切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第三十八話

 

 

 

 

 

 文化祭当日。

 

 俺達A組は開催時刻の8時よりも前、朝早くからライブ会場の体育館に集合していた。ライブの開始時刻は10時。まだ2時間以上余裕はあるが、みんなソワソワしっぱなしだ。

 会場のセッティングは全て終了した。今は本番前のリハーサルが行われて最終確認をしており、俺達クラスメイトは普段の制服でも体操服でもなく、俺が制作したオリTを着て準備を着々と進めている。この準備が終われば、ダンス隊は衣装に着替える所だ。

 

「そろそろだな! ソワソワしてきた!」

 

「落ち着きましょう上鳴さん」

 

「明鏡止水……明鏡止水……」

 

 明らかに心の乱れた様子で四字熟語を連呼する常闇の様子も気にかけながら、俺はオリTを着て鼻を鳴らしていた爆豪に声をかける。

 

「爆豪くん、Tシャツ似合ってるよ」

 

「黙ってろナマクラッ! ……チッ!」

 

 ちなみに、制作したTシャツはクラスメイト達には好評だった。オールマイトのメインカラーである黄色を下地としたシャツの正面に、外側から順番に赤、青、白と枠抜きみたいに『A』の文字が描かれ、背中側はA組全員の名前と、相澤先生とオールマイトの名前が入っている。22枚作ったから、先生に渡す人間をジャンケンで決めて、緑谷が負けたのがつい先日。オールマイトはまだしも、相澤先生が着るとは期待していないが、果たして渡せただろうか。

 

 午前8時。

 リハーサルも問題なく終わり、少しの休憩の間に俺達はTシャツからダンス用の衣装へと着替えた。男子は黄色のタキシード。女子は男子用のズボンがミニスカートになった衣装を着用する。もちろん、コレらは八百万のお手製である。

 

「ダンスの衣装もバッチシ! さっすがヤオモモ!」

 

「クシャクシャになっとるよ!」

 

「いっけない! 麗日ありがと!」

 

 スカートの部分がヨレていた芦戸の衣装を、麗日がしゃがんで伸ばす。本番前というだけあって、クラスメイト達は緊張しているのが見て取れる。昨日は上鳴も峰田も眠る直前まで騒いでいたが、今はガチガチだ。

 それでも耳郎に言われた通り、おっかなびっくりでやるんじゃなくて、思い切り全力を出して楽しむ。俺だけじゃなく、誰もがそんな気持ちで舞台に立とうとしている。

 ライブのポスターも完成してから、学校中に貼り付けて回ったし、八百万や女子達に頼んで配ってもらった。やるべき準備は全て達成している。あとは心待ちにしている観客に、自分達が応えるだけだ。

 そこに、緊張しっぱなしの上鳴がキョロキョロと周りを見回した。

 

「あれ、緑谷どこいった?」

 

「買い物に行ったよ」

 

 平然とする俺の答えに、芦戸が驚いた。

 

「文化祭の今日!?」

 

「新鮮なリンゴが必要なんだって」

 

 それを付け足した麗日の言葉に、舞台道具であるミラーボールを持った轟が呆れた様な声を漏らす。

 

「こんな時間まで何してんだ、アイツ」

 

「リンゴか……なるほど……!」

 

 ただ、一緒にふたつ目のミラーボールを運んでいた砂藤だけは緑谷の行動を理解していた。リンゴ飴用の食紅を借りていたのを見たし、練習期間中に飴の作り方を彼から教わっていたのだから。

 文化祭のパンフレットはもらっているし、その出店一覧のどこを探してもリンゴ飴はなかった。緑谷の判断は早い。

 

 それにしても『青山』がいないにも関わらず、演出でかなりミラーボールを酷使していたため、ロープで引っ張り回す練習で縄がほつれていたから、本当に良かった。俺は少し前に紅茶飲みながら「動画配信してる変なヴィランがいると」緑谷に例の動画見せたから、彼は声を聞けば判別できる。

 

 今頃、緑谷は今文化祭唯一の戦闘となる、迷惑ストリーマーと戦闘を行っているだろう。

 

 『浮遊』まで使えるあの緑谷が負けるハズないので、俺達の文化祭に忍び込もうとしてくるあの愉快犯は無視した。強敵っちゃあ強敵だが、治崎なんかに比べればだいぶマシだ。原作よりも早く決着がつくだろう。

 

 緑谷が買い物に出かけた時間は1時間もなかっただろうか。9時5分前ぐらいになって、息をきらせた彼が体育館へと戻ってきた。

 

「ハァ、ハァ……! ただいまっ!」

 

「おおっ! 緑谷おかえり!」

 

「もうみんな準備できてるよー!」

 

 切島や葉隠が元気良く彼を迎え入れる声を聞いて、轟と最後まで演出の確認をしていた俺が振り返る。

 

「おかえり! ロープとリンゴあった?」

 

「バッチリだよ! リンゴは寮の冷蔵庫の中!」

 

 そう言って彼が差し出したロープを瀬呂と口田に手渡し、緑谷は八百万に渡された衣装を持って更衣室へと走ろうとするが、そこを麗日が声をかけて止める。

 

「デクくん! その顔のキズは……?」

 

 文化祭の期間中は放課後の時間が全てライブの準備に回されていたので、朝練をやっているのを本人から聞いた事があるが、スーパーの袋を持った彼はエアフォースのグローブだけでなく、顔に擦り傷がある。

 

「あ、あぁっ! ちょっと転んじゃって……!」

 

「ええっ?! 絆創膏貼る?」

 

「ううん、大丈夫!」

 

 彼女はダンスの練習中に常備していた救急箱を出そうとするが、せっかくの本番に怪我の痕など見られては観客席から悪目立ちしてしまうと、緑谷は衣装を受け取って更衣室へと走る。心配そうにはしていたが、怪我は本当に少し擦っただけっぽいので彼なら大丈夫。

 それよりも、本当にさっさと終わらせてきたみたいで、俺は安心していた。これで文化祭も不安要素なく楽しむ事ができる。

 

