切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第二十五話

 

 

 

 

 

 寮生活2日目。

 

 つまり初めて寮での朝、寝ぼけ眼のクラスメイト達と洗面をしてランチラッシュから届いた朝食を食べてから、夏休み中なのに制服のワイシャツへと袖を通し、俺達は寮から歩いて5分の校舎へと入る。

 またしても久しぶりに感じる教室で新学期前最初の授業開始の時間となり、相澤先生が教卓に両手をつけて話す。

 

「昨日話したと思うが、ヒーロー科1年A組B組含め、君達は仮免取得を当面の目標にする。ヒーロー免許ってのは人命に直接関わる責任重大な資格だ。当然、取得のための試験はとても厳しい。仮免言えど、その合格率は例年5割を切る」

 

 そこまで先生が説明すると、後ろの席の切島がブツブツと声を漏らす。

 

「仮免試験は公安が開く年2回だから……全国の学校のヒーロー科全部合わせて、5割だろ……?」

 

「それでオイラ達より上の先輩や、マウントレディみたいに大学から取り始めた人とか考えると……!」

 

 2人して調べていたのだろうか峰田まで呟き始めた仮免の内容に、周りのクラスメイトにも緊張が走っていく中、先生は冷静に答える。

 

「ああ……君らの想像する通り、激戦区だ。そこで今日から1人、最低でも2つ……

 

 

 

 

 

 ……君達には『必殺技』を決めてもらう……!」

 

 

 

 

 

「必殺技っ!!」

 

 

 

「学校っぽくて、それでいて!」

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「ヒーローっぽいの来たァっ!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 いかにもヒーローらしい響きの内容にクラスメイト達が騒ぎ出した。緑谷もニヤけているし、爆豪も獰猛な笑みを浮かべている。この教室に嫌いなヤツなど誰もいないだろう。

 先生の発言に騒いでいると教室のドアが開いて、エクトプラズム先生、セメントス先生、ミッドナイト先生が入ってきた。

 

「必殺……コレ即チ、必殺ノ型、技ノ事ナリ!」

 

「その身に染み付かせた技、型は、他の追随を許さない! 戦闘とは、如何に自分の得意を押し付けるか!」

 

「技は己を象徴する。今日日必殺技を持たないプロヒーローなど、絶滅危惧種よっ!!」

 

「詳しい話は実演を交え、合理的に行いたい。コスチュームに着替え、『体育館γ』へ集合だ」

 

 相澤先生の指示の下、俺達はすぐに制服からヒーローコスチュームへと着替えて、校舎から『体育館γ』へと移動する。今日の迷彩服は迷彩服ですらない、オリーブドラブ1色の戦闘服だった。なんか格好が、緑谷みたいになっちゃった。

 

「『体育館γ』……通称『トレーニングの台所ランド』略して『TDL』だ」

 

「さすがにTDLはマズいだろぉ……!」

 

 相澤先生の説明に峰田が声を震わせる。周りのクラスメイト達もウンウンと頷いていた。

 たぶん、この先もずっと『体育館γ』って呼ぶ事になるわ。

 

「まっ、俺達には見慣れた施設だけどなっ!」

 

 体を硬化させた切島が両腕を叩き合わせた隣で、俺はセメントス先生に頭を下げた。

 

「いつもお世話になってます、セメントス先生」

 

「はっはっはっ、君は入学してからすぐこの体育館を申請しに来たからねっ、よく覚えているよ」

 

 先生はそう言って笑いながら、体育館の地面に手を付けて、平面だった館内をみるみる内に山岳地帯へと変化させていく。

 

「ココは俺考案の施設。生徒ひとりひとりに合わせた地形や物を用意できる。台所ってのは、そういう意味だよ」

 

「質問をお許しください! なぜ仮免許の取得に必殺技が必要なのか、意見をお聞かせ願います!」

 

「順を追って話すよ、落ち着け」

 

 全身甲冑コスチュームの飯田も久しぶりに感じながら、彼の元気の良い質問を相澤先生が抑えた。

 

「ヒーローとは事件、事故、天災、人災、あらゆるトラブルから人々を救い出すのが仕事だ。仮免試験では当然、その適性を見られる事になる。情報力、判断力、機動力、戦闘力。他にもコミュニケーション能力、魅力、統率力など、別の適性を毎年違う試験内容で試される」

 

 この雄英に入ってから、座学で学んできた事を思い返していると、ミッドナイト先生が指を立てて説明を付け足していく。

 

「その中でも戦闘力は、これからのヒーローにとって極めて重視される項目となります。備えあれば憂いなし……技の有無は合否に大きく影響する……!」

 

 つまり、実戦でどんな事が起こっても自分で対応しなければならず、そのための必殺技であるという事。体育館の地形を完成させたセメントス先生も、話に続いた。

 

「状況に左右される事なく安定行動を取れれば、それは高い戦闘力を有している事になるんだよ」

 

 確かに、あらゆる地形を突破して全天候対応できれば、そりゃあ安定して強いに決まっている。自分が今ソレをできるのかと言われると、また別問題だが。

 

「技ハ必ズシモ攻撃デアル必要ハナイ。例エバ飯田君ノ『レシプロバースト』 一時的ナ超速移動、ソレ自体ガ脅威デアルタメ、必殺技ト呼ブニ値スル」

 

「あ……アレ必殺技でいいのか!」

 

「なるほど……自分の中に『コレさえやれば有利、勝てる』って型を作ろうって話か」

 

 エクトプラズム先生の言葉に飯田本人も驚く隣で、砂藤も腕を組んでウンウンとうなずく。

 

「そのとおり! 先日『神野事件』で大活躍した『シンリンカムイ』の『ウルシ鎖牢』なんか、模範的な必殺技よ。相手が何かする前に縛っちゃう!」

 

「中断されてしまったが、林間合宿での個性を伸ばす訓練は必殺技を作り上げるためのプロセスだった。つまり、これから後期始業まで残り10日余りの夏休みは、個性を伸ばしつつ必殺技を編み出す圧縮訓練となる……!」

 

 ミッドナイト先生の例え話に、サポート系の個性のクラスメイトも頷いている中で、相澤先生が話を戻した。

 

「なお、個性の伸びや技の性質に合わせて、コスチュームの改良も並行して考えていくように。Plus Ultraの精神で乗り越えろ。準備はいいか?」

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 俺達の返事と同時に、エクトプラズム先生が自分のエクトプラズムを20人分吐き出し、クラスメイト達が岩山になった体育館のフィールドへと向かう中、俺は立ち止まったまま手を叩いた。

 

 

 

 

 

「決まった!!!」

 

「イヤイヤっ、早ェよっ!!!」

 

 

 

 

 

 目の前歩いていた峰田が豪快にすっ転んだ。

 

 必殺技なんて、まともに覚えてるのは体育祭の爆豪との戦いの時以来だ。あの時に少しアリだなと思ってから、何個か温めていたのがある。

 そのあとも、何度か考えていたのをちょくちょく口に出していたが、本格的に考えるのは今回が初めてだ。

 

 飯田の『レシプロバースト』みたいに、俺は今までやってきた技に名前を付ければ良い。癖みたいにやってきた行動は、充分技となっている……と思う。

 とにかく、先生に見てもらわなければわからないので、俺は1番近場にいたエクトプラズム先生に声をかけた、

 

「エクトプラズム先生。俺の必殺技、本気でやるとちょっと範囲がデカすぎると言うか、ココだとみんなを巻き込みかねないんですけど……」

 

「俺もです」

 

 自分用のエクトプラズム先生の前に手を挙げて相談する俺に、隣へ轟が並んだ。

 

「轟くんも?」

 

「ああ。ここじゃ狭すぎる」

 

「フム、2人トモ範囲攻撃ニ重点ヲ当テタイノカ。具体的ニドンナ技カ説明シテクレ」

 

 というワケで、轟と一緒にエクトプラズム先生と軽く話をして、せっかくの体育館だったけど一度外の演習場で必殺技の試し撃ちを行ってから、案外早く俺の必殺技は決まっていった。

