切裂ヤイバの献身   作:monmo

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総合評価が4000超えました。ありがとうございます!

加重平均が『7』を下回ったのは悔しいので、これからも高評価よろしくお願いします!


第三十四話

 

 

 

 

 

 峰田が蛙吹の下に辿りつけたのは、単なる偶然でしかない。切裂と切島、ファットガムが分断された後、自分達に襲い掛かってきた奴を逃げたトンネルの中に飛び込んでまで追いかけている途中で、彼は脳無に襲われている彼女を見つけたのだ。

 なんで屋敷の外にいた筈の彼女達が地下通路内にいたのか彼にはわからなかったが、状況はそれどころではなかった。

 

「梅雨ちゃん下がってて……ッ!」

 

「み、峰田ちゃん……っ!」

 

 今までに聞いた事のないぐらい低くて威圧感のある声を発し、峰田は頭からモギった2つのモギモギをそれぞれの手で持ち、素早く腕を振った瞬間にそのモギモギを4つに増やしてみせる。手の小さな彼には指先を器用に動かして、片方の手の平に2個のモギモギを持つだけで限界のパフォーマンスだったが、それで十分だった。

 蛙吹は舌から解放した未だに意識の戻らない麗日を、スーツの破けて血の滲んだ腕で抱き留めながら、マントを靡かせる彼の背を見上げる。4個のモギモギを両手に持ち、あの脳無に立ち向かうべく背を向けたままの彼を止めようと彼女が口を開くも、止める言葉は出てこなかった。

 

 普段の言動は褒められたモノではないかもしれない。

 

 ヒーローにはとてもじゃないが、不安を抱かせる性格だったかもしれない。

 

 女子である自分から言わせてみれば、最低のひと言で完結する人間だったかもしれない。

 

 

 

 

 

 けれども、その目に大粒の涙を溜めた蛙吹は初めて心の底から、彼を信じていた。

 

 

 

 

 

 そんな彼女の視線を背に受けて峰田は心に決意の炎を照らすも、今さっき己の拳で吹き飛ばした脳無の姿を思い浮かべ直す。

 

( USJでも、保須でも、真っ黒な肌のヤツは再生するヤバいヤツだった……! だったら目の前にいるアイツは……ッ!)

 

 今すぐにでも跳峰田からの連撃を浴びせてやりたいと意思に駆られるも、冷静に思考する峰田の視界の先。砂煙の晴れてひしゃげた壁と地面の剥き出しとなった広間に、脳無の姿はなかった。

 

「あぁッ!!?(いないっ!?)」

 

「峰田ちゃんっ! アイツは私と同じよッ! 周りの景色に擬態───

 

 その瞬間、無重力で浮かび上がったまま天井の見えない暗闇の虚空に擬態していた脳無が、無重力の解除と同時に蛙吹の脳天に向かって拳を振り下ろそうとしていた。

 

「───ッ!!!!」

 

 が、峰田の判断も早かった。脳無の姿が消えた事に、後ろにいる怪我人の麗日を抱えた蛙吹を狙うと予測し、片手のモギモギを1個だけ手元から弾き、手元に残っていたモギモギを軽く握り潰してから零す。

 そして、その落ちたモギモギを踏ん付けつつ弾いて滞空していたモギモギを掴むと同時に、膨張した足下のモギモギで後方に跳ね飛んだ峰田は、その勢いのまま脳無の腹へとロケットの如く突進して頭突きを当てた。

 

「フンッッッッ!!!!!!!」

 

 硬化した切裂ですら後退りを起こす、モギモギの反発力を利用した全身全霊の一撃に脳無の体が吹き飛ぶも、その身をしならせ腰まである髪の毛を振り乱しながら地面に手を当てて難なく着地。そして、ゆっくりと立ち上がりながら蛙吹の隣に着地した彼の姿を見て、その口を裂けて大きく開く。

 

「コ、こド、ココ……こド、も……!」

 

「喋っ……たッ!?」

 

 峰田としては想像もしていなかった、人造兵器らしからぬ仕草を前に動揺が走ったが、すぐになんとかして冷静さを取り繕うと、目の前の喋りながら大きく足を踏み出して近寄る脳無を前に、彼は手元に残っていたモギモギを上へと放り投げ、更に頭からモギモギをモギってジャグリングを始める。

 

(保須のヤツと比べモンになんねえッ! 喋るし、しかも……アイツはオイラに個性を教えようとしてくれた梅雨ちゃんを狙いやがったッ! 『考えて』やがる……ッ!!!)

 

 今まで見てきたタイプの特徴である、剥き出しの脳味噌に比べて思考は弱かった脳無が完全な自己判断で的確に動いている。

 目の前の脳無の脅威を、保須の個体とは完全に別物と引き上げた峰田の頬を汗が伝った。

 そんな状態でもジャグリングを続ける彼を目の前にして、蛙吹は麗日を抱き留めながら峰田に冷静に告げていく。

 

「峰田ちゃん……あの脳無……私と同じ『蛙』の個性に、お茶子ちゃんと同じ『無重力』にもできるみたいなの……! それに、手も伸びたわ……」

 

「……ッ! じゃあ今のは梅雨ちゃんの必殺技か……!」

 

「ええ……それに私にできなかった、移動しながら体色を変える事もできるみたい……!」

 

 もちろん個性の複数使用はわかっているつもりだったが、クラスメイト達と同じ個性を持っていると聞いて峰田は歯を噛み締める。彼女達の強力な個性の厄介さは、その目と身で十分に理解しているのだから。

 それでも、峰田は怖気付いたりなどしない。保須での戦いを糧に、彼は心身共に成長を続けているのだから。

 

「切裂も緑谷もいないんじゃ、アイツを力で抑え込むなんてオイラにはできねえ! 梅雨ちゃん……麗日を守ってて……っ!」

 

「……わ、わかったわ……!」

 

 気を失っている麗日を抱えたまま目の前の脳無と戦うのは余りにも危険すぎるし、逃げようとすればすぐさまこちらを狙ってくるだろう。蛙吹はその目の涙を拭いながら峰田の言葉に従い、彼女を背中におぶったまま舌で自分ごと簀巻きにして動きやすくすると、戦闘態勢の整っている峰田の後ろに隠れるようにして蛙飛びの構えに移った。

 対して、その様子を見ていた脳無はすぐさま襲い掛かろうとせず、目の前に立ちはだかる峰田の方を見て首を僅かに傾げた。

 

「チ、チが……ウ……か『核』のコ、ジ……じャ、ジゃナい……!」

 

(エリちゃんの事だな……!)

 

 小柄な自分の事を彼女と勘違いしたのか、思考すると言ってもまだまだ知能は低いのかと峰田は思ったが、それは向こうが自分の事を完全に敵として判断した合図。

 

「ケロ……来るわ……っ!」

 

「ハ、はィ……は、排除……!!」

 

 そう言いながら大きく振りかぶった脳無の両腕が同時に伸び、峰田と蛙吹の立っていた場所に遠心力を込めて振り下ろされる。

 

「「ッ!」」

 

 瓦礫ごと地面が吹っ飛んだ広間の床から同時に跳ねて脳無の腕を避けた峰田と蛙吹に、腕を振り下ろした脳無が目で追ったのは峰田だった。

 腕を縮めて戻しながら脳無は尻尾をしならせて、両足で跳躍しながら元々長めの尻尾を更に伸ばして峰田を叩き落とそうと、鞭の様に空気を振り抜く。

 

「ジャンブルッ!」

 

 しかし、峰田は空中で手元のモギモギを膨張と同時に足で蹴り付け、急速的な機動変換を起こして脳無を尻尾を回避する。

 目を見開いた脳無は更に腕も伸ばして峰田を掴もうとするが、雄英高校ヒーロー科で随一の機動力の持ち主である彼を追って捕まえる事など、正攻法では不可能だ。

 

「グレープバスケットッッ!!!!」

 

 そのまま峰田は手元で循環させているモギモギを連続して脳無に投げつけ、膨張したモギモギが数個脳無の体に命中する。

 反射的に頭を庇おうとした腕にそのまま引っ付いたモギモギを脳無は払おうとするが、離れる気配のないモギモギを見ながら不思議そうに掴んだ。

 

「ハ……はガ、はガレ……ハ、がレナ、イ……!」

 

 掴んだ手すら粘着するモギモギを無理矢理剥がそうと苦戦する脳無に、峰田は空中から床に投げつけたモギモギの上に着地すると、反発力を活かした突進で再び脳無に吸着したモギモギへと激突した。

 

「跳峰田ロケットォォォォォォッッ!!!!!」

 

 力強い峰田の掛け声に反してボヨンと気の抜けた弾力音が響き渡り、峰田の数倍以上もある脳無の巨体が宙を待って弾き飛ばされる。

 そのまま再び壁に叩きつけられた脳無の体に吸着していたモギモギが、壁にまで接着して離れなくなった。

 

「コレでぇェェェッ!!!!」

 

 そう叫び上げながら峰田は頭と手元のモギモギを合体させ、集結させたモギモギボールを片手で撃ち放とうとしたが、ソレを目で捉えた脳無は胸元から自らの表皮を破いて剥がし、体に付着したモギモギごとその皮を脱ぎ捨てる。

 

「ッ!(また『脱皮』かよォッ!!)」

 

 その様子を捉えた峰田も、止まる事はできない。表皮を脱ぎ捨てて彼から退避しようと飛び出した脳無の尻尾の部分だけを、彼の手から急激に膨張したバルーンが捕らえた。

 

「ネ、ねン、粘着……! キ、きョ、きき強力な、ナ……!」

 

 しかし脳無は自らの尻尾をトカゲの様に千切らせてバルーンの拘束から逃れ、峰田の高速戦から飛び退いていた蛙吹に狙いを定めて飛びかかる。

 

「ケロぉッ!!?」

 

「うぉォォォッッ!!!!!」

 

 しかし、バルーンにそのまま埋まった峰田が反発で飛び出し、急角度で脳無に肉薄しながら奴の後頭部に拳を振り下ろし、その突撃を叩き落とした。

 しかし、人並み以上とは言え所詮は5歳児からの延長線でしかない彼の腕では、腕力だけで脳無に致命打は与えられない。

 

「ハ、ハは……ハや、ハ、ハヤい……!」

 

「く……ッ!(やっぱムリか……ッ!!)」

 

 頭を殴りつけられて地面に伏せられるも、亀裂が走る程の力で地面を押さえて立ち上がる脳無に、峰田はすぐさま飛び退いてモギモギを数個、脳無へと投げつけながら蛙吹の隣に着地する。

 

「梅雨ちゃん大丈夫ッ!!?」

 

「ええ……! いったい、いくつ個性を持ってるのかしら……?!」

 

 焦燥を漏らす2人の目の前で、脳無は千切れた尻尾を再生しながら歩き出す。その一歩一歩の足音が鳴らない静けさに合わせ、奴の感情の窺えない眼力に身震いを起こす。

 お互いに睨み合いを始めながら、峰田と蛙吹が後退りを始めようとした、その時だった。

 

「……ゲホ……っ、ゲホッゴホンッ!」

 

「お茶子ちゃんっ!」

 

「麗日!?」

 

 蛙吹に背負われていた麗日が咳き込みを繰り返して目を覚ましたのだ。

 しかし、2人が彼女に気を取られてしまった瞬間に脳無が姿勢を低め、蛙飛びで飛びかかりながら大口を開けた中から飛び出す舌を、峰田に向かって伸ばした。

 

