切裂ヤイバの献身   作:monmo

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第三十九話

 

 

 

 

 

 ミスコンテストも無事に終了を迎えた後、放送用のスピーカーから最後に投票の要領を説明する声が聞こえた。

 

『投票はコチラへ! 結果発表は夕方5時、締めのイベントです!!』

 

 当然だがA組は全員、蛙吹に投票している。B組も拳藤に同じ事をしているだろうし、ほかの参加者のクラスも同様だろう。後は浮動票をどれだけ掻き集められるかにかかっていた。

 

「B組拳藤ッ! B組拳藤に清き複数票をォ!」

 

「失格になるぞっ!」

 

 ステージに上がって斡旋している物間を泡瀬が羽交い締めにしている中、ミスコンを見終えた緑谷達はようやく通形先輩とエリちゃんの2人と合流する事に成功していた。

 

「あのね! いたをバーンってわったおねえさんっ、かっこよかった! おかおのおおきなおねえさんも、ふわ〜ってとんだおねえさんもすごかったけど……カエルのおねえさんがぴょーんてでてきてっ! びっくりしたけど、とってもきれいでね! あっ、デクさんとヤイバおにーさんのダンスもすごかったんだよ!」

 

「うん……っ! うん…………っ!」

 

 誰もを笑顔にさせる明るい顔で、大興奮のまま次々と感想を言っているエリちゃんの前で、緑谷は我慢できずに涙ぐんでいた。

 エリちゃんの笑顔を取り戻せた事に喜ぶ彼の隣では、ミスコンの演出を無事に撤収させた麗日も並んでいた。

 

「喜んでもらえて……嬉しいよ……!」

 

「デクくん……!」

 

「ホント頑張ったんだよね! お疲れ様!」

 

 エリちゃんの後ろに立つ通形先輩も、少し涙ぐんでウンウンと頷きながら、緑谷にねぎらいの言葉をかけていた。

 しかし、そこまで楽しそうに感想を言っていたエリちゃんが彼に疑問を投げかける。

 

「……ヤイバおにーさんは……?」

 

「あぁ……えーと……」

 

 俺は今、2人のそばにいない。

 じゃあ何をしているのかと言うと、そんな和気藹々としているクラスメイト達と離れ、俺は雄英の2〜3年の先輩達に囲まれていたのだ。

 

「おぉ『ミリオ』っ! 『ミリオ』っ!」

 

「今日は何で何回ヌくんだっ!?」

 

 目の前の元気な先輩達にウインクしながらサムズアップして、俺は臆面もなく通形先輩の声を真似て答えた。

 

 

 

「波動ちゃんで2回! あんなの見せられてヌカないワケにいかないんだよね⭐︎」

 

 

 

「ブハハハハハハハっッッwww!!!」

 

「アッハハハハハっっwww!!!!!」

 

「ブぁぁーーーーーヒャッヒャッヒャッヒャヒャッwwwwww!!!!!」

 

 俺の渾身のモノマネに、目の前にいる先輩達は一斉に腹を抱えて笑い始めた。

 

「言いそうっwww!!!!」

 

「てかっ、ミリオなら言うっwww!!!」

 

「つかっ、言ったよ前にっw!!」

 

 普段の通形先輩が先輩達とどんな戯れを繰り広げているのかよくわかる感想を聞きながら、俺が先輩のモノマネを続けようとすると、別の先輩からリクエストを投げかけられる。

 

「環は!? 環はっ!!」

 

 

 

「ハ、波動サン……ダメだ……今日モ声カケラレナカッタ…… ! 俺はダメな男ナンダ……アァ、お腹イタクナッテキタ ! 死ニタイ……ッ !!」

 

 

 

「理解力が高すぎるッwwwwww!!!!!」

 

「あっっハッハッハッハハハハハッwwwwww!!!!!」

 

「コイツマジで面白れェェェェェェッwww!!!!」

 

 100パーセント本人を馬鹿にしている天喰先輩のモノマネを披露しながら、地面に四つん這いで倒れ伏す俺に、先輩達は跪いて地面をバシバシ叩いていた。どうやら相手の要望には応えられたらしい。

 その内の先輩の1人が立ち上がって、笑いながら俺を指差す。

 

「お前卒業したら俺んトコのサイドキックにしてやるよっw!」

 

「バーカッ! コイツ体育祭3位だぜっ!? サイドキックになるのはお前だよっwww!!」

 

「マジでッ!!?」

 

 体育祭の時、他学年は別の会場ドームで行っていたから、俺達の成績を知る者なんてごく少数である事には違いない。それでも何人かの先輩は俺を知っていた事に、素で驚いた。

 

「イイわ『ミリオ』っ! お前マジでスゲーわっ!!」

 

「波動パイセンはっ!? 天喰イケんなら波動パイセンも行けんだろっ!!?」

 

 両手の平を広げて俺を受け入れてくれる先輩達は、更なる無茶振りともいえる要望を出してきた。

 それにしても、目の前にいるのは2年生のハズだが、当たり前の様に天喰先輩を呼び捨てにしている。どれだけ強くても学校というヒエラルキーに縛られた、クソナードの宿命か。

 

「せ、先輩……女の子はさすがにちょっと……」

 

 一度断ろうとした俺だが、先輩達の勢いは止まらない。

 

「俺は一向に構わねえ!」

 

「頼むっ! できんだろ?! なぁ、頼むって!!」

 

「後で通形やビッグ3の、とっておきの話してやっからっ!」

 

 ビッグ3の裏話と聞いては、モノマネをする俺にとってネタになる以上、断るワケにはいかない。2年だけでなく、3年の先輩達にも言い寄られた俺は咳払いをひとつ……純粋無垢な、言い換えればアホっぽい表情で先輩達を見つめる。

 

 

 

「へ〜っ、こんなのがキモチいいんだ〜? ふっしぎ〜♪!」

 

 

 

 声こそ完全再現はできないものの、女声で波動先輩の喋り方を完璧に真似ながら、俺は右手で竿を握りしめた手を形作り、左手の手の平で先端部をニュチニュチニュチニュチと擦り上げる動きを見せた。

 

「ぶーーーーーッッっwww!!!?」

 

「キターーーーッっwwwwww!!!!!!」

 

「ブアァッハッハッハッハハハハハッwwwwww!!!!!」

 

 思いっきり吹き出してくれた先輩達だったが、すぐ恥ずかしくなった俺は別の人間で誤魔化した。

 

 

 

「ア゛ァア゛ァアァア゛ァァアァッッッ !!!!! 」

 

 

 

「環なのかよッホッホッホッホッッwww!!!!」

 

「お前最高だわッハッハッハッハッハッハハハハハっッwww!!!!!!!!」

 

「もう1回! もう1回っ!! 頼むっwww!!!」

 

 それでも、波動先輩のモノマネで笑ってくれた先輩達を前に、俺は調子に乗り始めた。

 

 

 

「アハッ! 環くんのあまいね〜♪ ふしぎっ! アアァッ ! ソコダメ !! 舐メナイデッ !!! ア゛アァッ、イッヂャウッッ !!!!! 」

 

 

 

「wwwwwwwww!!!!!!!!!」

 

「お腹イタいぃぃいぃぃィィィッっwwwwww!!!!!」

 

「ブアァーーッハッハッハッハッハッハッハッwwwwww!!!!!」

 

「ア゛アァ゛ァァあいてッ!?」

 

 ミスコン会場である屋外の地面で、転がり回るぐらいの勢いで先輩達を笑わせていると、唐突に背後からゲンコツをくらった。

 

「もー、いい加減にしなさいっ!?」

 

 振り返れば、ショートヘアのツンツンしたピンク色の髪型をした、女子の先輩がいた。よく見ればこの人、ミスコンで波動先輩と一緒にいた人だ。

 

「んだよ『甲矢(はや)』っ! せっかくイイ所だったよによおっ!」

 

「やりすぎなのよ! 君もっ、もう少し品性を持ちなさい!」

 

「ごめんなさい」

 

 先輩達は全く反省の気配がないが、素直に頭を下げた俺に甲矢先輩が大きくため息を吐いた。

 

「ビッグ3をイジる後輩なんて初めて見たわよ……!」

 

「そりゃコイツ、ミリオにケガさせたヤツだからなっ!」

 

「大したもんだぜ! 1年のビッグ3は、1人はお前で決まりだろ?」

 

「あ、え〜と……!」

 

 甲矢先輩が現れて少し落ち着いた先輩達は、俺にビッグ3についての話を振ってきた。

 3年に『ビッグ3』なんて称号が定着している以上、2年や1年にもその名で呼ばれる人が決まるのは必然。

 1年のビッグ3と言えば緑谷、爆豪、轟の3人で確定だ。俺は一段下だろう。

 

「切裂〜、なにやってんだ〜?」

 

「梅雨ちゃん戻ってきたよ〜!」

 

 そこまで考えていると、先輩達の騒ぎが治まって声がかけやすくなったのか、遠くに離れていたクラスメイト達の中から切島と芦戸が俺を呼ぶ声が聞こえた。

 先輩達にモノマネを披露するのも楽しかったが、ここからはエリちゃんとの時間が待っている。これ以上はどうしても躊躇われた。

 

「すみません先輩っ、失礼します!」

 

「おうっ、また今度な!」

 

「楽しんでこいよ〜!」

 

 案外簡単に解放してくれた先輩達と離れた俺は、駆け足ですぐ切島達の集まっている所に合流する。

 

「ゴメン、お待たせ」

 

「ったく、どんどん顔が広くなってくよな! お前は!」

 

「なあ、先輩達と何話してたんだ?」

 

「ずいぶん楽しそうにしてたけど?」

 

「まあ、色々……」

 

 到着するなり峰田から関心した様な嫉妬された様な声を受け、切島や芦戸からは質問攻めにされるも、下ネタを堂々と言う気にはなれなかった俺は適当にはぐらかす。

 そこに遅れて、蛙吹と八百万もクラスメイトの中に合流した。

 

「ケロっ、お待たせ」

 

「おつかれ〜梅雨ちゃん!」

 

「スッゴく綺麗だったね!」

 

「完璧だったよ!」

 

「こりゃ優勝、間違いねーだろっ!」

 

「ヤオモモもおつかれっ!」

 

「はい……! 麗日さんも口田さんも、ご協力ありがとうございました!」

 

 蛙吹がクラスメイト達に合流すると、誰もが高いテンションで彼女を迎え入れてくれた。1人で脱ぐのが困難だった翡翠のドレスは、八百万に協力してもらったそうだ。

 今は蛙吹も化粧を少し落として髪型も元に戻して、俺のオリTを着ている。ちなみに、俺もクラスメイトのダンス隊も、衣装ではなくTシャツを着ている。

制服よりも遥かにラフで楽だし、文化祭というイベントだからこそ、これを着て巡りたいのだ。

 クラスメイト達も全員集合し、ミスコンの途中から合流していた飯田が手を叩いて皆の注目を集め、場を仕切り始める。

 

「よしっ! 俺達の出し物はコレで全て完遂だ! 文化祭が終わったら、B組と協力して体育館の完全撤収があるから、その時間までには遅れないように! それじゃあ、ココからは自由時間だ! みんな、プレゼントマイク先生の仰った通り、思い切り楽しもう!!!」

 

 

 

「「「「「「「「「「おぉーーーーっ!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

 

 彼の言葉に全力で返事をした俺達は、クラスメイト同士でグループを作りながら何処に遊びに行こうかと話を始める。

 

「アスレチックあるんだ! 爆豪行こうぜっ!!」

 

「チッ……勝手にしろ……ッ!」

 

「くれぇぷ!」

 

「まだまだ楽しもうね!」

 

「うん!」

 

