林間合宿、2日目。朝5時に飯田がセットした目覚まし時計で布団から飛び起きて、朝食のおにぎりを腹に押し込んだ30分後、ジャージ姿で宿泊施設の前に俺は並んだ。寝癖だらけの麗日や上鳴、半分寝てる蛙吹や峰田。エンジンがかかりきっていない俺達A組の前に、いつも通りの眠たそうな相澤先生が立つ。
「おはよう諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化及び、それによる仮免の取得。具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように」
先生の真面目な話に、クラスメイト達もようやく寝ぼけ眼を擦って、気持ちを切り替え始めた。
「というわけで爆豪、そいつを投げてみろ」
そんな爆豪が相澤先生に投げ渡されたのは、入学初日の個性把握テストのボール投げで使った。機械のボールだ。
「これ、体力テストの……!」
「前回の……入学直後の記録は705.2メートル。どんだけ伸びてるかな?」
「おおっ! 成長具合かあ!」
「この3ヶ月、色々濃かったからなあ! 1キロとか行くんじゃねえの!?」
「行ったれ爆豪っ!!」
ほかのクラスメイト達の声援に押されて、珍しく上機嫌な爆豪が周りから離れて、ゆっくりとボールを構える。
「んじゃ……よっこら……」
明け方の空に、爆音が響いた。
「くたばれぇェェェェェェェェェェェェッッッ!!!!!!!!」
爆豪による爆破の勢いが乗って、みるみる内に遠くなっていくボール。もう目視で見えなくなって、あとは結果が出るだけになっていると、先生の持っていた携帯が電子音を立てた。
「……758.7メートル」
「おっ!?」
「大体50メートルぐらいか?」
切島と上鳴が驚きの声を上げる。この結果には俺もニッコリだ。爆豪本人は、もうちょっと飛ばしたかったのか、またまだ満足していない表情だったが。
「そう……やるヤツがやっているのは何人か見たんだが……まさか、ココまで伸ばしているヤツがいたとは、俺も思っていなかった」
相澤先生は携帯の画面を見ながら、更に話を続けた。
「入学から、およそ3ヶ月……様々な経験を経て確かに、君らは成長している。だが普段の授業で養われているのは、あくまでも精神面や技術面。後は多少の体力的な成長がメインだ」
先生の言う通り、普段のヒーロー基礎学でも内容は逮捕術や拘束の方法。救助道具の使い方など、個性の有無はあまり関係のない、本当に基礎学的な内容が多かった。オールマイト先生の時に、たまに思いっきり個性使ってハッチャケるぐらいだ。
「だが……君らの中には現状に満足する事なく、週の始めに必ず俺へ体育館と訓練場の貸し出し申請を出し続け、仲間を巻き込んで自主トレに励んでいる者がいた。ヒーローとしての能力云々の中で、人一倍『個性』に着目したヤツがな……!」
たぶん、爆豪本人も途中で気付いたハズだ。俺に『A・P・ショット』を練習している時に、爆破自体の威力を上げなければならない事に。
緑谷も特に頻著だろう。OFAの出力を上げる事自体が、彼の個性の強化に直結した。
そんな2人が成長したのは、衝撃と熱にコレでもかと強い、俺と言う名のサンドバッグがあったからだ。
切島も入学してからすぐの組み手で、個性の強化に気付いた。
芦戸も、麗日も、それぞれ自分の個性に対し、自ら考えるようになった。
峰田も、そのトリッキーな個性を徹底的に研究させた。もう俺から言う事は、ほとんどない。
「あ、個性とは可能性……!」
「「「「「っ!」」」」」
入学してから俺がずっと言い続けている言葉を呟いた峰田に、聞いた事のある何人かのクラスメイトが反応した。
「なんだソレは」
「俺のモットーです」
峰田に向けられた相澤先生の声に、俺が答えた。周りのクラスメイト達の視線が、俺に集中する。
「個性とは可能性か……なるほど……その可能性を広げるため、今日から重点的に君らの個性を伸ばす。自主トレだけじゃ、やれる事の制限も多かったかもしれないが……今回に関してその制限はない。死ぬ程キツいがくれぐれも、死なないように……!」
俺を見ながら、相澤先生も少し笑ってみせると、クラスメイト達も気合を入れて返事をした。
こうしてキツい特訓が、さあ始まろうとしたタイミングで、今度は八百万が手を挙げた。
「でも、私達20人もいますけど……そんな人数の個性を、いったいどうやって見るんですか?」
「だから彼女らだ」
「そうなの! あちきら四位一体!」
彼女の質問に相澤先生の声の後、朝の日差しに相応しい、明るい声が響いた。
「煌めく眼でロックオン!」
「猫の手手助けやってくる!」
「どこからともなく……やってくる……!」
「キュートにキャットにスティンガー!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!! フルバージョン!!!!」」」」
昨日と同じ、戦隊ヒーローみたいにポーズをとったプッシーキャッツの2人に、新たに2名が追加されて俺達の前に現れた。
マンダレイやピクシーボブと同じデザインで黄色いヒロコスを着た、翡翠色の髪の毛を伸ばして、三白眼ならぬ四白眼な可愛らしい女性、『ラグドール』が目をパチパチさせながら話す。
「あちきの個性『サーチ』! この目で見た人の情報100人まで丸わかり! 居場所も弱点も!」
「私の『土流』で、各々の鍛錬に見合う場所を形成!」
「そして私の『テレパス』で一度に複数の人間へアドバイス!」
「ソコを我が、殴る蹴るの暴行よ……!」
ピクシーボブ、マンダレイと続いて最後に話をしたのは、この見た目麗しい3人の女子達から少〜しジャンルのズレる、野太い声に筋骨隆々のどう見ても男の『虎』 彼女達と同じデザインをしたカチューシャを頭に着け、尻尾もしっかり付いた茶色のヒロコスを身に纏った、たぶん『彼女』だった。
最後の一文はダメだろと、全員が思っただろう。そんな中でも相澤先生は何事もないかのように、話を続ける。
「この4名の実績と広域カバーが可能な個性は、短期で全体の底上げをするのに、最も合理的だ。もう説明はいいな? 始めるぞ!」
「単純な増強型の者、我の元へ来い! 身体を極限まで追い込む『
早速、威圧感マシマシでこちらを見てくる虎が、名前を聞くだけでキツそうな訓練を言ってきたので、俺は隣にいた緑谷の背中を押した。
「緑谷くん」
「わっ! ちょっと!?」
安心してほしい。何も君だけを生贄にするつもりはない。
「後で俺も行くから」
「そういう問題じゃ……って、うわぁ助けてッ!!!!!」
「なんだ、お前1人だけか。よぉし! 2人っきりでミッチリシゴいてやるっ!!!」
虎に抱え上げられて連行される緑谷の姿を、常闇が哀れんだ視線で見送り、麗日は心配そうに声を震わせる。
「南無三……」
「アワワワワ……デクくん、がんばれ……!」
「何言ってやがる。お前らも今から頑張んだ」
後ろでゲラゲラ笑ってるラグドールの前で、相澤先生がまたニヤリと笑って見せた。
最近先生の笑う所、多い気がした。
・・・♡・・・♡・・・
プッシーキャッツからの説明と準備も終わって、早速俺達A組の個性強化訓練が始まった。
多少見通しの良い所で訓練のできた俺は、訓練をしながら周りのクラスメイト達を眺めた。
爆豪は、熱湯に手を突っ込んで汗腺を拡大して、空中に向けて最大火力の爆破を繰り返し、規模を大きくしている。声を出して気合いを入れたいのか「クソがー!」と繰り返し叫んでいた。
轟は、ドラム缶風呂に入って全力の凍結と炎を交互に出し続けて、風呂の温度を一定にさせている。凍結の寒さに慣れるのと、炎の火力を制御して、尚且つ2つの個性を同時に出そうとしていた。
瀬呂は、高台の上からセロハンテープの射出口から火花が散っているぐらいの勢いで、ひたすらテープを射出している。一度に出せる容量を増やすのと、テープの強度と、射出速度が同時に行える。落ちて地面に積み重なっていくテープの山が、猫がイタズラした跡みたいになっていた。
上鳴は、みんなから少し離れた高台の所で、業務用の大容量バッテリーと通電して、帯電できる限界を超えようとしていた。耳朗が見たら大笑いしそうな光景だが、彼女も今そんな場合ではない。
口田は、また別の高台から全力で声を出して、遠くの生き物にも声を届かせようとしている。あの口田が、顔真っ赤にして叫んでいる。可愛い。
常闇は、洞窟の中で無尽蔵に闇を吸って暴走するダークシャドウを制御しようとしている。実質ケンカである。大丈夫だろうか?