「うおォッ!!?」

 

 ジャグリングするボールもなかった彼はそのまま横に飛び退いて脳無の舌を回避し、蛙吹は蛙飛びで大きく交代しながら背負っている麗日に叫ぶ。

 

「お茶子ちゃん! お茶子ちゃんっ!!!」

 

「こ……ココは───ッ!!?」

 

 蛙吹に何度も呼びかけられて意識を覚ました瞬間、麗日は目の前にいる脳無と高速戦闘を繰り広げる峰田を見て、咄嗟に舌で巻かれたまま蛙吹に手を触れて彼女に叫んだ。

 

「梅雨ちゃんッ!」

 

「ケロッ!?!!」

 

 意識の覚醒と同時に叫んだ彼女の目の前、麗日に集中していた蛙吹の体が跳躍と同時に無重力となって浮き上がり、巨大な鞭の様に畝らせた脳無の尻尾による薙ぎ払いを回避する。

 

「解除ッ!」

 

「ケロォッ!」

 

 天井が見えないこの広間では、宙に浮いているだけでは無防備になってしまう。速やかに個性を解除しつつ、麗日は蛙吹の舌を緩めて背中から飛び出し、脚部のワイヤーを射出して急速に地面へと滑り込む。更に蛙吹も彼女に続いて瓦礫に舌を絡ませて、速やかに地面に降り立つ。

 

「モ、モウ、モ……もウヒト、り……オ、おン……ナ、オンナのコ……!」

 

 目を覚ました麗日を注視しながら、脳無は薙ぎ払った尻尾を縮めて再び両手を広げ、蛙吹と麗日の2人を捕まえようと腕を伸ばす。

 

「オラァァァァァァァッッッ!!!!!」

 

 そこにジャグリングのモギモギを増やして戻ってきた峰田が、手元でジャグリング中のモギモギを全て上へ投げると同時に空中から脳無を地面に向かって両足で蹴り付ける。

 頭から地面に向かって顔を突っ込んだ脳無の腕の勢いが弱まった瞬間、麗日は自分を無重力にしてからのエアーブースターで脳無に接近。そのまま脳無の伸びた腕に触れて無重力にした。

 

「梅雨ちゃんっ!!!」

 

「ケロォォッ!!!」

 

 そこに蛙吹が伸ばした舌を脳無の腕に巻きつけ、巴投げの要領で力強く奴の体を引き寄せて投げ飛ばし、亀裂を走らせる威力で床に叩きつける。

 瓦礫と破片を巻き上がる一撃で脳無の体が跳ね上がった最中、最後に峰田が空中に散らばったモギモギを全て回収して合体させ、全身を反らせた勢いで脳無に投げつけた。

 

「くらえぇェェェェッッ!!!!!」

 

 投擲の直後に膨張したバルーンが脳無を押し潰そうと緊迫するが、空中を舞った脳無は自身を無重力にさせると同時に両腕を伸ばした手で金属の床を乱暴に掴み、その地盤ごと畳返しの如く捲り返してバルーンを防ぐと同時に地盤を蹴り付け、広間の壁に張り付いた。

 

「わ……私の『無重力』ッ!!?」

 

「気をつけてッ、まだほかにも個性を持ってるわよッ!!!」

 

 驚く麗日に蛙吹が彼女を庇う様にして前に立つ2人を無視して、脳無は峰田を睨みつけていた。

 

「ツ、ツよ……イ、きキョ……脅威、ジ、じょ、上昇……ゥ! ハイ、ハ、はハ……排除……シ、執行……!」

 

 途端、まだ滞空していた峰田に飛びかかった脳無の4本指の爪が一気に伸び広がり、鎌の様に照らつかせた刃で彼へと横薙ぎに振り抜いた。

 

「うおぉぉッ!!?」

 

「峰田ちゃんっ!!」

 

 瓦礫ごと巻き込んで地面を切り裂いた一撃を、咄嗟に彼は体を捻らせて避けたが、その切先は彼のマントを無惨に破いて頬やズボンを掠らせる。

 

「くッ…………ぉおォォォッ!!!!!」

 

 モギモギも数個爪に奪われるも、峰田は手元で循環させるモギモギを使って大きく跳ね上がる事で、腕の振り返しで連続する脳無の爪による薙ぎ払いを回避したが、今度は足の爪を伸ばして地面に着地と同時に固定した脳無から伸びた尻尾が丸ごと大きな刃となり、バク転と同時に彼を輪切りにしようと振り上げた。

 

「峰田ちゃんっッッ!!!!!」

 

 地面や壁にまで斬撃痕を残す尻尾の刃の一撃を蛙吹の舌に引き寄せられて回避した峰田だったが、縮めるのに遅れた彼女の舌が切り付けられて血が飛散する。

 

「ケろ……ッ!!?!?」

 

「梅雨ちゃッ!?! テぇンメぇェェェェェェェェェェッッッッ!!!!!!!!!」

 

 蛙吹の舌から飛び出し、叫び上げながら峰田が頭のモギったボールのひとつを圧縮してから投擲し、バスケットボールサイズに膨らんだモギモギがバク転から着地しようとしていた脳無の足に付着する。

 しかし、地面に接着させられた脳無は未だに麗日の個性で無重力状態にも関わらず、背中側から破いた皮膚から飛び出し、モギモギを脱ぎ捨てて空中に逃げる様にして飛び出す。

 

「無重力なのに、あんな……!」

 

「まだぁァァァァァァァッッッっ!!!!!!!!」

 

 それでも、峰田はジャグリングを復活させると同時に脳無の脱ぎ捨てた皮に付着していたモギモギを踏ん付け、反発力で瞬時的な超加速を起こしながら脳無の顔面に肉薄。

 

「シ、ねェ……ッ!!!」

 

 しかし、脳無は無重力で上下反転しながら腕の爪4本を峰田に向かって貫かんと伸ばした。

 

「峰田ちゃんッッッ!!!!!!!!」

 

 蛙吹の悲鳴が響き渡る中、彼は回避にモギモギを使う事なくその身で脳無の爪を受け止めた。

 

「グぅゥウ゛ぅぅゥゥゥゥゥゥッッッっッッ!!!!!!!!!!」

 

 小柄な峰田の体に、脳無の1本の爪先が、彼を捉える。

 

 だが彼はその爪を右手で受け止め、咄嗟に逸らす事で心臓への直撃を防いだ。

 

 峰田の手の平を貫いた爪先は、そのまま彼の右腕の二の腕まで深々と貫き、その鮮血が脳無の鉛色の爪を赤く染めた。

 

「……へっ!」

 

 破れたマントも、ズボンも赤く染めながら、彼は眼前の脳無に笑ってみせた。

 

 その時にはもう、彼の左手の手元には合体させたモギモギが収まっており、峰田は目と鼻の先にいる口を開こうとした脳無の口内へとモギモギを押し付けた。

 

「いっッッけ゛ぇェェェェェェェェェェッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 膨張と同時に峰田の腕から反発したバルーンに弾かれ、バウンド音と同時に彼の小柄な体が吹っ飛ぶ。

 対して脳無は口元を大きく裂かせ、バルーンの反発力に無重力状態では耐え切れず、そのまま押し飛ばされた。その先にあったのは直前の地盤で防がれてしまった、もうひとつのモギモギによるバルーン。

 

 正面と背後のバルーンに挟み撃ちにされ、脳無の姿がバルーンに飲み込まれながら地面を大きく転がり、壁にぶつかって止まった。後に残ったのは、瓦礫の付着した2のバルーンの間から、脳無が奇声を上げながら暴れようと悶える音だけだった。

 脱皮で逃れる先も潰された脳無を前に、地面を転がって蛙吹に受け止められた峰田が、血みどろの手で大きくガッツポーズを決めた。

 

「オッシャぁあァァァァァァァッッッ!!!!! あいでデデデデデデっッっッッ!?!?!!!?!」

 

「やったっ!!!」

 

「峰田ちゃんッッっ!!!!!!」

 

 反発で脳無の爪が一気に引き抜けた事で、峰田の手の平から腕まで一気に鮮血が舞い上がり、すぐに蛙吹が抱きかかえながら彼の腕を確認する。その自分の胸元が彼の頭に密着していても、彼女は気にも留めなかった。

 

「動かないで峰田ちゃんっ! 今、包帯を巻いてあげるわっ!! お茶子ちゃん手伝って!」

 

「う、うんっ!」

 

「いッ、今になって痛くなってきたぁ……ッ!」

 

 ドクドクと二の腕から鮮血の流れ出る峰田の小さな腕に、蛙吹と麗日の2人がかりで手早く処置を始めていく。

 

「峰田ちゃん、無茶しすぎよ……!」

 

「へへ……でも、よかった…………!」

 

 安心する峰田を抱えたまま、少し強めの声色で心配しながら彼の腕に包帯を巻く蛙吹を見て、麗日は彼の手を処置しながら、彼の親友である切裂の姿を彷彿させる。

 

「……ありがとうね……」

 

「あ、ぉう……」

 

 そんな素直な彼女のお礼に、彼は少しだけ戸惑っていたが、誤魔化す様にして峰田は処置の終わった包帯で固定された右腕を確認する。少しだけ包帯からは血が滲んでいたが、痛みは少し治まった。

 

「コレじゃ普通の『ジャンブル』はできないか……」

 

「傷口大きいから、動かしちゃダメだよ?」

 

 麗日の言う事を聞きながら、彼は思い出した様に2人へ交互に顔を向ける。

 

「でも梅雨ちゃん、どうしてココにっ? 麗日も……!」

 

「そ、それが……外でいきなり地震が起こって……」

 

「建物の外が崩れ落ちちゃったのよ……お茶子ちゃんも私を助けようとして……」

 

 戸惑いながら答える2人に、峰田はまだ危機が去っていない事。そして自分達の目的がまだ達成されていない事を察知した。

 彼は処置の終わった腕を押さえ、蛙吹の胸元から飛び出す。

 

「こうしちゃいられねえ!」

 

「えっ!?」

 

「峰田ちゃんっ!?」

 

 驚く2人を前に、彼は地面に立ってみせると、振り返った。

 

「2人も来てくれ! 早くエリちゃんの所に───

 

 その瞬間、脳無を拘束していた彼のモギモギによるバルーンが、青白い炎で燃え上がった。

 

「ッ!?」

 

「ケロッ!?」

 

「は……?」

 

 成分は髪の毛と同じモギモギは瞬く間に燃え広がり、その蒼炎の中から脳無が平然と顔を出す。

 

「オイ……ウソだろぉォォォォっッッ!!?!!!?」

 

「ニ、ニガ……にガサ、なイ……!!」

 

 その炎を気にもせず、ニタニタと笑いながら3人を見下ろす脳無の口から炎が漏れていた。

 

「クッソッ!(こうなったらッ、アイツの脳味噌に1発ブチ込むしかねえッ!!!)」

 

「炎まで……!?(無重力でも動き回るのに……どうしたら……ッ!)」

 

「くッ……!(せめて峰田ちゃんとお茶子ちゃんだけでも……っ!)」

 

 3人の思いが瞬時に交錯する中、脳無は大口を広げた喉の奥から青白い光を収束させて、蛙吹へ顔を向けた。

 

「「梅雨ちゃんッ!!!」」

 

「ケロッ!」

 

 咄嗟に峰田と麗日が彼女を庇おうと、それぞれの個性で動き出そうとした、その時だった。

 