 そんな賑やかな騒ぎからは少し離れて、俺はようやく再会できたエリちゃんの前に立ってしゃがみ込んだ。

 

「エリちゃん、お久しぶり!」

 

「ヤイバおにーさん……! ダンス……グルグルまわって、すごかったよ!」

 

 俺の前で目をキラキラ輝かせながら話すエリちゃんに、ここまで頑張って良かったと気持ちが報われていく。

 でも、まだまだ文化祭は続くのだ。彼女にはもっと楽しんでもらわねばと、俺はエリちゃんとどこを見て回っていこうかと考えながら、楽しそうに話す彼女の話を聞いて頷く。

 

 その後ろでは、クラスメイト達の会話に混ざるでもなく、芦戸が俺の背中をずっと見ていた。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 芦戸 三奈は迷っていた。

 

 ライブの練習期間に自分の想いをクラスメイトの女子達へと吐露し、比較的気分は振り切れた状態で練習へと臨み、彼とのダンスも本番まで全て完璧へと導く事に成功した。

 

 けれども、それだけでは足りない。

 

 自分の想いを知っても、クラスの女子達からは茶化されず、純粋な気持ちで背中を押してくれた。

 そして、文化祭という一大イベントを前に、このままだけで満足するワケにはいかなかった。

 

 彼女達との女子会で決意した事は3つ。

 

 

 

 

 

 彼と文化祭を見て回る事。

 

 そして、あわよくば彼に自分の想いを告白する事。

 

 それが叶わなくても、次のデートにだけでも漕ぎ着ける事。

 

 

 

 

 

 だが、彼を誘うにあたって現状では障害が幾つも発生していた。

 

「ヤイバおにーさん……」

 

「ん? ああ、手? はいっ」

 

 まず、彼にベッタリである壊理。切裂本人も歳の離れた兄の様な振る舞いを見せており、今もこうして膝立ちでしゃがんでいる彼の手をしっかりと握りながら、文化祭のパンフレットを見てどこへ回ろうかと話をしている。文化祭が終わるまでどころか、終わっても離さないぐらいの勢いだ。

 緑谷から少し話を聞いていた限り、インターンの事件で凄惨な過去を持っており、事情が事情なので引き剥がすのも心苦しかった彼女は、ココだけは目を瞑る事にした。

 

「エリちゃん、どこにいきたい?」

 

「んー……いっぱいあってえらべないや……」

 

「そしたら、前みたいに歩いて気になった所へ行ってみようよ!」

 

 壊理の次に問題だったのは、インターンの事件において彼女との関係が深く、今回の文化祭で同行しようとする者達。

 その中の1人、切裂と通形の次に壊理と関係の深い緑谷。文化祭前の準備でも彼女を連れて学校を回っていた通り、当日も約束通り彼女と……そして切裂と見て回ろうとするのは当然の動きだった。

 

 だが、彼に関しては対処が効いた。

 

 

 

 

 

「デ、デクくんっ! わっ、私と一緒にまわらん!?」

 

「え……えぇっ!? う、麗日さんっ!!?」

 

 

 

 

 

 突然動き出した麗日の勇姿を見て、真っ先に反応した切裂が背中を押した。

 

「っ!? いいよ緑谷くん!! エリちゃんは俺に任せて、行ってきてっ!!!」

 

「えっ!? うわ無重力っ! 待って、うっ、麗日さーんっ!!?」

 

 そのまま緑谷は麗日に無重力で掴み上げられ、引っ張られてどこかへと走り去ってしまった。そんな様子を壊理はキョトンとしながら見届ける。

 

「デクさん……おねえさん、どうしたんだろう……?」

 

「ゴメンねエリちゃん、緑谷くんは麗日ちゃんと用事があったみたいだから……俺と通形先輩だけで大丈夫?」

 

「……うん!」

 

 彼と麗日の関係を探っているのは、切裂も同じなのである。いや、背中を押そうとする立場だ。彼が緑谷と麗日を2人きりにさせる事に、迷いなどなかった。

 そして壊理本人も、切裂さえ一緒にいれば後はどうでもよかったのだ。

 

「切裂っ! 2年のトコで『人間猫カフェ』ってのやってんだって! なあ行こうぜ!?!」

 

 次に障害だったのは、壊理とは関係が深くないものの、切裂の唯一無二の親友である峰田。彼が一緒に文化祭を見て回ろうとするのも、ある意味必然だった。

 

 しかし、そこへ峰田にとって想定外の人物が、切裂との間を阻んできた。

 

 

 

 

 

「峰田ちゃん、一緒に回りましょ」

 

「つ、梅雨ちゃん!?」

 

 

 

 

 

 大胆にも彼を誘ったのは蛙吹だった。よーく目を凝らしてみると、化粧の一部はそのまま残しており、少し上体を傾けて峰田の顔を至近距離で覗き込んだ。

 

「ミスコンのお礼がしたいの。いいでしょ?」

 

「お……おうっ!」

 

 頬を染めた峰田は一瞬だけ壊理と一緒にいる切裂をチラリと見たが、この男は彼と違ってマブダチよりも女を優先する男である。それもさっきまでミスコンで見惚れていた蛙吹に誘われては、断る理由なんてなかった。

 そのまま校舎に向かって去ろうとする2人を、切裂は一抹の寂しさを感じながらも嬉しそうに見届けていた。

 

「C組の心霊迷宮ヤバそー! 切裂、行かねえか?!」

 

「あー、えーと……!」

 

 まだまだ障害は終わらない。峰田に続いて切裂を誘おうとしたのは、峰田とも親しい関係の上鳴である。

 しかし、お化け屋敷などのビックリ系でかつ血を使いそうな壊理のトラウマを刺激するものを切裂は断るつもりだったのだが、その彼よりも早く反応した者がいた。

 

 

 

 

 

「う……ウチ、行ってみたいかも……!」

 

「えっ!? じ、耳郎っ!!?」

 

 

 

 

 

 芦戸の想いを突いた張本人である故に、彼女の恋の成就を達成させる責任感を背負った耳郎が、ひと肌脱ぎ始めたのであった。

 そんな彼女の言葉に、上鳴は困惑が広がるばかりだった。

 

「でも、お前こーゆーの大嫌いじゃなかったか!? 前に常闇達との怪談話も、即逃げたじゃねえか!」

 

「なっ、慣れる機会かもしれないからっ! イヤならいいけど!」

 

 顔を真っ赤にしながらも上鳴のシャツを掴んだ耳郎に、ドキリと胸の鼓動を強く打ち鳴らした彼は、普段のチャラチャラした態度はどこへやら、少し挙動不審な態度で彼女の前を歩き出した。

 

「わ、わかったぜ! いっ、いい、一緒に行こうか……!」

 

「う、うん……っ!」

 

 ここまでA組の女子3人が、オドオドしながら男子を誘っていくその様子を、不思議そうに眺めていたのは尾白である。

 

「な、なんか女子達……みんな様子ヘンじゃない……?」

 

「みんな文化祭でテンション上がってるんだよ! ホラ、尾白くん! 私、お化け屋敷行きたいな!」

 

「えっ!? は、葉隠さんっ!!?」

 

 彼と一緒に3人の様子を見ていた葉隠は、ウキウキとしながら透明な手で尾白の手を掴み、彼を連れてどこかへと行ってしまった。

 

 しかし、障害はまだ残っている。

 

 壊理との関係が深く、尚且つA組にほとんど関与していない、ビッグ3の通形であった。文化祭開催からライブとミスコンを通しての様子を見る限り、完全に彼女と切裂に同行する勢いである。

 

「………………っ!」

 

 

 

 

 

 だが、緑谷と麗日の間を取り持とうとする切裂を見て察した様に、彼は空気の読める男だった。

 

 

 

 

 

「切裂くん! 俺、同級生の誘いがあってちょっと抜けるから、それまでエリちゃんの事、頼んでもいいかい?」

 

「え!? は、はい! でも、いいんですか?」

 

「俺は大丈夫! 午前中ずっとエリちゃんと一緒だったしね! エリちゃんも、大丈夫だよね!?」

 

「うん……///」

 

 通形の言葉に壊理は悲しむどころか、嬉しそうに喜んでいた。同級生に誘われていたのは本当だったため、最初は彼女も切裂達と一緒に連れていこうとしたのだが、壊理の返事に少しだけ彼はショックを覚えていた。が、表情には出さなかった。

 手を振りながら走り去っていく通形を見届け、切裂はなぜかもうご満悦なエリと話をしながら、2人きりでこれからどこに行こうかと話をしている。

 

 コレで、切裂を阻む男子は1人もいなくなった。

 

 後は、彼女が勇気を振り絞るだけ。

 

 

 

 

 

「ヤ、ヤイバ……!」

 

「あ、芦……三奈ちゃん……?」

 

 

 

 

 

 辿々しく、それでいてどこか恭しい、いつもと違う雰囲気をまといながら、芦戸は切裂の前に立った。

 

「そ、その子紹介する約束だったでしょ?」

 

「う、うん……!」

 

 しかし、どストレートに彼を真正面から誘うのは恥ずかしかったのか、デートと口に出せずに壊理へと逃げてしまった。

 そんな壊理は不思議そうに、切裂に話しかける芦戸の事を見上げていた。

 

「おにーさんとグルグルおどってたひと……!」

 

「そ、そうっ! 私、芦戸 三奈!! よろしくねっ!」

 

 ライブでは切裂と一緒にブレイクダンスを披露していた上、その特徴的な見た目のおかげで壊理は彼女の印象に残っていた。

 一転して明るい表情を見せた芦戸に、壊理は戸惑いつつも彼女の優しさを感じて笑顔を見せる。

 

「ね、ねえヤイバ……一緒に行こっか……!」

 

「あ、ああ……!」

 

 彼も辿々しく返事をしながら、切裂と芦戸は同時に立ち上がる。そして行く先もまだハッキリと決まらないまま、2人は壊理を連れて歩き出してしまった。

 ほんの少しだけ、プク〜と頬を膨らませた壊理だったが、切裂と繋ぐ手はしっかりと彼に掴まれていた。

 

 こうして、なんとか彼女は切裂と壊理との同行に成功したのであった。

 

 

 

 

 

「芦戸さん……健闘を祈りますわ……!」

 

 

 

 

 

 そして、ひとり女子達から残された八百万だが、彼女は彼女でやるべき事がある。というか、自ら名乗り出た役目があるのだ。

 

 芦戸と切裂、2人の動向を見守る事。

 

 もし2人の関係に変動が起こった場合、速やかに女子グループで連絡を取る役目だった。

 

 元々、尾行というのをやってみたいという彼女の私的な思いもあったが、今回に至っては責任重大な役割でもあった彼女は、ミスコンの準備と同じ様に妥協するつもりはなかった。

 

「………………」

 

 ただ、それでも、彼女の中にはまだ無意識に押さえ込んでいる想いがある事に気づいていなかった。

 そんな彼女を後ろから声をかける男が現れる。

 

「八百万」

 

「っ!? と、轟さん!?」

 

 これから2人を尾行しようとしていた八百万が振り返ってみると、そこには彼女を不思議そうに見る轟が立っていた。

 

「どど、どうかされましたか!?」

 

「いや、1人だったから…………誰とも相手がいねえなら、俺達のグループに来ないか?」

 

 それは轟なりの優しさだったのだが、今の彼女にとっては自分の目的を妨害する障害でもあった。

 

「わ、私は大丈夫ですから、どうかお気になさらず……!」

 

「そうか?」

 

 彼女の慌てふためいた返事に対して轟はまだ心配をしていたが、それを止めたのはグループのリーダーになっていた飯田だった。

 

「まあ、楽しみ方は人それぞれだろう! 行くぞ轟君!」

 

「ああ。いつでも合流していいからな」

 

