切裂ヤイバの献身   作:monmo

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UAが10万を越えました、ありがとうございます。

そして、今日からいよいよアニメがファイナルシーズンです!

本当は始まる前に全部描き終わらせたかったんですけど、さすがに無理でしたね。

史実のデクくんの勇姿を見届けながら、応援お願いします。


第二十七話

 

 

 

 

 

 ターゲットの機械の声に誘導され、スタジアムの端に設置された箱型の控え室に入ると、そこには先客がいた。

 

「おぉっ!! 切裂さんじゃないッスか!!!!!」

 

「えっ!?」

 

 俺の次に1次を突破していた夜嵐だった。素直にスタジアム内を歩いてきた俺と違って、たぶん彼は個性で飛んできたんだろう。士傑の学生帽はそのままで、左腕だけやたらゴツいスチームパンクっぽいコスチュームが格好良い。本人のデカい体格と合わさって、よく似合っている。ついでに頭の流血は止まっていた。

 そんな彼に、ひと言も教えていないハズの名前を呼ばれ、動揺する俺の前までバタバタと駆け寄られて両手を握られると、そのまま腕を上下にブンブンと振り回された。

 

「向こうにターゲット外す機械とボールのポーチ返す場所あるんで、先に行くと良いッス!!!」

 

「あぁあぁありがとうっ?」

 

 声と体を揺らされながら返事をして、言われた通りに奥へと移動した俺は鍵みたいな機械で体のくっ付いていたターゲットを外し、ボールが入っていたポーチと一緒に棚へと返納する。

 そして部屋のあちこちに設置されたテーブルの上に並んだ、おにぎりやら骨つき肉やらを取り皿で適当に回収して、再び夜嵐の前へと戻ってきた。彼のそばのテーブルの上にはうどんのお椀が積まれ、水滴の残るコップが置いてあるし、顔をよく見ると口元が食べカスだらけだった。

 

「俺『夜嵐 イナサ』っ! ヒーロー名は『レップウ』ッス!! よろしくッス!!!」

 

 改めて元気良く挨拶してくれた夜嵐に、俺は首をかしげるばかりだった。

 

「……どうして、俺の事……?」

 

 見ての通り、迷彩服とフェイスマスクとヘルメットで全身隠しているコスチュームの俺は、さっき制服で出会ったばかりの夜嵐が見てわかるとは思えない。体育祭では素顔を晒していたとはいえ、なんでそんなに親しい素振りを俺に見せてくれるのか。

 そんな俺の疑問を、彼はテンション高い口振りで解消していく。

 

「君の事は『保須事件』のニュースで知ってるッス! 雄英高校1年A組『切裂 刃』ッ!! ヒーロー名『イレギュラーヒーロー《ブレイズ》』ッス!!!!!」

 

「ああ……!」

 

 普段から濃厚すぎる日々を送っていた俺の中では、すっかり過去の出来事になっていた。離れているとは言え俺と峰田の活躍は、関西にまで知れ渡っているみたいだ。

 

「切裂さんと峰田さんが子供を守りながらヴィランと戦う姿に、俺は猛烈に感動したッス!!! 肉倉先輩も『真のヒーローに値する勇姿である』と感動していたッス!!!」

 

「そ、そっか……ありがと……」

 

 彼だけではなく肉倉先輩まで見ていたのかと妙に納得しながら、俺はヘルメットを外して迷彩服に顎紐を引っ掛けると、フェイスマスクも脱いで中へと入れた。

 今度、ヘルメットを肩に接続して固定できる様に改良してもらうと考えている中、夜嵐の口は止まらない。

 

「それにッ、君の事は体育祭でも見ていたッス! 切島さんとの熱過ぎる拳と拳のぶつかり合いッ!!! くゥ〜〜〜〜〜ッ、見ていて身体中の血がたぎったッスッ!!!!!」

 

「ああ〜、アレも凄かったな〜……」

 

 両腕を握りしめて震える夜嵐に、まるで他人事みたいに相槌を打ちながら、俺は取った食事にガッつく。まだちょっとお昼には早いのだが、食べといて損はない。

 

「1次試験も俺が1番乗りになってやると思ったんスけど……まさか先を越されるとは思ってなかったッス!!! やっぱり君はスゴいッスッ!!!!」

 

 俺が返事を返す隙もないぐらい話を続けてくる夜嵐は、まさにベタ褒め状態だった。

 

「そういえば、切裂さんも1人で入ってきたッスけど……俺とおんなじで単独行動してたんッスか?」

 

「うん。夜嵐くんみたいに範囲攻撃得意なヤツ何人かでバラバラに散って他校からの狙いを分散させてから……俺達が一気に制圧。それで頭数減らしてから、残りのチームで動いてるクラスメイト達が合格する作戦だよ。だから……もうすぐ誰か来ると思う」

 

「クラス全員で協力しているんスねっ!!! そんだけ熱い信頼関係で結ばれていて……やっぱ雄英はスゴいッスっ!!!!」

 

 もしも彼が雄英に通っていたら俺やクラスメイト達とも違和感なく馴染めた関係になれたのかもしれない。そんな事を考えながら夜嵐と話をしていると、俺の言った通りに控え室の自動ドアが開いた。

 

「ッ!? チッ、遅かったか……ッ!」

 

 入ってきたのは爆豪だった。まだ俺と夜嵐の2人しかいないガラガラの控え室の中、彼の視線はすぐ俺を見つけて舌打ちをする。

 

「おおっ! 君も雄英の生徒じゃないッスかっ!!!!!」

 

「黙れハゲマントッ!」

 

 俺に続いて入ってきた雄英生徒を見て、夜嵐の更にテンションの上がった声が彼にかけられるも、苛立ちを見せた爆豪から吠えられ、彼は表情はそのままに怯んだ。

 

「爆豪くん。奥にタゲ外す機械と、ボール集める所あるから、先行っといで」

 

「フンッ!」

 

 夜嵐と全く同じ内容を言いながら、俺は彼に向かうべき場所を指差した。

 ズカズカと控え室を歩いて奥へと進む彼に対し、声をかけた体勢のまま固まっていた夜嵐に俺が向き直る。

 

「ごめんね。いつもあんな感じなんだ」

 

「いいッス! ちょっとビックリしたっスけど……体育祭で見た通りっ、彼も燃え上がるぐらいの熱い男ッス!!!」

 

「うん。凄いよ、爆豪くんは……!」

 

「そう言えばッ! 爆豪さんも切裂さんと体育祭で戦っていたッスねっ!!! あの血で血を洗う試合も白熱して大好きッスッ!!!!!」

 

「勝手に俺の話で盛り上がんじゃねえクソ共ッ!」

 

 部屋の遠くでキレ散らかしながらも、俺と夜嵐の立つテーブルに戻ってきた爆豪は、取り皿の乗ったトレーを置いてきた。トレーの上の皿には真っ赤な色した骨付き肉に、お椀サイズの麻婆豆腐丼。付け合わせでチョリソーやキムチ。辛そうなものばかりである。

 

「そいえば爆豪くん、コスチューム少し変えた?」

 

 彼の元々のコスチュームは、腕周りが手榴弾型の小手意外丸出しだったハズだが、その腕をサウナスーツみたいな黒のインナーで覆い隠して、首周りもタートルネックみたいなヤツで肌の露出を抑えている。小手もひと回り小さくなっただろうか、ずいぶんとスッキリした印象を受けた。

 

「熱を籠もらせて手汗を手早く補充するためだ。試作だがな……ッ!」

 

 取ってきた食事にガッつきながら、爆豪は俺の質問に答えてくれた。

 

「テメェの言ってた『クラスター』も、まだ完璧には程遠いッ…………課題ばっか残りやがる……ッ!」

 

「この試験中にまで自分の問題点をまとめるなんて……ッ、表彰式で見た通りっ、さすがは完璧を求める男ッスッ!!!!」

 

 余程あの技を完成させるのを急いでいるのか、夜嵐の過去をほじくり返す台詞にも構わおうとしない彼からは、どこか焦燥感すら感じていた。

 そんな事を話していると、次に自動ドアが開いて入ってきたのは轟だった。

 

「切裂、爆豪」

 

「轟くん……!」

 

「フンッ!」

 

「………………」

 

 彼はまだ3人だけの俺達を見つけて駆け寄ってくる。ただ俺と爆豪の時と違い、夜嵐は彼に声をかけようとはしなかった。

 

「お前がビルを切ったのは見えたから、そのタイミングで合わせた。結構な人数、巻き込めたと思う」

 

「充分だよ轟くん。あとは峰田くんと、緑谷くんがどれだけ頑張れるか……!」

 

「みんな頑張るさ」

 

「そうだね……!」

 

 まるで全員の合格を確信的に話す轟を見て、さっきまで祈っていた俺もなんだか大丈夫な気がしてきた。

 

「半分野郎、向こうにボールとタゲ返す場所あるから先行けッ」

 

「わかった」

 

 骨付き肉の骨を咥えたまま喋る爆豪の指示で、部屋の奥へと歩いていった轟がタゲとボールを返納して戻ってくる。彼が途中のテーブルから取って持ってきたトレーの上には、かけ蕎麦の入った朱色のお椀がぎゅうぎゅう詰めになって乗っていた。

 

「テメェは自分の分だけ何個同じの持ってくるつもりだッ!!!」

 

「悪い。戻してくる」

 

「戻すなッ! マナーの悪いッ!!」

 

「ヤベッ! 俺もやっちまったッス!!!」

 

 うどんの椀を6〜7個ぐらい重ねている夜嵐が頭押さえて慌てふためいていたが、まだまだ量はあるから怒られる事はないだろう。

 そんなやりとりをしていると、再び自動ドアが開いて他校の生徒が何人か入ってくる。そしてその集団から少し遅れて閉じようとした自動ドアに飛び込んできたのは、峰田だった。