 広間の無数に空いた穴のひとつから、空間を歪ませる程の斬撃波が飛んできたかと思った瞬間、脳無の弱点である脳味噌ごと上半身を縦に真っ二つに切り裂いた。

 

「ガッ!!!?!? ……ごッ、ぁ……エ……、な……ナニか……へ、ン……………………」

 

 縦半分となってダラリと垂れ下がる頭を裂けたまま、蒼炎を散らした脳無は両膝を打ち付けて地面へと豪快に倒れた。断面からは半壊した脳味噌を零し、夥しい脳漿と血とも思えない体液を辺り一面にブチ撒けて、数度かの痙攣の内に脳無は動かなくなった。

 

「き、切裂ぃッ!!?」

 

「切裂くんっ!?」

 

 その斬撃波を1番身近に見てきた峰田と、期末試験で初めて見る事になった麗日が彼の名前を呼んだが、返ってきた声は彼ではなく……しかも男ですらなかった。

 

「フフッ、ゴメンなさいです……♪」

 

 暗闇から聞こえたと同時に穴から広間へと飛び出して3点着地を決めた正体に、その姿を見た麗日と蛙吹の声がすぐさま交錯する。

 

「「トガヒミコ!!!!!」」

 

 林間合宿以来、遭遇する事のなかった3人が再び相まみえる。蛙吹と麗日には、一瞬の油断も存在しなかった。

 

 しかし、この場には彼女達よりも驚愕する者がいた。

 

 

 

 

 

 史実において、最後まで彼女と相対する事のなかった少年。

 

 

 

 

 

 峰田が彼女と出会ってしまったのだ。

 

「あ……あァッ!!!?!!? おお、おっ、オマエッ!!!!!!!!」

 

「峰田くん!?」

 

「峰田ちゃん!?」

 

 尋常ではない峰田の動揺に、蛙吹と麗日の2人も彼に視線を逸らした。

 しかし峰田は自身の驚愕をひとまず頭の隅に追いやり、冷静に直前の出来事を分析する。

 

「今の……切裂の個性だよなぁ……!!!!」

 

「ッ!!?」

 

 そのひと言に蛙吹も気付き、彼女への警戒を引き上げた。

 

「切裂くんをどこにやったのっ!!」

 

 半信半疑だったが、それでも彼に何かがあったんじゃないかと予想した麗日は、目の前のトガに叫んだ。

 そんな怒りを向ける彼女に対し、トガはアッサリと3人に真実を答えた。

 

「ヤイバくんはマグ姉のトコロです……」

 

「は?」

 

「ケロ……!?」

 

「ヤ、ヤイバくん……!?」

 

 その言い草に、三者三様の驚きと困惑を入り混じらせた彼女達に対し、トガは普段の半開きの歯を見せる時と違う、優しい笑顔を見せた。

 

「脳無の役割は終わりました。荼毘くんに渡すデータも揃ったので、敵連合はこれにて失礼します。もう1体はソッチでお願いしますね♪」

 

「ま、待てッ!」

 

 峰田がモギモギを構えようとした直後、更に彼女が出てきた穴とは別の場所から人影が飛び出した。

 

「トガちゃんっ! 何やってんのっ!?! いつもの気まぐれだろっ!! 探したぜッ! 心配だったのよっ!!」

 

 穴から飛び出して軽やかな足取りで地面に着地したのは、これまた敵連合の構成員である、全身黒とグレーのスーツで覆い隠した男。トゥワイスだった。

 

「アイツは……!」

 

 会議の時の写真を思い出した峰田が声を漏らしたが、目の前のトゥワイスは3人に構わずトガに向かって不満を漏らし続けていた。

 

「ったくッ! せっかくの分身達も、あのマウントレディってヤツに全部押し潰されちまったッ! ヤクザ使えねーよッ!!」

 

「そうですね仁さん。逃げちゃいましょうか」

 

 そう言って彼女の姿が麗日と瓜二つになったかと思えば、トゥワイスと自身に手を触れるなり地面を蹴り付けて浮き上がった。

 

「ケロッ!?」

 

「なっ!?」

 

「個性まで……!?」

 

 動揺した3人に構わず、そのまま上昇していく2人は手を振りながら彼女達から離れていく。

 

「アバヨ雄英の学生共ッ! ブッ殺すッ! まったね〜っ! 覚えてやがれっ!」

 

「また、どこか出会えるといいですねっ、お茶子ちゃん! 梅雨ちゃんっ!」

 

「待ちなさいッ!」

 

 すぐに麗日が腕からワイヤーを伸ばしたが、彼女と同じ姿をしたトガと、ヘラヘラ笑っているトゥワイスが互いに体を弾いてワイヤーを回避し、そのまま別々の穴へと逃げてしまった。

 

「な、何しに来たのかしら……?」

 

「助けに来たとは思えないし……!」

 

「そもそも、脳無はアイツらのだろ!? なんでアイツが……!」

 

 そこまで峰田が話した瞬間、広間の中で再び地震が巻き起こり、床が瓦礫ごと盛り上がった。

 

「なっ、何!?」

 

「また地震っ!?」

 

「ヤバいッ!!」

 

 その状況を確実に理解していたのは、峰田だけだった。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 信じたつもりなんて微塵もなかったが、それでも俺は走り続けた。

 

 地鳴りが激しくなってからは、確信を持って走っていた。

 

 八斎會の屋敷に突入してから、どれだけの時間が経ってしまったのかも曖昧だった。

 

 たった1人のイレギュラーによって計画の全てが狂わされ、大切な時間を消費された。

 

 それでも、俺は細く一直線に伸びる金属の板に囲まれた地下通路を走りながら、冷静に思考していた。

 

 マウントレディとロックロックがいるなら、入中に強襲されても凌ぐ事ができるハズ。相澤先生もいるなら、そのまま倒す事もできるハズだ。

 

 峰田がいれば、幹部の拘束に割く人員は警官だけで事足りる。治崎の個性では攻撃に回れる人間は少ないが、エリちゃんを守るならこれ以上ないぐらい頼もしい布陣になる。

 

 エアフォースを覚えている緑谷なら、致命打にはできないが治崎にも有効に立ち回れる。屋内戦なら峰田も撹乱に回れる。

 

 だから、それよりも早く……

 

 そこまで考えていた時、走っている通路の先の終わりが見えた。

 明かりに照らされた目の前には壁が広がっていたが、ソレが道を塞いでいる物だという事は、すぐに感じた。

 

 俺は両腕を構えて更に足を刃にして伸縮する瞬間、体内の血液が震えているみたいで、体が熱かった。

 

「フンッッっッ!!!!!!」

 

 反対側から地鳴りの聞こえたその壁を容赦なく切り裂き、硬化した体で崩れる岩盤を押し除けながらその先へと飛び込んだ。

 

 視界が明るくなって目が眩むも、手で日差しを作りながら大広間へと飛び出した瞬間、一気に血が巡ったように体が熱くて……そのまま俺は治崎の棘が飛び交う戦場に飛び込んだ。

 

 巨大な大広間が広がった、砂埃と地鳴りが巻き起こる戦場の先……

 

 

 

 

 

 サーがたった1人で、治崎と戦っていた。

 

 

 

 

 

「ブレイズ……!?」

 

「あのガキ……!?」

 

 俺の飛び出したすぐ近くに、マウントレディとロックロックが驚いている声が聞こえたが、構う暇もなかった。

 

 全てはこの瞬間のためだったのだから。

 

 サーの目の前にまで、治崎の個性によって構築された棘の柱が何本も迫る。

 緑谷の姿が見えたが、彼も治崎の個性による棘と柱で退けられていた。

 

 まだ治崎は俺に気づいていない。

 

 例えサーに、この先の未来が見えていなかったとしても……

 

 

 

 

 

 まだサーは通形先輩がヒーローになる瞬間を見届けていない。

 

 

 

 

 

 予知を覆す俺を見つけてくれた、彼のためにも……

 

 

 

 

 

 サーには予知じゃなくて、その目で見届けてほしい。

 

 

 

 

 

 通形先輩がヒーローになる瞬間を……

 

 

 

 

 

 彼自身がヒーローになる瞬間を……!

 

 

 

 

 

 オールマイトを救える可能性を持つのは、アンタが1番なのだから。

 

 

 

 

 

 イレギュラーである俺にも気づけなかった、彼を救う方法を考えついた人なのだから。

 

 

 

 

 

 アンタがオールマイトを救うんだから……!

 

 

 

 

 

 アンタがオールマイトのヒーローになるんだから……ッ!

 

 

 

 

 

 アンタは……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタはまだココで死ぬ運命じゃねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「───ッ!!?!」

 

 サーに迫り来る金属の棘を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その硬化した身を挺して、弾き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 棘は俺の体でヘシ折れて、残骸へと還っていく。衝撃だけは受けたものの、刺突に特化した棘は大した威力ではなかった。

 

「あぁアァァァァァァァァッッッ!!!!!!!!」

 

 更に迫り来る金属の棘を両腕の刃で払い除け、俺は治崎に向かって両手の平の指を交差し、狙いを定めて一気に反発を解き放った。

 

「発泡斬撃波ッッッッ!!!!!!!!」

 

 乱れ飛ぶ斬撃波が周りの瓦礫も巻き込んで棘と柱を破壊し、直前まで入り組んでいた大広間の戦場が一気に見晴らしの良い空間となった。

 

「ブ……ブレイズ……!」

 

 そして砂埃の舞い上がる俺の後ろでは、あともう少しで未来を途切れさせてしまう所だった、片膝をついているサーが俺の背中を見上げていた。

 

「ハァ、ハァ……! サー……生きてますか……!?」

 

 息を荒げながら振り返ると、彼の視線は俺の事を真っ直ぐ見遣っている。サーの個性は発動すると瞳が変わるハズだが、アレは演出でしかなかったみたいだ。

 

「あ、ああ……!」

 

 この状況下で、サーは笑っていた。

 

 彼に、俺はどんな風に映ったのだろうか。

 

 気にはなったが、それを聞いている場合じゃない。

 

 サーを守れた。

 

 だが、それだけじゃダメだ。

 

 奴も倒さないと、未来を完全には変えられない。

 

 ココからサーを守りながら、治崎を倒さなきゃならない。

 

「切裂くんっ!!!!!」

 

「っ!?」

 

 次に聞こえたのは緑谷の声だった。

 フルカウルの稲妻を纏わせながら、障害物のなくなった俺とサーの所に着地した彼は、俺に再会できた事にこれ以上ないぐらいの笑顔を見せた。

 

「よかった……無事でっ!」

 

「うん……っ!」

 

 俺は彼と顔を合わせながら、速やかに状況を確認する。

 

 最強の相澤先生がいない。たぶん、あの玄乃とかいうヤツに取られちまったみたいだ。

 

 エリちゃんの姿は、広間の壁際に固まっているマウントレディとロックロックに守られていた。

 様子を見る限り、2人は軽傷。ただ治崎の個性のせいで、満足に近づく事すらできていない。マウントレディは大きくなったら、触ってくださいと言っている様なものだし、ロックロックも地形を『施錠』したところで、分解で上塗りしてからの再構築で動かせてしまう。

 よく見れば、マウントレディの体には何本も、細い棘が突き刺さって血が滲んでいた。

 

 切島、天喰先輩、ファットガム、バブルガール、センチピーダーがいない。なんなら、あの警部さんもいない。おそらく、入中によって分断されてしまったのだろう。だが、今は何も起こっていないのを察するに、捕まえる事には成功したみたいだ。