 一重に真面目過ぎる彼は、癖の強すぎる集団であるA組の多様性をシッカリ受け止めているからこそ、八百万の1人になりたい様子を汲み取って轟を宥めたのであった。

 それでも彼はひと言八百万に添えて、飯田の引率する口田や常闇のグループへと歩いて行ってしまった。

 

「ふう…………アラ、切裂さんと芦戸さんは……!?」

 

 ホッとひと息吐く八百万は、目的の2人が見えなくなっていた事に慌てふためきながら、任務を果たすべく探し始めたのであった。

 

 実は彼女達は気づいていないが、ココには更なる障害がひとつだけ残っていた。

 

 

 

 

 

「………………」

 

 

 

 

 

 それは彼等A組の担任であるイレイザーヘッドこと、相澤である。彼は壊理の付き添いであり、彼女が一緒である限り絶対に離れる事はない。

 恋愛すら非合理的だと言ってしまいそうな彼に、恋にうつつを抜かしている所なんて見られたら、何を言われるのかわかったモノではない。それは彼を今日まで見ているA組女子全員の見解だった。

 

「………………」

 

 だが、そんな相澤はと言うと、切裂や芦戸、壊理にも気づかれないほど遠くから、彼等の事を見守っていたのだ。

 教師である自分が近くにいては、生徒のストレスになるという彼なりの気遣いだったが、それが人知れず芦戸を更に有利に進めたのであった。

 

(まあ、成績に影響が出ないなら、いいだろう……)

 

 合理的な思考こそ人に押し付けないが、どこまでいってもドライな彼は最近になって他校の同僚からの電話が多い事の方が問題になっていたのである。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 芦戸とエリちゃんを連れた俺は、彼女達の気になった出し物に足を止めていく方針に決めて、午後の文化祭の中を歩き回っていた。

 今、3人で歩いている場所は校舎の外の屋台が並んでいるエリアである。俺の隣にはギュッと手を繋いでいるエリちゃん。その隣に芦戸が並びながらキョロキョロと落ち着きなく周りを見渡している。

 

「そういえば、腹減ったね」

 

「よーやく落ち着けたもんね! もうお腹と背中くっついちゃいそうっ!!」

 

 ライブからミスコンまで飲まず食わずで動いていて、お腹が鳴る暇もなかった。やることなすこと落ち着いてきて、ようやく胃の中がすっからかんである事に俺も芦戸も気づいた。

 普段だったらランチラッシュの食堂でガッツリ頂くのだが、せっかくの文化祭。たまには昼もジャンキーな物で満たしたい。

 

「エリちゃんもお腹すいた?」

 

「うん……!」

 

 俺の問いかけにコクンとうなずくエリちゃんも、芦戸と同じ様に屋台を見上げている。見渡す限りある屋台はホットドッグにタコ焼き、焼きそば。リンゴ飴はやっぱりなかった。

 その中のひとつの屋台を見つけた芦戸が、元気良く声を発して指差した。

 

「あ、クレープだっ!」

 

「くれーぷ?」

 

 初めて聞いたのか、彼女を見上げたエリちゃんがキョトンとしていると、芦戸が鼻を鳴らして自慢げに説明を始める。

 

「クレープってのはね、薄くて甘〜い生地に生クリームとフルーツがい〜っぱい入ったスイーツなんだよ!」

 

「す、すいーつ……!」

 

 そんな説明を聞いてキラキラと眼を輝かせるエリちゃん。リンゴが好きって言ってたから、フルーツが好きなのはなんとなくわかったが、やっぱり甘い物にも興味が強いのだろう。

 本当はガッツリと焼きそばかお好み焼き辺りが良かったのだが、今日ぐらい空きっ腹に甘味ブチ込むのもアリだと思った。なので、記念すべき文化祭1品目の屋台は決まった。

 で、そのままクレープ屋に近づくと今度はエリちゃんが屋台の前を指差した。

 

「アレ、デクさん……?」

 

「ホントだ! 麗日もいるっ!」

 

 数分前、麗日に連行されていった緑谷が彼女と仲良くクレープを買っている。茶色の髪の毛と並ぶ緑色の癖っ毛は、遠くからでもすぐ目立った。

 

「あっ、エリちゃん! 切裂くんと芦戸さんも!」

 

「き、奇遇だねっ! そっちもくれぇぷ?」

 

 無理矢理連行された割には馴染んだのか、エリちゃんや俺を見ても普段通りの様子を見せた緑谷と、大胆な行動に出た後に恥ずかしくなったのか、少し顔の赤い麗日が俺達に気づいた。

 

「へへっ、そんなトコ! エリちゃんがクレープ初めてみたいでねっ!」

 

「そーなの!? よかったねエリちゃん!」

 

 俺は彼女達と一緒にメニューを眺める。チョコにイチゴにバナナに桃、ブルーベリー、みかん……色々あるが、リンゴは売ってないようだ。

 

「エリちゃんは何にする?」

 

「……みかん」

 

 少し残念そうにしていたエリちゃんだったが、芦戸の話を聞いてまだ未知なるクレープに期待を込めている。麗日はチョコ、緑谷はバナナ、芦戸はブルーベリー、俺は桃にした。

 注文してから数分後。焼き立ての生地をクルリと逆円錐型に丸められた、ほのかに温かい橙色の映えるみかんのクレープを店員から受け取り、ソレをエリちゃんに渡す。

 彼女は両手で持ったクレープの、フルーツとクリームの乗った部分を恐る恐る食べた。

 

「あまくてフワフワする……!」

 

 幸せそうに笑みを浮かべて、大変気に入ったのだろう。そのまま彼女は大きく口を開けてクレープを頬張った。そんな様子を見て俺も緑谷も、なんだか胸がいっぱいになってしまう。

 

「「う〜、甘いモノが沁みる〜!」」

 

 その隣で、芦戸と麗日の2人は涙目になりながらクレープを頬張っている。確かに今日は午前中まで大騒ぎだったから、気持ちはわかった。

 嬉しそうに食べるエリちゃんの口元に、白いクリームが付着してしまったので、俺は店員から受け取っていた紙ナプキンを広げて彼女の頬のクリームを拭いとる。

 

「エリちゃん、ホラ……」

 

「んぅ……///」

 

 口元を俺に拭われていても、彼女はなんか嬉しそうにしていた。そこに口元をブルーベリーの青紫色だらけにした芦戸が顔を寄せてくる。

 

「ヤイバ〜、私にも〜♪」

 

「はい」

 

 俺は彼女に紙ナプキンだけを渡した。

 

「わー、ケチー!」

 

「………………」

 

 キーキー怒っている芦戸を宥めている反対側で、本当に楽しみだったのか嬉しそうにクレープを食べる麗日の様子を、ボンヤリと眺めながら自分のクレープを咥えたままの緑谷に、俺は耳打ちした。

 

「緑谷くん、半分こしてきたら?」

 

「ムグッ!!? なっ、なに、なんっ、何をっ!?」

 

 緑谷は大きく飛び上がると、一瞬にして顔を真っ赤にしてクレープを詰まらせながら動揺している。そんなにビックリするような事、言っただろうか。

 

「飲み物も欲しいねー!」

 

「自販機いこっか?」

 

 麗日と芦戸の話す通り、立ったまま食べるのもどうかと思ったので座れる場所を緑谷と一緒に探そうとしたのだが、その途中で彼は突然エリア内の一角に目を奪われた。

 

「ヒーロークイズ大会……優勝賞品はオールマイトと雄英教師達の寄せ書きサイン色紙!!? 麗日さんっ!! 僕ちょっと参加してくる!!!」

 

 屋台のエリアから少し離れた場所で、ベタなバラエティ番組みたいな屋外セットの用意されたクイズ大会の会場だったらしく、近くには観客用のイスとテーブルも用意されており、休むには丁度良かった。

 そして、そのクイズ大会の優勝賞品である、台に飾られた先生達のサイン色紙に緑谷は愕然としながら、受付会場へと無意識なのかってぐらいの勢いで歩み出す。

 

「先生のサインって……普段、会ってるじゃない!」

 

「何言ってるの芦戸さん! メディアにまず出ない相澤先生(イレイザーヘッド)のサインに加えて、これだけのプロヒーローの寄せ書きに、オールマイトまで付いてくるんだよっ!!? こんな豪華過ぎるサイン『月刊ヒーロー』にも出てこないよっ!! うわー絶対に欲しいっ!!!!!」

 

 普通に感じられる芦戸の意見に反論し、振り返った緑谷は熱意の塊みたいな勢いで話し始める。その迫力に思わず彼女はたじろいだ。

 

「デクくんっ、エントリーまだ受付中やって! ここで見てるのも面白そうやし……やってみよ!」

 

「う、うんっ! ありがとう!!」

 

 オールマイトと含む雄英教師の寄せ集めサイン色紙、ヒーローオタクの緑谷だったら喉どころか全身から手を出しても欲しい物だろう。

 麗日にも勧められて、手元に残っていたクレープを丸呑みにした緑谷は意気揚々とエントリーの受付へと走っていく。

 

「おにーさんはでないの?」

 

「え?」

 

 そこにエリちゃんが何を思ったのか、俺の方を期待を込めた様な表情で見上げてきた。

 

「行ってきなよヤイバっ! ココで麗日と一緒にエリちゃん、見てるから!」

 

 別にサイン色紙が欲しいワケでもないし、緑谷に勝てるとは思っていないが、エリちゃんに期待されては応えないワケにはいかない。

 緑谷に続いて俺も受付でエントリーし、選手が集まったクイズ大会はすぐに始まった。俺まで参戦した事に緑谷は驚いていたが、エリちゃんが興味を持ったと聞いて納得していた。

 

「切裂くん……今回だけは絶対に負けないからね!」

 

「わ、わかった……」

 

 勝つ気もないから安心しろと心の中で呟いて、受付の人とスタッフに案内された俺達はステージ上の横一列に並んだテーブルの席についた。ちなみに、隣の席は緑谷だ。

 いきなり煌びやかな音楽と共に、数発のクラッカーが放たれた。

 

『それではやってまいりました〜! 第42回、雄英ドキドキヒーロークイズ大会〜!!! 司会は2年C組の───

 

 そんなに続いてるのかとツッコミながら、俺は座ったままテンションの高い司会の方を眺める。テーブルの目の前には真っ赤な押しボタンがあり、ルールなんか聞かなくても一目瞭然だった。

 

「頑張れヤイバ〜っ!」

 

「デクくんっ! 目指せゆーしょーっ!」

 

「おにーさん……がんばれっ!」

 

 客席のテーブルでクレープとどこかの自販機で買った飲み物を持って騒ぐ麗日と芦戸に、何かを期待する様にこちらを見ているエリちゃん。向こうも楽しそうでなによりだ。

 クイズは早押し形式で、ひたすら正解を重ねて得点が1番高い人が優勝。あの額縁まで豪華なサイン色紙を頂けるそうだ。

 そんなルール説明もすぐ終わって、いよいよ問題が始まった。問題数は全部で30問。中々長い戦いになりそうだ。

 

 

 

 

 

『では、さっそく第1問! 人気急上昇中の若手ヒーロー《シンリンカムイ》のデビューは───

 

 バンッ!

 ピンポーン♪

 

 出題の司会がまだ喋っている途中で、アラームの音よりボタンを叩く音の方が強い緑谷が答える。顔が真剣そのもの過ぎで、ちょっと怖い。

 叩いたボタンを光らせた緑谷は、そのままの表情で口早に答える。

 

「銀行強盗犯を先制必縛『ウルシ鎖牢』で7人いっぺんに確保っ!!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 緑谷の雰囲気に対して、気の抜けた正解のアラームが鳴った。

 

『1年A組、緑谷くん正解! ちなみにただいまの問題は───

 

 俺は頭を押さえた。

 

 思った以上に問題がコアな上、それ以上の勢いで緑谷の食いつきが早過ぎる。林間合宿のバスでオールマイトのマニアック過ぎる内容のクイズ大会を始めようとする辺り、次元が違った。

 

 

 

 

 

『続きまして、第2問! フレイムヒーロー《エンデヴァー》の好物───

 

 バンッ!!