 緑谷も衣装に着替えてA組の準備が完全に整った直後、体育館のスピーカーからプレゼントマイク先生のハイテンションなアナウンスが響き渡った。

 

『グッッモォーーーーーニンッッッ!!!!!! ヘイガァイズッ!!! 準備はココまで、いよいよだァッ!!!! 今日は一日無礼講!!! 学年学科は忘れてはしゃげェェッ!!!! そんじゃあ皆さん!!! ご唱和くださいッッ!!!!!』

 

 マイクをハウリングさせるほどの大声で先生が叫んだ丁度、時計の時刻が9時になった。

 

 

 

『雄・英!!! 文化祭ッ!!!! 開・催!!!!!』

 

 

 

 その宣言と同時に、校舎の外で数発の花火が上がった。外から生徒の騒ぐ声が聞こえて、たちまちワイワイと賑わう喧騒へと変わっていく。

 そこからライブの時間が近づくに連れて体育館の中が人で密集し始め、本番10分前にもなると観客席は床が見えなくなるまで満員だった。

 

「思ったより人集まってるよ!」

 

「朝からご機嫌な連中だせ……!」

 

「楽しみにしてくれてんだよバカチン!」

 

 舞台裏から観客席を覗く砂藤の自虐とも言える台詞に峰田がプンスカと怒る中、俺達は戸惑う事なくリハーサルの通り、幕の後ろへと示されている順番通りに並んだ。

 

「フーッ………………よし……!」

 

 耳郎の覚悟を決めた声が聞こえた直後、ライブの開催を告げるブザーが鳴り響いたのと同時に歓声が大きくなり、拍手が起こる。

 そして、目の前の幕が引き上がっていくと同時に舞台がライトアップされた。

 

 観客席からカメラのフラッシュも焚かれる中、舞台の中央に立つのはバンド隊率いる耳郎がギターを持ち、周りには爆豪、上鳴、常闇、八百万がそれぞれの楽器を構える。

 その両サイドに俺達ダンス隊がポーズ決めて立ち並んでいた。ちなみに、俺の位置はバンド隊と1番近い芦戸の隣だ。観客席の様子も、ココならよく見える。

 

「来た!」

 

「1年頑張れ〜!」

 

「どんなもんだ1年!!」

 

「八百万〜!!!」

 

「八百万、八百万、八百万っ!」

 

 人の隙間が全くない、満席と言っていい体育館のホールに雄英の生徒達が騒いでいる。普通の歓声に混ざって八百万のファンなのか、興奮して狂った様に何度も名前を叫ぶヤベー奴も何人か見える。客席側は暗い事もあってエリちゃんの姿はここから見えないが、間違いなくどこかにはいるだろう。

 ただ、期待や興奮する観客の中には楽しもうなんて気もなく、品定めのために来ているヤツもいるだろうし、なんなら最初からコキ下ろすつもりのヤツもいるだろう。

 

 それでも、爆豪がずっと豪語していた通り、全て吹き飛ばすつもりだ。恐れていないのは俺だけじゃない。A組全員、自信に満ち溢れた表情をしていた。

 

「スゥゥ…………!!」

 

 耳朗が大きく息を吸ったのが、マイク越しに聞こえた。

 

 次に響き渡ったのは、爆豪のシャウト。

 

 

 

 

 

「いくぞゴラァァァァァァッッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 本人の爆破を合わせた爆豪のドラムが激しく叩かれると同時に、ステージのBGMとバンド隊の残りの楽器が一斉に音を奏でる。それに続いて俺達ダンス隊もタイミング良く芦戸の振り付け通りに動き始めた。

 最初の掴みは完璧。驚く観客席の様子が収まるより早く、次の衝撃を起こす。

 

 

 

 

 

『よろしくおねがいしまあァすッ!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 挿入歌 林ゆうき - Hero too

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までに見た事のない明るい表情の耳郎が挨拶すと同時に、俺達の文化祭が幕を開けた。

 

 バンド隊の演奏は完璧だけれども、彼女達の演奏に負けないぐらいの勢いで俺達は踊る。歌詞が全て英語の『Hero too』だが、ネイティブ顔負けの発音で歌っていく彼女の歌声に、観客は驚きつつも聴き入っている。

 

 『Hero too』の歌詞を和訳すると、『私もヒーローになれる』になる。歌の通り、目立っているのはバンド隊だけじゃない。

 

 まず最初に、尾白と緑谷が互いに個性を活用しながら、大きく跳ね上がるダイナミックなダンスを見せる。2人が飛び上がる度に観客席から歓声が巻き起こった。エリちゃんもコレなら緑谷が一目瞭然だろう。

 

 次に砂藤と障子が体格を活かした力強いダンスを披露する隣で、飯田がどこを曲げても90°みたいな状態のロボットダンスを披露し、観客席を笑いで包み込む。

 

「アハハハハッ! アイツだけカクッカクだぞ!!」

 

 続いて俺と芦戸が軽快なステップからの全身を振り回すウィンドミルを披露し、観客席を沸かせる。最後に俺はヘッドスピンして逆さまのまま片手で立ち上がり、彼女は立った状態から床に飛び込む様に逆さまになり、同じタイミングでピタリと静止する事で客席から歓声を受けた。

 

「ブレイキンブレイキーーーン!!!」

 

「ポウポーウッ!!」

 

 そこから、峰田と女子達によるハーレムパートに入る。華やかに踊っていた女子に混ざる峰田に、観客席から野朗共のブーイングが響き渡るが、本人はそんな事微塵も気にせずドヤ顔を見せながら踊っていると、ドラムを叩き続けている爆豪が叫んだ。

 

「サビだッ! ココで全員ブッ潰せッッ!!!!!!」

 

 後半、ここから一気にステージは賑やかになっていく。

 

 まず爆豪の爆破をもう一度起こすと同時に、八百万が体からパーティークラッカーを創造して放ち、サビの入りと同時に観客を沸かせる。

 ほぼ同じタイミングで轟が体育館の天井に氷で大きな橋を形成し、その下の段にはジャングルジムの様に氷の柱を梁の様に張り巡らせた。その橋の部分の上を切島が硬化した体で走り回り、削れる氷が霜となって降り注ぐが、このままではただ冷たい空気が降っているだけ。