 

 なのに、1番肝心な峰田がいない。どうしていないのかは、緑谷に聞く必要がある。

 

 何より……マウントレディとロックロックが守る様にして間に倒れているのは、白いコスチュームの破けて血みどろになってしまった通形先輩だった。

 透過で全てをすり抜けられるハズの先輩が、大怪我をしている。

 

 

 

 

 

 通形先輩に撃たれる個性破壊弾は、間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 俺の個性で通形先輩の後を追い続ければ、先輩の未来を変える事ができたかもしれなかった。

 それがマグネとの遭遇で完全に狂わされた上、彼女と対話までしてしまった。トガちゃんの事を話されては、聞き逃すワケにはいかなかった。

 

 そして、奥歯を噛み締めた俺の目の前には、その全ての元凶を作ったヴィランが立っている。

 

「チッ! 殺ったと思ったら……また邪魔が……!」

 

 それは治崎である事に間違いないが、最初に会った時の奴の姿とは大きく人間から逸脱している。

 普通の腕に付随して筋肉繊維が丸出しの肥大化した腕がもう一対生え、顔には太い血管が浮き出ており、ペストマスクは本当にカラスの嘴みたいに裂けていた。

 

「あのオカマ野郎は満足に仕事も果たせなかったようだな……役立たずめ……!」

 

 その口振りから、やはり彼女は最初から俺を狙って八斎會に潜伏したのだろう。当然だったが、治崎がマグネの真意なんて知るハズがない。

 

「緑谷くんッ! 峰田くんはっ!!?」

 

「……わからない……! 八斎會のヤツらと戦ってる内に、みんなどんどん離れ離れに……!」

 

 入中の個性に巻き込まれたようだ。ココに来れるかはわからないが、みんなを信じるしかない。

 後ろにいるサーはまだ俺に驚いていたが、治崎の声を聞いた瞬間、またいつもの冷静な視線と態度を取り戻して俺の後ろから立ち上がる。余程の激戦だったのか、白いスーツはネクタイまでボロボロだったけども、その指で押さえる細いフレームの黄色いメガネはまだ無事だ。

 

「ブレイズ、エリちゃんはミリオが保護する事に成功した。が……彼は重傷だ。私の『超質量印』も底をついた今、治崎に真っ向から対抗できるのは遠距離攻撃手段を持つ君とデクだけだ……!」

 

「「はいッ!」」

 

 俺と緑谷は同時に返事をすると、拳と刃を化け物と化した治崎に向かって構える。

 

「諦めろ……どの道、俺の言った通りになるだけだ。全員……死ぬ!!!!!」

 

「そんな事にはさせないッ! そう決まっていたとしても……その未来を捻じ曲げるッ!!!!」

 

「サー……マウントレディ……ロックロック……! エリちゃんと通形先輩を……頼みますッ!!!!」

 

 緑谷が治崎に、俺がサー達に叫びながら動き出すと、治崎は4本の手を地面に当てて見通しが良くなっていた大広間の床から一気に棘の柱を伸ばし、四方八方から串刺しにすべく畝らせる。

 

「小賢しいッ!」

 

「う゛う゛ゥッッ!!?!(分解でタイミングは測れるけど……避け切れな───

 

「発泡斬撃波ッッッッ!!!!!!!!」

 

 地鳴りを起こしながら構築される棘や針や柱やらが、一瞬にして大広間の地形を変えながら緑谷と俺をエリちゃん達ごと飲み込もうとするも、再び俺の広範囲による斬撃の波が一斉に広がり、構築されたそばから地面ごと抉って破壊していく。

 

「ぐうッッ!!?!? クソッッッ!!!!!」

 

 その破壊の波を縫って緑谷が瓦礫を蹴り付けて突撃し、治崎が更に構築する柱を拳で破壊して床から飛び立つ。浮遊も合わさって加速こそ出せないが、自由に滞空できるその能力は治崎の狙いを着実に狂わせた。

 

「どうなってやがんだァァッ!!!!!!!」

 

 叫ぶ治崎が更に棘の柱を形成して伸ばすも、その柱を蹴り付けて天井のパイプまで飛び上がり、更にそこから治崎の頭目掛けで反発した緑谷の踵落としが振り下ろされる。

 

「脳天一撃……マンチェスタァァァスマァ゛ァァァァァァァァァァッッシュッッッッッ!!!!!!!」

 

「グぅう゛ゥぅゥゥゥっッッ!!!!!!!」

 

 咄嗟に治崎は頭を振って直撃を避けたが、代わりに右腕を2本そのまま緑谷の踵で砕かれ、ダラリと垂れ下げる。すぐさま奴は残った腕で彼を掴もうとするが、飛び退いた緑谷の真下を通過するようにして俺の斬撃波が飛来し、治崎の左手2本を刎ね飛ばす。

 

「グぉオ゛ぉォォおォの゛れ゛ぇェェェェェェッッ!!!!!!」

 

 両腕を潰されてても、治崎は破壊された右腕と、左腕の余った腕の断面を再構築して1本の腕にするなり周囲を分解して針と棘を伸ばす。

 

「うわッ!!?」

 

「クッ!!!」

 

 緑谷は伸び上がる棘の柱を浮遊で回避し、俺は斬撃波を連打して棘を片っ端から破壊していく。

 それでも、治崎の手が緩まる事がないのはわかっている。奴はエリちゃんを絶対に諦めない。

 中途半端なダメージは再構築で回復される。痛みを与え続けるのも有効な手段だと思ったが、緑谷が保たない。精神と判断が鈍った瞬間を突いて、一撃で葬り去る必要があった。

 

「斬撃波ッッッッ!!!!!!!!!」

 

「エアフォースッッッッ!!!!!!!!」

 

 俺も棘や柱を捌きながら治崎に接近し、彼に狙いを定めて放った斬撃波と、エアフォースが治崎に綺麗に交錯する。

 治崎は周囲に壁を形成しようとしたが、ソレすらブチ破って金属と岩の壁ごと治崎を破壊の嵐に巻き込む。

 

「ぐオォォォォォっッッッ!!?!?!!!!」

 

 それでも彼の意識を奪う一撃までは至らず、再構築を続ける治崎の化け物の腕から歯の生え揃った口が現れて、勝手に喋り始めた。

 

『壊理ィィィィィッッッ!!!!!!!』

 

「っッ!?!!?」

 

 耳鳴りの様な煩わしい声が大広間に響き渡り、不意に顔を向けたエリちゃんがビクリと震えるのを、この目で捉えた。

 

『お前のせいでまた人が死ぬぞ!!!! コレが望みなのかァ!!? 壊理ィィッ!!!!!』

 

「聞いちゃダメッ、エリちゃんっ!!!!」

 

「オイ喋らせるなァッ!!!!!」

 

 マウントレディが数メートル程度に体格を大きくして、治崎からエリちゃんへの視界を遮り、ロックロックは彼女の両耳を塞いで俺達に向かって叫ぶ。この状況下で彼女を動揺させるなんて、悪足掻きもいい所だ。

 その間にも治崎は分解と再構築を繰り返しながら、俺と緑谷を串刺しか圧壊させようと棘と柱、壁まで構築して襲い続ける。

 

「お前等も壊理も、力の価値を分かっていない……! 個性は伸ばす事で飛躍する。俺は研究を重ね壊理の力を抽出し到達点まで引き出す事に成功した。結果、単に肉体を『巻き戻す』に留まらず、もっと大きな流れ……種としての流れ、変異が起こる前の形へと巻き戻す。壊理には、そういう力が備わっている……個性因子を消滅させ、人間を正常に戻す力だ! 個性で成り立つこの世界を……理を壊す程の力が壊理だ!!!」

 

「だから彼女を……あんな小さな女の子をッ、無理矢理利用したのか……ッ!!!」

 

 棘と柱を破壊しながら、緑谷は普段じゃ絶対に聞かない凄みのある声を漏らし、奴に向かって拳を構えた。今度こそ本気で治崎に向かって拳を叩き込むべく。

 

「壊理の価値も分からんガキに……利用出来る代物じゃないィッ!!!!!」

 

「ぐぅっッ!!!?!」

 

 しかし治崎の叫び声と同時に、緑谷に向かって今までの倍以上の棘の柱が集中していく。

 アレを緑谷1人で捌くのは無理だと、咄嗟に俺は自分に迫ってくる棘を硬化で弾きながら、治崎に向かって声を届かせる。

 

「だから……組長を寝たきりにさせたんだろ……!?」

 

「───ッっッッ!?!!!?!」

 

 途端、今までにないぐらい目を見開いた治崎が、棘の柱で狙い続けていた緑谷から顔を逸らし、俺に瞳孔の見開いた目を血走らせながら顔を向け、俺の方へ棘を伸ばした。

 

「自分の意向に従わなかったから……ッ!」

 

「黙れ…………!」

 

 その棘も硬化した体で弾き返し、刃で真正面から叩き切って治崎に接近する。

 

「ヒーローも極道も持ってた『優しさ』を……アンタは持ってなかったんだ……ッ!!」

 

「黙れェ…………ッ!!!」

 

「今の八斎會もッ、組長の理想なんかじゃなくて、結局はアンタの理想だろうが……ッ!!!」

 

「黙れぇェ…………ッッ!!!!」

 

 治崎の狙いが完全に俺に向けられ、緑谷を襲う棘の柱が無くなったと同時に、彼はフルカウルの上限を更に超えようと身に纏っていた雷光を更に激しくして、瞬かせながら治崎に飛び掛かる。

 

「アンタは侠客でも極道でもねェッ!!!!!! どこまで行ってもタダのヴィランだッッッッ!!!!!!!!!!」

 

「黙れェ゛ェえ゛ェェぇ゛ェエェ゛ェェェェッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 だが、俺と治崎が衝突する瞬間、大広間の床に亀裂を走らせるほどの地震が巻き起こった。

 

「うわッ!!?」

 

「グっッッ!!?」

 

「また地震ッ!!!?」

 

 足場が崩されて俺も緑谷も慌てて退避する中、治崎足下の地面を構築させて落盤から難を逃れている。

 完全に隙を突けた瞬間を無駄にしてしまったと、俺と緑谷が同時に息を吐くのと同時に、エリちゃん達の固まっている場所からすぐ近くの壁側が爆発を起こして吹き飛んだ。

 

「切裂ぃぃぃぃぃぃぃっっ!!!!!!!」

 

 そしてソコから、1番聞きたかったヤツの声が聞こえた。

 

「峰田ぁっ!!! ……えッ!!?」

 

 マントの破けて片腕には血の滲んだ包帯を巻いていたが、何とか元気な峰田が爆風の中から飛び出し、その後ろから更に見知った相手が2人も姿を現す。

 

「デクくんっ!! 切裂くんっ!!!」

 

「緑谷ちゃんっ! 切裂ちゃん……!!」

 

「うっ、麗日さんっ!? 梅雨ちゃんっ!!?」

 

 邸宅の外で活瓶と戦っていたハズの麗日と蛙吹まで出てきた事に、緑谷も目を丸めて驚いていた。

 リューキュウはいないのかと俺が声をかけるよりも早く、峰田が切羽詰まった声で叫んだ。

 

「離れろぉぉぉぉぉぉっッ!!!!!」

 

「えっ!?」

 

 同時に、聞きたくない音も聞こえた。

 