 彼はすぐ近くのテーブルにたむろっていた俺と轟と爆豪を見て、大きく息を漏らした。

 

「あ〜っ、やっぱりこん中じゃオイラが最後じゃんか!」

 

「おおっ! 君は峰田さんッスねっ!!!」

 

「うわっ!? オマエ、士傑のっ!!!」

 

 なぜか一緒になって集まっている夜嵐に驚きながらも嬉しそうに駆け寄ってくる峰田に、轟がかけ蕎麦の椀を片手で持ちながら控え室の奥を彼に向かって指差す。

 

「峰田。奥にターゲットを外す機械があるから、外してもらえ。ボールのポーチを返す場所も、同じ所にある」

 

「へへっ、サンキュ! あとっ、メシ取るの手伝ってくれよ!」

 

 そのまま俺達に手を振りながら控え室の奥へと走っていった峰田。テーブルが彼の身長に合っていないので、しばらくして戻ってきた彼を俺が持ち上げ、彼の指差す欲しがっている物を轟と一緒に取った。あんまりお腹空いてないのか、俺の取った物と似たようなレパートリーを少なくした感じだ。

 

「オイラ達の作戦、上手くいくといいな……!」

 

「そうだね……でも、緑谷くん達なら大丈夫だと思う……!」

 

 おにぎりを頬張る峰田と一緒に、控え室の奥一面に設置された大型モニターに映る、半壊したスタジアムのフィールドを見守る。

 

「フンッ! やられるワケがねえ……ッ!」

 

「他校も何人か入ってきたし、もう合格してココを目指してる途中だろ」

 

「スゴい信頼ッスみなさん……っ! でも、俺達士傑も負けてないッス!」

 

 俺達の熱意に対抗しようとする夜嵐も一緒になってモニターの出入り口を交互に見ていると、次に自動ドアが開いて入ってきたのは切島だった。

 

「おーす、おまえらっ! 爆豪も無事かッ!」

 

「ナメんなクソ髪ぃッ!」

 

「おおっ! 君も体育祭で切裂さんと戦った人っ!!!!」

 

 爆豪との試合を見ているなら、俺と切島の試合も見ているのだろう。夜嵐はすぐに切島に向かって声をかけた。

 

「おおっ! 士傑の熱い人っ!」

 

「『熱い人』ッスか……! 嬉しいッス!!!」

 

 そのまま彼と切島は、自己紹介も添えて仲良く話を始める。切島の性格上、夜嵐との相性はとても良さそうだ。

 

「切島っ! 奥にタゲ外すヤツとボール返す場所あるから先行けよっ」

 

「おうよっ!」

 

 峰田に言われて切島が部屋の奥へと走っていった直後、彼と少し遅れて自動ドアが開いて入ってきたのは芦戸だった。

 

「あっ、ヤイバっ! 遠くから見えたよ! 凄かったっ!」

 

 入ってすぐ俺を見つけて駆け寄ってきた芦戸は、両手を上げて俺とハイタッチしてきた。

 

「君は切裂さんと一緒だった生徒ッスね! 彼女ッスか!?」

 

「へえっっっ!!?」

 

 夜嵐の予想外なひと言に芦戸は頭から酸の蒸気を吹き上がらせ、俺を含めて周りも思わず言葉を詰まらせた。

 

「あっ、いやそんなっ、別に……っ!」

 

「夜嵐くん、違うよ。あいてッ!?」

 

 俺が夜嵐に否定すると、しどろもどろだった彼女にいきなり脇腹をつねられた。

 

「そんなハッキリ言わなくていーでしょー!」

 

 俺にそんな言葉を耳元で叫びながら一気に機嫌を悪くさせた芦戸に、轟が首をかしげる。

 

「? ハッキリ言わなきゃ、伝わらねえだろ?」

 

「そーじゃなくて!」

 

「彼女じゃないんッスか……でも、凄く仲良いんスねッ! 俺、女友達いないんでっ、羨ましいッス!!!」

 

「そうっ、その通りっ! 夜嵐クン、話がわかるじゃな〜い!」

 

 相変わらずな夜嵐の言葉に少しだけ機嫌を戻してくれた芦戸が俺に腕を組んできたので、そのまま俺は彼女に控え室の奥を指差した。

 

「芦戸ちゃん、奥にターゲット外す機械とボール集める所あるから、先に行っておいで」

 

「そうそう! 切島もいるぜっ、今さっき奥に行ったばっかだ!」

 

「うんっ! すぐ戻ってくる!」

 

 彼女も彼の後を追うように部屋の奥へと走っていくと、足元の峰田が大きく息を吐いた。

 

「切裂ぃ〜………………お前、女の肌の色にコダワリとかないよな……?」

 

「え、何の話?」

 

「なんでも……」

 

 随分前、それこそ中学時代にまで遡る程の話の内容に、俺は言葉を詰まらせるだけだった。

 

「くだらねえ……ッ」

 

 爆豪もそんな会話に混ざる気もなく骨付き肉を齧ってモニターの様子を見ていると、自動ドアが開いて何人か受験者が入ってきたのだけ確認した。

 そうしている内にタゲとボールを返した2人が戻ってくる。

 

「お待たせ!」

 

「さっすがは切裂達だぜっ! ド派手にやったなぁ!!」

 

 そう言いながらテーブルに立ち並ぶ切島の持つ取り皿には肉類がありったけ盛られ、芦戸の持つトレーには納豆とオクラが入った丼が乗っていた。

 

「お前らも大丈夫だったみてえだな」

 

「2人ともどうやって勝ったの?」

 

「俺は爆豪がブッ壊した高架橋の下にいたからな! おびき寄せてからの『アンブレイカブル』で俺以外気絶した所をラクショーよ!!」

 

「私は『アシッドマン』からの『ヒュドラ』で一方的にボールくっつけてラクショーよ!!」

 

 俺と轟がテンションの高い2人の話を聞いて穏やかに笑っていると、次に自動ドアが開いて聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

「ウェ〜〜〜イ……っ!」

 

「ブッフフフw……ホラ、ちゃんと歩いてっw!」

 

 アホになったままスケボーを抱きしめている上鳴を、耳朗が腕を掴んで更に耳たぶのイヤホンジャックで彼の首を引っ張りながら入ってきたのだ。

 

「え!?」

 

「上鳴くん?!」

 

「何があったんだ?」

 

 轟の疑問に俺達の前までやってきた耳朗が、彼の腕を引いて笑いながら話をし始めた。

 

「コイツ張り切りすぎて、電力全部使っちゃったのw! ウチがいなかったらホントにヤバかったんだから!」

 

 受験者を動けなくしてからボール当てなくてはならないのに、アホになった上鳴なんて無防備もいい所だ。耳朗が一緒だったから気合いが入り過ぎたのだろうか。

 彼女が自分から上鳴についていこうとしていたから心配はしていなかったが、本当に良かった。

 

「向こうにターゲット外す機械あるよ! ボールのポーチ返す場所もあるから!」

 

「ありがとっ! ホラっ上鳴っw!」

 

「ウヘヘ〜〜〜イっ!」

 

「ちょっと手伝ってくるよっ、おーい大丈夫かー?」

 

 切島に肩を担がれて少し嬉しそうな様子の上鳴を俺達で見送っていくと、次に尾白と葉隠が一緒に自動ドアから入ってきた。

 

「あっ、切裂くん! あの騒がしい士傑の人も!」

 

「みんなお待たせ」

 

「アレ? オマエら別々の方向に行かなかったか?」

 

 峰田の疑問に尾白は髪の毛を掻きながら単説に答える。

 

「ココに来る途中で偶然合流したんだよ」

 

「ねー!」

 

 この、ほぼ全裸状態の葉隠をよく見つけられたものだとは思ったが、彼女から声をかけたのなら納得した。

 そんな話に続いて、自動ドアから今度は常闇が入ってきた。

 

「待たせたな」

 

「おつかれ常闇くん」

 

「ラクショーダッタゼ !!! 」

 

 腹から小さく出ているダークシャドウにも手を振っていると、常闇は真っ直ぐ俺の前へと歩いてきた。

 

「お前の言う通り、ダークシャドウの弱点を補うのではなく、飛ぶ方向性に特訓の舵を切ったのは正解だった。『深淵闇躯(ブラックアンク)』も決して弱くはないが……感謝する」

 

「いいって、今度乗せてよ」

 

「イイゼ、オモシレーゾ !!! 」

 

「君も飛べるんスね! 俺と同じッス!!」

 

「ああ。飛べるというのは、いいものだ……!」

 

 夜嵐とも打ち解けながら、3人はタゲとボールの返納をしに奥へと歩き出す。そこに入れ違いで上鳴と耳朗、あと切島が戻ってきた。

 

「うう〜、コイツがあんなに電力食うとは思わなかったぜぇ……!」

 

「だからウチは『持ってくんな』って言ったじゃん! どうせ調子乗って痛い目見るって思ったんだから!」

 

「でもっ、そのスケボー空飛べんだろ!? 俺だって持ってきたいって思うけどなっ!」

 

 口元に充電器に繋がったケーブル咥える上鳴が、耳朗と切島に挟まれていた。アホはすっかり戻っていたが、隣の耳朗にくどくど説教を貰ってげんなりしている。

 

「単独組はこれで全員か」

 

「緑谷……委員長……頑張れよ……!」

 

 轟の言う通り、バラバラに散った物は全員合流した。あとは峰田が祈っている通り、緑谷達連携組だけである。

 しばらくしてタゲとボールを返納した尾白と葉隠とも合流し、夜嵐と一緒にテーブルを囲みながら大型モニターを眺めていると、画面が合格者人数と残りの席を示す一覧が表示された。