 轟の必殺技も凄かった。体育祭で緑谷相手に見せた、冷えた空気を熱膨張させて爆発させるアレを技に昇華させていた。轟の必殺技は漢字四文字で、本人も本編で叫ばないから俺もほぼほぼ名前忘れていたけど『膨冷熱波』って言うそうだ。

 

 必殺技も轟と一緒にノルマ達成したので、あとは個性を伸ばすだけとなった。轟もまだまだ個性を伸ばしたいらしく、合宿で行っていた個性強化訓練へと戻っていく。

 俺も入院して遅れてしまった分を取り戻したいが、せっかくの良い機会だからみんなとも話をしてみたい。もしかしたら、新しい技のインスピレーションが湧くかもしれないし。

 

 

 

 

 

「緑谷くんっ! 『エアフォース』片手で安定したって本当っ!?」

 

 俺が休憩中の緑谷に駆け寄ると、彼は待っていましたと言わんばかりに元気な笑顔で説明を始めた。

 

「うんっ! 今は『フルカウル』20パーセント!『スマッシュ』は30パーセントっ! 『エアフォース』は……まだ17パーセントぐらい、かなっ!」

 

「凄いっ!! そしたら今までの『スマッシュ』と『フルカウル』に合わせて、『エアフォース』も出力分けて考えていこう!」

 

「もうやってるよっ! ただ……右腕は前の戦いで、お医者さんに「これ以上負傷したら治せない」ってトコロまでいっちゃったらしいから……なんとかしたいんだけど……」

 

 緑谷は自分の右腕の手袋を外して、そのまま腕の袖を捲った。俺よりかはマシぐらいだが、ソコには小さくはない傷痕が残っている。荼毘に焼かれなかったからか、火傷の痕みたいな傷はなかった。

 

「うーん……オールマイト先生は、なんか言ってた?」

 

 俺はさっきから体育館内を歩いてクラスメイト達にアドバイスしている、トゥルーフォームのオールマイト先生の方を見る。いつの間にやって来たのかはわからないが、後ろ姿のズボンのポケットから『すごいバカでも先生になれる!』というタイトルの本がはみ出ている。

 ミッドナイト先生、笑ってないで言ってあげて。

 

「えーと……『君はまだ……私に倣おうとしてるぞ』……って」

 

「なんでちょっと『先生』入っちゃったのw?」

 

 彼が得意なのはマッスルフォームの先生の顔だろうに、なぜかトゥルーまでわざわざマネした彼の言動に、俺は含み笑いを隠せない。

 

「へへ……っ、切裂くんも好きでしょ?」

 

「……まあ確かに。でもトゥルーフォームの先生は、もっとこんな感じ……『み……緑谷少年……ゲホッ』w!」

 

 

 

「「あっはっはっはははははっwww!!!」」

 

 

 

 結局、お互いに笑い合って解決策は全く出なかったが、オールマイト先生がしっかりアドバイスしていたのだけでも確認できたので、今回は先生に華を持たせよう。

 コスチュームは彼よりも、麗日の方を気にかけねば。

 

 

 

 

 

「切島くん、調子は!?」

 

「待ってたぜ切裂っ! 俺の技はもう出来上がってんだっ!!」

 

 俺の声にすぐさま振り返って拳を構えた切島は、硬化した拳を叩き合わせながら高らかに宣言する。

 

「お前が俺を倒すための技を編み出したのと同じ様にっ、俺もお前を超えるための技を作ってやったぜッ!!!」

 

 彼は足をドッシリと踏みしめて全身に力を込めると、硬化していた肌が更に細かく逆立ち、歯や眼球までもが角ばり始める。

 

「俺に小細工なんて一切必要ねえっ! 見ろッ!! コレが硬化を超えた硬化の先……ッ!!!」

 

 それは、体育祭でほんの少しだけ鱗片を見せた、俺とのぶつかり稽古で著しい進化を見せた彼の硬化による真価。

 触れるだけで全ての物が切り付けられ、生半可な刃物すら逆に粉々に粉砕してしまう、刺々しい姿へと変化する。

 

 

 

「『烈怒頼雄斗・安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)』だッ!!!!!」

 

 

 

 全身からは少し動いただけで金属の軋む音が響き渡り、火花すら散っている。俺の全身から刃を出す技よりも遥かに感じるプレッシャーに、俺は身震いした。

 

「爆豪にもブチ抜けなかった盾だッ! 本気でかかってきやがれェっっ!!!!!」

 

「オラあぁぁぁぁっッッ!!!!!」

 

 喋っているだけでも口元から火花が出ている切島に向かって、俺は大きく飛び上がって両腕の流動させた刃を頭から振り下ろす。

 その刃を彼は腕で防ぐ事もせず、脳天で受け止めた。

 

 閃光が走り、火花が飛散した。

 

「うッ!!?」

 

 流動している刃は切島の額に接触した瞬間に弾かれ、俺は反射で空中を宙返りしてから地面に着地した。

 

「うわ……!」

 

 脳無の斬撃吸収よりは手応えがあった。

 だが、腕を見ると刃は彼の硬化を受けて大きく刃溢れを起こしていた。体育祭とは完全に逆転された結果に、俺は驚くばかりだった。

 

「イっ、テテ……! どうだっ!!」

 

 だが、切島もノーダメージとはいかないのか、俺の振り下ろした衝撃は受け止めきれず、片膝をついてアンブレイカブルを解除した普通の硬化に戻っていた。

 

「凄いよ切島くんっ! 俺の刃……削れちゃった!」

 

「へへッ! まだ1分ぐらいしか維持できねえから、ココ1番でしか使えねえんだけどなっ! 圧縮訓練で発動時間と硬化を更に伸ばしてやんだ!!」

 

 更にPlus Ultraを目指そうとする切島に、俺も置いていかれるワケにはいかない。俺だって自分の個性にプライドはある。

 

「そしたら、今度は俺がソレをブチ破ってあげるっ!!」

 

「ああッ! いつでもかかってこいよっ!!」

 

 お互いに硬化した拳をぶつけ合い、更なる高みを目指して健闘を期待しながら、俺は次のクラスメイトの所へと向かった。

 

 

 

 

 

「ヤイバ見て見てっ!」

 

 次は誰の所に向かおうかと悩んでいると、後ろから13号先生と話をしている時みたいな、ヘルメット越しのくぐもった声がした。

 

「え? ……うおっ!?」

 

 振り返ってみると、芦戸が全身を紫色で半透明なゲル状の酸の中に、そのまま入り込んでいた。

 

「スゴいでしょ!? 放出できる酸の量が増えて、全身包み込めるようになったの!」

 

 上手い考え方だと思った。これなら素手どころか、生半可な物理攻撃は彼女に届く前に溶かされて効かないし、対処方法がないヴィラン相手なら一方的に追い詰める事ができる。

 

「凄いっ! コレなんて技?」

 

「『アシッドマン』って名前っ! ちなみに切島の『アンブレイカブル』見てパクったの!」

 

 全身を硬化させるアンブレイカブルを、酸で体現したのだろう。さっきまで話をしていた切島の方向を指差して、彼女はイタズラっぽく笑ってみせた。

 

「でも……酸の蛇、やめちゃったの?」

 

「う〜ん……今の私が出せる酸の量はコレが限界だし……あんまやりすぎると、また脱水症状になっちゃうしね……!」

 

 ズルズルと地面を滑りながら、ナメクジみたいな移動の仕方で芦戸は俺の目の前まで近寄ってくる。捕獲から攻撃まで使える酸の蛇の汎用性は高いから残した方が良いかもしれないのだが、移動方法も少し考える余地があると思った。

 

「その芦戸ちゃんの包んでる酸をさ……シャボン玉状にできない?」

 

「え?」

 

「芦戸ちゃん、腕か足がくっついていれば酸は操れるんでしょ? 内側の酸を押し出して蛇に回せない?」

 

「あっ、そっかっ! やってみるっ!」

 