麗日は、彼女が1番辛そうだ。三半規管を鍛えようとしているのか、大きなバルーンの中に無重力状態で入って、坂道をされるがままにゴロゴロ転がっている。あの状態でリバースしたら地獄だな。アレより岩山浮かせまくる方が強くなれそうだが……
飯田は、彼は単純。ひたすらエンジンで全速力で走りまくればいい。叫びながら走り回っているせいで、少しウザい。
蛙吹は、最初は少し難しそうにしていた。なんせ個性が『蛙』と、できる事が多すぎて何から伸ばそうかと選択肢が多すぎるからだ。考えた末、断崖絶壁に舌を伸ばして這い上がるなど、伸びる舌と手足の吸着力を鍛えていた。それ以外にも蛙としてできる事を、随時増やそうとしている。
砂藤は、個性の源である糖分のケーキにガブりつきながら、筋トレしている。糖分によるパワーアップの効果時間を長くできないか、模索しているみたいだ。実質、食トレみたいだな。
八百万は、その砂藤の隣で、脂質が多いチーズとミックスナッツを食べまくりながら、ひたすらマトリョーシカを創造していた。なんでマトリョーシカなのと聞いたら、サイズを徐々に調整するのが結構複雑で、作るのに丁度良いらしい。
耳朗は、ピンジャックで岩を突き刺し続け、音質とイヤホン自体を鍛えている。なんか耳たぶが太くなりそうだな。
芦戸は、その耳朗の隣で岩山を酸で丸ごと溶かそうとしていた。皮膚の強度と、酸の威力を鍛えている。また脱水症状にならないように、近場にはスポーツドリンク完備だった。
峰田は、コイツだけやってる事、原作とちょっと違った。自分しか立てない狭い高台……と言うか柱の上で、モギモギをジャグリングし続けながら、ひたすら頭をモギり続け、10〜20個ぐらいまとめてジャグリングしていた。もちろん、そんな数が制御できるハズもなく、モギって投げたそばからボロボロ落っことしている。要は、ジャグリングの技術とモギモギの限界を、同時に鍛えようとしていた。
葉隠は、索敵能力随一を誇る障子にバレないように、息を潜める特訓。ソレ特訓か?
障子は、そんな葉隠を複製腕をフル活用して、探す特訓。それ特訓だ!
そして緑谷は、たぶん麗日の次に辛いだろう。虎の『我ーズブートキャンプ』に参加させられている。全力運動をさせられて、疲労してからOFAを発動して虎と組み手をし、シバかれてまた全力運動の繰り返しだ。
そして俺と切島は、もちろん……
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
普段の体育館でやってる事と全く変わらなかった。
硬化した状態で全力でぶつかり合い、硬化の強度と持続時間の延長、俺は硬化と一緒に切れ味の強化を図っていた。
ちなみに、準備としてラグドールにサーチしてもらったけど、俺の個性はどこまで調べても『刃』 なんか特別な個性でもなんでもないそうだ。そりゃそうか。
そして、俺と切島のアツすぎる特訓に、完全に置いていかれたクラスメイトが1名。
尾白である。
「先生……あの2人、激しすぎて近づけないんですけど……」
「そうか、行け。それとも、お前もアッチがいいか」
虎にシバかれている緑谷の方を、指差した相澤先生の無慈悲な命令に、ヤケになった尾白が尻尾振り乱して俺達に突っ込んできた。
「ちくしょおぉぉぉぉぉっッッ!!!!!」
「「おしッ、来い尾白っ!!!!!」」
誰が言ったか、まさに地獄絵図。この景色、屏風絵にしたら結構面白いかもしれない。
そんな感じで1時間ぐらいが経った頃、ようやくと言うか……1日ぶりに見たB組の面々が、担任のブラドキング先生に引き連れられてやってきた。
「あッ、ちょっとゴメンッ!!!」
「あぁッ!?」
「切裂どうした!?」
俺は切島と尾白の組み手を中断すると、プッシーキャッツ達の自己紹介と説明も終わらせたタイミングで、B組達の前に立った。
「ハァ、ハァ……鉄哲くんいる!?」
「おぉッ? ここだッ!!」
たぶん、向こうが考えている個性伸ばしも、普段の学校と全く同じ事を考えていただろう。揚々と拳を突き上げる彼に、俺はニヤリと笑った。
「……我慢比べしない?♪」
・・・♡・・・♡・・・
数分後、広大な山と森の中。A組とB組の悲鳴が響き渡る、阿鼻叫喚の光景が広がっている場所の一角。俺はピクシーボブに頼んで、俺と鉄哲が立って入れるぐらいの大きさを誇る、竈門型のドームを作ってもらった。
種火は轟から拝借し、大量の木炭は八百万に創ってもらったのと、鎌切が特訓で刻んだ大木をそのまま中に焚べて火を起こしてもらった。
「「うぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!!!!」」
800〜1000°ぐらいまで上がっただろうか。刀を作るのと同じ、お互い竈門の中でぶつかり合いながら、身体を白熱化させる。それこそ溶けるギリギリまで。
「「うぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!!!」」
そして、限界まで白熱化させたら竈門から飛び出し、今度は近くにある川まで走って飛び込む。水系の個性の人にも対応できるよう、地形を作り変えているのだろう。川は思ったよりも近くにあった。
俺と鉄哲が飛び込んだ瞬間、川の水の蒸発音と同時に白煙が高々と巻き上がった。
「ぶはぁっ!」
「ブハァっ!」
コレを何度も繰り返していた。
前々からやってみたかったのだ。耐熱に対する強化と、金属としての硬度を上げる訓練。本当の金属はこんな事しないが、俺達は金属以前にそもそも人間だ。
個性とは可能性。考え得る事を全力でやるべきだ。
そもそも、こんな機会じゃないと試す事すらままならない。それでわざわざ俺は、ピクシーボブにお願いしたのだ。
「うォォ……体が溶ける……ッ!」
「気のせいだよっ、たぶん!」
そう言いながらも、俺も鉄哲もやる気だけはある。川に飛び込めるんだから、純粋に気持ちが良いし、休息できるのだ。
「よぉしッ、もっかい!」
「おーともよッ!」
ちなみに、ジャージも下着も竈門に耐えられないから、俺達2人だけ全裸で訓練してる。鉄哲は強くなれるならそんな事気にもしないし、もちろんピクシーボブが川に続く場所……すぐ隣まで、誰にも見えないような構造にしてくれた。アドバイスはマンダレイがテレパスで伝えるので、見られる事はない。
「クッソ〜、いいな切裂と鉄哲のヤロウっ!」
「切島の硬化はどうしても生身なんだっけ?」
再び竈門の中へと戻ろうとすると、2メートルぐらいの塀の向こうから、尾白に尻尾でぶたれる切島の嘆きが聞こえた。最初は彼も混ざろうとしたが、竈門に近づいただけで火傷していた。
「しっかし、よくこんな訓練考えたな!?」
「個性とは可能性だよっ! 学校で一緒に特訓してから、鉄哲くんの体も硬くなってる気がするし……もしかしたら君の身体もスチール合金じゃなくて……アダマンチウム合金とかになれるかも!」
「ハハハッ! そしたら個性名、変えねとなッ!!」
彼は笑いながら、着替えの側に用意されていた業務用サイズの袋に入った煮干しを掴んで、バリバリと齧っていく。それに続いて、俺も煮干しを数本もらった。
実際、彼の硬化も切島と同じく上がっている。ラグドールにサーチしてもらうと『
「お昼過ぎからは俺、別の所行くから」
「なんだつまらん! まぁ、お前の場合は個性でやれる事も多いからな……!」
いつまでもココで訓練はしていられない。俺に至っちゃ個性で出来る事が多いので、他の人の個性訓練にも参加しなければならない。
午後からは覚悟決めて『我ーズブートキャンプ』に参加する予定だ。基礎体力をもっと上げないと。
「「うぉォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッ!!!!!!!!!!」」