 ピンポーン♪

 

 またしてもボタンを叩いたのは緑谷。その内、ボタンが壊れるんじゃないかってぐらいの勢いである。

 

「葛餅っ!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

『なんと緑谷くん、2問連続正解っ! 圧倒的なスピードです! 他の選手が全く追いつけていませんっ!!』

 

 ヒーローの知識が凄いのは知っていたが、ここまでとは思わなかった。

 たった2問目で緑谷の圧倒的な実力差を見せつけられ、ほかの出場者の何人かが明らかに勝利を諦めた態度をとっていた。周りの観客席も緑谷の優勝を確信した様な様子を見せ、芦戸と麗日は俺の方を見ながら苦笑いしている。エリちゃんも少し心配そうな顔で、俺を見ていた。

 

 彼女のために少しは活躍したかったけど、今回は完全に緑谷からお株を奪われそうだ。

 

 そう思った直後に次の問題が流れた時だった。

 

 

 

 

 

『第3問! マウントレディが個性を使った場合───

 

 バァン!

 ピンポーン♪

 バンッ!

 

「っ!?」

 

 驚いたのは緑谷の声。それと同時に司会や観客からもざわめきと動揺が広がる。

 

 

 

 だって彼よりも早く、俺がボタンを叩いていたのだから。

 

 

 

 まだ緊張しつつも、俺は恐る恐る答えた。

 

「……2062センチメートル……?」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 まだ3問目だというのに、正解のアラームが鳴ったのと同時に会場から静かに歓声が湧いた。司会の人も、敵なしに見えた緑谷を遮る俺の存在に、テンションが高くなる。

 

『おーっとココで緑谷くんの連続正解を止めたのは、同じく1年A組の切裂くん! コレは勝負の結果がわからなくなってきたぞ〜っ!?』

 

 隣で緑谷が目に炎を宿したのも知らず、芦戸とエリちゃんの喜んでいる様子を見て俺は笑った。

 

 

 

 

 

『どんどんいきましょう第4問! オールマイトの元サイドキック《サー・ナイトアイ》の趣味は《オールマイト》と───

 

 バンッ!!

 ピンポーン♪

 

「プリユアっ!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 しかし、相手は最強の緑谷である。すぐさま仕返しの如くポイントを取り返してきた。鼻息も少し荒い。

 やっぱり勝てる気はしないのだが、こうなったら喰らいつくだけ喰らいついてみせよう。

 

 

 

 

 

『第7問! この雄英高校文化祭にて、在学中のミスコン3連覇を成した───

 

 バァンッ!!

 ピンポーン♪

 

「ミッドナイト先生!!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 3度目の正解になって会場が湧き立つ中、芦戸が俺の方を見ながら冷や汗を垂らし、麗日へ話しかけていた。

 

「な……なんか、ヤイバ知識偏ってない!?」

 

「わかった、峰田くんや……!」

 

 麗日の言う通り、こちとら中学から峰田との会話で、女性ヒーローの事だけなら無駄に知識が集積されているのだ。

 緑谷みたいなクソナードじゃ絶対に買えない様な女性ヒーロー特集やグラビアの裏話など、別方面の知識や情報なら負けるつもりはなかった。そしてこの問題を作ったヤツは、おそらく俺や峰田と同類。

 緑谷は今、誰よりも優れていると思っていたヒーローの知識に、負かされようとしている。今度、彼にもソッチ系の雑誌を渡しておこう。

 

 

 

 

 

『第8問! プレゼントマイク《ぷちゃへんざレディオ》のヘビーリスナーの愛称───

 

 バンッッ!

 ピンポーン♪

 バァン!

 

「チッ!」

 

 俺は思わず舌打ちした。

 ソッチ系関係なく知っている問題だったが、緑谷の方が早かった。

 

 

 

 ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ!!

 

 

 

「切裂くん静かに!」

 

 万一間違えた時に備えてボタンを連打していたら、緑谷に怒られた。今の顔なら爆豪だって気圧されるだろう。

 

「マイキッズ!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 緑谷の独壇場かと思われたクイズ大会は、独走する彼を俺が必死に追いかけている状態になっている。司会も都合が良かっただろう、テンションの高いマイクパフォーマンスで盛り上げながらクイズは続く。

 

 

 

 

 

『第10問! ベテランヒーローチーム《プッシーキャッツ》の管理する山荘───

 

 バァンッ!

 ピンポーン♪

 

「マタタビ荘!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 自分が気絶する直前に見た景色など、絶対に忘れるハズがない。

 順調にポイントを稼ぐ俺の視界の向こうで、エリちゃん達の盛り上がっている席に、2人で文化祭を巡りに行った峰田と蛙吹の近寄る様子が見えた。

 

「おっ、麗日に芦戸! エリちゃんも!」

 

「峰田くん!」

 

「峰田!」

 

「ケロ……緑谷ちゃんと切裂ちゃんは?」

 

 蛙吹の疑問に芦戸と麗日が同時に答えて俺達を指差す。

 

「「あそこ」」

 

「なにやってんだアイツらっ!!?」

 

 驚いてはいたものの、事情を聞いた2人はそのまま彼女達と一緒になって、クイズ大会に参加する俺と緑谷を眺めていた。

 俺がそんな様子を見ている間も、司会によってクイズは続く。

 

 

 

 

 

『第13問! デビュー直後のマウントレディに決まったCM───

 

 バァンッ!

 ピンポーン♪

 

 安定してボタンを押すのも早かった俺は、迷いなく答えた。

 

「『Lady Hair』!」

 

 ブブー!

 

「あれッ!?」

 

 だが、ココで初めて聞く事になった不正解のブザーに俺は動揺する。CMと聞いて、アレしか思い浮かばなかったのだが。

 そこに続いて緑谷が勝ち誇った表情でボタンを叩いた。

 

 バン!!!

 ピンポーン♪

 

「美しく、大らかなツヤに!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 絶対にシャンプーの問題だと思ったら、答えはキャッチコピーの方だった。卑劣な引っ掛け問題に、俺は思わず司会の生徒を睨みつける。

 対して緑谷も追われている立場のせいか正解に満足せず、次の問題を一字一句聞き逃すまいと殺気立ち、とてつもない気迫を見せながら微動だにしていない。その集中力を特訓に出せ。

 

「ケロ……エリちゃんの教育に悪いわ」

 

「うん……!」

 

「だね……」

 

「?」

 

 蛙吹の手によってエリちゃんの目元が優しく隠された。峰田は、ほかの観客と一緒に笑い転げていた。

 

 

 

 

 

『第15問! イレイザーヘッドのヒーロー名を命名した彼の雄英高校の同級───

 

 バァン!

 ピンポーン♪

 

「プレゼントマイク先生!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

「え!? そうなのっ!!?」

 

 俺の答えに観客席のみならず、隣の緑谷まで驚いていた。ただでさえ相澤先生の情報はメディアに上がらないのだから。

 緑谷は俺がいなかったら何て答えるつもりだったのか気になったが、少しだけ優越感に浸れた。

 

 

 

 

 

『第16問! マウントレディが巨大化で壊した事務所の───』

 

 バァンッ!

 ピンポーン♪

 バンッ!

 

 本当にギリギリだったが、俺の方が早かった。

 

「えと……

 

 

 

 バン……バンッ! バンバンッ!!

 

 

 

「うるさい!」

 

 俺が早押ししたのに、無言でボタンを叩き続ける緑谷に一喝して、司会に答えた。

 

「……5軒!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 ここまで答えていると、芦戸が再び口に出した。

 

「なんか、マウントレディの問題多すぎじゃない?」

 

「ネタにしやすいヒーローだしな!」

 

 本人が聞いたらド突かれそうな感想を述べる峰田に、会場で笑いが巻き起こっていた。

 

 

 

 

 

『第19問! プッシーキャッツ《ラグドール》の好きな物は───

 

 バンッッ!

 ピンポーン♪

 

 ヴィランも逃げるんじゃないかと思うぐらいの鬼気迫った表情で、俺よりも早く緑谷がボタンを叩く。

 

「ほかのメンバー!」

 

 ブブー!

 

「えっ!?」

 

 しかし今度は緑谷が間違え、しかも自信があったのか俺以上の動揺を走らせる。

 

 バァンッ!

 ピンポーン♪

 

 そこに俺が落ち着いてボタンを叩き、彼の代わりに答えた。

 

「ぬいぐるみ!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

「ええっ!?」

 

「待って! それオイラも知らねえよっ!!?」

 

 あの緑谷どころか、同じ雑誌を共有している峰田まで困惑している。そりゃ、俺も少し前まで知らなかったのだから。

 

 文化祭よりも少し前だったか、消灯間際ぐらいにラグドールさんから電話が来た事があったのだ。しかも、テレビ電話で。

 寝巻き姿だったのか、透けたネグリジェ姿で通話してきた彼女にツッコミたいのは山々だったが、内容がインターンの話だったせいで切るに切れなくなった事があった。主に爆豪が仮免を取り終えた後の話で。

 

 その時に映っていたのだ。彼女のベッド周りが抱き枕を筆頭に、ぬいぐるみだらけだった事に。

 

 誰にも見られては、いないハズ……

 

 

 

 

 

『第21問! スネークヒーロー《ウワバミ》の頭に生えている蛇の性───

 

 バァン!

 ピンポーン♪

 

「全部(メス)っ!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 峰田のおかげで女性ヒーローなら敵なしだった。観客席の本人は、徐々に女子達から詰め寄られていたが。

 

 

 

 

 

『第25問! 洗濯ヒーロー《ウォッシュ》がCMで───

 

 バンッッ!

 ピンポーン♪

 

「ワシャシャシャシャ5回!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 さすがに全く知らんヒーローだと分が悪い。

 

 

 

 

 

『第28問! サー・ナイトアイの地毛は───

 

 バァン!!

 ピンポーン♪

 バンッ!!

 

「金色!」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

 そして、お互いに知っている知識同士になると、完全な早押し勝負となった。

 

 

 

 

 

『最終問題、第30問! オールマ───

 

 バンッ!!!!!