 言うは易しだったのかもしれないが、彼女はゲルの中から外気を取り込んでみせると、余剰分の酸を伸ばして人間の胴体ぐらいの太さはある酸の蛇を作ってみせた。

 

「できたっ!」

 

 彼女は喜んでいたが、俺の視線は別の所に向いていた。

 

「あ、そっか酸だから、内側に空気作るとそうなるのか……」

 

 酸の蒸発した空気が内側に溜まって徐々に大きくなっており、ゲル状のそこら中から小さく穴が空いている。これじゃ速さや面積にモノを言わせた質量弾でも飛んできたら、防ぎきれないかもしれない。

 

「でも大丈夫っ! 防御に回す時に元に戻せばいいだけだしっ! もっと個性伸ばして酸の総量を増やせば、そのまんま出せるかもっ!」

 

 芦戸はそう言いながら両手と両足で繋がった酸のゲルから更にもう2本の蛇を伸ばしてみせた。

 

「それよりさ……っ、ヤイバこの子に名前つけてよ! 酸の蛇じゃカワイソウじゃん!」

 

 確かに、訓練でも今まで酸の蛇としか芦戸本人も呼んでいなかったので、名前をつけないのかとは思っていたが、まさか任されるとは思ってなかった。

 

「いいの? 芦戸ちゃんの技でしょ?」

 

「いいのいいの! コレできるようにしようって考えてくれたの……ヤイバだもん♪」

 

 グッドサインまで送られて、俺は彼女の酸の蛇を見る。彼女が操っているから自我はないはずだが、こちらに興味を持つような愛らしい動きで首を振って舌を伸ばしていた。

 

「ん〜……『ヒュドラ』とか?」

 

「ひぃ、ヒュドラ?」

 

 聞いた事なかったのか、芦戸はゲルの中で首をかしげていた。

 遠くでダークシャドウに乗って飛んでいた常闇が、俺達の頭上を一般通過する。

 

「ギリシャ神話に登場する、9つの頭を持つ毒蛇だ。頭を切り落としても再生し、体内の毒は強力無比だと記されている」

 

「キリサキ、オヒサシブリー ! 」

 

 説明だけしてまた遠くへ飛んでいった2人に手を振り、俺は芦戸に向き直る。

 

「芦戸ちゃんなら似合ってると思ったんだけど……どうかな?」

 

 首3本だから『ヒュドラ』と言うより『キングギドラ』と言った方が正しいかもしれない。しかも芦戸は『毒』と言うより『酸』なのだが、彼女にはよく似合っていると思った。

 

「良いに決まってるじゃない! ヤイバが名付けてくれたんだもん! じゃあこれからは……『ヒュドラ』の首をもっと増やすために、個性強化頑張るねっ!」

 

 本人嬉しそうにしているし、目標も決まった彼女は再び個性強化へと訓練に励み出した。

 

 

 

 

 

「轟くん、親父さんと特訓してたの?」

 

「ああ……長い間左は封印してきたから、どうしても炎じゃ親父はまだ超えられねえ。周りに炎系の個性も、アイツしかいないからな……」

 

 お互いに外での必殺技を試した後、高台に上がっていた轟の周りは半分が氷漬けで、半分は炎の種火が飛散した地獄みたいな光景になっていたが、当の本人は真面目な表情で自分の目の前で両手を広げ、冷気と炎をひとつに合わせようとしている。

 

「No.1って忙しそうなイメージあるのに……よく付き合ってくれたよね?」

 

「ああ。神野事件の後……最初は不本意でNo.1に昇った親父のツラも見てやろうとしたんだが……気がついたらそれどころじゃなくなってた」

 

「どういう事?」

 

「お前の意識が戻らなくて……不安になってたってのも、あると思う。家の訓練部屋で無茶苦茶やってた俺を、姉さんが親父呼んで止めてくれたんだ」

 

「……ゴメン、心配かけて……」

 

「お前が謝る必要はねえ。憎むのは、敵連合だ。それに……俺はお前が目覚めると信じていた」

 

 そう言って轟は俺に振り返ると、俺の目の前で左手に炎を軽く集中し始める。

 

「それで、親父に炎を一点に収縮させるのをひたすら習った。まだ未完成だが……ひとまず形としては完成させた。見てくれ」

 

 左手で大きくなっていく炎の塊が手の平から漏れようとしている所に、彼は冷気をまとった右手を添える。不規則に動く炎の形を整えるように。

 

「コレ以上大きくすると力が漏れ出すんだが……右の力で無理矢理一点に集中させてる。それでも制御は難しいけどよ」

 

「凄い……よく考えついたね……!」

 

「元々安定しない方法だ。いつか右の力なしで制御させてみせる……!」

 

 そう言って集中していた炎を鎮めた彼の表情は、キリッとした良い顔をしていた。至近距離のイケメンは目に毒だわ。

 

「てか、左右同時に使えるようになったんだね?」

 

「ああ。合宿の個性強化訓練の成果が出てきた。と言っても、コッチもまだ安定はしねえ。コレばかりは親父に聞いてもわからねえが、この数日でコツは掴んできた……!」

 

「ソレが……さっきの外でやった爆発? 体育祭の時のヤツだよね?」

 

「アレは集中させた冷気を放った後に、軽く火をつければ爆発する。冷気の集中はだいぶ慣れてきたから、体育祭みたいに長期戦を仕掛ける必要はねえ。それでも規模によっちゃあ、まだ数十秒ラグがかかる。この辺も課題だな」

 

「やれる事が多いと、大変だね」

 

「そりゃ、お前もだろ」

 

 のんびりとした彼との会話に、少し心が落ち着いた。

 後から聞いたのだが、母親の病室にはテレビが無く、俺のがどうなっていたのかは知らなかったそうだが、冬美さんは知っていたそうだ。もちろん、意識が目覚めたのは轟経由で知っている。

 仮免終わって落ち着ける暇があれば、もう一度会いに行くのもアリかもしれないと思ってしまった。

 

 

 

 

 

「爆豪くん……調子はどう?」

 

「………………」

 

 岸壁へと登った俺が背中越しに彼を呼びかけても返事はなく、爆豪は岩壁に手を突き出したまま集中していた。

 邪魔しちゃ悪いと、時間を改める事にした俺は彼に背を向けて歩こうとした。

 

「『A・P・ショット』はもう技として完成してやがる……それより、何か掴めそうなんだよ……ッ!」

 

「え?」

 

 いきなり話しかけられて振り返ると、彼の姿勢は変わっておらず会話だけが続いた。

 

「手の爆破の制御をコントロールさせて……分散させる……ッ!」

 

 そこまで言った瞬間、彼の構えていた手の平が一気に眩しく弾けた。

 

「死ねゴラァッ!!!!!」」

 

「ッ!?」

 

 

 

 

 

 速い。

 

 

 

 

 

 期末試験で見せてた小出しの『A・P・ショット』の、数倍の速さで彼の手の平から連射された爆破の弾丸が、訓練場の岩壁に一瞬にして数十ヶ所の弾痕を残した。

 

「チッ……まだ集中しねえ……ッ! 手汗もすぐ尽きやがる……ッ! コスチュームと小手も改良しねえとな……ッ」

 

 舌打ちをする爆豪の視線の先、何発かは同じ所に着弾して煙の噴き出している岩壁が、深く穿っている。どうやら、あの爆撃を全て一点に集中させたいそうだ。

 

「爆豪くん、ソレ……移動でも使えるの?」

 

「1回試したが……まるで言う事を聞きやしねえッ、それに汗もまだ細かすぎで、大した威力も出ねえッ!」

 

 おそらく、俺には伝わらない無理難題が山程あるのだろうか、普段の苛立ちとは違う口振りで彼は答えた。

 

 

 

 だが、もしも今の爆破を機動力に振られたら……

 

 

 

 いや、彼ならやってくれるだろう。俺に捉えられなくなっても、彼が強くなるならそれでいいじゃないか。

 俺は周りの壁を見渡す。どれもコレもさっきの爆撃でできた弾痕みたいな穴が、ビッシリと空いている。絨毯爆撃でも遭った跡の様に。

 