 そこに緑谷が舞台から飛び上がったまま、ステージの天井に固定されていたミラーボールを引っ張り、観客席の上を悠々と飛行する。

 

「飛んだっ!!?」

 

「スゲーーーっ!!!」

 

 観客の驚く声が聞こえた中、麗日の『無重力』を併用して『浮遊』を使用し始めた緑谷が、光り続けるミラーボールをロープで運んでいく。レーザーを放つミラーボールの光が切島の削った霜を反射させて、キラキラとダイヤモンドダストの様に舞台の中を煌めかせた。

 

「綺麗……!」

 

「もうひとり飛んでんぞ?!」

 

 観客の指差す先は緑谷だけじゃない。同じ無重力でヒーローコスチュームのワイヤーアンカーだけを腕に装着した麗日が、もうひとつのミラーボールを引っ張りながら彼と一緒に飛んでいた。

 緑谷が『浮遊』を使えるだけで、ここまで華やかになるとは思わなかった。先代継承者の7代目の女性には、何回頭を下げても足りなかった。

 

 2回目のサビが終わるとCメロに入って曲調が大人しくなり、俺はそんな2人を見ながらゆったりとした動きで音楽に合わせて踊っていると、耳郎のアドリブと同時に再びサビに入り、観客席が沸き起こる。

 爆豪が物凄く不満な顔をしているのが一瞬だけ見えたが、思い切り楽しそうに歌っている耳郎の姿を上鳴が見ていた瞬間の方が印象に残ってしまった。

 

 俺と芦戸のブレイクダンスも再び披露し、葉隠も全身を光らせて観客からの注目を集め、口田が個性で鳩を飛ばしながら舞台を華やかにしつつ、次のライトを動かしてもらった先。観客席を飛び回るのは緑谷と麗日だけじゃない。

 

 轟の氷の梁を蛙吹が舌で巻きつけながら縦横無尽に観客席の上を飛び回り、そこに『峰田ビーズ』でターザンロープの要領で飛んでいく峰田が空中で並ぶ。尾白も自身の尻尾で猿みたいに梁から梁へと飛び回り、そこに演出隊だった瀬呂も彼以上のキレの良い動きで並走していく。

 

 しかし、ここで俺の想定外な事が起こった。

 

「「あっ!」」

 

 リハーサルを一度も完全に真っ暗な状態でやらなかったのが原因か、不意に麗日がワイヤーで放った吸盤を梁から撃ち外して、そのまま空中でバランスを崩した。

 俺も芦戸も、踊りながら同時に声を漏らしていたが、その不安は数秒と経つ事なく拭い去られる。

 

 すぐに気付いた緑谷が重力も慣性も無視した動きで、ミラーボールを引っ張っていない手で彼女の手を空中で掴んだのだ。

 

 観客席からは歓声と指笛が響き渡る中、俺と芦戸は顔を見合わせ、笑った。

 

 そのまま歓声が収まる事なく、最後はバンド隊の音楽で演奏がシメられて、俺達のライブは終わった。最初から期待していた人達からはもちろん、評価するつもりやコキ下ろすつもりだった人達ももう、違いなんてわからなくなるぐらいに観客席は大歓声に包み込まれていた。

 きっとエリちゃんも笑っている。そう確信できるぐらい、俺も緑谷も、A組も達成感に浸っていた。

 

 曲も終わったし、俺も芦戸も、舞台に戻ってきた緑谷や麗日達も汗だくだった。文化祭のライブは大成功。後は幕を下ろせば終わりなのだが、観客席からの歓声はバラバラだったものが、次第にひとつの意味となって統一されていった。

 

「スゲえぞ1年っ!!!」

 

「ヒューーーっ!!」

 

「アンコール!」

 

「アンコール!」

 

「アンコール! アンコール! アンコール!」

 

 たった5分にも満たないライブだったのだが、その時間だけで満足できなくなるまで観客を焚かせてしまったのか、物凄い量のアンコールが熱気のこもった客席から返ってきたのだ。

 

「うおぉぉっ!? メチャクチャアンコールされてんよっ!!?」

 

「どうしますの!?」

 

「狼狽えんじゃねえッ、半分野郎の想定通りだッ!」

 

 観客の熱に圧倒されている上鳴と八百万を黙らせ、爆豪がドラムのスティックを両手で回転させながら耳郎の方へと顔を向ける。

 彼だけではなく、俺もダンス隊も演出隊も彼女の方を見ていた。そして、そんな視線を受けた耳郎は観客に応えるべく、華やかに笑ってみせる。

 

「うん……やろうみんなっ!! 爆豪もアドリブしてっ! ウチが合わせるから!」

 

「ケッ……!」

 

 爆豪は最後にスティックを1回転させると、最初の時と同じ様にドラムを激しく叩き始める。そこに観客が湧き上がる中、芦戸は俺達ダンス隊に告げる。

 

「まだいけるわよねっ!?! みんなっ、今度は自由に楽しもーーーっ!!!」

 

「「「「「「「「「「おーーーーっ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 彼女に応える様に腕を突き上げ、俺達は次のアンコールは全員が自由に踊り出す。バンドもアレンジも何から何までアリだ。

 

 

 

 

 

 でも、その前に……

 

 

 

 

 

 いきなり流れているBGMの曲調が子守唄みたいなオルゴールに変わり、なんだなんだと観客席がザワめき立つ。

 

 緑谷と麗日がミラーボールの位置をせっせと移動させ、轟が氷でダンス隊とバンド隊を覆い隠す。口田が鳩を動かして『アンコールまで、しばらくお付き合いください』と書かれた垂れ幕を飛ばして観客席の不安を取り除いている中、いつの間にか舞台の隅に設置された、司会用のマイクを掴んだ峰田の前フリが始まる。

 

『雄英高校1年A組……人前に出るのは人一倍苦手だけれども、子供の笑顔の為ならば……恥はかき捨て世は情け! プロヒーロー、サー・ナイトアイの教えに従い、雄英にユーモアを届けましょうっ!!!! 切裂 ヤイバァァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!』

 

 スポットライトが一斉に、スタンドマイクを持った俺を照らした。

 

 

 

 

 

 さぁ、俺のショータイムの始まりだ……!