そうして再び竈門で白熱し合ってから、川へと飛び込むのを何度も繰り返していると、俺の携帯から昼の時間を知らせるアラームが鳴った。
「2人とも……ウワァ〜オ!♪」
それに続いて、塀にしがみついてこちらを覗いてきたピクシーボブが、じゅるりと涎を垂らして声を上げる。
「そろそろお昼にするわよっ! 竈門の火は消してってね!」
それだけ言って彼女は俺達にウィンクすると、塀から手を離して飛び退いていった。
「ハァ、ハァ……! ……あの人、普通に見てったよな?」
「相澤先生にシバいてもらお」
そんな言葉を交わして、川で体を冷ました俺達はクラスメイト達の集まる所へと向かった。
お昼も簡単なおにぎりを今度はがっつけるだけがっついて、リッターサイズのお茶で喉を潤してから午後の訓練へと参加した。
すでに満身創痍な緑谷と、なんか一緒にいたB組の宍田と回原に混じって、虎の『我ーズブートキャンプ』に参加する。ついでにB組達の個性伸ばしも、気になって見てきた。
回原は、最初は虎の『我ーズブートキャンプ』に参加していたが、途中でドリルの回転力を上げたいと言って、ひたすら硬い岩盤を掘り進む特訓に切り替えていた。上手い逃げ方をしたものだし、俺も絶対ソッチが良いと思っていた。
鎌切は、『我ーズブートキャンプ』に誘われる前に森の中へ逃げると、ひたすら周りの大木を切り刻んで、刃の強化を図っていた。やっぱ切れ味だけなら、俺より彼の方が軍配が上がるんだよな。
泡瀬は、その鎌切が切りまくった大木を、今度は元に戻すべく片っ端から溶接しまくっている。溶接速度を向上させているみたいだ。
黒色は、森の中で影から影へと高速で移動する訓練。中途半端な薄い影にも沈み込めないか、試し続けていた。
拳藤は、大きくした拳で切島と尾白の殴り合いに混ざっていた。元々、個性発動中は尾白の尻尾ばりに硬い拳だ。強度を上げるだけでも充分強くなるだろう。
小大は、その辺の石ころや木の枝、葉っぱなどを限界まで大きくしたり、小さくしたりを繰り返していた。悲鳴こそ上げていないが、大きくするのは負担になるのか、息が荒かった。
小森は、湿っぽい洞窟の中でひたすら胞子をバラ撒いて、一度に繁殖できるキノコの量を増やしている。洞窟周りは誰が用意したのか、立ち入り禁止の看板が置いてあった。
塩崎は、高台の上から髪の毛のツルをひたすら伸ばしまくる特訓。伸ばせるツルの限界とツルの強度を上げている。やってる事は瀬呂とほぼ同じだが、叫んでいる彼に対して、彼女両手を合わせて地面に座りながら瞑想していた。
宍田は、俺や緑谷と一緒に虎の『我ーズブートキャンプ』に巻き込まれ続けていた。彼も個性を考れば蛙吹みたいに、自由な事をして良いと思うのだが、たぶん断れない性格なのだろう。緑谷と一緒に仲良くシバかれている。
庄田は、『我ーズブートキャンプ』からすぐに逃げると、岩盤を延々と殴り続けて、2発目の衝撃の威力を上げようとしていた。思ったのだが、樽みたいな体型に反して、尾白並みに動きのキレが良い。峰田みたいな半分異形型なのだろうか?
角取は、同じく庄田の隣で、岩盤の前でしゃがみ込み、泣きながら頭にひたすら生えてくる角を取っていた。分離した角は岩盤を突き刺し続け、古い角から地面に落ちていく。角の強化と一度に動かせる角を増やそうとしているらしいが、断面から血出てるし、彼女が1番痛そうだ。
円場は、肺活量を増やそうとしているのか、深呼吸から空気の大きな塊を何度も作っていた。そこら中に使い終わった酸素ボンベが転がっており、肺が爆発しないか心配である。
取蔭は、ひたすら体を分割させて、バラバラにできる量を増やしているみたいだ。コレ本当に元に戻れるのか、見ていて不安になってくる光景である。
吹出は、彼も高台から大声を出して、大きな擬音の塊を出す訓練をしていた。もう丘が擬音の塊だらけで凄い事になっているが、ちゃんと消えるのだろうか? つか、高台から叫んでいるヤツ多いな。
骨抜は、周りの破茶滅茶な阿鼻叫喚とは変わって、柔らかくする地面の範囲をしっかり測って広げながら、自分自身も地面に沈み込んで、その深さも広げているそうだ。彼は轟と同じ、職人気質だ。
凡戸は、高台からひたすらセメダインを放出し続けていた。一度に出せる液体の量を増やしているのだろう。叫び声は聞こえるが顔がアレだから、もう泣いてんのか放出してんのか、わからなかった。
物間は、コイツ個性が個性のせいで特訓の準備だけでも大変だ。周りの奴ら39人の身近なヤツに加えて、先生とプッシーキャッツの6人から何度も個性をコピーして、一度に抱えられるコピーの量を増やすのと、コピー時間を管理できないか試そうとしている。
柳は、サイズの違う岩を順番に浮かせて、浮かせる限界量を増やそうとしている。本当に限界が来るとツラいのか、本物の幽霊も少し驚きそうな顔をしていた。
鱗は、『我ーズブートキャンプ』に巻き込まれる前に、切島と尾白、拳藤に混ざって殴り合いをしていた。彼も切島や俺、鉄哲と同じく攻めにも受けにも回れる、鱗の強化を図っていた。
・・・♡・・・♡・・・
こうして、地獄の様な2日目の訓練が終わった夕方。俺達は施設に併設された屋外キャンプ場へと移動した。
「さあっ! 昨日言ったね! 『世話焼くのは今日だけ』って!!」
「己の飯ぐらい己で作れ! カレ〜っ!♪」
ピクシーボブとラグドールが話をする目の前、俺達全員が座れそうな大きなテーブルの上には、カレーの材料がてんこ盛り。彼女達の言う通り、今から自分達でカレーを作ろうという話だ。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イエッサー……」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「アハハハハっ!! 全員全身ブッチブチ!」
疲れ果てたA組B組含む俺達の返事を笑いながら、目の前でぴょこぴょこ動いているラグドールが可愛い。ちょっとだけ癒された。
「だからって雑な猫マンマは作っちゃダメね!」
俺達を煽るかの様な言動を見せる彼女の言葉に、すっかり燃え尽きていた飯田が覚醒する。
「ハッ、確かに……! 災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも、救助の一環! さすが雄英!! ムダがないッ!!!」
たぶん違うと思うけど、それもヒーローとしてのあるべき姿のひとつであるのは、俺も同意した。
「世界一美味いカレーを作ろうっ、みんなっ!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「おぉ……」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
本人だって疲れてるだろうに、飯田の元気さは周りを引っ張ってくれる。八百万、拳藤、物間も燃え尽きている中、リーダーシップを発揮させた彼の指揮の下、A組B組がチーム分担してカレー作りが始まった。
ジャガイモは水に浸けたザルの中で、手で洗っていれば皮が勝手に剥けていく。ニンジンは手を滑らせばピーラーの代わりになる。タマネギはもはや説明不要。肉だけは脂が手に付くから、ほかの人に切らせた。
母親と同じ、俺に包丁は必要ない。硬化していれば手を切る事もない。
「うわっ、切裂くんスッゴい!」
「ヨソ見は危ないわよ、お茶子ちゃん」
隣で野菜を切りながら俺のまな板の方を見てくる麗日に、更に隣の蛙吹の声が聞こえる。確か、麗日は雄英に通うために親元を離れている、1人暮らしだったハズだ。高校生で1人暮らしとは、俺も想像できないが逞しいとは純粋な感想だった。
「個性知った時から思ってたけど……お前やっぱそーゆーの得意だったか!」
俺の真向かいで肉を切っている砂藤も、お菓子作りの延長で、料理は得意なのだろう。I・アイランドのバーベキューでも積極的に肉焼いてたし、元々料理自体が好きなのかもしれない。