「なんか……『クラスター爆弾』みたいだね……」

 

「ああッ? ……いや、むしろ爆撃を一点に集中させる……ッ、せいぜい『バースト』程度だな……ッ!」

 

 俺のひと言、再び手の平に汗を溜めようとしていた爆豪がピクリと反応する。

 

「だが『クラスター』か……! ハッ、悪くはねぇ……ッ!!」

 

 そうしていつもの様に獰猛過ぎる笑みを浮かべながら俺を見ていた。

 

「爆豪くん……もしかしてコレ、俺に当てるつもり?」

 

「当たりめえだろッ、耐えれるようにしとけッ!」

 

 そう叫んで彼は再び壁に向かって、速過ぎる爆撃を放ち始めた。

 気が散るとか言われて爆破を向けられる前に、俺はこの場を去った。

 

 

 

 

 

「麗日ちゃん。前に話してた、サポートアイテムの話覚えてる?」

 

「うんっ! 今日の放課後に行ってみようと思うの!」

 

 空中に浮いていた麗日のすぐそばの壁に張り付いて、俺は彼女を見上げた。

 

「あのあと、私も少し考えてたんだけど……相澤先生が言ってたみたいに、サポートアイテムじゃなくて、コスチュームそのものの改良になりそうなのっ!」

 

「ソレでいいと思うっ! 俺もヘルメット改造したい要件があるからさ……一緒に行こう!」

 

 俺と元気良く話してはいるが、浮いている彼女の更に上では岩石が何個も浮かび上がっている。自分と同時に物まで浮かしても、彼女には喋るほど余裕がある様に見えた。

 

「うんっ! 切裂くんは何を改良するの?」

 

「俺、索敵とか全然できないからさ……その辺を補えるようにね」

 

 更に彼女の浮いている高さまで刃で壁を登った俺は、自分のヘルメットをコンコンと叩いた。

 今まで見栄えと防御のために被っていたヘルメットも、この世界の技術を使えばもっとハイテクな事ができそうだと思ったのだ。

 

「そっか! でも思ったんだけど私……自分のコスチュームの改良なら……う〜ん……」

 

「まだ何かあるの?」

 

 俺が問い尋ねると、彼女は浮いたまま自分の身に纏っているヒーロースーツ……ゴム質の身体のラインが出るスーツを手で押さえた。

 

「このパツパツスーツも、切裂くんみたいな丈夫そうな服にしてもらった方が───

 

「ソレだけは絶対駄目!」

 

「えぇ!? なんでぇ!?」

 

 少し食い気味で否定した俺の言葉に、ビクリと麗日が空中で震える。

 更に俺は迷いなく告げる。

 

 

 

「緑谷くんが悲しむッ!!!!!」

 

 

 

「デ、デデっ、デクくんがっ!?」

 

 数秒後、遠くからエアフォースの弾丸が俺に飛んできた。地獄耳か。

 

 

 

 

 

「ヤオモモちゃん……結構手こずってるみたいだね」

 

「っ! ヤイバさん……」

 

 体育館の中にまで本を持ってきていた八百万の姿を見つけて、俺は彼女と一緒に体育館の壁の隅へと並んだ。

 

「ヤイバさんに言われた、人間の体の創造に挑戦しましたが……普通の人間の手ですら、非常に複雑です…………それに、挑戦してから気がつきましたけど……血液もその人のDNAが関係しますから、私には無理みたいですの……」

 

 彼女の想像に必要なのは知識だが、さすがに人間のDNAひとつひとつの遺伝子情報を分析するのは、この世界の技術をもってしても不可能だったようだ。

 

「特に障子さんや口田さんみたいな異形型の方は……そもそもの構造が人間から離れていますし、該当する生物も存在しないので、完全に手詰まり状態ですわ……」

 

「そっか……ゴメン、だいぶ無茶苦茶な事言っちゃったかも……」

 

 そこまで都合の良い個性ではない事を思い知った俺だが、八百万は首を横に振った。

 

「そんな事ありませんわ……個性とは可能性……! 最初から諦めては、気付けない事もありましたわ……! おかげで、必殺技の考案は簡単でしたものっ」

 

「ほんと?」

 

 彼女は元気良く目を輝かせて、自分の成果を話し始めた。

 

「1度に2つの物の同時創造が、遥かに簡単に行えましたの! 創造の速度も上がりましたから、これからはもっと複雑な物も創造できそうですわ!」

 

「そっか……!」

 

「身体の創造も諦めませんわ! いつか人の怪我なども創造で治せるようになりたいですもの!」

 

 そう言って彼女は躊躇う事なく、俺の顔の傷に手を伸ばす。

 

「あなたの傷痕も、治せるかもしれませんもの……!」

 

 この世界、治療系の個性は電気系よりも貴重だ。彼女が使える様になれば、大きく運命は変わるかもしれない。

 

「ありがとヤオモモちゃん……でも、この傷は残すよ……!」

 

「えっ? で、でも……!」

 

 少し困惑していた八百万に、俺は傷に触れていた彼女の手を押さえて戻した。

 

「見える傷なら、いいんだもの……!」

 

 作戦を甘く見積もった俺の身から出た錆だが、彼女を守り切った傷を消したくはなかった。

 切島の熱意が、俺に移ってしまったんだと思っていた。

 

 

 

 

 

「上鳴くん、まだ飛べないの?」

 

「『まだ』って何よぉ!? 俺じゃムリだって……!」

 

 突拍子もない俺のひと言に、放電を止めた彼はすぐさまツッコミながら指を前に出してグルグル回して話を始める。

 

「ホラ……『磁界』とか、『ローレンツ力』……? 俺にはチンプンカンプンだぜ……!」

 

 食堂でよく峰田や切島と一緒が多かった彼には今まで何度か知識として電気の仕組みを覚えさせようとしたが、それでも無理だった。

 彼の『帯電』なら、もう少し上手くやれば物を磁力で浮かすぐらいはできそうなのだが。

 

「まぁ上鳴くんすっごいバカだし! 無理じゃないかとは思ってたよ!」

 

「ハッキリ言うなお前ェッ!!!!!」

 

 体育館内に彼の叫び声が響き渡る。芦戸と言い上鳴と言い、頭が良くないと困る個性の人がいかんせん学力が低い。芦戸はセンスで充分補えているが、上鳴は……

 

 もっと単純にさせる必要がある。そこまで考えた俺は彼の前で、ポンと手を叩いた。

 

「そうだ! 上鳴くんの電力で飛べるサポートアイテム作ろうよ!」

 

「おおっ!! 最近、帯電量が130万超え始めたんだっ! それだったらイケるかもっ!!!」

 

 130万以上もあれば、この世界のハイテク技術なサポートアイテムも彼の自家発電で問題なく動かせるだろう。

 

「でも、何にすっかなぁ! バイク型とかにしちゃおっか!?」

 

「大きすぎるんじゃない? それに飛ぶんだから、慣れない乗り物はやめといた方が……」

 

 夢いっぱいに妄想を膨らませる上鳴に、俺は両手を伸ばして抑えさせる。あんまり大掛かりな物注文すると、仮免試験に間に合わなくなる。

 俺は昨日の部屋王決定戦で見た彼のドンキ部屋を思い出して、ある物が置いてあった事に目をつけた。

 

「上鳴くん……確か部屋にさ、スケボー置いてあったよね?」

 

「ああっ! アレかっ!? たまにしかやんねーけど、アリかもなぁ!」

 

 俺の提案に上鳴は片手でフィンガースナップを弾き、大きな声で賛同した。

 

 彼と話す直前に俺と会話をしていた耳朗が、ヒーローコスチュームの脚部に装着している、音を衝撃波にして放つ指向性スピーカーを腕にも装着したいと言っていたのを思い出す。

 

「耳朗ちゃんもサポートアイテム増やしたいって言ってたから、一緒に行ってみたら? 1人だと不安だろうし」

 

「おっ、そうだな! 誘ってみるっ!」

 