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 無事にライブを終えた俺達は、さっきまでの喧騒が嘘みたいに人の去ったステージである体育館内を元に戻すべく、全力で後片付けに追われていた。

 

「急げっ!」

 

「もう急いでるっ!」

 

「早くしなきゃ、ミスコン遅れちまう!」

 

「障子スゲー!」

 

「箒とモップ何本持ってんだ!?」

 

「輝いてるよ障子くん!」

 

「急がなくていいのか?」

 

「ヤバい、そろそろB組が来るっ!」

 

「梅雨ちゃん達は!?」

 

「もう行ったよ!」

 

 アンコールに応えたお陰で予定よりも時間が押していた俺達は、ステージの幕が降りるなり蛙吹と峰田と八百万をすぐさまミスコン会場に向かわせ、リーダーシップを発揮した飯田の指揮の下、残った人員で後片付けを全力で行っていた。

 なにせ轟と演出を一緒に凝りに凝った結果、轟の氷はもちろんの事、八百万がブッぱなしたパーティークラッカーのリボンや紙吹雪。それに瀬呂のテープや峰田の粘着力のなくなったモギモギまで散らばっている。鳩は口田の個性ですぐ逃したが、観客席はゴミでひっちゃかめっちゃかだ。次の演劇をやるB組に完全に申し送れる態勢にしないと迷惑をかけてしまうし、物間に何を言われるかわかったモノではない。

 せっかくのエリちゃんと話もしたかったのだが、通形先輩が空気読んで先にミスコン会場の方へと移動して、全て終わってから合流してくれる事になった。でも、そのおかけで俺も緑谷も片付けに集中できた。

 

「おっしゃあっ! 舞台裏まで片付いたぜ!」

 

「モップがけも完了!」

 

「よし、俺が物間君達に話を通しておくから、君達は梅雨ちゃん君の所へ先に行ってくれ!」

 

「ゴメン飯田くん! ありがとう!」

 

 そんなワケで何とかB組が集まってくる前に体育館内の撤収と清掃を終わらせた俺達は、着ていた衣装からオリTに着替え、ワチャワチャと騒ぎながらミスコン会場へと移動した。

 

「うわぁ〜凄い人!」

 

「俺達のライブと同じぐらいいるか?」

 

「雄英のミスコンも、伝統的なイベントらしいよ!」

 

 雄英文化祭の中でメインイベントのひとつでもあるミスコンは、通常ならばテレビ局も取材にやって来るほどの大イベントらしいが、今年は関係者以外立ち入り禁止のため取材陣は居ない。それでも観客席は俺達のライブにも劣らないぐらい、熱気に満ち溢れている。主に野朗共の熱気で。

 

「物凄い人数だな……」

 

「あっ、切裂!?」

 

「ヤオモモちゃん探してくる!」

 

 ミスコン会場は校舎の外である広い敷地で行われており、屋外ライブみたいなクソデカいスピーカーに、スポットライトを浴びせる金属質の柱や、出演者が遠くからでも目立つ立派な舞台も設置されている。舞台の真ん中の奥からカーテンで出演者が現れる仕組みになっていて、細い花道を歩いてから真ん中の広いステージの上でパフォーマンスをするのだ。

 すでにミスコン自体は始まっており、今は何人目かはわからないが別の生徒のパフォーマンスが行われている。ステージ周りは主に野朗共の生徒達でごった返していたが、俺は先に準備を終わらせてステージの目の前の席を確保しているハズの八百万の所まで滑り込んだ。

 

「ヤオモモちゃん!」

 

「あっ、ヤイバさん!」

 

 人混みから顔を出すと、オリT姿の八百万はすぐ見つかった。彼女も俺の姿にはすぐ気がついたらしく、こっちを見て良い笑顔を見せてくれる。

 

「準備はどう?」

 

「メイクからドレスまで、完璧ですわ!」

 

 蛙吹のミスコンが楽しみで仕方ないのか、ステージの目の前にいた八百万はプリプリし始めていた。

 そのまま俺は嬉しそうな彼女の隣に並ぶと、人混みから遅れて緑谷と切島が追いついてきた。

 

「すみませんっ! ちょっと失礼……します!」

 

「切裂っ!」

 

「アレ、ほかのみんなは?」

 

「後ろの方だぜ。さすがに全員で前来ちゃあ、大変だからな!」

 

 人混みを抜けてきた切島は、親指で後ろの方を指差す。彼の言う通り、A組が全員来ては周りの迷惑になるし、後ろでも十分ステージの上は見える。ここのポジションに位置するのは俺達だけでいい。

 周りの観客のざわめきで声なんて誰も聞いてないだろうと思った俺は、顔を近づけて八百万に尋ねる。

 

「梅雨ちゃんは?」

 

「こっちよ……ケロっ」

 

 八百万が答えるよりも早く彼女の背後から、これからコンテストに出演する蛙吹がひょっこりと顔を出した。

 

「うお……っ!?」

 

「梅雨ちゃん……!」

 

 彼女がココにいるのは、想定通り。だが、その蛙吹の容姿に緑谷と切島も静かに驚いていた。

 

「す、凄い……! 雰囲気が全然違う……!」

 

 全ては峰田発案のパフォーマンスの為、周りから目立たない様に彼女の服装はライブの衣装ではなく、俺のデザインしたオリTでもなく、周りにちらほらと見られる雄英の制服だ。

 ただ、今の蛙吹の容姿は、普段と全く違う仕上がりになっている。

 髪型は普段のリボン結びではなくストレートに伸ばしており、よく見ると化粧もしている。コレだけでも十分なぐらい綺麗に整えられた、色気とはまた違う華やかさを纏う彼女の姿があった。