 

「しっかしよお、毎年合格者5割って決まってたのに、向こうもよくいきなりそんな変更したよな?」

 

「確かにそうだよね。俺達から反発されるのも、わかってるみたいだったし」

 

 画面を見上げる切島の素朴な疑問に、バナナを食べながら同調する尾白に答えたのは、爆豪の後ろに立っていたクラスメイトじゃない生徒だった。

 

 

 

 

 

「これは公安委員会による啓示である」

 

 

 

 

 

「うおぉっ!!?」

 

「肉倉先輩ッ!?」

 

 その聞こえた声に、夜嵐と並んで俺も驚いた。

 

 マウントレディみたいな目出しのアイマスクを着け、黒い学ランの上から真っ黒なエプロンみたいなヒーローコスチュームを纏った肉倉先輩が、控え室の角にまで届くぐらいの声を響かせた。

 

「俺の後ろに立つんじゃねえッ、細目野郎ッ!」

 

「肉倉 精児であるッ! 貴様少しは目上の者に対する態度を改めよッ!」

 

「やめろ爆豪っ! 正論だっ!」

 

 眉間に青筋を立てながら爆豪を見下す先輩と、それに対して威嚇を止めない彼を切島が押さえ込む。

 自分の口調を乱された事に、肉倉先輩はゴホンと咳き込んでみせた。

 

「オールマイトが引退し時代は節目、本来であればヒーローは増員して然るべきにも関わらず、仮免試験異例となる少数採用。コレらが示唆するは有象無象の淘汰。ヒーローを名乗る只者が憚るのを抑止し、ヒーローという職をより高次のモノにする選別が始まったと推察する。本来なら私も賛助したく選別に殉ずるべきだが……『雄英潰し』などと栄誉に値しない功績を狙った只者は貴様等によって概ね淘汰された」

 

「相変わらず何言ってんだか全然わかんねぇ……」

 

「上鳴、アンタもう少し勉強しよ?」

 

「先輩も合格早かったですね」

 

 肉倉先輩の個性は強力だ。攻撃範囲の自由度と拘束力に加えて、何よりも初見殺し。史実なら試験そっちのけで無名の受験者達を狩り回っていた上、爆豪や切島すら倒してみせた人だ。真面目にやればこの人も1人だけで、なんとかなるのだ。

 2次試験だってこの人なら簡単だろう。

 

「てっか……士傑も全員合格してやがる……!」

 

「やっぱり、雄英と肩を並べるだけの事はあるね」

 

 話を聞きながら辺りを見渡していた峰田が、士傑の毛玉みたいな生徒を筆頭に残りの生徒を見つけて息を呑んだ。尾白も彼に同調しながら、バナナをねだってきた葉隠に房から外して1本渡す。

 肉倉先輩は長々と試験内容から察する公安委員会の真意を語ってみせると、最後は夜嵐に向き直った。

 

「イナサ、貴様の個性が単対多による圧倒的優位性を持つのは我々全員が承知している。次から離脱する際は報告を忘れるな」

 

「はいっ! すんませんっ!!!」

 

 飯田みたいな90°綺麗に腰が折り曲がった謝罪を見せる夜嵐に、肉倉先輩もそれ以上責める事はなく俺達のテーブルとはすぐ近くのテーブルに戻っていく。

 それに変わって、今度は士傑の委員長かリーダーなのだろう、学生帽を被った全身薄黄色の毛玉みたいな先輩がやってきた。

 

「君が切裂君だね? 士傑高校2年1組委員長『毛原(もうら) 長昌(ながまさ)だ』

 

「は、はい……」

 

 頭の部分から眼球だけ確認できる先輩と視線を合わせて一応手を出したが、腕まで毛だらけどころか毛そのものなので手がどこなのかわからない。

 ポフッと柔らかいモフモフの腕が俺の指抜きグローブ越しの手に触れる。

 

「肉倉は元々激情家で自分の価値基準を押し付ける節があってね、何かと有名な君に強く影響をされているのだよ。気を悪くしないでやってくれ」

 

 悪い影響ではないと思うからね、と更に言葉を付け足し、毛原先輩は俺達雄英のクラスメイトを見渡しながら言葉を続けた。

 

「そこにいるイナサが君達と打ち解けている様に、雄英とは良い関係を築き上げていきたい。2次試験も、お互い頑張ろう。それでは」

 

「良い関係ね……」

 

「良い関係……」

 

「つか、髪長っ」

 

「あの人が委員長なの?」

 

「そうッス! 士傑の委員長は成績とか見て教師が指名するんでっ! その実力はお墨付きッス!!」

 

「へえ〜!」

 

「切裂もすっかり有名人だなっ」

 

「ヤイバっ、どんな感触だった?」

 

 周りのクラスメイト達に毛の感触の事を聞かれながら、俺の視線の先で毛原先輩が戻っていった数分後、控え室の自動ドアが開くと同時に俺達が待ちに待っていた、緑谷達全員がゾロゾロと入ってきた。

 

「おっ、緑谷ぁ!!!」

 

「あ、峰田くんっ! かっちゃん、切裂くんもっ!!」

 

「委員長っ!」

 

「瀬呂っ、砂藤!!」

 

「おおっ! お前らも全員無事だったか!!」

 

「梅雨ちゃん!」

 

「麗日っ、ヤオモモも〜!」

 

「轟さん!」

 

「口田くんと障子くんもっ!」

 

「あれっ……って事は……!!!」

 

 峰田が俺達を順番に指差して人数を数えようとしたが、それよりも早く気付いた切島達が騒ぎ始めた。

 

 コレで雄英は20人全員合格だ。

 

 

 

「「「「「「「「「「よっしゃあーーーーッ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

「ハッハーっ!」

 

「雄英全員1次通っちゃった!」

 

「スゲえ! こんなん、スゲえよっ!」

 

「ケッ、ケロ〜!」

 

「よかった……!」

 

「ああ……!」

 

「喜ぶのはまだ早いぞ君達! 俺達が目指すのは仮免!! 2次試験も油断せずにいこうっ!!!」

 

「おーよっ!」

 

「いいぞ委員長〜!」

 

 飯田が喜び過ぎている俺達を手早く纏め、入ってきた全員でタゲとボールの返納に向かってから、思い思いの料理を持ってテーブルに集まってくる。

 

「いや〜っ、雄英の皆さんも全員合格してよかったッスね!!」

 

「君は士傑の勢いだけの人っ!」

 

「ほかの人達は向こうのテーブルですけど?」

 

 飯田と麗日が疑問を投じると、夜嵐は笑いながら答えた。

 

「もっと皆さんと話していたいんッス! こんな機会滅多にないんスからっ!」

 

「確かに、他の学校との交流も普段では体験できないからな!」

 

「ケロ……羽生子ちゃん、元気かしら……」

 

「つか、傑物の先輩達見てねえんだけど……」

 

「あっ、来たよっ!」

 

 葉隠の指差す先で開かれた自動ドアから入ってきたのは、切島が心配を零した傑物学園の先輩達8人だった。俺もジョーク先生もひと安心であるが、少しボロボロだったのが目立った。

 

「真堂先輩、大丈夫ですか?」

 

「最後の地震、先輩のですよね? ココまで響いてきましたよ」

 

「ハハハ……言っただろう、胸を借りるってね! 君達の勢いに乗させてもらったよ……!」

 

「ヨーくん、無理し過ぎだよ。もう……!」

 

 黒髪を少し土埃に塗れさせた先輩は緑谷と俺に駆け寄られても笑っていたが、内心どう思ってるのかは彼のみぞ知る所である。隣にいる中瓶先輩も、彼を気にかけていた。

 

「『ヨーくん』だとぉ、ムグッ───!?

 

「お前らやっぱド派手過ぎだって! 委員会の人も最初は驚いてたのに、途中からノリノリだったじゃんか!!」

 

 峰田が2人の雰囲気に対してただならぬオーラを放とうとし、それを押さえつけた瀬呂の困惑と笑いの入り混じった様子に、俺は1次試験中のスピーカーから聞こえていた目良さんの声を思い出す。

 

「俺は脱落者137人って、目良さんが言ってたの聞こえた」

 

「137人っ!? くぅ〜〜〜っ、悔しいッス!! 俺は120人でしたっ!!!」

 

「今の威力じゃ、せいぜい150人ぐらいが限度だ……まだ爆破のムラも多い……ッ!」

 

「俺は狙ってねえヤツも巻き込んだから、200人はいったかもしんねえ」

 

「貴様等のお陰で『雄英潰し』を諦めた只者達は、次に名の知れ渡る我々へと矛先を向けたが……やはり有象無象の実力は高が知れている。我々だけでも規定以上の63名を潰す羽目に至った」

 

「耳朗っ、俺80人ぐらいはいったっしょっ!?」

 

「ハイハイ、凄いよアンタは……」

 

「テキトー!?」

 

「緑谷くんは?」

 

「…………114人って委員会の人が言ってた……」

 

「俺はその後だったから、71人のヤツだね!」

 

「みんなスッゲえな〜、オイラもガチでやったけど40人ぐらいが限界だったぜ?」

 

「アレ? コレ、そういう試験だったけ?」

 

「マジ驚愕」

 

 聞くヤツが聞けば血の気が引きそうな会話に、遠くから見ていた中瓶先輩と現見先輩が冷や汗を流しながら呟く。見た目コミカルな峰田まで話に混ざっているのが、混沌に拍車をかけた。

 被害総数約830人の蹂躙に他校の生徒も、俺達に喧嘩売らなくて良かったと、心底安堵しているに違いない。

 

「お前も一度向こう戻ったらどうだ? お前の性格なら、先輩だらけだから居心地が悪いってワケでもねえだろ?」

 