 ピンポーン♪

 

 そして最後の最後で、早すぎるタイミングでボタンを叩いたのは緑谷だった。

 明らかに何の問題かわからないハズなのに数秒の無言の後、彼はボソリと答えた。

 

「……7分31秒」

 

 ピンポンピンポーン♪

 

『最後の問題を制したのは緑谷くんっ! ちなみに、ただいまの問題は……オールマイトの伝説の日本デビューの動画の時間は何分何秒でしょう、という問題でしたが……7分31秒正解ですっ!!!』

 

 司会の解説を聞いて、なんで『オールマイト』だけでわかったんだと問い詰めてやりたかった。観客席にいる麗日達も同様だろう。きっと頭の中にヒーローの神でも降臨したのか。そうに違いない。

 

『さ〜て注目の結果は〜っ!? ああ〜っ、切裂くん惜しくも届かないっ!!! 緑谷くんの優勝ですっ!!!!!』

 

「やったあっ!」

 

 さっきまでの阿修羅みたいな形相から一転、子供みたいに無邪気に喜ぶ緑谷に、司会から直接手渡してサイン色紙が贈られた。

 久しぶりのヒーローオタクっぷりを発揮した緑谷にドン引いている女子3人と、とにかく勝った事で尊敬の眼差しを向けるエリちゃんに、俺は手を振って返した。

 

 

 

 

 

 クイズ大会が終わってエリちゃん達の席に戻ってきた俺と緑谷を、観客席に座っていたみんなが迎えてくれた。

 

「お待たせっ!」

 

「デクくん、おつかれ!」

 

「ヤイバ惜しかったな〜」

 

「でも、白熱してたぜっ!」

 

 ウッキウキの上機嫌な緑谷の腕には、額縁に入ったサイン色紙が抱えられている。

 

「このあとはどうする?」

 

「僕コレ、寮に置いてくるよ」

 

「キズついたら大変だもんね!」

 

「オイラ達はこれからC組のお化け屋敷に行くぜっ!」

 

「ケロっ、普通科の人達がずっと宣伝してたから、気になったのよ」

 

「オバケがでるのに……いくの?」

 

 緑谷と麗日は一旦寮に戻るらしく、峰田と蛙吹はこれから向かうお化け屋敷の事を楽しそうに話しているが、お化けと聞いてエリちゃんは俺の背後に隠れた。

 

「大丈夫だよ、行かないから」

 

「エリちゃんにお化け屋敷は刺激が強すぎるからねっ」

 

 エリちゃんにビックリ系はまだ早すぎるだろう。俺と芦戸の言葉に、彼女はホッと小さく息を吐いている。

 それよりも、エリちゃんがさっきから目を奪われている、峰田の持ち物に目を向けた。

 

「てか、峰田くんソレ何?」

 

「ん、コレ?」

 

 彼が持っていたのはセメントス先生の姿を模した、紙パックのジュースだった。形はまんまセメントス先生で、平坦な頭の上にストローが刺さっている。しっかり自立できるぐらいに頑丈だ。

 

「腹減って屋台の所歩いてたら、見つけたんだ。スゲー作りが良いから、思わず買っちまった!」

 

「かなり人気だったから、早くしないと売り切れちゃうかもしれないわ」

 

 2人の言葉を聞きながら、セメントス先生の紙パックを興味津々で見上げているエリちゃんの様子に、芦戸が提案した。

 

「ちょっと見に行こっ!」

 

「うんっ! みんなまた後で!」

 

「エリちゃんも、またねっ!」

 

「経営科3年の屋台の所だぜっ!」

 

 こうして4人と別れた俺達は、峰田の言葉を頼りに出店の中を歩き始める。移動している途中で同じセメントス先生のカップを持っている生徒をチラホラと見かけた。

 

「あったっ!」

 

「あそこ……!」

 

 芦戸とエリちゃんの指差す先の屋台に、セメントスパックは売っていた。が、よく見ると蛙吹の言っていた通り、明らかに数が少ない。近づいて店員に話しかけてみたら、なんとラスト1個だった。

 迷う事なく購入を即決した俺は、そのままエリちゃんにセメントス先生の紙パックを渡す。

 

「ギリギリだったわねっ!」

 

「エリちゃん、どう?」

 

 ホッとひと息つく芦戸に対して、肝心の味とか何のジュースとか一切聞いてなかった俺は、ジュースを飲むエリちゃんを覗き込む。

 ストローで吸う、彼女の微妙な表情が浮かんだ。

 

「なんか……ヘンなあじ……」

 

「え?」

 

 想定外な感想に、俺はすぐに彼女からカップを貰ってストローで吸ってみる。

 

「わ……ぁ///」

 

 なんか慌てふためいているエリちゃんを尻目に確認すると、確かに変な味だが知っている味だった。

 

「な、何の味?」

 

「コレ……ココナッツミルクだ……」

 

「セメントス先生関係ないじゃなーい! 私にもちょうだい!」

 

 好き嫌いの分かれるクセの強い飲み物だ。どうせならセメントっぽい色合いの黒胡麻ミルクとかの方が良かったかもしれないが、コレはコレでアリだ。

 中身を聞いて飲みたがった芦戸に、俺はそのままカップを渡した。

 

「へへっ♪」

 

 彼女は迷いなくストローに口をつけた。ココナッツミルクなんて久しぶりだったのか、口元がニンマリとしている。

 

「おねえさん……!」

 

「あっ、まだ飲むの? ゴメンね!」

 

 少し強い意志を見せてカップを返してもらおうとするエリちゃんに、芦戸は少し驚きながらもカップを返した。少しだけ眉を皺寄せながら、彼女は頬を膨らませてストローに吸い付いていた。

 

「ん?」

 

 そんな様子を見ながら次はどこに行こうかとしていると、たこ焼きの屋台の中でなぜかエプロンを付けてたこ焼きを焼いている障子と砂藤を見つけた。

 

「えっ、障子と砂藤じゃん!」

 

「なにやってんの?」

 

「タダの店番さ。向かい側にあるたこ焼き屋が人気だろ? だからここのクラスは戦略会議と買い出しを兼ねて、留守にしてるのさ」

 

 砂藤の言う通り、彼の指を差す向こうの方には行列の伸びたたこ焼き屋が繁盛している。せっかくの出し物がカブってしまっては、売り上げは激減だろう。

 

「せっかくの文化祭なのに、お人よしだな〜」

 

「その代わり、ココのタコ焼きは好きに焼いて食べていいと言われてな。一度やってみたかったんだ」

 

 両手を頭の後ろに当てて呆れる芦戸に、障子は両手の金属の串でたこ焼きを転がしながら話す。そう言えば、障子は文化祭の出し物で『タコ焼き屋』を提案していた。夢が叶ったみたいに機嫌が良い。

 そういえば、クレープから何も食べてなかったのでお腹はまだまだ空いていた。もっと何か食べたいとは思っていたのだから、丁度良い。

 

「じゃあ、ひとつ頂こうかなっ」

 

「よしきた」

 

 障子の小気味良い返事と共に、彼は器用に焼いたこ焼きを次々とプラスチックのパックに移し、ソレを砂藤がソースとマヨネーズを塗り、最後に鰹節と青のりをまぶした。

 

「いっちょ上がり!」

 

「ありがと!」

 

「おいしそー!」

 

 出来たて熱々のたこ焼きを受け取り、そのまま芦戸に手渡す。もちろん、たこ焼きの代金は払った。

 しかし、目の前でたこ焼きの匂いを吸い込んでいた芦戸が、持っているたこ焼きとは別の場所から違う匂いがする事に気がついた。

 

「てか、なんか甘い匂いしない?」

 

「ああ! せっかくのタコ焼き機好きに使えっからさ、ホットケーキミックスも使ってベビーカステラも作ったんだ!」

 

「そっちも欲しーいっ!」

 

「任せろ」

 

 そう言って障子は今鉄板で温めているたこ焼きを転がしながら、複製腕を伸ばして新しい生地をたこ焼き器に注ぎ込むと、残った複製腕を全力で活用しながら甘い香りのするたこ焼きをせっせと作り始める。そんな彼の障子を、エリちゃんがジッと見ていた。

 

「わぁ……スゴい……!」

 

「……!」

 

 見た目強面な障子もエリちゃんに興味を持たれて嬉しかったのか、彼は穏やかに笑っていた。マスク越しだったけど、俺にはわかった。

 焼き上がったベビーカステラにはバターとメープルシロップ、それにチョコソースもかけてもらった。どれも砂藤が寮からわざわざ持って来た物らしく、その甘い匂いで俺達以外にも道ゆく生徒が興味を示して、たこ焼き屋の周りがゾロゾロと賑わう。

 

「手伝った方がいい?」

 

「その子と見て回るのだろう? 心配ない」

 

「気にすんなって! 行ってこいよ!」

 

「あぁふっ! あひぁとっ!」

 

 エリちゃんと仲良くたこ焼きを頬張る芦戸と手を振り、俺達は砂藤と障子の2人と別れた。

 

 たこ焼きとカステラを交互に摘みながら、そろそろ校舎の中も見てみようかと芦戸と話しながら歩き回っていると、今度は文化祭の準備期間にも見た、『SASUKE』ばりの大きなアスレチックが見えた。

 そして、そんなアスレチックを尻尾で器用に飛び回りながら障害を突破していく生徒が1人。

 

「あれ尾白くんじゃない?」

 

「ホントだ! 葉隠もいるっ!」

 

 オリTだけがヒラヒラと動いている様子の見える葉隠が、尻尾でバランスを取って入り組んだ障害を進む尾白を下から応援していた。

 

「あっ、2人ともーっ!」

 

 俺達に気付いた葉隠が大きな声で手を振りながら呼びかける。その声に丁度アスレチックのゴールを示すゲートのボタンに手をかけた尾白が、振り返って見下ろしてきた。

 

「おっ、切裂!」

 

 高台から手を振る尾白に続いて、近くにいた瀬呂、そして切島が俺と芦戸とエリちゃんの周りに集まってきた。そこに遅れて葉隠も合流する。

 

「スゲーデケえ、アスレチックだろっ!」

 

「お前も挑戦するか!?」

 

「いい匂い〜! 1個ちょうだいっ!」

 

 芦戸の持っていたベビーワッフルを分けてもらっている葉隠の隣で、瀬呂と切島は尾白のゴールしたアスレチックを指差す。

 瀬呂曰く、アスレチックは今年だけの出し物ではなく、代々伝統的に作られているそうだ。雄英高校が設立されてから、コースも障害物の作りもほぼ変わっていないらしい。

 そこにゴールの高台から降りてきた尾白が、たこ焼きとベビーカステラを持ったままの葉隠に迎えられる。

 

「尾白くん、タイムはっ!?」

 

「15秒28だったよ。ありがとう」

 

 葉隠からたこ焼きを受け取る彼の発表に、瀬呂が機嫌良く鼻を鳴らす。

 

「へへんっ! 俺は11秒16だぜ!」

 

「クッソ〜、やっぱ機動力あるヤツはいいよな〜! 俺なんか何度やっても20秒以上かかっちまうっ!」

 

 頭を掻きながら悔しそうに話す切島にもたこ焼きを分け、クラスメイト達のタイムを聞いて俺もアスレチックを眺めていると、後ろからドスの効いた声をかけられた。

 

「ナマクラ、テメェもやれや……ッ!」

 

「え……っ?!」

 

 振り返ると、妙に機嫌の悪い爆豪が俺にカラんできた。隣で俺のシャツを掴んでいたエリちゃんが、慌てて俺の影に隠れる。

 

「ちょっと、怖がらせないでよ!」

 

「知るかッ! ビビってんじゃねえぞ……!」

 

 芦戸と爆豪が騒ぎ合っている隣で、俺は切島に尋ねた。

 

「爆豪くんの記録は?」

 

「10秒74……んっ、ウメえなこのたこ焼き! さっきの屋台のヤツよりもイイっ!」

 

「ちなみに、歴代の最高記録はアレだぜ!」

 

 そう言って瀬呂はアスレチックの大きな看板に掲載された掲示板を指差し、俺はその記録に目を奪われた。

 

「オールマイトの5秒02!?」

 

「ウッソぉっ!!?」

 

 数値を見てから俺はさっきまで尾白が飛び回っていたアスレチックを見上げる。見る限り、かなり立体的だが。本当にこんなの5秒で突破したのだろうか。

 芦戸も黒目を広げて驚いていたが、すぐに俺へと振り向いた。

 

「ねえっ! ヤイバも挑戦するっきゃないよっ!」

 

 俺の記録に期待を始める彼女に押され、そこに俺を見上げて目を輝かせるエリちゃんの声援も足された。

 

「おにーさん、がんばって……!」

 

「よし、爆豪くんの記録は抜こう」

 

「アア゛ッ!?」

 

 爆豪を適度に煽ってから、俺もアスレチックに挑戦してみる事にした。持っていたたこ焼きを切島に渡し、アスレチックの係員に案内されて、スタート地点に移動した俺は軽く準備運動を始める。

 

「ヤイバ頑張ってー♪!」

 