 不意に地鳴りに混じって地面から聞こえたモーターの駆動音と同時に、3人の背後から更に爆発と飛び交う瓦礫の奥から、峰田の数倍以上の巨体をした真っ黒な化け物が飛び出した。

 巨大な獣の体格に、不釣り合いなぐらい小さな頭の上には、同じぐらい小さな脳味噌が丸出しになった化け物。

 

「「脳無ッ!!?!?!」」

 

 俺と緑谷が同時に叫んだ脳無は、体の半分以上を占める程の胴体にまで広がった大きな口から、夥しい牙の中心から巨大なドリルを生やしていた。

 

 地下に入ってから頻発した地震は、削岩機となった脳無が地面を掘り進んでいた余波だったのだ。

 

 だから、張り込みや捜査じゃ誰も見なかったんだ。

 

 それだけではなかった。

 俺が緑谷よりも驚愕する事になったのは、その脳無の特徴。

 

 史実で見た事ない脳無には、慣れたつもりだった。

 

 だが、目の前の個体はソレを更に乗り越えてきた。

 

 紫色を僅かに帯びた黒い肌が所々破け、真っ赤な筋繊維が丸出し。目は黄色く残光して瞬いている。

 

 ヤツらが現れるのは、もっと後だ。

 

 史実に現れた脳無の中で、最強の一角。

 

 

 

 

 

 『ハイエンド』と呼ばれる個体だった。

 

 

 

 

 

 峰田と麗日と蛙吹を追って飛び出したのだろう、その脳無の視線は3人を捉えるのではなく、すぐ近くの1箇所で止まっていた。

 

「コ、こド、ココど……子供……オ、オンなノ、コ……!」

 

「喋ったッ!!!?」

 

 エリちゃんに顔を向けていた脳無が言葉を発した事に、緑谷が驚く。だが、俺はそれどころではない事を察した。

 

「み、ミツ、ミミみツ、ケた……ァ!!」

 

 脳無はマウントレディ達に守られたエリちゃんを発見するなり、四肢を折り曲げた勢いで彼女に向かって飛び出した。

 その時にはもう、怪我の処置を終わらせた通形先輩を背負っているサーが、脳無を睨みながら叫んでいた。

 

「マウントレディッ!!!!!」

 

「来るんじゃないわよッッ!!!!!!」

 

 大広間の中で数メートル程度に巨大化したマウントレディが突進してくる脳無に全体重を掛けた拳を振り下ろすも、その拳が命中する直前に脳無は地面に穴を掘って飛び込んでしまった。

 

「潜ったッ!?」

 

「ヤベぇッ!!!」

 

 地鳴りがすぐ近くに聞こえるのを感じたロックロックは、咄嗟にエリちゃんを抱きかかえて大きく飛び退こうとしたが、次の瞬間には地面から床を割って飛び出した脳無のドリルの切先が、エリちゃんを守る彼の腕を掠らせた。

 

「ぐあァァッっ!?!!!!」

 

「キャっ!?」

 

「ロックロックッ!!!!!!」

 

 高速で回転する巨大な削岩機に血肉ごと弾かれた腕からエリちゃんを手放してしまったロックロックに、ドリルを口内に収納した脳無は大きく怯んだ彼を巨腕で殴り飛ばすと、そのまま宙を舞っていたエリちゃんを牙を広げた大口開けて飲み込んだ。

 

 声を出す事もできないまま、エリちゃんの姿が脳無にひと口で消えた。

 

「しまッ!!?」

 

「何ぃッ!!?」

 

「俺に構うなァッ!!!」

 

「捕まえろォォォッ!!!!」

 

「クッソぉォォォォォォッッ!!!!!!!」

 

 エリちゃんを丸呑みにした脳無に、俺も緑谷も、峰田達や周りのプロヒーローまで一斉に飛び掛かったが、脳無は冷静に再び口内からドリルを吐き出し、地面に潜ろうと駆動音を響かせて回転を始める。

 

「返゛ぇせェ゛ェェエ゛ェェェェェェェェェッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 しかし、その誰よりも早く個性を使って脳無の掘ろうとしていた地面を、更に深くから支柱を伸ばして奴の巨体を押し飛ばし、瞳孔の開きっぱなしの治崎が自分の目の前へと脳無を転がした。

 

「やはり連合の狙いもコレだったが……クソッタレのウジ虫共め゛ェ……ッ!!!!」

 

「ニげ、ニニ……ニゲる……ジャ、ジャマ、マま……は、イ、排除……!」

 

 脳無は地面を転がりつつも治崎の形成した棘の柱をその巨体で破壊し、彼に向けて大口を開いた喉の奥から飛び出すドリルを回転させた。

 

「悪くない駒だったが……ご苦労だったなァ……!!!」

 

 ペストマスク越しに口元を歪ませる治崎の手に、高速旋回するドリルが触れる瞬間、彼は脳無を先端から分解した。

 

「コ……コワれ…………ェ?」

 

 金属の削岩機の部分に亀裂が走って崩壊し、それは脳無の黒い肌と赤い肉体にまで伝播して、赤い血潮となって治崎の前に飛散した。

 次に映ったのは、その血潮となった脳無が再び肉体となって治崎の体を再構築していく、悍ましい光景だった。

 

「あ、あぁ……!」

 

「……ッ!」

 

 俺も緑谷も、その姿と威圧感に身震いしながら息を呑んだ。

 地鳴りと砂埃が広がる目の前で、治崎は史実でも見た事のない、巨大な赤黒い肉塊の化け物の様な姿に変異していた。

 

『グぅ……ウ…………サ、最悪な、キっ……気分だ……クソがぁ……ッ!!!』

 

 上半身だけは人間のままだが、両腕と下半身が肉塊そのものとなっており、そこから足やら腕やら尻尾やらが無数に伸び広がり、吃りを繰り返す彼の声に、妙な甲高さや影が入り混ざっていた。

 

『イ……いいコだ、壊理……!』

 

 そして、異形の怪物と化した治崎の腹の真ん前には、脳無に飲み込まれたハズのエリちゃんの姿が現れ、治崎の下半身から伸びる肉と骨の檻で拘束された。

 

「エリちゃんっ!!!!」

 

 緑谷が叫ぶが、エリちゃんは目を閉じたまま反応しなかった。治崎が再構築しようとしないのを見るに、気を失っているに違いない。

 

「オイ、アレ……大丈夫か……?」

 

「脳無なんて融合するから……!」

 

 エリちゃんも心配だったが、明らかに治崎の様子がおかしかった。緑谷と俺から何度もダメージを受けていたから再構築と同時に合体したのだろうが、人間からかけ離れてしまった脳無の特徴を引き継いでいる様に見える。その再生能力も、馬鹿力もだ。

 

「ゼェ、ゼェ……ッ! どうなってやがるナイトアイッ!!! コレもお前の見た未来かッ!?!」

 

「違う……! 既に未来は変わっている……ッ!! だが、治崎がエリちゃんを取り戻した今……奴には……!」

 

「今説明してる場合じゃないでしょッ!!! どうやってあの子を救い出すのか、考えてッ!!!!」

 

 背後で負傷したロックロックと、通形先輩を背負っているサー、そしてマウントレディが会話しているのが聞こえたが、彼女の言う通り今はサーの未来に頼っている場合ではない。

 今ここにいる全員で一斉攻撃を仕掛け、届いた誰かがエリちゃんを助ける。その思いが奇跡的に一致したか、ほぼ同時に大広間にいた俺達全員が治崎に飛びかかった。

 

「フーーッ、フゥーーッ! ……キ、消えロ……!!」

 

 しかし、怪物となった治崎は黄色く光る片目を瞬くと、肉塊から伸びた大木の様な腕を何本も地面に伸ばして手を付け、先程と比べ物にならない勢いで棘と柱が伸び広げて、全方位から俺達へと襲いかかった。

 

「クッっッ!!!!!!」

 

「チクショオぉォォッッ!!!!」

 

「キャァアァァァァッッッッ!!!!!」

 

「梅雨ちゃんッ!!!!」

 

「ケロッっ!!?」

 

「デクくんッ!! キャッ!!!?」

 

「麗日さ───うわッッ!!?!?!」

 

「グぅウ゛う゛ゥぅ゛ゥゥゥゥッッっッ!!!!!!」

 

 みんなの悲鳴が聞こえ、爆音と同時に隣にいた緑谷の姿も見えなくなったが、俺は硬化した体で無理矢理棘の中を破壊して通り抜け、巨大な手足を操る治崎の側面に飛び出した。

 

「し、シし、しつコい゛ィッッ!!!!!」

 

 すぐに気付いた治崎が此方に体を向けながら、何本もの腕を伸ばして振りかざすが、その腕に斬撃波を飛ばして断ち切り、俺は棘の柱を飛び回って治崎の腕と構築される棘を回避する。 

 そして、奴の目の前から少し離れた所に着地した時、背後で瓦礫となった棘の柱が崩れる音と、蛙吹の声が聞こえた、

 

 

 

 

 

「……み、峰田ちゃん……?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 振り返ると、そこにはうつ伏せのまま動かなくなった峰田が、蛙吹の起き上がった目の前に倒れていた。

 彼に押し飛ばされたのだろう、蛙吹はそのまま四つん這いになって彼の前に這い寄って、その肩を掴んだ。

 

「ッ……峰田ちゃんッ!!!」

 

 蛙吹が飛びついて抱き起こした彼の下半身には、何本も治崎の棘が突き刺さっており、そこから血が流れ出ていた。

 

「イ゛ィ……っデぇ……ッ!! マジで尻の穴増やすトコロだったぜぇ……ッ!」

 

「峰田ちゃんッ! 動いちゃダメよッ!!」

 

「シ、シにゾ……死に損なイ、がァ……ッ!!!」

 

「ッ!!!!!!!!」

 

 そこへ更に治崎が追撃をかけようと伸ばした手を、俺は斬撃波で刎ね飛ばしながら奴に接近した。

 

「オ゛ラぁ゛ァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

 

「グぅゥゥッ!! ぐ、クそぉォォッっ!! 再構築できると言っても……ブ、ブン、分解する瞬間は痛いんだぁァァァぁァァッッッ!!!!!!!」

 

 怒りに叫び上げながら治崎は腕を再構築して地面に手を当てようとしてきたのに対し、俺は奴に向かって両手の指を交差して手の平を構えた。

 

「フンッっッ!!!!!」

 

 その瞬間、治崎は腹で守っていた檻を開いて、拘束されたままのエリちゃんを俺に見せつける。

 

 でも、散々見せつけて印象付けた必殺技だ。そうしてくるのは読めていた。

 

 俺は跳躍と同時に交差していた手を治崎本体ではなく、奴の足元に向けて一斉に斬撃波を放った。

 

「何ィぃッッ!?!!!」

 

 前足を地面の瓦礫ごと切り裂かれ、前のめりになった治崎は、瓦礫を破壊して舞い上がった砂埃を顔に受ける。

 

「ぐハあァァッ!!?!! ゲホッっ、げェホッッ!!! ぐぞッっッ、ゴホんっッッ!!!」

 

 それでも残った腕で床を付き、倒れるのだけは防いだがその地面を押さえていた腕に飛びついて駆け上がった俺は、咳き込みながら上半身を上げて砂煙から姿を現した治崎に向かって飛び付き、手の指を全て刃にして奴の顔面を思いっきり引っ掻いた。

 

「グホぉォッっッ!!?!!?!」

 

「おぉッしゃぁァァァッッ!!!」

 