「ケッ……!」
そんな俺の隣で、俺に負けない速度で野菜を切るのは爆豪。彼がなんで得意なのかは知らないが、教えたのはきっと母親だろう。たぶん、一人暮らしでも生活できるようにするためだ。
母親にドヤされながら料理方法を教えられ、ソレに反抗しながらも料理をする彼の姿は、少し想像できた。
野菜切る係は料理経験ありの爆豪、砂藤、麗日、俺がメインで、火の番は轟、八百万、芦戸、耳朗。それ以外の人間は飯田が均等に配分させて、カレー作りが行われていた。
爆豪の隣で、爆速で材料を切りながら俺は駄弁る。
「母親の料理の手伝い……けっこうしてたから。子供の頃なんて……こんな事でしかマトモに個性使わせてもらえなかったし……」
「それがお前の個性伸ばしになったんじゃねえのか?」
砂藤の言う事には一理あった。そんな事だけに個性を使える世界なら、ヒーローじゃなくても別の職業で、よかったかもしれない。
俺の話に、俺と同じぐらい個性の使い方が上手い爆豪に、麗日が質問した。
「爆豪くんは? 雄英来る前とか、個性の特訓してたん?」
「フンッ! 昔、外で練習してたら……どっかのバカが警察に通報しやがったからな……ッ! それっきりだッ!」
彼の言う通り、住宅街から爆発音が何度も聞こえたら、不審に思うだろう。麗日の哀れみの篭った視線が、彼に刺さった。
「い、意外と……難しいぜ……!」
「鎌切くん、もっと刃は小さくていいよ」
「Oh〜! 鎌切サン、刃がコッチまで届いてマース!」
俺の反対側のテーブルで、バカデカい刃で野菜の皮を剥こうとしていた鎌切に助言していると、彼の隣に立っていた角取が驚いていた。
A組意外にも当然、ここにはB組達もいる。普段と違う者同士の会話も弾んだ。
「……って事はッ、ずっと夜まで森で迷ってたのっ!!?」
「ああっ、もうマジヤバかったぜっ!」
野菜切りながら緑谷の驚く声に、同じく野菜を切っているB組の泡瀬の返事が聞こえた。
「俺達はもっと森の奥で……罠だらけの森ん中進まされたんだ!」
「ロープというロープに足引っ掛けるわ……」
「槍やら檻やら網やら落っこちてくるわ……」
「丸太の振り子まで仕掛けられてたよね?」
「俺達を殺す気かってのっ!」
鱗、円場、庄田、回原が包丁の手を止めて、ゲッソリとした目で遠くの空を見ている。魔獣はいなかっただろうが、向こうも向こうで壮絶な進軍になっただろう。
「そりゃあ……俺達の『魔獣の森』とは、また別ベクトルで大変だったみたいだな……!」
「何そのドキドキワクワクしちゃう森!? 聞かせてよ!」
「聞きたいか? ガクガクするぜぇっ!?」
切った野菜を運んでいた瀬呂の台詞に、まな板の野菜をボウルに入れた吹出が、顔を『!?』に変化して興味を持ったが、切った野菜の皮をまとめて生ゴミ袋に押し込んだ上鳴が、面白そうに脅してみせる。
「俺が深淵から絶え間なく偵察していたから、被害は軽微に収まった……」
「やはり闇は全てを凌駕する……」
「アレはもう軽微じゃなかったねぇ……」
切った野菜が入ったボウルを運ぶ黒色が独り言を呟き、それを同じく空のボウルを持って通りかかった常闇が、答える。その2人の会話を、調理場で野菜の皮を片づける凡戸が、全てを流していく。
「鉄哲が『俺には罠なんかカンケーねえ!』って言ってガンガン進んでいくんだもの!」
「ソレで懲りずに落とし穴へ落ちてくからね……」
「ハハハッ、俺もたぶんおんなじ事するぜっ!」
「だよなぁ!?」
火を調節しながら飯盒の米を見張る拳藤と物間の隣で、竈門の上に油を引いた鍋を置いて、その中へ肉を放り込んだ切島と鉄哲が、騒ぎながら炒めている。
「道にも散々迷ったな……」
「そ、それは大変難儀な試練だっただろう……!」
「心中お察ししますわ……」
「にしても……お前達はよく日中で施設に辿り着いたよな?」
同じく飯盒の火の調節をしていた飯田と八百万の隣で、黒色に鍋へ注いでもらった野菜を炒める骨抜に、テーブルの方にいた峰田がピーラーを掲げて手を振った。
「へへーん! オイラ達にはキャンプやってる切裂と、ハイキングやってる爆豪がいたからなっ!」
「ハイキングじゃねえッ! 登山ッつってんだろクソブドウッ!!」
障子の複製腕で、テーブルの縁の位置まで持ち上げてもらった峰田が、人参の皮をピーラーで剥きながらそんな話をして、包丁を動かしている爆豪にキレられる。
その剥いた人参を障子に渡し、彼が別の複製腕で持った包丁でひと口サイズに切っていた。てか、障子だけでテーブルの一辺を使って調理していた。
「チンタラしてっと……後ろからバット持った虎さんがシバいてくるし……」
「なにそれ怖」
「ホラーだよっ!」
野菜切るのを終えて、鍋で肉と野菜を炒める係に回った泡瀬が、手を動かしながら遠い目をしてる。それを耳朗と芦戸が返事しながら、彼の気を確かめる。
「男女平等ケツバットだったな」
「あぁ……ウラめしい……!」
骨抜の言葉に、更に野菜を運んできた柳が身震いして呟く。まあ、コレは虎さんだから許される暴挙だろう。
「ラグドールさんは『あちきが見てるから思いっきり迷っていーよー♪』だってさ!」
「アハハ……あの人なら言うだろうね……」
「我らB組……完全に迷える仔羊のようでしたわ……」
野菜を運んでいた吹出の台詞に、火挟で火力の調節をして野菜と肉を炒める尾白が同感し、その反対側では、髪の毛の蔓で2個同時に木べらで野菜を炒めている塩崎が答えた。
「ねえ……そう言えばさっ、プッシーキャッツと一緒にいた……あの小さな子は誰の子なの?」
「隠し子ノコ?」
「コラ小森!」
「ん、ん!」
野菜の下処理を終えて、テーブルを拭いて回る取蔭の質問に、皿を用意しながら失言した小森を遠くから拳藤が叱り、近くで皿を持っている小大も回答を求めてきた。
「ああ……マンダレイの、いとこの子供らしい。詳しくは聞いてないな」
「ふーん……」
テーブルの下に溢れた野菜クズなどを片付けている轟に、取蔭だけが返事をする。洸汰くんの事はもういいのか、彼の顔ばっか覗いている。
俺はまな板と包丁を水道で洗いながら、たまたま隣に並んで洗い物をしていた宍田に話しかけた。
「宍田くん、明日虎さんに頼んで……個性伸ばし、個人でできるようにしようよ。梅雨ちゃんとかも大変そうにしてたから、ある程度方針決めといてさ」
「か、考えておくですぞ……」
少し声を震わせて、彼は返事をしてくれた。ガタイは障子と同じぐらい良いのに、仕草がしっかりしてるから、八百万とかと同じで良いトコの出なのだろう。
調理も佳境に入って、手すきが出そうになっているA組B組全員に、俺は聞こえる声で叫んだ。
「ねえみんなっ! 良い機会だし……A組B組全員が入ったグループメッセージ作らない?」
「えぇ!?」
「いいわねっ!」
「面白そーじゃん!」
何人かは驚くも、放課後の自主トレでB組とも何人か交流してきた俺の言葉に、思った以上の賛同が一気に得られた。
「40人も入ったらスゴい事にならないか!?」
「でも……僕は良いと思うよ!」
上鳴が少しだけ不安を示したが、鍋のカレーを木べらで混ぜている口田が、嬉しそうに同意してくれた。
「さんせー!」
「透ちゃん。混ぜないと焦げちゃうわよ」
カレールーを溶かして混ぜていた木べらを掲げて、葉隠が手を挙げるがすぐ蛙吹に戻され、彼女が代わりに木べらで混ぜ始めた。
過半数を完全に超えたので、早速グループを作る準備に取り掛かろうとして、物間が俺を止めてくる。
「オイオイオイオイッ! 僕達のB組にいったい何の魂胆を持って───
「アレ、1人ガラケーの子がいるからさ、B組も対応するアプリ使って! ちょっとマイナーだけど……いいよね?!」
「うんうんっ!」
「なんだっていいぜ!」
「ホームの写真何にする?!」
