調整、大変そうだからな」
「うんっ! ロボなら溶かしてラクショーだぁっ!」
障子の台詞に彼女は俺の机の前で小躍りしながら答える。そこに瀬呂も話に混ざってきた。
「あとは八百万に勉強教えてもらえば、期末はクリアだ!」
「「コレで林間合宿バッチリだぁっ!!!」」
上鳴も一緒になって騒いでいた。が、そこに通りかかった爆豪が、声を荒げて2人を静かにさせた。
「人でもロボでも、ブッ飛ばすのは同じだろッ! 何がラクショーだ、アホがッ!」
「アホとはなんだアホとは!」
上鳴が指差して反応したが、一度火のついた爆豪はキレっぱなしだった。
「うっせえなァッ!? 調整なんか勝手にできるモンだろッ! アホだろぉッ!!」
彼の荒々しい言い草に、2人は何も言い返せなかった。
「なあデクぅ……!」
「っ!?」
爆豪は更に緑谷に向かって眼力を飛ばす。いきなり向けられた声と視線に、彼は驚いていた。
「個性の使い方……職場体験から少しは学んできたんだか知らねえが……まだ全然足りてねぇんだよッ! テメェ、前に『俺を超える』つったよなァ……この前も秒殺だったじゃねえかッ! いいか、俺は待つつもりなんか無えクソデク……死ぬ気で追いついて来ねえんならブチ殺すぞッ!!」
「か、かっちゃん…………うんっ!」
それでも緑谷は爆豪と目を合わせながら、力強く頷いてみせる。「俺を超える」は確か、最初のヒーロー基礎学の後に、緑谷が爆豪に向かって言った台詞だ。
ソレよりも「この前」が1番気になった台詞なのだが、たぶん俺がトガちゃんに会いに行った日の事か?
「半分野郎ッ! ナマクラッ! テメェらもだッ!! また中途半端で挑んで来やがったら、容赦なくブッ殺すからなッ!!!」
「おお」
「わかった!」
激励なのか、俺と轟にまで火の粉振り撒いて爆豪は教室から出て行った。そんな様子を切島と常闇が見届ける。
「久々にガチな爆豪だ……」
「焦燥? 或いは……」
「でも……かっちゃん、少し変わった気がするんだけどなぁ……」
緑谷の言う通り、彼も俺達を見ているというのは伝わった。
体育祭後に俺が一度緑谷を彼にぶつけたのが原因か。たぶん、自分に追いつこうとしているのが、わかったんだと思う。そして、本当に追われている実感が湧いたのだと。
「切裂さん。よろしければ、私の実家での勉強会どうでしょうか?」
そんな事を考えていると、なんと八百万が俺に勉強会の声をかけてきた。
「あ〜俺、峰田くんと勉強するから……!」
「そ、そうですの……」
と思ったら、彼女に引かれていってしまった。悲しいかな、彼女は峰田に対して結構抵抗がある。
「俺より、葉隠ちゃんを誘ってあげて。あの子、確か中間ヤバかった気がするから」
「は、はあ……」
俺の言った事に少し疑問を抱かれながら、そそくさと離れていく八百万に代わって、今度は峰田が机に飛びついて俺へ相談に乗ってきた。
「切裂っ、今日の特訓はどうする? てかっ、勉強にしようか?」
「うん……残り1週間だし、特訓は個人にしよう。峰田くん、勉強お願いしてもいい?」
「おっしゃ! 任せとけっ!!」
彼はグッドサインを出して俺に元気良く答えた。八百万の勉強会も少し気になったけど、峰田が誘われなかったので、結局行く事はなかった。
残り1週間、俺は特訓は個人にして、峰田と勉強する方針に決めた。
期末試験まで、時間はあっという間だった。
次回『期末試験』