「………………」

 

 たぶん気を遣ったのだろう轟が、自分から夜嵐に声をかけた。あの轟が。

 だが、夜嵐の反応は俺の想像していた通りだった。

 

「………………」

 

「どうした?」

 

「いやぁ〜申し訳ないっすけど……エンデヴァーの息子さん、俺はアンタらが嫌いだ。あの時よりいくらか雰囲気変わったみたいッスけど……アンタの目はエンデヴァーと同じッス」

 

「ッ!?」

 

 彼にとっての逆鱗に近いひと言に、テーブル周りにいたクラスメイト全員が一斉に轟と夜嵐の方を見た。

 

「夜嵐くん!」

 

「スンマセン切裂さん、峰田さん。皆さんとのお話、楽しかったッス!」

 

 俺はこれ以上喋らせまいと夜嵐を止めようとしたが、彼はそのまま俺達に背を向けて士傑のテーブルへと歩いて行ってしまった。

 

「どうしたんだろ?」

 

「せっかく仲良くなれっかもって思ったのによ……」

 

 緑谷がそんな彼の背中を見届け、切島が心配するように轟の肩を掴んだ。同時に峰田が轟に近寄って彼を見上げる。

 

「つか、轟……オマエ推薦なら入試一緒じゃなかったのか?」

 

「……いや、あんま覚えてねえ。あの頃は、自分の事しか考えていなかったから……」

 

 彼は口元に手を当てて思い返そうとしているが、体育祭前……いや、USJ前の轟なら視界が狭くなっていても仕方がない。ずっとエンデヴァーに振り回されて、育ってきたのだから。

 

「ヤオモモは?」

 

「私も轟さんとは別会場だったので……それに、あれほど目立つ性格をしていれば、気付くはずですわ」

 

「確かに……」

 

 芦戸の問いかけに、轟と似た様な素振りで記憶を思い返そうとする八百万だが、轟と別会場じゃどうしようもなかっただろう。

 

「轟くん、気にしなくていいよ……」

 

「ああ……」

 

 俺は彼に声をかけたが、その表情はなんとも言えないまま、士傑の面々と合流した夜嵐を見ていた。

 

 夜嵐が轟を恨むのは、遡ればエンデヴァーが原因である。

 

 彼との蟠りを解消するのも轟の成長を促す要因になるなら、諦めるべきだろうか?

 

 そんな考えが俺の頭をよぎった。

 

 

 

 

 

 急に雰囲気の悪くなった空気に、クラスメイト達が一抹の不安を覚える中、とうとう1次試験規定の100人が揃った。

 

 

 

 

 

『えぇ……1次選考を通過した100人のみなさぁん。コレを、ご覧ください』

 

 スピーカーから、この場にはいない目良さんの声が聞こえたかと思えば、控え室の奥の壁一面に設置された大型モニターがフィールドを上から俯瞰した光景を映した。

 

「フィールドだ」

 

「何だろうね?」

 

 緑谷と麗日がポカンとしながら画面を眺めていると、スタジアムのフィールドだった都市や工場、山岳エリアなどがいきなり爆発して、ぶっ壊れた。ただ、俺や爆豪、轟や緑谷がすでに充分なぐらい破壊していたから、まだ規模は大人しいぐらいだったけど。

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「なぜ!!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 クラスメイトのみならず、会場全員から疑問が飛び出す。そのまま崩れていくフィールドを映しながら目良の話が続いていく。

 

『次の試験でラストになりまぁす。皆さんにはこれから、この被災現場でバイスタンダーとして……救助演習を行ってもらいます……』

 

「「パイスライダー?」」

 

 上鳴と峰田が首を傾げる。上鳴はバカだから忘れたかもしれないが、峰田は勉強できんだから覚えているハズだ。つまり、コイツはギャグでやっている。

 

「バイスタンダー! 現場に居合わせた人の事だよ、授業でやったでしょ!?」

 

「一般市民を指す意味でも使われたりしますが……」

 

 葉隠のツッコミとお叱りの言葉と同時に八百万が意味を付け足して説明してくれた。

 

『1次選考を通過した皆さんは、仮免許を取得していると仮定ぇし……どれだけ適切な救助を行えるか、試させていただきます……』

 

「んっ、人がいる……!」

 

「おっ? あっ!? 老人に子供……っ!?」

 

「うわ危ねえ! 何やってんだっ!?」

 

 複製腕の目で画面を見る障子の言葉に続いて、砂藤と峰田が画面を指差して叫んでいると、画面に映っている一般市民達を拡大して目良さんが解説をしてくれた。

 

『彼らは、あらゆる訓練において今、引っ張りダコの要救助者のプロ……《Help(ヘルプ) us(アス) company(カンパニー)》……略して《HUC(フック)》の皆さんです!』

 

「要救助者のプロ?」

 

「いろんなお仕事があるのね」

 

「ヒーロー人気のこの現代に即した仕事かもね」

 

 瀬呂と蛙吹と尾白の言葉に、俺もウンウンと頷く。

 血に見えるのは血糊だし、子供や赤ん坊みたいに見える人も全員、峰田みたいな異形型の人達だろう。ヒーローを志す俺達の成長のために、手伝ってくれる彼等もまたヒーローである。

 

『HUCの皆さんは……傷病者に扮して被災現場の全域にスタンバイ中……皆さんには、これから彼らの救助を行ってもらいます…………なお、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき、演習終了時に基準値を超えていれば合格としまぁす……10分後には始めますので、トイレなど済ましといてくださいねぇ』

 

「10分!?」

 

「やべえぞ、急げっ!」

 

 周りが慌てふためく中、緑谷は冷静に廃都と化したフィールドを見て呟いた。

 

「この被災現場……神野区を模してる……!」

 

「確かに……言われてみれば状況は似ている……!」

 

 彼の隣に立った飯田も、画面を見ながら呟いた。史実とは違い、爆豪の救出とオールマイトの戦いをテレビで見ている事しかできなかった彼等だったが、今度は自ら動いてヒーローとしての使命に徹する想いは劣る事なく、背負われていた。

 

「あん時は何もできなかったけど……! ラグドールさん……!」

 

「乗り越えろって事よねっ!」

 

 切島と芦戸も気合を入れ直していた。他のクラスメイト達も準備万端である。

 

 

 

 

 

 ここからも難関である。

 

 爆豪と轟を受からせてやりたいという気持ちはあるが、俺も絶対に受からなければならないのに果たして手が回るだろうか。

 

 

 

 

 

 とにかく、次の試験は絶対に1人じゃ合格できない。俺は後ろにいるA組の面々に振り返った。

 

「みんな、13号先生の救助訓練覚えてるよね? ここからは競争も抜け駆けもナシだよ!」

 

「あぁ!!」

 

「もちろんだぜッ!」

 

 切島に続いてガッツポーズをキメる峰田。1年生のヒーロー基礎学の大部分を示していたのは戦闘訓練よりも、救助訓練である。爆豪がブツブツ文句垂れながら励んでいた光景も、今になっては懐かしい。

 

「ヤオモモちゃん、悪いけどシーバー5個、作りながら聞いて。あと、ここにあるメシ食べれるだけ食べといて。ココから超ハードワーク始まるよ」

 

「ふふっ、そう言われると思ってすでにこちらに。残り時間で、溜め込めるだけ溜め込んでみせますわ」

 

 肉まんが何個も乗った皿を持ちながら、片手にホルダー型になったトランシーバーを5個、俺に渡す八百万。そんな彼女が頼もしく、俺は周波数を『84.92』に設定しながら笑ってみせた。

 チームプレイの時は、とりあえず連絡手段の確保。林間合宿の一件から、すっかりみんなに染み付いてしまった。

 

「頼む。上鳴くん、君はヤオモモちゃんが作り出した機材を電力で動かして。君もフル稼働するから、今のうちにコンセントからありったけ電気吸っといて。アホになっても電気は絶やさないで」

 

「お、おうっ! で、でもいいのか? 俺と八百万だけ、直接救助に参加しなくて……」

 

 まだ充電器数個を口に咥えたままの上鳴が困惑しながら問いかけてくるが、俺はハッキリ断言する。

 

「ああ、絶対関係ない。2人とも、自分ができる最大限の役割を果たすべきだ。13号先生の教職免許賭けてもいい」

 

「オイオイ……」

 

「切裂くんったら……」

 

 勝手にベットされた先生の尊厳に、瀬呂と麗日が声を漏らす。

 元々賭け事はやらない人間だが、これからのヒーローを鑑みれば確信はあった。コレで不合格になったら13号先生に事情を説明して、彼女に殴り込んでもらおうかと考えながら、周波数を設定した俺は飯田のいる方に顔を向ける。

 

「こっからチームを4人編成で分ける。緑谷くん、飯田くん、今から言うチームで問題ないか確認して。1分でお願い!」

 

「ああ!」

 

「わかった!」

 

 俺はポーチから筆記具とメモ帳を取り出して、予め俺が決めていたチームの編成を見せながらふたりの意見を集めて整頓させていく。なんで2人なのかと言われれば、緑谷はクラスメイトの個性を1番分析して見ているのと、飯田は色物揃いのクラスメイト達の人間性を1番見ているからだ。

 

 やはり俺だけの思考では限界があり、2人による多少の修正も入ってから即席でチームが決まった。

 

「決まったよ。アルファが耳朗ちゃん、緑谷くん、砂藤くん、峰田くん。ブラボーが障子くん、瀬呂くん、轟くん、尾白くん。チャーリーが口田くん、常闇くん、梅雨ちゃん、麗日ちゃん。デルタが飯田くん、爆豪くん、切島くん、俺。エコーはヤオモモちゃんの本部ね」

 

 フィールドの広さを考慮して、少人数の4人ひと組編成。救護メインとなる組3チームには索敵係が入って、HUCを運搬するスピード系の人と、瓦礫の持ち上げなどパワー系の人がバランス良く入っている。

 

「葉隠ちゃんと芦戸ちゃん。悪いけど、2人は本部で八百万ちゃんの手伝いと、救出したHUCの手当てをお願い」

 

「わかった!」

 

「任せてよ!」

 

 救助訓練で学んだのは救出方法だけでなく、負傷者の処置方法や医療器具の使い方など多岐にわたる。13号先生のわかりやすい教え方は、俺達にしっかりと引き継がれている。

 

「救助人数が多くなったら、デルタは解体して本部の救護処置に回すから!」

 

「それまで頼むぞ!」

 

「わかりましたわ!」

 

「ハァッ!? なんで俺が救護処置に回んなきゃ───ッ!!