「無視かいィィィッ!!?」
物間の叫び声は、山中まで響いていた。
そんな見苦しい光景の後ろで、ゴミの片付けをしていた麗日の側を、たまたま緑谷が通りかかる。
「……私もスマホ、買ってもらおうかな……」
「っ、麗日さん?」
「っ!? んーんっ、なんでもないっ!」
彼女は自分の欲望を咄嗟に誤魔化したが、彼には聞こえていた。
「大丈夫……麗日さんの夢、知ってるから……! 僕……あ、いや、A組もB組も、仲間外れなんかにしないよ……!」
「……っ! そうだよね……!」
2人の会話は竈門側に集まっていたクラスメイト達には気付かれなかったが、俺がしっかりと目線で追っていた隣で、グループに1番乗りで入ろうとしていた取蔭は、気付いた。
「ねえ……あの2人ってさぁ……」
「末長く見守ろう。あの2人は、穢れを知らぬ者達だから……!」
それだけ彼女に言って、俺は物間と爆豪の2人に叫んだ。
「爆豪くん、物間くん! メッセージで喧嘩したら2人とも即ブロックするから、肝に銘じてね♪」
「誰がするかッ!!!」
「アハハハハハッッ!! なんで名指しなのかなァ!!?」
問題児2人の怒声に、クラスの中で大きな笑いが起こっていた。
ちなみに新しく設立したグループの、ホームの写真は体育祭の時のチアコス着たA組女子にしといた。耳朗に「アンタまだこの写真持ってんの!?」と言われたが、うちのクラスのメモリアルにするつもりなんだから、残すのは当然だ。
こうして、日も暮れてライトアップされたキャンプ場の中。A組B組交えた皆と雑談しながら、ようやく煮込み終わったカレーが完成した。見た目はちょっと不恰好だが、味にはなんの問題もない。量も充分だ。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「いっただっきまーすっ!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
手を合わせて挨拶すると同時に、作ってる時と同じぐらいの勢いで、全員が一気にカレーへがっついている。疲れた体も相まって、みんなお喋りも程々だ。
後ろの席で、がっつく八百万に瀬呂が最低の下ネタを放って、耳郎に殴られてるのが見えた。よくカレー食ってる時に大便の話できるな。
「洸汰ー、食事の時間よー! 洸汰ー?」
施設内からマンダレイの声がして、俺は遠くの方に森の中へと歩いて行く洸汰くんを見つけた。
「………………」
ソコへ、思い詰めた表情でカレーを盛った皿を持って、彼の後を追う緑谷を……俺はただ黙って見送った。
洸汰くんの事は気になるけども……ここは緑谷に任せた。
親も個性も健在な俺に、彼と対話で心を動かせると思うほど、自惚れた人間じゃなかった。
・・・♡・・・♡・・・
そして再び風呂。今度はB組も交えて露天風呂に入浴中。女湯を隔てる壁の前に、また峰田は立っていた。
「………………」
「峰田くん。その天丼はいらないよ? さすがの俺も本気で怒るよ?」
少し真面目な声で彼の背中に呼びかける俺は、いつでも飛びつく準備はできていたが、峰田はモギモギを頭から取らず、壁に手を当てたまま1人で呟いた。
「いや……なんつーかさ……」
「?」
女湯を前にした反応とは思えない峰田の声色に……障子や飯田など一部の真面目なクラスメイトが、何だ何だと反応する。
「ずっとよお……今までオイラは、モテるためと女体に触れるために、ココまで頑張ってヒーロー目指してきたんだよ……」
「峰田くんの夢だね」
「でもよ……職場体験行ってからかな……最近はチビッ子の笑顔を守るヒーローも、悪くねえなと思っちまってな……」
「え!?」
「今日の個性訓練で、とうとうモギモギ5つでジャグリングできるようになったぜ……そしたらなんか……早く見せてやりてえとばっか思っちまってよお……」
俺の返事も聞かず、彼は女湯の壁に当てていた手で、今度は頭を抱えた。
「悪い事しようとすると……アイツらの純情無垢な顔ばっか浮かんでくるんだよォ……!」
「峰田くん……」
「うがぁァァァァァァァッっっ!!!!!」
最後は女湯の前で1人でゴロゴロ転がって、彼は良心と欲望の間で悶え苦しんでいた。タオルもはだけて、毛も生えてないリトル峰田が丸見えである。
「どうするんだ?」
「戦わせよう……!」
「よしわかった」
障子のひと言に返事をして、俺は彼と2人で峰田を見ていた。できれば合宿初日に、その心構えを意識してほしいとは思ったが、彼も変わりつつあるという事実が身に沁みてわかった。彼もこれから変わりつつあるなら、それを見守っていこう。
「峰田君……!」
「峰田くん……!」
「良心の呵責……」
「グスっ……峰田くん、成長したんだね……!」
「泣くほどか……? ……いや、泣くほどか……」
飯田、緑谷、常闇、口田、尾白まで声を漏らしながら、転がっている彼を見守った。
「つか、切裂お前……肩のヤツ絆創膏か?」
「う、うん……!」
その俺のすぐ後ろにいた切島が、俺の肩を見て質問してきた。
「お前がケガするなんて、珍しいな」
「いつケガしたんだ?」
「……あ、うん。魔獣の森ん時に、刺さった」
障子や、近くにいた回原まで、俺の肩に注目してきたので、俺は彼等の視線を逸らす事にした。
「ねえ、素朴な疑問なんだけどさ……」
「ん?」
俺は回原を見て真っ直ぐに告げた。
「回原くんの個性ってさ……チンチンも回せんの?」
「き、切裂っ!?」
「おっ、そういやあ試した事ねえわ!」
いきなり話の流れが180°変わった事に、切島を筆頭に周りの野郎共の反応が一変する。
「試すな試すなっw!」
「何でいきなりそんな事言い出したんだよ!?」
「だって気になるだろ! 俺だってホラっ!」
俺はそのまま湯船から立ち上がり、股間から聳り立つ程のデッカい長い刃に変化した、それはそれは立派な……
「ブブぅーーーーッッw!!!?!」
「あーーーーーはっはっはははははっっwww!!!!!」
「シャーーーハッハッハッハハハハッwww!!!!!」
間近で見た切島は息を吹き出し、近くにいた瀬呂と鎌切が大声を上げて笑った。
「『
「やめろバカwww!!」
「つか、デケえんだよっw!!!!」
「だってデカくないと面白くないでしょ!」
「ハーーーハッハッハッハッハハハハッwww!!!!」
俺の股間と台詞で、風呂の周りが爆笑に包まれる中、回原が大きく声を上げる。
「見ろっ、できた!」
立ち上がった彼の股間では、フェイスタオルが絡まって、ギュルルルルル! と扇風機みたいに回っていた。
「ブフォッッwww!!?!!!」
「ブーーーーッwww!!!!!」
「『できた』じゃねえっw!!!!!」
「ぎゃーーーーはっはっはっはははははっwwwwww!!!!!」
「カーーーーカッカッカッカッwww!!!!!」
上鳴や円場などの男子はもちろん、冷静沈着な鱗も声を上げて笑い、推薦組の優等生である骨抜まで、剥き出しの歯を開いてケタケタ爆笑していた。
そんな俺と回原を見て対抗心が湧いたのか、爆笑していた鉄哲まで湯船から立った。
「だったら俺もできるぜッ!!!」
「おおっ、俺だって!!」
そこに切島までもが勢いに乗り出し、2人して硬化を股間に集中させる。
「ああ゛ぁあ゛ノんなノんなバカどもっwww!!」
「あっっっはっはっはっはっはははっwww!!!!」
「コレがホントの……『チンテツ』ってかw!」
「ダーーーーッハッハッハッハッハハハハハッwwwwww!!!!!」
「アーーーーひゃっひゃっひゃっひゃっっwww!!!!」
更に湯船の中で笑いが広がっていく中、切島の股間に注目した泡瀬が叫んだ。
「つか切島!? お前チン毛だけ黒なの?!」
「ああっ! 髪の毛染めてんだコレ! 最初は下も染めようとしたんだけどよっ、ブリーチしたら信じられないぐらい痛くて───
「やめろ聞きたくないッw!!」