 

「長い髪はお姫様らしくロールに仕上げようと思いましたが……そのまま真っ直ぐに伸ばして清純さを強調させてます。メイクに関しましては、お母様や使用人のアドバイスも頂きまして……梅雨ちゃんの綺麗な瞳を強調できるようにしました!」

 

 芦戸から少しだけメイクについて聞いた事があるが、結局俺には理解できなかった。全ては自他共に認める富豪の八百万家に、コネとパワーと知識を添えて貰ったおかげだ。彼女の資産源の一部が化粧品関連だと聞いた事はあったし、母親が自分で化粧するのではなく専属美容師が何人もいると聞いていたからこそ全てを彼女に一任したが、ここまでやったくれるとは思わなかった。

 

「凄いよヤオモモちゃん。峰田くんもビックリしたんじゃない?」

 

「ケロっ……峰田ちゃんは別の場所で準備して、もう待機してるの。この姿は、まだ見せてないわ……♪」

 

 そう言って蛙吹はイタズラっぽく笑っていた。本人も八百万の化粧に大変喜んでいるみたいだった。

 

「そっか……!」

 

 蛙吹の言葉に俺も笑顔を返す。尚更、峰田の反応が気になってきた。

 

「衣装は?」

 

「舞台の下にセットしてあります。スカートの下から飛び込んで、そのまま着れる仕組みになってますわ。小物も全てそちらに……!」

 

「オーケー、じゃあ……」

 

 峰田曰く、リハーサルは人がいない間にコッソリ何回か試行したらしく、実際にドレスを使用しての練習も成功したそうだ。

 大きな問題はないと言おうとした俺の背後から、唐突に声がかけられる。

 

「おやおやおや〜!? こんな所で奇遇じゃないか〜ぁ!」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 驚いた俺と緑谷、切島、八百万が振り返ると、そこにはなんと演劇の衣装なのか丈夫そうな服にマントを羽織った物間がいた。それに続いて同じくフードを羽織った外套姿の泡瀬と鉄哲が現れる。

 

「物間くん!?」

 

「アレっ、演劇は!?」

 

「今さっき終わって、こっち来たんだ!」

 

「カーテンコール出れなかったのは惜しかったけどよっ、拳藤の勇姿も俺らB組のメモリアルに納めねえとな!」

 

 泡瀬の発言に、鉄哲がハンドカメラを構えながら楽しそうに告げている。額には汗が滲んでいる辺り、俺達と同じぐらい急いでこちらに来たようだ。

 そんな会話の中、咄嗟に蛙吹は八百万の影に隠れ、他人のフリをして物間達をやり過ごす。

 

「それにしても、A組は結局副委員長の彼女を出演させないとわね……」

 

「秘策があるんで」

 

「アッハッハッハハハッ! なら見せてもらうか、この舞台の上でねっ!!」

 

 彼女がミスコンに出演する事はB組も周知の事実だ。ココでバレたら面白くないし、峰田が怒る。

 

「劇ウケたってな、やったな!」

 

「そっちこそ! 動画回してたから、後でグループに乗っけてやるよ!」

 

「おおっ、楽しみ! 俺達のライブの動画も流すぜ!」

 

「こんな事だったら、LIVE映像にして中継すりゃ良かったな!」

 

「LIVE……そっか! そうすれば外の人達にも見せれたもんねっ!」

 

 後ろでは緑谷達がミスコンも見ないで賑やかに話をしていたが、そうこうしている内にB組の拳藤の番が始まった。

 

『エントリーナンバー6番! 拳藤 一佳さんです!!』

 

「おっ! 拳藤のが始まるぜっ!!」

 

「拳藤ーーーっ!」

 

「拳藤! 拳藤! 拳藤!」

 

「シュシュッとひと吹き、拳藤〜!」

 

 切島と鉄哲の声と同時に観客席からは、彼女が職場体験でCMに出演していた時のキャッチフレーズが飛び渡る。そんな熱狂の中でステージ奥のカーテンが開かれてライトアップされた出入り口から、水色で生地の薄いドレスを纏った拳藤が現れる。

 

「いいぞ拳藤ーっ!!!」

 

「まだ何にもやってねえだろッ!」

 

 ほかの野朗共の歓声に混ざって、鉄哲の何も考えてなさそうな応援を泡瀬が止めた。

 

「拳藤さん……」

 

「……ヤオモモちゃんも、参加したかった?」

 

「い、いえ! そういうワケでは、その……」

 

 不安とも羨望とも見れる視線で拳藤を見ていた八百万に声をかけたが、はぐらかされてしまった。確か最初ミスコンの話になった時、出場しようとしていたのを俺は少しだけ思い返していた。

 

「パフォーマンスは何やんだ?」

 

「そういやあ、聞いてねえわ」

 

「え!? 大丈夫なのソレ!?」

 

 ドレスを着て舞台に上がった彼女は綺麗だが、肝心の個性を利用したパフォーマンスの事を煮詰めていなかったのか、鉄哲の間の抜けた声が聞こえた。

 けれども、隣に立つ物間が無駄にカッコつけた様子で彼女を見ている辺り、何も無策で拳藤を出場させた訳ではなさそうだ。

 

 しかし、次に見せた彼女の行動に物間だけでなく俺や緑谷達まで呆気に取られた。

 

「え!?」

 

 ステージの中央に立った拳藤は、いきなりほつれていたドレスの切れ目を両手で更に破き始めた。彼女の鍛え上げらながらも細身のある太ももが、腰の付け根辺りまで丸出しになる。

 

「ええッ!!?」

 

「け、けけっ、拳藤っ!?」

 

 緑谷や泡瀬の驚く声に混じって観客席の野朗共から興奮したざわめきが広がる中、ステージ上に木材の板数枚がユラユラと不安定に揺れ動きながら拳藤の前に運ばれる。

 

「アレは……!?」

 

「柳の個性か……!」

 

「でも、板なんか持ってきて何やんだ!?」

 

「あ……っ!」

 