「気をつけてね〜! ところで三奈ちゃん、このセメントス先生の飲み物カワイイ! どこで買ったのー!?」

 

 芦戸と葉隠の声援を受けてから設置されたボタンを叩き、小さな踏み切りみたいなゲートが開いた瞬間、俺は足を刃にしてアトラクションのコースを駆け出す。ただし、普段と違って地面には突き刺さず、床を押し下げるようにして優しく伸縮を繰り出し、加速をかける。

 

「おおっ!」

 

「切裂なら床を傷つけないぐらい、どうって事ないよね……!」

 

 コースの横の並走する尾白と瀬呂の声も耳に挟みながら、俺は序盤の狭い足場の障害を飛び越えていくが、途中から一気に高低差が上がって機動力を発揮できない個性じゃなければ厳しい障害が立ちはだかる。

 

「がんばれ……っ!」

 

 芦戸におんぶされて俺の横を並走してもらっているエリちゃんも、両手をギュッと握って興奮しながら俺を応援した。

 

「フンっ!」

 

「おおっ!?」

 

 誰の驚いた声だったか、俺はマグネと戦った時みたいに、腕や足から次々と刃を伸ばして節足動物の様な動きで、複雑な障害をすり抜けていく。決して刃は二股にはできないし、ほぼ真っ直ぐにしか伸ばせないのだが、ヴィランと戦うよりは幾分か楽だ。

 もちろん、せっかくのオリTは絶対に破かないように、シャツやズボンの袖や襟から俺は刃を伸ばしていた。

 

「スゲえッ!」

 

「コレはいいタイムなんじゃねえの!」

 

 瀬呂や切島の声援も受け、俺はなんとかゴールを果たした。ゴールゲートのボタンを叩いて近くの機械にタイムが表示される。

 

「10秒73……!」

 

「スゴーいっ! 爆豪の記録抜いたじゃんっ!」

 

「スゴい……!」

 

 下に降りてきて待っていた彼らにタイムを告げると、真っ先に反応したのは芦戸とエリちゃん。それに続いて瀬呂が慌てふためいた。

 

「ヤベッ、抜かれたっ!」

 

「オ゛ィィッ! もっかいやらせろッ!」

 

 俺の記録を聞いて感情を爆発させた爆豪は、すぐさまアスレチックのスタート地点へと駆け出した。それに続いて瀬呂までスタート地点へと移動を始めたので、気になった俺は残ったクラスメイト達と一緒にエリちゃんを連れて2人のアスレチックを見ようとする。

 

「あ、芦戸……?」

 

「ん、なーに切島?」

 

 そこへ、俺の後ろにいた芦戸を切島が呼び止めた。

 

「い、いや……なんでもねえ……!」

 

「……?」

 

 しかし、彼は何かを話す事なく、また黙ってしまい。芦戸も首をかしげながら俺とエリちゃんの隣へと戻ってきた。

 再チャレンジした爆豪は爆破を利用してアスレチックを猛スピードで飛び抜け、すぐさま9秒台を叩き出した。瀬呂も気合いで9秒台に滑り込んだが、爆豪の記録は抜けなかった。

 

「スゴいよ爆豪くんっ!」

 

「負けず嫌いだなー!」

 

「瀬呂くんも!」

 

「ハァ、ハァ……どおってコトよ……!」

 

「クッソ……それでもオールマイトは抜けねえ……ッ! もう1回だッ!」

 

「まだやるの!?」

 

 本気だったのか、両膝に手を当てて肩で大きく息を吐く瀬呂に対して、まだ納得のいってない表情する爆豪が再びスタート地点へと歩き始める。

 俺も追い抜かれた以上は、彼と同じ様に挑戦する義務があるだろう。

 

「ゴメン三奈ちゃん。もう1回行ってくる」

 

「爆豪の記録抜くんでしょっ? 頑張ってっ!」

 

 芦戸の声援を背に受け、爆豪がゴールしたの見送った次に俺はボタンを押してアスレチックを駆け抜ける。個性の使用はほとんどなく、無難に障害物を突破していく俺の様子を、応援するクラスメイト達から少し離れて見ていた爆豪が舌打ちをした。

 

「チッ、ナマクラの野郎……」

 

「しょうがねえだろ。アレ使っちまったら、また腕が血塗れになっちまう」

 

「うおっ!? テメェどっから現れたッ! 半分野郎ッ!!」

 

 いつの間にか爆豪の隣に現れた轟も、アスレチックを抜ける俺を冷静になって眺めている。そして轟だけでなく、彼と一緒に行動していたのか飯田に常闇、口田までクラスメイト達に合流してアスレチックの前で話を始めていた。

 

 前にも話したが、2人にはインターンから雄英に帰るなり1回だけ俺の血の刃の特訓に付き合わせた。轟と爆豪、この2人は俺の能力と似た様なヴィランと林間合宿で対峙しているからだ。

 結果として2人に冷や汗を流させるぐらいには、俺の個性が進化したのは理解した。

 

 A組ビッグ3の2人を相手に実力で押さえ込んでいる事実にも、無意識なまま。

 

 ゴールしてクラスメイト達の所へと戻ると、普段通りの明るい飯田がみんなに語りかけながら、芦戸のおんぶから降りたエリちゃんを見た。

 

「みんな全力で楽しんでいるみたいだね。エリちゃんも!」

 

「カクカクしてたおにいさん……!」

 

「変な覚え方されてるw!」

 

 笑っている芦戸と飯田の周りに集まる口田と常闇の手元には、ベビーカステラの盛られたパックがあった。

 

「障子くんと砂藤くんの所の?」

 

「───────っ!(大きく頷いている)」

 

「先程からしょっぱい物ばかりで、甘い香りに惹かれて買ってしまった。リンゴ飴がないのは、残念だったが……」

 

「リンゴあめ、ないの……?」

 

「どうやらそのようだ……君も同志か……」

 

「ハガクレ、ソノジュースナンダァ ? ノミタイ ! 」

 

「ザンネンっ、もう空っぽだよ!」

 

 リンゴ好き同士で気が合ったのか、常闇とエリちゃんが話し合っている。少女と異形型の組み合わせは、なんだか微笑ましくて幻想的だった。

 

 それと、もう1回やってみた結果だが、これ以上俺の記録が縮む事はなかった。どれだけ頑張っても体の刃の伸縮だけでは、10秒以上掛かってしまう。

 

「ナマクラッ、もっかいやれやッ!」

 

「もういいよ爆豪くん、そろそろ別の所に回らせ……

 

 爆豪だけは納得していなかったみたいだが、エリちゃんもいるんだからそろそろ別の所を見て回るつもりだと説明しようとした。そこに、なぜが瀬呂がしゃがみ込んでエリちゃんにヒソヒソ話を告げている。

 何をしているのかと口を割らせる前に、エリちゃんが俺を見上げて元気良く喋った。

 

「ヤイバおにーさんのカッコイイところ、もっとみたい……!」

 

 

 

 

 

「どけ!!! 俺はお兄ちゃんだぞ!!!」

 

 

 

 

 

「色々と落ち着きたまえっ!?!」

 

 人混みを掻き分けてアスレチックのスタート地点へと向かう俺を、瀬呂が大笑いしている前で飯田が止めた。

 正気に戻され、これ以上やっても俺の記録が縮む事はないので、今は素直に諦める事にした。

 そこに今度は轟が俺に近寄ってきた。

 

「ところで切裂、八百万を見てねえか?」

 

「え? 見てないよ……?」

 

「そうか……」

 

「? ……っ!?」

 

 どうして轟が彼女を気にしたのかわからなかったが、少し迷ったような表情する彼を見て、俺は理由を聞かなかった。

 まあとにかく。俺の個性の強力な能力の断片はこれでもかと見えているのだが、特訓の基盤が整っていない。リカバリーガールに頼ってなかったから、発目を捕まえた時の腕のケガもまだ治っていないのだ。

 俺はスタート地点に向かうのをやめたが、爆豪はズンズンとチンピラみたいな歩き方で再びアスレチックへと向かう。

 

「俺は諦めねえ……ッ! オールマイトの記録を超えてやる……ッ!」

 

「おおっ! 嫌いじゃないぜ、そういうのっ!!」

 

「ったく、アイツも飽きねーなーっ!」

 

 爆豪についていく切島と瀬呂をクラスメイト達と見送っていると、芦戸とエリちゃんにセメントス先生のカップと、少し量の減ってニコイチにされたたこ焼きとベビーカステラのパックを返した葉隠が、尾白を連れて別の所へと歩き出す。

 

「尾白くん、私あのセメントス先生の飲み物欲しい! 探しに行こっ!」

 

「えっ!? ちょっと、葉隠さーんっ!!?」

 

「あっ、ちょっとコレもう売り切れ……! 行っちゃった……」

 

 芦戸が止めようとしたが、2人はそのまま出店が並ぶ人混みの中へと消えていってしまった。

 

「みんなそれぞれ楽しんでいるみたいだなっ! 俺達もこのアスレチックをやってみようか!」

 

「そうだな」

 

「ぼ、僕は見てるだけでいいや……っ!」

 

「承知した。行くぞダークシャドウ」

 

「オレタチナララクショーダゼッ !! 」

 

 飯田達は文化祭の出し物を全部制覇するつもりらしく、見送る口田以外は意気揚々とアスレチックへと向かっていった。

 少し芦戸とエリちゃんと様子を見ていたが、飯田は脚のエンジンを上手く活用してアスレチックを駆け抜け、轟は氷で滑ったらコースが凍りついてゴールしてから溶かす羽目になり、常闇はダークシャドウで飛んだせいでギャラリーからズルいと言われていた。

 ただ、飯田や轟はもちろん、常闇がダークシャドウで飛んでもタイムが5秒切れないから、ますますオールマイトの記録がどうやって立てられたのか気になった。

 いつか本人に聞いてみたくなった。

 

 そこから飯田達と別れた俺が本格的に腹が減り、近場にあった屋台の焼きそばを平らげ、ようやく校舎に入った俺達は他科の気になった出し物も見て周りながら、サポート科に顔を出す事にした。

 いつもと違って、今日は鉄の扉も大きく開かれて賑やかな声が聞こえる開発工房の中に入ると、ちょうど発目が生徒達の前で自分の制作したパワードスーツの説明を終えたところだった。

 

「あっ、切裂さんっ!」

 

「あっ、スゴいお久しぶりっ!」

 

「おや、初めまして!」

 

「ウソでしょっ!!?」

 

「バクハツのおねえさん……!」

 

 まさか騎馬戦で一緒だったにも関わらず、芦戸の事は記憶の彼方だったのか。発目は彼女に大きく頭を下げた。服装も普段のニッカポッカとタンクトップではなく、しっかり雄英の制服を着ている彼女を見るのも新鮮だ。さすがに今日は身だしなみも清潔にしており、汗や垢の変な匂いもしなかった。

 エリちゃんは覚えていたみたいだが、俺達の所に近寄ってきた発目は俺にしか顔を合わせず、一方的に話を始める。

 

「それより完成しましたよっ! 切裂さんのご要望に応えたサポートアイテムです!」

 

「うおっとっ!?」

 

 そう言うなり彼女が整理整頓されたサポートアイテムの棚から俺の顔面に放り投げてきたのは、枕ぐらいの形をした黒い箱だった。手で受け止めると全体的に金属質で黒光りしているし、模様とも思えない部品の切れ目や凹凸が目立つ。

 

「え、何コレ……?」

 

「フフフ、ココを押すと……!」

 

 そう言って発目が箱の真ん中にあった赤いボタンを押すと、いきなり俺の手の中で箱が外側の外殻を動かし、中の骨組みが勝手に広がり始める。

 

「うおぉうっ!?」

 

「キャっ!?」

 