「あぁーーーはっはっハハハハッwww!!!!」
「もうこの際だから、今しか聞けねえ事聞こうぜ!」
誰が言い出した台詞だったのか、野郎共の会話は完全に下ネタへと走った。
「障子くんの複製腕って、チンチンも増やせるよね?」
「試した事もないし、考えた事もないし、試したくもないな……」
「………………」
「そんな残念がるな……」
確かに少年誌どころか、成人誌にもあまり映せない物になってしまうだろう。本人が嫌がってるから、誰も無理強いはしなかった。
「峰田ってマジであのサイズなの?」
「うん」
まだ悶え転がっている峰田に対し、瀬呂がリトル峰田を指差す。アレはアレで需要がありそうだが、果たしてそんな彼を純粋に、優しく受け止めてくれる相手がいるだろうか。俺の目が離せないトコである。
「ハイハーイ! 前々から気になってたんだけど、轟ってチン毛も左右半々なの?」
「ああ」
「マジでっ!?」
「見せて!」
「見たいっ!」
「おう」
円場の質問で、子供の様に純粋無垢な轟すら話に巻き込まれていく光景に、常闇や口田、物間や庄田など一部の生徒は、被害を恐れて足早に浴場から出て行った。
「や、やめようよみんなっ! せっかくの露天風呂なのに、出ていっちゃったじゃんか!」
多少なりの正義感で行動してしまった緑谷。だが、俺は彼にこそ今だから言いたい事があった。
「緑谷くんっ、チンチン大きくない!?」
「突然何を言い出すの!?」
「おお、昨日も思ったけど、緑谷かなりデカいよなっ!」
俺と上鳴のひと言で、野朗共の視線が動揺する緑谷に集中する。
「ちょっ!? 見ないでよっ!!」
「でっっっけえっ!?」
「なんだその大きさっ!!?」
「デクじゃなくて、ビッグデックだよっ!」
俺の感想に、緑谷は湯船から立ち上がって逃げた。
「やめてっ!!! 大声出さないで切裂くん!! 向こうに聞こえちゃうから!!!」
「いや、お前の声が1番デカいぞw!」
「ビッグデックwww!!!!」
「ビックデッグぅっwww!!!」
「ダメだ……腹痛い……っwww!」
「馬ぁ!? 馬なのぉっw!!?」
「手で隠せてねえじゃねえかっwww!」
フェイスタオルは俺に奪われていたので、顔真っ赤にして股間を隠しながら、女湯の壁から逃げる緑谷に、爆豪も俯いて肩を震わせていた。
「緑谷くん見てっ、爆豪くんが笑ってる!」
「え!? うわスゴいっ!」
「喋んなナマクラぁッ!」
羞恥も忘れて笑っていた爆豪に、緑谷は純粋に驚きながら洗い場へと逃げていった。
ちなみに、爆豪もデカいです。覗いたら爆撃されそうだから、コッソリ観察した。
「君達! 大声で陰茎の話はやめないか!!」
ココでようやく飯田も騒がしい野郎共を止めようとしたが、いかんせん彼も人並み以上だった。
「そういう飯田も結構デカいよなぁ!」
「なぁっ!? 俺まで巻き込むんじゃない!!」
肩の傷は一瞬にして話題から外れたが、収集もつかなくなった。やっぱり男子高校生と下ネタは切っても切れない関係だった。こんなに笑ったのも久しぶりかもしれない。
ちなみに、最終的には風呂上がった後に、待ち構えられてた相澤先生とブラドキング先生に「やかましい」と正座させられ、次騒いだら男子は全員シャワーにすると指導された。
ちなみに緑谷は、しばらく一部の男子から『ビッグデック』と呼ばれた。さすがに女子の前では言われなかったが。
まあ、今はこうしてA組B組が仲良くしている、楽しい時間を大切にしよう。
合宿は明日で最後になる。
・・・♡・・・♡・・・
さて……浴場で教師達に一喝されて反省するかと思われた男子達が、明日の夕食である肉じゃがの肉を豚肉にするか牛肉にするかで、就寝前に腕相撲大会を始めている頃、女子部屋ではA組B組を交えた女子会が始まっていた。
「もー、アイツらホントにバカばっかなんだからっ!」
「ん……///」
少し顔を赤らめた拳藤に、少しのぼせたような表情で小大もコクンと頷く。
峰田の覗き行為を切裂が全力で阻止した事により、プロヒーロー達は男女の入浴時間をズラす処置を行わなかった。よって、今日の男子共による全力の馬鹿騒ぎは、女湯に丸聞こえだったのである。
「なんとも聞くに堪えない会話でした……」
「………………………………ビッグデックw」
塩崎が目を閉じたまま両手を合わせて呟く反対側で、葉隠が顔を俯いたまま、体を震わせてボソリと呟いた。
「ちょっw!?」
「んんっw!」
「やめてよw!」
「はしたないわ、透ちゃん」
蛙吹が窘めるが、再び数人の女子が我慢できず、切裂の叫んだ言葉に吹き出してしまう。
実は、この場には不在するB組の女子がいた。風呂場で壁に近づいて聞き耳を立てながら、必死に笑いを堪えていた3人である取蔭、小森、角取は今日の訓練の話でブラドキング先生に呼ばれてしまった。裏を返せば、この3人がいたら女子会は更に混沌とした事になっていただろう。
B組の中でも能動的に話せる女子が3人もいなくなっていた故に、少し大人しい女子会となって彼女達の平穏は保たれたのだった。
「お茶子ちゃん、大丈夫? お顔真っ赤よ」
「うッ、うんっ! だ、だだっ、だいじょうびゅッ!!」
風呂場からココに来るまで茹でだこみたいに真っ赤になっていた麗日を、蛙吹が心配する。彼女も決しておちょくっているワケではなく本当に心配していたのだが、それが更に麗日を困らせた。
言葉すらおぼつかない麗日は、頭の中で想像した彼の姿を映す視点が、どんどん下へと下がっていく光景を止めるべく、首を横にブンブンと激しく振っていた。
「?」
「はいはーい! もうこの話はおしまいっ!」
再び下ネタで染まってしまいそうな空間を、芦戸の声が遮った。せっかく華の女の子がクラスを跨いで集まったのに、始めたのが異性の逸物の話なんて夢が無いにも程がある。親が見たら泣くだろう。
「ですが……私女子会は初めてで……いったい何を話せばよろしいのでしょう……?」
飲み物とお菓子は用意したが、いったい何を話題にしたらいいか迷っている八百万に、葉隠が透明な手で指を振った。
「チッチッチっ! 女子会と言えば恋バナでしょーが!」
「そうだ! 恋バナしよ! 女子会っぽい!」
彼女の提案に真っ先に乗った芦戸が、賛成の声を上げた。
「恋!?」
「恋ねぇ……」
湯上がりみたいに赤くなって驚く麗日と、少し悩ましい表情をする蛙吹は、ほんのりと頬を染める。
その隣では困惑する耳朗に、拳藤が苦笑いをしてみせる。
「えー……」
「あ〜、そーゆーノリ?」
「鯉とバナナ?」
「んーん」
柳の言葉に、小大が首を左右に振る。その隣で塩崎が目を開いてワタワタと動揺していた。
「け、けけっ、結婚というものは主の御前で永遠の愛を誓い合う儀式でごさいまして……!」
「そこまで飛躍しなくていいわ、塩崎ちゃん」
そんな彼女を蛙吹が優しく落ち着かせる。気持ちに大小はあれど、逸物の話より何倍も健全だった恋の話に、女子会の話題は決まった。
「じゃあ、まずっ! 誰かと付き合ってる人ー!」
言い出しっぺの葉隠が話題を振ったが、女子の輪の中はシーンと静まり返る。
コレささすがに仕方がない事だった。中学から雄英を目指してからも、憧れの雄英に入学してからも、彼女達を取り囲むのは勉強やら特訓やら課題やらで、そんな暇なかったというのが、この場にいる全員の意見だった。
「せっかく、キュンキュンしたかったのに……」
「まあ……恋人作ってるヒマは、なかったもんね!」
「それじゃあさっ! 片思いの人とかいないのー? 好きな人は?!」
布団に寝転んで足をバタバタさせる芦戸は、次の話題を出したのと同時に麗日を見ていた。
「っ!」
その瞬間、彼女の脳裏によぎったのは、期末試験での実技試験で、作戦考案中に話した彼の言葉であった。
───麗日ちゃん……緑谷くんをよろしくね───
───必要なんだ…………彼と一緒に隣に立てる……彼のための、ヒーローが……!