 切島の声だけでなく、周りの観客からも興奮と疑問が浮かび上がる中、物間は彼女の考えている事を理解したみたいだった。

 

「フンッ!!!」

 

 そのまま彼女は木材の板数枚を、個性で巨大化した拳でブチ割ってみせた。

 

 いきなりアグレッシブなパフォーマンスを見せつけられて観客席からは動揺が広がったが、それでもインパクトは十分。観客からは遅れて歓声と口笛が彼女に降り注いだ。

 元々はCMもミスコンも柄でない女性だ。本人は自分らしさを出せて、だいぶ満足しているみたいだった。

 

『華麗なドレスを裂いての演舞! 強さと美しさの共存! 素晴らしいパフォーマンスです!』

 

 最後に残心を終えてから大きく息を吐いて構え直し、拳藤の演舞とも言えるパフォーマンスは終わった。

 

「凄かったなー!?」

 

「うん! ドレス破いた時はビックリしたけど……!」

 

「フフン! 彼女の強さと美しさを表現した、これ以上ないパフォーマンスだっただろう!! これはウチの拳藤が優勝間違いないんじゃないかなァァ!!!?」

 

『続きまして、3年サポート科のミスコン女王、《絢爛崎(けんらんざき) 美々美(びびみ)》さんです!』

 

 物間がヘラヘラと騒いでいる中、次にこの雄英文化祭で2年連続で雄英高校のミスコンの覇者に輝いた美の化身。3年サポート科の絢爛崎先輩という人の番になった。

 もしかしたら、発目の知り合いかもしれないと勝手な想像をしながら、俺は目の前の先輩のパフォーマンスを八百万達と見守る。

 

「地味!!! 何もわかっていないようですわね!!! その程度で、この(わたくし)と張り合おうなんて……!!!!!」

 

『高い技術で顔面力をアピール!! 圧巻のパフォーマンスです!!!』

 

 金髪の縦ロールに、突き刺さるんじゃないかってぐらいに物凄く長い睫毛。直視すると目が眩まんばかりのゴージャスさを放つ先輩は、真っ赤で金の装飾が施された絢爛豪華な和装のドレスを煌びやかに着こなしており、自分の顔面を模した大きな金色の車をステージ上で乗り回している。

 

「絢爛豪華こそ『美』の終着点!!! オーーーッホホホホホホホホホホホホッッッ!!!!!」

 

 コレもサポート科の技術力の賜物なのだろうか、これでもかと自分のド派手さを車を使ってアピールしてから、本人は記憶に残りそうな高笑いをしながら満足して舞台裏へと戻っていった。

 

「ほほう3年……やるじゃないですか……!」

 

 いったい何に対して対抗心に火がついたのか、物間が眉間をピクピクと震わせながら言葉を漏らしていると、そのまま次の選手のパフォーマンスが始まった。

 

『続いてヒーロー科3年『波動 ねじれ』さんです!』

 

 今度はステージの出入り口ではなく、個性で上空から舞い降りた波動先輩の麗しい姿に、観客席からは男女関係なく歓声が巻き起こる。

 そこには波動先輩の友達らしい女子生徒と、天喰先輩が固唾を飲んで見守っていた。

 

「ねじれ……!」

 

「波動さん……人間だって動物、哺乳類だと思えば楽になる……!」

 

 そう言いながら天喰先輩は波動先輩にグッドサインを震える手で送ろうとしているが、果たしてソレはアドバイスになるのか。一方で隣の女子の先輩は、汗の滲む両手をギュッと握って波動先輩を見守っている。

 

「ねじれが去年負けたのは、絢爛崎に派手さで挑んだから……! 派手は絢爛崎の良さ……ねじれにはねじれの良さがある……!!」

 

 波動先輩の姿はエリちゃんに学校を案内した時と同じ、薄生地のシンプルながら胸元まで大きな切れ込みのある大胆なドレスを纏っている。

 足から波動を出して浮かび上がった彼女は、泳ぐように空中を舞いながら俺達を見つけて笑顔を向けた。

 

 きっと通形先輩もエリちゃんも、驚いているだろう。飛び回りながらあっちこっちに笑顔を向ける波動先輩は、純真無垢な妖精の様だった。

 

 

 

 

 

 もしも、トガちゃんがミスコンに出場したら……?

 

 

 

 

 

 そんな事を考えてしまうような、魅力に溢れるイベントだと俺は思った。

 波動先輩のパフォーマンスが終わり、観客からは絢爛崎の時よりも大きな拍手と歓声が沸き起こっていた。

 

『まるで妖精のような、幻想的な空の舞い! 引き込まれましたっ!!』

 

 俺達は様々な感想を抱きながらも、ミスコンは順調に進行されていく。

 観客席の反応を見る限り、今のところは飛び抜けてド派手だった絢爛崎と妖精の様に美しかった波動がトップを争っている。拳藤も善戦したようだが僅かに及ばずといったところか。

 そして、いよいよ蛙吹の番となった。これからどのような波乱が巻き起こるのか。観客は様々な期待を寄せていた。

 

『さぁて……雄英ミスコンテストもいよいよラストになりましたっ!!』

 

 最後だけあって観客の熱狂も凄まじく、誰もが蛙吹のパフォーマンスを期待している。隣に立っている八百万の奥にいる蛙吹も、ライブで人前に立つ経験はしたばかりだが、これからあの場に立つ事に少し不安みたいだった。

 それでも、彼女達と峰田ならやってくれると俺は信じていた。

 

 ココからは俺達が願う番である。

 

「峰田くん……!」

 

 俺は全てが上手くいくようにと、両手を合わせて祈った。

 そこに、力強い蛙吹の呟きが合わさる。

 

「ケロ……大丈夫、峰田ちゃんなら……!」

 

「ええ……そうですわ……!」

 

『エントリーナンバー9番! トリを飾るのは……ヒーロー科1年《蛙吹 梅雨》さんですっ!!!』

 