 善は急げと言わんばかりに、俺の提案を聞いた上鳴は耳朗の下へと走って行ってしまった。

 本当に誘えるのかどうか不安だったが、彼なら大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

「ケロぉッ!」

 

「梅雨ちゃんも凄い頑張ってるね……!」

 

 石柱から石柱へ、峰田の跳峰田みたいに飛び回りながら舌を使って激しく高速機動をとって着地した蛙吹に、俺は視線を奪われる。俺も刃の伸縮で似た様な事はできるが、瀬呂のテープや彼女の舌を使った動きはどうしてもとれない。

 

「ええ……! 林間合宿でヴィランに会った時は、あっという間に負けちゃったから……!」

 

 カエルみたいに四つ足で着地している蛙吹は、悔しそうに声を絞り出した。その額には麗日よりも大粒の汗が滲んでいる。

 

 

 

「……ねえ、そんなに強かった……?」

 

 

 

 恐る恐る口を開いた俺の問いかけに、彼女は無言で頷いた。

 

「悔しかったわ……『もっと強くならないと、相手になりません』だなんて、言われちゃって……!」

 

 蛙吹はそう言って、地面に当てている手の平を握りしめた。彼女は女子の中で戦闘寄りの個性の持ち主であり、実力は知っての通りである。

 

 いったい何が、そこまでトガちゃんに圧倒されたのか、純粋に気になってしまった。

 

「梅雨ちゃん……嫌じゃなかったら……どんな戦いだったのか、教えてくれないかな……?」

 

「ケロ? 大丈夫よ……そうね……」

 

 彼女は自分と麗日に起こった戦いを教えてくれた。

 最初は史実通り麗日が襲われたのだが、ナイフで切りつけられたのでなく、抱きつかれて彼女の手首に装着されていた注射針を突き刺されたそうだ。

 ソレで一気に貧血まで追い込まれ、フラついた麗日を引き倒した彼女に、今度は蛙吹が舌で拘束しようとした。

 その時に蛙吹と麗日は咄嗟に名前を呼び合ってしまい、彼女に名を知られた。そして彼女も、2人に名前を教えてしまった。

 伸びた舌を飛んで回避され、彼女は今度は蛙吹に襲いかかった。

 正面から迫る彼女にもう一度舌を伸ばそうとした蛙吹だったが、彼女は目の前で自分の姿を麗日に変身させ、動揺した蛙吹に組み付いて腕に注射針を突き刺したそうだ。

 貧血で倒れた蛙吹の目の前で注射針から垂れる血を舐め取り、彼女は外見を今度は蛙吹に変身させ、上記の台詞を吐くと逃げていったそうだ。

 

「私達の事、殺そうと思えば殺せたハズなのに……それをしなかったわ。きっと、爆豪ちゃんを攫うまでの時間稼ぎだったのよ……」

 

「そっか……無事でよかったね……」

 

 彼女の話を聴きながら、体育館内の麗日のいた方を見ていた。家一件以上の重さはあるだろう岩石が、まだ数個浮いている。

 俺との会話では話題になる事はなかったが、きっと彼女も悔しがっているのだろう。

 

「ヴィランに情けをかけられるなんて、あんな悔しい思い……2度としたくないの……! もっと強くならなくっちゃ……!」

 

「……機動力だったら、峰田くんが1番得意だから、聞いてみるといいよ。真面目な話って言えば、峰田くんちゃんと聞いてくれるから……」

 

「そうね……後で話してみるわ……!」

 

「ありがとう、話してくれて……」

 

「いいのよ……私も少し気が楽になったわ。あんな敗北を2度としないためにも……みんなで強くなりましょう……!」

 

 そう言って彼女は再び石柱へと飛び上がって、訓練へと動き出した。

 彼女の勘違いを、俺には止める事ができない。トガちゃんがどうしてそこまで強かったのかも、ハッキリしなかった。

 

 無理してるのはわかっていたが、「ゴメン」とは、言えなかった。

 

 

 

 

 

「俺思うんだけど……葉隠ちゃんの個性って……個性なのかな……?」

 

「うーん、どうなんだろ? 私って産まれた時から、ずーっと透明だったらしいし……」

 

 ジャージ姿では個性の発揮がしづらい彼女は、靴以外脱ぎ捨てた全裸の姿で俺と話をしている。もう挙動や仕草は靴の動きでしか予想できない。

 

 俺はまだ彼女の個性を疑っていた。どちらかと言えば、峰田みたいな異形型の延長線みたいなものだと思っているのだ。

 

「個性が常時発動してるなら、俺や切島くんみたいに綻びが出そうだけど……やっぱ尾白くんと同じタイプって事でいいのかな……?」

 

「相澤先生も『姿が見えないから消すに消せない』って言ってたもんね……」

 

 合宿前の学校での放課後に、峰田が相澤先生に質問していた内容を思い出す。耳朗と蛙吹に袋叩きにされ、ズタ袋に入れられて教室の後ろに逆さ吊りにされていた彼の一部始終も印象的だったが、俺としては話の内容の方が印象的だった。

 

 ちなみに尾白に相澤先生が抹消を発動すると、尻尾が全く動かなくなった。

 

 更に余談だが、俺に抹消を発動させると当然体は刃にできず、刃にしていた腕や足も元に戻ってしまうのだが、体から刃を突き出した場合はソコで止まってしまうのだ。斬撃波は出せなかった。

 I・アイランドでの経験もある今、俺の装具には刃が使えない時のサバイバルナイフが2本装着されている。刃も石で研いだ逸品だが、できれば使う機会がない事を祈っている。

 

「自分以外の物を透明にする事って、できない?」

 

「ソレ、私も思った! でもねー、イメージが湧かないんだよねー! 必殺技はこの体だけでできるようになったけど……」

 

 彼女の透明は光を屈折させて、見えなくしているそうだ。その屈折率を変えて、自分を閃光弾の代わりにする技があるのを俺は知っている。

 だが、やはり自分以外を透明にするには、イメージが足りなすぎる様だし、俺にもどうしたらいいのかはわからなかった。

 

「日本って寒いよ……?」

 

「そうなんだよね〜……ってソレ、三奈ちゃんにも言われたよ〜! やっぱり仲良いねぇ〜♪」

 

 だいぶ前に彼女と話した事ある内容だから、そこまで気にする事はなかったが、俺はそれよりも彼女の姿を見てある提案をしてみる。

 

「待って……髪の毛まで透明なら……その毛で服とか作れない?」

 

「お〜っ、確かに! さっそくサポート会社の人に聞いてみるね!」

 

 全く同じ事をしているヒーローがこの先に登場するのを思い出し、俺は彼女に提案してみた。そして彼女の部屋は、見えないだけで毛だらけなのかもと失礼な事を同時に考えた。

 

「そこら辺に放置したら、一生見つけられなくなりそうだね」

 

「確かにっw! ねえねえ、それよりも昨日の三奈ちゃんと、どこにお出かけするのか約束した?」

 

 そこからは関係のない話が始まってしまったので、早々に切り上げて俺は彼女から逃げた。

 

 

 

 

 

「飯田くんは?」

 

「俺も皆の熱意に押されて、何かできないかと両親にも相談してね……エンジンのチューニングに成功したんだ!」

 

 走り終わって大量のオレンジジュースを吸飲している飯田に、俺はオレンジジュースの缶をひとつ貰った。俺以外にもクラスメイト達が何人か貰っていた。

 

「え、チューニング? ど、どうやるの?」

 

「足のマフラーを引き抜くんだ。無理矢理ね!」

 

 仮免取ってからだいぶ後だった気がするが、アレがチューニングだったのかと朧げな記憶で彼の事を思い返した。

 

「痛くないの?」

 

「痛かったよ! 血も出たしね!」

 

 彼はサラッと言っているが、やっている事は中々スプラッタな光景である。俺も体から刃を出せる手前、あまり気持ち悪くは感じていなかった。

 

 昔、体から伸ばした刃を引っ張ってみた事あるが、アレを引き抜く勇気は出なかった。

 