彼の言葉と同時に、笑っている緑谷の顔が想像された。
「お茶子ちゃん、またお顔が真っ赤よ?」
「へぇっ!?」
「あーっ! やっぱりいるんでしょ!?」
「誰ー!? 誰なのー!?」
蛙吹に声をかけられて思わず上擦った声を出した麗日に、すでにわかり切った笑みを浮かべている芦戸と、テンションの高い葉隠が彼女に近寄る。
「おっ、おらんよっ! 違うっ、そんなんじゃ……っ!」
「その焦り方はアヤしいなぁ〜!」
「教えてっ、女の子だけのヒミツにするからっ!」
「ゲロッちまいなよっ? 恋……してんだろ?」
耳朗まで警察官みたいに囁き、彼女から本音を引き出そうとしているが、麗日はブンブンと手を振って、自分の妄想ごと彼女達を追い払う。
「はぁ……はぁ……! で、でもホントに違うから……っ! 恋愛なんてまったくで、動悸がしたというか……!」
「お疲れみたいね、お茶子ちゃん」
「大丈夫ですか? 恋愛の話でここまで体調が崩れるとは…………主は随分と残酷な体質をお作りになりましたわね……」
蛙吹と塩崎に労われる麗日をまだ見ていた葉隠だったが、そんな彼女にも期待の声が芦戸からかけられた。
「葉隠は?」
「へ?」
いきなり自分に振られた彼女が、芦戸と目を合わせる。パーカーのフードを被った寝巻きが、クルリと彼女の方を向いた。
「尾白と……どうなの?」
「お、尾白くん!? ヤ、ヤダなあっ! 尾白くんは友達だよぉ、友達っ!」
「ホントに〜ぃ!?」
怪しむ耳朗に、その場にいた芦戸も追撃を始める。
「ヤオモモの勉強会でも、ず〜っと隣で話してたじゃないっ!」
「確かにそうでしたわっ。尾白さんも勉強のできる方ですけど……葉隠さん、私の授業そっちのけではありませんでした?」
少しだけ不満げな声で頬を膨らませた八百万に、麗日と耳朗が「まあまあ」と肩を叩いて宥める。
彼女の言葉に少しだけ葉隠は焦りを見せた。
「そっ、そんなコトないよ〜! ヤオモモの授業もちゃんと聞いてたよ!」
「でも休憩中もベッタリだったじゃん!」
「どうなの、その辺?」
芦戸と耳朗が更に話を細かく聞こうとするも、彼女の反応は期待を逸れるモノだった。
「そ、そうかなぁ!? タダの友達だと思ってるんだけど……そんな風に見えるのかなぁ〜!?」
頭に手を当てて悪気も無さそうに笑っている葉隠を見て、彼女達はこの場にいない尾白へと、思いを送る。
(……ドンマイ尾白)
(…………がんばれ尾白くん!)
(ケロっ……諦めないで尾白ちゃん!)
この時、尾白は腕相撲中にいきなりクシャミが起こって、負けてしまったのだが、そんな事彼女達が知るハズもなかった。
「梅雨ちゃんは?」
「ゲロっ!?」
(っ!?)
次に耳朗が蛙吹へと話を振ったが、同時に麗日までビクリと体を震わせる。
「私は……特に気になる人はいないわね……」
(ホッ……!)
しかし、彼女のあっけらかんとした返事に、麗日は心の中で大きく息を吐く。普段のA組の中で、彼女の次に緑谷との交流が多いのが、蛙吹だったから少しだけ不安だったのだ。
「ヤオモモは?」
「そうですわね……私も気になると感じる方は……」
今度は芦戸が八百万に話を振るが、彼女もまだ恋愛事よりも目の前のヒーローとしての道を真っ直ぐ歩み続ける人間だった。
そこに、意外と思ったのか拳藤が話に乗ってきた。
「同じ推薦の轟とか、どうなの?」
「と、轟さんですか? 確かに文武両道で、顔立ちも整っていますが……その、たまに考えている事がわからないと言いますか……」
「あー、轟ってそーゆー所あるよね……」
八百万の感想に、耳朗は同意する。彼の天然ボケも魅力ではあるのだが、同じく天然でもある彼女には、少し理解できない部分がまだあった。
「それに……轟くんと付き合うと、あのお父さんまでついてくるよ……?」
「あぁ……エンデヴァーか……! そう考えると、ムリだな〜!」
葉隠の言葉で、耳朗を筆頭に彼女達は彼の父親であるプロヒーローを想像する。
「体育祭にいたよね……」
「轟くんの奥さんに凄くキビしそ〜!」
「ですが……ああいった荒々しい方こそ……心が傷ついている様な気がします……」
「あんな人と結婚した、轟ちゃんのお母さんってどんな人なのかしら?」
轟の父親であるエンデヴァーの評価は、No.2にも関わらずあまり高くはない。特に彼は元々女性からの人気も高くないのだ。
轟の後ろにいる大きすぎる障害を考えると、彼と付き合うのはほぼ不可能だと思い知った。
「さあね……逆に、委員長の飯田は?」
「飯田さんは………………」
そこまで言って彼女は止まってしまった。その反応に、A組の女子全員が仕方ないと思っていた。
葉隠が普段彼と親しそうな麗日に、話を振る。
「飯田くんって……付き合うとかって思考、あるのかな?」
「うーん……飯田くん『真面目』って字が、そのまま動いてる人だから……」
「飯田ちゃんが女の子と付き合ってる姿……想像できないわね……」
「結婚するまで手とか繋がなさそうだよ?」
「イヤイヤ、そんな…………いや飯田ならありえるな……」
女子達が血も涙もない評価を彼に下していると、楽しそうな葉隠の声が耳朗に向けられる。
「響香ちゃんは?」
「えっ!?」
彼女の焦るその声に、待っていましたと言わんばかりに芦戸も反応する。
「最近の上鳴くんとは、どうなの?」
「アっ、アイツっ!?」
『最近』もだいぶ可笑しな表現だが、それを気にしないのか、気にする余裕もなかったのか、耳朗は両手を前に出して首を横に振る。ピンジャックの耳たぶが、ブンブンと激しく揺れ動く。
「ムリムリっ! 確かに悪いヤツじゃないのはわかるけどさぁ……アイツ絶対浮気するし!」
「そんなコトないと思うけどな〜」
「意外と一途なんじゃない?」
「とにかく違うから! 芦戸も勘違いしないでよねっ!」
頬を染めて怒る耳朗を見て満足した芦戸は、今度は視線を拳藤へと移した。
「拳藤ちゃんは?」
「えっ!?」
それまで、ずっと見聞に回っていたB組の拳藤にまで、恋の話が飛びかかった。
「物間くんとどうなの?」
「ん!」
少し気になってはいたのだろうか、小大が声を大きくして、彼女の方を見た。
「違うって! そんなんじゃ!」
「お似合いだとは思うんだけどなぁ〜?」
芦戸がニヤニヤしながら拳藤の顔を見ていたが、彼女は腕を組んで悩むそぶりを見せながらも彼との関係を否定する。
「アっ、アイツは顔は良いけど、性格がアレだからさ……」
「まあ確かに……」
「物間は物間……」
「ん……」
B組の男子の中では随一の顔の良さを表す物間だが、いかんせん性格が終わっている。だが、彼が暴走する原因は、事件を引き起こしては目立つA組に負けたくないという、対抗心から来ているのを拳藤はわかっていた。だから彼女は副委員長に彼を推薦させた。
真面目になった時の彼の強さは、顔に劣らないぐらいの随一である。彼が自分よりもB組を率いているのを、彼女は1番理解していたのだ。
「アイツの手綱握れんの、私しかいないんだから!」
「んー?」
「あら……」
その反応に、小大と柳も彼と彼女の関係を怪しんでいるようだった。
芦戸は拳藤の反応を見て満足したように笑って見せると、今度は拳藤の周りに並んだB組へと、順番に声をかける。
「ふふ〜ん、小大ちゃんは?」
「んーん」
彼女は首を横に振った。そこには感情も何も感じられない。
「じゃあ、柳ちゃん!」
「クラスの男子は、特に……」
そして彼女も、普段はインターネットで怖い話を漁るインドア派の人間である。異性との恋よりも、洒落にならない怪談の方が興味をそそられた。
「塩崎さんも……」
「わっ、私の相手は……主によって導かれた運命の方と決まっておりますので……!」
少し息の詰まった声で、目を閉じたまま答えた塩崎に、芦戸が驚く。
「えー!? じゃあ、運命の人が現れなかったら?」
「その時は、誰とも結ばれずに人生を終えるでしょう。当然の事です」
「カッコイイ〜」
そのハッキリと宣言した彼女の言葉に、耳朗が惚れ惚れしていると、B組の代表である拳藤がため息を吐いた。
「ハァ……なんだか、あんた達が羨ましいよ……うちらの男子は、あんなんばっかだし……」
『あんなん』と呼ばれるB組の男子は、物間の手腕で仲はいいのだが、いかんせん子供っぽい者が多すぎた。まともな常識人と言うと、泡瀬か骨抜ぐらいになるのだが、その2人も男湯で大爆笑していた2人だ。
「少しウラめしい……」
「ん……」
「そっかー! じゃあ次の話題は……」
拳藤の言葉で、なんか話を終わりにしようとしていた芦戸を、耳朗が止めた。
「じゃあ芦戸は?」
「へ?」
自分に恋バナの矛先が向けられた彼女は、思わず言葉を詰まらせた。
舌を少し伸ばしながら、蛙吹がジト目で彼女を見ていた。
「散々聞き回って自分は答えないの、三奈ちゃんズルいわよ」
「三奈ちゃん、切裂くんとはどうなのー?!」
「体育祭の後から、ずいぶん仲良いと思うんだけどなー?」
葉隠と耳朗の言葉で、彼女は体育祭の最終種目であるトーナメントの、第2回戦のスタジアム内での通路……ベスト4を決める彼との出来事を思い出してしまった。
「あ……っ」
───芦戸ちゃん。嘘下手だね───
───せっかく……っ! ……ヤイバが頑張ってくれたのに……ッ!