 治崎の黄色く光る眼球を潰す斬撃と同時に、あのムカつくマスク引っ剥がしてやった。コレで蕁麻疹だらけの御尊顔が丸見えだ。

 

「さすがに『無』から『有』は構築できねぇよなァッッ!!!!」

 

「キ、様ァ゛アァァ……ッッ!!!!!」

 

 煽る様にして目を閉じたままの治崎に罵声を浴びせながら、俺は治崎の巨体を蹴り付けて彼の巨腕から逃れると同時に斬撃波を腕に向かって飛ばす。

 しかし、ここに来て治崎は俺に執着するのを止めてしまった。

 

「エ、リえ……壊理は、テテ手に入った……モ、もう此処に……ヨ、用はねえ……!」

 

「ッ!!?!!!」

 

 そう吐き捨てた瞬間、治崎は腕を地面に付けると自分の立っていた足場をエレベーターの様に迫り上げて、そのままパイプやダクトだらけの天井へと到達する。

 瞬間、治崎の更に複数の腕が天井に触れたと同時に、鉄骨の剥き出しだった天井が中央から分解され、そこに陽の光が一気に差し込んだ。

 

 

 

 逃げられる。

 

 

 

 そう予測した時、俺も……そして緑谷も、判断は早かった。

 

「待てェェェェェェッッッッ!!!!!!!」

 

「緑谷ッ!?!!!!!」

 

 棘の柱の隙間から飛び出し、そのまま浮遊を始めた緑谷が治崎目掛けて一直線に飛び上がる。頭からは流血していたし、飛びながら血が飛散していたから、最初の一撃で浅くない重傷を負っていたのだろう。

 

「ア……諦めない人間ノ、のソ、底力は……ア、アナ、侮れない……!」

 

 しかし、治崎はそんな緑谷を見下しながら冷静に、足場から棘の柱や、棘そのものを打ち出して緑谷を叩き落とそうと翻弄し、その一撃が彼の肩を貫いた。

 

「があ゛ッッっ!!?!!!」

 

「緑谷ァァッ!!!!!!」

 

 迫り上がる足場を蹴り付けてなんとか駆け上がろうとする俺が見上げた先、緑谷が治崎の棘にブチ当たろうともエリちゃんを助けるべく、鮮血を散らして舞い上がる。

 俺もすぐに彼の背中を押してやるべく、壁を駆け上がろうとしたが、飛べない俺にはどうやっても今の彼を援護する事はできなかった。

 

 だが、そこへ俺に変わって彼の背を押すべく、いや……彼と一緒に並走する姿があった。

 

「デクくんっっ!!!!!」

 

「う、麗日さんっっ!!!!?」

 

 あの治崎の範囲攻撃を完全に回避したのか、無傷のまま無重力とエアブースターで大広間を飛ぶ麗日が、上昇する緑谷に追いついてその手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチン……と、2人の手が音を立てて、弾かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 途端、緑谷の姿が先程と比べ物にならないぐらいの超加速で飛行を始め、迫り上がる足場の上に立つ治崎へ一瞬にして追いついた。

 

「絶対にィ……諦めないっッッ!!!!!」

 

「メ、滅茶苦茶だ……ゴ、ご、ゴミ共がァッッ!!!!」

 

「させるかァァァッ!!!」

 

 治崎は足場から更に棘と柱を伸ばすも、俺が真下から放った斬撃波で全てを叩き切られ、そこに緑谷の顔面に向けてのエアフォースが放たれる。

 

「グホぉぉァァッっッ!!!!!」

 

 奴の怯んだその隙を狙って、俺も迫り上がり続ける足場を駆け上がり、治崎の目の前に飛び掛かる。

 

「しィ、シツッ、しツこ゛いィ゛ィィっッ!!!!!」

 

 すぐ目の前まで接近された俺と緑谷に、治崎は棘を再構築するのに精一杯だったが、ソレを空中で叩き壊しながら俺と緑谷は同時に叫ぶ。

 

 

 

 

 

「「エリちゃァァァァんっ!!!!!!!!!」」

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

 俺と緑谷の呼びかけに、彼女の閉じられていた目が、見開いた。

 

「はナぁ゛レろ゛ォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!!!」

 

 治崎は自分の生身の両腕すら分解して、再構築した化け物の腕を伸び広げて俺と緑谷を取っ払おうとしたが、俺は冷静に飛び退いて奴の腕を刎ね飛ばす。

 

「治崎ィィィィィィィッッッッ!!!!!!」

 

 緑谷の拳がその右腕を、怪物となった治崎に振り下ろそうとしたが、奴はこの状況下てもまだ冷静だった。

 足場から再構築された棘の柱が、緑谷を直接狙わずに逃げ道潰そうと仕掛ける。

 

「あっッ!!?」

 

 治崎の肥大化した手の平が、彼に向かって広がる。

 

「シぃィ、ネェ……ぐおォォぉッッっ!?!!?!」

 

 だがそれでも、緑谷に向けて個性を発動しようとした治崎の腕を、俺は飛び掛かると同時に腕の刃を限界まで伸ばし、奴の肩まで一気に刺し貫いた。

 

「グはァァァァッっ!!!!!」

 

「させるかァァァァァァァッッッッ!!!!!!!」

 

 全身全霊の俺の叫び声に、腕と肩を縫い付けられた治崎の体が揺らいだ。

 

「……馬、鹿め゛……!!!!!!」

 

 だか治崎の手は、それだけのダメージを受けても躊躇う事なく、俺の刃に再構築させた腕を伸ばして掴む。

 

 恐怖を感じた。

 

 それでも、俺は引く事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刃と化していた右腕が、破片と血潮を飛散させて弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界の半分以上が真っ赤に染まり、誰かの悲鳴が聞こえた。

 

「切裂くんッ!!!!!!!!!!!!」

 

 緑谷の叫び声が聞こえて、エリちゃんが俺を見ていた。

 

 今にも泣きそうな顔をしながら。

 

「フぁハッハッハッハハハッッ!!! ザマぁ見ヤッ───ゴぇッッッッ!!?!!?!!!」

 

 直後に間髪入れず俺の左腕が、嘲笑に口を歪ませる治崎の顔面を刃で貫いた。

 

「お゛……ごォ……ぇ…………ッ!!?!?!!?!!!」

 

「ぁァァア゛ぁぁ゛ァァ゛ァ゛ァァ゛ァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」

 

 脳まで刃が届いたせいか、治崎は飛び出さんばかりに見開いた眼球を不気味に震わせる。何をされたのか言葉にも発せなくなっていた奴を冷酷に見遣りながら、俺は左脚を刃にして蹴り上げ、エリちゃんの拘束部分を切り裂いた。

 

「エリちゃん……!」

 

 不安、焦燥、悲哀、様々な感情を織り交ぜた表情で、名前も教えていなかった俺を呼びかけようとする彼女に出来る限りの最大限の笑顔で、俺はウインクを見せて彼女を見送った。

 

 

 

 

 

 ───きっとまた会えるよ……! その時にサインあげるね!

 

 

 

 

 

 あの時と同じ様に。

 

 そして……俺は全力で叫ぶ。

 

「緑谷゛ァァァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 治崎の体から解放されたエリちゃんが暴風に吹き荒れる足場から放り出されるも、緑谷が難なく捕まえる。治崎の個性に煽られて吹き飛んできたのか、彼はバサバサと空中を舞う通形先輩の破れた赤いマントを掴み、浮遊しながらエリちゃんをマントで背負い直す。

 

「オ゛ぉォオ゛ォッ、オ゛ノ゛れ゛ぇェェエ゛ぇェェェェェェェェェッっッッ!!!!!!!!!!」

 

 その最中、怒りに情緒の狂った治崎の腕が、自身の顔を貫いていた俺の刃を容赦なく掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 左腕が爆散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

 エリちゃんを背負っている緑谷が俺の名前を叫んでいたが、激痛で何も聞こえなかった。

 

 彼女も俺の事を見ていた、気がした。

 

 ほぼ空中で宙ぶらりんになっていた俺の、治崎に触れていた部分が無くなり、体が重力に従って落下する。

 

 治崎が喚きながら自分の頭を再構築している足場からも、俺は落ちていく。

 

 でも、コレでエリちゃんを助ける事はできた。

 

 俺は彼女を背負った緑谷に、落下しながら視線を合わせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝てよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうひと言だけ彼に伝えて、俺は天井の崩落した大広間へと墜落した。

 

 大穴の空いた瓦礫だらけの広間の中央に、仰向けのまま叩きつけられる。

 

 硬化はしても結構な衝撃だったが、腕のせいでほとんど何も感じなかった。

 

「切裂くんッッッ!!!!!」

 

「切裂ちゃんッッッッ!!!!!」

 

「ブレイズ……ッ!!!!!」

 

「おいガキぃッ!!!!!」

 

「ブレイズッッッ!!!!!!!!!!」

 

「切裂ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 広間の中に取り残されていた蛙吹やプロヒーロー達の誰よりも早く、ボロボロで血みどろの峰田が俺の下に駆け寄る。

 

 

 

 

 

「お前、腕が……! 腕がぁ……ッ!!」

 

 

 

 

 

 目の前にしゃがみ込んで、大粒の涙を溢す峰田の言う通り、俺の両腕は完全に無くなっていた。

 

 治崎に千切られた腕の断面からは留めなく血が流れ出ており、このままじゃ立つ事もできなかった俺は、顔を覗き込んでくる峰田に震える口元で声を絞り出す。

 

「ば、バカ野郎……っ、泣いてるヒマあんなら……はやく、助けろ……! 俺のポーチに、止血帯がある……!」

 

「ッ!!」

 

 その言葉に、峰田は目元の涙を腕でガシガシ拭うなり、包帯の巻かれていない片腕で俺の装具の赤十字のマークがついたポーチから止血帯を出そうとする。

 

 だが……

 

「アレっ!? ないぞっ!」

 

 ああ、そうだった……

 

 マグネに全て渡してしまったんだ。

 

「クッソぉ! 俺持ってねえしっ、どうすりゃあ……!」

 

「私が持ってるっ!!」

 

 激しく困惑する彼に遅れて、無重力のまま飛んできた麗日が俺の前に着地し、ポーチから止血帯を2本取り出す。

 そんな彼女に続いて駆け寄ってきた蛙吹が、峰田の隣に並んだ。

 

「峰田ちゃん! その腕じゃシッカリ巻けないわ、手伝って!」

 

「梅雨ちゃん……ああっ!」

 

「酷い……腕が……っ」

 

 3人によって俺の千切られた腕の余った部分に、止血帯が巻かれて固定されていく。断面からの流血が止まるほど強く巻かれているが、痛みはもう感じなくなっていた。

 そこへ更に到着したサーとマウントレディ、ロックロックが俺の容体を確認する様に取り囲む。

 

「ブレイズっ、ブレイズ……! 聞こえてるわよね……!?」

 

「マ、マウントレディ……」

 

「このガキ……なんて無茶苦茶を……!」

 

「マズい、ミリオ以上の重体だ……ココからすぐにでも運び出さなければ……!」

 

 3人に処置は施してもらい、サーが俺を搬送しようと皆と話を始めようとしていたが、俺はこのまま寝転がっているワケにはいかなかった。

 

 見えていたんだ。天井の開いた快晴の向こうが。

 

 仰向けで治療されていたから、緑谷と治崎の様子がずっと見えていた。

 

「麗日……ッ! 俺を浮かせろォ……ッッ!!!」

 