 

「爆豪諦めろッ! 息合わせんだって!!」

 

 ギャーギャー騒ぐ爆豪は、切島と一緒にさせた。俺と飯田も一緒だから、暴走しても彼の制御はなんとかなる。

 

「そしたら飯田くん……いや、委員長……勝ち鬨をお願いします」

 

「よしっ……目標は全員合格だッ! いくぞA組ぃッ!!!!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「おおぉーーーっっっ!!!

」」」」」」」」」」

 

 

 

 飯田の声に合わせて全員が腕を振り上げると、控え室の中に非常ベルの音が鳴り響いた。

 

「始まった……!」

 

『ヴィランにより大規模テロが発生、規模は〇〇市全域。建物倒壊により傷病者多数、道路の損壊が激しく、緊急先着隊の到着に著しい遅れ。到着するまでの救助活動は、その場にいるヒーロー達が指揮を執り行う。1人でも多くの命を救い出す事』

 

 演習のシナリオが目良さんの説明で告げられてから、サイレンが鳴ると同時に俺達のいた部屋がまた文字通り展開された。

 

『それでは……スタぁーート!!!』

 

 テンション高めの目良さんの合図で2次試験の開始が告げれられ、俺達受験者100名が一斉に動き出した。

 

「まずは拠点を決めよう!」

 

「なるべく平らな地面を……」

 

「ココで……いいですわッ!!!」

 

 八百万が叫びながら大きな青いビニールシートを背中から創造すると、すぐさま芦戸と葉隠が両端を掴んで走って広げていく。

 土の地面と違ってタイルが貼られていた控え室跡は、これ以上ないぐらいの好立地だ。他校の生徒もココを拠点にしようとしていた。

 

「よしッ、救出したHUCは全員ココまで運ぶよ!」

 

「俺達は1番近くの都市部ゾーンに行こう!」

 

「私達は水害が起こっている場所に行きましょう!」

 

 各組のリーダーがそれぞれのクラスメイトを引き連れて、被災現場のエリアへと散っていく。

 

 そこからは各組のトランシーバーで情報を整理しながらの救助演習が始まった。

 

『いくら演習といえ、酷い状況ね!』

 

『みんなっ! 落ちてくる瓦礫に気を付けて!』

 

『聞こえたっ! 12時方向に1人っ! 3時方向に2人っ! 10時方向にも1人っ!!』

 

『1番近い救助者の方向を頼むっ!』

 

『倒壊したビルの上から3つ目の窓、向こうのビルの屋上にも救助者が見える!』

 

『待って! 向こうから子供の声が消えたっ!』

 

『翼を持つ物よ……人々の助けを求める声の下に、僕達を導いてください!』

 

『この瓦礫は俺が固定する!』

 

『私が浮かすからっ、奥を確認してきてっ!』

 

『バカヤローッ! 子供が優先に決まってんだろッ!!!』

 

『いっ、今の声誰だ? 峰田か!?』

 

 トランシーバーから情報に混ざってクラスメイト達の頑張っている声が聞こえる中、俺達も自分達の役割を果たしていく。

 

「爆豪見えるかっ!?」

 

「ああッ、200m向こうに2人、瓦礫の前でうずくまってやがるッ!」

 

「俺と切裂君で先行するっ! ついてきてくれ!」

 

「ああっ!」

 

 索敵役がいない俺のチームは、足で稼ぐしかない。俊足の飯田と、ほぼ飛ぶ事ができる爆豪で都市部エリアの見える範囲を潰していく。

 

 要救助者の状態を瞬時に判断し、適切な処置をしなければならないのだが、こればっかりは訓練の数が物を言う。13号先生の授業も決して劣っているワケではないのだが、実践訓練豊富な2〜3年にひと足抜かれるのはわかりきっていた。

 

『他校のヤツら……やっぱ慣れてんな……!』

 

『引け腰になるな砂藤っ!』

 

『視野広く、周りを見るんだ!』

 

『他校の人が困っていたら、協力も申し出よう!』

 

『情報の交換も忘れないでねっ!』

 

 救出救助だけでなく、警察と消防が来た時の申し送りまでこなさなきゃならない。ヴィラン倒すだけではヒーローになれない事は、この雄英来てから身に染みて思っている。

 

 それでも、俺は決められた役割を全力で果たすだけ。

 

 トガちゃんのヒーローになるため、彼女への夢を実現させるためだ。

 

 

 

 ココは俺にとっては、通過点でしかないのだから……!

 

 

 

 試験開始から数分後。初動は訓練量や判断力の差で他校に遅れをとったかもしれないが、クラスメイト全員上手い事救助に訓練通りのリズムが生まれ始めていた。

 

『切裂、救出範囲が広がってきた。一時救出場を作ってもいいか?』

 

「轟くんっ!? ……あれ、聞こえる?!」

 

『八百万? ……クソッ、さすがに離れ過ぎか……!』

 

『みなさん、聞こえますか!?』

 

 少し拠点から遠くなってシーバーの通りが悪くなっていたと思った直後、いきなり無線機越しでも透き通った八百万の声が聞こえた。

 

『拠点のトランシーバーを大型アンテナを介した無線機に変えましたわっ! コレで音質も通りやすくなったハズです!』

 

『ヤっッ、ヤオろろずっッッ!!? 無線機ってメッチャ電気食うの知ってるぅッッ!!?!? たっッ、助けてーーーーーッっっ!!!!!!』

 

 彼女が話す無線機の奥から、電流の音を響かせながら上鳴が悲鳴を上げる声が聞こえていた。

 

「耐えろ上鳴ッ! ヤオモモちゃん、もう作ってると思うけど……今から言う物も並行しながら作って! 止血帯、包帯、消毒液、固定具、毛布、酸素マスクとボンベ、折り畳みの担架……あとロープ! 長さは───

 

『3m、5m、10m、25m、50mですわね!!』

 

「そうっ!! 頼んだッ!」

 

『轟くん聞こえる!? 今どの辺にいるのか教えてっ!』

 

 俺が八百万と話している間に、緑谷が轟と救護所の話を進めてくれていた。

 神野レベルの大規模災害になると要救助者に対して救助者は必ず不足する。だから、できる限り作業は効率化しないといけない。俺の個性も元々救助向きの個性じゃないし、1人で出来る事など限られている。どれだけ周りと協力して役割分担できるかが、13号先生の言っていた人命救助の近道だった。

 

 俺は救出したHUCを背負いながら、八百万がいる最初の救護所へと戻ってきた。

 

「ココまで来ればもう大丈夫です。今からあの……うぉッ!?」

 

 俺は見えてきた救護所を見て、HUCに呼びかける言葉を詰まらせながら驚いた。

 最初はビニールシートしかなかった救護所が、野晒しの上空を覆う天幕が広がり、重病者のためのベッドが整列されている。機材も点滴から心音メーターまで。さながら野戦病院並みの規模へと進化を遂げていたのだ。

 その天幕の内側は煌々と蛍光灯で照らし出され、遠くからも救護所の位置を見通すために信号灯まで聳え立っている。その機材という機材から伸びたケーブルを上鳴が救護所から少し離れたフェンスの中で握りしめるだけでなく、口にまで数本咥えながら放電を起こしていた。

 

「ヤオモモちゃん! なんか多くないっ!?」

 

 俺は背負っていたHUCを簡易ベッドに座らせ、手早く怪我の処置を済ましていく。八百万もベッドに横になっているHUCの手当てをしながらも、創造で新しい物品を作り出していた。

 それよりも、俺達20人に対して明らかにHUCの救出人数が多いような気がしていると、八百万が額の汗を拭いながら答えた。

 

「他校の方からも、協力していただいてます! 重病者の方は全て私達の拠点に移しました!」

 

 そう言っていると、士傑と傑物など一部の生徒が、俺達の拠点の中をHUCや荷物を運んで移動しているのが見えた。

 他校の生徒も八百万の有用性に気がついたのだろう。負担は一気に増えたかもしれないが、悪くはない流れにはなっていた。

 

「八百万っ、俺も手伝うぜ!」

 

「上鳴さんっ!?」

 

「あれ上鳴くん!?」

 

 なぜか放電してないで俺達の前に来た上鳴。だが機材は全て動いている。

 

「他校に電気系の個性がもう1人いたんだっ! ここからは順番で交代しながら放電すっから、処置の方手伝わしてくれよっ!」

 

「わかりました! ではこちらの医療用品と機材を向こうへ!」

 

「ヤオモモちゃん、こっちの骨折の処置は終わり! 救助に戻るね!」

 

 八百万に伝える必要がある内容だけ伝えて、俺は彼女から離れようとしてその足を止めた。

 

「あと、コレ差し入れッ!!!」

 

 俺はポーチに手を突っ込んで、机の上に栄養補助食品のクッキーやビーフジャーキーなどの食べ物を全て彼女の近くのテーブルの出した。控え室跡のテーブルに食べ物はほとんど残ってなかったから、渡しておいて損はない。