 驚いた俺が手放しても箱はガシャガシャと変形を繰り返して、自立する人間の骨格みたいなフレームとなった。両腕と脚の部分は小手と脛当てみたいな部分があり、緑谷のヒーローコスチュームにあるガントレットのデザインと似ている気がした。

 

「スゴい……!」

 

「持ち運びも便利にしました! ついでに、部分ごと分離しても稼働しますよ!」

 

 彼女の言う通りこのサイズならヒーローコスチュームを入れるあの大型のアタッシュケースにも入る。そこまで考えてくれたのだろう。

 コレだったらアスレチックやる前にコッチ来れば良かったとも思ったが、予定は未定。落ち着いてから体育館γでジックリ試そう。

 もう一度スイッチを押して箱の状態に戻った俺は、文化祭が終わってから受け取る調整だけして、箱を返した。

 

「ありがとう発目ちゃん」

 

「クライアントの無理無茶無謀に応えるのも、技術者の勤めですからっ! それでは私、プレゼンも全て終えましたので、これにて寝ます! お疲れさ……zzz」

 

「寝たー!?」

 

 若干目がキマっていたからもう限界だったのか、喋っている途中で完全にスイッチが切れたみたいだ。そのまま俺に倒れ込んできた発目を、肩を掴んで優しく受け止める。

 

「ケケケ……悪いな切裂。発目のヤツ……3徹ぐらいしてるからな」

 

 そこに続いて現れたのは、パワーローダー先生だった。制服姿の発目と違って、彼はいつも通りな上裸にショベルカーのヒーローコスチュームだ。

 

「そんなに……!」

 

「文化祭は他科が主役って、先生言ってたもんね……」

 

 確かにこんな忙しい時期に無茶な注文をしてしまった罪悪感はあったが、今回の俺の要望に応えてくれるサポートアイテムは、彼女じゃないと無理だと思ったのだ。文化祭の後でいいと言ったハズなのに、頑張ってくれた彼女を俺は優しく抱き上げる。

 

「あの……完全に寝てますけど、どうします……?」

 

「そっちのソファーに寝かしといてくれよ。普段は騒がしいけど、寝てる時は大人しいモンさ」

 

「zzz……♪」

 

 幸せそうにヨダレまで垂らしてる発目をパワーローダー先生の指差したソファーに横にして、俺は芦戸とエリちゃんとサポート科の出し物を少し見て回った。

 

「私もサポートアイテム……つくってもらおっかな〜?」

 

「三奈ちゃんだと、対酸性で作れないと大変だもんね」

 

「そう! 今ね〜『ヒュドラ』も頭7つまで増やせるようになったの!」

 

 最初は3つでキングギドラだった双頭の蛇も、段々と本物のヒュドラっぽくなっていた。そんな話をしながらサポートアイテムを見て回っていると、段々とエリちゃんの足取りが進まなくなっているのが、握った手からすぐ伝わった。

 

「エリちゃん、疲れちゃった?」

 

「す、少し……」

 

「あっ、そしたらさ……!」

 

 開発工房から出た俺達は、休憩できる場所を探して芦戸に連れられて自分達の教室へとやってきた。さすがに文化祭の最中は、クラスメイト達は誰1人もいなかった。

 

「ここは……?」

 

「ココは私達の教室! いつもはココで勉強してるんだよっ!」

 

「ちなみに、先生は相澤先生だよ」

 

「おにーさんと……アシドおねえさんが……!」

 

 上鳴の席に座らせたエリちゃんは黒板や教卓を見て、エリちゃんは目を輝かせている。

 

 彼女も雄英を目指すのなら、きっと面白いに決まっている。相澤先生も喜ぶだろう。

 そんな事を考えていると、芦戸が開いた携帯電話を見て俺とエリちゃんを注目させる。

 

「ねえ見てっ、グループメッセージ凄い事になってるっ!」

 

「わぁ……!」

 

「ホントだ……!」

 

 最近は大人しかったグループメッセージも、久しぶりのカオスになっていた。

 俺と緑谷が物凄い表情で白熱しているクイズ大会の様子から始まり、嬉しそうにクレープを頬張る麗日と芦戸(撮ったの俺)。雄英の顔出し看板から顔を出す轟と飯田。アスレチックで競う爆豪と切島。同じくアスレチックを駆け抜ける尾白と、ソレを応援する葉隠。他科の女子生徒に話しかけられて、なんか良い雰囲気になっている瀬呂。お化け屋敷でまたビビって漏電する上鳴と、ソレに巻き込まれる耳郎。そのお化け屋敷から出た廊下で彼女に蹴られる上鳴。セメントス先生のジュースを仲良く持っている峰田と蛙吹。大繁盛しているたこ焼き屋で、楽しそうに働いている障子と砂藤。そこに立ち寄ったのか、大量のベビーカステラを突っつく口田と常闇とダークシャドウ。

 

 そして、子供用のアトラクションに乗って笑ってるエリちゃん。敷地内にはお祭り用のミニSLやら、ゆっくり動くパンダの乗り物まであった。誰が撮ったのか、パンダの乗り物に興味津々で乗る八百万の写真まであった。

 

 俺達が感情に浸る間にも時間は過ぎ去ってしまい、休憩を終わった頃にはいよいよミスコンの結果発表時間となり、選手はもちろん峰田や八百万、クラスメイトなどの関係者もステージの会場へと集まった。

 

 

 

 

 

 蛙吹の結果は2位、1位は波動先輩だった。

 

 

 

 

 

「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっッ!!!!!」」

 

 地べたを転がり回る峰田と血反吐を吐く物間を尻目に、俺達はステージの方を見る。

 優勝者のティアラを被って、トロフィーを持った波動先輩が嬉しそうにしている。ステージの近くでは甲矢先輩が涙ぐんでいて、天喰先輩は晴れやかに笑っていた。

 

「良いセンいってると思ったんだけどなー!?」

 

「でも、投票差は十数票でしょ? スゴいよ!」

 

「最下位だけは絶対ないと思ってたけどよ……」

 

「麗日と口田も、手伝ってくれてありがとな……!」

 

「──っ──っ───っ!(嬉しそうに何度も頷いている)」

 

 でも、突貫で始めたミスコンで2位は相当大きいと思う。3年の先輩を押し除けただけでも良しとしよう。

 俺達がガヤガヤ喋っているステージの前で、2位の銀色でひと回り小さなトロフィーを受け取った蛙吹が、まだ横になっている峰田の方を見て笑っていて……

 

 彼は少し恥ずかしそうに、蛙吹に笑顔を返していた。

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 ミスコンの結果発表からはあっという間に時間は過ぎて、文化祭の終わる夕方となった。

 

「ヒソヒソ……(リンゴ飴?)」

 

 小声な芦戸の疑問と同時に、俺も緑谷に問い尋ねる。

 

「ヒソヒソ……(緑谷くん、いいの? 作ったの君でしょ?)」

 

「ヒソヒソ……(いいって! その方がエリちゃんも、きっと喜ぶからっ!)」

 

 ミスコンの後に麗日と別れたのか、俺と合流してきた時は1人だった緑谷にそう言われて渡してきたのは、彼が自分で作ったリンゴ飴だった。

 さすがにコレを渡すのは彼だと思い何度も断ったが、緑谷の勢いがどうしても止まらなかったので、とうとう受け取ってしまった。

 

 そうして雄英の門の前までエリちゃんを連れてきた俺達は、病院へと帰る車を止めていた通形先輩と相澤先生と合流した。

 

「今日はありがとう! 楽しかった!?」

 

「うん……!」

 

 緑谷の元気な問いかけにエリちゃんは大きくうなずいていたが、それでも寂しそうな顔をしている。俺達との別れが近づいている事に、子供ながら察しているようだ。

 緑谷が俺の方をチラリと見て、それを合図に俺がエリちゃんの前に一歩踏み出す。

 

「エリちゃんっ、サプラ〜イズ!」

 

「っ!」

 

 背後に隠していた俺が彼女に渡したのは、病院で散々話していたリンゴ飴。見よう見まねで作ったからか、売り物とは違って飴の中にボコボコとダマがあるのが目立つが、食紅で真っ赤に染められた見た目は十分だった。

 

「リンゴ飴!? 売ってた? 俺、探したよ!」

 

「もしかしたら無いかもと思って……買い出しの時に材料、買っといたんです。作り方、意外に簡単で……! 食紅だけコンビニにはなかったんで、砂藤くんに借りて!」

 

 驚く通形先輩に対して緑谷が経緯を説明してくれた。麗日がいなかったのは、途中で抜け出してしまったからだろう。一緒に連れてきたら良かったのに。

 

「まあ、近い内にすぐまた会える筈だ」

 

 相澤先生の言う通り、確かこのままいけばエリちゃんは雄英で預かる事となる。そしたら毎日会えるのだ。

 

「フフフっ♪」

 

 リンゴ飴をひとしきり眺めたエリちゃんは、カリッと歯を立てて飴を噛んだ。口が小さいから、リンゴにまで到達していなかったけれども……

 

「さらにあまい……!」

 

 ……そう言いながらリンゴ飴を舐めた彼女の、赤い飴が付いた口元に満面の笑みが宿る。それを見て彼女を病院へと送り届ける通形先輩もニッコリと綻ばせ、同じく相澤先生も珍しく安堵した表情になっていた。

 もちろん、俺も緑谷も芦戸も、見ているこっちも笑顔になってしまう。そんな優しい表情だった。

 

「また作るから……!」

 

 緑谷の言葉に、今度は俺が作ろうと思った。

 

「楽しみにしてて……!」

 

「うんっ!」

 

 そうして俺と緑谷は最後に再会を彼女と約束して、笑顔で別れを告げる。俺と緑谷は寂しさを胸に秘めながらエリちゃんの姿が見えなくなるその瞬間まで、車に乗って動き出してもリンゴ飴を持ったまま俺達の方を見ていた彼女に、手を振って見送った。

 

「行っちゃったね……」

 

 車の音も聞こえなくなってから、芦戸が夕焼けを反射する道路の向こうを見て呟いた。インターンの関わりはなかったけれども、今日1日を通してエリちゃんといた彼女も思う所があったに違いない。

 

「本当に良かった……エリちゃんが笑ってくれて……!」

 

「うん……!」

 

 緑谷の言葉に俺もうなずいたが、そこからどうしても言葉が出てこなくて、妙な空気が俺達3人を包み込む。

 

「あ……僕、キッチンの後片付けがあるから、先行くね!」

 

 やがて、最初に動き出した緑谷が駆け足で寮の方面へと走り出し、すぐに見えなくなってしまった。

 

「わ、私達も戻ろっか! 舞台の後片付けもまだあるし……!」

 

 完全に2人きりとなった芦戸は、少し慌てふためきながら俺に背中を向けてぎこちなく歩き出そうとする。

 

 彼女の心配は必要ない。

 

 飯田には、エリちゃんの見送りで芦戸と緑谷共々少し遅れると伝えていた。

 

 だから、俺は行ってしまおうとした彼女の腕を、その手で掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「三奈ちゃん。ちょっと休憩しない?」

 

「え……!?」

 

 

 

 

 

 ・・・♡・・・♡・・・

 

 

 

 

 

 通形と相澤が壊理を連れて去った後、緑谷もいなくなり完全な2人きりになった途端に気恥ずかしくなってしまった芦戸は、逃げ出そうとした腕を切裂に捕まれ、その足を止めて振り返る。

 顔を真っ赤にした彼女に迷いなく休憩を求め、先導する彼に彼女は胸の鼓動が抑えられないぐらいに震えていた。

 

 そしてその一部始終は、それぞれの文化祭が始まってからずっと2人の後をつけていた八百万にシッカリと目撃されていたのだ。

 

 まさかまさか、彼の方から芦戸を止めるとは思っていなかったものの、すぐさまは彼女は女子グループに緊急のメッセージを送った。

 

 

 

 

 

『2人の関係に大きな進展が起こる可能性アリ!』

 

 

 

 

 

 その一報で作業中だった女子達は様々な理由を飯田に立てて体育館の撤収から抜け出し、潜伏する八百万との合流を果たした。ただし麗日だけは撤収作業ではなく、寮の緑谷がリンゴ飴を作ったキッチンで、砂藤と飴の材料で打ち上げ用のフルーツ飴の制作に勤しんでいた所から抜け出した。

 

「百ちゃん……!」

 

「はい……!」

 

「ケロ……!」

 

「どこ、どこ……!?」

 

「葉隠落ち着いて……!」

 

 A組一二を誇る索敵係の耳郎のおかげで、5人の女子達は問題なく合流を果たし、2人の尾行に参加した。

 

 一方で切裂が芦戸を連れて訪れたのは、桜の木が並ぶ雄英の敷地内の通学路。当然花はまだまだ先であり、今は青葉が枯れ始めている。

 けれども、その場所に立った彼女は息を詰まらせて驚いた。

 

(ココって……!)