 司会のテンション高いアナウンスと同時に、スポットライトが一斉にステージのゲートを照らし、奥のカーテンが開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこに現れたのは、小型犬ぐらいのサイズをした、王冠を被ったカエルの着ぐるみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?」

 

「え?」

 

『あ、アラ……?』

 

「は……?」

 

「なんだありゃあ……?」

 

 司会の人すら思わず声を漏らす程の困惑が広がっていく中、カエルはピョンピョンと元気良く跳ねてステージの中央へと進んでいく。

 

「おい、どーした!?」

 

「あのコじゃねーのかよ!」

 

『え、えーと……蛙吹さん!? 蛙吹 梅雨さんっ!!?』

 

 すぐに喧騒から野次が飛び始め、司会のマイクから聞こえる声も必死に蛙吹を呼ぶ。

 

 

 

 

 

 しかし、今度は準備を終えていた葉隠のアナウンスがスピーカーから会場へと響き渡った。

 

 

 

 

 

『むかーし昔、あるところに1匹のカエルがいました!』

 

 衣服を脱いだのか、勝手に動き出して喋り始める様にしか見えないマイクの様子に、ミスコンの司会の人が幽霊でも見たみたいに驚いていた。だが、そんなのは些細な事で、いきなり始まった物語り地味た演出に観客席からの野次が緩やかにおさまっていく。

 それでも、選手の蛙吹はどうしたのかと周りの空気からの不安は隠せない。並んでいる八百万と蛙吹本人も、冷や汗を流しながらジャンプを繰り返してステージ上に向かうカエルを見守っていた。

 

「峰田ちゃん……!」

 

「もう少しですわ……!」

 

 

 

 

 

 あの中身は峰田だ。

 

 

 

 

 

 彼はステージ上に立った自分と、蛙吹の位置を入れ替えようとしているのだ。

 

『そんなカエルはある日、森の中をお散歩していた王宮の王子様と出会い、たちまち恋に落ちてしまいました!』

 

 葉隠の語りに合わせて、会場のスポットライトが口田の鳩によって動かされ、観客席にいる俺へと集中していく。

 

「今度は何だ?」

 

「アレ『ミリオ』じゃね?!」

 

「今度は何やんだぁ!?」

 

「ベタな姿だな……」

 

 周りからの野次が飛ぶ俺の姿は、八百万に創ってもらった金色の王冠と真っ赤なマントを身につけている。そんなコッテコテの姿で俺はステージ上へと飛び乗った。

 

『しかし、どれほど恋焦がれようともカエルはカエル。自分が人間である王子様には相応しくないと、カエルは想いだけを告げて去ろうとしました……!』

 

 芦戸譲りの軽快なダンスをクルクルと踊りながら、峰田の潜むカエルの前に片膝立ちでしゃがみ込む。

 

『しかし王子様は言いました。《大切なのは見た目じゃない……想う心の中にこそ真の愛があるのさ!》 彼女の想いに応えるように、王子様はカエルにキスを落としました!』

 

 葉隠の台詞に合わせて、俺はカエルの着ぐるみに口付けした。

 

 

 

 

 

 その瞬間、ステージ上から観客席も巻き込んで白煙が噴き上がり、俺と峰田の姿が煙の中へと消えた。

 

 

 

 

 

「うわっ!?」

 

「キャっ!?」

 

「なんだぁ!!?」

 

 直後、騒いでいるB組や観客を尻目に俺は素早くカエルの着ぐるみを抱えてステージから飛び降り、背中側のチャックを開けた所から汗だくの峰田が顔を出す。

 

「ぷはぁッ! 暑っちぃっ!」

 

「峰田くん!」

 

「峰田さん急いでください!」

 

 着ぐるみから引っこ抜く様に峰田を脱がし、脱いだ着ぐるみをステージの横断幕の下に放り込んだ峰田に続いて、蛙吹が一緒に飛び込む。

 

「ケロ……いってくるわね……!」

 

 ウインクした彼女を見届け、最後に横断幕を元に戻してから、峰田は俺達に向かってニヤリと笑いながら呟いた。

 

「峰田 実、一世一代のショーの開演だぜ……!」

 

 

 

 

 

 喧騒とざわめきが広がる会場の中で、峰田のフィンガースナップは驚くぐらい響き渡った。

 

 

 

 

 

『すると……なんということでしょう!』

 

 直後、まだ煙で覆われたステージの上から翡翠の様な透き通る緑を基調とした、お姫様の様にフリルのあしらわれたドレスを纏った蛙吹が床から飛び出したのだ。

 

「うわぁっ!!?」

 

『ええっ!!?』

 

「なあぁぁぁっ!!?」

 

「ええぇぇぇっ!!!?」

 

 側から見れば、俺にキスをされたカエルが蛙吹に変身したようにしか見えないだろう。それぐらい一瞬の出来事に観客席からは大いに驚きの様子が見てとれた。

 

『王子様の真の愛が、カエルに奇跡を与えたのです!』

 

 掴みは完璧。そして八百万の言う通り、蛙吹の姿も完璧だ。

 

 彼女の黒みが濃い深緑色の髪の毛に対して、翡翠色のドレスはよく輝いている。本当にどこかの国のお姫様みたいだ。

 

 カエルっぽさがありつつも、しっかりカワイイ特徴的な彼女の顔は、八百万のメイクで魅力を引き上げられていた。

 

 そんな彼女の頭には繊細な装飾をしつつも、どこか可愛らしさのある銀色の王冠を被っている。世界観もバッチリ合っていた。

 

 そして蛙も意識しているのか、少し大きめでドレスと同じ装飾と配色をされた、お姫様傘を持っていた。

 

 蛙吹としての魅力を引き出すためのパフォーマンスは全て会場に見せつけた。

 

 

 

 

 

 最後は彼女をプリンセスらしく彩って完成だ。

 

 

 

 

 

 ドレスを身に纏って踊る様に傘を振る蛙吹の周りに、どこからともなく次々と透き通った水が球体状になって浮かび上がり、彼女の周りにフワフワと漂い始める。

 

「なんだありゃあ?」

 

「あっ……麗日さん!?」

 