 

「ありがとうございます!」

 

 そうして新しい医療用品を空のポーチに押し込み、救護所からすぐ駆け出そうとすると、俺の視界に空から影が差し込んだ。

 

「初動の遅滞を組編成による準備と情報収集で補填するか。そして創造と帯電による個性の有効活用。毛原に劣らずの指揮能力の高さよ」

 

「肉倉先輩っ!!?」

 

 両腕を分離させた状態で、ちぎれた腕を粘土みたいに分裂と変形させた肉塊の揺り籠を数個作りながらHUCを運び、自身はちぎった肉塊の上に乗って宙を浮きながら移動していた肉倉先輩が下りて来た。

 

 まさか肉塊で飛べるとは思わなかった。本当に万能な個性である。

 

「だが、あれ程有能な個性なら、試験開始前に他校に通達すべきだったな……お陰で我々に二度手間が生じた……!」

 

「ごめんなさいっ! ヤオモモちゃんがあそこまで頑張るとは思ってなかったんですっ!」

 

 彼の言う通り、途中から他校が合流したせいでHUCの移送が2度起こる事態になっていた。八百万が創造し続けた雄英の救護所から他校の救護所はバラバラに分散しており、本部から離れる事ができない彼女の創造した医療用品と資材を運ぶため、ひっきりなしに受験者が行き来しているのが目立った。

 

 

 

 

 

「留意せよ切裂 刃。貴様はヒーローとしての素質、経験、自覚、同じ1学年のイナサと比較しても優れる点は目立つが、些か身内主義が過ぎる。そして『ヒーロー殺し』の脅迫概念にも類似した自己献身性は、いつか自身の破滅をも惹起しかねんぞ……」

 

 

 

 

 

 肉倉先輩はまだ何か言っていた気がしたが、さすがに今先輩の長文を聞く余裕のなかった俺は、先輩に謝ってそのまま走り出してしまった。

 

「飯田くん、お待たせっ!」

 

「よしっ! 次の現場に向かおうっ!」

 

「爆豪! 次はどっちだ!?」

 

「向こう側の都市部エリアと山岳エリアの間だッ!」

 

 トランシーバー渡していた飯田達とも合流した中、移動をしようとしていた俺達に次の試練が訪れた。

 

「んッ!?」

 

 救護所すぐ近くのスタジアムの壁が観客席ごと大きく吹っ飛んだ。それに続いて、フィールドのあちこちで小規模の爆発も起こる。

 

「地震……!?」

 

「違えッ、爆破だッ!」

 

『なんだッ!?』

 

『ば、爆発っ!!?』

 

『何が起こりましたのっ!?』

 

『こちらチャーリー! 今の爆発はなんだッ!?』

 

 トランシーバーから一斉にクラスメイト達の声が聞こえたが、俺はひとまず爆発の方向を把握すべくビルの上へと登る。

 

「誰か見える人いるッ!?」

 

『こっから見え…………オイオイ、なんかお出ましだぜッ!?!』

 

 俺の呼びかけに、1番最初に聞こえた瀬呂の声が震えている。

 

「クッソ、何が起こってやがるッ!」

 

「わかんないっ!」

 

 爆豪と一緒に高所へと飛び付いた俺は、ヘルメットのゴーグルを下ろして双眼鏡機能を使った。ここに来てようやく、リニューアルされた俺のゴーグルを使う時が来た。

 

「救護所近くの爆発が1番デケぇッ! ナマクラ見えるかッ?」

 

「待っててっ!」

 

 吹っ飛んだ壁を拡大すると、瓦礫の飛散した白煙の奥から鯱に白いビジネススーツ着せて、そのまま直立歩行させたガッチムチの異形型が、全身黒のコスチュームを身に纏ったヴィランみたいな人達を連れて現れた。

 

『あの人っ、神野事件の時テレビに映ってなかったん!?』

 

『えっ!? じゃあプロヒーロー!?』

 

 空中に浮いてるのか麗日の声と、本部の芦戸の動揺する声も聞こえる。

 

「緑谷くん、そっから見える!!? アレ誰ッ!?」

 

 具体的に覚えていない俺は、1番ヒーローに詳しい緑谷に話を振らせた。

 

 

 

『あれは《ギャングオルカ》……ッ!! ヒーローチャートランキング10位のプロヒーローだッ!!!』

 

 

 

『なんですって!?』

 

『じゅ、じゅじゅッ、10位ィッ!!!?』

 

『マジかよッ!?』

 

 マウントレディが20位ちょいぐらいで、プッシーキャッツが30位ぐらい。ひと桁台は次元が違うとして、10位の桁も化け物地味た強さのヤツらが揃う地帯だ。正直言って、俺達ただの学生じゃ束になっても敵わないだろう。

 

『ヴィランにより大規模テロが発生……! ヴィランが姿を現し、追撃を開始。現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行してください……!!』

 

 続けて聞こえた目良さんの告げる演習のシナリオに、委員長の飯田を始めとするクラスメイト達全員から困惑の声が広がった。

 

「戦いながら救助を続行!?」

 

『ど、どうする!? 救助を優先するべき!!?』

 

『みなさんッ、拠点に近い位置にプロヒーローがいますわっ!! このままだと救護所が襲われますッ!!』

 

『クッソッ! ヴィランの殲滅が先かッ!?』

 

『ランク10位だぞッ!? そもそも勝てんのかッ!!?』

 

 戦闘と救助を並行処理するなんて13号先生の授業でもやった事ない。いや、あの13号先生ならやる予定はあるのかもしれないが、まだまだ科目として先の内容に違いない。

 不安と困惑が広がり、クラスメイトの空気が悪い流れになりそうだった俺は、トランシーバーに向かって叫んだ。

 

「お゛いッ!!!! 緑谷と峰田と轟を救護所に戻して防衛に回せッ!!! 八百万と上鳴はそのままッ!! 芦戸ッ、酸でバリケードを作れ! 味方を通す入り口は残しとけよッ!!? 葉隠ッ、他校に今の情報を伝えるのと、HUCを全て俺達の救護所に誘導しろッ!!! これからデルタも救護所に前進するッ!!! ほかのチームは救助を続行ッ!!! 飯田ッ、爆豪ッ、先行けェッ!!!! 救護所を守れェェッッッ!!!!!!」

 

「ッッしゃァッ! ソッコーーっでブッ殺してやらァッッ!!!」

 

「す、すまないッ、先に行くぞッ!!!」

 

 本気の爆破で空を飛んでいく爆豪と、全速力で走り去っていく飯田を見送り、俺は切島と一緒に2人の後を追って救護所を目指す。

 

「あの2人と緑谷達がいりゃあ、勝てっかもなっ!」

 

 切島が前向きな言葉で励ましながら走るが、俺はちょっとそれどころじゃなくなってトランシーバーに話し続ける。

 

「ゴメンッ、一気に命令したから今どのチームに何人かわかんなくなった! アルファから順番に教えてッ!」

 

『アルファは2人……って、うわぁぁッ! トランシーバー持ってきちゃったっ!!』

 

「緑谷、戻って返せッ! お前なら間に合う!!」

 

『ブラボーは轟が抜けて3人だ!』

 

『こちらチャーリー、こちらは人員を割いていない! 4人だ!』

 

「緑谷! シーバー返したら耳郎と砂藤をブラボーに合流するよう指示して、すぐ救護所来いッ!!

!」

 

「りょッ、了解ッ!!」

 

『みんな急いでっ!! 真堂先輩と肉倉先輩が2人で行っちゃったッ!!!』

 

『そんなっ!!?』

 

「マジかよッ!? 急ぐぞッ!!!」

 

 芦戸の声が聞こえた本部からの通信で、切島の走る速度が上がった。

 

 元々、八百万と上鳴で拠点を拵える作戦は欠陥がひとつだけある。

 

 拠点の設備を重点的にすればする程、この手の不測事態が起こった時、HUCの避難が困難になる事。

 

 芦戸を拠点に残したのはその対策。妨害系が得意な彼女の酸なら、多少の足止めにはなる。

 

 本当なら峰田も残すべきだったのだが、個性の特性が救助にほとんど活かせない葉隠を運用する事になるし、彼女も自分の欠点を補う様に救護処置をひと1倍学んでいたのを、チーム決めの時に飯田の話から聞いていた。

 

 そもそも、ヴィランの襲撃がどのタイミングなのかもわかっていなかったんだ。緑谷が偶然救護所にいないのは、俺達で最初からチーム分けしてしまったからだ。

 

 確か、真堂先輩は速攻でギャングオルカに押し負けた。いくら個性が強力な肉倉先輩がいても、ランク10のプロヒーローに勝ち越すとは思えない。

 

 とにかく、妨害系の峰田が防衛に参戦して、飯田が現場の指揮を執れば救護所の守りは強固になる。轟には気にするなとひと声かけたが、夜嵐との関係は修復されたワケではない。ただ連携が上手くいかなくても、緑谷と爆豪がギャングオルカを抑え込むハズだ。

 そんな希望的観測に近い予想を抱きながら、俺は走り続ける。

 

 

 

 数分後、俺は切島と救護所に到着した。

 

 

 

「ああッ!? どうなってんだッ!!?」

 

 本部である救護所の、ヴィランが出現した外側には芦戸の酸が幅5メートル感覚で側溝みたいに沼が流れており、間の陸地には峰田の大小様々なモギモギを敷き詰めて、地雷原代わりにしていたのは見えたが、1番あってほしかった轟の氷が全く見えなかった。

 

「ギャングオルカはどこだ!?」

 

「あそこッ!!!」

 

 そして、1番の障害であるギャングオルカの姿は、轟と夜嵐の同時に放った炎と強風の檻で動きを止めているようだが、アレは長時間保たない。轟も、あの炎の威力は最大出力だ。この距離からじゃ連携したのかどうかもわからなかった。