「え……ッ!!?」

 

「な……ッ!?」

 

 俺の言った事を、誰も理解できなかったかもしれない。

 

 その言葉だけを顔も合わせず麗日に告げて、俺は背中から迷彩服を突き破らせた刃を伸ばして起き上がった。

 止血帯を巻かれたとはいえ、完全な断面となってしまった俺の肩口から、ボタボタと鮮血が漏れている。

 

「バッっ!!? バッカヤロウッッっ!!!! そんな体でドコいくんだよッっっ!!!!!」

 

「やめてブレイズっッ!!!! あなたはもう十分頑張ったわっ!! エリちゃんも助け出せたんだから……あとは彼に任せてっッッ!!!!!」

 

 すぐに止めようとする峰田とマウントレディに構わず、今度は両脚を刃に変化させる。

 ただでさえ動いてはならないぐらいの重症なのはわかっている。それでも、絶対に動かなければならなかった。

 

「あのままじゃ、緑谷が勝てねェ……ッ!!!」

 

「ケロ……ッ!?」

 

「あんだってッ!!?」

 

 地下ホールから見上げる青い上空では、緑谷が穴の外周を飛び回りながら地震の様な振動を響かせ、迫り上がった足場の上に立つ治崎と戦っている。

 

 その治崎が縦横無尽に腕や棘の柱を伸ばすのは、間違いなく彼の背中にしがみついたエリちゃん。

 

 その彼女の角が、光っていないのだ。

 

 緑谷の稲光を見る限り、普段の上限を飛び越えてワン・フォー・オールを使っているのもすぐわかった。

 エリちゃんの個性が暴走していない状態で戦っているせいで、100パーセントが出せない上、俺が脱落した事で防戦一方になっていた。

 

「デクくん……!!」

 

 俺の言葉に麗日も開けた天井の先を見上げる。彼女にも彼が無理をしているのはわかるだろう。

 

 だから、俺が行かなければと彼女に近寄るべく刃と化した足を歩ませた1歩目で、視界がグラついた。

 

「み、峰田……」

 

 峰田が無事な左腕で、俺のボロボロで血染めになった迷彩服の裾を掴んでいた。

 

「やめろ……! 行くなぁ……!」

 

 彼の瞳から、大粒の涙がポロリと溢れる。本気で心の底から心配しているのが、嬉しかった。

 

「ブレイズ……動いてはダメだ。横になるんだ……!」

 

「ブレイズ……大丈夫、大丈夫……落ち着いて……!」

 

 サーとマウントレディも俺を冷静にさせようと、優しく俺を制止させようとしてくる。しかし、その言葉よりも早く、峰田に少し引っ張られただけで、俺はガクリと片膝をついてしまった。

 

「切裂ちゃん!」

 

「そんな体じゃ無理だ……!」

 

 蛙吹とロックロックも俺を止めてくる。フラつくのは血が流れすぎたのだろうか、ちょっと処置が遅かったかもしれない。

 体が大きくブレた勢いだけで、ボロボロの広間の床に俺の鮮血が垂れて、頭を下げていた俺の視界に入る。マルチカムだった迷彩服も、全部俺の血で真っ赤だ。

 

「血ぃ…………………………っ!」

 

 俺の血。

 

 コレが終わったら、またトガちゃんに飲ませる大切な血が流れ落ちる。

 

 麗日に浮かせてもらえば、俺は足の刃の伸縮で一気にあの戦場へ飛び上がれる。

 

 腕は潰された。残る足でどこまでやれる?

 

 このまま治崎の所に行けば、死ぬかもしれない。

 

 

 

 

 

 死ねるか、あの女(マグネ)にまで託されちまった。

 

 

 

 

 

 サーは助けた、エリちゃんも助けた。

 

 でも、俺には足りないんだ。

 

 まだ、助けてない人がいる。

 

 俺にはまだ、助ける人がいる。

 

 彼女の、未来を……!

 

 トガちゃんとの、明るい未来を……!

 

 その想いがあるなら、俺は無限に動けた。

 

「おっ、オイっ!!」

 

 峰田の声に構わず、俺は膝をついていた足を立ち上がらせる。

 

「う……麗日……!」

 

 そうして怒気まで含めて彼女の名前を呼ぶ。

 

「……っ!!」

 

 それでも、麗日は今にも泣きそうな表情で、無言のまま俺に対して首を横に振った。

 

 無重力は使えない。

 

 だったら、壁だって登ってやるさ。

 

 俺は治崎が天井から外まで伸ばした、柱みたいな足場の方へと顔を向けて、歩き出そうとする。

 

「オイよせ……うっッ!!?」

 

「切裂ちゃ……ケロっ!?」

 

「うわッ!?」

 

 止めようとしてきたロックロックや蛙吹、服を掴んでいた峰田に向かって、俺は体から本気の刃を伸ばして牽制する。

 

「ど、どうして……」

 

「そこまで……!」

 

 困惑とも、恐れとも感じる様な視線を浴びながら、俺は歩みを止めない。

 それよりも……体から刃を突き出せるんだから、断面から刃が出せないか歩きながら試そうとしていると、そこに刃を無視して肩を掴んでくる腕が俺を大きく抱き止める。

 

「ブレイズ……ッ、…………切裂くんッ!!!!!!」

 

 少し体格を大きくしてまで、本気の刃が突き刺さっても構わず、マウントレディが俺を完全に抱き留めて止めようとしてくる。

 巨大化されたら、本気で突き刺さなければ彼女は振り払えない。それを実行しようとしたが、足元がもつれて俺の体が大きく頭ごとブレた、その時だった。

 

 幻覚だっただろうか。断面から流れ落ちる血の速度が、まるで鍾乳石が作られていくみたいに、遅くなって見えた。

 

「あ……?」

 

 思わず声を漏らした俺の口元、フェイスマスク越しに滲ませて顎先から地面に垂れる血の雫の中から……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……カランと金属片の落ちる音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ………………!」

 

 その様子を目で追っていた俺の頭の中で、閃いた。

 

 

 

 

 

 体の中で流れる血液の流動が、今なら全身で感じ取られた。

 

 

 

 

 

 いつも言っていたじゃないか。

 

 

 

 

 

 個性とは可能性。

 

 

 

 

 

 自分の体が刃に変化するなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中身だって、刃にできるよな……?

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

「ウぉォォォォっッッ!!!!!」

 

『返せェ小僧ォォおぉォおォオォぉォォォォォォォォォッッ!!!!!!!』

 

 麗日の無重力の個性も合わさり、空中を自由自在に飛行しながら治崎の個性による猛攻を耐え凌ぐ緑谷だったが、それでも脳無の体で再構築させた治崎を止める事は困難であった。

 

「壊理ィィ……ダメだァ、お前は俺の物だァァ……! オヤジの宿願を果たす為に……お前が要るんだ、壊理ィィィ……ッ!!!」

 

 うわ言の様に何度も壊理の名前を呼びながら、治崎は増殖した両腕を何本も伸ばして緑谷と少女を捕まえようと自棄になっている。

 両腕を犠牲にして壊理の救出に成功させた彼が、治崎に両腕を潰されて倒れた瞬間、緑谷は通常の倍の限界を超えたフルカウルの50パーセントで動き回っていた。

 体は激しく悲鳴を上げたが、彼に比べればマシだと、彼の覚悟を無駄にはしないと、緑谷は浮遊を全力で発動させながら治崎の猛攻を捌き続ける。だが、それでも奴の本体への攻撃に回る事ができず、このままでは自分の体が保たなかった。

 

『返せェ゛ェェえェェぇェっッッッッ!!!!!!!!!』

 

「返すかァァァァァァァッッッッ!!!!!!」

 

 飛び交う腕と棘の塊を、緑谷は背負う壊理になるべく負荷を与えない様に気遣いながら飛び回り、反撃の機会を窺う。

 麗日、蛙吹、マウントレディ、ナイトアイは直接攻撃の為、治崎に触れられない。峰田のモギモギボールは分解されてしまう。通形と切裂は、あの状態では戦えない。

 そこまで理解していたからこそ、それでも緑谷は諦めてはいなかった。

 

「くッっ!!!」

 

『死ネぇェェェえぇェェッッっ!!!!!!!』

 

 治崎から形成される棘の柱が、緑谷の足を掠る。コスチュームのアイアンソールの部分に接触したからダメージはなかったが、体が大きくブレて宙に舞い上がる。

 彼の脳裏にワン・フォー・オール、100パーセントによる捨て身の一撃必殺の選択肢がよぎる。

 しかし、マスキュラーと戦った時の様に、例え100パーセントスマッシュでも体を肉塊で覆われてしまったら、致命傷は与えられない。それどころか反動の自損で逆転を許してしまう。

 今の治崎には、とてもじゃないが狙える手段ではなかった。

 

『ド、どいつもコイツも……タ、たイ、大局を見ようとしないィッ!!! オ、オオッ、俺が崩すのはこの世界ィッ!!!! そのコ、ココ構造其の物だァッッ!!!!!!』

 

「クうぅゥゥッ!!!!!」

 

 辿々しくも、ツラツラ台詞を並べる治崎をエアフォースで狙うが、無限に伸びる腕が身代わりとなって弾丸を止めてしまう。

 遠距離攻撃で治崎を守る腕を払い除け、本体を守る肉塊を切り開く役割が必要だった。

 

『メ、メノッ、目の前の小さなッ、セ、正義だけのッ! カか、感情論だけのッ、ヒ、ヒーロー気取りがァァァッッ!!!!!!! ォ俺の邪魔をするなァァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!!』

 

「うぐゥッッ!!?!!」

 

 しかし状況は変わらず、やがて訪れるフルパワーの反動に、緑谷はその身を引き攣らせた。

 背中で背負われていた壊理が、悲痛の声を漏らす。

 

「あぁっ!」

 

「死ねェェぇエ゛ぇェェェえぇェェェェェェッッッッッ!!!!!!!!!」

 

 そこを狙っていたと言わんばかりに、治崎の大量に伸びた腕が緑谷の頭を掴む、その時だった。

 

 

 

 

 

 崩落した穴から幾つもの真っ赤な線が伸びて、ソレは治崎を貫いた。

 

 

 

 

 

「グぁァァァあァ゛ぁァァあ゛ぁァァァァァッッ!!!?!!?!」

 

「っ!!?」

 

 思わず身を守ろうとしていた緑谷の目の前で治崎の体中を貫いたのは、血の様に赤黒く染まった、大小様々な刃の束だった。

 

「え………………ッ!!?」

 

 その伸び広がる刃を辿った先を見て、緑谷は呼吸も忘れて息を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 失った両腕から、真っ赤な血で形成した刃を枝分かれにして幾重にも広げる、切裂 刃の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「治崎ぃィィイ゛ィィィィィッッッッ!!!!!!!」

 

 マウントレディを振り切り、血の刃で跳ね上がって来た彼は治崎に向かって叫び上げながら、緑谷に伸びていた腕を全て突き刺し、切り落とした。

 

「コッっ、こ゛のッっッッッ───グはぁァッッッ!!?!」

 

 更に彼の血の刃は治崎本体にまで深々と突き刺さり、堪らず治崎も彼ごと分解しようとその刃を構築できるだけの手で掴んだ。

 しかし、刃に触れられて分解されていくそばから、切裂は刃を元の血液に戻して分解の伝播を逃れ、途切れた別の部分から二股三つ股に刃を伸ばして再度、治崎を貫く。

 