 切島が疑問を抱いている隣で、緑谷はすぐ誰の能力なのか気がついていた。だが、どれだけキョロキョロ見回しても彼女の姿はない。

 彼女も今、ステージの下に潜んでいる。口田と一緒に。

 

 まだ煙の収まらないステージの床から浮かび上がっていく、ハスの葉や花まで混ざった幻想的な球体の水を蛙吹は踊りながら傘で微調整すると、今度はその中を煙の中から飛び出した本物のカエルが泳ぎ始めた。

 

「カエルだ!」

 

「綺麗……!」

 

 誰が言ったか、まさに『カエルのお姫様』 御伽話にでも出てきそうなプリンセスが、A組の有志によって蛙吹を限界まで彩ったのだ。観客は興奮のみならず、その幻想的な光景に息を呑んでいた。

 

 やがて蛙吹は踊りを止めると、俺達の側にいる峰田を見て、傘を持っていない手を優しく振っていた。

 

「峰田く……」

 

 俺はそんな彼に呼びかけようとして、止まってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は、動かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蛙吹の、嬉しそうに笑う顔を見て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれほど豪語していた、携帯で撮る目的も忘れてしまうほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の黒い瞳が、プリンセスとなった彼女を真っ直ぐに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の柔らかすぎる頬が、ほんのりと赤く染まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺にはわかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘗て、俺がトガちゃんの笑顔に心奪われた様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女のカァイイ笑顔を見て、俺が決意を固めた時と同じ様に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は、蛙吹の笑顔に見惚れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの時の俺と……同じ顔をしている、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………っ!」

 

 途端、自分の瞳から熱い想いが溢れ出してしまいそうで、俺は瞬きと同時に腕で激しく目を擦った。

 

『カエルのお姫様は、真の愛を受けた王子様と幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし〜♪』

 

 葉隠の最後の読み上げも終わり、カエルを引き連れた蛙吹が出ていく姿を見て、歓声と拍手が巻き起こっている中、緑谷が俺に気づいた。

 

「え、切裂くん? な、泣いてる……?」

 

「な、泣いてないっ!」

 

 疑問を向ける緑谷だったが、その視線が俺の更に向こうにいる……ステージから去っていく蛙吹を呆然と眺めている峰田を見た瞬間、彼も穏やかに笑っていた。

 

『え〜と……1年ヒーロー科、蛙吹 梅雨さん! 美しいお姫様のドレスはもちろん! まるで絵本の童話の様な、魔法にかけられたと思ってしまうぐらいの素晴らしいパフォーマンスでした!!! さあ、これで本日全ての参加者による───

 

 巻き起こる歓声と共に蛙吹の演技は終わった。司会の女性も困惑はしていたが、最後は目を輝かせながらの大絶賛である。彼女がトリで本当に良かった。

 

 彼女が退場した後も、ずっと拍手は続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  切裂ヤイバのモノマネメドレー(文化祭Ver)

『セメントス先生』→『根津校長』→『ハウンドドッグ先生』→『田等院駅の車掌』→『目良さん』→『通形』→『プレゼントマイク先生』→『通形(2回目)』→『相澤先生』→『オールマイトの顔(マッスルフォームからトゥルーフォーム)』

 

 

 

 各先生方の反応

 

 

 セメントス先生

 いきなり自分のモノマネされて困惑したものの、生徒がみんな笑っていたのでヨシとした。その後は普通に笑っていた。

 

 エクトプラズム先生

 普通に笑っていた。意外にも切裂の声が良い事に驚いていた。

 

 スナイプ先生

 普通に笑っていたが、コレ後で怒られないかと切裂を心配していた。

 

 13号先生

 ヘルメットの内側を洗うハメになるほど笑った。ただ途中から、自分もモノマネされるのではとソワソワしていた。

 

 根津校長

 終始爆笑(自分のも含めて) 雄英教師の忘年会に呼ぼうかと本気で考える。

 

 オールマイト先生

 笑いすぎて『ハウンドドッグ先生』辺りで吐血して、周りに心配される。

 

 ハウンドドッグ先生

 笑いつつも自分のモノマネの際には、大した度胸だと一周回って感心していた。

 

 パワーローダー先生

 終始爆笑。やっぱり発目の関係者はおかしなヤツらばかりだと、再認識する。

 

 ブラドキング先生

 隣の相澤が無表情だったので、張り合って我慢していたが、『目良さん』で吹き出してしまい、我慢を諦めた。余談だが、切裂が血を刃にできるようになって、彼からアドバイスを求められた際に『ミッドナイト先生』や他の教師もできないのかと興味を示した。

 

 ミッドナイト先生

 終始爆笑。徐々にボルテージが上がり、最終的には『通形(2回目)』で椅子から転げ落ちた。

 

 相澤先生

 最初は無表情だったが『目良さん』で我慢できずに肩を震わせた。その後は苦笑いで切裂を見ていたが、『通形』で下ネタを2度も言い放ったので、終わった後に反省文の提出。ちなみに笑った瞬間はプレゼントマイクとミッドナイトに撮られていた。

 

 プレゼントマイク先生

 終始爆笑(自分のも含めて) 挙句、切裂を次のラジオ収録のゲストに招待した。更に『相澤先生』で笑いすぎて、隣の本人に肘打ちをくらった。

 

 

 

 ちなみに、教師全員が耐えられなかったのは『目良さん』である。ヒーロー科、2〜3年の一部は名前言った時点で笑っていた。

 更に言うと『通形』で1番笑っていたのは、3年だった。

 

 そして、ライブ終了後、緑谷は再会したエリちゃんに「『ぼっき』ってなあに?」と聞かれ、切裂に殴りかかった(本人は逃げ延びた) 同時に通形は相澤先生に捕縛布で縛り上げられ「年末の学校大掃除で全ての男子トイレを切裂と2人でやるか、除籍か選べ」と脅され、濡れ衣を必死に弁明していた(誤解は解かれ、切裂は追加で反省文+年末のトイレ掃除をする羽目になった)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『それぞれの文化祭』

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