 

「ヤベっ、突破されるッ!!!」

 

 それだけじゃなかった。切島の叫ぶ通り、ギャングオルカのサイドキックなのか、全員同じ黒い全身スーツのコスチュームを着た、ショッカーみたいな集団がギャングオルカの戦闘区域から迂回して、まだ本部への避難誘導が終わっていない、他校の救護所へと攻め入ろうとしていた。

 

「切島救護所に走れェッ!!!」

 

「よしわかったァッ!!!」

 

 切島が天幕の張ってある本部へと駆け出すと同時に俺は、ヴィランの集団へと1人で突っ込む。

 

「んッ!? なんだアイツはぁ!?」

 

「ソイツは『保須事件』の雄英生、『ブレイズ』だッ!」

 

「たった1人だとおッ!?」

 

「サイドキックだからってナメてんのかッ!」

 

 サイドキック達が片手に装着したロックバスターみたいなサポートアイテムで、俺に向けて灰色の泥みたいな弾丸を一斉に発射してきたが、ソレが届くよりも早く俺が両手の指を交差してヤツらに向かって振り抜いた。

 

 

 

「『発泡斬撃波』ッッッ!!!!!」

 

「「「「「どあぁぁぁぁぁぁっッッッ!!!!!」」」」」

 

 

 

 乱れ飛ぶ斬撃波に弾丸を叩き切られ、地盤ごと吹っ飛ばされたサイドキック達を無視して、救護所周りの酸とモギモギの障害に被害が出てないのを確認し、俺は本部の八百万と飯田がいた所へと向かった。

 

「切裂さんっ! 助かりましたわっ!!」

 

「礼はいいッ! どうなったッ!?」

 

「何回か別方向から襲撃されたが、なんとか持ち堪えている! ただ……轟君と夜嵐君が……!」

 

「ダメだッ、真堂先輩も肉倉先輩も倒されちまったし……アイツら相性最悪だっ!!」

 

 障害側でモギモギを飛び回りながら新しいモギモギを仕掛けていた峰田が、頭の流血を押さえながらギャングオルカとの戦闘が繰り広げられている方向を必死に指差した。

 そして予想していたその良くない内容に、俺もすぐさま動き出そうとするのを飯田がひと声かけた。

 

「切島君と芦戸君、葉隠君は避難誘導をしている! 君は緑谷君と爆豪君達の加勢をっ!!!」

 

「了解ッ!!!!!」

 

 飯田の指揮に従い、俺は本部から障害を飛び越えてギャングオルカがいる方へと向かった。

 熱風が吹き溢れる戦線では、すぐ近くを爆豪が爆破を起こしながらフラフラとバランス悪く飛んでいた。

 

「おいハゲマントッ、風を収めやがれッ! 俺の爆破が届かねえッ!!」

 

「爆豪ッ!!!」

 

 俺が大声で呼びかけた彼をよく見ると、なんと肉倉先輩を背負ったまま飛び回っていた。

 

「ッ!? ナマクラッ、この細目野郎を運べッ!」

 

「わかったッ! 緑谷はッ!!?」

 

「あの地震野郎を下がらせたッ! すぐに戻ってくんだろうよッ!! テメェは早く行けッ!!!」

 

 俺に気付いて地面に着地した爆豪は、すぐさま俺に肉倉先輩を担がせると、軽々と跳躍しながら爆破で空中に飛び上がる。

 

「くッ……肉壁を貫通する程の超音波とは……不覚……ッ!!」

 

「肉倉先輩ッ、救護所まで運びますッ! 動かないでッ!!」

 

 背中の肉倉先輩が腕を分離させようとしていたのを止めさせた俺が駆け出すと、可燃物なんか無いのに燃え盛る熱風の奥から、この場の誰でもない声が聞こえ、思わず振り返った。

 

「炎の風の熱風牢獄か……良いアイデアだ。並のヴィランであれば諦め、泣いて許しを請うだろう。ただ……そうでなかった場合はッ? 撃った時には既に次の手を講じておくものだァ……!」

 

「ッ!?」

 

「クソッ! アレぐらいで負けるプロなワケねえかッ!」

 

 爆豪が空中で睨みつけていた熱風が、頭が痛くなってくる甲高い音と同時に一瞬にして掻き消される。

 そしてその晴れた中央には、さっきビルの高所から見ていたギャングオルカが頭からペットボトルの水を被りながら、シャチ面の怖い顔を更に凄ませて俺達を睨みつける。

 

「……で、次はァ?」

 

「俺が相手だッ、シャチ野郎ッ!!!」

 

 爆豪が空中で叫びながらA・P・ショットを乱射するのを最後の光景を見ようとした瞬間、後ろの肉倉先輩が叫ぶ。

 

「見聞に乗じている場合か……ッ!」

 

「あッ!」

 

 先輩は両腕の一部を分離させ、俺の視界の外から不意打ちしようとしていたギャングオルカのサイドキックを腕だった肉塊で捕らえてこねくり回し、物言わぬ肉塊へと変えた。

 

「ハァ、ハァ……ッ! 急げッ……アレは私が健全だから機能する拘束術ッ、すぐに戻るぞ……ッ!」

 

「ご、ゴメンなさい!」

 

 先輩の言う通り、肉塊にされたばかりのサイドキックが、もう人の形に戻り始めていた。

 

 言われた通り、すぐに俺は先輩を背負ったまま駆け出した。

 

「切裂 刃……記憶に留めておくと良い。戦場で……被災現場において、謝罪は既に手遅れ。自らが誤った選択を取れば、失うのは人の命……! 貴様の謝罪は周囲に不信と不安を伝播するだけであると……!」

 

「……はい……っ!」

 

 背負いながら聞こえてくる先輩の声が、俺にはずいぶんと重くのしかかった。

 

「1学年の貴様には他にも欠点が存在するが……ッ、ソレを解消すれば私よりも優秀なヒーローになれると確信している……! オールマイト無き今、御国の新たな平和の基盤となる『明るくて優しい世界』を創り上げるヒーローに……ッ!」

 

「…………はい……っ!!」

 

 もう全部合わせて20年ぐらい生きているハズなのだが、自分が大人でもなんでもない未熟な人間であると同時に、俺なんかよりも前からヒーローを志していただろう肉倉先輩に、尊敬すら抱きかけていた。

 

「ッ!」

 

「っ!」

 

 緑谷とすれ違う。真堂先輩を運び終えたのだろう。先輩の姿はない。

 

「「………………」」

 

 お互いに顔は見合わせたが、言葉も交わさず自分達のやるべき事を成すべく、走り続けた。

 

 肉倉先輩を運んだらすぐに爆豪達の加勢に戻ろうと、八百万が手の振る救護所まで駆けつけた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グラウンド上にブザーが鳴り響いた。

 

『えぇ……只今をもちまして、配置された全てのHUCが危険区域より救助されました。誠に勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程終了となります』

 

「何っ!?」

 

「終わった……!?」

 

「今ッ!?」

 

「どうやら……反省の機会は没却されたようだな……」

 

 目良さんのアナウンスを天幕の中で聞いていると、八百万と切島の手伝いも受けてベッドに腰を下ろさせた肉倉先輩が、そう呟いた。

 

『集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ、他の方は着替えてしばし待機でお願いします』

 

 目良さんの指示に従って一度合流した俺達A組は、更衣室でヒーローコスチュームから制服に着替えてグラウンドの1次試験のスタート位置である、展開された部屋へと集合した。

 轟はギャングオルカによる超音波の直撃を浴びたようだが、今は回復している。士傑の夜嵐と肉倉先輩、傑物の真堂先輩も同様だ。もしかしなくても、ギャングオルカが手加減していたのだろう。

 俺も熱風を吹き飛ばされた時に少し感じたが、あの超音波は硬化しても防げないと思った。加勢して果たして上手く立ち回れたかどうか、そんな不安を抱いてしまった。

 

「ええぇ…………皆さん、長い事お疲れ様でした…………これより発表を行いますが……その前にひと言……採点方式についてです。我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる、二重の減点方式であなた方を見させてもらいました……つまり、危機的状況でどれだけ間違いのない行動を取れたかを、審査しています。とりあえず……合格者の方は50音順で、名前が載っています…………今の言葉を踏まえた上で、ご確認ください……!」

 

 そこまで説明してくれた目良さんの声に合わせて、審査台の後方にある控え室だったモニター側の壁だけを元に戻した画面に、受験者達の名前が一斉に浮かび上がる。そして周りにいる雄英問わず各学校合わせた100人がザワつきながら、一斉に自分の名前を探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あ行』の次で『切島』と頭の字が連続する俺の名前は、探そうとしてすぐに見つかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しゃあっ!!! あったぜっ、俺とお前っ!!」

 

 切島も簡単に見つけたのだろう。俺の隣で泣きそうなぐらい嬉しそうにして肩を組んできた。

 

「あったぜ『峰田 実』っ!!!!!」

 

 俺の横にいた峰田も、拳を突き上げて飛び上がった。

 

「あった!」

 

「あった……!」

 

「あるぞっ!」

 

「よし……!」

 

「麗日〜!!!」

 

「怖え〜!」

 

「フッ」

 

「よかったぁ!」

 

「あったぜ!」

 

「わああっ! ハハっ!」

 

「───────っ!」

 

「点滴穿石ですわ……!」

 

「ケロ……!」

 

「やったー!」

 

「しえーい!!」

 

 ほかのクラスメイト達も、自分達が受かっていた事に声を出して喜び上がる。

 

 

 

 

 

 だが、俺の喜びは、ここまでだった。

 

 

 

 

 

「あれッ!?」

 

「どした切裂っ!?」

 