「ただ……出力が上がった分、今度は冷却が間に合わなくなってね……コスチュームの改良を考えている所なんだ」

 

「飯田くんもサポート科に用あるなら一緒に行こうよ。緑谷くんとか麗日ちゃんとかも一緒に行くから」

 

「そうか! 君は何を改良してもらうんだい?」

 

 そこから先は麗日と同じ様な話が始まり、俺は彼とも約束を漕ぎ着ける事に成功した。

 

 

 

 

 

「峰田くん、君は絶対に大丈夫だよ」

 

「そりゃあそうだけどよっ、技は何個あってもいいからな!」

 

 そう言いながら彼は俺の目の前で、モギモギでジャグリングをし続けている。視線は俺の方を向いているのに、手元は寸分の狂いもなくモギモギを操り続けていた。

 

「そのジャグリングも?」

 

「ああっ! 7個でできるようになってから……ようやくいい感じに完成してきたんだ! きっとビックリするぜっ!」

 

 どうやら、期末試験で見せたのはテスト段階でしかなかったそうだ。次の仮免事件で本領を発揮するらしく、俺はこれ以上は見ない事にした。

 

 こうして久しぶりに俺はクラスメイト達と、雑談混じりに個性の話をする事に成功していた。

 他にも、瀬呂はもっとテープの強化と、射出速度の向上。砂藤はドーピングの持続時間の向上。障子は複製腕から更に枝分かれして一度に出せる複製物を増やしていたり、尾白は相変わらずだが葉隠と個性の事でちょっと話し合ってみてと雑なアドバイス投げたり、常闇はダークシャドウで滑空どころか、飛べるようになっていたり、口田がプレゼントマイク先生が着けている指向性マイクみたいなのを作ろうとか考えていたり、結構色々な話をしていた所で体育館のドアが勢い良く開いた。

 

「そこまでだA組! 今日は午後からB組がココを使わせてもらう予定だ! イレイザー、さっさとどくがいい」

 

「まだ10分弱ある。時間の使い方がなってないな、ブラド」

 

 見上げるぐらいの身長に白髪の短髪。下顎からはみ出ている牙と頬の十字傷に、オールマイトには負けるけど筋肉モリモリのガタイを赤と白のヒーローコスチュームで身を包んだ、B組の担任『ブラドキング』先生だった。

 俺達A組をライバル視しているせいか、相澤先生にもトゲのある言い方をしてくるブラドキング先生だが、ピリピリした雰囲気の2人の先生の後ろから更に俺達へとトゲのある声が聞こえる。

 

「ねえ知ってる? 仮免試験って半数が落ちるんだって。君ら全員落ちてよ!」

 

 どストレートな感情を俺達にぶつけてきた相手は、やはりB組の爆豪枠こと物間だった。その遠慮のない言い様に、緑谷や切島など何人ものクラスメイトが気圧されている。

 

「物間のコスチュームって、あれなの?」

 

「個性が『コピー』だから、『変に奇をてらう必要はないのさ』って言ってた」

 

「てらってねえつもりか……?」

 

 上鳴がチャイナドレスみたいなコスチュームを身につけた拳藤と話をしている中、俺はどちらが上か決着をつけようとヘラヘラ笑っている物間の前まで駆け寄った。ちなみに、彼のコスチュームは黒い燕尾服。まるで西洋のドラキュラみたいで、コウモリが飛び回っていてもおかしくない姿だった。

 

「物間くん、お久しぶり」

 

「相変わらずで何よりだよ。君が帰ってこないと、A組は張り合いがないからね……!」

 

 高笑いを収めた彼はそう言いながら、俺に向かって普通に手を差し出した。

 

「鉄哲達の事、礼を言わせてもらうよ。君がいなかったら、彼等も無事では済まなかっただろうしね」

 

「俺の方こそ、アイツらがいなかったら乗り切れなかった。もう赤点は取らないようにね」

 

 そう言いながら俺が彼の手を握ると、物間は顔を顰めながら歯を見せて笑った。

 

「心配してやったのに平然と毒を吐いてくるね……まあいいさ。個性強化で『ストック』できるようになったから、有り難く使わせてもらうよ」

 

 物間は俺の個性を、合宿の個性強化訓練で使った事がある。斬撃波こそ飛ばせないが、便利な個性だと笑っていたのも覚えている。

 それを承知で俺は彼と握手した。使いこなせるなら使ってみろと挑発しようかと思っていると、そこにB組の明るい声が聞こえた。

 

「切裂ぃ!!!」

 

「切裂っ!」

 

 合宿の事件中は終始一緒だった泡瀬と、初めての実戦でガスヴィランのマスタードを倒せた上、俺も助けてくれた鉄哲がブラドキング先生の前を通って一直線に俺へと走ってくる。

 俺も少し駆け寄って2人に近付いたが、駆け寄ってきた泡瀬の鉢巻の部分を見て言葉を詰まらせる。

 

「泡瀬くん、頭の傷……!」

 

 彼が頭に巻いている格子模様の鉢巻からは、脳無にハンマーで殴られた傷痕が目元へとはみ出ていた。

 それでも彼は笑いながら俺の顔を指差した。

 

「お前よりはマシさっ! あんときはマジで助かったぜ……ありがとなっ!!」

 

「嬉しいぜえっ! お前がいないと……特訓もままならなくってよっ!」

 

「ガスに目覚めてから、俺らも病院には行っていたんだが……今はホッとしているよ」

 

「泡瀬と鉄哲から聞いたぜ? だいぶムチャクチャしたんだって……!」

 

「これから、また全員で頑張っていこうぜぇ……」

 

 そのままB組達とも久しぶりにワチャワチャと騒ぎ始めると、休憩していた訓練していたに関わらず、A組のクラスメイト達も一緒になって混ざり始めて雑談を始めだした。

 

「……ま、茶番も必要か……」

 

「うちのB組とA組が、あんなに仲良く……! ウオオォ〜っ!! 俺は嬉しいぞォっ!!!」

 

「イイわぁ〜っ、あの青臭さっ♪ ホントーにイイワぁ〜〜っ!♪」

 

 先生達にも見守られながら、合宿以来久しぶりに全員集合した1年ヒーロー科に、これ以上ないぐらいの安心感を俺は覚えていた。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 訓練場所も変更して行われた圧縮訓練初日が終わった放課後、俺は自主練のための訓練所には直行せず、自分のコスチュームが入っていたバッグを持って、校舎1階のサポート科の開発工房へと向かった。

 途中で麗日と飯田とも合流して、ヒーローコスチュームのまま俺達3人で、夕方になった陽の差し込む廊下を歩いていた。

 

「なるほど! 自身を浮かす方に注力するのか!」

 

「うんっ! 機動力つければ、職場体験で習った格闘術も、もっと活きるし! 飯田くんは?」

 

「俺は、やはりレシプロのデメリットを軽減したい! 開発工房でラジエーターの改良をお願いするつもりだ」

 

 麗日と飯田が会話をしている後ろで、俺は先生に渡す資料を整理していると、唐突に彼女が疑問を零す。

 

「そいえば、まだ夏休みの真っ只中だけど……他の科って、誰かいるのかな?」

 

「いるよ、絶対」

 

「偉い自信だな? まあ、相澤先生が仰っていたのだから、誰か先生ぐらいは……」

 

 俺の迷いない答えに飯田も自分の考えを話していたが、彼の台詞が言い終わるよりも早く見えてきた開発工房の黒くて重厚な扉の前に、緑色のヒーローコスチュームがよく目立つ、緑谷が立っていた。

 

「あっ、あれ? デクくんだ! いないと思ったら……!」

 

「あっ、廊下を走るな!」

 

 飯田が彼女を止めようとしたが、そんな事では彼女は止まらない。そのまま緑谷を呼びながら、彼女は彼に向かって走り続ける。

 

「デクくんもコス改良?」

 

「あっ、麗日さ───

 

 

 

 

 

 工房の扉を吹き飛ばす爆発で、緑谷が吹っ飛んだ。

 