「ゴぉッッ!?! コレはァ……ッッ!! あガァァッ!!!」

 

 手の施しようのない、まさに四方八方に伸び広がりながら治崎を切つけて突き刺す血の刃の猛攻に、彼はその身を守るべく再構築した腕で身を守ろうとする。

 その隙に切裂は余った血の刃で治崎の足場を突き刺し、そのままバネの様に飛び上がらせて緑谷の近くまで飛翔する。

 

「緑谷っ、エリちゃんは……ッ!!?!」

 

「切裂くん……! 無事だよっッ!! ホラっ!!!」

 

 その異形な姿に少しだけ呆気に取られていた緑谷も、彼の力強い声を聞いた瞬間、その表情に笑顔を見せて背中に守る少女を見せつける。

 

「おにーさん……!」

 

 信じられないモノでも見ているような声と顔だったが、それでもさっきよりかは明るく、希望に溢れている様に見えた。

 

「よし……ッ! 俺があの腕切り開くから……! 思いっきりブチ込めッ!!」

 

「うん……ッ! さっさと終わらせようっッ!!!」

 

 軽口まで叩き合いながら、緑谷は彼と離れて再度大きく治崎の周りを旋回し、彼は血の刃で足場と治崎の体を突き刺して、フックショットの要領で一気に奴の足元に急接近する。

 

「コ、こノ゛……ッ! コノ死にぞコな゛いめがァあ゛ぁァァアぁ゛ァァァァァァっッッっ!!!!!!!!!」

 

 再び立ちはだかった切裂に治崎は声を震わせながらも、複数の手を合体させた巨腕で彼を叩き潰そうとするが、彼は肩口から伸びる血の刃数本を足場に突き刺し、バネの様に刃をしならせてから一気に硬化させる事で、足場の外へと弾き飛ぶ。

 そうして治崎の腕を回避してから、足の刃で斬撃波を数発治崎本体へと撃ち込みながら、再び伸ばした血の刃で奴の構築した巨腕の部分に刃を数本突き刺し、更に絡めさせる。

 

「ぐォぉお゛ぉォォっッッ!!!!!!!」

 

 治崎は斬撃波を数発喰らうも、すぐに自分の周りから腕を構築してその身を守るかの様に自身を覆い隠す。そして、その肉塊の防壁眼球だけを形成して俺を睨みつけると、一体化していた腕をバラバラに分離させて、切裂に掴み掛かろうと闇雲に伸ばしてきた。

 

「チッっ!!!!!!」

 

 舌打ちひとつ、彼は血の刃を更に広げて治崎の手を貫いたが、奴の手は突き刺さる刃も無視して無理矢理伸び広がり、彼を狙って迫り寄る。

 

 そのボロボロになりつつも、治崎の伸びる異形の手が彼の顔に届くその時。

 

 晴天に響く、緑谷の声。

 

「フルカウル…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………99パーセント!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その身で感じる程の、迸る様な力の奔流。

 

「っ!!!」

 

 緑色の電流を駆け巡らせて全身に纏い……否、最早全身が燃え盛るほどの力を纏った緑谷が、拳を振った風圧だけで治崎の手を粉々に砕いた。

 

「ナに゛ぃィィ……? ま、マダ……アレだけの力が……ッ!!!」

 

 血走る眼球越しに苛立ちの声を漏らしていた治崎の先で、緑谷の全身にワン・フォー・オールの真の力が巡り渡った。

 

 髪は逆立ち、目からは緑色の炎を零し、全身には赤い亀裂が入ったまま、全身に渡るダメージを無視して吠える様に叫ぶ。

 

「治崎ぃぃイぃィィィィィッッっッッ!!!!!!!!」

 

「こ゛ッ、ごのっッ、化け物どモ───ガはァぁあ゛ぁァァッッ!?!?」

 

 明らかに化け物の姿をしている治崎が喋った瞬間、彼の肉塊をひしゃげさせる程の拳の風圧が襲いかかった。

 

 圧倒的質量を持つ化物を、たった数発の空気弾で大きくよろめかせる緑谷。

 

 それを眺めた彼は、ただただ思った。

 

 

 

 

 

 アレは間違いなくオールマイトそのものだ。

 

 

 

 

 

 だからこそ、彼は自分の成すべき事を成すべく、動き出した。

 

 緑谷が限界を超えたフルカウルを切ってしまった以上、もう時間がない。

 

「ラ゛ぁア゛ぁァァあ゛ァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 彼から伸びる幾重にも重なった血の刃が、治崎を守る肉の防壁を切り裂き、その刃は彼の意思を持って押し広げるかの様に切り開く。

 

『なァッっ!!?!』

 

 驚愕する治崎の顔が肉の防壁から見えた瞬間、緑谷による空気弾の連打が奴の本体から全身にまで叩き込まれる。

 

『ぐア゛ぁァあ゛ぁァァァァっッッ!?!!?!!』

 

 分解させる暇すら与えない。構築する腕は全て切裂が伸ばす血の刃に切り伏せられ、治崎は損傷した部分を分解で回復し続けるが、その隙を緑谷が容赦なく拳を叩き込んで潰していく。

 

「スゴい……!」

 

「どんだけ……!?」

 

 八斎會の建物の外、勝瓶を再び地に伏せさせた波動とリューキュウにもその様子が見え、驚愕の声を漏らしていた。

 

 その最中にも切裂は血の刃を伸ばし続け、肉塊に隠れようとする治崎を刃で突き刺すと、伸ばした刃を縮めて肉薄させると同時に、硬化した渾身の膝蹴りを奴の顔面に叩き込む。

 

『ゴボぼぶォホぉォォ……ッっッッっ!?!!?!!!!』

 

「オラ゛アァ゛ァァァ゛ァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 もはや悲鳴にも出せなかった治崎を蹴り付けた反動で跳ね返った切裂は、そのまま両足を流動させる刃先を肉塊に滑らし、斬撃波を放ちながら治崎を弾いて戦線から飛び出し、周りの住宅街へと飛び退いた。

 直後、肉と骨の防壁を巨大な斬撃が切り開き、治崎本体を剥き出しにした。

 

『グぉぉオ゛ぉォォぉォォォォォォォォッッッッッ!!?!!!!!!』

 

「行けェェェェェェェェェェェェェッッッッッ!!!!!!!!! 緑谷ぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

 

「サンキュ、切裂くん……!!」

 

 そのまま叫ぶ切裂の声援に、緑谷は静かに答えてから、治崎の真上にまで接近した。

 

「目の前の……!!! 小さな女の子1人救えないで…………!!!! みんなを助けるッ、ヒーローにぃ………………ッ!!!!!」

 

 更に彼の姿が激しく輝き、腕一点に集中していく。

 

 それは正真正銘、ワン・フォー・オール、100パーセントの力。

 

 

 

 

 

「なれるかよぉォォォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 

 

 

 

 

 

 叫び上げた緑谷による渾身のストレートが、治崎に深々と突き刺さる。

 

 そのまま治崎が立っていた足場も頂上から根元まで一気に砕き、彼がブチ抜いた大穴から地下の大広間へと緑谷は治崎を叩き戻した。

 

 大穴が更に崩落して広がり、周囲の建物まで巻き込んだ。

 

 その大穴から外にまで届くほどの砂埃と瓦礫が舞い上がり、住宅街が揺れた。

 

 そしてその日、地震はもう起こらなかった。

 

 瓦礫の山となった足場の上には、白目を剥いて気絶している治崎が、異形の怪物となった姿のまま倒れており、動く事はなかった。

 

「ハァっ、ハァ……っ!」

 

 上空まで巻き上がる砂煙を見届けながら、緑谷は大穴の外の外縁である住宅街に着地した。右腕は完全に爆裂を起こし、全身はフルカウルの反動が現れ始めていたが、それよりも彼は治崎を倒した安堵と、壊理を救い出した達成感が上回っていた。

 その気持ちを分かち合おうと、彼はすぐ近くに着地しているハズの友の名前を呼んだ。

 

「やった……っ! やったよっ! 切さ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振り返ったそこに、彼は立っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 道路一面に血の海が広がり、両腕を失った姿の彼は倒れたまま、もう動かなかった。

 

「切裂くん………………?」

 

 彼の腕から伸び広がっていた幾本もの血の刃がドロリと溶けて、鮮血へと戻っていた。

 

 無言のまま、緑谷は駆け寄る。彼は動かない。

 

 仰向けの彼を抱き起こす。彼は動かない。

 

 揺さぶり、呼吸と脈を確認する。彼は動かない。

 

 目を閉じたまま、穏やかな表情を浮かべている彼は動かない。

 

 何も動いていなかった。

 

「嘘だ……」

 

 視界が震える中、緑谷は呟く。

 

 止血帯の千切れた腕からはとどめなく血が流れ出ていた。

 

「嘘だ嘘だ嘘だウソだぁっッッ!!!!!!!!」

 

 感情のままに叫びながら、彼は切裂の名を呼んだ。

 

「返事をしてっッ!!! 切裂くんっッ!!!!」

 

 身体中の痛みも、疲労も、今の彼には感じなかった。

 

 溢れる涙も、掠れる声も、気にしなかった。

 

「切裂くんっッッ!!!!!!!」

 

 ただ、彼の命だけを願った。

 

 

 

 

 

「お、おにーさん……!」

 

 

 

 

 

 その直後、緑谷の背中からマントをすり抜けて降りた壊理が、動かない彼の前に膝をついた。

 

 彼に助けられてから、ずっと……少女の中で、トガヒミコの言葉が思い起こされてた。

 

 自分を救ってくれた、彼女の言葉が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───あなたを助けてくれる、ヒーローが……!

 

 

 

 

 

 ───私も……彼を助けるっ、ヒーローになるんですっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊理が叫んだ瞬間、彼女の額の角が瞬いた。

 

 

 

 

 

「っッ!!?」

 

 隣にいる緑谷も、誰にも目が開けられないほど、彼女の角が光り輝き……

 

 

 

 

 

 彼の飛散した血が舞い上がり、彼の腕の断面から体内へと逆流する。

 

 

 

 

 

 ワン・フォー・オールに匹敵する光は、緑谷の抱き留める彼に収束され……

 

 

 

 

 

 彼の断面が、二の腕から指先へと、再生されていった。

 

 

 

 

 

 壊理の瞳は、シッカリと彼を捉えながら光は更に輝きを増して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 完全に止まっていた彼の鼓動が、巻き戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ……あぁ……っ! (脈が……呼吸が……!!!)」

 

 本当の奇跡の様な壊理の力を目の前に、緑谷の瞳から涙が零れ落ちる。

 

 

 

 

 

 最後に彼の吐息が聞こえたと同時に、壊理の角はみるみる内に大きさを縮ませ、光の消えた途端に彼女は意識を閉じた。

 

「あっ!!?!」

 

 

 

 

 

 倒れようとする壊理も抱き留めた緑谷が彼女の様子を確認すると、熱を出しているのか息を荒げて呼吸を繰り返していた。

 

 

 

 

 

 安堵も束の間、とにかく2人を運ぼうと彼は動き出そうとしたが、その瞬間急激な疲労と全身を襲う激痛を受け、視界が歪んだ。

 

「うッッ!!?」

 

 

 

 

 

 フルカウル99パーセントと、全身全霊の100パーセントスマッシュの反動を今になって襲われ、切裂と壊理を抱き留めたまま、2人の目の前で緑谷も折り重なるようにして前のめりに倒れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『事の顛末』

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