 

 

 次に、俺は『は行』を探したが、『爆豪』の名前がなかった。

 

 

 

「うう……ねえ…………!」

 

「えッ!?」

 

「何だと!?」

 

「か、かっちゃんッ!?」

 

 その本人の声に、緑谷や飯田を含む周囲のクラスメイト何人かが一斉に爆豪の方を見た。

 

「『よ』……夜嵐……! 『よ』……あっ、………………やっぱ、ないか……」

 

「イナサ……お前なぁ……」

 

「やはり時期尚早であったか……」

 

 士傑の方では夜嵐が落ちており、隣にいた毛原先輩が学生帽を被った頭の部分を押さえている。肉倉先輩は画面を見たまま呟いていた。

 

 ちなみに『さ行』も確認したが、肉倉先輩の名前はあった。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 そして、『常闇』のすぐ下のハズの『轟』の名前も、画面にはなかった。

 

「あっ、轟くん……!」

 

「轟さん……!」

 

「轟!!!」

 

 その事に気づいた緑谷と八百万が声をかけようとしたが、その前に夜嵐が彼の前に来て、最初の時と同じ様に頭を地面にぶつける勢いで謝罪していた。

 

「ごめん! あんたらが合格逃したのは、俺のせいだ! 俺の心の狭さの……ッ!!! ごめんッ!!!!!」

 

「元々俺が蒔いた種だし、よせよ。お前が直球でぶつけてきて、気づけた事もある。ただ自由になるだけじゃ、親父の事を思い出しちまって……どこまでも引きずっちまうって事をな」

 

 そんな騒がしい2人のやり取りを聞いて、彼の周りにいたクラスメイト達もその事実に驚愕する。

 

「轟、落ちたの!?」

 

「うちのツートップが両方落ちてんのかよ!」

 

「暴言改めよぉ? 言葉って大事よ」

 

「……黙ってろ、殺すぞッ」

 

 上鳴が爆豪を煽ってシバかれている中、峰田が轟に駆け寄った。

 

「大丈夫か轟? つかッ、遠くから見てたけどよぉッ! お前が邪魔しなきゃ轟はッ───ッ!?

 

「やめろ峰田」

 

「やめて峰田くん」

 

 そのまま峰田は頭を下げっぱなしの夜嵐を指差して蹴りかかろうとしていたが、それを止めようとした轟よりも早く近寄っていた俺が、彼を抱き上げて止める。

 

「切裂っ!? なんで止めッ………………おい、ヒデー顔だぞ」

 

「そう」

 

 俺がどんな顔していたのかは知らんが、別に夜嵐に怒っているワケじゃない。

 

 わかってたのに止める手段がなくて、そして準備を整えたハズの爆豪も落としてしまった自分自身に、怒っていたのだ。

 

「下がれイナサ。貴様の謝罪で合否が変化する事など無い。何よりプロならば、個人の感情で行動するなど言語道断。自分自身を省みる機会とするんだな」

 

「はい……切裂さん峰田さんっ、すみませんでしたッ!!!」

 

 結局、俺に救えたのは肉倉先輩だけだった。

 

「あっ、私も落ちてる……」

 

「ケミィっ!?」

 

「何ぃ!?」

 

 現見先輩の気の抜けた声に、毛原先輩と肉倉先輩の裏返った声がスタジアム内に響いた。

 

 

 

 この人は、どうでもいいや。

 

 

 

『ええ……続きまして、プリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますので、しっかりぃ目を通しておいてくだぁさい』

 

 続いて目良さんのアナウンスと並行して、黒服の試験官から1枚のプリントを受け取った。

 後でバスの中でゆっくり見るとして、この場では内容を速読していくが、点数自体は悪くない。最初から最後までほぼ救助に徹していたし、ギャングオルカとの交戦もなかった。

 

「ヤイバ何点だった!?」

 

「82点。まぁ、良いと思う……『余裕がなくなると口調が荒くなるのと、視野が狭くなっているのが目立ちます』だってさ……」

 

「スゴーい! 私71点だよっ!」

 

 俺のすぐ隣にいた芦戸が肩を掴みながら喜んでいるが、実際には肉倉先輩に言われた言葉の方が自分自身の反省点となって残っていた。

 

『ボーダーラインは50点。減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたなど、下記にズラーっと並んでます……』

 

「61点、ギリギリ……」

 

「俺84点! 見てスゴくね!? 地味に優秀なのよね、俺って!」

 

 プリント見ながら冷や汗を流す尾白の隣で、瀬呂が喜びながらクラスメイト達にドヤ顔でプリントを見せつけている。

 俺みたいに、指揮官ぶって指示を飛ばしているだけでは高得点は取れないのだ。そもそも、指揮官ポジションはこの試験中はリスキーな立ち位置になるだろう。慣れてる飯田や八百万とかの方が適任だ。

 

「待って、ヤオモモ98点!?」

 

「フフっ……」

 

 八百万は殺風景だった救護所を野戦病院へと変えてみせた。その後は創造と並行して、運ばれてきたHUCの治療を次々に行っていたのだ。逆に何で2点引かれたのか知りたい。ヴィランの襲撃後に問題でもあったのか。

 周りから驚かれた八百万も、気恥ずかしさで頬を染めているが自慢気に胸を張りながら、俺を見ていた。ずっと病院で勉強していた成果を、出せたのだろう。

 そしてクラスメイトの中で、彼女に続く90点超えがもう1人。

 

「上鳴91点!?」

 

「ウソ!?」

 

「なにかの間違いだろっ!?」

 

「失礼なっ!!!」

 

 八百万だけでは創造しても動かす事ができない機材類を、放電して運用させるという自分の役割を最大限に発揮した上鳴だった。

 八百万より少し点数が低いのは、負傷者の処置要領がまだ慣れていなかったからだろう。葉隠に手伝われながらHUCを処置している様子を、俺は一瞬だけ見ていた。

 

「飯田くん、どうだった?」

 

「80点だ。全体的に応用が利かないという感じだったな。緑谷君は?」

 

「僕71点。行動自体っていうより、行動する前の挙動とか、足止まったりするところで減点されてる」

 

「こうして至らなかった点を補足してくれるのは有り難いな!」

 

 俺は2人で騒いでいる緑谷と飯田よりも、せっかくの高得点なのにイジられている上鳴よりも、声をかけられるのを待っていた八百万よりも、先に見たいヤツのプリントを見に向かった。

 

「爆豪、見せろ」

 

「ッ!」

 

 有無を言わせない俺の言葉に、珍しく爆豪は素直に読んでいたプリントを横にして下ろし、俺が覗き込みやすくした。

 

「49点……」

 

「ハァ!? ギリギリじゃねえかッ!!」

 

「クソ髪ィ、なんでテメェまで見てやがんだッ!!!」

 

 俺と反対側からプリントを覗き込んできた切島に向かって爆豪が吠えている間に、減点理由の欄を確認していく。

 

 どうやら、ギャングオルカが現れて防衛に向かわせる前までは、口調の荒さが目立っただけでそこまで甚大な減点はなかったが……救護所の戦闘に向かわせた途中にいたHUCを、助けを求めてたのに暴言吐いて無視してしまったのが致命傷だったようだ。

 

「バカ野郎……」

 

「……ッ!」

 

 俺は爆豪のズボンを掴みながら、その場にしゃがんだ。

 

『ええ……合格した皆さんは、これから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、ヴィランとの戦闘、事件、事故からの救助など、ヒーローの指示がなくとも君達の判断で動けるようになります。しかしそれは、君達の行動ひとつひとつに、より大きな社会的責任が生じるという事でもあります。皆さんご存知の通り、オールマイトというグレイトフルヒーローが力尽きました。彼の存在は犯罪の抑制になる程、大きなモノでした。心のブレーキが消え去り、増長する者はこれから必ず現れる。均衡が崩れ、世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が社会の中心になっていきます。次は皆さんがヒーローとして規範となり、抑制できる様な存在とならねばなりません。今回はあくまで『仮』のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え、各々の学舎で更なる精進に励んでいただきたい。えぇ……そして不合格となってしまった方々、点数が満たなかったからとしょげてる暇はありません。君達にもまだチャンスは残っています。3ヶ月の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば、君達にも仮免許を発行する予定です。今、私が述べた『これから』に対応するには、より質の高いヒーローがなるべく多く欲しい。1次選考はいわゆる落とす試験でしたが、選んだ100名はなるべく育てていきたいのです。そういう訳で全員を最後まで見ました。結果、決して見込みがない訳ではなく、むしろ至らぬ点を修正すれば合格者以上の実力者になる者ばかりです。学業との並行で、かなり忙しくなるとは思います。次回4月の試験で再挑戦しても構いませんが───

 

 目良さんの重要な話も聞かずに、俺は爆豪の隣でしゃがみ込んだままだったが、そんな俺の前に轟が歩いて、しゃがんできた。

 

「切裂……すまねえ…………すぐ、追いつく……!」

 

「ん…………」

 

「……ッ」

 

 俺はしゃがみこんだまま、ひと言だけ返事をした。

 

 

 

 この2人を仮免補講に向かわせなかった場合、次の事件に戦力として回せたかもしれないのに。

 

 

 

 しかし、2人が受かったとしても、エンデヴァーの事務所に行ってしまうのが目に見えていたので、どうする事もできなかったかもしれない。

 

 

 

 いつまでも気落ちしている場合ではない。今回の仮免試験は、前回の林間合宿前の期末試験に値する前哨戦。

 

 

 

 

 

 本戦は次に迫っている。

 

 

 

 

 

 林間合宿を超える、激戦が。

 

 

 

 

 

 終わってしまった事に、あれこれ言うのはやめた。

 

 

 

 

 

 次回『Flying get』

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