「ただいま!」
「おおっ、おかえり!」
「ずいぶん遅かったな〜!」
エリちゃんの見送りを終え、芦戸とも別れた俺が寮に入ると、瀬呂や上鳴を筆頭に共同スペースで集まってワイワイ騒がしくしているオリT姿のクラスメイト達が出迎えてくれた。
「切裂くん、芦戸さんは?」
「ちょっと校舎のお手洗い寄ってくるって。すぐ戻ってくるよ」
「女子達、何やってんだ?」
「さあ……?」
「切島も撤収抜け出して、どこ行ったんだ?」
「え、切島くんもいないの?」
さりげなく、芦戸の事は心の整理があるハズだから誤魔化したが、なんか色々と人がいない事に俺は違和感や疑問を巻き起こすも、野朗共だけの共有スペースで俺達は文化祭やライブの話を始めてしまう。
その数分後。勢い良くドアが開いて、切島が息を切らせて戻ってきた。
「ワリィ! ちょっと腹イタくなってよおっ!」
「全く、急に作業を抜け出して……そういう時は、ひと言誰かに伝えたまえ!」
「うぅ……っ、すまねえ委員長っ!」
飯田に少し小言を告げられていると、その途中でようやく芦戸を連れた女子達全員が帰ってきた。
「ゴメーンっ! みんなちょっと遅れちゃって!」
「用事終わったから片付け行こうとして……」
「終わっちゃってたから、遠回りになっちゃった!」
「まったく! 君達には『ホウ・レン・ソウ』が足りないぞ! 八百万君まで!」
「す、すみません……!」
「みんな血圧低いのか?」
「轟くん『報告・連絡・相談』の事だよ」
「まあまあ、いいじゃんか! コレでようやく始められるぜっ!」
少し困った様な顔で説教を続ける飯田にペコペコと八百万が頭を下げる不思議な光景が広がったが、それを遮って止める峰田の台詞のタイミングで、砂藤の声が共同スペースの奥から聞こえた。
「おーい、みんなできたぞ!」
そう言ってキッチンから出てきた砂藤の持つ平皿の上には、リンゴやイチゴ、みかん、ぶどうなどの色とりどりのフルーツが使われたフルーツ飴が綺麗に並べられていた。
「え? どうしたのソレ!」
エリちゃんのリンゴ飴と違って、売り物ばりに綺麗なコーティングをされた飴を指差しながら、俺は砂藤に問い尋ねた。飴が残ってるのはなんとなく察したが、フルーツはどこから出てきたのか。
「たこ焼き屋の店番の礼で、経営科からフルーツもらったんだ」
「緑谷がリンゴ飴作るっていうから、じゃあフルーツ飴にしたらみんなで食べられるかと思ってよぉ!」
障子と砂藤によると、どうやら俺達の去った後も結構な繁盛を起こしたらしく、経営科の生徒が戻ってくるまで行われた屋台の店番のお礼で、こんな沢山の種類のフルーツを貰ったらしい。
「「フルーツ飴で打ち上げだよー!」」
共同スペースの床でジャンプしながら葉隠と芦戸が同時に元気良く声を上げた。正直かなり心配はしていたのだが、普段通りの様子を見せる彼女の姿に、俺は安心してしまった。
もしかしたら……芦戸の事……女子達は認識していたのかもしれない。
あくまで想像でしかなかったが、お礼を告げるのも変な話だった俺は、心の中で彼女達に感謝するしかなかった。
そんな俺の目の前で、残りの女子達に続いて野朗共も飴を選び始めている。俺もひとつ貰わなければ。
「わぁ、どれにしようかな」
「わたし、イチゴ!」
「俺もイチゴ」
「オレはリンゴだ、絶対に」
俺達が我先にとフルーツ飴を選んでいる横で、爆豪が興味なさそうにソファに座った。部屋に帰らない辺り、今日のライブで思う事もあったのだろう。コイツも素直じゃない。
すぐさま飴を2本持った切島が、爆豪に片方を渡そうとする。
「ホラ爆豪っ! お前も取れよっ!」
「そんな甘ったるいモン食えるかッ」
「へへっ、そんな事だろうと思ったお前には……特製『トウガラシ飴』だっ!」
確かに爆豪がスイーツとか甘いものを口にした光景を俺は見た事がない。砂藤はそれも予測していたのか、真っ赤な飴に真っ赤なトウガラシをそのまま使った飴を爆豪に差し出す。
「辛ぇか甘ぇか分からなくなるだろうがッ! 気味の悪いモン作ってんじゃねえッ!」
爆豪は最後までキレ散らかしていたが、粗末にするのは嫌なのか最終的には砂藤から奪い取る様に、トウガラシ飴を受け取っていた。