───いいさ。騎馬戦、俺と組んでくれて、ありがとう……!
あの場で、自分の悔しさを優しく汲み取ってくれて、抱きしめてくれた彼の逞しい腕を思い出して、彼女は縮こまった。
寝転がっているのに、頭へ血が上るのを感じた。肌の色のおかげで目立つ事はなかったが、それでもA組の女子達は彼女の様子を見て察した。
「ちっ、違……! 違うって! そっ、そんなっ!?」
「三奈ちゃん、お顔真っ赤だよー?」
「この色はもともとっ!」
芦戸は否定しようとしたが、葉隠が笑いながら更に話を続けようとする。
さっきまで人の恋にガツガツ求めていた彼女が、急にしおらしくなった姿を見て、これまで攻撃を受ける一方だった麗日が、カッと目を開いた。
「三奈ちゃん、学校でもいっつも切裂くんと話してない?」
「そ、それは席が近いからっ!」
そんな彼女に上鳴との関係を突かれた耳朗も続く。
「ねえ、体育祭の騎馬戦のチーム決めで、真っ直ぐ切裂の所行ったのはなんで?」
「そ、それはっ! ささっ、最初のヒーロー基礎学の時に……2人で協力して、連携とれると思って……!」
「ああ〜、ソコが始まりか〜!」
「だから違うって!」
勝手に納得し始めた葉隠に、彼女は訂正させようとするが、周りの女子達の会話は止まらない。
「最初のヒーロー基礎学って、入学してすぐじゃん!」
「んっ!」
「ウラめしい……」
「運命ですわね」
「う、運命……っ」
B組の女子からの評価も飛び交い、芦戸は頭から湯気を出す。汗の緩い酸が蒸発しているみたいだった。
そんな様子を見て葉隠が彼女を煽った。
「キュンキュンしたいんでしょ〜? 今キュンキュンしてる〜?」
「いやっ、キュンキュンしてるけどっ!」
認めてしまった。キュンキュンはしているが、まさか自分の身を削ってキュンキュンさせられる事になるのは想定外だろう。
しかし、耳朗や葉隠達はまだ、切裂に対する彼女の行動を知っている。
「 I ・アイランドで、自分の食べかけのお肉あげてなかったけ?」
「っ!?」
彼女の言葉に、その時の思い出が蘇る。
I・アイランドで、オールマイトが開催してくれたバーベキューの時。彼女はそれまでの普段とは違う彼を見た。
自分の中で、体育祭であんなに強く在り続けた彼が、えらく落ち込んでいるのが見過ごせなくて、彼を元気付けようとした。
理由は後から峰田から知ったが、それでも彼は自分に応えてくれた。
今にも泣き出してしまいそうな顔を、ギュッと我慢して、彼は自分の口付けの肉に噛みついた。
自分には泣いていいと言っていたのに、泣くのを我慢したのは、きっと……恥ずかしかったのだろう。
弱々しくも、確かに意思の篭った眼。
キュンキュンなんてレベルではなかった。
同類で例えろと言われたら、ズキューン! バキューン! だった。
最初に想起したのは、中学の頃の髪を赤く染める前の、少し大人しい雰囲気の切島。
アレはアレで彼女の好みではあったのだが、切裂がソレを平然と乗り越えた。
気になるどころか、それ以上の関係を求める異性に対して、至近距離で見るモノではなかった。
「だ、だって……あんな落ち込んでるヤイバは……! ほっとけなかったんだもん……っ!」
必死に頭の中で言い訳を考えている芦戸を前に、葉隠と耳朗は心の中でほくそ笑んでいた。
(なんで名前で呼んでるのかは、聞かないであげとこ……!)
(面白いから、もう少し泳がしとくか……!)
そんな2人の様子を見て、追い詰められていた彼女をフォローするつもりで、尚且つ彼の存在に純粋な疑問を抱いていた拳藤が手を挙げる。
「ところで……切裂ってA組じゃ、どーゆー立ち位置なの?」
「切裂くん?」
「まぁ、なんつーか……緑谷とおんなじ、よくわからないヤツ?」
耳朗の回答に葉隠が頷き、麗日や蛙吹、八百万は頭を捻らせる。まさに彼女の言う通りな存在だった。
「彼は爆豪さんとの準決勝も悍ましいモノでした……男の方々は盛り上がっていましたが…………あぁ、思い出すだけでもその身が震えます……!」
「そう、普通に爆豪や轟と同じぐらい強いし……」
「でも、リーダーにはなりたくないみたいだった!」
「あまり人前に立つのも苦手だって言ってたわ」
入学数日後の委員長決めで、自分に入った票を見て、えらく焦っていた彼を彼女達は覚えていた。
「A組の裏番長て言うか……」
「非常事態に役に立つ男だね」
「雄英にピッタリの男の子よ」
「そうですわね。昨日の森でも……爆豪さんと真面目に話し合いながら作戦を考えていました」
「へえ! あの爆豪と!?」
B組からすれば想像もできない光景に、拳藤以外の女子達も驚いてみせる。
「あと、峰田の親友」
「へえ……」
耳朗の解答に、意外と思ったのか彼女は気の抜けた声を漏らした。
一応、彼が峰田のストッパー役であるのは、A組の中では承知していた。ただ、今回の入浴中の件もある通り、たまに彼も一緒になってハッチャケる時もあるので、イマイチ信頼できない相手だった。
「切裂さんも、もう少しお友達の相手を選んだ方がよろしいと思いますのに……」
「それ、切裂に言ったら怒ると思うよ? なんだかんだで峰田の事、親友みたいだし」
「暴走しがちな峰田ちゃんを……切裂ちゃんが抑えているみたいね。そこまで悪い関係じゃないと思うわ」
「昨日は女湯覗こうとして、切裂くんに全力で止められてたし……」
「本音は出てたけどねー!」
「アイツはいったいどっちの味方なのよ……」
暴走する峰田のストッパー役だが、たまに彼も一緒になって暴走する。上鳴や切島などの男子と混ざると、一緒になってフザけ始める、ごく普通の男子でもあった。
「でもね……クラスのみんなが大好きなのは、すごくわかったよね?」
葉隠の言葉に、耳朗も同意した。
「まあ……今日の女子会も、アイツがグループ作ろうとか言わなかったら、なかっただろうし……」
「峰田ちゃんから聞いたけど、職場体験では小さい子との交流が、とても上手らしいわ」
「面倒見がいいのかな?」
「でも1人っ子だよね?」
「ちょっとお節介が過ぎる時あるけど……」
「クラスの皆をよく見ていますわ。私、葉隠さんを勉強会にお誘いしましたの、彼があなたの成績を心配していたからなのですよ?」
「えっ!? そうなんだー! 確かにちょっと危なかったな〜!」
「そうなのっ! ヤイバは強くて……優しくて……なんて言うかその、献身的で……えと、えと……!」
なんとか復活を果たしたと思ったら、今度は口を滑らせそうな勢いで彼の評価を押し上げる芦戸に、蛙吹が声をかけた。
「三奈ちゃん、そろそろ補習の時間じゃないかしら?」
「そっ、そうだったぁ! みんなゴメン! オヤスミっ!」
話の輪から抜け出して、ドタバタと準備をしてから部屋を抜け出して行く芦戸の背中を、彼女達は見送った。
「どう思う?」
「匂うね……!」
「あまり詮索するのは、可哀想ですわ」
お互いに顔を見合わせて笑う耳朗と葉隠に、八百万が窘めようとするが、ココまで聞いてしまった以上、もうひとつ気になってしまった拳藤が、彼女達に尋ねた。
「ねえ……切裂は芦戸の事、どう思ってんの……?」
「あぁ……」
「ケロ……」
「ソコが1番の問題かも……」
「ん……!」
「あら……」
その反応で、小大や柳も彼女の恋路が一筋縄じゃいかない事態であった事を察した。それに応える様にA組の女子達が頭を悩ませながら、彼と彼女の関係を長々と話し始める。
「あぁ……主よ……この世の全ての恋する者に……揺るぎなき幸福を授けたまえ……」
果たして彼女の願いは、主の元へと届くのか。両手を合わせた塩崎が祈りを捧げていた。
次回『林間合宿3日目』