 

 切裂にとっては無意識に選んでいたのだが、彼女にとっては記憶に強く残っている光景だった。

 

 

 

 

 

 その場所はかつて、雄英に入学したばかりの切島が芦戸と約束を交わした道だったのだから。

 

 

 

 

 

 風の靡く音が大きくなり、葉が揺れて枯れ葉が舞い散っていく。

 

 索敵能力の無い個性の彼には目で確認する事しか出来ず、周りに自分と彼女しかいないのを確認して、彼は振り返った。

 

「三奈ちゃん……」

 

「……っ!」

 

 呼びかけられた彼の声に、芦戸は胸の鼓動に負けないぐらいビクリと体を震わせる。

 未だかつてないぐらい真剣な眼差しを向けられて、頭に血が昇るほど緊張して、それでも目線は離せない彼女の瞳が真っ直ぐ彼を見詰める。

 

 だが、彼の視線は芦戸ではなく、その夕焼けの空へと向けられた。

 

「俺ね……最初は雄英を目指すつもりも……ヒーローになるつもりも、なかったんだ……」

 

「え…………っ!?」

 

 あれほどヒーローを目指して輝いていた彼からは想像もつかない昔話に、彼女は言葉を詰まらせる。

 

「中学までずっと、なぁなぁで過ごしてて……正直、将来の事なんて考えてなかったし、なりたいものもなかった……!」

 

 どうしてそんな話をするのか、彼女にはわからなかったが……彼の話を聞いて胸の奥が、チクリと痛くなった。

 

「でもね……そんな俺に…………俺……俺さ…………目標ができたんだ……!」

 

「ぇ……!」

 

 照れ臭く笑う彼は、夕陽を浴びて煌めいているように見えて、その輝かしくも尊い姿に彼女は目を奪われる。

 

「必死に体鍛えて、寝る時間も勉強して……そしたら、峰田くんとも会えて……一緒に雄英合格して……!」

 

 まるで、想いの乗せられた感情を吐露する様に話して、ようやく彼は芦戸と視線を合わせた。

 

「で…………君に出会った…………!」

 

「……っ!」

 

 その視線は儚くも優しかったけれども、彼が何を言おうとしているのか、彼女には解ってしまった。

 

「ヤイバ……っ」

 

「三奈ちゃん……」

 

 ただ名前を呼んで、返事をしてくれる彼は目の前にいるハズなのに、彼女には遠く手が届かない場所に立っている様に、彼が見えた。

 

「ずっと……ヤイバの事、追ってた……!」

 

「うん……」

 

 彼はゆっくりと頷いた。

 

「体育祭の時から…………ずっと……! ヤイバが、輝いてて……っ!」

 

「うん……」

 

 彼女の言葉を、真っ直ぐに受け止めた。

 

「合宿で倒れちゃって……眠ってるヤイバ見て……ッ、私……今のままじゃダメだって……ずっと……ぉ!」

 

「うん……」

 

 どれだけ苦しく話そうとも、彼は彼女の言葉を止めなかった。

 

「ヤイバが目ぇ覚めて……ヤオモモがいっしょにいた時……ムカムカしちゃって……ッ! それで私……私…………っ!」

 

「……うん……!」

 

 それも全てわかっていたかの様に、彼は何度も頷き続けた。

 

「私…………っ!」

 

 気付いてしまった。

 

 その想いはもう喉元まで溢れ、嗚咽となって彼女を揺り動かす。

 

「だから……ッ、だからぁ……っ!」

 

 涙と共に流れ落ちる感情は、もう彼女には止められない。

 

 それも構わず、感情のままに叫んだ。

 

 

 

 

 

「ヤイバぁッ!!! 私っ……私ぃッ───

 

 

 

 

 

 しかし……それ以上言ってはいけないと、言わんばかりの表情で彼は告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「芦戸ちゃん、ゴメンね……!」

 

「───っ!」

 

 彼女にとって、この場で1番聞きたくない答えが、彼から返ってきてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺には、待たせてる人がいるんだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イレギュラーたる彼は、この時初めて自分とトガヒミコの関係を仄めかせる言葉を、外部の相手に告げた。

 

 そうしなければ、彼女は切島にではなく自分にずっと着いて来てしまうと確信した上での、拒絶の言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺がヒーローになって目指す、明るくて優しい世界を、信じて待ってる人がいるんだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 当然、彼がトガヒミコの名前を出す事は決してなかったが、そこまで正直に告げたからこそ芦戸は理解した。

 

「ゴメン『三な……『芦戸』ちゃん……」

 

 彼にはもう、絶対に勝つ事のできない相手が、ずっと前からいる事に。

 

 とっくに彼を、ヒーローたらしめる存在がいる事に。

 

 彼にはもう、隣に掛け替えのない誰かが立っている事に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺……『三奈』ちゃん、やっぱ慣れないや……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう言って彼は困った様に、彼女に笑ってみせた。

 その輝かしい姿に、彼女は涙も鼻水も収まらないまま、笑ってしまった。

 

「グス……ッ、そっか……!」

 

 そんな彼の顔を見ては、諦めるしかなかった。

 

 そんなの卑怯だと、彼女は思った。

 

 鼻を啜った彼女の向こうで、彼は泣きそうな目をしていて、それでも彼は笑っていた。

 

「でも……嬉しかったよ。ありがとう……!」

 

 彼が泣いた姿を、彼女は見た事がない。

 

 だから、彼を泣かせようとするほどの相手が、彼女は羨ましかった。

 

 それだけ彼の心を揺さぶった相手が、彼女は羨ましかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ぽろり、と涙が零れ落ちたのは、彼女だけではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人の遣り取りは、5人の少女達にも始まりから終わりまで、見られていたのだから。

 

「え……ぁ……私……っ!」

 

 そして、茂みの陰からずっと見ていた八百万の瞳からは、とどめないぐらいの涙が溢れ出て、彼女はその両手で顔を覆った。

 

「百ちゃん……!?」

 

「ケロ……!?」

 

「ヤ、ヤオモモちゃん……!?」

 

 麗日や蛙吹、葉隠が驚く隣で誰よりも衝撃を受けた耳郎が、目を丸くした。

 

(えっ!? ヤオモモもっ!!? えっ!!? ちょっと待ってッ…………切裂って、どんだけ罪な男なのっ!!?!?)

 

 彼女が心の中で叫ぶ通り、2人の想像外の結末に、誰も身動きがとれなかった。

 

「私……! ……私…………っ」

 

 合宿で脳無に襲われた時から無意識に、彼女は心を彼に奪われていた。

 

 彼の看病をしたのも、責任感や個性を理由につけて、ただ側にいたかったのだ。

 

 芦戸の叫ぶ想いを聞いて、彼女は自分の押さえ込んでいた想いを、ようやく理解してしまった。

 

 此処に2人の少女は、苦しいぐらいに恋焦がれた想いを、彼の心を奪った相手によって堰き止められてしまったのだ。

 

 いつの間にか彼は寮に向かって歩いて行ってしまい、ひとり取り残された芦戸に呼びかけようとした蛙吹だが、その行動を麗日が止めた。

 

「待って……!」

 

「ケロ……! 切島ちゃん……!?」

 

「え……!?」

 

 更にこの場では衝撃が続いた。

 

 歩いて行ってしまった彼と別方向から走って来たのは、なんと切島だった。

 

「あっ、芦戸……っ!」

 

「っ!? 見っ、見ないでっ……!!」

 

 思わず顔を隠す芦戸だったが、それでも切島は目の前に立ち尽くし、彼女から視線を離さない。まるで、彼女の心が落ち着くのを待っているみたいだった。

 

「ど、どうして……!」

 

「イヤ、どんだけ探してもいねーからさっ! もしかしたら、ココかもしんねえと思って……」

 

「……っ!」

 

 彼の言葉に、芦戸の体と心が跳ねる。かつて2人で約束した場所を、彼も忘れてはいなかった事に。

 

「な、なあっ、芦戸!」

 

 そのまま切島は彼女に告げた。

 

「前に……ずっと前に……約束したの、覚えてるか……?」

 

「……うん……!」

 

 それは雄英に入学を果たした時の、あの約束。彼と彼女が忘れるハズもない、大切な思い出の約束だった。

 

「俺……前のインターンでさ……ようやく、見つける事ができた! ただの高校デビューマンじゃなくて……自分のなりたいヒーローが見えた気がすんだよ!」

 

 そう言って切島は彼女前で自分に親指を立てる。

 

「絶対に倒れねえ……誰も皆、守れるようなヒーローに……! 切裂が目指してる『明るくて優しい世界』を守れる様なヒーローだ!!」

 

 そして切島は大きく息を吸ってから、少し照れ臭そうに、小さな優しい声で告げた。

 

 

 

「もちろん……お前の事もな……!」

 

「っ!」

 

 

 

 彼は漢として、自分なりの仁義を貫こうとしていたのだ。

 

「俺はお前のお陰でヒーローを目指せた……お前がいたからっ、俺はヒーローになれたんだっ!」

 

「うん……っ!」

 

 自分にとって大切な人を、守り通すために。

 

「お前は俺のヒーローだからな……!」

 

 そうして最後に彼は牙みたいに生え揃った歯を見せながら笑った。

 そう言って彼は本格的に恥ずかしくなってしまったのか、芦戸に背を向けて走り出そうとして……もう一度振り返った。

 

「俺の事、高校デビューマンって言っていいぜっ! そんじゃあっ!」

 

 伝えるべき言葉は伝えた。

 

 彼は満足して寮へと向かう道へと足を振り上げる。

 

 しかし、ソレを止めたのは、ずっと顔を隠していた芦戸。

 

「まっ、待って……っ!!」

 

 大きく息を吸い込んで、ピタリと動きを止めた顔を覆い隠すその腕を解いた。

 

 それは、かつての約束の時の顔と、よく似ていた。

 

 少し涙目だったけれども、彼にとってはその表情だけで、充分だった。

 

 

 

 

 

「ありがと……!」

 

「ぁ…………あぁ……っ!」

 

 

 

 

 

 2人の交錯する想いを見届けた女子達は、その複雑すぎる結末に感情を揺さぶられた。

 

 

 

 

 

 そして、自分の前で笑ってくれた彼女を見た切島は、ようやく……自分の気持ちに気づいたのであった。

 

 

 

 

 

 イレギュラーによって長い長い遠回りを起こしてしまった2人は、此処にようやくスタート地点へと戻る事に成功した。

 

 

 

 

 

 けれども、彼がその想いを彼女に伝えるのは、もう少し先……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いや、そう遠くはない未来である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次回『後の祭り』

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