それよりも俺は真っ先に聞きたい相手がいて、黄色の飴でコーティングされた半分このバナナを受け取ってからソファーに大人しく座っていた峰田の隣に座り込む。
「峰田くん、どうだった文化祭?」
「うおっ!?」
彼はこの文化祭中、ミスコンからずっと蛙吹と2人きりだっただろう。話を逸らせようとしない俺の瞳に、峰田はバナナの飴を持ったまま呟く。
「ま、まぁ……楽しかったぜ……! 梅雨ちゃんも一緒だったしな……!」
「へえ、どこ巡ったの?」
なんか辿々しい上に頬まで染めている峰田の台詞に益々興味を示した俺は、更に彼から話を聞き出そうとする。
「さ、最初は人間猫カフェ行ってよ……えと、その……次はお化け屋敷で……」
「抱きつけた?」
「抱っ……!? お、おう……っ!」
コクンと頷いた峰田をニヤニヤ眺めていた俺を遮って、峰田と同じくバナナの飴を持った蛙吹が彼の隣に座った。ミスコンからのメイクは、さすがに拭き取っていた。
「切裂ちゃん、やめて。峰田ちゃん困ってるわ」
「ゴメンてぇ」
少しジト目の蛙吹に謝り、2人だけの世界にしてあげようと俺はソファーを立った。トウガラシ飴のイジりを終えたらしい爆豪の近くに寄ると、彼は珍しく自分から緑谷へ声をかけていた。
「おいクソデク……テメェ、あのアスレチックやったんか」
「アスレチック?」
文化祭の準備期間にも見ていたとは思うが、緑谷にはそこまで印象に残っていなかったのか。言葉足らずな爆豪の質問を、尾白が補足してくれた。
「在学中のオールマイトの記録がまだ抜かれてないヤツだよ」
「えっ!? そんなのあったの!? オールマイトもやったアスレチックなんて!!」
「ざまぁッ!」
オールマイトファンとして失念していた緑谷の狼狽える様子を見て、爆豪はトウガラシ飴を持ったままヘラヘラと笑っている。よくよく考えれば、緑谷は俺とクイズ大会やってだいぶ満足していたからだろう。
「あぁ、結局オールマイトの記録抜けなかったんだよな!」
「クソ髪は余計な事言うんじゃねぇッ!!」
余程悔しかったのか、爆豪は隣にいる切島にキレながら飴を持っていない手で、激しく小突く。
その怒りも落ち着いたところで、今度は爆豪がトウガラシ飴を俺に突きつけてきた。
「ナマクラぁ……ッ! テメェ本気じゃなかっただろッ! そのチカラ早く使える様にしやがれ……ッ!」
「今日、発目ちゃんにサポートアイテムの完成品見せてもらったよ」
「体育館行くぞォッ! 半分野郎、テメェも来いッ!!」
「わかった」
「待て待て待てぇっ!」
「もう今日はいいだろうっ!」
飴を持ったまま俺を掴んで引きずろうとする爆豪と、それに追従する轟をクラスメイト達が止めて、再び解放される。
再び落ちつきを取り戻した爆豪は、今度は緑谷へと顔を戻した。
「いいかクソデク……来年の文化祭でテメェもやれや。俺はテメェも、オールマイトの記録も抜かすからなッ」
「……わかった! 僕も負けないように頑張るよ!」
爆豪のその宣言に、緑谷も意気込みながらリンゴの飴を持った拳を握り込んでいた。
その後は来年から全員でオールマイトの記録に挑戦しようとか、運動場γがアスレチックの動きに効きそうとか、そんな話で盛り上がろうとしていると、コホンと咳払いした八百万が皆に声をかけた。
「皆さん、来年のお話も結構ですけれど、とりあえず今日の締めをなさっては?」
「そうね、せっかく作ってくれた飴、早く食べたいわ」
八百万に続いた蛙吹の言葉に俺達はそれぞれの飴を持って、共同スペースの中で自然と円になった。爆豪は切島が無理矢理円にねじ込んでいる。
そうして円が出来たところで、委員長である飯田がかしこまって口を開いた。
「えー、今日という文化祭のために、全員で寝る間も惜しんで準備してきました。ですが、思えば出し物を決めるのに一苦労したのが昨日の事のよう……あの時は出し物も決められず相澤先生にお叱りを受け、それから俺たちは〜……」
「そっから振り返るのかよ! こういうのは手短に!」
校長の挨拶みたいな長話に皆が苦笑いする中、上鳴がツッコんで止めた。