 

 

 

 

「「うわぁぁぁぁぁっ!!!?」」

 

「イッ……テテテテ……!」

 

「ゲホッ、ゲホッ! お前なぁ……思いついた物何でもかんでも組むんじゃないよ!」

 

 飯田と麗日の悲鳴が上がった目の前で、工房の扉が見えていた黒煙の中から、聞き覚えのある声が2つ聞こえてくる。

 

「フフフフ……失敗は発明の母ですよ、パワーローダー先生……かのトーマス・エジソンがおっしゃってます。作ったモノが計画どおりに機能しないからと言って、ソレがムダになるとは限らない……!」

 

「今、そういう話じゃないんだよ! 一度でいいから話を聞きなさい発目!」

 

 やがて煙が晴れてきたそこには、仰向けで倒れる緑谷の上にダイビングした、体育祭以来となる発目 明の姿が見えた。

 

「あれ? あなたは…………誰ですか?」

 

 俺と騎馬戦した彼女には、緑谷の事などカケラも記憶には残っていないだろう。彼女の乳房に胸板を圧迫され、クソナードを発動している緑谷に俺は駆け寄る。

 

「緑谷くん、立って。今すぐ! 発目ちゃんも!」

 

「うぇ!? うっ、うんっ!」

 

 とりあえず発目と緑谷を起こし、麗かじゃなくなっている麗日も元に戻して、一気に疲れた俺達は改めて彼女に挨拶をしようとする。

 

「突然の爆発、失礼しました! お久しぶりですね、ヒーロー科の〜……え〜…………全員お名前忘れました!」

 

 雄英の制服ではなく、ニッカポッカみたいなダボダボのズボンにタンクトップという少し癖の感じる格好で目の前に立った彼女は、思い切り開き直って答えた。

 

「み、み、み緑、や……いず、いず……」

 

 バグってる緑谷を遮って、飯田が腕をカクカク振りながら前に出る。

 

「飯田 天哉だ!! 体育祭トーナメントにて、君が広告塔に利用した男だ!!!」

 

「発目ちゃん、お久しぶり」

 

「おや、切裂さん。騎馬戦の時はありがとうございました。それでは私、ベイビーの開発で忙しいので」

 

 試合相手だっただろうに飯田すら無視して、俺だけに軽く挨拶した発目はすぐさま回れ右して、工房へと戻ろうとする。そんな自由奔放な彼女を、緑谷が勇気を出して呼び止める。

 

「あっ、ちょっ、あの……コスチューム改良の件、パワーローダー先生に相談があるんだけど!?」

 

「コスチューム改良っ!!? 興味ありますっ!!!」

 

 再度回れ右して、一気に緑谷の顔へと迫った発目だが、その動きは工房の奥から聞こえてきた声で呼び止められる。

 

「発目、寮制になって工房に入り浸るのはいいけど、これ以上荒らしっぱなしのままだと出禁にするぞ。クケケッ」

 

 上裸で作業服のズボンに、腕には大型のグローブと頭にはショベルカーのクローラーの部分をそのまま被ったみたいな姿の男性、期末試験でも見た『掘削ヒーロー《パワーローダー》』先生が工房から姿を現した。

 

「イレイザーヘッドから聞いてる。必殺技に伴う『コス変』の件だろ? 入りな」

 

 ようやくまともに話の通じる人物が現れた事に、俺以外の3人はホッと息を吐いて工房の中へと入った。

 

「うわぁ……!」

 

「おお……っ!」

 

 中の工房内は金属質な床と壁が広がり、大型の機材や、小道具、作業机やらで溢れかえり、まるで秘密基地の中みたいだった。

 俺と緑谷が室内に目を輝かせている中、パワーローダー先生は俺達に向けて片手を広げる。

 

「じゃ、コスチュームの説明書見せて。ケースに同封されてたモノがあるでしょ? 俺、コスチュームの製作ライセンス持ってるから、ソレを見てイジれる所はイジるよ」

 

 先生に指示されて俺達4人が一斉に資料を出すと、先生に続いて発目までもが資料を読み漁っていく。レティクル付きの瞳がキラキラしながら、文章を端から端まで目で追っていた。

 

「小さい改良、修繕なら『こう変更しました』って、デザイン事務所に報告すれば手続きしといてくれるが……大きい改良となると、こちらで申請書作成してデザイン事務所に依頼する形になる」

 

 忘れがちだが、俺達のヒーローコスチュームはココで作っているワケじゃない。パワーローダー先生みたいなプロはいるけど、あくまで学校だし。精々、改造が限度だ。

 

「……で、改良したコスチュームを国に審査してもらって、許可が出たらこちらに戻ってくる。まっ、ウチと提携している事務所は超一流だから、大体3日後ぐらいには戻ってくるよ」

 

「あのっ……! 僕は腕の靱帯への負担を、軽減できないかと思って……そういうのって、可能ですか!?」

 

 緑谷の相談に、パワーローダー先生がパソコンをピコピコと操作しながら答える。

 

「あ〜、緑谷君は拳や指で戦うスタイルだったね。そういう事なら、ちょっとイジればすぐにでも可能だよ」

 

 先生の問題無さげな言動に、緑谷と麗日がひと安心していたが、そんな彼の体をベタベタと触ってサイズを測定している。

 後ろで発目が緑谷達と戯れている間に、俺はパソコンを動かし続けているパワーローダー先生に相談する。

 

「パワーローダー先生、ゴーグルに双眼鏡の機能とかを付けたいんですけど……」

 

「なんだ……お前のはコスチュームじゃなくて、サポートアイテムに近いな」

 

「サポートアイテムっ!」

 

「「うわっ!?」」

 

 まだ緑谷と戯れている途中だったのに、発目は俺とパワーローダー先生の間に顔を突っ込んできた。

 

「ならコチラはどうでしょうか!? 全20種類のセンサーを搭載した全天候対応型のヘルメットゴーグルっ!! 第48子ですっ!!!」

 

 そう言って彼女が見せてきたのは、頭の2倍以上も大きな機材がゴテゴテと取り付けられたヘルメットだ。1番肝心なゴーグルの部分は、まともに顔につけられるサイズだが、このままじゃ重力で首がおかしな事になりそうだ。

 

「ちょっと色々多すぎるかな……デカいし。でもゴーグルの見た目は良いな……コレをベースにしたい……!」

 

 彼女から受け取ったヘルメットゴーグルをマジマジ見ながら、俺はパワーローダー先生に提案を続ける。フレームの色は丁度黒色だし、ゴテゴテした物を取り外せば俺の迷彩服やヘルメットにも似合う、頑丈そうなゴーグルになりそうだ。

 

「わかった、欲しい機能は双眼鏡みたいなズーム機能だったな……だがゴーグル自体は重くなるし、電子制御になるからどうしてもバッテリーが必要になる。ヘルメットだけで完結させたら、重量でバランス悪くなるかもしんねえぞ?」

 

「バッテリーはヘルメットの後頭部側に付けて、前後で重量を揃えて安定させます。重いのは……鍛えて我慢します」

 

 俺の解決案に、パワーローダー先生は頭に被っているクローラーの隙間から目を輝かせて答えた。

 

「ケケケッ、流石はヒーロー科だねえ……嫌いじゃないぜ。他に何の機能が欲しい?」

 

「……出来れば微光暗視装置と赤外線暗視装置を……」

 

 具体例は決まってないが、もしかしたら役に立つかもしれない装備を想像した俺は、思い切ってパワーローダー先生に注文してみる。

 すると、先生のパソコンを動かしていた手が少しだけ遅くなる。

 

「おっと軍用規格となると、ココだけじゃ無理だな。発目のそのガラクタと、お前の資料を事務所に送ってやる。まあ、既製品の注文みたいなモノだから、時間はかからないさ。申請書も俺が書いてやるよ、つか書けたわ」

 

 俺は頭を下げようとして、忘れるところだった注文を思い出した。

 