それに対して飯田は咳払いをして、皆を見回してから飴を掲げた。
「俺とした事が……! それでは簡素に……みんな、お疲れさまでした!!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「おつかれさま〜!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」
飯田の掛け声に合わせて全員が飴を掲げ、飲み物で乾杯するように声を上げてから、一斉に自分の飴にパリパリと齧り付いた。
「甘〜いっ!」
「沁みる〜!」
「フンッ…………ゲッホ、ゴッホッ!」
「やっぱ……マズかったか?」
色々あって疲れたけど、飴の甘さとイチゴの酸味がそれを癒してくれるような気がした。
色々な出来事、事件、そして想いがあった。
ヴィランと戦うどころか、体育祭と違って戦闘らしい戦闘もなかった。
けれども、この文化祭も俺の思い出の中で強く印象に残ってしまった。
確かに楽しかった。
エリちゃんを笑顔にさせる事も、成功した。
色々な想いが交錯した。
大円団な結果だと思った。
ああ、でも……
トガちゃんと、見て回ってみたかったな……
彼女との思い出は、学校の屋上前の階段がほとんど全てだったのだから。
すぐに転校してしまったから、イベントというイベントは何ひとつなかった。
あの狭い空間だけが、俺と彼女の全てであり、始まりだったんだ。
彼女と一緒だったら、どれほど楽しかっただろうか。
「………………」
目を瞑ると雄英の制服を着ている彼女の姿が思い起こされて、それが全て幻影でしかない事に俺は目の奥が痛くなる。
「切裂くん……?」
「ん、ううん……なんでもない……!」
少し表情が暗かったかもしれない。緑谷が心配して顔を覗き込んできたが、俺は誤魔化した。
「………………」
少しクラスメイトの輪から離れて、キッチンに移動した俺はまだ片付けられていなかった飴の材料の余りと、残った果物のカゴの中を見た。
「……っ!」
そこにはなんと、今が旬の果物もあった。
・・・♡・・・♡・・・
その日の夜。
翌日は文化祭の本格的な撤収作業があるものの、普段より早めに就寝する物の多かったA組の面々の中で、芦戸の部屋へと集合していた女子達による最後の会議が始まった。
「三奈ちゃん……大丈夫……?」
「うん……! 私はもう……大丈夫……」
厳密には彼女を慰める会だったのだが、麗日の心配する声に対して当の本人である芦戸は、彼との関係に吹っ切れた様子だった。この結末に後腐れがないと言うのなら、これ以上は彼女の思いを掘り返す様な言葉はかけられない。
しかし、そこにまだ彼への想いを引きずったまま……もしかしたら芦戸よりも心的損傷の大きな八百万が呟いた。
「でも、意外でしたわ……」
「切裂にそんな相手がいるなんてね……」
胸に手を当てて呟く八百万に、耳郎も彼女を気にかけながら言葉を選ぶ様にして話を広げていく。芦戸だけではなく、彼女も並々ならぬ想いを抱いていた事実に、心の中ではまだ驚きを隠しきれずにいた。
そしてその台詞に合わせて、葉隠が興奮を隠しきれない様子で彼女達に口を開いた。
「でも、コレで謎が増えたね……!」
座ったまま前のめりになっている葉隠に対し、真剣な表情の麗日がフンフンと勢い良く頷く隣で、蛙吹が口元に手を当てて頭を傾ける。
「三奈ちゃんをフッてまで、切裂ちゃんを夢中にさせる女の子って……誰なのかしら?」
彼女達にとって気がかりだったのは、入学してからの芦戸やラグドールのアプローチを振り切り、彼を一辺倒にさせる程のお相手。
「ウチらは全員違うし……B組とか?」
「確かに、ヤイバさんはB組の方とも仲良くしてますが…………そういった感じは見受けられませんでしたわ……」
A組とB組の仲を繋げた彼は顔も広いが、女子達と特段な仲の良さを感じる者はA組の芦戸だけであった。
芦戸を引き離す彼の言動を思い返した麗日が、慎重に頭の中で推理を始める。
「『待たせてる』だから……私達の学校じゃないのかもしれないよ」
「その可能性が高いわね……」
「結局、峰田に聞いても『芦戸じゃないのか?』とか言われちゃったし……」
「う〜ん……」
答えの出ぬまま悩み続ける彼女達の輪の中で、芦戸は彼の言葉を呟いた。
「『明るくて優しい世界』か……」
「体育祭の時も言ってたもんね!」
「じゃあもしかして……雄英入る前から……?」
「そっか……」
彼がヒーローを志したのは、間違いなく彼の想い人によるものである事は、ここにいる者達には簡単に想像がついた。話せば話すほど彼が遠い存在に見えてくる彼女達であったが、それでも疑問は浮かんでいく。
「そもそも、なんで隠してたんだろう?」
「恥ずかしいから、じゃない? 男の子って、そーゆーのあると思うよ」
「ウチもそう思う。クラスの男子がそんなの聞いたら、からかってきそうだし……」
「峰田ちゃんも知らないみたいだったから、本当に誰にも……三奈ちゃんが初めてだったのかもしれないわね」
「うん……」
彼が自分の想い人を隠しているのも気になったが、その夢を掴むためにヒーローを志している彼の事を詮索するのは少し気が引けてしまった。向こうも彼女以外に告げないほどの秘密を抱えていると知った今、彼女達の考えは次第に統一されていった。
「ヤイバさんがその人のためにヒーローを志してますのなら、私は応援しますわ……!」
「それが良いかもね……!」
「うんっ!」
彼なら、愛しい相手のための『明るくて優しい世界』を作り上げるだろう。
そんな思いを手助けするべく、あるいは見届けるべく、彼の背を後押ししてあげたい気持ちで溢れたのだ。
これからの芦戸と八百万の仲も、彼と彼女達なら心配は必要ないだろう。2人の様子を見て耳郎や葉隠、蛙吹と麗日も安堵していた。
「まあ、せっかく文化祭も終わったし、少し落ち着きたいよ」
「そうね。明日は午後から休みだし……どこかリフレッシュでもしようかしら?」
「じゃあ明日、みんなでカラオケいこーよ!」
「良いかもねっ! B組の女子達も誘って!」
「女子みんなで打ち上げだー!」
芦戸の恋路は林間合宿の女子会で、B組の一部にも流出している。その結末は拳藤達も聞きたがるだろう。
それがなくてもヒーロー科1年の女子達の仲は、恋バナの一件から大きな進展をしていたのだ。
結局、彼の意中の相手はわからずじまいだったが……
それから翌日。
雄英は休日を利用して午前中で完全撤収を行い、午後から生徒達は各々の時間を過ごす中、麗日と蛙吹は夕方から女子会ついでの買い物と夕食のために外出を始めた。
ちなみに切裂は午後一番で発目のサポートアイテムを受け取りに行ってから、爆豪に轟や緑谷を連れて体育館へと連行されていったのを2人は見ていた。
「行きましょうお茶子ちゃん」
「うんっ!」
すでに自分達以外の女子は先に外出しており、私服に着替えた2人で雄英の門を出て、バスで最寄りの駅へと降りてさあ合流しようとしたその時だった。
「えーと、三奈ちゃんは……」
「待って、アレ……切裂ちゃんじゃない?」
「え……ホントだ……!」
パーカーに帽子、マスクまで着用している。寮生活になってから何度か見た事のある姿をした、切裂が駅の前に立っていた。
「爆豪ちゃんと体育館に行ってなかったかしら?」
「途中で抜け出したのかな……?」
ヒーローコスチュームこそ多種多様な迷彩服を好んで着ているが、彼の私服は迷彩が一切無い。ソコは彼なりの分別なのかわからないが、よく見ると機能性や運動性を追求した衣類だというのが、わかった。
元々『保須事件』でかなり目立っていた彼だが、皆でカラオケに出かけた時も同様に普段の外出の時は変装なんてしていなかった。彼と峰田は通りかかる子供達にチヤホヤされていた。
「切裂く───
「待ってお茶子ちゃん」
最初は声をかけて手を振ろうとした麗日だったが、彼の妙な違和感を感じてその動作を止めた。
妙に周囲をキョロキョロと見渡している彼の様子に、思わずバス停の看板の陰に隠れた2人は、彼を観察する。
「?」
「どうしたのかしら?」
周りを確認していた彼は、腕時計を見てからその手に持っていた手提げ袋を漁り、中の物を確認していた。
「アレ……って……」
「飴ね……」