「ありがとうござ……あっ、あと! ゴーグルのゴムバンドやめて、ヘルメットと合体できる仕組みにしたいんです。結構、動いてて外れる時あるんで……」

 

「ソレは大した改造じゃねえな。ゴーグルが完成したら、後は俺が取り付けてやる」

 

 こうして、パワーローダー先生とのやり取りを終え、無事に俺のゴーグルの注文は終わった。いつの間にか発目は緑谷と飯田に、自分の開発したサポートアイテムを勧めてカオスな事になっていたが、2人を犠牲に俺は話を進めていく。

 

 パワーローダー先生も彼女の事で謝りながら、縁は大切にしておいた方が良いと話をしていた。

 

 たぶん……彼女もこの物語に欠かせない人物であるのだろう。緑谷にとっては、この先の事を踏まえても。

 

 俺の個性で彼女に協力を求める機会が、果たして訪れるのかはわからなかったが、名前を覚えられた以上は何かしてやりたいとは思ってしまった。

 

 さて、次は麗日だ。

 

「先生っ、私のコスチューム改良なんですけど……」

 

「どれどれ……おや、こりゃまたずいぶんと大掛かりな改良だな……! 無重力化させた物体の制御と、自身の無重力状態で機動力を発揮させるための機能か……なるほど」

 

 彼女のヒーローコスチュームの説明書と、俺と麗日で作成した改造要望の資料をパワーローダー先生に渡す。

 ソレを見て唸っている先生に、俺と麗日は言葉を付け足していく。

 

「ワイヤーは無重力にした物を引き寄せる物なので、細いヤツでいいんです!」

 

「先端は吸盤かアンカーのどちらか。アタッチメントで変更できれば、なお良しです」

 

「ホバーも腕と足に、空気を溜めて噴射できる仕組みにしてください!」

 

「できれば、腕と足だけで完結する設計にしてほしいです」

 

「なんでお前まで話に混じってんだ?」

 

 麗日のヒーローコスチュームの話をしているのに、話に混ざっている俺を見てきたパワーローダー先生へ、俺と麗日は声を揃える。

 

「「2人で話してたので……」」

 

「そうか…………ええと、空気圧の噴射で移動するのか……確かに、コレなら大型化する必要はねえが……ワイヤー含めて両手足に仕込むとなると、今のスペースだけじゃ少し足りねえな。ジャマにならない部分を使うとしたら……背中側も少し使う事になるぜ?」

 

「どうする? 君に任せるよ」

 

「お願いします! あと酔い止めのツボを押さえる機能も……!」

 

「よしわかった! 少し時間がかかりそうだが、それでも4〜5日ぐらいだろうよ。コスは持ってっちまうから、しばらくは着れなくなるぞ」

 

「はいっ!」

 

 麗日の元気な返事を最後に、彼女のヒーローコスチュームの改良申請も無事に終わった。

 ようやく発目から解放された飯田も新しいラジエーターを注文し、緑谷も戯れている最中に足で戦う戦闘スタイルを思いつき、発目に鉄板の入ったサポートアイテムのブーツを注文していた。

 

 それから先生の言う通り、3日後に改良を終えたゴーグルが学校に届いたとサポート科の事務所から連絡を受けたので、授業中に回収するなり早速パワーローダー先生の所に持っていって、俺のヘルメットと合体してもらった。

 ゴーグルの接続部は横から見るとN字型みたいで、ガチャンと上げても下ろしても、接眼側が自分に向いてる仕組みだ。コレなら砂埃も入らない。

 バッテリーは、ヘルメットに元々空いていた隙間にコードを通して、後頭部のバッテリーへと繋がっている。線は2本伸びてるから、片方の線が切られても稼働する。

 ゴーグル本体は取り外し可能だ。ゴーグル側にも小さな蓄電池が付いてるから、少しの間だけなら外しても機能するようになっている。装具のポーチには新しく、予備のバッテリーケースが追加された。

 メインとなるゴーグルの機能は、主に索敵能力不足を補うための双眼鏡機能。見たい物に勝手にピントが合ってくれる高性能仕様だ。微光暗視装置と熱源暗視装置に加え、写真と動画撮影機能までオマケで取り付けてくれた。蒸れないための通気口もついてあるし、水中に入ったら密閉する機能もある。コレだけでもおいくら万円余裕で飛び越えそうである。

 ただ、それでも非常時に備えて普通の双眼鏡は持つし、まだ慣れない部分はある。次の仮免試験で使えるかどうかはわからないが、体育祭以来の久しぶりに発目にも会えた。俺の個性だとコスチュームはある意味完結してるし、サポートアイテム程度でしかお世話にならないと思うが、その機会が訪れる事を期待したい。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 こうしてパワーローダー先生と発目の協力も受けながら、俺達クラスメイトは圧縮訓練の日々を過ごした。

 緑谷は原作通り、足にアイアンソールのブーツを装着して、蹴り主体の戦闘スタイルに変えた。それでも彼にはもうエアフォースがあるから、腕も同じぐらい酷使する事になっていたが。

 気になっていた爆豪も少しずつではあるが、あの速い爆破を制御し始めていた。まともに制御もできなかったから精密性を優先して鍛えていたそうだが、次は規模を大きくするべく体育館の外での訓練を増やしていた。

 

 そして、1番大きく変わった麗日は……

 

「ひゃあぁぁぁ〜〜っ!!」

 

 

 

 体育館の中に悲鳴を響き渡らせていた。

 

 

 

 新しいパツパツスーツのヒーローコスチュームで屋内の天井近く、空中で乱回転しながら飛び回っている麗日の姿を俺と緑谷は目にした。

 

「う、麗日さん……!?」

 

 ピンクと黒のツートンカラーに、ガラスのバイザーが付いたヘッドセットはいつもの事だが、少し腕と足回りが改造された彼女の姿を見て、緑谷は果たして何を思っただろうか、両手足からワイヤーを伸ばし、空気を噴射して移動する彼女は、グラントリノ瓜二つだっただろう。

 

 天井や岩壁をポンポン弾きながら地面に戻ってきた麗日に、俺と緑谷が駆け寄る。

 

「大丈夫?!」

 

「えへへっ、だいぶムズいわぁ〜!」

 

 無重力状態なので、質量に当たるとジェット噴射でも簡単に押し負けてしまうのだろう。そこまで痛そうにはしていなかったが、明らかに制御は難しそうであった。

 でも、自分を浮かす事にほとんど酔いを覚えていないのは、圧縮訓練の成果が出ているのだと思いたかった。

 

「う、麗日さんっ! 僕、前にその動きに近い事できるヒーローと会った事あるんだ! 待っててっ、今ノート持ってくるからっ!!!」

 

「あっ、デクくんっ!? 行っちゃった……」

 

「まっ、緑谷くんなら大丈夫だよ。それより、ワイヤーの方は凄かったね……!」

 

「うんっ! イメージトレーニング通りって言うか、思ってたより簡単っ!」

 

 期末試験というかなり早い段階で話を温められたせいか、麗日は思ったよりも早く両手足のワイヤーを使いこなしていた。

 

「無重力状態って事、あんま想像できんかったけど……コッチも使いこなせれば、スゴく移動が楽になるかもしれんっ!」

 

 確かに下から見ていても安定性は感じられなかったが、まだ始まったばかりである。彼女が楽しそうに笑っているのを見て、俺は安心感を覚えていた。

 彼女なら、きっと使いこなせると。

 

「Plus Ultraだよ。頑張って……!」

 

「うんっ!」

 

 俺の声援にも、彼女は肉球のついた親指でグッドサインを見せた。

 

 

 

 俺にできるのは、ココまでだ。

 

 

 

 あとは、彼女を信じるしかない。

 

 

 

 いつか、彼女が彼の隣に並べる様に。

 

 

 

 追いかけるだけの存在に、ならない様に。

 

 

 

 

 

 彼が苦しい時、彼のヒーローに、なれるように。

 

 

 

 

 

 休養も仮免試験前日までロクになかった圧縮訓練。あっという間に俺達の10日間は通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

 次回『仮免1次試験』

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