格好と似合わない手提げから出した彼の手には、何本ものフルーツ飴の棒を持っていた。しかも持ち運べる様に、リボンとビニールで丁寧なラッピングまで施されている。
1本や2本ではない。見えるだけで5〜6本は持っている。リンゴ飴と同じ様に食紅で赤く染められているが、中の果実を分離させたソレはリンゴではない。
期間の限られた果物である、ザクロだった。
昨日のフルーツ飴による打ち上げの最中。砂藤は残ったフルーツを使ってタルトを作りたかったらしいが、その中のザクロを見つけた切裂は彼に頼み込んで譲ってもらっていた上に、壊理にリンゴ飴を作っていた緑谷に作り方まで教えてもらい。打ち上げの後の夜に1人で作っていたのを何人ものクラスメイト達が目撃していた。最後は自室の冷蔵庫に持ち帰って管理していた本人曰く好きなフルーツらしく、それ以上の事は答えなかった上、分けてもらおうとしたクラスメイトを頑なに拒否していたのも記憶には新しい。
おそらくザクロ1個で作った本数と同じ本数を今、彼は持っているのだろう。
「どうしてあんなに……」
「もしかして……!」
そもそも、体育祭後の話で彼の通学路を聞いた事のあった蛙吹は、この駅前が彼の通学路ではない事を知っていた。だから彼は実家に帰ってきたワケでもないのだ。
買い出しだったら飴は必要ない。オヤツにしても懲りすぎるし、量も多すぎるし彼らしくもない。
「お茶子ちゃん……切裂ちゃんには、少し悪いかもしれないけど……」
「うん……っ!」
そのまま歩き出した彼を2人は尾行した。女子達のグループメッセージには、「買い物で少し遅れる」と理由をつけて送っていた。
あの飴は、彼が食べる物ではないのかもしれない。
もしかしたら、彼の想い人を見る事ができるかもしれない……!
そんな想いを2人は抱いて、彼の後をつけた。
罪悪感はあった2人だが、芦戸を引き離すほどの彼の相手が気になってしまうのは、当然だったのだ。
尾行されている事にも気付かない彼が訪れたのは……雄英からも、最寄駅からも離れた、住宅街の中の少し狭い、人気のない公園だった。
「ずいぶん歩いたわね……」
「駅から離れた場所だけど……この辺に住んでるのかな……?」
2人がそんな考えを口にして、公園の木の前に立っている切裂の後ろ姿を眺めていた、その時だった。
突然、物陰から現れたパーカー姿の人影が、彼に飛びついた。
「え……っ!?」
「ケロ……っ!?」
ほんの視界の隅から一瞬にして現れた身のこなしに驚きつつも、2人は人影に抱きつかれてブンブン振り回されても動じない彼の様子を見て、確信する。
「あの人が……切裂ちゃんの……!?」
「ゴクリ……!」
蛙吹と麗日の視線の先で回転を止めた2人は、丁度お互いの横顔が見える状態で対面してくれた。
彼の表情は、穏やかだった。
雄英のクラスメイト達よりも親しい関係である事が確信できるぐらいに。
そのまま、彼の目の前の相手はパーカーのフードを捲り上げる。
その顔は……
「ケロ……っ!?」
「わ、私……っ!?」
2人は思わず声を上げようとして、その口元を両手で押さえた。
2人の視線の先……フードを捲り上げた相手の顔は……
麗日にソックリどころか、瓜二つの顔をした女性だったのだから。
「その顔、気に入ってんの?」
「へへっ、私のオトモダチですから♪」
声まで全く同じな女性と切裂による、理解できない会話が始まって2人の頭が追いつかなくなった、次の瞬間だった。
彼の前で女性の顔がみるみる内に溶け始め───
「え───
「ケロ───
私達は、何も言葉が出せなかった。
見間違えるハズがない。
自分の顔が泥みたいに消えて、そこに現れたのは……
USJの頃からずっと雄英高校を脅かし続ける、敵連合の構成員にして紅一点。
トガヒミコ、だった。
そして、私達の声に出せないぐらい衝撃的だったのは……
そんな嬉しそうに笑う彼女を、自分から迷いなく抱きしめる……
切裂くんの、今まで見た事のない……
優しくて、哀しい笑顔だった。
切裂ヤイバの献身 文化祭編 完
ED曲 Sabrina Carpenter & Jonas Blue -
(和訳推奨)
次回『クラス対抗戦開催』